何処からか流れるクラシック。
薄暗い部屋の中にポツンと目立つ白いテーブルクロスの上に幾つ物豪華な料理が置かれ二人の人影がテーブルの端に座っている。
片方の人物が目の前のステーキをナイフとフォークで切り分け己の口へと運ぶ。
「……旨いが吾輩はもう少し固い肉が好みだな、アレの方が肉を食ってる感じがする」
フォークに刺さったステーキを噛み千切る男……ブラック将軍がそう感想を述べる。
文句を言いつつも、その食べ方は野蛮でありながら一つの絵にも見える錯覚が起こる。
そして、ステーキを食べ切った後は、血の様に赤いワインの入ったグラスを持つ。
少し匂いを嗅いだブラック将軍が一気にグラスのワインを飲み干す。
「世界で最も価値のあるワイン、ロマネ・コンティもこの程度か。 人間とは無意味な物に価値を付けたがる、そうは思わんか?」
「…………」
ブラック将軍の向かい側に座る人物は、その問いに答えない。
その人物とは、白いスーツに黒いネクタイ、片方の前髪が垂れた男……ユリウスだった。
「……貴様の無駄話に付き合い切れん、貴様らの目的は何だ!? 何故、私をこんな所に連れて来た!」
ユリウスは睨みつけるようにブラック将軍の目的を聞く。
ユリウスの両腕は椅子のひじ掛けにピアノ線で固定され足すら拘束されている。
明らかに、ユリウスは無理矢理此処に連れてこられたのが分かる。
「腹の探り合いなど下らんから率直に言おう……ユリウス、ゲルショッカーに入れ。並行世界の知識がある貴様なら幹部の席を用意してある」
「ふざけるな! 貴様らのような者たちに従う気はない! 貴様らが第二のウロボロスになる前に必ず彼女たちに倒される!」
ブラック将軍の誘いにユリウスは反発し断る。
ゲルショッカーが何を狙ってるのかは知らないが、ユリウスとしてはこのままゲルショッカーを放置するのは危険だと判断する。
「ふ、別段貴様が拒否しようが関係ない、我々に必要なのは貴様の並行世界に関する知識と頭脳だけだ」
ユリウスが頷こうが拒否しようがブラック将軍にはどうでもいい。
ブラック将軍の言葉が終ると二人のゲルショッカー戦闘員がユリウスの拘束を解いて何処かへと連れて行く。
しかし、その扱いは粗暴でありユリウスが罵るもゲルショッカー戦闘員たちは意にも介さず奥へと消えた。
それを見送ったブラック将軍は口元を用意されたナプキンで拭い懐から小さな通信機を取り出す。
「……予定通り奴を組み込み次第実験を行う、準備をしておけ」
「ふう~……やっと終わったわね」
「データ確認だけでも時間が掛かるよ」
響たちの活躍で、奪還された特異災害の本部である潜水艦。
オペレーター席には、同じように洗脳から解放された藤尭朔也と友里あおいのオペレターコンビが自身の仕事としてデータ確認やシステム内にウイルス系のブービートラップの調査をしていた。
その作業も一段落して二人は背筋を伸ばす。
因みに、二人以外の職員も忙しく、新しく派遣された職員もいるので大変と言えた。
「一部のデータには侵入された形跡あり……か、当然と言えば当然か」
「幸い、私達が操られる前に保管していた聖遺物は国の方に移送させて難を逃れたわね」
幸い、ウイルスの類は見つからなかったがデータを調べた形跡があり、幾つかのシンフォギアや日本政府が保管している聖遺物の情報が抜き取られた形跡が確認される。
それに、特異災害の保管していた並行世界に関する情報にもアクセスが確認できる。
コンピューターウイルスや時限爆弾の様な物は仕掛けられてはいないようだ安心は出来たが。
「ところで指令は?」
「日本政府役人の所に行って事情の説明よ」
棒政府機関。
「……聞いたぞ、君たちはゲルショッカーに操られていたそうじゃないか?」
「あの訃堂から知らせを聞いて一時はどうなるかと思ったぞ……いや本当に……」
「それについては申し訳ありません……」
背広を着た初老の男たちが弦十郎に向かって口々に言う。
彼らは、日本政府の役人や政治家であり事実上、特異災害のスポンサー兼、弦十郎の上の人間と言えた。
その人間たちが弦十郎の無事の姿を見て口々に文句じみた発言をするが、内心ではホッとしている部分もある事を弦十郎も理解はしている。
何より、あの訃堂が助けに行ったと言う報告は信じてなかったが。
「それにしても、並行世界のシンフォギア装者か」
「前に何度か、立花響や雪音クリスが二人一緒に目撃されたのはコレか……」
「また、面倒な……」
ショッカーが壊滅したという報告を聞き喜んだのも束の間、新たにゲルショッカーが組織され並行世界からシンフォギア装者たちの少女が応援に来る。
政治家や官僚の頭が痛くなるには十分と言えた。
特に諸外国に並行世界の事を知られると何を言われ要求されるかも知れない。
「風鳴弦十郎くん、並行世界の事は君たちに一任する」
「あ……はい」
「あ、後特異災害が国連直轄になるのは一か月後になるから」
「はい……え?」
「八紘殿には感謝しとけよ」
「ロシアと中国が半端じゃなかったそうだ」
正直、並行世界の情報や技術には興味があるがそれ以上の厄介ごと(ゲルショッカーの存在)に自分たちが対応するのが面倒になった政治家と官僚一同は弦十郎に責任を丸投げする。
これには、苦笑いの弦十郎だった。
そして、ある意味爆弾発言を聞かされ目が点となる弦十郎。
予想より早かったのと、ついでに報告された事でだ。
こうして、査問会もどきが終る。
「緒川、居るか?」
「はい、此処に」
査問会も終わり、外に出た弦十郎は緒川の名を呼ぶ。
瞬間、弦十郎のすぐ横に現れた緒川。
「ユリウス殿たちの居場所は分かったか?」
「……駄目ですね、僕の部下たちにも探させてるんですが……」
港での戦いの後、大体の職員が洗脳が解け戻ったが、一部の職員と並行世界から来たユリウスたちの動向が掴めずにいた。
「先輩、調子はどうだ?」
「ウツボガメスの噛み傷も塞がったが解毒に手戻った、調子が戻るのはもう少し掛かりそうだ」
奪還された特異災害の本部の医療室。
其処には、入院服を着てベッドで横になる並行世界の翼とクリスが居た。
響たちが勝利し、戦闘が終わった後ウツボガメスに脇腹を食いちぎられ掛けた並行世界の翼は直ぐに病院に運ばれ手術。
噛み傷とヘドロの破傷風を治療され医療用のベッドに横になっていたのだ。
「そう言う、雪音はどうだ?」
「先輩程じゃないさ」
斯く言う、平行世界のクリスもまた頭に包帯を巻き入院服の姿だった。
並行世界の翼ほどではないが、ナメクジキノコの攻撃をかなり受けた所為だろう。
一応、子供マリアたち洗脳された並行世界のシンフォギア装者も検査入院などをしたが問題は無さそうだった。
しかし、
「……立花はどうした?」
「この世界のバカは軽傷で済んだ。 こっちの馬鹿は……」
「あははは、ちょっと無理しちゃったな」
「私達、9人分の絶唱を受けてその感想?」
「ある意味、大物ですね。響さん」
並行世界の響が、まるで他人事のように言う姿に子供マリアが呆れて物を言う。
大人セレナも、内心「相変わらず無茶する人」という感想で苦笑いしている。
並行世界の響もまた、無茶なS2CAの行使した事で体に大分ダメージを受けていた。
具体的には熱中症と極度の疲労に筋肉痛といったところだ。
平気な顔をしている並行世界の響だが、時たま痛みが走るのか表情が固まる事が多い。
「兎に角、もう少し寝てなさい」
「完全に回復するまで無茶は禁物ですよ」
「……は~い、そう言えばこっちの世界のマリアさんたちは?」
ふと、並行世界の響はこの世界のマリアたちが気になりだした。
自分が、治療され入院してる間は操られてた子供マリアやアナザー切歌たちが来たり、職員だったりこの世界の響たちなどが見舞いに来たが、この世界のマリア、調、切歌が来てない事を思い出す。
「残念だけど、この世界の私達は事件解決後に向こうにとんぼ返りよ」
「……どうも、この世界の姉さんたちは特例中の特例だったそうで」
響たちがA2CAで怪人たちを全滅させた後、正気に戻った子供マリアたち並行世界のシンフォギア装者たちとこの世界の翼とクリス。
暫くは喜びを分かち合ったり雑談していたが、政府の人間がマリアたちに接触し彼女たちだけ連れて行った。
元々は、緊急事態プラス訃堂のゴリ押しでマリアたちを無理矢理出していたのだ。
それが元に戻っただけとも言えるが。
「そうか……マリアさん達とお別れも言えなかったな……」
それを聞いた並行世界の響は残念そうな表情をする。
自分たちの世界でも、暫くは出られなかった彼女たちだ。再び会うには暫くの時間が必要であろうと考える並行世界の響。
それから数日の時間が経ち、負傷した並行世界の響と翼以外は全快したシンフォギア装者たち。
弦十郎も直ぐに復帰し、何時もの特異災害へと戻った。時だった。
突如、警報が指令室に鳴り響き、皆の表情が一気に引き締まる。
また、ゲルショッカーが活動したのかと考えた時だ。
「ゲルショッカーが動き出したか!?」
「……違います! この反応は……!」
弦十郎の声に否定する友里あおい、そしてデータには信じられない情報が映った。
「うわああああああっ!!」
「誰か助けてくれ!!」
街中、だいぶ復興が進み街も元の状態に戻って来た日の事だった。
復興が進むにつれ、人々も元の生活に戻りつつあった中、悲鳴が木霊し誰もが蜘蛛の子を散らすように。
ゲルショッカーの怪人が現れたのか?
いな……
「ノイズだああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
「逃げろ、炭にされるぞ!」
人々を追うのは、醜悪な怪人ではない。
それより遥か以前より人類の天敵と言われた認定特異災害、即ちノイズが突如として現れた。
街中では、サイレンが響き渡り逃げ惑う人間が次々とノイズに接触され炭化していく。
久しく忘れていた恐怖を思い出す人々は逃げ惑う事しか出来ない。
「如何なってんだよ!?」
「ノイズは、もう出ないんじゃなかったのかよ!?」
響たちシンフォギア装者たちがフロンティアの時にノイズの出る原因である、「バビロニアの宝物庫」の扉を閉じノイズが出る事は無くなった。
この事は、特異災害から日本政府に伝えられた事でノイズの脅威が無くなった筈だった。
だと言うのに……この日、ノイズが突然現れ人々を襲いだしたのだ。
更には、
「おい、何だよあの空!?」
「空が裂けたように見えるぞ!」
余り天気が良くない空の一部が裂けたように見え、騒ぐ一般市民。
更には、その裂けた部分から何体ものノイズが現れてるように見えた。
「いや──ーッ!!」
一人の女性がノイズに追い回され、とうとう力尽き逃げる事も出来ず叫び声を出す。
そのまま、ノイズが女性に接触しようとした。
瞬間、ノイズの体の真ん中に大穴が開き消滅した。
襲われた女性も何が起きたのか分からないがこの場を離れる。
「何だよ、このノイズは!?」
「取り敢えず、一般人を助けなきゃ!」
一方、女性を襲うノイズを倒したクリスはノイズの存在に驚き、大人セレナが一般人を助ける為に飛び出した。
大人セレナだけではない、他の装者……特に響がノイズを次々と倒していく。
「バビロニアの宝物庫の扉は閉じた筈だ!」
「じゃあ、これがアルカノイズって奴!?」
「……違う、アルカノイズは倒せば赤い塵になる。 こいつ等は炭だ、本物のノイズだ!」
ノイズが出現する原因だったバビロニアの宝物庫の扉を閉めた筈なのにノイズが現れた。
なら、並行世界の響たちから聞いた錬金術師が造ったアルカノイズかと思ったがノイズを倒した平行世界のクリスがそれを否定する。
響たちは知らないが、平行世界のクリスたちはフロンティアの戦いの後にとある錬金術師と戦いそこで錬金術師が創り上げたアルカノイズと戦闘もしているのだ。
だからこそ目の前のノイズがアルカノイズでない事に気付いた。
「アルカノイズか、ノイズかは置いといて先ずはコイツ等を全滅させないと!」
「久しぶりに見たのに、相変わらず数が多いな!」
「今更ノイズなんかに!」
どうやってノイズが復活したのかは知らないが先ずは現れたノイズを片付ける事にした響たち。
そして、響の言う様に今更ノイズに苦戦する響たちではなく、それは平行世界のシンフォギア装者も一緒であった。
今まで、ノイズ及びショッカーとの激闘を乗り切った響たちは勿論、平行世界のシンフォギア装者も歴戦の戦士の如くノイズを一方的に落としていく。
並行世界の響と翼は治療の為、本部に居るが代わりの並行世界のクリスが弾丸と小型ミサイルだけで空を飛ぶ大型ノイズを撃墜した。
「ノイズの殲滅率、約60%!」
「後、数分でノイズが全滅します」
特異災害の本部のモニターでも突然現れたノイズがシンフォギア装者に次々と倒されていくのが映し出される。
何故、ノイズが生産されていたバビロニアの宝物庫の扉が閉められた筈なのに地上に出現しかは分からないが今はノイズの殲滅が先だ。
その事は、特異災害の指令である弦十郎と入院服を着た並行世界の響と翼も理解している。
映像では、出現したノイズはほぼ殲滅出来た事でホッと息を吐く一同。
しかし、彼らは気付かない。
指令室の扉の隙間や通風孔から白い靄が出ている事に。
その頃、響たちは突然現れたノイズをほぼ倒し一息つく。
響たちの目の前にはノイズだった灰が風に吹かれ散っていく。
「取り敢えず全滅させたわね」
「空の様子も戻ったけど……」
「でも、今更ノイズが……」
響たちはノイズだった灰を見て呟く。
「おい、本当にバビロニアの宝物庫の扉を閉じたんだよな?」
「当たり前だろ、オッサンがソロモンの杖をバビロニアの宝物庫に投げて空間は閉じたんだ」
「……なら、このノイズは……」
『ゲルショッカー!?』
ノイズが出る原因だったバビロニアの宝物庫の扉を閉めたのは確かだと言うクリス。
クリスの答えに首を縦に振るう響と翼。
ならば、このノイズは何処からと考えた時、誰しもが口にした言葉「ゲルショッカー」。
「ほう、もう気付いたか」
『!?』
その途端、聞いた声が聞こえ皆が一斉に声のした方を振り向く。
響たちの視線の先、小高いビルの屋上に自分たちを見下す様に居るブラック将軍の姿を見つける。
「ブラック将軍!」
響の声と共にそれぞれがアームドギアを持ったり臨戦態勢を取る。
見たところ、ゲルショッカーはブラック将軍しか居ないようで数では圧倒している。
それでも、ブラック将軍から漂う気迫にシンフォギア装者たちは冷や汗を搔く。
それをブラック将軍は不気味な笑みで見ている。
「ブラック将軍、このノイズはお前たちの仕業か!」
「その通り、実験は成功したのだ」
翼の言葉に特に否定もせず肯定するブラック将軍。
その言葉には聞き逃せないワードがある。
「実験だと!?」
「あのノイズの事か!?」
「でも、ノイズが出るバビロニアの宝物庫の扉を閉めた筈だぞ!」
「馬鹿め、閉めたのなら抉じ開けるだけだ。空の異変にも気付いただろう、これはその為の実験だったのだ」
なんと、今回のノイズの騒動はゲルショッカーが、バビロニアの宝物庫の扉を開けた事によって発生した。
その言葉に響たちは唖然とする。
「嘘だろ……」
「ソロモンの杖は確かにバビロニアの宝物庫の扉を閉めた筈よ!」
「嘘だと思うならば思え、近い内に我らゲルショッカー最大の作戦である「人類絶滅作戦」が始まり、貴様らはゲルショッカーの真の恐ろしさをまざまざと見る事になるのだ!」
ブラック将軍の宣言にシンフォギア装者たちは一瞬の恐怖を感じた。
「「人類絶滅作戦」!?」
「また、大そうな名前ね」
「でも、ノイズならわたし達だけでも十分……」
「倒せる!」そう言おうとした翼だったが、それより早くブラック将軍の口が開く。
「何億、何兆の数のノイズが一斉に世界中に現れ全ての人間を殺す為に動く。 貴様らは寝ずに何時まで戦えるかな?」
バビロニアの宝物庫の中のノイズの数は響たちには未知数だ。
ブラック将軍のハッタリかも知れないが、ブラック将軍の言う様にそんな数のノイズが一斉にこの世界に溢れれば一大事といえる。
幾ら、並行世界のシンフォギア装者たちの手を借りようと未知数のノイズの相手は難しい。戦えても世界中の人間を守るのは不可能に近く、消耗戦になれば自分たちに勝ち目は無い。
ならば
「ならお前を倒して、その作戦を阻止するだけだ!」
作戦を進めているのがゲルショッカーの大幹部であるブラック将軍ならばブラック将軍を倒せば、作戦は中断或いは中止になる可能性がある。
そう考えた奏がアームドギアの槍をブラック将軍に向ける。
それに続くように響たちもブラック将軍へ武器や拳を向けるが、ブラック将軍の表情には焦りという物が見られない。
「ほう、吾輩を相手にする気か。 だが良いのか? お前たちの本部を放置して」
「何を言って……!」
「嘘でしょ!?」
ブラック将軍の言葉にクリスと子供マリアが本部の停めてある政府の港に視線を送った瞬間、動揺する。
その反応に響たちもクリス達の視線を追い……息を呑む。
「な……本部が……」
「どうなってるのよ!?」
響たちの目に映った物。
それは、白い煙のような物が巻き付き宙に浮き続ける本部の潜水艦だった。
ブラック将軍との決戦かと思えばまたもや襲われる本部。
おかしい、仮面ライダーの本編でも少年ライダー隊の本部が襲われた事は少ないのに。
でも、悪の組織が敵対してるヒーローの本部の場所を知ってるしな…。
特異災害の本部、奪われて取り返したと思えば今度は空を飛ぶ。
仮面ライダーの劇中でも新幹線を浮かせようとしていたし潜水艦も余裕でしょう。
一応、完治してない平行世界の響と翼が残ってますが。
そして、ブラック将軍が響たちに敢えて教えた人類絶滅作戦。
その内容はバビロニアの宝物庫の扉を開け世界中にノイズを巻き散らす作戦だった。
因みに冒頭のブラック将軍の食事シーンはスピリッツの暗闇大使がモデルです。