「ハア、ハア、ハア…」
未来が病院の中を走る。本来ならイケない事だが未来にそれを気にする余裕はない。事の始まりは翼のライブが終わって少し経った時だった。特異災害対策起動部二課からある事が告げられた。
立花響がショッカーに敗北した。
最初はただの冗談だと思って笑ったが弦十郎からの言葉もあり未来も信じざるえなくなった、未来は特異災害対と縁のある病院へと来て響の居る病室へと急ぐ。
「響!」
受付から聞いた病室に入った未来は響の名を呼ぶ。
「…未来」
「小日向…」
中にはベッドで横になる響と傍の椅子に腰かける翼が居た。未来が翼の存在を知り顔を赤くしてお辞儀した後、響のベッドに近づく。響の姿は頭に包帯を巻き顔には幾つものバンドエイド、服やシーツで見えにくいが両腕にも包帯が巻かれている。改造人間である響に通常の治療は意味が無い。医者もお手上げで人間の消毒薬や包帯で様子を見るしかなかったが、響の体は常人より遥かに治りが早い。
「…ごめんね、未来…せっかく…来てくれたのに…ッ!」
「響、無理しないで!」
響が上半身を起こして対応しようとするが、響の痛々しい姿に未来は制止する。トカゲロンにやられた傷は治りつつあるが未だに響の体は悲鳴を上げている。
「立花…とにかく、今は休むんだ」
「でも…こうしてる…間にも…ショッカーや…トカゲロンが…野放しに…」
「無茶だよ、響!そんな体で戦ったら今度こそ死んじゃうよ!」
響の言葉に未来は涙ながらも訴える。それ程、響の体はボロボロだったのだ。
「小日向もこう言っている。良いから休め!」
「…はい」
未来の涙と翼の説得で響もベッドで大人しくする。そして、未来と翼と少し話した後、二人は病室を後にした。病室に響が一人残る。
「未来に…心配かけるなんて…駄目だな…私。こんなんじゃ…ショッカーを倒すなんて…本当にショッカーを倒せるのかな…ノイズだって…私…何の為に戦ってるんだろう………ヒックッ…ヒックッ…負けちゃった…負けちゃったよ…もう嫌だ…怪人…怖いよ…家に帰りたい…誰か助けてよ…」
一人になったからか、独り言を呟く響の口から弱音が出る。理不尽にショッカーに拉致され改造手術をされて父を殺された。復讐もあったが自分のような人間を出しちゃいけないとショッカーと戦い続けた。しかし、ショッカーの怪人も戦闘員も尽きる事は無く響達の前に立ち塞がる。何より、ノイズ以上に不気味な怪人も響の悩みだった。そして、終わりの見えない戦いでとうとう負けたのだ。体のダメージも大きいが心のダメージも大きかった。
「響…」
「立花…」
響の入院する病室の前に立つ小日向未来と風鳴翼。少しドアの前で話していた二人は響の嗚咽に気付く。出来れば中に入って慰めたいが何と言えばいいのか?「がんばれ、負けるな」など以ての外だ、響はもう頑張っている。「もう戦わなくていい」も良くない。ショッカーの目的は立花響だ。戦わなくていい訳がない。
結局、翼も未来も病室に入れなかった。翼は共に現場へと行けなかった事を悔やみ、未来は己の無力さを悔やんだ。
『よくやったトカゲロン。よくぞ立花響を倒した』
「有難いお言葉です。首領」
その頃、ショッカーのアジトでは立花響を倒したトカゲロンに首領が褒めていた。
『だが、何故立花響の心臓を持ち帰らなかった?貴様なら出来たであろう』
「そんな命令は受けて居ません。俺に与えられた任務はノイズ破壊ボールのテストだけです」
首領の問いに当然のように答える。トカゲロンにとって立花響など敵ではない。また戦えば勝てる自信があった。その自信は首領も感じる程だった。
『特別に許そう。だが、次戦う時は必ず心臓を持ち帰れ』
特別に許されたトカゲロン。次は心臓を持ち帰れと言う指示に頷く。
「…未来くん、今何と言ったんだね?」
「私を鍛えて下さい!響みたいには戦えないと思いますけど怪人とまでは言いません。戦闘員くらいは倒したいんです!」
翌日、病室での響の嗚咽を聞いた未来は居ても立っても居られなく雨の中、特異災害対策機動部二課本部の指令室に行き弦十郎に鍛えて欲しいと懇願する。周りの職員もそれを見守る。
「未来くん、君は民間協力者だ。これ以上は…」
「…足手まといなのは分かってます。それでも響の助けになりたいんです!響は泣いていました…助けてって泣いていたんです!」
弦十郎は未来が民間協力者だから断ろうとしたが、未来が響が泣いていた情報を聞いて黙り込む。未来も言い切った後にアッという顔をして口元を押さえた。うっかり響の弱音を暴露してしまった事に後悔する。
「響くんは…泣いて…いたのか?」
「…はい、ショッカーが…怪人が怖いって、家に帰りたい。とも」
弦十郎の言葉に未来は溜息をつくと共に病室の外で聞いた事を話す。未来もこれ以上黙ってるのは無理だろうと話す。
━━━俺は…俺達は何をしていた!年端も行かない少女を戦わせて!!ショッカーが怖い?当たり前だ!奴等は世界征服の為なら人が死のうが何とも思わん邪悪な組織だ!ノイズなら兎も角、ショッカーなら俺達にだって戦えた筈だ!それを…何が大人だ!!
弦十郎は己の不甲斐なさに腹を立て握りしめた拳から血が滴る。
「…俺の鍛錬は厳しいぞ。それでもやるか?」
「!はい!」
覚悟を決めた弦十郎は未来に聞く。未来も覚悟を決めた顔で即答する。早速トレーニングルームに行く事になったが道中、弦十郎の通信機に連絡が入る。
「俺だ、ふむ…ふむ…なに!?響くんが消えた!?」
「え!?」
弦十郎の言葉に未来も驚く。昨日までベッドの上で上半身を動かすのも苦労した響がベッドから消えていたのだ。弦十郎は直ぐに響の捜索を命令する。未来も響を探したい衝動があったが、その気持ちを抑え込む。もし、響が失踪するならそれも仕方ないと考える。何処かショッカーの知らない場所で静かに過ごした方が響の為かも知れない。だが、不可能だろう。ショッカーは立花響に執着していた、簡単に諦める訳がない。だからこそ、今は弦十郎に鍛えて貰い少しでも早く響を支える力が欲しかった。
「…本来なら、俺も響くんの捜索に入るべきだろうが…君は俺を軽蔑するかい?」
「…いいえ」
未来は寮から持ってきたジャージに着替えて弦十郎の前に立つ。これから暫くは登校前と下校後に鍛えてもらう予定だ。未来の戦いも今始まった。
響は一人、当ても無く歩いていた。昨日までは上半身を動かすのも苦痛だったが一晩経って歩ける程アッサリ回復した。そして衝動的に病室から抜け出してしまい裸足のまま地面を歩く。雨粒が響の体を濡らすが特に気にせず歩き続ける。雨の所為か響の通る道の所為か人がほぼ居ない。目的地何て今の響には無い。
━━━私、何してるんだろ?こんな人通りも少ない場所で…ショッカーに見つかっちゃうよ…
自分の不甲斐なさに絶望したのかショッカーの力に絶望したのか響はただ歩き続ける。幸か不幸か、響は誰にも見られず森林公園方まで歩き一本の大きな木に触り殴る。
「なにが…なにがショッカーに逆らう嵐だよ!なにも…なにも出来なかった!」
トカゲロンに文字通り手も足も出ず負けた。今まで怪人を倒したガングニールの力もトカゲロンには通じなかった。
『必殺ってのはこういう風にやるんだよ!必殺シュート!!』
『弱い、弱いぞ!このトカゲロン様の前では改造人間の装者などこの程度よ!!』
頭の中にトカゲロンの声が響く。
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!!」
響は悔しかった。あの卑劣なショッカーに負けクリスを危険に晒した自分が許せなかった。響が自分の拳を痛める為にも木を殴る続ける。しかし、響の拳は傷を負っても直ぐに回復し逆に木が持たなかった。何発も殴ると大きな木は圧し折れてしまった。
「こんな雨の中何をしとる。この馬鹿者が!」
「!?」
後ろからの突然の声に振り向くと何時の間にか和傘を差した老人が響を見て怒っていた。
「その木は樹齢何年と思っておる、この罰当たりが!」
「え?いやその…ごめんなさい!」
響の頭が一気に冷静に戻り老人に謝る。ショッカーに負けてナーバスになってたとはいえ公共の場の木を殴り倒したのだ。更に響は土砂降りの中、傘も差さずに病院の入院服のままこの公園に来ていた。はっきり言って不審者もいいところだ。
「全く、近頃の若い奴は!…ん?お前は…」
老人が謝る響の顔を見てな何かに気付いた。暫く考えて居た老人はやがて口を開く。
「何か悩んでるようだな、近くにワシの離れがある。付いて来い」
「いえ、そんな「警察に訴えてもいいんだぞ」…分かりました」
老人の言葉に最初は断ろうとしたが公共の場の木を圧し折った事を持ち出され大人しくついていく事になった。その直後に何人かの黒服が圧し折れた木を片付けた。
老人が連れてきた離れは、良く言えば由緒正しき日本家屋と言えたが悪く言えばかなり古臭い家だった。玄関を開けて即囲炉裏は響も面を喰らった。そんな響の様子も無視して老人は囲炉裏に火を入れ傍に座る。老人の目が座れと言ってる気がした響は老人の反対側に座る。囲炉裏の火で響が暖を取る。空気が暖かくなり囲炉裏の上に吊るされていたヤカンから湯気が昇る。何時の間にか老人が
「飲め、体が温まる。この時期の雨はまだ冷たい」
「…ありがとうございます」
最初は断ろうとした響だが老人の目力に押されてお茶を飲む。
「…良い香り…」
味覚が無い筈なのに心なしかそのお茶はとても美味しく感じる。その様子に老人も笑ったように見えた。
「それで、この雨の中で、何故あんな事をしていた?」
お茶を飲んで落ち着いた頃に老人が質問をする。あんな事とは当然木を殴り倒した事だろう。
「………」
「………」
「……悪い人達に負けたんです。絶対負けちゃいけない人達だったんです」
老人の圧力に負けた響はなるべく機密を伏せて喋る。
「喧嘩でもしたか?」
「喧嘩ならマシだったんですけどね。師匠を…友達を…守るって誓ったのに…」
響の目から涙が伝う。それを見ていた老人は少し考えて口を開く。
「強くなりたいか?」
「…なりたいです。…強くなって…皆を…守れるように…なりたい!」
老人の問いにハッキリと答える。それを聞いた老人はさっきよりハッキリした笑みを浮かべる。
「良いだろう!ワシが鍛えてやる。丁度雨のあがった、付いて来い!」
「え?…え!?」
そう言い終えると老人は響の返事も待たず離れの外に出る。響が茫然とする中、「早く来い!」っと言う言葉で響も老人についていった。
「あの…此処って?」
老人の後を付いて行った響が見たのは今時珍しい石切り場。周りの街から取り残されたような場所だ。
「嘗てはこの地の産業の一つだったのだが、ノイズの出現と会社の倒産でこの場所だけ取り残され国すら見捨てた場所をワシが買い取った。昔は馬鹿息子どもを此処で鍛えたもんだ」
「そうなんですか。…買い取った?」
老人の言葉に納得仕掛けた響だったが一部聞き逃せず思わず聞き返す。それを無視して老人はジャンプを繰り返して石切り場の天辺に立つ。響は内心「師匠みたいな人だな」と思った。
「これよりお前に此処にある岩を投げる!お前はそれを壊し続けるんだ!出来なければあのトカゲには勝てんぞ!」
「…トカゲってお爺さん、貴方は…一体…」
「問答無用!そりゃ!」
響が言った覚えのない単語に聞こうとするが老人が一メートルの岩を問答無用に響に投げつける。
「!変身!」
響は咄嗟に変身して岩を飛んでくる岩を殴り粉砕する。
「よし、ドンドン行くぞ!」
響が変身したのにも関わらず老人は一切に気にせず次々と一メートル級の岩を投げつける。響も投げ付けられる岩を次々と腕や足で粉砕する。
「!?うわああ!!」
が、粉砕した岩の直後に別の岩があり、響の体に命中する。幸運だったのはトカゲロンが蹴ったボールより遥かに威力が低い事だった。
「馬鹿者め、敵が一々一発ずつ撃ってくれる保障など何処にも無いわ!常に一の矢二の矢を用意せい!」
「一の矢二の矢…そうだ!」
老人の言葉に響は一旦目を瞑り集中する。トカゲロンの時は片手だけだった。片手で駄目なら両手でと考えた響の両腕のギアが開く。更に響はトカゲロンが現れる前にやろうとしていたギアを掴み更に引っ張る。そして、老人が再び岩の影になるよう別の岩を投げる。
「もう負けない!」
響は岩を破壊し別の岩も粉砕する。その姿に老人も笑みを浮かべる。
それから、半日程して雨上がりの空も日が陰る。
「あの…ありがとうございました!」
老人がもう投げる岩は無いといって修行は終わった。響としては何か掴めたとしてこの修行は無駄ではないと感じていた。
「ワシも良い暇潰しが出来たわ。それで勝てるか?」
「勝ちます!絶対に!」
「ならば良し。今日はもう帰って休め!」
老人言葉に響は「はい!」と言って返事をし、病院へと戻った。老人が何故トカゲの事を知っていたのかとか目の前でシンフォギアを使った事なども完全に忘れていた。
「何時まで、其処に居る気じゃ?出てこい!」
響の姿が完全に見えなくなった頃に老人が独り言を言う。しかし、その言葉の直後に一人の男が岩の影から出てきた。弦十郎だ。
「…正直貴方から連絡があって驚きました…。珍しいですね、誰かを鍛えるなんて…」
「全ては護国の為よ。小娘一人の面倒も見切れん青二才め」
「…それは申し訳ありません」
老人…風鳴訃堂の言葉に弦十郎も痛いところをつかれた顔をする。小日向未来の指導中に弦十郎の通信機に一本の連絡が入った。内容は「ワシが立花響を鍛える」の一言だった。心配した弦十郎は未来に休憩と言って何本かのおススメの映画を渡してこの場に来たのだ。
「東夷の犬どもも最近活発じゃ、あの女も注意しとけ」
「…分かりました」
訃堂の言葉に返事をした弦十郎は急ぎ本部へと戻る。それを見届けた訃堂は沈みゆく太陽を眩しそうに見る。脳裏には響の涙が思い出す。訃堂が響を見つけたのはほぼ偶然だった。響を修行させたのも日本を狙うショッカーやノイズなどから国を守る為だ。それに、改造人間の響なら長い時を掛けて日本を守れると考えたのだ。それでもあまり良い気分とは言い難かった。
「…ゾル…ワシは、やはりショッカーは好かん…」
訃堂の呟きを聞いた者は誰も居なかった。
尚、病院へと戻った響に待っていたのは医者や看護師からの雷と未来のガチ泣き、翼の説教だった。
あくる日、フィーネの隠れ家に何者かが集まる。銃を片手に突入寸前であった。しかし、一人また一人と倒れていく。
屋敷の中では了子が何か響のデータを纏めていた。しかし、入り口から誰かが入って来た事に気付いた了子が入り口の方を見る。銃を持った外国人と思しき人達がゆっくりと入って来た。
『連絡も無しに何の用かしら?あんた達と会う約束なんてしてない筈だけど』
了子が英語で男達に言う。男達とは、お互い利用しあった関係だ。防衛大臣の暗殺も彼らがやった。
『それとも私を始末しに来たのかしら?品性下劣な米国政府らしいわね』
了子が色々言うが男たちはただ静かに歩く。そして、そのまま倒れてしまった。
『え?…!?』
流石に予想外の反応に了子が驚くが次の瞬間、男たちの体が溶け骨と服と武器だけが残った。
「外の連中は片付いた。後はお前だ」
「!…ゾル大佐」
入り口の方から声がし再び見るとゾル大佐と複数の戦闘員が現れる。武装した男たちは既にショッカーに殺されていたのだ。
「如何して此処が!?…死神カメレオン!」
フィーネと戦う前に死神カメレオンが色々とショッカーに連絡していた事に気付く。
「思ったより鈍いな。想定ではとっくにこの場所を引き払ってると思ったが。さて、では一緒に来てもらおう、フィーネ。貴様の知識の全てをショッカーに捧げて貰う。それからカ・ディンギルの事も話してもらうぞ」
ゾル大佐の言葉に戦闘員は了子…フィーネの周囲を囲む。逃がす気はない。
「ブラックアートの深淵を知らない青二才が」
ゾル大佐に忌々しそうに喋るとフィーネの体が光に包まれる。
今回は修行回。
響の修行相手はまさかの!シンフォギアで響に容赦なく岩を投げつける人がこの人しか浮かばんかった。
そして、未来も弦十郎の鍛錬に、G以降どうなるか?
原作だとあまり弱音を吐かない響ですが、この作品では…ねえ。バリバリ命狙ってくる悪の組織がいるから。