日も大分傾きかけた山中。隠れるように着地しているエアキャリア。
何人もの戦闘員が周囲を見張る中、エアキャリアから悲鳴が響く。
「アアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッ!!!」
「マム!?」
悲鳴の主はナスターシャ教授であり、戻って来た時に戦闘員に拘束されて、死神博士の帰還の後に特殊な電気椅子に座らされ拷問されていた。
「よくも我々を謀ろうとしたな、ナスターシャ教授。その報いは受けて貰う!」
死神博士の言葉に電気椅子の装置を維持ていた白の戦闘員がスイッチを押すとナスターシャ教授の口から再び悲鳴が響き出す。
「マム、止めて!マムが死んじゃう!!」
「止めて欲しいデス!!」
マリアの傍に居た調と切歌がマムが死んでしまうと必死に訴えかける。だが、それで止まる死神博士ではない。既にマリア、調と切歌のシンフォギアのペンダントを取り上げられている。シンフォギアを纏って助ける事も出来ない。
「なら、お前達が代わりに受けるか?」
死神博士が不気味な笑顔で変わるか?と聞いてくる。死神博士やショッカーにとってこれは罰であり調や切歌が肩代わりするのならナスターシャ教授への拷問も止めてやろうと提案する。別段、死神博士はナスターシャ教授を殺す気はない。悪の組織であるショッカーが舐められる訳にはいかず死ぬ寸前まで痛めつけるのが目的だ。その過程でマリア達を恐怖で縛る上げる意味もある。まあ最悪死んでも問題ないと言うのがショッカーの見解でもあったが。
一瞬、黙り込む調と切歌だが、互いに顔を見合った後に首を縦に振る。
「私たちが…」「受けるデ…「いえ、私が引き受けるわ」ス…マリア!?」
覚悟を決めた調と切歌だが、マリアの言葉に息を飲む。
「マリア!」
切歌がマリアの名を叫ぶ。突然の事で理解が追い付かないがマリアが自分達の代わりになろうとしてる事に気付き止めようとする。そこで気付いたマリアの足と手が少しだけ震えてる事を。
「大丈夫…大丈夫だから…」
「マリア…」
調と切歌は確信した。マリアも怖がってる事を、そしてマリアがナスターシャ教授の座る電気椅子に近づく。マリアは隠し持っていたもう一つのシンフォギアのペンダントを握って「セレナ…」と呟く。
「なり…ません…マリア!」
だが、そこで電気椅子に座っていたナスターシャ教授が待ったをかける。拷問の所為か息も耐え耐えだが、
「マム…」
「全ては…私の責任…です。…私が…マリアを…騙して…米国…政府に…マリアの…身柄と…フロンティアの…情報を…売ろうと…」
「そんな!?」
「嘘デス!そんな事を!」
ナスターシャ教授の言葉に調と切歌が反応する。その言葉は調や切歌にとって裏切りに等しい言動だった。
いい加減、待つのにも飽きた死神博士が「まだか?」と聞こうとした時、白い白衣を着た戦闘員が死神博士に近づき耳打ちをする。
「なに?チッ…今日の所はこれで許してやろう。次は無いと思え!…ウェル、付いて来い」
「は、はい!」
戦闘員の報告を聞いた死神博士は、ウェル博士を連れてエアキャリアの医務室へと入って行く。
それを見送ったマリア達は急ぎナスターシャ教授に駆け寄る。
「マム!」
「しっかりして!」
「大丈夫デスか!?」
電気椅子から動かされたナスターシャ教授は取り合えずミーティングルームのソファーに寝かされる。調も切歌もナスターシャ教授に色々聞きたいことはあったが気を失っていた。
医務室へと入ったウェル博士は直ぐに顔を顰めてしまう。医務室のベッドでは響が再びバラバラにされ複数人のショッカー科学陣に調られている。響の目は虚ろで何を見てるのか判断が難しい。
死神博士の姿を確認した科学陣の一人が右手を掲げ「イーッ!」と言った後に響の体を再調査した報告書を渡す。
「…何も分からんだと?」
報告書の内容を呼んだ死神博士だが、あの時の響の不調が調査されても分からないと書いていた。死神博士の行った脳改造は完璧と言え響が記憶を取り戻した訳でもない。
「ふむ…幾ら私の最高傑作でも、ああまで不安定では実戦で何処まで使えるか、それに心臓も限界が近いか…いや待てよ」
何か閃いたのか死神博士が不気味な笑顔を見せる。それを見て嫌な予感がするウェル博士だが、目の前でナスターシャ教授が電気椅子で拷問されたのを見て聞く勇気は無かった。
そして、死神博士が独り言で「動力炉を…ベルトと…連動させて…」と聞き確信する。
その時、別の戦闘員が医務室へと入り報告をする。
「イーッ!地獄大使が帰還しました!」
「そうか」
「地獄大使が死神博士に見て欲しい物があるそうです。急いで来てください!」
「見て欲しい物だと?」
別段、地獄大使の帰還報告などどうでもいいと思っていたが、地獄大使がわざわざ自分に見せようとしてるのだ。何か珍し物でも見つけたのか興味が湧いた死神博士は地獄大使の居る格納庫へ後で向かう事にする。当然、ウェル博士も連れてだ。
「うう…此処は…」
ナスターシャ教授が目を覚ます。ショッカーが用意した電気椅子ではない、エアキャリアに備え付けられてるソファーだ。
「マム!」
「マム、良かった目が覚めたのね!」
意識が戻った事に気付いたマリアや切歌がナスターシャ教授の傍に寄り抱き着いたりする。マリア達の元気な姿を見て安心するが、ナスターシャ教授はハッとした顔をする。
「あなた達、まさか私に代わって…」
「違うわ、マム。白い戦闘員の報告を聞いた死神博士がマムの拷問を止めたの」
「そうデス!でも『次はない』とも言ってたデス」
それを聞いてホッとするナスターシャ教授。見た所、マリア達に体に拷問を受けた後はない。本当に良かったと安心する。
「それでね…マム、さっき言ってた事は…」
その時、調がナスターシャ教授に聞きたいことがあり、それは切歌も一緒であった。
「そうですね…あなた達にも話した方がいいでしょう。ですがその前に」
マリアに車椅子を持ってこさせ何かを取り出すナスターシャ教授。それは一見タマゴに見えるが机に置いた途端、上の部分が開きアンテナの様な物が出て来る。
「マム…これは?」
「ウェル博士が作った妨害電波を発する装置です。微弱ではありますけど盗聴器の類は動かなくなるそうです」
ナスターシャ教授の回答に調も切歌も「へー」という顔をする。内心、「あの博士もたまには役に立つ」と思ったりもした。
そして、ナスターシャ教授の口から真実が語られる。
ショッカーを裏切って米国政府に力を借りようとした事を、死神博士が既に手を打っていた事を、…そして、
「マリアはフィーネじゃなかった!?」
「じゃあ、マリアは…」
「ええ、フィーネではありません。全てはウェル博士を此方に引き込む為でした。…まあ余計な物もついてきましたけど…」
ナスターシャ教授は自分の浅はかな行動を恥じる。尤も、元FISの職員であったウェル博士がショッカーの死神博士の弟子だとは予測不可能ともいえるが。
━━━マリアがフィーネでないとしたら…やっぱり…
切歌の不安が的中したのか更なる不安感が切歌を襲う。
火も完全に暮れても人々の活動は変わらない。とあるファミレスでも人は賑わっている。
そのファミレスの席でナポリタンを食べる少女。けして上品とは言えない食べ方をしてるのはクリスだった。
「…こんな時によく食べれるな」
そんなクリスの姿に呆れてる少女…翼。クリスの食べっぷりに若干引いている。
「何か頼めよ、奢るぞ」
「…夜の9時以降は食べない様にしている」
「そんなだから、そんななんだよ」
クリスの言葉にカッとなる翼だがクリスの胸が目に入ると言葉を飲み込む。直後に溜息をつく。
「お前こそ、こんな時によく食べれる。…本当に」
「腹が減っては戦は出来ぬって言うだろ。いざって時に力が出せなきゃショッカーを倒す事も出来ねえ」
そう言い終えるとクリスはナポリタンを平らげ店員を呼ぶとメニューから更にオーダーする。笑顔で注文を聞く男性店員だが翼は見逃さなかった。男性店員の笑顔が引き攣っていたのを。
「呼び出したのはお前と一緒に飯を食いたかったからだ。オッサンとの特訓の時にも一緒に食べる機会なんて無かったからな。腹を割って話し合うとか連携を強める必要もあるだろ?」
「…連携か、なあ雪音」
「何だよ?」
「私達は本当にショッカーに勝てると思うか?」
その言葉にクリスはコーヒーの入ってるカップを落として割ってしまう。直ぐに店員が来て破片を片付けたり零れたコーヒーをふき取る。
そして、店員が去ってから翼は言葉を続ける。
「立花が完全に敵に回った。恐らく、マリアたちFISもショッカーに協力している。対して私達の戦力は少ない。正直勝ち目は…」
「らしくねえな」
「!?」
翼の弱気にクリスがハッキリ言う。勝ち目が薄いのはクリスにだって分かっている。
「何時ものアンタなら「防人としての使命を果たす」とか言うくせに…」
「!仕方ないだろ!敵は…ショッカーは未だに多くの怪人を保有している!それに加えて立花も敵になった、一体一なら負ける気はしないが複数の怪人では…」
翼もクリスも今回の戦いで強化改造された怪人を倒している。しかし、それは自分達を舐めていた油断していた怪人と奇襲攻撃でどうにかなったに過ぎない。複数の怪人が油断もせずに相手するのなら話は違ってくる。
「…アタシはどんな手を使ってでもショッカーをぶっ潰す」
翼の話を聞いていたクリスが唐突にそう宣言する。しかしそれがどこか頼もしくも見えた。翼がその内容を聞こうとした時、クリスの注文した料理が届く。話の腰を折られた翼はクリスが食べ終わるのを待つ事にした。
尤も、クリスが食べ終わった直後に特異災害対策機動部二課から未来が寮に戻ってない報告を聞く事になるが、
「地獄大使よ、私に見せたい物とは何だ?」
「…随分と待たされたワシには何も言う事はないのか?」
響の調査、調整、組み立てを終えた死神博士やっと地獄大使の居る格納庫に来た。日が暮れるまで待っていた地獄大使が睨みつける。それに死神博士は薄ら笑いを浮かべるだけで地獄大使と暫く睨み合う。一触即発の空気にウェル博士の足が震える。
「まあいい、貴様に見せたいのは其処の檻にいる」
地獄大使の言葉に死神博士とウェル博士が地獄大使前にある檻を見る。檻の大きさは一メートル半程の大きさで大型の動物も収容出来、天井と床以外はビーム状の柵が囲んでいる。そして内部には一人の少女が膝を抱えて座っていた。
「小日向…未来!?」
少女の姿を確認したウェル博士が少女の名を呟く。
未来が何故、檻に入れられてるのか?改造人間を志願した未来を地獄大使が怪しみ戦闘員に身体検査を行わせた後に死神博士に見せる為、檻に入れられてエアキャリアの格納庫まで運ばれたのだ。
「何だ?この小娘は」
「改造人間に志願した小娘だ。どうにも不気味な娘でな…貴様の意見も聞きたかった」
そう言って、地獄大使は小日向未来の情報を纏めた資料を手渡す。軽い身辺調査に尋問した内容が書かれている。
「…身体能力は悪くはない。だがそれだけだな、思想も極めて普通の小娘だ。つまらん」
ショッカーが望むのは頭脳明晰、身体能力の優れた人間だ。或いはショッカーの好む性格が凶悪な犯罪者が理想と言える。確かに未来は身体能力は高い方だが死神博士が望む程ではない。
「…あなたが…」
「ん?」
檻の中に居た未来が資料に目を通していた死神博士に話しかける。尤も、死神博士は未来を見ず資料を読み続けている。
「あなたが死神博士ですか?」
「いかにも」
「…響を改造人間にしたのも…」
「この私だ」
未来の質問に気軽に答える。その姿は全く悪びれた様子もない。それどころか薄ら笑いを浮かべる姿は実に不気味と言えた。
しかし、死神博士の返答を聞いた未来は血相を変えて死神博士に訴える。
「響を…響を元に戻して!!」
「…お前はドロの上に落とした水を元に戻す事は出来るのか?」
未来は死神博士なら響を元に人間に戻せるのでは?と考えた。ショッカーの大幹部だ、例え出来ても、元の人間に戻す気など無い事も薄々分かってはいる。それでも、響を改造人間にした死神博士に訴えたかった。
そして、死神博士の回答は不可能と言う言葉だった。その気もない。
「!?」
「…成程、立花響の友人か。態々友人の為に危険を冒すとは、本当に愚かな小娘だ」
死神博士にとって未来の行動は愚の骨頂と言えた。たかが友人一人忘れていれば今まで通りの生活が出来た筈だ。それなのに友人である立花響を忘れるどころかショッカーに入ってまで一緒に居たいと思ってる事に小日向未来を愚かだと笑う。
「あなた達は…あなた達は悪魔よ!!」
「今更気付いたか?」
「我等はショッカー軍団、人呼んで悪魔のショッカーよ!」
未来の言葉に死神博士も地獄大使も笑って言う。今更、小娘一人に罵られようとどうとも思わない。それどころか未来の改造人間の案を考える死神博士。
「貴様の改造人間の能力を考えねばならんな。だが、先ずはその立花響への想いをショッカーに書き変えてやろう。そうすれば貴様のその想い全てショッカーに置き換えられるのだ」
「私の想いを!?…嫌…そんなの嫌!!」
此処に来て初めて未来はショッカーに恐怖を感じていた。以前、キノコモルグに捕まってアジトに連れてこられた時も恐怖を感じていたが、今の恐怖はその時を超えている。自分が自分でなくなる、それが此処まで怖いとは未来も予想すら出来なかった。
「さて、移植する動植物は何にすべきか?」
「いっその事、作った怪人と同じ動植物を移植して比べて見るのはどうだ?」
未来の叫びも気にせず、死神博士と地獄大使は格納庫を後にする。その場には檻に入れられた未来とウェル博士だけが残る。
「響…響!!」
未来は今更ながら己の選択を後悔した。地獄大使に改造人間を志願したのは響に会う為だ。例え二課を人類を裏切る事になっても構わないと覚悟していた。想定外だったのはショッカーは未来の響への想いすら利用しようとしていた事だ。
━━━よく考えれば分かる事だ。ショッカーは響の記憶も性格も変えて都合の良い人形にしていた。私がそうならないという保証なんて何処にも無かった。ごめん…響…ごめんね、みんな!!
未来は檻の中で泣き続ける。己の選択がどれだけ馬鹿げていた事かやっと理解したのだ。今更、後悔してもし足りない。恐らくこの場での一番の解決法は未来が自殺する方法だろ。…駄目だ、ショッカーはクローン技術にも優れている。それに必要なら未来を蘇生させることも可能だろ。
ひたすら、一人泣く未来の様子を見ていたウェル博士はある決断をする。
その頃、エアキャリアのミーティングルームでは未だにマリア達が話をしていた。日も暮れたのに電気も点けない事で通りかかる戦闘員は「何してんだ?」と言った表情で通り過ぎる。尚、その度にマリア達はショッカーに気付かれぬよう日常会話などに切り替えて話していた。
「マムは、フロンティアに関する情報を米国政府に共由して協力を仰ごうとしたのよ」
「…それだけではありません。このままショッカーに利用されたままではマリア達の命の保障はありません。ですから私の古い友人にショッカーの息のかかってないエージェントたちと共同で動こうとしましたが…」
「…戦闘になったの?」
調の言葉にナスターシャ教授が頷く。調も切歌やっぱりかと思った。そもそも自分達が立ち上がったのも米国政府と経営者たちだけ助かろうとしていたからだ。例えそれがナスターシャ教授の友人でも同じだったかと落胆する。
「彼女は…私の友人とは数年前に会ったきりですが…昔から正義感が強く公私混同しない人でした。それが今回に限りあの様な事を…何かあったとしか思えません」
「マム…」
ナスターシャ教授の友が自分達を切り捨てた可能性はある。しかし、ナスターシャ教授自身は今でもその友を信じていた。
「既に殺されてます」
「「「「!?」」」」
突然の声にマリア達が振り向くと格納庫へのドアからウェル博士がミーティングルームへと入って来た。
「ドクターウェル。殺されたとは…」
「先生が話してました。『古い友人はとっくに我々の手の者と入れ替わってる』と」
「…なんて事を」
友人はとっくに殺されていた。ショッカーの事だ生かして閉じ込めてる可能性は低い。
ナスターシャ教授の目から涙が一筋流れる。
「マム」
「…マム」
その様子に、ナスターシャ教授の心配をするマリアたち。古い友人が殺されたのだ、何と言って慰めればいいか分からない。
「悲しんでるところ申し訳ありませんが…聞いて欲しい事があります」
「聞いて欲しい事?」
友人が殺された事を話してナスターシャ教授を悲しませたウェル博士に好感は抱けないが真面目な顔に調が反応する。
そして、ウェル博士の口から語られる話にマリア達は耳を傾ける。
「小日向未来を装者にするだと?」
未来の改造手術の準備に入ろうとしていた死神博士の耳にウェル博士の提案が入る。死神博士の前にはアリやらバッタといった昆虫類が並んでいる。
「はい、彼女には少しですが神獣鏡の適性があると思われます。上手くいけばそれでフロンティアの封印も解けるかと。その為にはあの少女を改造人間にするのは反対です」
そう言って、ウェル博士は手元の資料を死神博士に渡す。資料には未来と神獣鏡の適合値やマリア達の差が書かれている。
死神博士としては改造した装者が怪人の能力にどう影響が出るか知りたいとも思ったが、
「面白い、やってみろ」
目を通した死神博士が許可する。今はそれよりフロンティアの封印を解く事を選んだ。この時点で未来は改造人間にはならず装者となる。本人の与り知らぬ所で決められた。
原作よりウェル博士はマリア達と仲は悪くありません。でもやっぱり調や切歌からは嫌われています。
死神博士が響を使って何か企んでいます。
翼もクリスとそこそこ仲がいいです。未来、ショッカーの外道さに自分の行いを後悔。