「未来が行方不明ってどういう事だよ!?」
特異災害対策機動部二課仮設本部にクリスの声が響く。その声からして機嫌が悪そうだ。
「…そのままの意味だ、寮にも未だに戻っていないらしい」
弦十郎が申し訳なさそうに言う。特異災害対策機動部二課が未来に用があって寮に連絡したのだが出ず、職員を行かせたことで寮に戻ってない事が判明したのだ。
「何故、今まで気づかなかったんですか?」
「一つはスカイタワーでの戦闘の後処理に戸惑った事だ。もう一つは…」
「私の所為です」
友里あおいの言葉に翼とクリスの視線が向かう。オペレーター仲間の藤尭朔也が心配そうに見ている。
「私が…私が未来ちゃんが自力で帰った事を指令に報告していれば…」
未来が車から降りて自力で帰った事を、あおいは弦十郎に報告してなかった。現場の処理に生き残った米国政府のエージェントたちの聞き取り調査などやる事が多く後回しになったのだ。報告していれば二課のエージェントが未来の安全を確保して寮に帰す予定であった。
「だからって…」
クリスが何か言おうとするが口から出てこない。響の姿を見て未来は一人になりたかった事は容易に想像がつく。そして、あおいも特異災害対策機動部二課の職員だ、仕事が立て込んでいる。
それが理解できるクリスは誰も責められなかった。
「雪音…」
「クリスくん…」
その様子に翼と弦十郎がクリスの名を呟く。未来の行方は緒川を入れた調査部にさせているが手掛かりが殆どない。
内心、ショッカーが関わってるのではと考える弦十郎。その時、
「ん?指令、外部から妙な通信が…これは!?」
藤尭朔也のオペレーター席が妙な通信を入り、調べた朔也が一瞬言葉を失う。
「響…私、どうすれば良かったのかな?」
エアキャリアの格納庫、檻の中に入れられた未来は何度目かの独り言を言う。もう直ぐ、死神博士が自分を改造人間にするかも知れない。そう考えただけで未来の心は壊れそうになっていた。
━━━私、もう直ぐ人間じゃなくなるんだ。…響もこんな気持ちだったのかな?でも響と同じになれるのなら…
その時、格納庫の扉が開き二人の人間が入って来る。未来が目線だけ動かすと一人は死神博士に付き添っていた白髪の人ことウェル博士。もう一人は、薄いピンク色をした世界的有名人。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴ…さん」
「マリアで良いわよ。あなたが小日向未来さん?」
「…はい」
未来の目の前には歌姫と呼ばれ日本では虐殺の姫と呼ばれるようになったマリアが目の前にいる。会場での事件の真相を知る未来は虐殺はショッカーの仕業だと分かってはいる。それでも彼女がショッカーに協力している理由が分からなかった。
マリアが未来を値踏みする様に見ている事に気付く。
「…何ですか?」
「…何でも無いわ。ただ、あなたの姿を見てセレナを思い出しただけよ」
「セレナ?」
マリアの口から知らない名前が出て未来は軽く混乱する。
「セレナはマリアの妹ですよ、六年前にとある事情で亡くなった」
横からウェル博士がセレナについての説明をする。そして、自分に近づいて来る事で身を固める未来。
━━━もしかして、もう改造手術!?
死神博士の助手をしていたウェル博士がわざわざ来たのだ。とうとう改造手術の時間になったのかと未来は恐怖を感じていた。そんな未来にウェル博士はニコリと笑って見せる。
「安心してください、小日向未来さん」
「?」
「あなたは改造人間への手術は中止になりました」
「!本当ですか!?」
ウェル博士の言葉に驚く未来。自分自身が改造されるのは決定事項だと諦めていた。口では響と同じになれると言って納得しようとしていたが、やはり心のどこかで拒否感があったのだろう。
「…喜ぶのは早いかと」
「え?」
そんな未来の喜びにウェル博士が待ったをかける。
「ドクター、本当にやるの?」
「…当然です。少なくとも神獣鏡は君達より適性が高いんです」
マリアとウェル博士のやり取りに未来は不安を感じていた。何より、これ以外でショッカーを出し抜く案は無い。
「小日向未来さん、あなたに提案があります」
「提案?」
「上手くいけば立花響の記憶を戻せるかも知れません」
「!?」
ウェル博士の言葉に未来は目を丸くする。それは何よりも未来が望んでいた言葉だった。
「詳しく…聞かせて下さい!」
未来は藁にも縋る思いでウェル博士の言葉を聞く。そして、その直後に未来は装者としての調整を受ける。
少しだけ時間が経ち、調と切歌が自分達の干していた洗濯物を取り込む。一応、ショッカーアジトにも洗濯機と乾燥機があったが、マリア達は警戒して自分達で処理していた。
そんな中、切歌は洗濯物に手をかけて止まっていた。
━━━マリアがフィーネで無いなら…きっと私の中に…
思い出すのは廃棄された工事現場での一件だ。廃材が落ちてくる中、調を守ろうとした切歌の翳した手からバリアが出て自身と調を守った事だ。あの一件以来、切歌は自分こそがフィーネの魂を宿してるのではと疑っていた。そして、マリアとナスターシャ教授の告白でそれは確信へと変わる。
「…怖いデスよ」
「?何か言った?切ちゃん」
「い…言って無いデス!!」
思わず呟いた声を傍で洗濯物を取り込んでいた調が切歌に聞く。聞かれた切歌は慌てて首を横に振る。
その態度に、やや不信感はあるが調は自分から口を開く。
「ドクターやマムは本気であの人を装者にする気かな?」
「あの人?…あの捕まってる人デスか」
「私達とは殆ど関係ないのに装者にするなんて…」
「仕方ないデス、放っておけばショッカーのあのイカレ爺が化け物に改造しちゃうデス」
調は未来が装者になるのは否定的であった。聞いた話では自分から改造人間に志願したそうだが、それは友であり親友の立花響の傍に居たかったからだ。もし、自分が未来の立場でマリアや切歌が響のようになっていたら恐らく未来と同じ行動を取る可能性が高い。
「マリアやマムは何時までショッカーに従うんだろ。マリア、変わっちゃったのかな?昔の優しいマリアならショッカーに従ったままじゃない筈なのに」
「………」
「私はマリアだからお手伝いがしたかった。フィーネでもショッカーの為なんかじゃない」
「…それはそうデス」
「身寄りのなくて泣いてばかりた私達に優しくしてくれたマリア。弱い人の味方だったマリア、なのに…」
調が思い出すのはショッカーの非道の数々。会場での虐殺にリディアン音楽院での虐殺未遂。味方をネフィリムに食べさせに戦闘時での民間人の人質、英雄と言われた立花響への過去の所業に捕らえた小日向未来の改造人間への手術未遂。
「ショッカーは強いのは私だって知ってるけど…」
調も切歌も一度、ショッカー怪人と戦った事がある。その時は手も足も出せずナスターシャ教授の命令で撤退したが、あのまま戦っていたらどうなっていたか。
調の心にはマリアへの落胆、ショッカーに対する恐怖が占めていた。
「ショッカーも確かに怖いデスけど、私は別の物が怖いデス」
調の話を聞いていた切歌が話題を変える。調もそれに反応し切歌の方を見る。
「マリアがフィーネでないなら、その魂の器として集められた私達がフィーネになってしまうかも知れないデスよ。…調は怖くないデスか?」
「よく…分からないよ」
切歌の言葉に調は、良い返事が出来なかった。元よりフィーネに揺り潰されるという事が想像しずらく現実とも思えない。何より目の前には悪辣なショッカーが蠢いているのだ。
「それだけ…デスか」
「切ちゃん?」
期待通りの言葉を聞けなかった切歌は手に幾つの洗濯物を持ってエアキャリアへと駆けていく。切歌の様子がおかしい事に気付いている調はただ「切ちゃん…」としか言えなかった。
そして、エアキャリアは再び、あの海域へと飛ぶ。
「マムの具合は如何なんデス」
「疲労で倒れた程度だ、元より電撃を受けて平常でいられてる以上、見た目より図太いようだ」
飛行中に、切歌が医務室で横になるナスターシャ教授の様子を聞くと死神博士が軽く答える。内心、その電撃の所為で倒れたんじゃないのか?とも思っていた切歌と調が死神博士を睨みつける。
「それでも病状が進行している。ショッカーの技術でもこれ以上は…」
「そんな」
マリアの言葉に調が悲しそうに言う。
ショッカーの…死神博士の腕でナスターシャ教授の病はだいぶ軽くなっていた、それでも完治には程遠く、死神博士も完治させる気など欠片も無い。確かに聖遺物に関する知識は目を見張るものがあるがそれだけだ。
年の割には体力があるとはいえ、改造手術に耐えられる程かと言えば疑問である。
「つまり、のんびり構えて居られないという事ですよ」
「そうだな、月が落下する前にフロンティアの封印を解かなくてはな」
ウェル博士と死神博士の言葉を黙って聞く調と切歌。その目は完全に胡散臭い物を見る目だった。
その時、エアキャリアのセンサーに何か反応する。
マリアがモニターに映すとそれは巨大な軍艦だった。
「これは!?」
「米国の哨戒艦艇デスか!」
それは間違いなく米軍海軍に所属する艦艇であった。
「ふむ、連中にしては時間を守ってるようだな。運の悪い連中だ、先ずはアレを血祭りに上げ世界に我々の存在をアピールするのも面白そうだ」
「秘密結社のあなた達がアピール?」
死神博士の言葉にマリアが反応する。ショッカーの目的が今一掴めない。
「そんなの弱者を踏みにじる強者のやり方!」
調にしては強い口調で死神博士に訴える。しかし、死神博士は不気味な笑みを浮かべ「だからどうした?」と言い放つ。
「誰も貴様らの意見など聞いていない!」
直後に、死神博士は無線で潜水艦でエアキャリアに付いて来ている地獄大使に連絡を取る。
同じころ、近くの海域で特異災害対策機動部二課の仮説本部である潜水艦に警告音が響く。
「ノイズのパターンを検知!!」
「米国所属艦艇より応援の要請!!…更に米国艦艇よりノイズではない未知の怪物が出現したそうです!!」
オペレーターコンビの報告が終わると司令部のモニターに現場の映像が流れる。映像には一隻の艦艇に数隻の黒い潜水艦が映りそこからショッカー戦闘員が艦艇の乗り込んでいる。
「あの妙な通信に載っていた海域に近い!あの海域にショッカーの目的の物がある筈だ!…しかしショッカーはあんなに潜水艦を持っているのか…」
少し前に特異災害対策機動部二課に妙な通信が来た。内容は〇〇の海域にショッカーの目的の物がある。罠の可能性も考えたが弦十郎はあえて乗ってみる事にしたのだ。準備に時間はかかったが現にショッカーは動いている。上空からの映像でしかないが既に怪人もいるようだ。
「応援の準備にあたります。行くぞ、雪音!」
「ああ、絶対アイツを取り戻すぞ!」
翼とクリスが出撃の為に指令室を後にする。残った指令室の職員及び司令官の弦十郎はモニターで見守る事しか出来ない。
米海軍の艦艇のデッキはまさに地獄だった。
「撃てぇ!撃てぇーーー!!」
「何だ、あの化け物は!?弾丸が効きやしねえ!!」
ノイズも確かに脅威と言えば脅威だった。ノイズ特有の位相差障壁で此方の攻撃は素通りする。反面、ノイズと現れた怪物…怪人は軍人たちの銃の弾丸は命中する。しかし、その悉くが怪人に傷一つ付けられなかった。
「退けっ!喰らえ化け物め!」
其処へ一人の兵士が銃を撃つ兵士達を掻き分け、大きな砲身を向ける。格納庫から対戦車砲を持ってきたのだ。
狙いを付ける兵士はカブトムシの怪人に向けて対戦車砲…RPGを撃つ。
RPGは真っ直ぐ怪人に当たり爆発し、その際に生じた風が兵士達の頬を撫でる。
「どうだ、化け物!」
「アメリカ軍を舐めるなよ!」
攻撃の通らないノイズなら兎も角、攻撃が当たるなら倒せると考えてRPGを撃った。これなら怪物も「何かしたか?ゴミども」
『!?』
ギッギッギッギッギッと言う不気味な声がすると共に場k初して出来た煙から、体の骨格が黒で胸や顔の辺りが赤いカブトムシの怪人、カブトロングが出て来る。
RPGが直撃したその体には傷一つなかった。
ギッギッギッギッギッ
ヒッヒッヒッヒッ
ホホホホホホ
カブトロングが不気味に笑い、他の怪人達も奇妙な声を出す。
其処からは最早、蹂躙だった。ノイズが兵隊を炭化させ船艇の下層部にも侵入し機関士や乗組員も襲い、怪人達も蹂躙する。
左手の電磁ばさみで次々と兵士を切り刻むカブトロング。空を飛び上から殺人レントゲンで白骨化させるフクロウ男。口から溶解液と火炎を使い分けて吐く軟体生物の様な見た目をした怪人、ナメクジラ。捕まえた兵士の血を左腕から吸い取りミイラにしていく、不気味な怪人ヒルゲリラ。触手のある頭部から竜巻を起こして何人もの兵士を頭部の口へと飲み込み食い殺す赤い怪人、イソギンチャック。口から火炎を吐き左手のカッターで兵士を切り捨て海へと捨てる、前に翼と戦ったギリザメス。
甲板は兵士の血や炭、白骨が散らばり肉片やミイラまである地獄の様な光景が広がる。
「クッ…」
エアキャリアを操縦するマリアは唇を噛みしめ血を流す。映像では船の中や海に飛び込んで逃げようとする兵士も居るが悉くがノイズや怪人に殺されていく。
「いいぞ、皆殺しにしろ!我等に逆らうものは皆殺してしまえ」
逆に死神博士は満足そうにしていた。何か思うのであればせいぜい「怪人に適合できる者も居るかも知れんな…もったいない」くらいである。
映像ではカブトロングが一人の命乞いする兵士を持ち上げ力任せに体を引き千切る。
「!こんな事を…こんな事を許していいの?マリア!」
遂に我慢できなくなった調がマリアに訴える。マリアはそれを聞く事しか出来なかった。
「弱い人達を守る為に私達は立ち上がったんじゃないの!?」
マリアはただ調の言葉を聞くだけだった。何も言えず唇を噛み血を流し悔しそうな表情をする。しかし、調にはそれで十分だった、調はエアキャリアの出入口を開ける。
「何してるデスか!?」
「マリアが苦しんでいるなら私が助けてあげるんだ」
マリアの沈黙に調は何かを悟り、切歌の言葉に答えると調はそのまま上空を飛ぶエアキャリアから飛び出し下降する。普通ならこのままでは船の甲板か海上に叩きつけられお陀仏だが、
Various shul shagana tron
調は落ちながら聖詠を口にする。シンフォギアを纏った調はそのまま甲板へと落下する。
首をかしげて 指からするり 落ちてく愛をみたの
拾い集めて 積み上げたなら お月さまに届くの…?
調は歌う。ノイズや怪人に殺された兵士達の弔いの為に、自分達の行動で余計な死者を出した後悔と共に、そして、調は頭部のツインテール部分のユニットから小型の丸鋸を一斉に打ち出す。
α式・百輪廻
小型の丸鋸は正確にノイズや戦闘員を打ち抜き、次々と倒していく。
「あの小娘、またか…各怪人に通達する。月読調を殺せ!我等を二度も裏切った事を後悔させるのだ!!」
「ま…待って…」
調が再びショッカーに逆らったことを確認した死神博士は、艦艇に居る怪人達に調の抹殺命令を出す。マリアが止めようと声を出すが死神博士の威圧に押し黙ってしまう。
「このままじゃ…」
艦艇には六体の怪人が居る。このままでは調が嬲り殺しにされると感じた切歌が自分も動こうとしたが、
「まあ待ちなさい。あなたに渡しとく物があります」
今にも飛び出しそうだった切歌の肩に触り呼び止めるウェル博士。一瞬ムッとする切歌だった。
DNAを教育してく エラー混じりのリアリズム
人形のようにお辞儀するだけ モノクロの牢獄
次々とノイズを片付ける調は足元の鋸で高速移動する。その際にすれ違うノイズや戦闘員も切り捨てていく。そして、一際ノイズの多い場所に行くとツインテールのユニットに大型の丸鋸にするとその場で回転する。
だからそんな…世界は…
伐り刻んであげましょう
調が回転する事に周囲に居たノイズは文字通り調の巨大丸鋸に切り刻まれ炭と化していく。このままノイズを殲滅出来る。そう思ったが、
「何を切り刻むんだ?」
「!?」
体ごと回転させていた丸鋸が止められた。止めたのはカブトロングだ。カブトロングは左手の電磁ばさみのみで調の丸鋸を止めている。調が何とか巨大丸鋸を動かそうとするがビクともしない。
「ふん!」
「しまっ!?」
それどころか、カブトロングの電磁ばさみに逆に切られてしまった。だが、これでカブトロングの拘束から自由になった調が距離を取ろうとしたが、移動先に火炎が降り注ぎ動きを封じられる・
ゴワーオオオオウ
アーエアエアエ
ガブガブー
調が周囲を見回すと米兵を片付けた怪人達が自分を取り囲んでいた。
「死神博士からお前の抹殺命令が出た。俺の電磁ばさみでお前の首をねじ切ってやる」
「いや、俺の殺人レントゲンで骨だけにして飾るのはどうだ?」
「溶けて死ぬか焼け死ぬか好きな方を選べ」
「血を寄こせ!ミイラたちの仲間にしてやる!」
「俺に食わせろ!小娘の血と肉は絶品だ!」
「どうでもいい。切り刻んで海に捨ててやる」
一部の怪人が調の始末の仕方で軽い口論をする。そのまま共倒れしてくれないかと思う調だが、怪人達は直ぐにある提案をして調べに襲い掛かる。
「「「「「なら早い者勝ちだ!!!」」」」」
六体の怪人が一斉に迫る。ナメクジラの溶解液を避け、イソギンチャックの触手を丸鋸で切り、ギリザメスの鼻先で残った巨大丸鋸で火花を上げるが直後に破壊される。
調もやられるだけではない。ノイズに攻撃したようにツインテールのユニットから小さな丸鋸を幾つも打ち出す。しかし、ノイズとは違い、怪人の体には当たるが少し傷つける程度だ。その傷も即座に治ってしまう。
━━━力の差があり過ぎる!私じゃ倒せない!
「いい加減死ねぇ!殺人レントゲン!」
「!?」
空を飛んでいたフクロウ男の目が光る。調は咄嗟にツインテールのユニットから再び巨大丸鋸を出して自分の体を隠す。直後に爆発を起こして調の体が甲板の壁に叩きつけられる。
「アガッ!」
背中を強打した調は一時的呼吸困難に陥る。調の咄嗟の行動は正解と言えた。あのままでは回避は間に合わず調は白骨化して殺されていただろう。
調は正常に呼吸する為にその場をジッとしていた。数秒程で何とか呼吸困難も治ったが調の前にカブトロングが左手を振り上げていた。
「此処までのようだな小娘…死ねぇ!!」
「…切…ちゃん…」
調の目に自分に向け電磁ばさみを振り下ろすカブトロングの姿が映り死を覚悟した。心残りのマリアやナスターシャ教授、そして切歌の姿が脳裏に過り、大好きな親友の名を呟く。
「待つデス!!」
直後に少女の声と共にカブトロングの前に一本の緑色の大鎌が突き刺さる。
調とカブトロングらが投げられた咆哮を見るとシンフォギアを纏った切歌が降り立つ。
「何のつもりだ小娘、お前も裏切るつもりか?」
カブトロングが左腕の電磁ばさみを切歌に付きつける。他の怪人達も切歌の返答次第で即座に殺す気である。しかし、切歌はそんな怪人達を無視して調へと近づく。
「もう大丈夫デス、調」
「切ちゃん…ありが…」
切歌に手を借りて立ち上がった調がありがとうと言い掛けた時、切歌は調の首筋に銃型の注射器を打ち込み中の液体を調の体に入れる。
「切…ちゃん?」
注射を打たれた調は体がふら付く、直後に足元に展開していた移動用の鋸も収納され纏っていたシンフォギアも解かれる。
「ギアが…」
「例え、私と調が戦っても怪人には勝てない、二人共殺されるのが関の山デス。私、調には生きていて欲しいデス。例え、私が消えても調には…」
シンフォギアを纏えなくなり驚く調に切歌が悲しい表情で言う。
「切ちゃん?」
「私が消えても調が生きていてくれたら、私と調の想いでは残るデス。だから、調には此処で戦線離脱して貰うデス」
切歌が言い終える直後に艦艇の横の海から轟音と水柱が上がり海中から何かが飛び出してくる。
「ミサイルだと!?」
「違う、あれは」
突然の事に慌てる怪人達。形状からミサイルかと思われたが開くと中から翼とクリスが飛び出す。
「喰らいやがれぇ!!」
既に小型ミサイルを展開していたクリスが一斉に怪人に向け撃つ放つ。小型ミサイルは正確に怪人に降り注ぎ爆発するがあまり威力が無い。
「大した威力はないぞ」
「…違うこれは煙幕だ!」
クリスの目的は小型ミサイルで攻撃する事ではない。小型ミサイルに煙幕を仕込み視界を奪ったのだ。
「とったぞ!」
「なにっ!?」
そして、視界を奪われたナメクジラに翼が一気に切りかかる。完全な不意打ちにナメクジラは一刀両断され爆発する。
「やったの?」
「そうみたいデス。ドクターの言う通りになったデス」
切歌は飛び出す前のウェル博士とのやり取りを思い出す。
『これは…LiNKER?』
『Anti LiNKERです。適合係数を下げる効果があります。これを打てばあの子の適合値も下がり一時的にシンフォギアを纏えなくなります』
『シンフォギアを纏えないって、それじゃ怪人たちに嬲り殺しにされるデス!』
ウェル博士の言葉に切歌は睨みつけるように言う。
━━━やっぱり、ドクターは信用できないデス!
『良いから聞きなさい。もう直ぐ、特異災害がこの海域までやって来る筈です。その時に月読調を保護させなさい』
『保護!?』
『ええ、保護です。残念ですが死神博士は、もう月読調を生かしとく気はありません。無理に連れ戻してもよくて処刑、下手すれば改造人間の素体にされるかも知れません』
『そんな…』
『…何でしたら君も特異災害に降るのもありですよ。あそこは人がいいですからね、あなた達も保護してくれるでしょう。Anti LiNKERを打ち込んだ月読調も暫くは戦えなくなる筈ですから。我々の事は心配する必要はありません』
『私まで抜けたらマムとマリアは…』
『責任は問われるでしょうが今はその時ではありませんよ。フロンティアの封印が解かれればそれどころではありませんから。マリアもナスターシャ教授も覚悟の上です』
━━━ドクターの真意は分かりませんけど、私が思ってるより悪い奴じゃなさそうデス。調を任せるのは癪デスけどこのままショッカーに利用されるよりはマシです
「それでも私はマリアたちについていくデス」
まだ煙幕が残り視界の悪い中、切歌は一人決意する。最悪でも調が生きられる世界の為に