自分は、たぶん無理だ。
フロンティアにて、翼とクリス、調と切歌の戦いが起き死神博士が高みの見物を決め込んでる頃、
「世話のかかる弟子だ、まったく」
「ですが切っ掛けが出来ましたね」
口では文句を言う弦十郎だが、緒川の発言に否定するでもなく微笑む。
現在、二人は特異災害の潜水艦の格納庫の中にしまっていたジープに乗り込んでいる。これより、響を追跡しつつフロンティアへと潜入してウェル博士の捕縛、ショッカーの企みを潰すのが目的だ。ノイズの殆どは翼や響が倒してほぼ居ない状態だと判断しての行動だった。
いよいよ、緒川がジープのエンジンをかけようとした時、指令室の方から通信が入る。
『指令』
「何だ?戦闘員がまた来たのか?」
『違います、出撃の前にこれを』
オペレーターの朔也がそう言うと弦十郎の持つ小型のデバイスに映像を送る。その映像にはマリアの姿が映っていた。
【私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下の被害を最小限に抑える為、フィーネの名を騙った者だ】
「これは?」
『フロンティアから発信されてる映像情報です。世界各地に中継されています』
「こんな物を流してショッカーは何を狙ってるんでしょうね」
緒川の言葉に弦十郎は、映像に映るマリアを見続ける。
【三カ月前、ルナアタックの影響により月が欠け月の破片が落下すると事件が起きた。これは解決したが問題はその後だった、ルナアタックの影響で月が落下する事実を米国国家安全保障局並びパヴァリア光明結社によって隠蔽されてきた。それは一部の特権階級や政治家にとって、とても発表していいものでは無かったから。私達は月の落下の被害を最小限にする為に動いていた】
マリアの話す真実に誰もが茫然として息を飲む。世界の誰もがマリアの話に耳を傾ける中、日本は、
「ふざけるな!会場で虐殺しやがって!!」
「あの子を返して、あの子はアナタのファンだったのよ!!」
「月が落ちるのと会場の虐殺に何の関係がある!」
大型モニターに映るマリアに向けて罵声が飛び交う。彼らにとってマリアは会場で数万の観客を殺し合わせた戦犯であり犯罪者であった。そんなマリアの言葉にイラつく民衆たち。その中には会場で死んだ観客の遺族も居たのだろう。
そもそも本当に月が落ちて来るのかも信じがたかった。
「!」
「止めなよ、弓美」
その様子に弓美が声を荒げようとするが創世が待ったをかける。
「でも、このままじゃマリアが」
「今、私達が何を言っても皆聞いてくれないよ。下手すればアンタがリンチに合うんだよ!」
創世の言葉に及び腰になる弓美。見れば感情の高ぶった民衆がマリアに罵倒だけでなく石やゴミを投げる姿まで見える。モニターの映像だけでもこれだ、もし弓美がマリアの弁護をすればどうなるかは火を見るよりも明らかだろう。
「私達、結局何も出来ないんだね」
「皆さん、ショッカーの事を知らないから」
弓美の呟きに詩織が同意する。自分達はショッカーの怪人や戦闘員が人を襲うところを目撃して知っている。その際に響に起きた悲劇も聞いた、それを伝えられない弓美はもどかしさを感じていた。
【そして、もう一つ伝えなければいけない】
「え?」
その時、マリアがもう一つ伝える事があると言って弓美や創世はモニターに注目する。
【この事件の陰には人類抹殺を目的として私達を騙してフロンティアへと入り込み月の落下の速度を速めた者が居る。その者たちは人類を根絶やしにして自分達こそが地球の支配者になる野望を持った世界的犯罪組織…世界征服を企む秘密結社、彼らの作り出した改造人間…またの名を怪人と言ってその者たちを使い暗躍して世界の内戦やテロを操って勢力を広げた】
マリアのその言葉に世界中で見ていた民衆は愚か罵詈雑言を吐いていた民衆たちも思わず黙ってしまう。詩織や弓美たちはこの時点で何を言うのか察しが付く。
「成程、あの人なら…」
「私達じゃダメだったけど」
「世界の歌姫って言われたマリアなら」
ただの女子高生である創世や詩織、弓美が幾ら訴えようと所詮は女子高生の戯言だと思い込み本気にする大人など皆無だ。しかし、世界の歌姫のマリアが訴えれば信じる者も出るのではないかと考えた。
尚、特異災害が言わないのも同じような理由でもある。後、ショッカーが破れかぶれのテロも警戒していた。
【その者達は第二次世界大戦の敗北によって倒れたドイツ第三帝国ナチスとも深い繋がりを持っていて、怪人には動植物の能力を移植され人間以上の力を与えられた化け物たち。それがこの世界の裏で暗躍していた組織…その名はショッカー】
マリアが世間にショッカーを暴露する。一般人にとってショッカーなど聞いた事も無い、せいぜい物好きがネット上の都市伝説扱いされている古い単語だった。尤も、一部の権力者や知識人はマリアの言葉に口にしていた酒を噴き出す程の衝撃を受ける。
これには創世たちもニッコリ。ショッカーの存在を表沙汰で取り扱う、それも世界的な歌姫が言えば自分達以上に影響が出る。
「…何が、ショッカーだ!」
「ナチスなんてもう100年も前の話だろ!ナチスはフリー素材だからって何してもいいと思うなよ!!」
「今時、欧州連合の映画にだって、そんなコテコテな奴はないぞ!!」
「ただの都市伝説にマジレスなんてするな!!」
「自分の罪を架空の組織の所為にするな!」
「マリアさんの言葉でも駄目ですか」
「実際に怪人を見たら分かるのに」
しかし、暫しの沈黙の後に人々からの罵声が復活する。当然だ、せいぜいネットの噂レベルの話が一気に重要なワードになったのだ。マリアが苦し紛れに責任逃れをしてるようにしか映らなかった。これには創世や詩織も歯がゆく思う。
「本当にショッカーが存在するのなら見せて見ろ!」
男にの一人が手に持っていたビール缶をモニターのマリアに向けて投げる。男は、あの会場で家族を失っていた。当日は家族一緒に行く予定だったが、急な仕事が入り男の家族だけ会場に行き全滅した。それからだ、男が仕事を止め酒に逃げたのは。
男にとってマリアは家族の仇だった。自分の大事な家族を殺した犯人、それがマリアだ。っと思っていた。
【俺の名は怪鳥人ギルガラス!この会場の人間どもは俺のデッドマンガスで殺人鬼となったのだ!】
「え?」
「何だ、ありゃ?」
「カラスの化け物?」
「詩織、あれって…」
「あの時の怪人」
「あの会場の映像だね」
そこで突然、マリアの人型のカラスが映り声が響く。その光景に見物人は目が点となるが、創世たちはこの映像があの日の会場の様子だという事が分かった。
「ドクター、この映像は!?」
「あの会場で僕が撮った映像ですよ、いざという時にアナタの無実の証明する為に撮って置いた物です。これであの会場の悲劇はアナタの所為ではない事が分かる筈です!尤も、急遽映像の一部を弄って怪人とアナタ以外が映らないようにしましたけど」
この映像にはマリアも驚いた。ウェル博士が会場付近に居たのは知っていたがまさか、こんな映像まで撮っていたとは露ほども思て居なかった。
そして、マリアはウェル博士の返答を聞いて大きく深呼吸をする。
【この映像はあの日、会場で何が起こっていたのか記録した映像だ。これでショッカーの恐ろしさも分かるだろ】
人々はその映像を見て息を飲む。デッドマンガスという煙を吸ったり浴びた人間が殺人鬼となって殺し合い、マリアはギルガラスという怪人と戦闘に入る。その直後にライブを移していた大型モニターに左を向いた鷲と地球のマークが不気味に映る。
「ショッカーのシンボル!」
「相変わらずおどろおどろしいですね」
ショッカーのエンブレムを見て背筋に冷や汗をかく創世と詩織。逆に弓美はまだちょっとカッコイイなぁとも思っていたが口に出さない。
民衆の多くもショッカーのマークを目にして静まり返る。映像越しとはいえそれだけ圧倒する迫力があった。
【貴様たちも殺人鬼になるがいい!】
【この煙を浴びればお前達も殺人鬼となるのだ!憎しみあい、いがみ合って地獄に落ちろ!!】
【俺のデッドマンガスを浴びた者は解毒剤がない限り元に戻る事はない】
【聞けぇ!殺人鬼どもよ、この俺ギルガラスが命じる!外の連中を殺しに行けぇ!!】
【貴様らを片付けた後は人類皆殺し作戦が発動するのだ!俺のデッドマンガスを世界中にばら撒く、手始めに先ずは日本東京だ!邪魔はさせん!!】
あの時の会場でのギルガラスの発言が木霊する度に人々の目が驚愕する。創世達もギルガラスの発言には驚愕する程だ。
「あの時、観客がおかしくなったのは、あの怪人の煙の所為だったんだ…」
「人類皆殺し作戦…」
「あの怪人、恐ろしい作戦を企んでいたんだね。ビッキーたちがギルガラスを倒してくれて助かったよ」
創世たちも響から大まかな情報を知っているが大部分は特異災害対策機動部二課に止められて細部までは知らなかった。ギルガラスの人類皆殺し作戦もまたそうだった。
「こ…こんな映像信じられるか!」
「どうせCGとか使って作ったんだろう!」
しかし、この映像を見ても未だにマリアを非難する声が上がる。尤も、それも当初に比べて減ってはいた。
「俺…あの映像信じるよ」
そんな折にマリアに抗議していた男の一人がそう言った。その言葉に他の抗議の声を上げていた仲間が驚きの表情をする。
「正気か!?あんなのが存在する訳ねえだろ!」
「どうせ、責任逃れのでっち上げだ!」
周りに居た仲間が「正気に戻れ!」や「騙されるな!」と訴える。その言葉に男は首を横に振る。
「あの会場で殺し合いして捕まった奴に俺の親友がいたんだ。ソイツはさ、ガキの頃から弱虫で…虫も殺せねえような腰抜けだったんだ。その所為でよくパシリ扱いされてたけど…それがあの会場でマリアの歌を聞くんだって嬉しそうに言っててさ、ニュースを見て言ったらアイツが逮捕されて病院に送られったって見た時はビックリしたんだ」
「「………」」
「あのカラスの改造人間?怪人?が言っていたデッドマンガスってのが本物だったら、アイツが殺人鬼になったのも納得できるんだ」
男の独白にその場の空気が変わった。会場に居た人間が突然殺人鬼となったのだ、マリアの言うショッカーが実在し今回の事件にも絡んでいればと考えればマリアの発言も納得が出来る。
そして、映像はマリアへと戻る。
「ギルガラスは特異災害の手によって倒されたが、ショッカーにはギルガラス以外にも多数の怪人が居る。信じられないのも無理はない、全てを偽りショッカーに騙された私の言葉がどれ程届くか自信はない。それでも歌が力になるという言葉は信じてほしい」
Croitzal ronzell gungnir zizzl
目を瞑ったマリアは世界中に流れる映像の中で聖詠を口にして堂々とガングニールのシンフォギアを纏う。それを見守る観衆は言葉もでない。
「私一人の力じゃ落下する月を受け止めきれない!だから助けて欲しい、皆の歌を届けてほしい!」
マリアは歌う、マリアの歌を媒介にして人々からの祈りによってフォニックゲインを集めて月の遺跡を再起動させる為に。
━━━セレナに救われたこの命で誰かの命を救って見せる。それはきっとセレナも認めてくれる筈、あの子の死にも報いられる!
マリアは歌う。弦十郎と緒川はマリアの歌場所の発信源に向かい、響も戦闘員の妨害にもめげずほぼ垂直の壁をバイクで昇る。その後方では大きな爆発が起こる。
翼とクリスの戦いは五分と言えた。クリスの撃ちだす弾丸を悉く大型化した剣で弾き一進一退の攻防戦となっている。
「スゥノーオオオ!!」
最も、それはスノーマンの横やりが無ければの話だ。翼めがけて大岩を投げ飛ばしクリスと翼は回避行動を取る。
「あの野郎、アタシ事やりやがって!」
「耐久力も攻撃力も今までの比ではないな…」
スノーマンが自分事攻撃してきた事に焦り、スノーマンのスペックが今までの怪人より更に上がってる事を知る翼。
そして、それを冷めた目で見る死神博士。
『何時まで遊んでいる?さっさと風鳴翼を始末しろ』
「!」
クリスの首にしているチョーカーから死神博士の声が響く。何時までもグダグダと戦うクリスにしびれを切らした。その言葉にクリスは舌打ちする。
「アタシごと攻撃させといてよく言えるなぁ!!」
『このオモチャが欲しいのならもっと頑張ることだな』
クリスは抗議の声を出すが完全に無視する死神博士。
━━━クソッ!ソロモンの杖をショッカーに渡したままじゃダメなんだ!人を殺せる力を人が持ってちゃいけないんだ。何よりも人類抹殺を企むショッカーには猶更!
クリスが苦虫を嚙み潰したような表情をして翼もそれを見てクリスの現状を感じ取る。
━━━やはり、あの首輪が雪音を従わせてるのか。ミイラとりがミイラになってどうする!
クリスの様子に苛立つ翼は剣を更に大型化させスノーマンへと蹴り込む。
「スゥノーオオオ!こんな物が効くと思うな!」
しかし、翼の剣はスノーマンの両腕で止める。真剣白刃取りのような格好でスノーマンが力を入れると剣先にヒビが入る。
「悪いが、貴様程度で止まってはいられんのでな!雪音ぇ!!」
そんな状態の剣の柄を蹴り込み脚部のブースターで更に勢いを付ける翼。その瞬間に翼はクリスを呼ぶと同時にクルスに目線を送る、その意味に気付いたのかクリスは首を縦に頷く。次は翼とスノーマンの一進一退の攻防があるが、翼が更に脚部のブースターの出力を上げる。
「お…抑えきれん!?」
遂に、力負けしたスノーマンが翼の剣の下敷きとなる。と、同時にクリスは腰部のアーマーから小型ミサイルを一斉に発射して翼へと向ける。
MEGA DETH PARTY
翼へと向かう小型ミサイルは途中まで翼へと迫るがスノーマンの爆発により次々と誘爆して翼もクリスも巻き込む。
ピーーーーーーーーー
「なに!雪音クリスの生命反応が消えた?」
戦闘員に持たせてたノートパソコンの画面に映るクリスの情報にクリスの反応が消滅して生死不明と出て来る。それを見た死神博士は、クリスと翼の戦っていた場所を見る。その場所は未だに煙が蔓延して視界が悪いが確かに人影は見当たらない。
「共倒れしたのか?…まぁ、それも目的ではあったが…」
今一腑に落ちない死神博士。クリスの首輪には発信機と生命反応を感知するシステムもあった。それらが機能しないのならクリスが死んだと考えられる。
「ええい、碌にデータが取れなかったではないか。役立たずめ!」
思ったよりも戦闘データの収集が出来ずご立腹の死神博士はクリスを罵倒する。元々クリスを生かしとく気は無かった死神博士だがこんなにアッサリと亡くなる事は想定せず。クリスを罵倒してその場を去る。
「どうした!?さっきまでの勢いは何処にいった、小娘!!」
「クッ!」
その頃、調はアームドギアを縦にして内部に乗り込み高速移動をしてプラノドンのロケット弾から逃げていた。何故、空を飛んでプラノドンと戦っていた調が地面に居るのかは、単純にプラノドンとの空中戦に敗北して叩き落されたのだ。
それからは、調はシュルシャガナで高速移動してプラノドンに反撃するが空中を自在に飛び回るプラノドンには調の攻撃が殆ど当たらない。小型の丸鋸を連続で放つα式・百輪廻なら当てられるがプラノドンを倒せる程ではない。更には、
「調…!」
「!?」
切歌の声に調は咄嗟に横に移動する。直後に切歌の大鎌が調の通っていた場所に大鎌の刃が突き刺さる。
プラノドンの攻撃と切歌を使った波状攻撃や時には切歌を盾にして調は大いに苦戦させる。
「ハアハア…」
「しら…べ…」
調の体には容赦なく疲労が溜まっていく只でさえ調の片足は負傷している。切歌が悲しげな表情して調の心配するがそのことが調の心の消耗にもなっている。調は身体的にも精神的にも追い込まれてきていた。
「クォーッ!ネズミみたいに逃げ回りよって、だが小娘には相応しいぞ!このまま何もなせず何も得られず死んでいけぇー!」
隙ありとばかりにプラノドンが調に再度ロケット弾を撃ちこむ。また回避しようとする調だったが左足の激痛に行動が遅れてしまう。回避が間に合わないと感じた調は少しでもダメージを減らそうと目を瞑ってガードする。
「…?」
ガードした調だったが爆発音はするが衝撃が来ない事に不思議に思い目を開ける。すると、自分の前にピンクの色をした壁のような物が現れた。
「バリアだと!?それもシンフォギアの能力か!?」
突然、調の前に現れロケット弾を防がれたプラノドンは驚愕の声を出す。そして、切歌も調のバリアを見て驚きの目をした。
「まさか…調だったんデスか」
切歌の脳内に工事の中断されていた現場で道草を食っていた時の事を思い出す。鉄筋が自分達に降り注いだ時に切歌が調を庇った際に助けった力。それは切歌が出したのではなく気絶していた調が出していたと気付いた。
「全部…私の…勘違い…消えてなくなりたいデス…」
完全な独り相撲だった事に切歌は、今までの事が馬鹿らしくなる。勘違いで自分が消える事に恐怖し、調に八つ当たりしてプラノドンに利用される隙を作ってしまった。
切歌は今すぐにでもイガリマで自分の喉を切り落としたい程の羞恥心を感じているがプラノドンに支配された体は微動にしない。
「バリアを持っていたとはな、ならばこれならどうだ!!」
そう言い切ると、プラノドンは空中から調べに向けて翼をはためかす。プラノドンの起こした風は直ぐに調にも届くが調にはその行動の意味が分からなかった。しかし、その風は直ぐに強風となりやがては突風となる。風邪をやり過ごそうとした調だがとうとう体ごと吹き飛ばされた大岩に強打する。
「ガハッ!」
「調!!」
大岩に背中を強打した調は血を吐き、切歌は調の名を叫ぶ。切歌は直ぐにでも調を助けに行きたかったが切歌の体を支配してるのはプラノドンだ。やはり切歌は自由に動けない。
「どうやら此処までのようだな。どうせだ、絶唱を使って葬ってやれ!」
「!お前は…一体どこまで…」
プラノドンが切歌に絶唱を使って調を始末しろと命令をする。切歌は心の底からプラノドンへの怒りが沸くが切歌の耳の鼓膜に取り付けられた受信機からの電波が切歌を襲う。
「ああああああああああああああああああああ!!!」
「止めて…私から…大好きな…切ちゃんを…奪わないで…」
切歌の悲鳴に意識が途切れかけた調が弱弱しく訴える。
「安心しろ、お前を始末したら直ぐにその小娘も殺してやる。尤も脳髄を取り出すがな!さあ、絶唱を歌え!」
しかし、そんな少女の訴えにもプラノドンは冷酷に言い放つと調の意識が完全に途切れた。
━━━私、どうしたんだろ?もしかして死んじゃったのかな?
プラノドンとの戦いで意識を失った調はまるで水の中でひたすら沈んでいくような感覚に自分が死んだのではと錯覚した。その直後に調の横に人の気配が感じる。
「切…ちゃん?」
調は、その人影から一切の敵意がない事で切歌かと思って声を出す。
「残念だけど違うわ」
その人影は調の言葉を否定する。確かに声からして切歌ではなかったが女性の声だとは分かった。
「じゃ…誰?」
「どうだっていいじゃない、そんな事」
「どうでもよくない、私の友達が泣いている。ショッカーの所為で泣かされている」
女性の声はぶっきらぼうな物だったが調のショッカーの発言に女性が反応する。
「そうね。あいつ等はアナタを始末した後はイガリマの装者の脳髄を取り出す気だわ。数千年も悪者をやっていた私でもドン引きね。…誰の魂も塗りつぶすことなく大人しくしていようと思ってたけどそうも言ってられないわね」
「塗りつぶす?もしかして、アナタがフィー…」
「今はどうでもいいわ、そんな事。ショッカーの怪人はカ・ディンギルの時よりも更に力を上げている。恐らく私がアナタを塗りつぶして表に出ても勝てるかは分からない。でも一つだけ方法がある」
「手伝ってくれるの?どうして」
調の質問に女性は先程よりも友好的に話す。
「ショッカーは私にとっても敵だ。あのまま好き勝手暴れられては不愉快なのよね。それにあの子に言付けを頼みたいのよ」
「言付け?」
「それは後で言うわ。私の作戦を聞きなさい」
「ふむ、此処は鍾乳洞のような場所だな」
「足元にお気をつけて下さい、死神博士」
現在、死神博士と戦闘員はフロンティアにある鍾乳洞のような場所に来ていた。ブリッジに戻る途中だがフロンティアを完全なショッカー要塞にする為の視察でもある。
「この辺りには怪人の生産プラントを設置するか。…ん?」
辺りを見回していた死神博士だが、そこに誰かが居る事に気付く。最初はフロンティアを要塞として改造している兵士達の総司令をしている地獄大使かとも思ったがシルエットは完全に女だった。目が慣れてその姿を確認できた時、死神博士は僅かに驚いた。
「…雪音クリス、生きていたのか」
そのシルエットの正体はシンフォギアを纏ったクリスだった。そして、地面にはシンフォギアの姿から私服の姿に戻った翼が倒れ込んでいる。
「約束通り、二課所属の装者は片付けた。だから、ソロモンの杖を私に」
頭のパーツが砕けたクリスだが、それにも構わず死神博士にソロモンの杖を要求する。それに対し死神博士はクリスと倒れている翼の姿を見て指を鳴らす。
「イーッ」
それが合図だったのかクリスの周りに次々と戦闘員が現れる。
「約束破りかよ、さすが悪党だな」
突然現れた戦闘員にクリスは慌てなかった。寧ろ予定通りといった反応でもある。元々、クリスとしても死神博士が約束を守るとは思っていなかった。
「勘違いするな、お前はまだ仕事を果たしていない」
「なんだと?」
臨戦態勢をとろうとしたクリスだが死神博士の言葉が引っ掛かる。周囲を警戒しつつクリスは口を開く。
「『果たしてない』ってどういう事だ?見ての通り二課の所属している装者を倒したんだぞ」
「それでは足りんと言っている。アレを渡してやれ」
「イーッ」
死神博士に何か渡すよう言われた戦闘員はクリスの足元にそれを投げる。それは小刀程度のナイフであった。
「なんだよ、これ」
「それはショッカーが開発した特殊ナイフだ。人間の骨も容易く切り裂く事が出来る、それで風鳴翼の首を切り落とせ!」
「!?」
「何を驚く、最初に言った筈だ。風鳴翼の首を持ち帰れとな」
確かに、出撃前にクリスは死神博士に翼の首を持ち帰れと言われたが、それは比喩的な表現だと思っていた。しかし、死神博士は本気で翼の首を切り落とせと言って来た。
死神博士と地面に刺さるナイフとで交互に見るクリス。心なしかクリスの息遣いが荒れている。
「どうした?これが欲しいのだろ」
そう言って、死神博士はソロモンの杖を取り出してクリスに見せる。それはまるで意地の悪い子供が自慢のオモチャを見せつけるような感じだった。
「ほぉ~れ、ほぉ~れ。ソロモンの杖が欲しいのだろ?風鳴翼の首を持ってくれば約束通りくれてやろう。ショッカーにとってもうこれには大して価値がないからな」
その言葉にクリスは地面に刺さるナイフを手に取り翼の方を見る。翼は倒れたまま微動だにしない。
「…悪いな先輩」
クリスがそう呟くとナイフを死神博士の方に投げつける。そのまま死神博士に刺さるかと思えたナイフは戦闘員が盾となり死神博士は無事だった。
「やはりな」
死神博士が想定通りだという反応をし周囲にいた戦闘員がクリスへと襲い掛かる。
「見ろ、やっぱり失敗したじゃないか」
「アタシが、悪かったよ先輩」
先程まで地面に倒れていた翼が起き上がりクリスの死角から襲い掛かる戦闘員の顎に掌底を当てる。クリスはクリスでアームドギアのボーガンで戦闘員の相手をする。
「やはり死んだふりであったか」
そう言って、死神博士は十体前後のノイズを出す。直後に翼は聖詠を口にしてシンフォギアを纏う。
「今更、ノイズでどうにかなると思うか!?」
翼の言葉に死神博士は、笑みを浮かべる。
「ならば、冥土の土産に面白いものを見せてやる!」
そう言って、死神博士は懐から黒い棒のような物を取り出す。その棒は先端が先細り逆側には黒い宝石のようなものが取り付けられショッカーのエンブレムである鷲のマークが付けられていた。どう見ても普通の杖にしか見えなかったが、
「それが面白い物?ただの杖じゃねえか!」
「杖?…!まさか」
クリスの発言に翼の脳裏に嫌な予感が走る。それは信じたくない光景だ、悪夢の再現になるのかも知れない。
「一人が気付いたか、見るがよい!ショッカーの杖の力を!」
死神博士が杖の先端部分を持ち地面に向けて振る。直後に杖からドス黒いビームのような物が出て地面へと当たる。
「…なんて事だ!」
「…嘘だろ、おい…」
翼とクリスは信じられない物を見る。その杖の黒い光から出てきたのは間違いなくノイズだった。
それも普通のノイズではない、他のノイズより黒く腰にはショッカーのベルトが巻いてある。
「これがただのノイズと思わん事だな!」
死神博士の宣言が終わるとショッカーのベルトを巻いたノイズがソロモンの杖から出たノイズへと取り付く。最初に同士討ちかと思ったクリスたちだったが直に変化が分かった。
ウオッォォォォォォォォォ
「ノイズが怪人になった!?」
ソロモンの杖から出たノイズと黒い杖から出たノイズが合わさり怪人となった。目の前には蜘蛛男やかまきり男にサラセニアンと言った怪人が現れる。
「驚いたかね?これぞソロモンの杖のデータからショッカーが開発した『ショッカーの杖』と『ショッカーノイズ』の力よ!」
「ショッカーノイズだぁ!?」
「どこまでも自己顕示欲が高いな、ショッカー!」
死神博士から、杖とノイズの名を聞いて呆れつつも臨戦態勢を取る翼とクリス。
「それにしても信じられねえ、ソロモンの杖は完全な異端技術の筈なのに…」
ソロモンの杖は完全聖遺物。それを真似たショッカーに恐怖を感じるクリス。翼も口には出さないがショッカーの脅威度が上がったと感じる。急ぎ本部に連絡したい衝動に駆られる。
「フフフ、先史文明期の人間が作れた物を、何故ショッカーが作れないと思った。何よりサンプルがあるのだ」
そう言って、手元にあるソロモンの杖を見せつける死神博士。
ショッカーはソロモンの杖を参考にショッカーの杖を作り出し新たなるノイズ、ショッカーノイズを作り出した。果たして翼とクリスはショッカーの攻勢を止める事が出来るのか?
マリアの発言により世界はショッカーの存在に気付きました。
仮面ライダーの原作でも本当に秘密にする気があるのか疑問の秘密結社ですが(目撃者がいたとはいえ白昼堂々、怪人の姿で街中を探し回ったフクロウ男。山奥にあったとはいえ村人を虐殺していたら滝が来たり仮面ライダーも来たりで最終的に多数の村人が生き残ったユーレイ村。その姿のまま車を運転する戦闘員)殆どの戦力をフロンティアへと向けていた為、マリアの放送を止めれず、フロンティアで作業していたショッカーの部隊もテレビもラジオもつけていなかった為発覚が遅れました。
それでは、また新しい設定でも
「ショッカーの杖」
死神博士がウェル博士から譲渡されたソロモンの杖を解析して作り上げた。
バビロニアの宝物庫ならぬショッカーの宝物庫という次元を作り出しそこでショッカーノイズを作り出す。
一度に10~30体のノイズを呼び出せる。尚、最後まで呼び出すと命令権は喪失し、無差別に人を襲う。量産可能。
「ショッカーノイズ」
死神博士等、ショッカー科学陣がソロモンの杖から呼び出したノイズの解析して作り上げた新しいノイズ。
能力は従来のノイズと違い、人間やノイズ、または別の動植物に結合してショッカーの怪人となる。元に戻す方法は存在しない。ショッカーベルトを巻いている事から人型しか存在しない。
流石の死神博士も位相差障壁の再現には失敗してるがいずれはいずれは位相差障壁を持つ完全なショッカーノイズを作り出す事を目標にしている。
命令権は杖を使った者にあるが、最終的な命令権はショッカー首領が握っている。
現在は、蜘蛛男からエイキングまでの怪人しか作れない。
後に、死神博士はフロンティアの確保に失敗した場合、量産したショッカーの杖をブラックマーケットに流す計画を立てていた。