路地裏。
一人の少女…ヒビキが当てもなく彷徨う。
ヒビキは彷徨い歩いてる途中、何度も足を止めては溜息をついている。
━━━私、あの人たちみたいな事を言っちゃったな…
ヒビキは先程、響に言った言葉を後悔していた。
あの言葉は嘗てヒビキが散々言われた言葉でもあるからだ。
『何で、アンタみたいな得意な事も無い癖に〇〇くんは死んだんだ!!』
『お前が殺したんだろ!!』
『この悪魔!返してよ○○くんを返してよ!!』
嘗て言われた悪意ある言葉を首を左右に振って忘れようとするヒビキ。
しかし、幾ら忘れようとしても忘れる事など出来ない。
ツヴァイウイングの悲劇はそれだけ世間にショックを与えたのだ。
これが、ただノイズに殺されただけならマシだった。しかし、ある雑誌が死者の三分の一がノイズの被害で後の死者は逃げる時のパニックにより発生した事を掲載した事で世間は生き残った者を叩き始めた。
ヒビキもそれの被害者だった。
「…何であんな事言っちゃったんだろ…あの娘の所為じゃない筈なのに。戻ったら謝ろうかな…」
今更ながら響への文句に後悔するヒビキ。
嘗て、自分に言われた呪詛を響に言ってしまった事を悔やんでいる。
「戻って謝った方が良い」頭では理解しているがどうにも寮に戻る気がしなかった。
そうこうしてる内に、ヒビキの頬に何かが当たった。
「冷たっ!…雨?」
頬に付いた水滴が雨と気付くヒビキ。それと同時に空から次々と水が降って来てやがては雨となる。
雨で体が濡れるがヒビキは構わずそのまま路地裏を歩いていく。
「ショッカーの!?」
「大幹部!?」
「地獄大使!?」
丁度その頃、特異災害対策機動部二課指令室では全員が思わず息を飲んだ。
謎の敵勢力とされたショッカーが向こうから通信して来たのだ。これには翼やクリスどころか指令の弦十郎すら予想だにしてなかった。
「ショ…ショッカーの大幹部が俺達に何の用だ?」
『なに、今日はショッカーを代表して挨拶しに来ただけよ。何しろ連日不幸な行違いで戦闘が起こったからなぁ』
「不幸な行き違いだと!?」
弦十郎の質問に地獄大使が笑って答える。
その態度に翼が声を荒げクリスやマリアも睨みつけるようにモニターに映る地獄大使を凝視する。
「ふざけるなぁ!お前達の所為で何人の無関係の人間が死んだと思ってる!!」
地獄大使のあまりの態度にクリスも激怒して声を荒げる。
ショッカーは勘違いとはいえ此方を攻撃した。それだけならばまだいい、クリスが許せないのはその戦いに無関係な人間を巻き込んだこと事だ。
『ムシケラ程度の価値しかない人間など知った事か!!それより、雪音クリス!ワシは特異災害対策機動部二課の司令官と話してるのだ、邪魔をするでない!風鳴弦十郎よ、部下の躾がなってないようだな』
「なっ!?」
地獄大使の答えにクリスは驚く。同時に翼やマリアも目を見開いて地獄大使を見ていた。
人間を堂々とムシケラと呼び悪びれもせず言い訳もしない地獄大使の姿に恐怖を感じたのだ。
特にクリスとマリアは数多くの敵と戦って来た。それでも、人間を此処までムシケラ扱いする者は初めてと言えた。
「彼女たちは俺の部下じゃなく協力者だ!それで終わりか、貴様のような輩の事だ。他に目的があるのだろ!!」
『フフフ…やはり分かるか、まぁいい。ワシ等の目的は協力だ。気付いてると思うが我々はどうも別の世界から来てしまったようでな。無駄な戦闘を避け帰りたいのが本音だ』
「協力だと!?」
「やはり、並行世界から来たのか!?」
地獄大使の言葉に面を食らう弦十郎にクリスたち。
あれだけ攻撃を仕掛けてきておいて堂々と協力を要請する地獄大使の面の皮の厚さに感心すらする。
しかし、地獄大使の言葉をそのまま鵜呑みにする気はない。その理由は地獄大使が先ほど言った「ムシケラ程度の価値しかない人間」と言う言葉だ。
それだけでも地獄大使の危険さが分かった。
『後、シンフォギア装者の立花響を引き渡せ。大人しく我々に協力し立花響を引き渡せばこの世界の人間には今後手を出さないと約束してやる』
「「「「!?」」」」
弦十郎やクリス達に思わぬ情報が入る。ショッカーが立花響を引き渡せと要請してきたのだ。
「何でアイツが!?」
「立花響があなた達になんの関係が!?」
クリスだけでなくマリアも思わず叫ぶ様に言う。
別の世界の勢力であるショッカーが立花響の身柄を要求して来たのだ。聞かずにはいられない。
翼や弦十郎も口には出さないが額に汗を浮かべて地獄大使の返答を待つ。
『そんな事、貴様らが知る必要はない!さあ、答えろ風鳴弦十郎。我々に協力するのか?しないのか?』
流石の地獄大使もそこまで教える気はない。早急に弦十郎にイエスかノーかを付きつける。
「その前に一つ聞かせて貰う。お前達が元の世界に戻り何をしようとしている?」
額に汗を流しつつ弦十郎は地獄大使に聞きたい事を聞いた。それは、元の世界に戻りたがる地獄大使たちが何を目指してるかが気になった。
わざわざ、シンフォギア装者とはいえ立花響という少女を名指しで渡すよう言って来たのだから。
『我らの目的か、良いだろう特別に教えてやろう。我らの目的は世界征服。地球にいる人類を抹殺し世界を我らの物にする!』
「世界征服…」
「人類抹殺…?」
「…要はプリル教会みたいな事か!」
地獄大使の言葉に思わず呟くクリスとマリア。
今の時代に世界征服という言葉自体聞く事になるとは思わず茫然とし、それは翼や弦十郎も同然であった。
ただの誇大妄想と切って捨てるのは簡単だがカミキリキッドの実力にノイズを一から作り出した技術がある以上、放置するのも危険と言える。
そして、クリスは嘗て戦った敵勢力の一つを思い出した。
「決めた、答えは…ノーだ!」
暫しの沈黙の後、弦十郎は声を振り絞り答える。答えはノー、ショッカーの要求を突っぱねたのだ。
その言葉にクリスとマリアの表情も和らぎ翼も心なしかホッとしていた。
『ほう、東京に住まう1000万以上のムシケラ共より小娘一人選ぶか』
尤も、弦十郎の答えを予想してたのか地獄大使は表情一つ変える事はなく言いのける。
「立花響くんは特異災害対策機動部二課の人間ではない、俺達がどうこう言う権利なんて無い!それに貴様たちが約束を守るとは到底思えん!」
「よく言った、オッサン!」
弦十郎の言葉にクリスも喝采するように相槌する。
世界征服を公言する以上、相当の戦力があるかも知れないが、たった一人の少女を生贄にする事など弦十郎には出来ない。何より人間をムシケラ扱いする事も許せない。
ついでに言えば、地獄大使が約束を守るとも到底思えなかった。
『ふむ、断るか。ならば仕方ない、多くのムシケラ共も死ぬことになろう。尤も、貴様たちがそれを見る事が叶わんがな!』
「何だと!?」
「どういう意味だ!」
地獄大使の意味深な発言に翼とクリスが反応する。
『簡単な話だ、其処が貴様たちの墓場ということだ!!』
「キャアアアアアアアアアア!!!」
「あおいさん!?」
突如、指令室に響いた友里あおいの悲鳴にモニターから視線を移すと友里あおいが苦しそうに宙に浮いている。あおいの様子を見る限り透明な何かが首を締め上げてるようだ。
「一体、なにが!?」
「気を付けて、天井に何かいる!!」
誰もが何が起きたのか理解出来ない中、天井から這いずり音が聞こえてくる事に気付いたマリアが皆に呼び掛ける。
しかし、天井には何も居ない様に見える。
「…何も見えないぞ!」
「いや、確かに妙な気配を感じる!」
クリスが何も見えないと訴えるが翼は天井を這いずり回る気配を感じ取った。
弦十郎や別の職員も天井を見る。しかし、何か居るようには見えなかった。が、
「ウウーウクッウクッウクッ!!気付いたようだな、忌々しいシンフォギア装者どもめ~」
突如、不気味な鳴き声と声に一同が驚く。そうこうしてる内にその声の主が姿を見せた。
「は…爬虫類?」
「いきなり姿を現した!?」
弦十郎たちが見た物は、全身が緑がかり胸元が赤っぽい爬虫類特有の目をした男が天井に張り付き口元から伸ばした舌であおいの首を絞めて持ち上げていた。
「化け物!?」
「クリス!翼!敵はもう侵入していたわ!!」
Seilien coffin airget-lamh tron
Killter Ichaival tron
Imyuteus amenohabakiri tron
敵に気付いたマリアが聖詠を歌いシンフォギアを纏う。その声に茫然としていたクリスと翼も聖詠を歌いシンフォギアを纏い、天井に張り付く怪人を睨みつける。
『カメレオン、そいつ等の始末を任せるぞ!!』
そう言い終えると共に地獄大使からの通信が切れモニターが元に戻る。
シンフォギアを纏った翼とマリアが剣を構え職員たちも銃を握って天井に張り付く死神カメレオンに向ける。
「あの…立花さんだよね」
「?…あ、アンタは…」
雨の降る路地裏。傘も差さず当てもなく彷徨っていたヒビキに話しかける者がいた。
その声に反応したヒビキが顔を上げ相手を見る。其処には同じ年の制服を着た少女が居る。
ヒビキはその顔を少しだけ覚えていた。以前に自分と同じクラスだと言っていた少女の片割れだ。
視線を動かすと自分に話しかける少女の後ろにもう一人が傘を差している。
「良かった、元気そう。あの雨の日から風邪ひいてないか心配してたんだよ」
「…そう」
クラスメイトだと言う少女の第一印象は「お節介」だと思うヒビキ。
いくら冷たくあしらっても自分を心配してくる少女はお構いなく自分に声をかけてくる。
ツヴァイウイングの悲劇以来、人付き合いが苦手になったヒビキは学園でも友人を作れてない。そんな自分に話しかける少女はヒビキには有難くもお節介なクラスメイトでもある。
その後、建物の影に移動して雨をやり過ごしつつクラスメイトの少女と少しだけ語り合う。
何時ものヒビキなら「そう…」としか短い単語しか言わない上に「アンタには関係ない」と突っぱねるが、連日の疲労からクラスメイトの少女と少しだけ話したのだ。
尤も、内容は「雨が多いね」の世間話から隣のクラスの女生徒に彼氏が出来たなのど話くらいだ。
それでもヒビキにとって大事な日常でもありちょっとだけ息抜きとなった。
その時、
「あ~君達、ちょっといいかね?」
「はい?」
突然、自分達に呼び掛ける男の声がして振り向く。
其処には黒いサングラスを付けたコートを着た白人男性と思わしき人物と二人の警官が立っている。
「あの…どちら様で…」
「失礼、私はこういうものだ」
少女の問いにサングラスの男は懐から手帳のようなものを見せる。その手帳には、
「FBI!?」
FBIとデカデカと書かれている。この場に居る誰もが本物かと疑うが傍に二人の警官もいることで信じざる追えない。
「実は、ある凶悪犯を追っていてね。君達にも聞きたい事があるんだよ」
「わ…わかりました」
FBIを名乗る男の言葉に納得した少女はもう一人の少女と共に幾つかの質問に答えた後、解放される。本当ならヒビキの質問が終わるまで待っていたかったが、時間も時間だったので二人は返されることに。
ヒビキに話していた少女が後ろ髪を引かれつつその場を後にする。
「次は私ですか…」
「ええ、少し歩きながら話しましょうか」
あれだけ振っていた雨も小降りとなりヒビキのパーカーでも歩くことが出来る事で、FBIを名乗る男と二人の警官と共に路地を歩きつつ質問に答えていく。
それにしてもと、流暢な日本語を喋る外国人だと思うヒビキ。
質問に次々答えていくヒビキだがふと疑問がわく。
「あの…アナタが言う凶悪犯ってのはどんな?」
「ん?そうだな、とある組織を裏切り同胞であり兄弟でもある筈の者達を倒し組織に泥を塗った小娘だ」
━━━誰だろう?
此処の所、テレビも点けてないヒビキには聞いた事もない。全く心当たりも無いから知らないと言ってその場を離れようとした時だった。
「君は知ってるんじゃないかな?
「!?どうして私の名を!…痛ッ!?」
名乗っても居ないのにサングラスの男に名前を言い当てられたヒビキは動揺するが、それも束の間。サングラスの男に触れられた肩に痛みが走り、肩に置かれた手を振り払う。
そして、ヒビキの目は捉えていた。
男の手が緑色になり棘が生えていたのだ。
「その手…アンタ、本当にFBI?」
「FBIか、フフフ…フッハハハハハハハハハハ!キケケケッ、キキキキキッ!!」
サングラスの男は笑いほんの一瞬にして口元は赤く緑色の体になる。
サングラスの男の正体は魔人サボテグロンだったのだ。
「怪人!?」
「その反応、どうやらこの世界の立花響のようだな。まぁいい、ショッカーに逆らう愚か者は全て地上から抹殺する!」
「イーッ!」「イーッ!」
サボテグロンが正体を現すと後ろに居た警官二人も戦闘員へと変わりヒビキに襲い掛かる。
ショッカーによる特異災害対策機動部二課本部とヒビキの同時攻撃。響達は無事に怪人を打倒出来るのか!?
ショッカーが再び動き出す話。
因みに、地獄大使は弦十郎が頷こうが断ろうがどちらでもいいスタンスです。
そもそも、特異災害対策機動部二課に通信を行ったのも自分達が本当に並行世界に来てしまったかの確認も含んでいますから。
地獄大使は設定上、大規模破壊作戦や大量殺戮を好む為、カルマノイズ以上の強敵になりそうです。
サボテグロンの変装は、原作仮面ライダーの滝を欺いたFBIの姿だと思ってください。