改造人間 立花響のシンフォギア   作:一種の信者

94 / 172
85話 イグナイト

 

 

 

「翼たちとの連絡はまだ取れないのか!?」

「長距離、中距離並びあらゆる無線が無力化されてます!」

 

 

死神カメレオンとの戦闘により被害の出た特異災害対策機動部二課本部。およそ一日で復活した機器や新たに補充された人員により運用されてるが翼たちの音信不通により弦十郎たちの焦りの声が木霊する。

 

ノイズからの避難民行方不明事件。前日に起きた失踪事件はショッカーの仕業だと考えた弦十郎がヘリで三人を送ったまでは良かったが、全ての通信網が遮断され翼達との連絡が不可能になったのは予想外であった。

それどころか、装者だけでなく現場に送られた黒服や避難民の護衛をしている自衛隊員とも連絡が不可能になり、ノイズではなくショッカーが関わってると直感する弦十郎。

どちらにせよ、これでは特異災害対策機動部二課は翼達との連絡が取り合えず連携するのは不可能と言える。

 

更には、

 

「指令、都内の商店街で事件が起きました!ノイズの反応はありませんが…おそらく、犠牲者も既に出ているそうです!」

 

警察から特異災害対策機動部二課に商店街での騒ぎの報告が入る。

しかし、商店街に設置されている監視カメラは悉くが破壊され、街中で宙を飛ぶ巨大な針が人を襲うという情報まで飛び交い半ばパニックになっている。

一応、新しく入ったエージェントを送ったが、そのどれもが音信不通となってしまい碌に情報が入って来ない。

 

「商店街にも怪人が現れたというのか…」

 

ショッカーの二方面作戦。人員の乏しい特異災害対策機動部二課には厳しいと言えた。

怪人を相手に出来るのは現状、シンフォギア装者しかいない。

しかし、二課に所属している翼は高速沿いに行き、協力者であるクリスとマリアも同行している。連絡も取れない現状放置せざる得ない。

 

「あの二人が言う、並行世界の俺なら…」

 

最低限の護身しか出来ない弦十郎が悔しそうに拳を机に叩きつける。

二人から聞いた並行世界の弦十郎の力に最初は本当に人間かとドン引きもしたが、それだけの力があればノイズとは違い攻撃の通る怪人なら戦えると言えるが、今は一刻も早く事態を収拾しなければならない。

 

「! 指令!」

「どうした!? 別の場所に怪人でも出たのか!」

「違います! 高速沿いで未知のエネルギー反応を確認!」

「未知のエネルギー!? まさか、ショッカーか!」

 

オペレーターコンビの突然の報告に弦十郎は慌てて聞く。未知の敵組織、今の時代に世界征服を狙うショッカーが何か行動を起こしたのでは。と考えたからだ。

尤も、返事は弦十郎の予想外のものであった。

 

「いえ…これはどちらかと言うとシンフォギアのエネルギーに酷似しています!」

「シンフォギアのだと? 現場はどうなっているんだ…」

 

本部の大型モニターには翼やクリス、マリアのシンフォギアの画像が映し出され赤い光が点滅している。

弦十郎たちは、ただそれを見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イグナイト…? あの二人は何をするつもりなんだ」

 

バスでの掠り傷によりガードレール側に運ばれ様子を見る事しか出来ない翼は、クリスとマリアが何をしてるのか分からなかった。

それでも、あれだけの自信を見せた以上、翼は心無しに二人に期待している。

 

「装者め、何をする気だ?」

「フン、どうせ悪足掻きよ」

 

そしてそれは、海蛇男とドクガンダーも一緒である。通常のシンフォギアでは歯が立たず、エクスドライブするにはフォニックゲインも足りない。まさに絶体絶命と言えた。

だからこそクリスとマリアが何をしようと無駄な足搔きと判断して高みの見物を決め込んだ。

 

 

二人がペンダント状のギアのスイッチを押した直後に宙に舞うとギアが変形し、まるで花が開く如く三方向に吐出した飾りが出ると下部分にレーザーの尖った者が付き出される。

 

「変形した?」

「まさか、あれを武器にするのか?」

 

その光景に少しだけ驚く海蛇男とドクガンダー。報告にもないギアの初めての変形に戸惑ってるのだ。

尤も、それは翼も一緒である。

しかし次の光景に皆が一瞬にして黙る事となる。

 

次の瞬間、吐出したレーザーの様な物を出してるギアがクリスとマリアに接近、その胸元に突き刺さり貫通したのだ。

 

「なっ!?」

 

「自爆しただと!?」

 

翼は息を飲み、海蛇男とドクガンダーはクリスとマリアの自爆と考えた。

その際に黒いモヤが装者の体を覆って苦しそうにしてる様子からも確信できていた。

 

「何をするのかと思えばただの自爆か! 驚かせやがって!」

「何を狙ってたか知らんがそんなに死にたいのなら手伝ってやろう!」

 

海蛇男がそう言った直後に二台のバスが再び動き出しスピードを上げ二人に接近する。謎の自傷行為に少し気になったが勝敗が見えた事で海蛇男はクリスとマリアのトドメをさす気でいた。

 

そのバスは通常の物とは比べ物にならない程のスピードを出し直撃すれば即死すら免れない程の威力と言えた。

翼が気付いた時には遅く、止める間も無く二台の無人バスがクリスとマリアに接触。大爆発を起こす。

バスの燃料にも引火したのか夥しい炎が辺りを燃やす。

 

「いいぞ、燃えろ! 死体の処理も楽になる!」

「…待てぇ」

 

クリスとマリアの居た場所が燃え上がるのを見てはしゃぐドクガンダーだったが、海蛇男が制止する言動をとった。

 

「どうした?」

「何故バスが爆発した。 あのバスは特注で頑丈さに置いては戦車以上だぞ」

 

海蛇男の使っていたバスは、乗せた人間が逃げ出せないよう兎に角、頑丈に作られており、その証拠に先程のクリスの攻撃では傷一つ付かなかった。

そのバスの二台とも爆散するなどあり得ない筈だった。ましてや小娘二人程度轢いた位で…

 

「だからこそバスが爆発するなどありえ…!?」

「何だ!? …!?」

 

そう伝えようとしていた海蛇男の額とドクガンダーの額に凄まじい威力の何かが当たり天井に乗っていたバスから降りた。その一撃は先程クリスが撃った物とは思えない程の威力だ。

 

「一体何が起こった!?」そう考えた海蛇男だったが、炎の燃える音と共に何かが聞こえて来た。

 

「これは…音楽? …!」

「歌の曲だと!?」

 

それは紛れもなく音楽の曲であり、発生源は目の前の炎からだった。

 

 

 

鉛玉の大バーゲン 馬鹿に付けるナンチャラはねえ

ドンパチ感謝祭さあ躍れ ロデオの時間さBaby

 

真の強さとは何か?探し彷徨う

誇ること?契ること?まだ見えず

 

やがては、炎の中から歌が聞こえ、海蛇男やドクガンダーどころか翼の耳にも入る。

 

「二人共、無事か!」

 

「馬鹿なっ! 自爆したのではなかったのか!?」

「あの妙な光りの刃は確実に装者の胸に突き刺さり貫通したのだぞ!?」

 

翼が歓喜の声を上げる中、反対に困惑した声が海蛇男とドクガンダーの口から出る。

確かに見たのだ。あの二人の装者がギアを空中に投げ三つの細長い物を出して変形し下部分からビーム状の棘のような物がでて二人の装者の胸元に突き刺さったのだ。

 

完全な自爆。或いは自傷行為。

 

それが海蛇男たちの判断であり、トドメとしてバスに轢き殺させようとした。

それが、バスが爆発し炎の中から装者の歌が聞こえて来たのだ。 予想外にも程がある。

 

世の中への文句をたれたけりゃ 的ーマトーから卒業しな

神様、仏様、あ・た・し様が「許さねえ」ってんだ

 

想い出の微笑みに問いかけ続けた

まだ残る手の熱を忘れはしない

 

戸惑う海蛇男たちを他所に歌は続き、二人の影が炎から出て来る。

その二人は、周りが燃えていようと構わず歩き、足元の火を踏んで出て来た事で二人の人物が分かる。

 

「二人共、その恰好は!?」

 

「黒いシンフォギアだと!?」

 

その二人は間違いなくクリスとマリアである。ただ、先程とは違い赤かったり白銀だったシンフォギアが黒くなっていた事だ。

炎の煤がついた訳ではない。それは紛れもなく黒いシンフォギアだった。

予想外の姿に焦る海蛇男とドクガンダー。

 

「その姿は何だ!? 答えろシンフォギア装者!」

 

「…やっぱり、お前らはこの状態を知らねえようだな」

「これはシンフォギアの持つ決戦仕様の一つ。 これであなた達を倒せるわ」

 

海蛇男の問いにアッサリ答えるマリア。クリスは逆に怪人達がイグナイトを把握してない事を確信した。

見る事しか出来ない翼も息を飲んでクリスとマリアを見続ける。体から溢れ出す自信に希望も出て来た。

そして、睨み合うクリスと海蛇男。

 

傷ごとエグって 涙を誤魔化して

生きた背中でも(Trust neart)

 

惑い迷い苦しむことで

罪を抉(えぐ)り隠し逃げずに

 

「どうせ、ただのハッタリだろ!! 死ねぇ!!」

 

僅かな静寂を破ったのは海蛇男の横に居たドクガンダーだった。能力で宙を飛びクリスとマリアの頭上をとったドクガンダーは、そのまま手の指先を二人に向けて指からロケット弾を放つ。

避難民たちを襲ったロケット弾の雨が二人に降り注ぎ爆発が何度も起こる。

ドクガンダーのロケット弾によりクリスとマリアの居た場所に幾つもの爆炎が上がり、海蛇男が冷静に状況の判断に移っている。

 

━━━ドクガンダーのロケット弾は確実に装者たちに命中している。 再生されたドクガンダーのロケット弾は更に威力が増しジープどころか戦車もひっくり返す威力だ。 …だと言うのに!

 

支える事 笑い合う事 上手ク出来ルンデスカ?

 

あるがままの自分の声で

勇気を問え決意を撃て

それがわたしの聖剣翳せ!

 

「…なぜまだ歌が聞こえる?」

 

ドクガンダーは再生されるときに強化も行われ元の世界で戦った時より強くなっている。

そのドクガンダーのロケット弾を受けている筈のシンフォギア装者の歌声に全くのブレが無い事に海蛇男に嫌な感じがし、もう暫く様子見に徹する事にする。

それと同時に海蛇男はある違和感を感じていた。

 

━━━? 何だ、ドクガンダーのロケット弾の爆発するタイミングが早い気が……!

 

海蛇男は気付いた。

ドクガンダーの繰り出すロケット弾がクリス達の下へ到達せず手前で爆発している事に。

そして、その原因は、

 

「雪音クリスだと? …いや、あの小娘ならこのような芸当も出来るか!」

 

煙からチラッとガトリング砲とミサイルを撃つクリスの姿が見えた。

黒いシンフォギアの姿となったクリスが両手のガトリング砲と腰のミサイルを出しドクガンダーのロケット弾を全て撃ち落としていたのだ。

爆発する煙で見えなかっただけだ。

 

そして、その事はドクガンダーも気付く。

 

━━━おのれぇ! 生意気な人間風情が! これでは最初に戦った時の再現ではないか!

 

ドクガンダーの脳裏に最初に戦った光景が蘇る。完全聖遺物、「ネフシュタンの鎧」を奪おうとして返り討ちにされた屈辱を。

倒されたが再改造され蘇り強化もされている筈の自分の攻撃が全て撃ち落とされてる事にドクガンダーの思考は完全にクリスに釘付けになる。

何より目の前の雪音クリスは自分と戦った事のある雪音クリスではなく、怪人と戦った事も無い並行世界の住人だ。ならば、負ける筈がない。

故にドクガンダーは気付くのが遅れた。クリスの傍に居たマリアの姿がない事に。

 

━━━ぬっ? もう一匹は何処に…!

 

なれねえ敬語でも どしゃぶる弾丸でも

ブチ込んでやるから(Trus heart)

 

弱くてもいい涙を流してもいいさ

絶対負けない歌それが心にあるのなら

 

マリアがその場に居ない事に気付いたドクガンダーの耳に歌が聞こえる。

一人は、目の前にいるクリスが歌っているがもう一人…マリアの歌が聞こえて来たのは…

 

「上だと!?」

 

宙を飛ぶ自分より更に高い空。そこから歌声が聞こえドクガンダーが上を見上げる。

其処には、左腕のアーマーに接続したアームドギアを大剣のようにし、ブースターで自分に迫るマリアの姿だ。

 

「貴様、何時の間に!?」

 

「遅いっ!」

 

クリスへの攻撃を中止してマリアに腕を向けようとするドクガンダーだったが、それよりも早くマリアの大剣がドクガンダーの胴に当たる。

そして一気にマリアの大剣がドクガンダーの体を通過して地面に着地する。

 

SERE†NADE

 

「ば…馬鹿な…!」

 

何時の間にか自分の頭上をとっていたマリアにも驚くドクガンダーだったが、自身の体を切り裂いた攻撃にも驚く。マリアの攻撃力が想定以上だったのだ。

 

「こいつはオマケだ、持って行け!」

 

先程までドクガンダーとの撃ち合いをしていたクリスが腰からミサイルポッドを出し更には背中から大型ミサイル二機を出しドクガンダーに一斉に撃ち込む。

 

MEGA DETH FUGA

 

「!? あの大きさのミサイルをチャージや絶唱抜きで出しただと!」

 

この攻撃には海蛇男も驚きの声を出す。報告ではあの大きさのミサイルを出すには暫くのチャージか絶唱でも歌はなければ出せないと聞いていたのだ。

 

クリスから撃たれた多数のミサイルは切り裂かれたドクガンダーに命中し爆散する。幾つかの破片が降り注いだ後、晴れた煙の中にはもう誰も居なかった。

 

ドクガンダーは敗れた。

 

 

 

「フフフ…見事と言ってやろう、シンフォギア装者どもよ」

 

「へっ、仲間がやられてて随分と余裕だな!」

「海蛇男、次はアナタの番よ!」

 

仲間である筈のドクガンダーが倒されたのを見た筈の海蛇男は、余裕綽々の態度を見せ、クリスとマリアは臨戦態勢のまま海蛇男と対峙する。

マリアが大剣化した剣を構え、クリスも新しく腰からミサイルポッドと両手にガトリング砲を構えている。

 

「フン…ドクガンダーを倒した程度で調子に乗るなよ!」

 

そんな状態にも関わらず海蛇男が上に手を掲げた。瞬間、

 

「イーッ!」「イーッ!」「イーッ!」

 

「チッ!」

「まだこれだけの手下が!?」

 

クリスとマリアの周りに無数の戦闘員が現れる。数だけならば完全にクリス達を圧倒している。

 

「貴様等の事は報告で知っている、そして弱点もなぁ!! 戦闘員も殺せん甘っちょろい小娘如きがぁ!」

 

海蛇男は、クリスとマリア達が碌に戦闘員を殺せてない情報を得ていた。

理由は不明だが、この世界の翼やクリス、マリアといったシンフォギ装者は戦闘員と戦う時にトドメを刺す事がないと報告で読んだ。

甘いのかどうかは知らないがそれならばチャンスだと考えた海蛇男は十数人の戦闘員たちを繰り出したのだ。殺さないのなら何度でも立ち上がり命令通り戦う戦闘員で消耗させいずれは…と企んだ。

尤も、

 

「「「イーッ!?」」」

 

戦闘員の断末魔と爆発音に海蛇男のプランは崩壊した。

 

クリスの腰から出たミサイルポッドから出た小型ミサイルが多数の戦闘員に撃ち放たれ爆発したのだ。

これには海蛇男も声に出さないが心底驚き、

 

「!?」

「…クリス」

 

翼やマリアもクリスの方を凝視する。

マリアは知っている。雪音クリスがある意味、自分以上に優しい性格だという事を。

その証拠にクリスは口元を押さえ何とか海蛇男たちを睨んでいる。

 

喉元から酸っぱい物を無理矢理抑えたクリスはマリア達の方を見ず独り言のように呟く。

 

「悪いな、マリア。 だけどアタシはアイツ等を許せねえ、アイツ等を放置すれば、またバスの中の惨劇を繰り返す。 …だからアタシが止める! アタシの手は既に血で汚れてんだぁ!!」

 

クリスの脳裏に先程のバスの中の惨劇を思い出す。

バスで逃げようとして乗り込み、飛び込められ毒ガスで殺された避難民を、避難させようとした黒服や自衛隊員を。子供すら手に掛けたショッカーにクリスの怒りは燃えていた。

 

━━━今まで、アタシは色んな奴と戦って来た。 自分勝手な奴、何かを守ろうとした奴、中には外道な奴だって居た。 だがコイツ等はアタシが見て来た奴等の中でもトップクラスに外道だ! 生かしちゃおけねえ!

 

この時、クリスの脳裏に響の言葉が思い浮かぶ。

 

━━━アイツが行っていた通り世界蛇(ウロボロス)みたいな連中だ! なら徹底的に叩いてやる!

 

決意したクリスは両腕のガトリング砲で次々と戦闘員を薙ぎ倒していく。

甘い覚悟では人間にしか見えない戦闘員を殺すのは、どうしても躊躇うがクリスは心を燃やす。

それだけの覚悟をしても僅かに隙が生じたのか、死角から戦闘員が襲い掛かる。

 

「イーッ!」

「! しまっ…」

 

下手に攻撃を喰らえば姿勢が崩れ立て直してる間に戦闘員の波状攻撃が来るかもしれない。

圧倒的数の差はノイズとの戦いで慣れてはいる。しかし、相手はノイズではなく戦闘員と呼ばれる部隊。ノイズとは違う戦法も取るので油断は出来ない。

そして、戦闘員の攻撃を覚悟し目を瞑った。

 

「イーッ!?」

 

しかしクリスの耳には戦闘員の悲鳴と何時までも衝撃が来ない間だった。

瞼を開くと、

 

「…マリア」

 

自分に襲い掛かった戦闘員を切り捨てたマリアの姿が、更には大剣から蛇腹状にして振り回し何体もの戦闘員を薙ぎ払う。

 

「勝手が過ぎるわ! 私達は仲間でしょっ!!」

「で…でも…アタシの手はもう血で…」

 

勝手な行動をしたクリスにマリアが激怒する。その迫力にクリスは縮こまり自らの手が血で汚れていると言う。

尤も、マリアはそんなクリスの手を取った。

 

「血で汚れてるのは私も同じよ。フロンティア事変の時に私はアメリカの追手を傷つけた、アナタだけじゃないの。だから一人で苦しまないで!」

「! …うん。 !」

 

マリアの言葉にクリスの涙腺から涙が零れる。改めて仲間の良さを実感したクリスだったが視界の端に目が行き驚愕した。

 

「おい!見ろ!」

「え?」

 

これにはマリアにも声をかけクリスが視線を誘導する。誘導した先には先程マリアが倒して戦闘員が横たわっていた。だが、

 

「! 溶けてる?」

「…結局、人間じゃないってことか!」

 

倒した戦闘員が緑色の泡を出し消滅していく。この光景にクリス達は戦闘員が人間でないと理解したのだ。

そうと分かればもう遠慮はしないとばかりにクリスの銃弾やマリアの蛇腹状の剣が次々と戦闘員を倒していく。

 

これに一番戸惑ったのは海蛇男だ。

 

━━━どうなっている!? 報告とまるで違うではないか! 何が戦闘員を殺す事が出来ないだ!? それにあの黒いシンフォギアは一体何だ!?

 

海蛇男は知らない。

クリスの目の前で堂々と何人もの人間を殺し子供まで手に掛けたのを見せてキレさせたのを。

イグナイトのデータなど碌に無いショッカーにとってそれは間違いなく脅威となる力。

更に戦闘員を人間と思い手加減していた事を、ショッカーの非道な作戦を目の当たりにしたクリスとマリアが覚悟を決めた事に。

 

「ええい、役立たずどもがぁ!! これならどうだ!」

 

敗れていく戦闘員に業を煮やした海蛇男は残ったバスを動かしクリス達に突貫させる。

猛スピードで動くバスにクリスたちも黙って見てるだけでなく小型ミサイルや蛇腹状の剣で反撃する。

 

「チッ、硬てえ! 当たり所が悪いのかよ!」

「イグナイトでも傷つけるのが精一杯なの!?」

 

先程とは違い、バスに傷が入るがそれだけあり先の二台のバスは当たり所が良かっただけのようだ。

イグナイトの攻撃でも碌に通らず辛うじて避けるクリスとマリア。

 

「それだけで終わると思うなぁ!!」

 

海蛇男の首に巻いている蛇の目が光り二人の視界に向けて放つ。プリズム・アイの力で再びクリスとマリアの視覚を弄り三半規管にダメージを与え、その隙に殺す気でいたのだ。

だが、寸前の所で何とか視線を逸らし光りを見ない事に成功するクリスとマリア。

 

「光さえ見なければぁ!!」

「アイツの能力も意味がねえ!」

 

「確かにその通りだ。 だが何時まで視線を逸らせる? 見る事もせずに俺に勝てるつもりか?」

 

海蛇男の言葉に歯ぎしりするクリスとマリア。

確かにプリズム・アイの光を見なければ三半規管は無事だが、盲目状態で戦える程二人は器用ではない。

クリスなら弾をばら撒いてれば幾つかの攻撃は当たるだろうが、疎らな攻撃で倒せる程海蛇男も甘くはない。目を瞑って戦うのは論外と言える。

 

「クソッ!」

「相手を見ずに倒せる訳が…!」

 

マリアが咄嗟にクリスの体ごと転がる。直後に猛スピードのバスが通過し図体に似合わないドリフトをする。

何とか体勢を立て直して海蛇男のプリズム・アイを視界に入れない様にする。

 

「あの光を何とかしないと…」

「…ようはあの海蛇野郎の出す光りより早く動けば」

「でも、そんな方法どうやって? …!」

 

一つだけ方法を思い出す。嘗て錬金術師と戦った時に披露した合体技を。

マリアの表情で気付いたクリスはゆっくりと首を縦に振る。

 

 

 

 

 

「ん? 何だ?」

 

最早、自分の姿すら見る事の出来なくなったシンフォギア装者を嬲り殺しにしようとしていた海蛇男だったが、マリアがまるでクリス前に立ったのだ。

 

1000の傷ってのは1000を超える

逃げなかった

過去の証─あかし─なんだよな?

戻らない時計があるから

その先にある世界へ

行けるんでしょう?

 

「歌の続き? …違う、これはデュエット曲? 何をしようと貴様らが死ぬことは変わらん!」

 

クリスとマリアのデュエット曲が聞こえるも、始末する為に一台のバスを猛スピードで走らす。

幾ら、歴戦のシンフォギア装者でもこの大きさのバスが猛スピードで直撃すれば一溜まりもない。

それ故に、海蛇男はクリス達のシンフォギアの異変に気付くのが遅れた。

 

誰もが昔を背に戦い進んでゆく

 

クリスの腰のパーツが伸びマリアに直結する。更にクリスの後ろ腰のユニットが広がり変形していく。

 

後悔がない人などいない

その罪握り前を向くことが

 

そして、広がり終えると其処から一気にクリスのブースターが巨大化する。

直後にマリアの大剣が一気に前に伸び機首のようになる。

 

「何だと!?」

 

この時になってやっと海蛇男もクリス達のシンフォギアの変形に気付く声を荒げる。

本来、シンフォギアの装甲は動きやすさ優先か足先や腕の先、肩、胸部、頭部、臀部部分が主で後は丸出しかインナーが主と言える。

偶に変形したり自身より大きいミサイルや大量の小型ミサイルが出るかそれだけだ。

そんな、シンフォギアが二人いるとはいえ、合体し車並みの大きさになったのは海蛇男の予想できる範疇を超えている。

 

「こんな変形聞いてないぞ、どこまでも出鱈目な力だ! だが、元が元だ!所詮は虚仮威し(こけおどし)よ!」

 

「こけおどしかどうか…」

「見せてあげるわ!!」

 

変形が終わると共にエンジンが火を吹き一瞬で赤い光の筋となる。

 

Change †he Future

 

欺瞞(ぎまん)や嘘を穿(うが)つ武器となる

「過去は変わらない

でも未来は変えられる!」

 

海蛇男の目でも捉える事の出来ない赤い光。通り過ぎたバスが縦や横に切り裂かれ爆発し、戦闘員も次々と轢かれていく。

 

「は…早い!」

 

想像以上の速さに海蛇男も何とかプリズム・アイの光を当てようとするがクリス達のスピードに追い付けない。

全てのバスが潰され戦闘員も壊滅状態の海蛇男に最早打つ手はない。

 

そして、赤い光が自分へと迫る。

チャンスと感じた海蛇男がプリズム・アイの光を当てようとするが、凄まじい衝撃と共に体の自由が効かなくなり落ちる感覚が自身を襲う。

 

歌が焼けて

唸─ハウ─る二重奏─デュオリズム─

 

あの一瞬にして、クリス達は海蛇男に体当たりをして、その威力により空中に放り投げたのだ。

そこから更にクリス達は何度も海蛇男に体当たりをしてダメージを与え、体の節々にヒビが入る。

別段、クリス達が海蛇男を嬲り殺しにしようとしてる訳ではない。海蛇男の体がそれだけ硬かったのだ。

 

「おのれぇぇぇ!!」

 

「取り付かれた!?」

 

だが、海蛇男の黙ってやられてる訳ではない。正面からの体当たりに先っぽに捕まる事に成功する。海蛇男の声は完全に今までにない程の怒気が混ざっておりクリスやマリアの背中に冷や汗が流れる。

 

共に重なった消えない痛みに

 

「歌とともに消えてしまえぇぇぇ!!」

 

プリズム・アイの光を出す蛇は既に首から上が千切れており最早出す事は出来ない。だが、人間を丸ごと溶かせるガスはまだ出せる。

海蛇男はその白いガスをクリスとマリアに吹き付けた。

必然的に風上の位置に居る海蛇男の出すガスがマリアとクリスを包み込む。

 

腕を…突き出し…て…ッ!?

…弾丸に…込め…てッ!

 

煙をまともに浴びた二人の歌に異変が起こる。先程より明らかに苦しそうなのだ。

それどころか、自身のシンフォギアやガスを浴びたシンフォギアが溶けてるのを目撃する。幸い、二人が歌い続けて直ぐに回復はしたが、

 

━━━シンフォギアが! まさかアルカノイズみたいな解剖器官が!?

━━━…違う! 純粋に能力だけで溶かしてる!

━━━ある意味、そっちの方が厄介じゃねえか!!

 

海蛇男のガスに更なる驚愕する二人だが時間をかけてはいられない。今はまだシンフォギアのバリアフィールドで守られてるが何時まで持つかは不明だ。

 

クリス達は変形させたシンフォギアのエンジンを更に加速させる。

尖端に捕まる海蛇男を連れとんでもない加速を行ない縦横無尽に飛ばしまくる。

 

その勢いに先端部分が海蛇男の胴体へと刺さり徐々に奥へと減り込んでいく。

それでも、海蛇男は白いガスを吐き続ける。

クリス達が勝つか、海蛇男が勝つのか?それは…

 

「ウルルルルルルル!!」

 

明日に生き吠えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

クリス達の叫びの様な歌。

直後、海蛇男の胴体が真っ二つとなり、クリスとマリアのシンフォギアが通り過ぎる。

直後に、二つの爆発が空中で起きた。

 

その爆発を眺める様に着地するクリスとマリアだが、即座に膝を付いた。

 

「ハア…ハア…ハア…」

「ハア…私達のフォニックゲインが恐ろしい程下がってる。 もう少しあのガスを浴びて居たら…ゾッとするわね」

 

イグナイトを使っても海蛇男とは苦戦した。その事実にクリスはマリアの報告を聞いて「ウヘェ~」と言う顔をする。

 

「どうやら、海蛇男を倒したようだな。 色々聞きたい事はあるが私達の勝利だ」

 

其処へ、マリア達が強制的に休ませていた翼が合流する。だが、翼の言葉に今一の反応をするクリスとマリア。

その先の視線には、

 

「パパ~、ママ~!」

「誰かウチの子を知りませんか!!」

「誰か手を貸してくれぇ! 目が見えないんだ!」

「死ぬなぁ! 誰か医者を呼んでくれ!!」

 

親と逸れた子供に逆に子供と逸れた親、ミサイルの破片が刺さったのか盲目で動けなくなった青年、仲間を必死に介抱するが心拍数が弱くなっていき医者を探している自衛隊員。

全て、ドクガンダーのミサイル攻撃で起きた悲劇だ。

幸い、サイレンの音が近づいておりもう間もなく救出されるだろうと考えるマリアたち。

 

「これが…勝利って言えるのかよ」

「…犠牲を出した時点で私達の負けよ」

「…そうだな」

 

二人の気持ちが分かった翼はそれ以上語る事はなかった。

直後、特異災害対策機動部二課からの通信が届く。

 

 

 

 

 




原作だとガスではなく煙らしいですね。
今回の戦いはマリアはガリィ戦、クリスはカリオストロ戦を参考にしました。
一応、クリスとマリアのイグナイトなら強化怪人とも戦える設定です。

海蛇男が余計な事をしたため、クリスとマリアは覚悟完了しました。


次回は二人の響VSハリネズラスです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。