ドロップはしません、建造でしか艦娘は増えません。
日本海域に深海棲艦が到来。
圧倒的な戦力の前に多くの将が艦娘を率いて
迎撃するも戦況は思わしくなかった。
そんな中、緊迫した状況に新たな一石を投じるべく、
鎮守府に新たに着任した一人の少女、彼女の名は、『天草 麟』
帽子を目深く被り、その表情は読み取りづらい。
しかしそれ以上に目につくのは、彼女の幼さ。
150cmもあるかも疑わしきその小柄な体躯。
だがそれなりの場数を踏んできたような雰囲気も感じられる。
『ここが・・・鎮守府。』
周囲を見渡せば充実した施設が広がる、
整備をするのに十分な広いドック、建造施設も立派なものだ。
『少し・・・重圧を感じてしまうな。』
俯いてつぶやいた言葉はとても小さかった。
(あー親の七光り同然な身分でなんでこんなことに・・・?)
心の声はとても投げやりなものだがその鉄面皮のような顔からは
彼女の本心を伺い知れない。
(ああ、父上よ、あなたはなぜ私にこのような大任を言い渡したのか?)
彼女は、感情を表に出しづらい。
嬉しいと思っても口元が欠片も緩まないし、
悲しいと思っても涙も流さない。
喜怒哀楽、人間にある感情を全く表に出せないのだ。
しかし感情表現を犠牲にしたようなその仕事ぶりは、とても高く評価されている、
彼女は親の七光りと言っているが、そんな事を言うものは一人もいない。
幼い女性の身で鎮守府に着任すると言う異例の事態に反対するものが居ない程だ。
無表情なその顔から彼女を厳しい人間と表するものもいたがそんなことはない。
その欠片も動かない顔と裏腹に心の中は歳相応に非常に饒舌なのだ。
(やるしかないよね、私がやらなきゃ、この厳しい戦況を乗り越えられない。)
そして、心の中は常に目指す志で燃えている。
(でも、私、艦娘とコミュニケーションをとれるのかな?)
その燃える志は少し揺らぎそうだが。
◆
(さて、私が担当する艦娘はどこにいるのかな?)
鎮守府に着任する前に上官から艦娘を一隻建造しておくと言われ、
どんな艦娘とこれから深海棲艦を迎え撃つのか、
楽しみ半分、不安半分の複雑な心境。
「あ、あの!」
『?』
声がした方を振り向けば、一人の少女がいた。
だが身に付いている砲門と魚雷がとんでもなく目立っていたが。
「わ、私、暁型4番艦、電(いなづま)といいます、よろしくお願いします!」
『電・・・?』
「はい、司令官さんの秘書も兼任させていただくのです!」
(な、なんか、可愛い子だな・・・。)
そんなこと考えても少しも表情筋が微動だにしないが。
『そう、電、これから一緒に頑張っていこう?』
「は、はい!」
◆
『さて、まずは建造しようか。』
何においても戦力が足りない、電だけでは厳しいのが現状だ。
「あの、司令官さん、誰が来るのですか?」
『さて、こればかりはわからないからね。』
資材はこちらで提供するが、完成する艦娘は妖精の気まぐれだ。
更に、それに加えてやや時間もかかる。
『待ってる時間は、書類の整理でもしようか。』
「あの、司令官さん、私だけでも、偵察に行ったほうが・・・?」
『駄目。』
今は少ない書類を整理しながら、電からの提案を麟はきっぱりと切り捨てた。
「な、何故です!?」
『海域に出る以上、万が一が常に付き纏う。』
淡々と、しかしはっきりとリスクを告げる。
『その万が一で電が大破、最悪轟沈したら次の娘と足並みが揃わない。』
『電は小回りが利くし、敵の攻撃は基本躱せるけど被弾するリスクが高い。』
「え、私、まだ司令官さんに自分の性能を説明していないのですが?」
『ここに父上から来た電の紹介書類があった。』
「あ、ほんとです!?」
電の基本性能が無駄にならない程度に説明された書類をちらりと見せて納得させる。
『偵察は必要だけど、偵察にも十分な戦力がなければ無駄に消耗するだけ。』
『電はこれから多くの戦いを乗り越えていくし、大きいリスクは避けたい。』
『でも、もう一人が来たら嫌でも出撃するし、準備はしといて。』
「・・・はいなのです!」
『ん、良い返事。』
相変わらず淡々としているが、電を心配しているのは確かだ。
【私みたいに小さいのに、すごい大人びているのです、私も頑張らないと!】
提督の知らないところで決意を新たにした電だった。
◆
建造が終了した報が入り工廠に向かうと、電とよく似た少女がいた。
「どうもー司令官、私は暁型3番艦、雷(いかずち)よ!」
(元気のいい子だなぁ、電と姉妹艦だっけ?)
『うん、よろしく、雷、提督の天草麟よ、こっちは秘書艦の電。』
「よろしくなのです、雷ちゃん。」
「はい、よろしく、頼りにしてね!」
駆逐艦2隻、戦力は少ないが偵察には十分だ。
(でも幸い資材には余裕があるし、多めに渡して次の艦娘を作ってもらおう。)
資材を妖精に渡し、建造に取り掛かるのを見届けると、二人に向き直る。
『さて、出撃の準備はいい?』
「電はいつでも準備万端です!」
「大丈夫よ司令官、私に任せなさい!」
『よし、これから海域に入るよ・・・!』
出撃の準備を整えて、麟たちは鎮守府正面海域へと向かった。
◆
結果として偵察としては成功であった。
鎮守府正面海域に出て早くも駆逐艦型深海棲艦と接敵。
『性能としては低いほうだけど、油断しないで。』
「了解なのです!電、魚雷発射します!」
「任せて、さあ行くわよ!雷、目標を蹴散らすわ!」
深海棲艦としては弱い方であり、雷と電の連携で被弾無しで撃破。
『・・・撤退ね、引き上げるわ。』
「え、もう撤退ですか!?」
「ちょっと、まだ被弾もしてないわよ!?」
『あれを見て、あそこの深海棲艦、軽巡型で更に駆逐型を数隻率いているわ。』
「はわわ、あれは少し怖いのです・・・。」
「・・・うわぁ、数でも負けてるわね。」
順調だった偵察だが、続いて確認された軽巡型深海棲艦は駆逐型を率いており
我が艦隊は数でも劣り、敵艦隊を刺激しないように撤退を図る。
『幸いというべきか、こっちに気づいていないわ、急いで撤退するわよ。』
こちらに気づいていなかったのか戦闘もなく撤退を出来た。
「ねえ、司令官、少しでも敵の戦力を削ったほうがいいんじゃない?」
撤退をする中、疑問に思った雷が麟に問いかける。
『それはそうなんだけど、それだと間違いなくこっちの被害が大きいわ。』
『敵艦隊はこちらを上回り、戦力としても練度としても勝ち目がないわ。』
『それに、電や雷が損傷するのは、こちらとしてもなるべく避けたいの。』
「え、なぜです?」
『疲労や被弾は仕方ないにしても態々当たりに行ったりする必要もないわ。』
「でも、それだと、ちょっと作戦遂行が遅れるんじゃない?」
『そうだね、でも資材だって無限じゃないし、被弾すれば痛いでしょ?』
「はい、被弾したらまともに戦えないのです・・・。」
「うん、確かに痛いし、無駄に被弾して資材を無駄遣いする必要もないわね。」
『だから正直に言うとね・・・電と雷が無事でよかったよ。』
「え?」
「ん?」
無表情な麟の顔には出てないが、本当の心境はホッとしていた。
(今回は本当に海域を覚えるだけのつもりだったし、
電にも雷にも無理してほしくなかったんだけど・・・。)
作戦遂行上、艦娘を頼らざるをえないが、将の中には艦娘を捨て艦のように扱うものがいる。
麟にとっては艦娘は一人の女性のようにしか見えず、無理はしてほしくないのが本心だ。
「司令官さんはやさしいですね。」
「そうね、無表情みたいな顔してるけど、司令官は信用できるわ。」
『・・・あまり褒めないで、慣れてないの。』
そう言って顔を背けると、少し、ほんの少しだが麟の顔が赤面していた。
それを見た電と雷はなんだか司令官が可愛く見えた。
『まあ、偵察お疲れ様、補給と休憩をとったらまた作戦を伝えるね。』
「はいなのです!」
「わかったわ次に備えて、しっかりと準備しておくわね。」
こうして麟の艦隊の初陣は終了した。
◆
新しい戦力である艦娘は明日まで建造がかかるため
今日の戦闘は終了、補給を済ませて報告書も作成した。
その夜、あてがわれた部屋で電達は今日のことをそれぞれ振り返っていた。
:電の場合:
「司令官さん、不思議な人だけど、とても優しい人なのです。」
電は重い装備を外して思い出す、麟という優しい提督を。
「最初見た時は怖い人と思いましたが、そんなことはないです。」
麟が顔を逸らして赤面していたあの時を思い、不意に頬が緩む。
【あの司令官さんのためなら、頑張っても、いいかな・・・。】
過保護にも見えるが、あの不器用な優しさは、電は嫌いではなかった。
「うん、明日のためにも、今日は寝ましょう!」
明日も提督のために頑張れるように、電はいつもよりも早めに寝た。
:雷の場合:
「んー不思議な人ね、あの司令官は。」
寝る準備を整えながら雷は思い浮かべる。
電や自分が傷ついてもいないのに撤退した不思議な提督を。
「まあ、心配してくれるのは、悪い気はしないわね。」
最初こそ印象は暗く感じたが、偵察の時になんとなく
麟という人間像を理解できた気がする。
「少し過保護にも感じるけど、それを嬉しく思うなんてね。」
【でも、人のこと言えないけど、あんな小さいのに頑張っているわね。】
自分とあまり変わらないその幼い身に釣り合わない戦略眼。
そうかと思えば、照れたときのその顔は歳相応のものだった。
「よーし決めた、あの子の負担を減らせるように一肌脱ぎましょうか!」
あの司令官の笑った顔が見てみたいと思う、そのためにも私も頑張ろう。
雷は寝る前に今日会った優しい提督のために頑張りたくて早めに就寝した。
(ふぅーなんとか今日を乗り越えられた。)
寝室にて大の字で寝転がりながらも作戦はうまく言った達成感で
嬉しい気持ちがあるのは確かだ。
(電と雷・・・か。)
目をそっと閉じで今日を振り返る。
電とあった時、雷とあった時、提督となって初めての海戦。
(でも艦娘たちってすごいなぁ、自分よりもあんなに重い装備を付けられるなんて。)
(たはは、こんな小さい身には、背負いきれないかもね。)
自分の手のひらを見て思う、戦いを指示したことはあるが。
実際に戦争で敵を自分で倒したことはないのだ。
だからこそ、艦娘たちを凄く思う傍ら、自分にはもったいない
程の部下じゃないかと、これからの作戦に身を震わせる。
『・・・・いや、震えてちゃ駄目だね、私も頑張ろう。』
目下の目標としては、まず鎮守府正面海域を完全に制圧すること。
次に戦力不足を補うための造船。
「資材は多めに渡したし、明日が楽しみだよ。」
そして天草麟の意識は睡魔に刈り取られていったのだった。
鎮守府に着任した新たな提督、彼女が歩み進む道はどのようなものなのか。
艦娘は増えもしますが最終的に艦娘が次々と依存します。
しかも提督は全く知らない状態で、です。