ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版)   作:軍曹

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お久しぶりです。軍曹です。

この度投稿を再開することにしました。
以前の執筆能力では書けなかった描写を書いていけるよう頑張っていきます。
とりあえず一ヶ月に一話程度の投稿ペースが目標です。

※注意 この作品は以前投稿していた作品との連続性はありません。なんか見たことがあるような名字の人物が出てきたりするかもしれませんが、別人です。


プロローグ「交わる二つの世界」

 ―――あの日、世界は大きく変わった。

 

 相模湾沖に突如出現した異世界への扉(ゲート)。その先に広がっていたのはこの世界とよく似た、しかし“魔法”という決定的に異なる存在により異なる歴史を歩んだ世界。

 

 人々は驚き、そして歓喜した。偶然とはいえ、全く異なる異世界との交流する機会を得たのだ。ましてや魔法という、人類が空想しつつも、現代の物理学的にあり得ない存在として否定されたものが存在しているのだ。

 

 ―――世界は大きく変わると、テレビに出ていた、どこかの偉い教授は断言した。そして、その予言は、確かに現実となった。

 

 ゲートが出現してから十年後、西暦2022年。

 

 世界は、大きく変わっていた―――

 

 

 

 

 

 海上自衛隊厚木基地―――

 

 旧日本軍によって作られ、現在は在日米軍と海上自衛隊の共同で使われている軍事基地。長年海上自衛隊は、主に洋上の監視、潜水艦の探知を行う哨戒機部隊の運用を行っていたが、近年新たな部隊が設立され、日々来たるべき有事に備えて訓練に励んでいる。

 

「ああ、なるほどなぁ」

 

「どうかしたんですか?」

 

 厚木基地の一角、海上自衛隊第九〇一飛行隊の隊員達が業務を行う一室で、北条若葉三等海佐は報告書に目を通していた浦瀬直人二等海佐に尋ねた。

 

「ほら、この前太平洋上に現れた、300メートル級大型ネウロイとの戦闘報告書。空自から回って来たんだよ」

 

「たしか、F-2の対艦攻撃で撃破した時のですよね」

 

「そう。二機のF-2が四発の対艦ミサイルで仕留めた奴」

 

「最新鋭のASM-3を使っていたらしいですけど・・・一体どうやって?」

 

 席を立ち、隊長の証である窓際の席に座る直人に近づいて、報告書に目を落とす若葉。女性特有の柔らかい匂いが彼の鼻孔をくすぐるが、彼女はそれに気付いていない。

 

「―――なるほど。魔眼持ちのウィッチにスポット役をやらせてコアの位置をマーク、その情報をミサイルに送って誘導したと。確かにあれの貫通力は相当なものですし、的確にコアの位置を狙えれば撃破は可能ですね」

 

「とはいっても、四発中二発は途中で迎撃されているし、そもそもこの作戦は魔眼持ちのウィッチがいないと成り立たない。残念だけど、うち(海自)では参考にならないね」

 

 若葉が体を起こして離れたことで匂いがしなくなり、ほっと安心した直人が気恥ずかしさを堪え、そう呟く。

 

「魔眼持ちも貴重ですからね。空自でも二人しかいませんし」

 

「現在訓練中の新人ウィッチにも該当なし。もしかしたら固有魔法がない子が接触魔眼持ちだって可能性はあるけど。期待薄かな」

 

「そもそも接触魔眼は危険すぎて、現在では使用禁止命令が出ている固有魔法ですから」

 

「まあね。危ない橋は渡らないのが一番だ」

 

 直人はそう言うと、大きく伸びをして窓の外に目を向ける。視線の先にはグラウンドがあり、そこでは二人の少女が走っていた。

 

「―――ようやく四人か」

 

その光景を眺めながら、ポツリと呟く。

 

「といっても、私は出向中の身ですけどね。ただ、これで最低限部隊としての体裁は整ったと思います」

 

「空自も去年からアラート任務に就いているし、取り敢えず国内の防衛体制はひと段落。となると次は我々の番か」

 

「そうなりますね」

 

 二人は小さくため息をつき、机の上にある一枚の書類に目を移す。そこには「機械化航空歩兵隊海外派遣計画」と書かれていた。

 

 

 

 

 

 海上自衛隊第九〇一飛行隊―――

 

 五年前に厚木基地で発足されたそれは、魔法力を持つ少女―――ウィッチが所属する部隊である。

 

正式名称、機械化航空歩兵。

 

鋼鉄の箒、ストライカーユニットを履いて空を飛び、ネウロイという異形の存在から人々を守る彼女達は、十年前、相模湾沖に突如発生した異世界への扉(ゲート)をきっかけに、この世界でも確認されるようになった存在なのだ。

 

 その部隊に所属して三年目になる有村郁二等海尉は、濃紺色の作業服姿でグラウンドをただひたすらに走っている。

 

 走る。走る。走る。

 

 空を飛ぶことがウィッチの仕事であるが、ただ飛ぶだけでは体力はつかない。どんなに技量が上がっても、最終的には体力がものをいう。だから彼女は時間さえあれば走っているのだ。

 

「あ、有村さん・・・ちょっと待って・・・」

 

 そんな彼女を追いかけるように走っているのは、今年配属されたばかりの新人ウィッチ、木佐貫智代三等海尉。息も絶え絶えながら、なんとかついてきている。

 

「はっ、はっ、はっ・・・ふう。少し休もうか」

 

「よ、良かった。流石にきつい・・・」

 

 郁が立ち止まって息を整えているとようやく智代も追いつき、荒い息を吐きながら仰向けに寝転がった。

 

「ウィッチは技量も必要だけど、まずは体力が必要だから」

 

「確かに・・・教官もそう言っていたけど・・・」

 

「智代はまだ新人だけど、戦場ではそんなのは関係ない。生き残るためにはもっと訓練する必要があるね」

 

「うぅ・・・お、鬼だ・・・」

 

 感情に乏しい表情でそう告げる郁に、智代はそう弱音を吐く。しかし彼女もわかっている。自身がまだまだひよっこであり、ネウロイとの戦闘になった場合、足手まといになることを。訓練生時代には良いウィッチになると教官に言われたが、それはあくまで訓練を続ければの話なのだ。

 

「―――体力は一朝一夕でつくものじゃないし、日々の継続が大事。今日はここまでにしようか」

 

「は、はーい・・・」

 

 郁は仰向けに倒れる智代から一旦離れ、近くの自販機でスポーツドリンクを買う。

 

「はい、これ」

 

「あ、ありがとう、有村さん!」

 

「ん」

 

 手渡したドリンクを嬉しそうに飲む智代の横顔を眺めながら、郁は隣に座って同じようにドリンクを飲んだ。

 

「―――ぷはぁっ! 生き返ったぁ!」

 

 智代はドリンクを一気に飲み干すと、空を見上げる。5月の空は雲ひとつない快晴だった。

 

「あー、飛行訓練したいなぁ」

 

「昨日飛行訓練したばかりだよ。毎日飛ぶと燃料代がかかる」

 

「でも、こんな快晴なんだよ! 有村さんも飛びたいでしょ!」

 

「・・・うん」

 

 郁も空を見上げる。あまり感情を表に出すことがない彼女だが、空を飛びたいという気持ちは人一倍強い。

 

(お父さんも、あんな空を飛んでいたのかな―――)

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、写真でしか知らない父親の顔。パイロットスーツに身を包み、愛機の前で笑みを浮かべている彼は、既にこの世にいない。十年前に起きた“小松事件”で、ネウロイと相打ちになった。

 

 郁がウィッチになった切っ掛けは、父親の飛んでいた空を見たかったから。同じ景色を見ることが、父親との繋がりになると思ったからだ。

 

だが、空の景色は一つとして同じではなく、場所場所によってもその性格を変える。ウィッチとして空を飛び、そのことに気付いた彼女は、父親と同じ航空自衛隊ではなく、海上自衛隊の道を選んだのだった。

 

「空、飛びたいな・・・」

 

「本当、思いっきり飛びたいっ!」

 

 郁の呟きに、知代は腕を組みながら、全力で頷いた。

 

「有村二尉、木佐貫三尉」

 

 若い男性自衛官が二人の名前を呼び、敬礼する。彼女達が使用するストライカーユニットの整備員だ。二人は立ち上がり、敬礼し返す。

 

「班長がお二人をお呼びです。すぐに来てくださいとのことでした」

 

「分かりました。すぐに向かいます」

 

「調整が終わったのかな?」

 

 そのまま男性隊員の後をついて行き、格納庫へと向かう。元々大型の哨戒機を格納する場所だったそこは、第九〇一飛行隊専用の格納庫へと変貌し、全長二メートル近いストライカーユニット―――84式艦上戦闘脚「蒼莱」が横一列に並んでいた。

 

 84式艦上戦闘脚「蒼莱」は扶桑皇国海軍の()国産艦上戦闘脚で、元々はリベリオン合衆国で開発された艦上戦闘脚F-14A「トムキャット」である。当時、扶桑海軍は完全国産の艦上戦闘脚を開発していたのだが、無茶な要求により頓挫してしまい急遽導入されたのが本機である。しかし意地と拘りがあったのか、電装系やエンジンの換装のみならず機体フレームにまで手を加えるという暴挙に及び、メーカーから「これはF-14ではない」と呆れられられた曰く付きの機体なのだ。

 

 幸い改造内容による不具合はほとんどなく、むしろF-14の弱点だったエンジン推力不足や機動制限の低さが大幅に緩和されて一時は“最強のF-14”と呼ばれるようになったが、現在は「蒼莱」でのデータをフィードバックしたF-14Dが登場しており、最強の座からは退いている。それでも優秀な機動性からくる格闘戦闘能力の高さと、爆弾や対艦ミサイルを搭載出来るという万能さから、現在でも一級線で活躍する優秀なストライカーユニットである。

 

 懸架装置に固定されたそのユニットのうちの二つに群がり、調整を行っている整備員達。その光景を眺めていた初老の男性が、格納庫にやって来た郁達の存在に気付いた。

 

「おお、来たか」

 

「どうも、班長」

 

「調整が終わったんですか?」

 

「ああ。有村の方は右エンジンの出力が僅かに高かったから、調整して同期を取れるようにした。ちょっとエンジンを吹かしてみてくれ」

 

「分かりました」

 

「私の方は?」

 

「お前さんのは舵の具合だろ? まあ動作確認にはなるか。履いて確かめてみろ」

 

「はーい!」

 

 昨日の訓練飛行で気になった点の調整が終わったということで、二人は「蒼莱」を履くべくズボンを脱ごうとして―――

 

「・・・あの、班長」

 

「うん? ―――ああ、悪い。見られていたら恥ずかしいんだったな」

 

 その動きを特に気にせず眺めていた班長は、後ろ頭をかきながら後ろを向く。周囲の整備員達も、顔を赤くしてそっぽを向いた者もいれば、首を傾げながら顔を背ける者もいた。

 

 扶桑―――否、”向こう側”と”こちら側”には、文化において決定的な違いがある。

 

それは、女性のズボンに対する認識。

 

“こちら側”でいう女性下着に相当する“パンツ”が、”向こう側”では“ズボン”に該当するのだ。

 

 有史以来当たり前の事として認識され、若い女性特有のファッションとなっている”向こう側”。ストライカーユニットもこの文化を元に作られたため、”こちら側”でいうズボンを履いていると装着出来ないのだ。

 

 この問題は非常に大きく、”こちら側”では何とかできないかと試行錯誤を続けているものの、未だその解決策は見つかっていない。そもそも魔法力に詳しい技術者がおらず、”向こう側”から受け入れた技術者にとってみればよく分からない要望であり、構造的に不可能とされているのが現状である。

 

 海上自衛隊のウィッチ隊はゲートを挟んだ隣の国、扶桑皇国海軍をベースにしているため、服務規程もそれに準じている。洋上での活動が多いことから、落下しても問題ないようにインナーとして水上用制服―――要するに紺色のスクール水着の着用が義務付けられているが、それ以外は第一種制服でも作業服でも問題なく、郁の場合は上にワイシャツの第三種制服、下にはスパッツを履いていた。

 

最も、この格好はあくまでストライカーユニット装着時のものであり、普段は上に合わせたズボン(”こちら側”基準)を履いているが。

 

「有村さんも、まだ慣れていないんだね」

 

 人前でズボンを脱ぐという行為に恥ずかしさを感じる郁に対し、智代は全く気にした様子はなく、ワイシャツの裾から水上用制服が当たり前のように見えている。彼女は元々扶桑皇国出身で、父親の仕事の都合で来日、そのまま帰化した扶桑系日本人なので、彼女の価値観は”向こう側”が基準となっている。

 

「流石にこれは慣れないかな・・・」

 

「ふーん・・・」

 

「こればっかりは文化の違いだからな。納得出来なくても理解はしてやれ」

 

 不思議そうな表情を浮かべる智代に、班長はそう優しく諭した。

 

 ズボンを脱いでスパッツ姿になった郁は、そそくさと「蒼莱」に足を滑らせる。体がほのかに青白く光ると同時に、彼女の頭とお尻から鳥の羽根が生えてくる。それはウィッチが魔法力を使用する際に現れる使い魔の姿で、それは日本でも見かける猛禽類のハヤブサだった。

 

 魔法力を込め、魔導エンジンを始動する。内部のファンが回り始め、やがて高速回転を始めると格納庫内にジェットエンジン特有の甲高い音が響き渡る。

 

「左右回転数同調―――問題なさそうですね」

 

「よし、じゃあこっちは解決したということで―――木佐貫、そっちはどうだ?」

 

「はいはーい。ちょっと待って下さーい」

 

 郁がエンジンを止めるのと入れ替わるように、使い魔であるフソウヤマネの耳と尻尾を生やして自身のユニットを起動する智代。彼女の場合は舵の動きを確認するだけなので、あまりエンジンを回さない。

 

「うーん、特に問題はなさそう」

 

「全舵、正常に動作しています」

 

「そうか。なら次の飛行の時はこのセッティングで行こう」

 

 報告を受けた班長は、満足そうにうなずいた。

 

「お、やってますね」

 

「あ、隊長だ」

 

 二人がユニットから足を抜いたことでエンジン音がしなくなった格納庫に、直人がやってきた。彼の後ろには若葉の姿もある。

 

「おや、浦瀬隊長。視察ですかな?」

 

「書類仕事が大変なので、ちょっと息抜きにね」

 

 班長の冗談に肩をすくめてそう答えた直人は、自身のユニットに視線を向ける。青を基調とした洋上迷彩が施されたそれを、彼は嬉しそうに眺める。

 

「やっぱり、F-14はいいねぇ」

 

「可動部が多すぎて整備に手間がかかる厄介な代物ですがね。“こっち側”のF-14はコスト高を理由に、十年以上前に退役していたんだったか? “向こう側”じゃあ後二十年は主力を張るって話だが・・・」

 

「ソ連の崩壊で冷戦が終わり、軍事力に予算を回さなくて済むようになりましたからねぇ。性能自体は優秀だったんですけど、後発機に比べて運用コストがべらぼうで」

 

「予算が最大の敵っていうのは、どの世界でも同じか」

 

 班長は皮肉げに笑った。

 

「不思議ですよね。魔法力の有無という明確な差があったにもかかわらず、二つの世界の大まかな歴史や開発したものは同じまたは非常によく似ている―――まるで無理やり合わせたかのように」

 

「“向こう側”にも戦闘機型のF-14があるもんな。開発時期は異なるけど」

 

「こっちは二○二二年、向こうは二○○二年・・・西暦の成り立ちが異なるから参考にはならんが、概ね二十年の技術差は変わらないし、考えれば考えるほど謎が増えていくな」

 

 若葉も会話に加わり、三人の話題はどんどん難しくなっていく。流石にこれ以上は話がわけのわからない方向に進みそうだったので、直人が無理やり話を収めた。

 

「―――まあ。考えてもわからないものはしょうがない。そういうもんだって受け入れるしかないですね」

 

「“ズボン”みたいにな」

 

「・・・そこはノーコメントで」

 

 女性もいる中で発言するのは危険と判断した彼は、黙秘を決めた。

 

「隊長! ユニットの調整が終わったから、飛びたいです!」

 

 何やら難しい話をしていたためずっと黙っていた智代が、手を挙げる。

 

「ん? そうだな・・・いや、今から飛んだら終業時間を過ぎるし、明日にしてくれ」

 

「えー? 別に少しくらい遅くなってもいいじゃないですか」

 

「君達の勤務時間は法律で決められて、理由もなしに残業されると俺が罰則を受けるの。明日の朝一番に飛べるよう申請を出しておくから、今日は我慢しなさい」

 

「明日の朝一番ですね! 絶対ですよ!」

 

「隊長、私も飛びたいです」

 

「わかったわかった。二人分申請出すから」

 

 智代だけでなく郁からも迫られ、押し切られた直人はため息をつく。郁は一見分かりづらいが、二人共嬉しそうな表情を浮かべているのを見て、彼は呟く。

 

「君達、本当に空を飛ぶのが好きだねぇ」

 

「私達はウィッチですからね。空が好きだから、ここにいるんです」

 

 それ聞いていた若葉は微笑み、彼に尋ねる。

 

「浦瀬二佐も好きだから、ここにいるんですよね?」

 

「そりゃあまあ、な」

 

 彼女の問いに、直人は気恥ずかしさを覚えながらも頷いた。

 

 

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