ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版)   作:軍曹

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第八話「近接戦闘訓練」

 休暇が終わり、厚木基地へと戻ってきた九〇一空の面々。

 

 書類や課題をこなしつつ訓練を行うのは今までと何ら変わらないが、訓練内容に関して少しばかり変化が起こっていた。

 

「二百三十四! 二百三十五! 二百三十六!―――」

 

「もっと声を出して!」

 

「はいっ! 二百三十八! 二百三十九!―――」

 

「いやー、有村さんもよくついて行けるね」

 

 ランニングを終えて小休止中の智代は、スポーツドリンク片手にそう呟く。彼女の視線の先には本物の刀で素振りする郁と直人の姿がある。少し離れた場所には二人を眺めているアメリカ軍兵士の姿もあり、しきりに「サムライ」と連呼していた。

 

「確かに郁の固有魔法は近接格闘戦との相性はいいけど、本当に始めるとは・・・」

 

「まあ、実際直人さんは戦果を挙げていますし、弾切れの心配が無いですからね」

 

 同じように走っていたアリスは呆れた様子で、若葉も苦笑を浮かべている。有用性は理解しているものの、現代の空戦で刀を使用するのは時代錯誤だと感じているからだ。

 

「たしか、扶桑でもまともに近接格闘戦が出来るウィッチって、少ないんですよね?」

 

「ええ。戦場に持っていくウィッチはそれなりにいますけど、あくまで非常時の“お守り”として持っているだけで、実戦で扱えるのは十人もいないはずですよ」

 

 智代の質問に、若葉がそう答える。機械化航空歩兵の近接格闘戦は、昔から扶桑のウィッチの十八番として知られ、半世紀以上前の第二次ネウロイ大戦では刀や槍を駆使して大型ネウロイを撃破するウィッチが少なからず存在していた。

 

 小型ネウロイはおろか、大型ネウロイですら一撃で撃破しうる打撃力は魅力的で、多くのウィッチが憧れた近接格闘戦だが、当時ですら複雑かつ高速で行う三次元戦闘で接近戦を行うのは非常に危険極まりなく、とっさの判断ミスによる衝突のリスクが高いと上層部から可能な限り近接格闘戦を行わないようにと勧告を受けていたほど。

 

 ましてや現代は著しく速度が向上して危険性がさらに跳ね上がっただけでなく、ミサイル等新しい兵器の登場やFCS(射撃管制装置)の性能向上で、遠距離から効率的に火力を叩き込めるようになった時代。刀剣による近接格闘戦が必要となる場面は殆どなくなってしまったのだ。

 

「刀による近接格闘戦なら確かに弾切れの心配をせず戦闘を続けられますけど、使いこなすには相当訓練を積まないといけませんし、その時間で射撃訓練を行った方がいいと私は思うんですけどね」

 

 近接格闘戦は弾切れにならないものの、使いこなすまでには相当な訓練が必要で、なおかつ戦闘では相手に接近しなければならず衝突のリスクも高いと、メリットに対してデメリットが多い。若葉からしてみれば近接格闘戦は時代錯誤な戦い方なのだ。

 

 ―――正直言うと、彼女はこれからその道を進もうとする郁は無論のこと、既に多くの戦果を挙げている直人や洋子にも、近接格闘戦をやめて欲しいと思っている。直人にはまだ“未来予知”があるが洋子は固有魔法すらなく、完全に己の技術だけで戦っているのだ。わざわざ危険な戦い方をして欲しくないと思うのは当然のことだろう。

 

「そうは言われても、あの時のようなことは二度と御免だからなぁ」

 

「あ、隊長」

 

 いつの間にか素振りを終えた直人達が戻ってきた。荒い息を上げる郁とは対照的に涼しい顔の直人は話を聞いていたらしく、タオルで汗を拭きながら口を開く。

 

「八年前の北米紛争で殿を務めた時、撤退する仲間からありったけの弾薬を貰ったにもかかわらず、途中で尽きてな。幸い、渡された銃に銃剣がついていたから何とか戦えたからよかったものの、あの時ほど近接格闘訓練をしていればと思ったことはなかったよ」

 

 当時は刀を持っておらず、近接戦闘訓練など行ったこともなかった直人だったが、弾切れによって残された武器が銃剣しかなくなった以上、それで戦うしか方法はなく、“未来予知”を駆使しつつ、銃剣付きの89式小銃を振り回して何とか生き残ったのだ。

 

「あの時は刀を持っていなかったんですか。それじゃあ隊長はいつ―――」

 

「ああ、それは九〇一空発足前、扶桑に一年間留学していた時さ」

 

 質問をしてきた郁に、直人はそう答える。。

 

 北米紛争終結後、英雄に祭り上げられてしまった直人は将来の海自を担う人材と上層部から認識されたことで幹部候補生学校(江田島)に放り込まれ、一年間の教育と半年間の遠洋航海を行ったのち、機械化航空歩兵部隊を運用するための知識を得るため、約一年間“向こう側”の扶桑皇国に留学していた。その際に偶然出会った元ウィッチという老婆から刀による近接格闘戦の基礎を学んだのだ。

 

「本人曰く、第二次ネウロイ大戦でそこそこ(・・・・)活躍したウィッチで、多くのネウロイを近接格闘戦で屠ってきたらしいよ。実際刀を持った時の動きはご老体とは思えないほどキビキビしていたし」

 

「刀使いのウィッチとは、相当優秀な方ですね」

 

「もしかしたら有名な方なんじゃないかと思って調べてみたんだけど、そもそも結婚して名字が変わったみたいだし、余計な検索かなってそれ以上は調べていないから、現役時代の活躍は知らないけどね」

 

 そう言うと直人は当時の稽古を思い出したのか、苦笑を浮かべる。

 

「師匠の稽古って、一応理論的ではあるんだけど、結構精神論的なところも多くてね。とりあえず体力作りだということで延々と走らされたり、素振りをしたり―――絶対無理だろっていう課題も“ウィッチに不可能はない!”って言ってやらせようとするし・・・まあ実際出来たんだけどさ」

 

「それはなんとも・・・」

 

 一昔前の部活動を思わせる内容に、一同は苦笑いを浮かべた。

 

「―――まあ、流石に師匠の稽古まではやらないけど、近接格闘戦を行う以上、郁には厳しい訓練をしてもらうからな。覚悟はしておけよ」

 

「わかりました!」

 

 郁は胸元で刀をしっかり抱えながら、大きく頷いた。

 

 

 

 

 

「つ、疲れた・・・」

 

「お疲れ、郁」

 

「隊長の扱き、中々凄かったねぇ」

 

 本日の業務が終わり、郁とアリス、智代の三人は基地の一角にある食堂に集まっていた。

 

 彼女達は基地内で寮生活しており、基本的に朝昼晩の三食は基地の食堂で食べている。一応三人とも簡単な自炊ぐらいは出来るのだが、食べ盛りな彼女達が無料かつ食べ放題、そして味も良いと良いことづくめな食堂を利用しないわけがない。

 

同じように基地内で生活していたり、当直の自衛官達に交じっていつものようにここへ来ていたのだ。

 

「―――それにしても、ここにも持ってきているんだね。それ」

 

「ん? ああ、これ?」

 

 疲労で机に突っ伏していた郁は顔を上げ、椅子に立てかけてある刀に目を向ける。それは帰省中に洋子から貰った扶桑刀であった。

 

 彼女は刀を手に取る。いつも使用する実弾入りの89式小銃より重いそれは、まだ郁の手に馴染んだとは言えなかった。

 

「隊長も洋子さんも言っていたんだけど、まず刀を持っていることが当たり前になるように、ずっと手元に置いておくことが大切なんだって。体が刀を持つことに慣れないと、自在に扱うなんて夢のまた夢だから」

 

「確かに。隊長っていつも刀が手元にあるもんね」

 

「でも、なんで今になって近接格闘戦を?」

 

「んー、なんというか・・・」

 

不思議そうに尋ねてきたアリスに、郁は自分の考えをまとめるように、言葉を選びながら答える。

 

「切っ掛けは洋子さんから刀を貰ったことなんだけど、元々隊長の戦う姿を間近で見ていて興味はあったんだ。ただ北条さんからあの戦い方は非常に危険だって聞いていたし、まずは普通に銃で戦う技術を身に着けてからにしようと思ってね」

 

 郁にとって、近接格闘戦は戦闘手段の一つと考えている。確かに銃で戦う方がはるかに安全で効率的ではあるが、いざ銃を失ったときに戦う術がないと生き残ることは難しいため、一つでも多くの戦い方を身に着けておいた方が良いと思ったのだ。

 

「そりゃあ、戦う手段は多ければ多いほどいいと思うけど・・・ まさか素手でも戦えるようにする気?」

 

「必要なら。残念ながら私にその才能はないけど」

 

「そりゃあ、素手で戦えるウィッチなんて、そうそういないからねぇ」

 

 “怪力”などの身体能力を強化する固有魔法があれば別だが、航空ウィッチがネウロイと素手で戦うなど、刀剣を使う以上に自殺行為に他ならない。残念ながらこの部隊にはそういった固有魔法を持つウィッチはいなかった。

 

「―――まあ、幸い私の固有魔法なら高速で三次元戦闘を行っている最中でも正確に位置を把握出来るから近接格闘戦との相性はいいし、隊長からも筋はいいって言われているから、頑張ってみるよ」

 

「気を付けてね。郁」

 

「うん」

 

 心配そうな表情を浮かべるアリスと智代に、郁は安心させるように大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 ―――翌日

 

 空に上がった九〇一空の面々は、同じ基地所属の哨戒機と並んで飛んでいた。

 

 P-3C哨戒機―――水面下にいる潜水艦を探知、攻撃するために開発された元旅客機という素性をもつそれは、現在では新型のP-1哨戒機に置き換えられる形で徐々に数を減らしてきているが、水が苦手というネウロイの特性上海を潜る個体はなく、対ネウロイ戦においてあまり役に立たないことから予算が削減され、もうしばらくは主力を務めることが決定している息の長い機体である。

 

 四発のターボプロップエンジンが付いた翼下にはオレンジ色の飛行機を模した曳航標的が搭載されており、それは本日の訓練で使用するものだった。

 

『こちらポセイドン2、間もなく標的を展開する』

 

「了解」

 

 訓練空域に差し掛かり、哨戒機は翼下から曳航標的を切り離し、繋がったロープで曳航しながら周囲を緩やかに旋回し始めた。それを確認した直人は空中で静止する四人に向き直る。

 

「よし、それじゃあ本日の訓練はあの曳航標的への近接攻撃訓練だ。ブリーフィングで説明した通り、あれは柔らかい素材で出来ているから、衝突してもそこまで危険はない。各自距離感覚を掴みつつ攻撃するように」

 

「「了解」」

 

 返事をした郁達は、それぞれ近接戦闘用の模擬装備を手に持っている。郁は木刀、智代は銃剣道で使用する木銃、若葉とアリスは模擬のサバイバルナイフ。彼女達が各々で使う可能性がある武器である。

 

「いくら訓練とはいえ、まさかサバイバルナイフで空戦することになるなんて・・・」

 

「万が一墜落した場合に備えて携帯していますからね。とはいえこれで戦うのは本当に最後の手段ですけど」

 

 若葉の言う通り、パイロット達は撃墜等で脱出した場合に備えてサバイバルキットを所持しており、それは航空ウィッチでも変わらない。その中には様々な用途に使えるサバイバルナイフも含まれているのだ。

 

 現代の空戦は基本的にミサイルや銃砲で行われ、弾が切れる前に戦闘が終了するか撤退するのが常識だが、場合によっては撤退出来ずに戦わなければならない可能性もある。そのためそういった万が一に備えて、サバイバルナイフによる近接格闘訓練が行われているのだ。

 

 ―――最も、サバイバルナイフで近接格闘戦を行おうとするウィッチは皆無に近く、とりあえずカリキュラムに入っているから行うだけで、本気で取り組むウィッチは殆どいないのが現状である。

 

「あれ、アメリカではこの訓練はないのか? 確か“向こう側”では各国で行われている訓練なんだが」

 

「そんな訓練に時間をかけるより射撃訓練にまわした方がいいということで、海軍も空軍もやってないですね。ただでさえウィッチが足りなくて促成訓練状態ですし」

 

「私は訓練生時代に一回だけやりましたけど、成績には全く影響しないってことで、教官もおざなりでしたね」

 

「私も一回だけでした!」

 

 日本もアメリカと同じく、ウィッチの早期戦力化のため本来なら二年以上必要な訓練期間を大幅に削減し、僅か一年で実戦部隊に配属させる促成訓練が続いているが、一応近接格闘訓練は行っているようである。ただ教官ですらやる気がないため、本当にただカリキュラムをこなしただけという状態であるが。

 

「・・・まあしょうがないか。流石にサバイバルナイフではリーチが短すぎるし」

 

 色々言いたいことはあるものの、ここで文句を言っても意味がないと気を取り直した直人は改めて説明するため、木刀と共に持ってきた模擬のサバイバルナイフを取り出した。

 

「―――さて、じゃあ改めて説明しておこう。今回行う近接戦闘訓練は万が一武器弾薬が尽きても生還出来るよう、最低限戦える技術を身に着けるためのものだ。通常は不時着時の万能ツールとして携帯しているサバイバルナイフを用いるが、郁は刀を、智代は銃剣を代わりに使ってもらう」

 

 そういうと、彼は若葉に木刀を預け、サバイバルナイフの切っ先を曳航標的に向ける。

 

「近接格闘戦を行うコツは自分の攻撃可能な範囲を理解し、常に相手の位置を正確に把握し続けること。そして切りかかる時は衝突しに行く勢いで相手に接近するが必要だ。―――まずはお手本を見せよう」

 

 そう言うなり直人は降下を開始し、一気に加速する。亜音速で曳航標的の後ろから接近しつつ、衝突寸前でナイフを振り下ろした。

 

「おお、当たった」

 

 刃がない模擬のナイフだったため切れることはなかったが、衝撃で曳航標的が大きく揺れる。

 

「殴った・・・わけじゃないですよね?」

 

「しっかり刃のところだけを当てていましたよ」

 

 アリスと若葉がそうやり取りしている間に、直人が戻ってくる。若葉から木刀を受け取りつつ、皆に向き直った。

 

「―――と、まあこんな感じだ。慣れないうちは後ろからゆっくり接近して距離感覚をつかむといい。それと郁は一度固有魔法を使わずに近づいてみろ。目測で距離感覚をつかむんだ」

 

「わかりました」

 

「はい! 隊長、私はどうすればいいですか?」

 

「銃剣の基本は槍と同じく“突き”だから、確実に相手の中心を狙えるようにすればいい。空戦は基本的に速度があるから、“突き”の動作をしなくても相手に刺さる。―――じゃあまずは木佐貫からやってみるか」

 

「わかりました!」

 

 智代はそういうなり、模擬銃を抱えて勢いよく加速しながら上昇していく。そして一旦空中で静止し、目標を定めてから一気に急降下していった。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

 掛け声と共に加速した智代は、銃剣のついた木銃を突き出しながら曳航標的に向けて接近する。そして衝突した瞬間、曳航標的は勢いよく吹き飛ばされ、智代はそのまま突き抜けていった。

 

「凄い・・・」

 

「威力だけなら余裕で五〇口径(十二.七ミリ弾)以上だな。あれですら速度を抑えた状態だし、“超加速”を使ったら大型ネウロイですら一撃だろうさ」

 

 盛大に姿勢を崩すも、次第に安定を取り戻していく曳航標的を眺めつつ、アリスは感嘆の声を上げる。彼の使用するM134ミニガンの威力は凄まじいが、それは連射力があってのこと。一発あたりの威力はそれほどでもない。

 

「ああいうのを見ると、近接格闘戦に憧れる子が出てくるのも頷けるんですよね。弾を消耗せずに、下手な機関砲以上の破壊力を出せますから」

 

「俗にいうロマンってやつだよな。師匠曰く、極めればビームを切ったり、刀身から衝撃波を出すことも出来るんだとか」

 

「流石にそれは・・・ないですよね?」

 

「本当です。今の現役世代にはいませんけどね。―――確か画像は荒いですが、資料映像があったはずなので、帰ったら見てみましょうか」

 

「本当にあるんだ・・・」

 

 流石魔法、なんでもありなんだ・・・とアリスは引きつった笑みを浮かべた。

 

「隊長、どうでしたか?」

 

 智代が戻ってくるなり直人に尋ねる。彼はなかなか筋が良いと褒めた。

 

「おお、なかなか良い突っ込みっぷりだったな。次は“薙ぎ払い”をやってみるといいんじゃないか?」

 

「わかりました! 次はそれをやってみます」

 

「よし、じゃあ次は有村。木佐貫と違って刀では“切る”という動作が必要になる。最初だから自分の出来ると思った速度でやってみるといい」

 

「はい!」

 

 静かに、しかし力強く返事をした郁は、大きく深呼吸をすると曳航標的に向けて加速した。

 

(固有魔法を使わずに、見た目だけで距離を判断する・・・)

 

 “空間把握”を使いたくなる誘惑を堪えつつ、ゆっくり―――といっても時速五〇〇キロは出ているが―――と近づいていく。徐々に大きくなっていくオレンジ色の機体から目を離さず、目測で近づいたと判断して木刀を振り下ろす―――

 

「あ、あれ?」

 

『よし、今の距離を維持して、“空間把握”使ってみろ』

 

「うわ・・・まだ遠い・・・」

 

 目の前まで近づいたと思っていた曳航標的は、実際はまだ数メートル離れていた。これでは当たるわけがない。

 

『俺がいうのもなんだが、郁は距離感覚を計るのに固有魔法に頼りすぎだ。確かに“空間把握”の方が正確だが、目測で正確に距離をつかむ訓練を積んだ方がいいな』

 

「わかりました。しばらく“空間把握”は封印します」

 

 一旦曳航標的から離れる郁。

 

(目測か・・・確かに“空間把握”があるから全然意識していなかったな)

 

 呼吸を整えつつ、今まで固有魔法に甘えていたと反省した彼女はもう一度曳航標的に向かって行った。

 

 

 

 

 

「“空間把握”があるのに、それを使っちゃダメなんですか?」

 

 先ほどよりゆっくりと曳航標的に近づいていく郁を眺めながら、智代は直人に尋ねる。

 

「固有魔法に頼りすぎるのが良くないんだよ。 “空間把握”と同じ索敵系である“魔導針”だと、ネウロイ妨害を受ける事例が何度も確認されている。“空間把握”も何らかの手段で妨害を受ける可能性があるし、取れる手段は一つでも多い方がいいだろう?」

 

 ウィッチの持つ固有魔法は有益なものが多く、使い方によっては戦局すら一変させるだけの力を秘めているものもある。直人の“未来予知”も数瞬先の未来が見えるというもので、これのおかげでシールドが使えなくなった現在でも第一線で戦うことが出来ているのだ。

 

 しかし、何らかの理由で固有魔法が使えなくなれば、それに頼りきりだった場合なにも出来なくなってしまう恐れがある。郁の場合は索敵系と非常に便利な固有魔法である反面、万が一妨害を受けた場合の影響が大きい。彼女には固有魔法に頼るだけでなく、常に五感で周囲を把握出来る技術を身に着けて欲しいと直人は思っていた。

 

「有村さんは、飛行中あまり周囲に目を向けていなかったですからね。本当はもっと前から注意すべきだったんでしょうけど・・・」

 

「俺自身が固有魔法に頼りきりだからなぁ」

 

「固有魔法・・・か」

 

 直人と若葉がそんな話をしていると、不意にアリスが小さく呟いた。

 

「アリスさん、何か言った?」

 

「う、ううん。何でもない」

 

 隣にいた智代が尋ねるが、彼女は慌てて誤魔化す。

 

―――突然、直人の無線に連絡が入った。

 

「―――はい、こちらドルフィン1。―――えっ、本当ですか!?」

 

「なに?」

 

「どうしましたか?」

 

「何かありましたか?」

 

 突然険しい表情を浮かべた直人に三人は尋ねるが、彼はそれを無視して郁に無線を入れる。

 

「こちドルフィン1、直ちに訓練を中止せよ」

 

『―――! りょ、了解。何かあったんですか? まさかネウロイ!?』

 

 一瞬驚いたもののすぐに訪ねてきた郁に、直人は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 

「いや、ネウロイではないが・・・非常に面倒なことになった」

 

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