ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版)   作:軍曹

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第十話「スクランブル任務」

 世間ではそろそろ長袖が必要になってきた十月も半ば―――

 

郁はアリスと共に、眼下に雲が流れる日本海上空を飛行していた。

 

「―――こちらドルフィン3、間もなく視認範囲に入ります」

 

『了解、注意して接近されたし』

 

 極寒の高空にも拘わらず、いつもの半袖のワイシャツにスパッツ姿の彼女は、航空自衛隊の防空指令所との短い通信を終え、再び目標に接近すべく加速する。そのあとに続くアリスも、いつもの青い迷彩服に身を包んでいた。

 

(反応からして、十中八九ネウロイじゃないとは思うけど・・・)

 

 魔導レーダーの反応から、大きさは五十メートルほどの大型機。ネウロイなら中型に分類されるが、飛行経路から恐らく“人類の敵”ではないと思われる。

 

 やがて、郁達の前方に黒い点が見えてきた。

 

「前方に目標を確認」

 

「こちらも確認。あれは―――」

 

 接近していくと共に明らかとなる機影。そこにいたのは翼に赤い星が描かれた爆撃機だった。

 

「こちらドルフィン3、目標を視認。翼に赤い星、ロシア空軍Tu-95爆撃機と確認」

 

 Tu-95戦略爆撃機―――一九五〇年代に旧ソ連で開発され、現在もロシア空軍等で運用されている大型機である。

 

 今時珍しいプロペラ機だが最高時速は九五〇キロと早く、現在でもロシア空軍の主力爆撃機に君臨する同機は、偵察任務でよく日本に接近する馴染み深い存在だった。

 

『了解した。これよりサラマンダー3、サラマンダー8に対応させる。しばらく周囲を警戒されたし』

 

「了解 ―――これより接近します。ドルフィン5は後方にて待機を」

 

「了解」

 

 アリスと編隊を解き、ゆっくりと接近して爆撃機と並走する郁。すると突然Tu-95から発光信号が送られてきた。

 

「発行信号を確認。内容は“貴官ノ所属ト姓名ヲ教エラレタシ アトコッチヲ向イテ”・・・」

 

『またそのパターンかぁ・・・』

 

 領空侵犯機からの発光信号を読み、郁だけでなくアリスも力が抜ける。見れば何人かの乗員が、機内の小窓からこちらに向けて手を振ったりカメラを構えていたりしていた。

 

『あ、こっちにも発行信号だ。“貴官モ本機ニ接近サレタシ 二人ガ並走スル事ヲ希望”―――だって』

 

「まったく、こっちは大変な時なのに・・」

 

 さっきまでの緊張感が一気に抜け、郁は大きくため息をつく。すると、アリスの後方から二機の戦闘機が接近してきた。航空自衛隊千歳基地所属のF-15J戦闘機である。

 

『こちらサラマンダー3。お疲れ様、あとはこちらで引き受ける』

 

「了解、あとはお願いします」

 

 並走する友軍機に敬礼し、離脱する郁。Tu-95はまだ進路を変える気配はなく、しばらくF-15Jとの並走は続くだろう。

 

「・・・疲れた。早く帰ろう」

 

「ネウロイじゃなくて良かったけど、ホント、紛らわしいよね」

 

 苦笑するアリスと合流し、千歳基地へと帰還する郁。二人ともユニットにはミサイルを搭載し、手には火器を、そして郁は扶桑刀を背負っているが、幸いそれを使用することはなかった。

 

一発も撃たなかったからこそ、行きと同じ重さのままの火器を抱えて離れていく二人に向けて、Tu-95はなおも盛んに発光信号を送っていた。

 

 

 

 

 

 八一式制空戦闘脚「旋風」―――

 

 扶桑皇国で開発された第四世代型戦闘脚に分類されるそれは、現在日本国航空自衛隊の主力ストライカーユニットとして運用され、ネウロイの脅威から日本を守る一翼を担っている。

 

 第四世代型としては後発ながら、その分余裕をもって開発されたこともあり、リベリオンのF-15C以上の性能を有すといわれるそれは“ゲート”発生以後、使用するウィッチの練度と相まって日本本土へのネウロイの侵入を完璧に阻止し続けていた。

 

 ―――そんな中、先日“向こう側”の扶桑皇国で発生したのが、「旋風」の墜落事故である。

 

 幸い運用していたウィッチに怪我はなかったものの、墜落の原因はわからずに機体構造の欠陥が原因ではないかという説まで出てくる始末で、当然扶桑空軍は直ちに同機を飛行停止にし、原因の究明に乗り出した。

 

 ―――当然その知らせは“こちら側”にも知らされ、空自は突然の出来事に阿鼻叫喚の嵐となる。

 

 現在空自が運用している機械化航空歩兵は全部で六個飛行隊。その内四個飛行隊が「旋風」を使用しており、残りの二個飛行隊で運用しているのは一世代前の「烈風」である。このユニットは対地対艦攻撃を主任務とするため、空戦性能はあまり高いとはいえず、おまけに「旋風」を運用する部隊に比べてウィッチの充足率も低い。

 

 突然の飛行停止処置により日本の防空体制に大きな穴が生じてしまった空自は、海自に協力を要請。郁達第九〇一飛行隊は、北の空を飛ぶことになったのだった―――

 

 

 

 

 

「隊長、これいつまで続くんですか?」

 

 北海道千歳基地―――

 

 民間の千歳空港と隣接する基地で、郁は椅子にもたれ掛かりながら直人に質問した。

 

「そりゃあ「旋風」の事故原因が解明されて、ユニットに問題がないことが確認されたらだろ」

 

「それじゃあ、下手すると一ヶ月以上かかる場合も・・・」

 

「ありえなくはないな」

 

「うわぁ・・・」

 

 郁達九〇一空は、現在航空自衛隊千歳基地に所属する第三五二飛行隊の代わりに、スクランブル任務に就いている。

 

 日本周辺空域を二十四時間体制でレーダーサイトや早期警戒機、早期警戒管制機が監視しており、国籍不明機の接近等何らかの問題が発生した場合、緊急発進して事態の対処にあたるこの任務は、ウィッチ隊が発足した当初は人数不足もあり、これまで通り通常の戦闘機部隊のみで行っていた。

 

 しかし“ゲート”出現以前のように従来の(・・・)国籍不明機なら問題なかったが、ネウロイだった場合問答無用で攻撃を受ける危険があり、事実目視で確認するため、不用意に接近して攻撃される事例が何度か発生している。国籍不明機といっても実際には様々で、大体は他国の偵察機だが、中には極秘任務中の友軍機だったり、飛行経路を外れた民間機だったりする場合もあるため、発見次第攻撃というわけにはいかないのだ。

 

 そこで航空ウィッチ隊の発足以後、空自では機動性が高く、シールドを持つウィッチがスクランブル任務の矢面に立っている。

 

 彼女達の任務は緊急発進して目標空域へと急行し、国籍不明機を目視すること。超大型ならともかく、中型以下になるとレーダー画面上での判別は難しいため、目標を視認することでネウロイか否かを判別しているのだ。

 

 ネウロイだった場合はそのまま戦闘に入るが、それ以外だった場合はしばらく接触し、駆け付けた戦闘機部隊と交代して帰投することになっている。空自においてウィッチはあくまで対ネウロイ戦の切り札とされており、人員も足りていないためそれ以外の任務にまわす余裕がない。

 

幸い“ゲート”出現以後、日本周辺の国籍不明機は減少傾向にあったが、それでも不定期に出現するネウロイ共々、常に備える必要があった。

 

「一応、「旋風」の長期飛行停止に備えて、三五二空の何人かが「蒼莱」での飛行訓練をしているけど、最低でも二週間はかかるだろうし、そもそも数がないからなぁ」

 

「いくらユニットの機種転換が容易とはいえ、いざ実戦となるとちょっとした違いが致命的になりえますからね」

 

 元々ストライカーユニットの運用は通常の航空機に比べてはるかに容易であったが、近年はレーダー等各種電子装備やミサイルを搭載したことにより、機種転換訓練の期間は延びてきている。特に「蒼莱」は「旋風」と同じ第四世代型ではあるものの癖が強く、素直な「旋風」を運用していたウィッチからしてみれば扱いにくいユニットだった。

 

「変則的とはいえ、三グループでローテーションが組めているからなんとかなっているけど・・・出来れば早く飛行停止が解除されて欲しいものだよ」

 

 直人は後ろ頭をかきつつ、大きくため息をついた。

 

「有村二尉、ベイカー二尉、交代です」

 

「お疲れ様。二人とも休んでいいよ」

 

 待機室の扉が開き、若葉と智代が郁とアリスの交代要員としてやってきた。これでスクランブル待機中だった郁達は休憩に入り、準待機中だった直人がスクランブル待機状態となる。

 

「部屋に戻る前に、先にご飯食べない?」

 

「いいね。丁度お腹すいていたんだ」

 

 引継ぎを終え、そんな会話をしながら待機室を後にする二人。その後姿を見送った若葉は、直人に話しかけた。

 

「有村さん、問題なさそうですね」

 

「アリスがサポートしてくれているからね。編隊長の経験を積ませるには丁度良い機会だよ」

 

 現在、郁はアリスを僚機にしてスクランブル任務に就いている。九〇一空に配属されてから三年間、ずっと直人の二番機を務めていた彼女だったが、そろそろ指揮官として経験を積ませたいと直人と若葉は思っていたが、彼女の後輩はなかなか来ず、今年になってようやく智代が配属されたものの、いきなりド新人を僚機にさせるのは荷が重いと判断していた。

 

 そんな最中、アメリカ海軍から出向という形でやってきたのがアリスである。彼女は郁より一歳年下ながら、アメリカ海軍時代に編隊長を務めた経験があり、指揮官としての適性も高く、郁の僚機にうってつけの人材だったのだ。

 

「将来的には部隊を率いてもらわないといけなかったからね。アリスには言えないけど、こちら(九〇一空)としては非常に助かったよ」

 

「いつまでも直人さんの二番機ってわけにはいかないですからね」

 

 直人と若葉がそんな会話をしている中、智代も話に加わる。

 

「やっぱり、将来的には有村さんが隊長になるんですか?」

 

「そりゃあそうさ。俺だってそう長くは飛べないだろうし、北条さんはそもそも扶桑軍人だろ」

 

「あ、そっか・・・」

 

 智代は指摘されて気付いた。直人は既に二十歳を当に超えており、いつ飛べなくなってもおかしくない年齢で、若葉は魔法力が衰えないが、扶桑皇国海軍から出向している身。いつ帰国命令が来てもおかしくないのだ。

 

「―――実をいうと、(扶桑海軍)もそろそろ私を帰国させるべきという意見があるようです。既に五年以上“こちら側”にいるので、代わりの人材を派遣する形で戻すべきなのではと・・・」

 

「それは―――」

 

 直人は二の句が告げなくなる。若葉とは部隊発足以前からの付き合いで、お互い気心の知れた仲だったからだ。

 

 “向こう側”へは気軽に行き来出来ず、電波も届かないためネットは無論のこと、電話も繋がらない。定期便で手紙のやり取りくらいは出来るだろうが、下手すれば今生の別れになってもおかしくはなかった。

 

「若葉さん、扶桑に帰っちゃうの?」

 

「扶桑軍人ですからね。命令には従わないといけませんから」

 

「そっか・・・」

 

「ああ、でも今すぐってわけではないですし、まだ決定ではないですから!」

 

「――――――」

 

 若葉は慌てて智代にそう告げる。そんな彼女を、直人は寂しそうな表情を浮かべながら見つめていた。

 

 

 

 

 

「―――なんか、私たちの時ばっかり緊急発進しているような気がするんだけど」

 

「偶然だとは思いたいけど、既に三回目だもんね・・・」

 

 数日後、郁とアリスは再び編隊を組み、雲量が多く、時折雲の切れ間から見える日本海の空を飛んでいた。

 

「まったく・・・明日には「旋風」の飛行停止が解除されるんだから、一日くらい待ってくれたらよかったのに」

 

「そこはしょうがないよ。―――でもホント、大事に至らなくてよかった」

 

 ―――九〇一空が千歳基地に展開することになった「旋風」の墜落事故は無事に原因が特定され、ユニットに問題ないことが確認された。

 

 その知らせが届いたのはつい数時間前。明日からは三五二空がアラート任務に就き、九〇一空は厚木基地に帰還する前に特別休暇が貰えることになっている。折角だからということで明日からは札幌を中心に北海道観光をする予定となっていた。

 

「明日は札幌だけど、郁はどこか行きたいところはある? やっぱり蟹? それともジンギスカン?」

 

「とりあえず、今ご飯が食べたい」

 

「あーうん、まあ気持ちはわかるけど・・・」

 

 アリスの質問に、郁は不機嫌そうな表情を浮かべながらそう答える。実は先ほど、丁度ご飯を食べようとした時に警報が鳴ったため食べそこなったからだ。せめて一口と思ったが、スクランブルは一分一秒を争うと、後ろ髪をひかれながらも彼女は急いで出撃したのだった。

 

「郁は食い意地が張りすぎだよ」

 

「だってしょうがないじゃん。お腹がすいているんだから。あー、力が出ないー」

 

 半分ぐらい本気で言っている郁の態度に、思わずアリスは苦笑を浮かべた。

 

『ドルフィン3、間もなく目標の視認範囲内に入る。状況知らせ』

 

「おっと―――こちらドルフィン3、既にレーダーには捉えています。間もなく接触予定時刻―――」

 

 郁が防空指揮所からの通信に答えていると、やがて前方に黒点が見えてきた。

 

「―――あー、目標を視認。これより接触します」

 

『了解、気を付けられたし』

 

 郁達はゆっくりと加速し、黒点に近づいていく。目標は雲海を掠めるように飛んでおり、時折雲によって視界が悪くなる。万が一に備えて警戒しながら接近していた二人だったが、やがてそのシルエットが判別出来る距離まで近づくと警戒を解いた。

 

「あれは―――なんだ、いつものか」

 

 見えてきたのは先日と同じ、ロシア空軍所属のTu-95爆撃機。少なくともネウロイではないことが確認され、郁は安堵の息をつく。

 

「郁。駄目だよ、警戒を解いたら」

 

「そうだった―――こちらドルフィン3、目標を視認。翼に赤い星、ロシア空軍Tu-95爆撃機と確認」

 

『了解した。これよりサラマンダー3、サラマンダー8に対応させる。しばらく周囲を警戒されたし』

 

「了解 ―――これより接近します」

 

 通信を終えて息をつく郁。ただし今度は周囲の警戒をしたまま。

 

「ふう・・・ またロシア軍機か」

 

「流石に攻撃はしてこないとは思うけど、常に警戒だけはしておかないとね」

 

「ごめん。ネウロイじゃなかったから安心しちゃった」

 

 自衛隊は基本的に、ウィッチは対ネウロイ戦のみ投入するとしているが、いざ有事となればそんなことを言ってもいられなくなるだろう。

 

 幸い、現在のところ日本が戦争に巻き込まれる可能性は低いものの、絶対あり得ないとは言い切れない。前を飛ぶ国籍不明機が攻撃してくる可能性も考慮に入れなければいけなかった。

 

「空を飛んでいる以上、いざという場合に備えて色々考えておかないと。ましてや、郁は今私という部下がいるんだから」

 

「そうだね、この場にネウロイが突如現れたりとか―――」

 

 郁がそう呟いた瞬間―――

 

「あれ―――?」

 

 前方の爆撃機から、何かが切り離された。それは直ぐに雲海へ消えてしまったが、レーダーや郁の“空間把握”でしっかりと捉えている。

 

「なにか落とした? 爆弾?」

 

「下は何もない海だよ。船の姿もないし―――」

 

 二人が不思議そうに首を傾げた瞬間、突如雲海の中から赤い光線が飛び出し、Tu-95のエンジンに直撃した。

 

「な―――!?」

 

「ネウロイ!? なんで!?」

 

 位置的に、発射したのは切り離された物体だろう。恐らくネウロイは飛行中のTu-95にこっそり取りついていたようだ。

 

「まずい、爆撃機が・・・!」

 

 四発あるエンジンの一基が破壊され、機体が傾き始める。もしかしたら操縦系統の一部にも被害が出ているのかもしれない。

 

『どうした? いったい何があった!』

 

「くっ・・・!」

 

 防空指揮所からの呼びかけを無視し、郁とアリスはとっさに加速して被弾した翼下に潜り込み、機体を支える。そして全周波数帯に無線を開き、機内のパイロット達に呼びかけた。

 

「こちらは日本国海上自衛隊! ロシア空軍機、現在の状況は!?」

 

『~~~!?』

 

 郁の呼びかけに返事が返ってきたが、ロシア語だったため何を言っているのかがわからない。なら国際共通語である英語で呼びかけようとするも、簡単な日常会話しか出来ないため不安が残る。

 

「しょうがないか――― アリス、ロシア空軍機と通信を繋いで、最寄りの空港まで支えてあげて。私はネウロイを相手するから」

 

「わかった、気を付けて!」

 

 意図を理解したアリスが頷くのを確認し、機体から離れる郁。直後、Tu-95を狙った赤いビームが飛んできた。

 

「くっ―――!」

 

 咄嗟にシールドを展開し、アリスとTu-95を守る。その威力は中々高く、立った一発受け止めただけで大きく魔法力を消耗した。

 

「郁!」

 

「大丈夫! アリスは急いで離脱して!」

 

「・・・っ!」

 

 歯を食いしばりながらも、損傷したTu-95を支えて離脱するアリス。その姿を一瞥し、改めてネウロイと向き直った。

 

「―――まさか、領空侵犯機に取り付いてレーダーを誤魔化すなんて」

 

 新しい戦術を取ったネウロイに、内心驚きを覚える郁。敵は雲の中に隠れて見えないが、レーダー及び“空間把握”から敵は二〇メートル弱と小型に分類される大きさ。機動性が高く少々梃子摺るだろうが、倒せない相手ではないだろう。

 

『ドルフィン3、状況知らせ。何が一体どうなっている?』

 

「こちらドルフィン3、領空侵犯機にネウロイが取り付いていた模様。領空侵犯機は被弾したため、ドルフィン5と最寄りの空港に向かっています」

 

『了解した、直ちに援軍を派遣する。それまではサラマンダー2、サラマンダー6と連携して対処されたし』

 

 言い終わるや否や、二機のF-15Jが到着した。彼らは郁達と共に緊急発進し、近くで待機していた戦闘機である。

 

『こちらサラマンダー2、いつでも攻撃可能です』

 

「了解。サラマンダー2、サラマンダー6。敵は小型クラスですが形状は不明。判別出来るまでは距離を取って攻撃を仕掛けてください」

 

『了解した』

 

 そういうと二機の戦闘機は一旦距離を取り、十分離れてからネウロイに機首を向ける。

 

『これより攻撃を仕掛ける。サラマンダー2、FOX3』

 

『サラマンダー6、FOX3』

 

 戦闘機から放たれたのは胴体下に搭載されていた99式空対空誘導弾で、射程が長く誘導性能も高い優秀なミサイルである。雲の中に隠れて出てこないネウロイだが、レーダーにはしっかりと映っており、その指令を受けたミサイルもまた目標に向かって突き進んでいる。

 

誰もが躱すことが出来ないと確信した瞬間、ネウロイは突如動き出し、二発のミサイルをあっさりと躱した。

 

「なっ―――!?」

 

 驚く間もなく、ネウロイは急機動を見せて上昇し、雲から飛び出して姿を見せる。大きさはF-15Jとほぼ変わらず、形状も似通っているが唯一主翼が前進翼になっているそれは、漆黒の機体に所々六角形上の赤い模様を輝かせていた。

 

『あの距離でミサイルを躱すとは・・・』

 

『見たことがない形だ・・・新型か?』

 

「どうやら機動性に自信があるようです。しっかりと距離を取って―――」

 

 郁がそういうな否や、空中で静止していたネウロイは突然加速し、二機のF-15Jと一気に距離を詰める。

 

『速い!』

 

『か、回避!?』

 

 咄嗟に回避機動を取る二機だが、そのうちの一機に向けてネウロイはビームを放つ。放たれた赤い光線は狙い通りF-15Jに命中した。

 

「サラマンダー2!?」

 

『ぐっ・・・!』

 

 被弾したF-15Jは姿勢を崩すも、操縦士の腕もあって何とか立て直す。しかし右主翼が半分ほど失われており、戦闘機動は不可能である。

 

『はぁ・・・はぁ・・・ こちらサラマンダー2、被弾により戦闘不能。撤退する』

 

「了解。サラマンダー6はサラマンダー2を援護しながら後退して」

 

『ドルフィン3? しかし・・・』

 

「お願いします」

 

 このネウロイと対峙するには、F-15Jの存在はむしろ足手まといだと郁は思っている。ミサイルすら簡単に回避できる機動性に、とてつもない加速力。少々古くなってきたとはいえ今だ主力制空戦闘機として十分以上な性能を持つF-15Jでも、この敵を相手するには非常に厳しかった。

 

『・・・了解、撤退する』

 

 サラマンダー6は悔しさを滲ませた声でそう呟くと、損傷したF-15Jと共に撤退を開始する。しかしその両機に対して攻撃を仕掛けるネウロイ。郁は間に割り込んでシールドを展開し、ビームを防いだ。

 

「くぅっ・・・! このっ―――!!」

 

 重い一撃に後ずさりながらも、咄嗟に銃を構えて射撃する。しかしあっさりと躱されて火線が空を切る。

 

(動きが速すぎる。これじゃあミサイルは当てられない)

 

 ユニットには短射程空対空ミサイル(AIM-9)長距離空対空ミサイル(AIM-54)が装備されているが、恐らく撃っても命中させることは出来ないだろう。ただの荷物になると判断した郁は咄嗟に投棄し、軽量化を計る。

 

(時間稼ぎと行きたいけど、ビームの威力が高いからシールドが持たない。私だけでなんとかしないと!)

 

 新型のネウロイは、ビームの威力が高い。十分程度持ちこたえられれば援軍が来てくれるだろうが、それまでシールドが持つとは思えなかった。

 

「このっ!」

 

 一気に加速し、ネウロイとの距離を詰めようとする郁。しかしネウロイはUFOのごとく凄まじい機動を見せるため下手に近づけず、何とか隙を作ろうと周囲に弾をばら撒くも、誘いに乗る気配もない。

 

 その間にもネウロイはビームを放ち、郁は回避するものの間に合わずシールドで受け止める。本来なら青白く輝く魔法陣のそれは、限界が近づいて赤くなり始めていた。

 

(せめて動きを止められたら・・・! でもどうやって―――)

 

 銃を構えて発砲しつつ、打開策を必死に考える郁。そんな最中、三〇発入り弾倉を撃ち尽くし、彼女は咄嗟に弾倉交換するため一瞬ネウロイから目を離す。その隙を見逃さなかったネウロイは素早く彼女の後ろに回り込んだ。

 

「まずっ・・・!」

 

 至近距離から放たれたビーム。シールドの展開が間に合わないと判断した郁は咄嗟に銃を投げ捨て、その反動でビームを躱した。

 

「油断も隙も無い―――後はこれでなんとかするしか」

 

 銃火器という飛び道具を失い、彼女に残されたのは一振りの刀のみ。背負っていた扶桑刀を引き抜いて構える。

 

(隊長は、“後は実戦で慣れるだけだ”って言っていたけど・・・どうやって慣れていけば―――?)

 

 本来なら直人の二番機として一度実戦を経験したかったが、あの訓練の後すぐにスクランブル任務に就くことになってしまい、近接戦闘よりも指揮官としての経験を積むべきだということで編隊長を任されることになってしまったため、刀を持っての実戦はこれが初めてとなる。既に何度も実戦を経験している郁でも、内心不安で一杯だった。

 

 ネウロイは銃を投げ捨てたのを認識しているからか、郁から距離を取って周囲を飛び回っている。

 

(あれこれ考えていてもしょうがない、ネウロイを撃墜するんだ!)

 

 覚悟を決めた郁は加速し、ネウロイに向かっていった。

 

「はぁっ!」

 

 攻撃されないよう不規則な動きをしつつ接近し、刀を振り下ろすも、ネウロイはあっさりと躱し、距離を取りつつビームを放つ。郁は体をひねってそれを躱しつつ、距離を詰める。それが何度も続くが、まだまだ余裕そうなネウロイとは裏腹に、郁の体力はどんどん消耗していく。

 

(・・・こっちの体力を消耗させる作戦だ)

 

 魔法力は無論のこと、シールドの耐久力が心許ないため攻撃を躱すしかなく、無茶な機動をするため体力の消耗も激しい。荒い息を吐く郁に残された体力は、ほとんど残っていなかった。

 

(―――こうなったら、覚悟を決めるか)

 

 このままでは墜とされると判断した郁は大きく深呼吸をする。これから行うのは分の悪い賭け。失敗すれば命はない。

 

(大丈夫、私は出来る。―――ネウロイを倒せる!)

 

 弱気になりそうな自分を奮い立たせ、残された最後の力を振り絞るように、郁はネウロイに向かって真っすぐに突撃した。

 

 一見破れかぶれに見える彼女の一直線の突撃に、ネウロイは当然攻撃する。回避機動を取らずに直進してくる彼女に向けたビームは、しかしシールドによって弾かれる。

 

「くぅっ・・・!」

 

 耐久ぎりぎりのシールドに、たとえ受け止めても後ずさるほどの重い一撃。だが郁は止まらない。勢いこそ少し削られたものの、後先考えず魔導ジェットエンジンを全開にしつつ展開したシールドはギリギリ耐えきり、攻撃が止んだと同時にさらに加速する。攻撃によって一瞬だけ空中で静止していたネウロイに接近した郁は、最後の力を振り絞って刀を振り下ろした。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 郁の一撃はネウロイを真っ二つにし、数舜遅れて白い破片となって四散した。郁はその光景を眺めつつ落下していく。

 

(なんとか・・・倒せた・・・)

 

 体力も魔法力も尽き、魔導ジェットエンジンを起動出来ずに落ちていく郁。そんな彼女を、ようやく到着した直人が受け止めた。

 

「あれ・・・隊長・・・」

 

「お疲れさん。だいぶ無茶したなぁ」

 

 感心や呆れを含んだ苦笑を浮かべる直人は、そう労いの言葉をかける。

 

「どうだった? 初めての実戦(・・・・・・)は」

 

「凄く・・・疲れました」

 

 そう呟くと同時に、郁のお腹が盛大に鳴る。

 

「そういえば昼食を食い損ねていたんだったな。帰ってご飯でも食べるか」

 

「・・・はい」

 

 白い破片が宙を舞う中、直人は郁を背負い、帰還の途についた。

 

 




無線の会話って難しいので、結構ふわっとした印象で書いています。
なのであまりつっこまないでください。
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