ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版)   作:軍曹

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エピローグ「そして、世界は変わりゆく」

二○二六年、五月―――

 

 南太平洋上を、複数の駆逐艦に守られた一隻の原子力空母が航行していた。

 

 巡航速度で日本の横須賀へ進路を取る「ジェラルド・R・フォード」の艦首甲板上に、一人の少女の姿。アメリカ海軍に復帰し、今年少佐へと昇進して部隊を率いることになったアリス・ベイカーである。

 

 あどけなさを残しつつも大人らしく成長した彼女の顔には、懐かしむような笑みが浮かんでいた。

 

「明日が楽しみかね?」

 

「あ、パパ―――いえ、失礼しました。ベイカー艦長」

 

「心配ない。今は周りに誰もいないからな」

 

 そんな彼女に声をかけたビル・ベイカーは、笑みを浮かべた。今やアメリカ海軍の最新鋭原子力空母の艦長となった彼だが、今はあの頃と変わらない、娘を愛する父親である。

 

「あれから三年、か・・・」

 

「あの戦いはね。あの部隊に入ったのはもうすぐ四年になるよ」

 

「もうそんなにか。時が経つのは速いなぁ」

 

「うん、本当に」

 

 ―――あの戦いの後、復活したアメリカ海軍ウィッチ隊に戻ったアリス。たった五人で南極点上のネウロイを撃破した英雄の一人として、今でも訓練の合間を縫って大きな式典やイベントに出席する多忙な日々を送っている。そのため本国にいるよりも任務で外洋に出ている時の方が、心が休まるという逆転現象が起きていた。

 

「本当に―――今なら隊長の気持ちがよくわかるよ・・・」

 

 アリスは乾いた笑みを浮かべる。そんな娘の様子を見て、ビルは非常に複雑そうな表情を浮かべる。

 

「お前だけじゃなく、あの戦いに参加した全員がそんな感じだからなぁ」

 

「まあね。宮城司令も定年退職した時、政治家にならないかと勧誘されたらしいし。丁寧にお断りして、今は田舎で農業を営んでいるけど」

 

 ちなみに彼とは今でも交流があり、時折育てた野菜等が送られてくる。

 

「―――ま、そのおかげで日本に行って皆に会える機会が多いからね。そこはうれしい所かな」

 

 今回の訪問は訓練を通して日本のウィッチ達と交流を深めることを目的としており、かつての仲間達が所属する部隊も含まれている。

 

「交流も大事だが、一番は部隊の練度向上が目的だ。そこは頼んだぞ、ベイカー少佐」

 

「任せてください、艦長」

 

 父親から艦長へと戻ったビルに、アリスはほれぼれするような笑みを浮かべながら敬礼をした。

 

 

 

 

 

 同じ頃、日本―――

 

「後一周! 全力でダッシュ!!」

 

「「は、はいぃ―――!」」

 

 厚木基地の一角にあるグラウンドで、今や伝説となった第九〇一飛行隊に所属するウィッチ達が全力疾走していた。

 

 今年配属されたばかりの新人ウィッチも容赦なく走らされ、全員息絶え絶えとなっているが、文句を言う者はいない。このくらいは出来て当たり前という風潮が自他共に存在し、なにより指示した本人が先頭で走っているからである。

 

 最後の力を振り絞り、ゴールまで全力で駆け抜けた彼女達は荒い息をついた。一部の新人ウィッチはそのまま地面に寝転がっている。

 

「よし、十分程休憩にするよ。柔軟と水分補給を忘れずに!」

 

「は、はいっ・・・」

 

 安堵の表情を浮かべた彼女達はタオルで汗を拭いたり、水分補給をしたりしている中、指示を出していた少女―――成長期を迎えて大人びてきた木佐貫智代はそう告げると、その輪から外れて一息ついた。

 

「ふぅ・・・」

 

「お疲れ様です。木佐貫さん」

 

「あ、若葉さん」

 

 智代に近づいてきたのは、二年前に結婚して名字が変わった“浦瀬”若葉だった。お互い元扶桑人という共通点を持つ二人の肩には、それぞれ一等海尉と二等海佐の肩章が付いている。肩書もそれぞれ飛行隊長と飛行隊司令と、大きく様変わりしていた。

 

「状態はどうですか?」

 

「やっぱり部隊間交流は早いですよ。他の部隊ならともかく、“九○一空(・・・・)”としては全然足りないと思われますね」

 

「九○一空といっても、残っているのは私達だけなんですけどねぇ」

 

 二人は困ったように、大きなため息をつく。

 

―――あの戦いの後、九○一空は伝説となった。

 

敵の戦力は不明、ドーム内の構造も不明、コアの位置も不明、おまけにあの極限の環境下という悪条件の中、たった五人でコアを破壊して人類を救ったという実績は九〇一空という名をこれ以上ないくらい世界に轟かせた。

 

現在九〇一空は“向こう側”における第五○一統合戦闘航空団“ストライクウィッチーズ”と同じような扱いとなり、日本最強の精鋭部隊として多くのウィッチ達が憧れる部隊となっている。しかしその実態と言えば、確かに十分以上の練度はあるものの、かつてのあのような戦いぶりは出来ない普通の精鋭部隊、というのが飛行隊司令、及び飛行隊隊長の見解だった。

 

「隊長やアリスはもちろん、有村さんもいませんからね。いくら人数が増えたと言っても、戦力的には・・・」

 

「元々ウィッチ隊は入れ替わりが激しいですし、五年もすれば完全に入れ替わっているような環境です。むしろあの時のほうが異常だったんです」

 

「たしかにそうですね。魔法力が衰えている男性ウィッチの隊長に扶桑海軍から来た若葉さん、アメリカ海軍から来たアリス・・・今思えば絶対に有り得ない組み合わせですよ」

 

「軍事的に見れば今のほうが遥かに健全です。定期的に新人が入ってきて、年齢的な穴もなし。各々も戦力的には平均化されているおかげでローテーションも組みやすい。やっと“理想の部隊”になりました」

 

 かつて所属していた扶桑海軍時代と同じような光景が“こちら側”でもようやく見ることが出来るようになったと、若葉は休息を取るウィッチ達を眺めながら笑みを浮かべた。

 

「元扶桑皇国軍人として肩の荷が下りた。といったところですね」

 

「ええ。これで私がいなくなっても部隊は回っていけると思います」

 

「・・・なにかあったんですか?」

 

 若葉の意味深な発言に、智代は怪訝な表情を浮かべる。

 

「まだ分かったばかりで直人さんにも伝えていないんですけど、実は―――」

 

 若葉は嬉しそうに話し始める。まだ夫にも伝えていない慶事に智代が驚くのは、この後すぐの事だった―――

 

 

 

 

 

「―――良かったんですか? あのような内容で」

 

「ええ、あれで問題ありません」

 

 山口県にある航空自衛隊防府北基地。航空自衛隊の操縦士達の初級操縦課程が行われているここでは航空自衛隊、ついでに海上自衛隊で航空ウィッチを目指す少女達の訓練が行われている。

 

 基地内の一角にある建物から出て来た浦瀬直人は、後ろを付いてくる部下にそう答えた。彼が言っているのは、先程まで行われていたウィッチ候補生達への講義で、途中までは技術的な内容や心構えといった内容だったが、一人のウィッチの質問から話が脱線していき、最終的にはウィッチの恋愛事情という話になってしまったのだ。自衛官(・・・)としては苦言を呈されても仕方がない。

 

「彼女達は自衛官ではありますが、その前にまだ小学校を出たばかりの少女です。色々多感な時期ですし、一般的な自衛官と同じように接するわけにはいかないんですよ」

 

「それはそうかもしれませんが・・・」

 

 直人よりも年上の彼は、自身の娘が彼女達と同じ年頃であるため理解は出来るものの、長年自衛官として生活してきた身としては、納得出来ないところもある。

 

「実際難しい問題ですよ。基本的に命令には従って貰わないと困りますが、魔法力は精神状態によって大きく変化するんです。どんな理不尽な命令にも従うのが自衛官ですが、ウィッチの場合、しっかりと納得してもらわないと全力を発揮出来ませんから」

 

 今では自衛隊におけるウィッチの存在は盤石なものになったものの、完全に受け入れられたわけではない。通常の部隊とウィッチ隊との連携がうまくいかないことが多々あり、良くも悪くも同じ“自衛官”として扱わない者も少なくない。

 

ウィッチの中にも“自衛官”である自覚が足りない者が少なからずおり、彼女達にどうやって意識付けるかは直人の大きな悩みの一つだった。

 

「なかなか難しい問題ですね」

 

「まあ、それでも(エクス)ウィッチの先輩として取り組んでいかないと。それが偉くなった者の責務です」

 

 ―――あの戦いが終わって間もなく、一等海佐に昇進したものの、ストライカーユニットを起動させるのすら困難になるほど急激に魔法力が衰えた直人はウィッチを引退することになり、現在では防衛省の広報部に籍を置く傍ら、各地に赴いて将来部隊を指揮するうえで必要な知識を学んでいる。もちろん“英雄”としていまだに舞い込んでくる広報の仕事をこなしつつ、ウィッチ達が任務に集中出来る環境作りをこなすなど、多忙な日々が続いていた。

 

「さて、そろそろ迎えのヘリに乗り込まないと。午後は市ヶ谷(防衛省)で会議だから、昼飯は戻ってからか―――と、失礼」

 

 直人はふと、ポケットに入っていたスマホが震えていることに気付いた。画面を見ると「若葉」と表示されている。丁度お昼時であり、向こうは休憩時間になっている時間帯だ。

 

「もしもし、どうした若葉」

 

 電話越しに聞こえてくる最愛の妻からの声。二条の白い航跡雲が伸びる青い空に、直人の驚いた声が響いたのは、それから数秒たった後だった。

 

 

 

 

 

―――眼下に見える瀬戸内海。かつてウィッチ候補生として訓練を行っていた防府基地や現在のホームベースである岩国基地も一望出来る雲一つない空を、有村郁は飛んでいた。

 

「本日も快晴なり―――と」

 

 三年前と比べて身長だけはそこそこ伸びた彼女は、現在は三等海佐となり、二年前に新設された第九〇二飛行隊隊長として七名の部下をまとめている。

 

「隊長はいつも楽しそうに飛んでいますね」

 

郁の後ろについて飛んでいた、今年配属されたばかりの新人ウィッチがそう尋ねる。

 

「空が好きだからね。特こんな良い天気の日に飛べば気持ちがいいもの」

 

「確かにそうですね。自然と気分が良くなってきます」

 

「それに―――」

 

「それに?」

 

「―――地上だと色々と、ね・・・」

 

「ああ・・・」

 

 その表情を見て、新人は察する。 “北米紛争の英雄”である直人の一番弟子であり、自衛隊でも珍しい刀使いという事も相まって、海上自衛隊の顔として積極的に利用されている。そのため世間の認知度が高く、素顔で街に出るのが厳しいほどだった。

 

「基地内では大体慣れて来たみたいで、それほど注目されなくなったけど、基地に来たばかりの人とからはね」

 

「着任したばかりの米軍のお偉い人が、基地の案内がてら私達(九〇二空)の所に顔を出してくるとかですね」

 

「芸能人じゃないのに、サインを書く機会が多いのはなぁ・・・」

 

 まさに昨日あった出来事を思い出し、郁は思わずため息をつく。今の彼女にとって、休日よりも空を飛ぶ時の方が良い気分転換になっていた。

 

「―――日常を守るって、大変なんだなぁ」

 

「? なにか言いましたか?」

 

「ううん、なにも」

 

 郁は軽く頭を横に振り、前を向く。

 

(日常―――うん、これも日常なんだよね)

 

 世界は大きく変わってしまった―――

 

 異世界への扉(ゲート)の出現による異世界との交流。ネウロイという人類の敵の出現。文明、あるいは人類存亡の危機。そしてウィッチの出現。

 

 ここ十数年で少なくない数の国が崩壊し、日本も決して安泰とは言えない状態が続いているが、人間同士の争いは大きく減り、少しずつではあるがネウロイに対抗すべく手を取り合おうという動きが出てきている。

 

 世界は変わりゆく―――だが、明日を無条件に信じられる“日常”は今も続いている。

 

「さ、今日も頑張ろうか」

 

 そう呟く郁は、今日も青く広い空を飛ぶのであった。

 




「ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界で」を読んで頂き、誠にありがとうございました。本来ならば去年のうちに完結させる予定でしたが、なんやかんやで伸びてしまい申し訳ございません。

 元々は前作「ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記」のアフターストーリーとして「ストライクウィッチーズ1991~2012 異世界をつなぐ扉」、そしてその十年後の物語として本作を書く予定でした。しかし色々と設定に無理が生じてきたこと、物語をまとめきれなくなったこと、何より“ストライクウィッチーズ”の物語を書くモチベーションが下がったこと(他にも理由はありますが・・・)で中途半端な状態で投げ出してしまいました。しかし2020年の「ROAD to BERLIN」が放送されたことで再び創作意欲が湧き、本作を書くことにしました。

 当初は「ストライクウィッチーズ 続・影のエース戦記」の設定を変更したうえで一から書き直していたのですが、既に完結している作品をもう一度書き直すのはどうかと思い直し、中途半端に投げ出している「2022」をリファインする形で本作が生まれました。そのため直人や若葉、洋子等前作でも登場していたキャラが設定を修正したうえで登場しています。

 今回は物語をオリジナルとし、またそこまで風呂敷を広げないと決めていた関係上、色々カットした物語も少なくありません。時間があれば外伝とかも書いていきたいと思います。

 最後にもう一度となりますが、本作を読んで頂き、誠にありがとうございました。
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