ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版)   作:軍曹

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第二話「洋上訓練」

『ドルフォン3、着艦を許可する』

 

「了解。ドルフィン3、これより着艦を開始します」

 

 眼下に見えた、蒼い海に浮かぶ一隻の艦。中央右側にそびえ立つ艦橋を除けば、平べったい甲板が特徴の護衛艦「いずも」である。

 

 ヘリコプターを効率よく運用するために全通甲板が採用され、武装は最小限のその艦は複数の護衛艦を従える旗艦として建造され、現在はウィッチ達が洋上で活動する際の母艦として活躍していた。

 

 右眼用のディスプレイがついたヘッドセットと部隊帽を被り、第三種制服用のワイシャツに黒のスパッツと、空を飛ぶ際によく選ぶ服装の郁は、足に装着した「蒼莱」の出力を落としつつ、航行中の「いずも」に接近する。

 

 ウィッチは通常飛行時、地面に対してうつ伏せに寝そべるような体勢で飛行しているが、離着陸時は上体を起こし、立った状態で行う。それは発着艦時も基本的に変わらないが、滑走出来る距離が短いため可能な限り速度を落とし、「いずも」にいたってはほぼ相対速度をゼロにすることが推奨されている。

 

 ストライカーユニットは構造上垂直離着陸も可能なのだが、離陸はともかく着陸は難しいとされ、誰でも出来るものではない。特に空中で完全に停止するのは、風の影響等からどんなエースウィッチでも不可能に近いと言われている。一応魔導エンジンの推力をコンピュータ制御することでそれを可能としたユニットもあるが、余計な装備を搭載した分性能が落ちてしまい主流となっていない。「蒼莱」は勿論そんなものは搭載しておらず、本来は大型航空母艦並みの設備が必要なユニットであったが、ウィッチの技量があれば「いずも」でも運用可能だったため採用されたのだった。

 

 郁は十分速度を落としたと判断し、上体を起こす。そして特徴である可動翼を大きく広げた「蒼莱」からタイヤのついた脚を下ろす。

 

 飛行甲板上空に差し掛かり、航行する「いずも」と速度を合わせつつゆっくりと降下し、やがて脚が沈み込んで無事艦上に降り立った。

 

「ふぅ―――ドルフィン3、着艦しました」

 

『ドルフィン3、お疲れ。休憩に入っていいぞ』

 

「了解」

 

 まだ魔導エンジンが動く中、甲板作業員が郁のユニットを手押しで動かす。次に着艦するウィッチ―――ドルフィン4こと智代のために飛行甲板を空けなければならないからだ。艦の後方に目を向けると、既に水兵服姿の彼女がアプローチを始めている。

 

「ありゃあ、高度が高いな」

 

 懸架装置にユニットが固定され、足を抜いてひと息ついた郁の耳に整備班長の声が届いた。確かに高度が高く、このままでは艦に降りられないだろう。

 

『ドルフィン4、高度が高い。もう少し出力を下げろ』

 

『いやいや、十分低いですって!? これ以上下げると失速しちゃいますっ!』

 

『お前はいつ降りるつもりだ。―――ああもう、着艦やり直し』

 

『そんなぁっ!?』

 

「中々面白いことになっているじゃないか」

 

 郁は気を効かせてヘッドセットを外し、音量を最大にして周囲にも聞こえるようにしていたため、今のやり取りは整備員達にも聞こえていた。班長は愉快そうに口元に笑みを浮かべながら呟く。

 

「私も、最初の頃はあんな感じでしたね」

 

「一昨年だったか。ま、最初は誰だって高度を下げられないもんさ」

 

 陸上の滑走路に降りるのとは違い、広い大海原に浮かぶ艦は例えそれが300メートルを超える超大型原子力空母でも、上空から見れば小さく頼りなく見えてしまう。おまけに周囲には島影一つないため、万が一墜落したら深い海の上を漂流することになる。いくら救助用のヘリコプターが上空で待機しているとはいえ、高度を下げるのは勇気のいることだ。

 

智代が飛行甲板上空を通過し、大きく旋回を始める。その姿を見送っていると、若葉がやってきた。郁は敬礼しつつ尋ねる。

 

「北条三佐。どうしたんですか?」

 

「木佐貫さんが着艦出来なかった場合に備えて、空に上がっておこうと思いまして。そろそろ魔法力も心許なくなってくる頃ですから」

 

 彼女は既にヘッドセットを装着し、第三種夏服用のワイシャツに素足と飛行するための準備を整えている。ワイシャツの裾からは、当たり前のように紺色のボディスーツが見え隠れしている。

 

「確かに、木佐貫は飛び始めてからだいぶ時間が経っているな」

 

「初めての発着艦ですし、今日はこれくらいにしておいたほうが良いかと」

 

「まあ、あそこまで高度を下げられれば十分合格だな―――よしっ! 北条三佐を上げるぞ! 準備急げ!」

 

 後ろ頭をかいていた班長は矢継ぎ早に部下達へ指示を飛ばすと、一気に慌ただしくなる。

 

「それじゃあ有村さん。少し行ってきますね」

 

「わかりました。お気を付けて」

 

 有村が敬礼すると若葉は懸架装置に登り、自分のユニットに足を滑らせる。体が青白く輝くと、使い魔である三毛猫と耳と尻尾が生えてきた。

 

『魔導エンジン始動―――回転数上昇、異常なし』

 

 エンジン音が鳴り響く中、各所のチェックを行っていく。やがて全て問題ないことを確認すると、懸架装置から離れて飛行甲板へとゆっくり進む。管制から発艦許可が降りた彼女は一旦止まり、ブレーキを掛けながら出力を上げつつ、自身を中心に大きな魔法陣を展開する。

 

『ドルフィン2、発進!』

 

 郁が見守る中、掛け声とともに一気に加速した若葉は馬の尾のように束ねた長い黒髪を靡かせながら、大空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 ―――日本人にとって、お風呂とは命の洗濯である。

 

それはどんなに鍛えられた自衛官であっても変わらない。ましてや十代のうら若き乙女である郁達からしてみれば、お風呂に入ることなどあたりまえの日常に過ぎないだろう。

 

「はぁ―――・・・疲れた」

 

「明日も発着艦訓練だし、今日はゆっくり休もう」

 

「うん、そうする」

 

 「いずも」艦内にある風呂場は、殺風景なのを除けば十分な広さがある。本来は大人数で入ることを想定されている浴槽に、現在は郁と智代、若葉の三人だけ。湯気が立ち上る室内で、彼女達はゆったりと湯船に浸かっていた。

 

「結局、今日は一人で降りられなかったなー・・・」

 

 智代は浴槽のフチに寄りかかり、気を落とす。本日の発着艦訓練では結局一人で着艦することが出来ず、最終的に若葉に手を引かれた着艦したのだ。まだ実戦を経験していないとはいえ、それなりに自分の技量に自信を持っていた彼女にとって、初めての挫折だった。

 

「最初は誰だってあんな感じですよ。有村さんもそうでしたし、私に至っては失速して海に落ちちゃいましたから」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。あのときはユニットを駄目にしてしまって、教官に怒られました」

 

 若葉は海上自衛隊ウィッチ隊が設立されるにあたり、扶桑皇国海軍から派遣されたベテランウィッチである。

 

魔法力が衰えない家系に生まれたため、二十歳を超えた今でも最前線で戦い続けられる稀有な人材だが、部隊運用が軌道に乗るまで長い年月がかかることから長期的にサポートしてくれるベテランウィッチが必要という海自の要望により、彼女は“こちら側”にやってきたのだ。

 

 そんな彼女にとって初めての訓練は十年以上も前の、今では懐かしい思い出であった。

 

「意外ですね。北条さんが墜落するなんて」

 

「私だって昔はひよっ子でしたよ。それこそ当時はまだ智代ちゃんくらいの背丈しかなかったですし」

 

「・・・・・・」

 

 郁と智代は、黙って若葉に目を向ける。

 

二十六歳になる彼女の身長は一六○センチほど。美人と可愛らしさが両立した容姿に、女性でも羨むようなプロポーションの身体が湯船に浸かっている。きめ細やかな肌は水を弾き、髪をまとめているため普段は隠れているうなじが顔を覗かせており、どことなく大人の色気を感じられた。

 

 ―――翻って、自分達はどうだろうか。

 

焦げ茶色の長い髪の郁はあまり感情を表に出さず冷静沈着なのに対し、短い茶髪の智代は表情豊かで天真爛漫という違いはあるが、世間からは美少女に分類されるくらいに容姿は優れている。ただ二人共身長は一四○センチ代と小柄でぺったんこと、とてもではないが大人の女性には見えない。まだまだ成長期の智代はともかく、今年で十六歳になる郁にいたっては、成長の気配が感じられない。

 

「どうかしましたか?」

 

「―――いえ、なんでも」

 

「―――持てる者と持たざる者の違いについて、考えていただけですから」

 

「?」

 

 よくわからないことを呟く郁達を見て、若葉は首を傾げた。

 

「・・・それにしても、お風呂に入れるのはいいけど、海水なのはちょっとなぁ」

 

 自分はまだ成長の余地があるという心理的余裕から先に立ち直った智代は、今入っているお風呂の水をすくいながら愚痴をこぼす。今入っている湯船の水は浄化しているものの、その場で汲み上げた海水を温めたものなのだ。

 

「最後に真水のシャワーを浴びられるし、特に問題はないよ。湯船に浸かれるだけで十分」

 

「真水は貴重ですからね。毎日入れるだけでも贅沢ですよ」

 

「それはそうだけど・・・」

 

 船内において昔から真水は貴重で、それは現代でも変わりない。もちろん造水機という海水を濾過して真水を生成する装置が護衛艦には搭載されているものの、陸上と同じような使い方をするにはとてもではないが足りないのだ。当然乗組員には節水が求められ、シャワーはともかく風呂は数日おきに入るのが当たり前となっている。

 

 しかし、大人ならともかく、ウィッチという未成年の少女はそうもいかない。若い人は汗をかきやすく、当然体は汚れる。シャワーだけで問題ないという人もいないわけではないが、ゆっくり湯船に浸かりたいと思うのは当然のことだ。

 

 お風呂にはリラックス効果も期待され、魔法力は精神的にも左右されるウィッチの特性もあり、海上自衛隊は可能な限り毎日ウィッチがお風呂に入れるよう、規則を一部変更したのだった。

 

「昔はたとえウィッチでも毎日お風呂なんて入れず、桶に真水を貰って体を拭いていたそうですよ。流石にそれは半世紀以上前の話ですけど」

 

「うわぁ・・・私、そんな時代に生まれなくてよかった。時代に感謝だね」

 

「―――智代はなんで海自に?」

 

 郁は、今の発言から降って湧いてきた純粋な疑問から、彼女に尋ねる。

 

「んーやっぱ、憧れかな? 私がまだ扶桑にいた頃、セーラー服姿のウィッチを見てかっこいいなぁって思ってね。あとは説明会で面白そうだと思ったから」

 

「お、面白そう・・・」

 

 思わず苦笑いを浮かべる若葉。日本における航空ウィッチの育成は全て空自に移管しており、任官する際に海自と空自どちらかを希望する事が出来るのだが、海自を希望するウィッチはほとんど現れず、毎年直人と若葉がアピールしに説明会を開いている。説明自体は真面目にやっているのだが、直人は良くも悪くもありのままに話すため希望者が全く増えておらず、むしろあの説明を聞いて海自に来た郁や智代に驚いたほどだ。

 

「郁はどうして海自に来たの?」

 

「私は・・・見たことのない景色が見られると思ったからかな」

 

「見たことのない景色?」

 

「うん。一言で空っていわれるけど、同じ時は一つもないの。雲がある時、夕暮れの時、星が煌めく時―――同じ場所で見ても、これだけ景色が変わる。だから他のところから見れば、もっと色々な空の景色が見られると思ったの」

 

 空は一つとして同じ時はない―――それはウィッチになり、それまで地上から眺めていた空に上がって感じたこと。それまで旅客機には乗ったことはあったが、まるで自分が鳥になったように飛んだからこそ気付けたのだ。

 

「説明会の時、世界各地に展開する可能性があるって言っていたのが印象的だった。ネウロイと戦うとはいえ、遠くへ行くにはいいなって」

 

「あれって、一番断られる理由なんですけどね・・・まあそれでも、やりたいことがあるのは良いことです」

 

 表情が苦笑から微笑みに変わった若葉は立ち上がる。

 

「訓練は大変ですし、ネウロイとの戦いも決して楽ではありませんけど、頑張りましょう。さあ、もう上がりましょうか。あまり長居すると怒られますから」

 

「はい!」

 

 郁と智代の声が、重なった。

 

 

 

 

 

「あー気持ちよかった!」

 

「これで明日も頑張れそうだね」

 

 お風呂から上がった郁と智代は若葉と別れ、飛行甲板に来ていた。

 

 月明かりが波面を照らし、船体が波を切り裂く音が聞こえる。涼しい風が吹いており、火照った体はそれが心地よいと感じる。

 

「おおっ、凄い! 星が綺麗に見える!」

 

「周囲に明かりがないからね。ただ今日は月が出ているから、これでも少ないほうだと思う」

 

 夜空には無数の星が煌めいており、その数は厚木で見る空と比べて多い。もし新月であれば、もっと星が見えていただろう。

 

「空かぁ・・・確かに、こうやって改めて見ると、ぜんぜん違うね」

 

「うん。あそこに北極星が見えるけど、もっと南下して赤道を超えれば、代わりに南十字星が見えてくるはずだよ」

 

「へぇ、見てみたいなぁ」

 

 ウィッチとしてネウロイと戦う定めの彼女達は、この時ばかりは純粋に目を輝かせ、幻想的な夜空に目を奪われていた。

 

「―――あれっ?」

 

 ふと、智代は甲板上に人影があることに気付く。艦橋の脇で胡座をかき、缶ジュース片手に談笑する二人の男性。そのうちの一人は彼女達のよく知る人物である。

 

「隊長?」

 

「ん? 木佐貫、それに有村。どうしたんだこんな夜に」

 

「少し夜空を眺めに・・・それより、そちらの方は」

 

 直人の隣にいたのは、彼と同い年くらいの若い男性。大柄な体格に、何処か厳ついながら愛嬌を感じさせる風貌の彼は、青い作業服に二等海曹の肩章をつけていた。

 

「一応紹介しておくか。「いずも」の航海科、田所祐次二等海曹だ」

 

「田所二等海曹です! よろしくおねがいしますっ!」

 

 田所と呼ばれた男は突然立ち上がって敬礼する。突然の素早い動きに二人が驚き、直人は苦笑を浮かべる。

 

「そこまで畏まらなくていいだろうが」

 

「いえ、上官ですから!」

 

「ええと、普通に接して貰って大丈夫です。私達今は非番ですから」

 

「あ、そう? じゃあそうさせて貰うわ」

 

 郁がそう告げると、それまで真面目な表情を浮かべていた祐次は途端に相好を崩した。

 

「何だよ、その素早い変わり身は」

 

「しょうがねぇだろ。階級差は歴然なんだから」

 

「まあ、たしかに、な・・・」

 

「・・・えっと、隊長と田所さんって、どういう関係なんですか?」

 

 一瞬笑顔が曇った直人だったが、智代に尋ねられて元の表情に戻る。

 

「ああ、田所とは中学時代からの知り合いなんだよ」

 

「ついでにいうと、自衛官候補生時代の同期でもあるぜ。こいつは教育期間中に魔法力が“発現”したせいで、途中でいなくなっちまったが」

 

「自衛官候補生って、確か二士から始まる・・・」

 

「そうそう、自衛隊で下っ端中の下っ端。俺達は高校卒業と同時に自衛隊の門を叩いたんだよ」

 

「隊長って、最初は一番の下っ端だったんですね」

 

「教育期間中は階級がないし、ウィッチなった時に飛行幹部候補生扱いになったから、公式には曹長が始まりだけどな」

 

 十年前、ゲートが出現して数日後、当時自衛官候補生として教育期間中だった直人は、起床時に自身の頭とお尻から黒柴の耳と尻尾が生えていることに気付き、騒ぎを聞いて駆けつけた教官が基地の警備隊に連絡、拘束されるという大騒動に発展した。

 

 その後、彼が“向こう側”でも極めてまれな男性ウィッチであることがわかったものの、自衛隊としてもどのように扱ったら良いか分からず、取り敢えず来訪中の扶桑海軍に預けられることになったのだ。

 

「あの時の騒動は今でも笑えるぜ。最初は何コスプレしてんだってなって、実際に生えているものだってわかった後は、やれ憑依だ妖怪だと大騒ぎ。基地司令なんて実弾発砲許可まで出そうとしていたらしいからな」

 

「あの時の教官、実際に生えているものだってわかった時の表情は凄かったな」

 

「そんな大げさな・・・」

 

 智代は苦笑いを浮かべるが、当時の彼らからしてみれば至って真面目な対応だろうと、“こちら側”出身の三人は反論する。

 

「いやいや、俺達の世界には魔法なんてものはなかったからな。全部物語の中の出来事でしかなかったし」

 

「昔は魔法だ妖怪だなんて言われていたこともあったけど、その大体が科学で解明されたから、存在しないもの扱いだったんだよ」

 

「魔法とかウィッチとか、ここ十年でようやく認知されたものだから。初めての出来事に驚くのもしょうがない」

 

「まあ、それもそっか」

 

 世界が違えば常識も違う。改めて智代はこの言葉の意味を理解したのだった。

 

「―――さて。お前ら、そろそろ艦内に戻って休んだほうが良いぞ。明日も朝から訓練だからな」

 

 ふと直人は腕時計に目を向けると、就寝時刻に近づいていることに気付いた。おまけに二人は風呂上がり。このままでは湯冷めするだろう。

 

「はい。わかりました」

 

「隊長、お休みなさい」

 

 素直に従った郁と智代は敬礼し、艦内に戻っていく。その姿を見送っていた直人も立ち上がり、大きく伸びをした。

 

「俺もそろそろ戻るか。明日までに出す報告書が残っているからなぁ」

 

「大変だな。英雄サマは」

 

「全くだ。不相応に階級は高いし、仕事も多いし、嫉妬も多い。英雄なんかになるもんじゃないよ、本当に」

 

 苦笑を浮かべる祐次に、直人はため息を付いてそう呟く。

 

 “北米紛争の英雄”と呼ばれるようになり、直人の扱いは大きく変わった。称賛、嫉妬、すり寄り―――親しかった友人も、その殆どが接し方を変えてしまっている。昔から変わらないのは祐次を含めた極僅かな人しかいない。極短期間だった自衛官候補生時代も大変ではあったが、精神的には遥かに気楽だったと今でも懐かしむことがある。

 

「―――あんまり根つめんなよ。愚痴くらいは聞いてやるから」

 

「悪いな」

 

「気にすんな」

 

 二人は相対し、笑みを浮かべる。言葉こそ少ないが、そこには確かな信頼関係があった。

 

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