ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版)   作:軍曹

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まずは前話について。

 最近現役の海上自衛官とお話する機会があったのですが、現在の護衛艦は造水機の能力が向上したことで、乗組員は基本的に毎日お風呂に入れるらしいです。物語では修正しませんが、現実と異なっていることにご注意ください。

 あと、今回からどこかで見たような名字の登場人物が出ますが、前作の主人公とは一切関係ないのであしからずご了承ください。




第三話「第三五一飛行隊」

―――九○一空の洋上訓練は続いていた。

 

 初日は着艦出来なかった智代だったが、二日目の午後にはようやく着艦に成功し、以降はコツを掴んだのか、危なげなく発着艦をこなせるようになっている。

 

 その後は「いずも」だけではなく、他の護衛艦の後部ヘリ甲板への発着艦訓練に始まり、艦隊と連携した防空訓練、逆に艦隊を標的にした対艦攻撃訓練等、短い期間で内容の濃い訓練スケジュールを消化していた。

 

 そして本日は他部隊との模擬空戦。空自のウィッチ隊と九○一空による訓練が行われる予定である。

 

「こちらドルフィン1、まもなく予定空域に到達」

 

 黒柴の犬耳と尻尾、ヘッドセットに第三種夏服のワイシャツ、短パン型の水着を履いたドルフィン1こと直人は相手側に連絡を入れている。それを聞いていた僚機の郁は彼に尋ねた。

 

「隊長、良く模擬空戦を引き受けてくれましたね。スケジュールが大幅に変わったのに」

 

「あいつら・・・というより、あいつなら無茶してでも模擬空戦をしたがるだろうよ。その代わり俺が大変になるけど」

 

「大変?」

 

「いや、こっちの話だ」

 

 航空自衛隊第三五一飛行隊―――

 

 石川県小松基地に所属する空自が初めて設立した航空ウィッチ隊で、既に何度も実戦経験が有る優秀なウィッチ達が揃った精鋭部隊である。彼女達は日々日本の領空を守るためアラート任務についており、他部隊との訓練時間を設けることが中々出来ないと言われているが、そんな部隊のウィッチと模擬空戦すると聞いた時、郁は驚いた。

 

 確かに今回の訓練は以前から決定していたものの、九月以降に予定されていた多国間演習が早まった影響で、二回に分けて行われるはずだった訓練が僅かに期間を延長して一回に纏められている。当然各所にその皺寄せが来ており、訓練相手が大きく変わっていた。

 

しかし、三五一空だけは当初と変わらず、快く引き受けてくれたという。奇跡的に都合がついたらしいとのことだが、直人と若葉の様子を見ると、別の理由ではないかと郁は考えていたのだ。

 

 直人は郁だけでなく、少々離れて飛ぶ若葉や智代にも聞こえるよう声を出す。普通の航空機なら無線を使用しなければならないが、生身で飛んでいるに等しいウィッチだから可能なことである。

 

「改めて説明するけど、今回は三五一空相手に四対四(・・・)の模擬空戦だ。有村と木佐貫はしっかり長機についていくように」

 

「了解」

 

「了解です」

 

「よし、あとは相手と合流するだけだな―――はっ?」

 

 その時、直人のレーダーが複数の機影を捉え、思わず素っ頓狂な声をあげた。

 

“向こう側”の1940年代に起きた第二次ネウロイ大戦以降、ストライカーユニットには電波探知機―――要するにレーダーが搭載されるようになって来ている。かつては魔導針と呼ばれる固有魔法を持つウィッチに比べると精度が低く、探知距離も短かったが、現在では精度、探知距離共に遜色ない程度まで向上している。

 

 探知したのは反応的にウィッチであることは間違いない。しかし問題はその数。一個飛行隊の定数である十二名分(・・・・)の反応があった。

 

「う、浦瀬二佐。これって・・・?」

 

「北条さん、ちょっと待って―――こちら海上自衛隊第九○一飛行隊! 航空自衛隊第三五一飛行隊、応答せよ!」

 

 若葉にそう返しつつ、直人は相手に無線を入れる。すると早速相手からの返事が返ってきた。

 

『こちら航空自衛隊第三五一飛行隊、聞こえているわよ』

 

「聞こえているよ、じゃないっ! なんでそっちは十二人もいるんだよっ!」

 

『何言っているの。あんたがお互い全力で戦いましょうって言ったんじゃない。だからうちの全戦力で迎え撃とうと思ったのよ』

 

「それは社交辞令だろっ! 何処に四対十二で挑むバカがいるっ!?」

 

『うるさいわね。―――ほら、もう見えてきたでしょ?』

 

 無線から聞こえてきた言葉通り、前方に全部で十二個の黒点が見えてきた。先頭を飛んでいるウィッチはこちらに向けて手を降っている。

 

「やっほー! 久し振りねっ!」

 

 ダークブラウンの短髪、半袖の白い小袖に短い緋袴姿、柴犬の耳と尻尾が生え、航空自衛隊の主力ストライカーユニット、81式制空戦闘脚「旋風」を履いたウィッチはそのまま先行し、声が届く距離まで近づいて空中で静止する。

 

「航空自衛隊第三五一飛行隊、只今参上! さあっ、お互い全力で戦いましょっ!!」

 

 三五一空の隊長を務めるウィッチ―――上坂洋子三等空佐はそう言って、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 上坂洋子―――

 

 元扶桑皇国空軍出身。扶桑人とカールスラント人の間に生まれた子供の子供―――つまりクォーターで、“向こう側”では名で知られたエースウィッチの一人である。

 

 固有魔法こそないものの空戦技術は超一流で、大型ネウロイの攻撃をシールドすら使わずに避けながら接近、扶桑刀で次々屠ってきた歴戦の猛者だが、同時に猪突猛進な性格が軍隊と致命的に相性が悪く、扶桑空軍では問題児中の問題児として頭痛の種となっていた。

 

 彼女は魔法力が衰えない家系の生まれで、他のウィッチのように“あがり”がない。いつ退役するか検討もつかず、かといって昇進させてもデスクワーク出来るとは思えず、どのように扱うべきか頭を悩ませていた所、日本の航空自衛隊がウィッチ隊を設立する話が舞い込んできたのだ。

 

ウィッチ隊の設立と簡単に言えど、これまで魔法などなかった世界。部隊運用が軌道に乗るまで長い年月が掛かるのは明白で、その間にもネウロイは散発的に出現することが予想される。教育だけなら“あがり”を迎えた元ウィッチだけで問題はないが、それまでの間は日本を守れるベテランウィッチが必要で、そうすると洋子はまさにうってつけの人材だった。

 

 かくして彼女は日本国航空自衛隊に出向し、暫くの間日本の防空に寄与することとなったのだが、思いのほか日本を気に入ってしまい、今年部隊運用が軌道に乗ったと判断されたことで帰国命令が来たもののこれを一蹴。扶桑空軍へ辞表を叩きつけ、日本国籍取得と共に、正式に航空自衛隊に所属することになった。

 

 余談だが、彼女が辞表を出した時、それを受け取った扶桑空軍士官はホッとした表情を浮かべていたらしい―――

 

 

 

 

 

「ぜ、全力で戦いましょうって・・・」

 

「あの、こっちは四人・・・」

 

 郁と智代の口から、思わず言葉が漏れる。

 

お互いの声が聞こえる距離でホバリングしている状況。九○一空の面々どころか、洋子を除いた三五一空の面々も呆れた表情を浮かべている。

 

「あの、洋子・・・?」

 

「若葉、久し振りね! 元気にしてた?」

 

「あ、うん。私は元気だけど・・・」

 

 扶桑時代からの親友で同い年の若葉が思い切って声をかけるも、洋子の反応に勢いがなくなる。昔から彼女は相手を自分のペースに持ち込むのが得意で、若葉はいつも彼女の所業を止めようとするも、なんだかんだ押し切られてしまっていた。

 

「上坂! お前というやつは・・・!」

 

「こっちだってわざわざ訓練の時期をずらしてあげたのよ? 少しくらいこっちの主張を入れてもいいじゃない」

 

「それはそうだが・・・」

 

 直人も抗議の声を上げるが、いかんせん先に予定変更をお願いしたのはこちら側であり、そのことを持ち出されるとあまり強く言えない。

 

「それに連携も重要だけど、まずは複数の敵に囲まれた場合の対処を覚えたほうが良いわ。どうせ二対二の訓練は部隊でやっていたでしょうしね」

 

「むぅ・・・」

 

 確かに、洋子の言い分にも一理ある。出現するネウロイは300メートル級の超大型から数メートルサイズの小型まで多種多様であり、一機で来ることもあれば数え切れないほど無数の小型ネウロイを吐き出してくるものもいる。そうなると常に周囲に気を配らなければならず、一対多数の戦い方を身に付けなければ生き残れないだろう。一応部隊内の訓練でも一対三の模擬空戦を行っているが、最近はお互いの動きを理解しているためか、あまり有益な訓練とはいえなくなってきていた。

 

「しかし、こちらにも訓練の順序というものがあって・・・」

 

「実戦に順序なんて関係ないわ。必要なのはどんな状況に陥っても、冷静に対処出来る技術と精神よ」

 

 そう言うと洋子は背負っていた刀を抜き、魔法力によって刀身が青白く輝くそれを構える。そして話は終わったと言わんばかりに、部下達に告げる。

 

「それじゃあ事前の通達どおり、連携して各個撃破しなさい。私はあいつとタイマン張るから、邪魔しないようにね」

 

「ちょっと待て! お前それ真剣―――!?」

 

「問答無用! 行くわよ!!」

 

 直人の声を無視し、洋子は彼に襲いかかる。

 

―――九○一空と三五一空の模擬空戦が、いざ始まった。

 

 

 

 

 

「先手必勝!」

 

 本来模擬空戦は、オレンジ色の訓練銃から発射されるペイント弾で行われる。これは“向こう側”で古くから行われている方法で、被弾してもほとんど衝撃はなく、付着するだけで身体的影響はまったくないという安全な魔法の塗料が使用されている。無論着衣等は汚れるため洗濯は大変だが、実際に撃ち合うという感覚が実戦的と評価されていた。

 

 今回の模擬空戦はこの方式で行われる予定であり、直人は普段実戦で使用する89式小銃を模した訓練銃を持って来ている。しかし洋子は訓練銃を持たず、あるのは手に持つ扶桑刀のみ。刀剣による模擬空戦自体はあるものの、今回は全く対応していなかった。

 

「危なっ!?」

 

 刀を持って突撃してきた洋子を、直人は体を捻って躱す。そしてすぐに振り返って彼女の背中に訓練中の銃口を向けようとしたが、その動作が間に合わないことを予知する(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「ちぃっ―――!」

 

 訓練銃を投げ捨てた直人は背負っていた日本刀を抜き、襲いかかってきた刀を受け止めた。

 

「反応の良さは流石ね!!」

 

「そりゃあどうもっ! お前のせいで機材紛失の書類が一枚増えたわ!!」

 

 本来刀身で相手の攻撃を受け止めれば刃こぼれするか、最悪折れてしまう。しかし二人の持つ刀には魔法力が込められているため、そう簡単に刃こぼれすることはない。洋子は体勢を立て直すため、一旦直人から離れた。

 

「くぅ~っ、やっぱりこれよ! 刀による近接格闘戦! 扶桑撫子ならこうでなくっちゃ!!」

 

「無闇矢鱈と刀を振り回す扶桑撫子がいてたまるか!」

 

「若葉も十分強いけど、刀剣は一切使わないから、模擬空戦がちょっと物足りないのよねぇ。日本じゃ実戦で刀を使えるの、あんたくらいしかいないし、定期的に戦わないと腕が落ちて困るのよ」

 

「だからって突然仕掛けてくるなよ、本当に・・・」

 

 心底あれきた表情を浮かべる直人。彼も自身の腕が錆びるのは困るため、刀による格闘戦を行う事自体はむしろ歓迎している。だが事前準備というものは大切で、そもそも今回は編隊飛行時の連携を取るための訓練だった。その計画は完全に崩れてしまっている。

 

「ふっふっふ! それじゃあ刀を落とすか、参ったって言ったほうが負けよ!」

 

「上等っ! 今日こそその性根、叩き直してやるっ!!」

 

 嬉々とする洋子と、訓練後の始末を思い浮かべて自棄になった直人は、その刀身に魔法力を込めて戦い始めた。

 

 

 

 

 

「全く、洋子ったら・・・」

 

 ため息をついた若葉は、現在四人のウィッチに追われていた。

 

 三五一空のウィッチ達は精鋭と呼ばれるだけのことはあり、しっかりと連携を取って追いかけてきている。ただ彼女達の表情には、何処か緊張の色が見えていることを若葉は見逃さない。

 

(私を追いかけているのは、恐らくまだ新人の子達・・・なるほど、あっちも連携訓練を行いたかったのね)

 

 なら先にそうと言ってくれればよかったのにと、若葉は鍔迫り合いをしている二人を一瞥する。

 

 あの二人だけ一対一の格闘戦になっているが、決着がつくのは相当長くなるだろう。なにせ洋子は“向こう側”における最強ウィッチの一人と称されたエースだが、直人もまた“こちら側”におけるエースの一人だからである。彼は二十八歳と既に“あがり”を迎えてシールドすら満足に張れないが、“未来予知”という少し先の未来を感じ取れる固有魔法があるため、現在でも最前線で戦える稀有な人材なのだ。

 

彼女の猛攻を防げるのも、未来予知とこれまでの経験があるからこそ。ただウィッチ相手には積極的に攻撃を仕掛けられないらしく、防戦が主体となっている。攻勢に出たから一瞬で決着がつくというわけではないが、少なくとも長期戦になることだけは確かだった。

 

「―――なら、私も少々本気を出そうかしら」

 

 若葉は口元に笑みを浮かべる。それは普段通りの優しそうな、しかしどこか獲物を見つけた肉食獣のそれに似ていた。

 

 ―――現在は日本国海上自衛隊に出向中である若葉だが、かつては扶桑皇国海軍空母機動部隊に所属するウィッチ隊の隊長を務めていたこともある、歴戦のウィッチである。

 

 彼女の固有魔法は“治癒魔法”という怪我や病気を治す事が出来るもので、貴重な固有魔法ではあるが、戦闘には一切寄与しないものである。しかしその腕は二十歳を超えても衰えるどころかむしろ更に磨かれ、直人や洋子と違って刀による近接格闘戦闘は出来ないものの、それ以外に関しては同等かそれ以上と、あらゆる戦局に対応出来る万能のエースであった。

 

 後方から飛んでくる四つの火線を、若葉はバレルロールで軽やかに避ける。そしてマニューバによって速度を落とした彼女を追い抜いてしまったウィッチの背中に、訓練銃の照準を合わせて引き金を引く。

 

「きゃっ!?」

 

 四人のうち、背後を取られると察した瞬間に加速を初めた二人と、旋回して躱そうとした二人。狙ったのは後者。若葉は距離が近いウィッチを優先的に狙ったのだ。

 

 だが、ペイント弾によって背中を染められたのは一人だけ。もう一人は咄嗟に体を捻り、シールドを展開してそれを防いだからだ。

 

「なるほど、中々やりますね」

 

 ウィッチにはどんな攻撃でも防ぐことが出来るシールドを展開することが可能で、無論強度は人それぞれではあるが、ネウロイのビームなら十発程度は耐えることが出来る。当然ペイント弾も防ぐことが可能で、他の航空機では真似出来ない芸当である。

 

「咄嗟の空戦機動は駄目でしたが、シールドを展開して攻撃を防いだのは良い動きでした」

 

 独り言のように小さい声で呟きつつ、加速して逃げていたウィッチ二人が仕掛けた攻撃を避ける。ウィッチだからこそ可能な複雑な機動を取りつつ、微笑みを浮かべた若葉は残る彼女達を鍛えるべく戦い続けるのだった。

 

 

 

 

 

(連携が上手い。“空間把握”がなかったら、あっという間にやられていた!)

 

 郁もまた若葉と同じように、四人のウィッチから受ける攻撃を避け続けていた。

 

 若葉が相手している人達よりも遥かに練度が高く、後方から飛んでくる火線は少しでも気を抜けば、彼女の身体をオレンジ色に染めるだろう。

 

 彼女の固有魔法は空間把握―――正式には“三次元空間把握能力”と呼ばれ、探知範囲こそ短いものの、自分を中心とした全周囲のあらゆる目標を常に感知、識別し、位置や数、種別すら分類することが出来る、いわば空飛ぶイージス艦ともいえる能力だ。昔からこの能力を持つウィッチは前線指揮において多大なる功績を上げており、“向こう側”で伝説として語り継がれる第五○一統合戦闘航空団の隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケもこの能力の使い手である。彼女は自身の事だけで手一杯だが、将来的には部隊の指揮官になれると大いに期待されていた。

 

(智代は―――取り敢えず、まだ撃墜はされてないみたい)

 

 一瞬だけ空間把握の探知圏内に入った智代と、それを追いかける三人のウィッチ。どうやらあちらも同じような状況らしい。郁は無線で呼びかけてみる。

 

「ドルフィン4、聞こえる?」

 

『有村さん! 後ろの相手何とか出来ないっ!?』

 

「無線では名前を呼ぶの禁止。あと射程圏外だし、こっちも追われているから難しい」

 

『そんなぁっ!!』

 

 火線を避けながらそう告げると、智代の情けない声が発砲音と共に聞こえてきた。

 

「ドルフィン4、私に接近することは出来る?」

 

『接近? それって―――』

 

「二対七なら何とかなると思うんだけど、どう?」

 

『わかった、頑張ってみる!』

 

 郁の意図を理解したのだろう、帰ってきた返事には力が入っていた。

 

「よし、じゃあ―――」

 

 郁は軽く上昇しつつ速度を落とし、姿勢を起こしてホバリングに近い状態になる。「蒼莱」と「旋風」の速度はあまり変わらないので引き離すことは出来ない。ならば自身の固有魔法を最大限活用し、回避行動に専念することにしたのだ。

 

「くぅ・・・っ!」

 

 彼女を囲むように飛ぶ三五一空のウィッチ達が放つペイント弾を避けていく。急上昇からの急降下、身体をひねってその場で一回転したかと思えば、倒れ込むようにひっくり返る。時には海老反りをして回避する挙動はまるで踊っているよう。やっている本人は大変だが、第三者が見れば拍手喝采の嵐をするであろう見事な機動である。

 

 三五一空のウィッチ達は位置を変え、タイミングを変え、郁を撃墜すべく火線を集中させる。次第にそのことだけ集中するようになり、周囲への警戒が疎かになっていった。

 

『頂きっ!』

 

「うわっ!?」

 

 そんな最中、無線から声が聞こえてきたと同時に、郁に攻撃していたウィッチの一人にペイント弾が着弾する。同時に、黒い影が彼女を掠めるように高速で通り過ぎた。先程まで―――否、今も追いかけられている智代の攻撃である。

 

彼女はウィッチ達から逃げながら大きく旋回して戻ってきたのだ。―――当然彼女の後ろには、先程の三人が後に続いている。

 

 郁は一瞬の隙を見計らい、そのうちの一人に照準を合わせる。その少女は郁を攻撃していた仲間と衝突しないよう、僅かに速度を落として回避機動を取っている。

 

「そこ!」

 

 発砲―――そして、数瞬の間をおいて彼女の履いているストライカーをオレンジ色に染め上げた。これで郁と智代、合計二機撃墜の判定である。

 

「大成功だねっ!」

 

「うん」

 

 三五一空のウィッチ達は少々慌てている隙に、二人は合流した。彼女達の動きを警戒しつつ、智代は郁に話しかける。

 

「有村さん、三五一空って精鋭部隊って聞いていたけど、もしかしてそこまで強くない?」

 

「油断大敵だよ。人数は私達のほうが少ないんだから」

 

「そうだね。一斉に襲いかかってきたら、流石に避けられないかなぁ」

 

「・・・固有魔法を使えば、逃げ切れるんじゃない?」

 

「・・・あ」

 

 郁に指摘されて智代は気付いた。この訓練で一度も固有魔法を使っていなかったことに。

 

「帰ったら反省会だね」

 

「あはははは・・・」

 

 呆れる郁に、智代は誤魔化すように愛想笑いを浮かべた。

 

「・・・まあ、そういうことは終わってからにしよう」

 

 相手は一旦間を置いたからか、だいぶ落ち着いてきている。これで先程よりも遥かに手強くなるはずだ。郁は気合を入れ直すように、銃を持つ手に力を込める。

 

「二対五・・・まだまだ劣勢だね」

 

「大丈夫、二人でやればなんとかなる!」

 

「―――そうだね。じゃあ、もう少し頑張ろうか」

 

「うん! 頑張ろう、有村さん!」

 

 よくわからない根拠だが、思わず郁は口元に笑みを浮かべる。それを見た智代もまた、屈託のない笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

「あーあ、あの二人に翻弄されちゃって」

 

 郁達と部下達が繰り広げる空戦を、洋子は呆れたように眺めている。先程まで直人と激戦を繰り広げていたが、彼女達の戦いぶりを見物するため、小休止がてら手を止めたのだ。

 

少し離れたところでは、同じように直人も戦いを見守っていた。

 

「なんというか・・・皆、どこか体調でも悪いのか?」

 

「いいえ、完全にあの子達の実力よ」

 

 不思議そうに尋ねてきた直人に、洋子はため息をつきながら答える。

 

「精鋭部隊だなんだって呼ばれているけど、それはあくまで私がいるからよ。自慢じゃないけど、指揮能力だって若葉に負けてないと思っているわ」

 

「まあ、それはそうだけど」

 

 意外に思われるかもしれないが、洋子は指揮能力も十分高く、一飛行隊の指揮官としては優秀な部類に入る。事務仕事は完全に部下に丸投げし、書類仕事といえば殆ど始末書しか書いていない彼女ではあるが、戦場においては完全無欠のエースと言って差し支えない。

 

「あの子達はちゃんと言うことを聞くし、能力も決して悪いわけじゃない。だけど、私の指揮を離れると、セオリー通りの動きしか出来ないのよ」

 

「突発的な事態の対処に、難があるってことか」

 

「今まで戦ってきたネウロイが、ごく普通の相手ばっかりだったことも大きいわね。おまけに怪我人を出さないよう私が常に見守っていたから、それに甘えちゃっているのよ」

 

「それ、お前の指揮官としての問題じゃ・・・」

 

「うるさい」

 

 流石に過保護すぎたと自覚しているのだろう。洋子はバツが悪そうに眉を潜める。

 

 だが、ある意味仕方のない事である。これまで自衛隊は未成年―――それも小学校を卒業したばかりの少女を戦場に送り出すなど、想像の埒外であったからだ。

 

 “こちら側”における未成年の兵士は貧しい国等で、大人の都合によって生み出された唾棄すべき存在である。当然先進国では存在すら許されていない。しかし“向こう側”ではウィッチという特別な力を持つ者だけとはいえ、太古の昔からあらゆる戦場にその姿があったのだ。

 

 そもそも“こちら側”と“向こう側”における“戦争”の意味も、だいぶ異なっている。“こちら側”では人間同士による争いでしかないが、“向こう側”ではそれに加え、ネウロイとの人類の存亡をかけた戦い(・・・・・・・・・・・)でもある。特に一世紀以上、人間同士による戦争が起きていないことから、“向こう側”では完全に後者の意味しか持たなくなっていた。

 

 現在、“こちら側”の世界もネウロイの出現が当たり前となり、“向こう側”と同じ状況下に置かれているのだが、それを全員が理解しているとは言えない。少女が戦場で戦うことを忌避する風潮は当然のように存在し、中には人類はネウロイによって滅ぼされるべきだという終末論すら出てくる始末。とてもではないが、人類が一丸となってネウロイに対抗するなど、夢のまた夢である。

 

 日本では十年前の“小松事件”で多くの国民が危機意識を持ったため、ウィッチを受け入れるだけの体制が整ってきているが、未だに反対の意見も多く、万が一死者を出してしまったら世論がどう転ぶかわからない。洋子が必要以上に過保護になってしまうのも、無理はなかった。

 

「はっきり言って、今の日本では死者はもちろん、怪我人ですら出せない状況よ。特にうちの部隊には治癒魔法の使い手がいないし、慎重にならざるを得ないわね」

 

「そんな事態になれば、下手しなくともウィッチ隊の解散だろうな」

 

「全くよ。おまけに目を付けていた将来有望なウィッチ達は海自に取られるし・・・泣きっ面に蜂とは、正にこのことね」

 

「そう言われると、返す言葉もない・・・」

 

 海自ウィッチ隊は人数も少なく、部隊として練成途上にあるが、名声と人員だけは優秀なのが揃っている。荒削りながら将来有望な智代に、空間把握持ちで指揮官適性の高い郁、扶桑海軍でも指折りのエースにして治癒魔法使いの若葉、そして“北米紛争の英雄”である直人―――現在の日本で遊ばせておくには、非常に勿体ないメンバーであった。

 

「ま、ここで話していても意味ないし、愚痴はこれくらいにしましょうか」

 

「だな。どうせ帰ったら書類仕事が待っているんだ。ここは全力で楽しむのが吉だ」

 

 好戦的な笑みを浮かべ、刀を構える洋子。直人もそれに答えるべく刀を構える。そして再びぶつかり合うべく、お互いユニットに魔法力を込め―――

 

『訓練中止! 繰り返す、直ちに訓練中止せよ!』

 

 それは、突然聞こえてきた声によって中断することになった。

 




次回、ようやく対ネウロイ戦が書ける・・・
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