ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版) 作:軍曹
「全艦、対空戦闘用意!」
艦内に警報が鳴り響き、乗組員が駆け回る中、「いずも」のCICでは今回の訓練で指揮官を務める宮城弘信海将補が、戦術情報ディスプレイを睨みつけていた。
「いずも」を中心に、輪陣形を取る計八隻の護衛艦に接近する五個の光点。そのうちの一つは推定300メートルクラスの超巨大飛行物体であることが、レーダーの解析で判明している。それほどまでに大きな飛行物体を人類が製造していない以上、間違いなく人類の敵、ネウロイであることは明白だった。
「ウィッチ隊は?」
彼の近くにいた艦長が、通信員に尋ねる。
「訓練中止を伝達しました。現在二名を除き九〇一空、三五一空全員、武器弾薬の補給のため、本艦に向っています」
「二名?」
「九〇一空の浦瀬二佐、三五一空の上坂三佐です。両名は先行して敵機を減らすことです」
「減らすって―――ああ、そうか」
通信員の発言に反応した宮城は、二人の姿を思い浮かべて気付いた。先程の訓練で、お互い真剣を使用した格闘戦を繰り広げていたことに。
「わかった。二人には無理はしないようにと伝えてくれ」
「了解」
「ウィッチ達が戻ってくるぞ! 艦内の武器庫を解放し、少しでもマシな装備を渡してやれ! 他艦にも伝達しろ!」
艦長は矢早次ぎに指示を出す。郁達九〇一空の面々は艦に装備があるものの、三五一空のウィッチ達にはなく、現状では戦うことが出来ない。艦隊に彼女達用の装備は殆どないが、幸い一般の隊員が使用するための携行火器があるため、それを渡すつもりなのだ。
「ドルフィン1、ソーサリー1、間もなく接敵します!」
戦術情報ディスプレイに移る二つの小さな光点が、大小五個の光点に接近している。
「頼んだぞ―――」
その輝きを見つめながら、宮城は誰にも聞こえない、小さな声で呟いた。
「超大型一、中型四―――中々豪勢ね」
通報を受けるや否や、一目散に先行した洋子は眼下の光景に心躍らせていた。
黒い表面に、所々六角形の赤い斑点模様がある巨大な飛行物体―――人類の新たなる脅威であるネウロイが計五機、場違いであるほど優雅に空を飛んでいる。
「流石にでかいな。で、どうする?」
同じように先行していた直人は、洋子に尋ねた。
「決まっているでしょ、ネウロイを撃墜する」
「それはわかっている。問題はどれを狙うかって話だ」
どこかの国が開発した全翼機みたいな超大型が一機と、どこか古臭く見える直線翼のジェット機みたいな中型が四機という編成。中型といっても全長は50メートル以上の大きさで、超大型に至っては300メートル超えと、ストライカーユニットを合わせても全長三メートル程度のウィッチと比べれば、雲泥の差があった。
「そうね。やっぱりあいつかしら」
洋子は持っていた刀の切っ先を、超大型ネウロイに向ける。
「間違いなくこの編隊の親玉だし、あれがコア持ちであることは確実。サイズ的に微妙だけど、もしかしたら中型はあれの子機である可能性もあるから、先に潰しておいた方がいいと思うわ」
ネウロイはコアと呼ばれる赤い宝石のような物を持つ親機と、持たない子機の二種類に分けることが出来る。コアはネウロイの弱点であり、これを破壊すれば子機共々消滅するため、優先的に狙う目標なのだ。
今回の場合、超大型ネウロイは間違いなくコアのある親機だと考えられるが、中型ネウロイは超大型ネウロイの子機なのか、コアを持つ別の親機なのか判別つかない。“魔眼”と呼ばれる固有魔法を持つウィッチならコアの位置を容易に特定出来るが、残念ながら九○一空、三五一空には所属していなかった。
幸い、オーソドックスな形状のネウロイであれば、コアの位置はある程度予測することが出来、基本的には機体の中心線上に存在すると考えられる。そのため、洋子は超大型ネウロイを先に撃破し、それでも残っていた場合は中型ネウロイを随時撃破していく方法を提案したのだ。
「ま、それが手っ取り早いといえばそうだが・・・」
直人も同じ意見ではあるが、いかんせん人も足りなければ飛び道具もなく、あるのは近接戦闘用の刀を持ったウィッチ二人のみ。いくら超大型ネウロイですら一撃で撃破出来るだけの威力を秘めているとはいえ、刀一つで援護もなしに、あの懐へ飛び込むのは無謀に近い。
「あら、怖気付いたの?」
「そういうわけじゃない」
洋子の安っぽい挑発を受けて、直人の眉間に皺が寄る。
「じゃあ決まりね。私が先陣を切るから、あんたは後からのんびり付いてくるといいわ」
「あ、ちょっと待て―――」
直人が止めるのも聞かず、洋子は大型ネウロイに向かって逆落としに急降下を開始した。
超大型ネウロイは洋子の接近を感知し、赤い斑点模様から無数の赤い光線を彼女に向けて放つ。一つ一つが護衛艦すら一撃で大破させる威力を持つ濃密な弾幕を洋子は回避し、時にシールドで防いでいく。その後ろには、未来予知によってビームを回避し続ける直人の姿もあった。
「はぁぁぁぁっ!」
音速に近い速度でネウロイと激突する直前、洋子は構えていた刀を振り下ろす。速度の乗った一撃はネウロイの表面を切り裂き、その衝撃が反対側まで達したことで真っ二つになった。だが―――
「くっ―――!?」
洋子は己の失敗を悟る。超大型ネウロイの中心線上を狙ったものの、僅かにずれてしまったのだ。
コアを破壊しなければ、ネウロイは無限に再生してしまう。既に超大型ネウロイの断面が再生を初めている。ならばもう一撃とすぐに体を捻り、今度は下から攻撃しようとして―――
「あっ―――」
再びネウロイが真っ二つになった。それも洋子が狙っていた完全な中心線上で。それは彼女の後に続いた直人の攻撃だった。
「やっぱり、中型もコア持ちだったか―――って、うぉっ!?」
コアを破壊されたらしく、白い破片となって消滅していく超大型ネウロイ。しかし中型ネウロイは全機消滅する気配はない。半ば予想していたものの、その結果に残念がっていた直人の目の前に刀身が横切った。犯人は勿論、洋子である。
「ちょっと! 私の獲物を獲らないでくれるっ!」
「そんなこと言っている場合かっ!? そういうことは後にしろ!」
「ちっ―――まあいいわ。まだ敵もいることだし」
不満そうな洋子は、しかし直ぐに気持ちを切り替え、近くの中型ネウロイに向っていく。敢闘精神盛んな彼女は頭に血が上りやすいが、直ぐに気持ちを切り替えられる冷静さも併せ持っている。そうでなければ戦場では生き残れない。
速度を上げる中型ネウロイは左右に動いたり、時にロールしたりしながらビームを放つが、超大型ネウロイに比べるとその数は少なく、彼女は悠々と回避しながら追いすがる。
「今度こそ!」
一閃―――洋子の一撃は、今度こそネウロイを真っ二つにした。
「よしっ、一機撃墜!」
消滅するネウロイを確認し、洋子は次の獲物に向おうとした瞬間、無線が入る。それは彼女がよく知る親友の声だった。
『こちらドルフィン2、間もなく戦闘空域に到着します』
「こちらソーサリー1、現在二機を撃墜。残りは三機よ! あとうちの部隊は?」
『三五一空は護衛艦への着艦に手間取り、到着が遅れています』
「これが終わったら、発着艦訓練も行った方がいいわね。それより武器はある?」
『ちゃんと二人分持って来ていますよ』
「ありがとう、今度何か驕るわ」
そう言うと洋子は速度を上げて、三機のネウロイを追い越していく。攻撃の機会を窺っていた直人も一旦やめ、彼女の横に並ぶ。
「全く、なんでお前が応答しているんだよ」
「別にいいでしょ。それよりほら、来たわよ」
刀を鞘に納めた洋子の視線の先に、三人のウィッチの姿が見えてきた。
「直人さん、洋子!」
「隊長」
「上坂三佐、これを使ってください!」
直人は郁から、洋子は智代からそれぞれ航空歩兵隊標準の装備である89式小銃を受け取る。一般隊員も使用するオーソドックスな火器だが、弾丸に魔法力を込めることで、破壊力が向上するのだ。
「9ミリ機関けん銃じゃないのね。残念」
「文句言うな。―――さて、木佐貫にとっては初の実戦だ。長機である北条さんにしっかりとついていくように。あまり気負いすぎるなよ」
「了解!」
「よし、あと上坂は―――って、あれ?」
今回が初実戦である智代に伝えた直人は洋子にも話しかけようとして、既にその場所にいないことに気付いた。
「えっと、洋子はもう行っちゃいました・・・」
「あそこで戦闘中です」
郁の指さす方へ顔を向けると、既に中型ネウロイの一機に取り付き、銃撃を浴びせている洋子の姿があった。どうやら受け取るや否や、一目散に飛び出したのだろう。直人は彼女の事を放っておくことに決める。
「―――それじゃあ残りの二機にそれぞれ攻撃を仕掛ける。北条さんと木佐貫は手前の奴を、俺と有村は奥の奴を狙う。あと少しで艦隊の防空圏内に入るから、その前に落とすぞ」
「了解!」
いざ、彼女達の戦いは始まった。
「攻撃を開始します。しっかりついてきて下さい」
「りょ、了解!」
ネウロイに向って加速する若葉。その後に続く智代の顔には緊張の色が見える。
(本当なら、木佐貫さんが戦いやすいように距離を取りたいですが、それでは時間が掛かりますし・・・)
智代が持っているのは、M82A1バレット対物狙撃銃で、若葉の使用するMINIMI軽機関銃の倍以上―――12.7ミリという大口径弾を使用するライフルである。小型ネウロイなら一撃で破壊出来る火力があるため愛用するウィッチが多いが、あくまで距離をとって戦うのが一般的な使い方である。
おまけに彼女はこれが初めての実戦で、若葉はそんな彼女のために、時間をかけて戦場に慣らしてあげたいと思っている。しかしネウロイは刻一刻と艦隊に接近しており、防空圏内に入るまであまり時間がない。艦隊の防空能力であれば問題ないとは思うが、出来ればここで撃破しておきたかった。
初めて本物のネウロイと相対することになった智代は、緊張と興奮が混ざった表情を浮かべている。そんな彼女の様子を見た若葉は、落ち着かせるように優しく語り掛ける。
「大丈夫ですよ、木佐貫さん。私達のシールドならそう簡単に破られません」
「は、はいっ!」
「それにあなたは後衛ですから、あまりネウロイに狙われることはありません。なので、落ち着いてネウロイを攻撃してください。危なくなったら私が援護しますから」
「わ、分かりました!」
少々落ち着いた様子の智代を見て問題ないと判断した若葉は、改めてネウロイに視線を向ける。それぞれの翼下に細長い棒状の物を抱えた、直線翼のジェット機みたいなフォルムのそれは高度を下げるため、左に大きく傾いていた。
「木佐貫さん、発砲を許可します! 赤い斑点を優先して狙ってください!」
「了解!」
銃を構えていた智代は狙いを定め、引き金を引く。
魔法力が込められた弾丸は音速の数倍を超えた速さで直進し、ネウロイに命中する。狙っていた赤い斑点模様からは僅かに外れたものの、翼の付け根に命中した弾丸は内部で炸裂し、左翼が根元から吹き飛んだ。
「流石ですね、木佐貫さん」
「あ、当たった・・・」
大きくバランスを崩し、急激に高度を落としているネウロイ。智代はその光景を放心した様子で眺めている。
「技量は問題ないですね。―――では私はネウロイに取り付きますから、このまま一定の距離を取って攻撃してください」
「りょ、了解!」
初弾を命中させたことで自信がついたのだろう。まだ幾分か表情は硬いものの、智代は落ち着いた様子で照準器を覗き込んでいる。
(とりあえずは大丈夫ですね。―――なら、早く撃墜しましょう)
そんな彼女の様子を見て安心した若葉は、早くネウロイを撃墜するため、一気に加速した。
体勢を立て直し、破壊された箇所が再生し始めていたネウロイは接近する若葉の存在に気付き、残った赤い斑点模様から次々とビームを放つ。しかしただでさえ薄かった弾幕が更に薄くなり、更に智代が的確に赤い斑点模様を攻撃するため、攻撃手段が次々と奪われていく。その結果、若葉は少ないビームを回避し、あっさりとネウロイに取り付くことに成功した。
「あまり時間がないので、早く終わらせます!」
若葉は引き金を引き、軽快な射撃音と共にネウロイの表面を削っていく。彼女の持つMINIMI軽機関銃は89式小銃に比べると少々重いが、長時間の連続射撃で面を制圧することが可能で、コアを発見するのに向いている。
時折放たれるビームを回避しつつ、若葉はネウロイの機体中心線上に狙いを定めて射撃を続ける。やがて機体上部の少し盛り上がった膨らみ―――飛行機でいうコックピットらしき場所に攻撃すると、赤く輝くコアが姿を現した。
「ドルフィン4!」
『はいっ!』
返事と共に聞こえてきた発砲音。あらかじめ狙いを定めていた智代が放った一弾は正確にコアを貫き、四散させた。
「こちらドルフィン2、ドルフィン4がネウロイを撃破。なおコアは機体上部の膨らみにありました。恐らく他のも同じ位置にあると思われます」
『了解したドルフィン2。―――それとドルフィン4、初戦果おめでとう』
『ソーサリー1了解。さっさと片付けてパーティしないとねっ!』
「初戦果・・・ あ、そうか」
直人と洋子からの返事は智代にも届く。それを聞いた彼女は、自分がネウロイを撃墜したんだとようやく認識した。
呆然と空中を漂う智代の傍に、若葉がやって来る。
「撃墜おめでとう、木佐貫さん」
「あ、ありがとうございます。でも、あれは若葉さんのおかげで・・・」
「初実戦であれだけ命中弾を与えたら十分立派よ。もっと自分を誇っていいわ」
照れ臭そうにはにかむ智代に、若葉はそう優しく微笑む。初めての実戦など誰もが上手くできるわけではなく、若葉も散々な内容だったのを覚えている。しかし彼女は後方からの援護射撃とはいえ、ネウロイにダメージを与え、そして撃墜したのだ。十分誇れる戦果だろう。
「さて、まだネウロイは健在なので援護に向かいましょう。行けますか?」
「はい、大丈夫です!」
未だネウロイは二機健在―――だが、智代のまだ緊張が残るも、自信に満ち溢れた表情を見ていると、不思議と若葉の胸中にあった不安はなくなっていった。
『こちらソーサリー2以下11名、間もなく到着します』
『遅い! どこ寄り道していたのよ!』
『すみません! 着艦に手間取りました!』
ヘッドセットに空自ウィッチ達の声が届く中、郁は直人と共に、一機のネウロイに取り付いていた。
時折放たれるビームを回避、またはシールドで受け止めつつ、構えている89式小銃で先程若葉が言っていた機体上部の膨らみを削っていく。すると彼女の言葉通り、ネウロイの弱点である赤いコアが姿を現した。
「コア発見! 攻撃―――いや、リロード!」
郁はコアを破壊すべく狙いを定めるが、弾がないことに気付き、咄嗟に弾倉を外して予備の物と交換する。89式小銃は一般隊員用に作られた汎用携行火器であり、軽量でありながら単射、連射、あるいは三点バーストが可能な銃だが、弾倉には三十発しか入っていないため、頻繁に弾倉交換をしなければならないのだ。
「任せろ!」
代わりに前を飛ぶ直人が銃を構え、引き金を引く。彼も弾倉に数発しか残っていないが、コアは一発でも当たればガラスのように壊れるので、十分撃破出来るはず。だが―――
「―――っ!?」
フルオートで放たれた弾丸は、しかしネウロイが咄嗟に姿勢を変えたことでコアに命中せず、周囲を削るだけに留めた。
「リロード!」
直人は咄嗟に弾倉を交換するが、それより先に弾倉の交換をし終えた郁がコアに狙いを定める。
「これで―――!」
引き金を引いて放たれた無数の弾丸はコアの周囲を包み込むように命中し、そのうちの一発がコアを破壊した。
『こちらソーサリー1、ネウロイを撃破したわよ』
「こちらドルフィン2、ネウロイを撃破―――いえ、待ってください」
ネウロイが四散し、周囲に白い破片が舞う中、ほぼ同時に撃破したらしい洋子の声が聞こえてきた。郁はそれに続くように報告するが、ふと視線の先で動くものに気付く。
それは先程までネウロイの翼下についていた、細長い棒状の物体。崩壊する直前にネウロイから分離した二本のそれは、突然鋭角の翼を生やして一気に加速した。
「隊長!」
「分かっている! ―――こちらドルフィン1、ネウロイ二機、艦隊に接近中! 速度は超音速、突入型ネウロイと思われる!」
突入型ネウロイ―――低空を超音速で飛行し目標に突入して自爆する所謂ミサイルで、艦隊の防空能力であれば迎撃出来なくはないが、非常に難しい目標である。
『ぜ、全然当たりません!』
『迎撃失敗! 突破されました!』
「―――駄目ね。速度が速すぎるから追いつけないし、不規則な機動で避けているから全然当たらないわ」
二人の近くにやってきた洋子が、部下達の悲鳴に耳を傾けながら呟く。彼女達は一斉に射撃してネウロイを撃墜しようとしたが、一発も当てられずに突破されてしまった。追いかけようにも、既にトップスピードが出ているネウロイに追いつくだけの加速力はない。おまけに戦闘前には模擬空戦を行っていたのだ。魔法力はともかく、燃料が心許ない。
「あとは、艦隊の防空能力に期待するしかないか・・・」
悔しさを滲ませながら、直人はゆっくりと目をつぶった。
『―――ドルフィン4!?』
突然、無線から若葉の叫び声が聞こえてくる。
「どうした!」
『ドルフィン4がネウロイを追いかけました! まもなく艦隊の防空圏内に入ります!』
「なんだって―――!?」
直人は大きく目を見開いた。
『ドルフィン4! すぐに戻れ! 味方に撃たれるぞ!!』
無線から聞こえてくる直人の声を無視し、智代は二機のネウロイを追いかける。海面付近スレスレを超音速で飛ぶネウロイに追いつくなど本来は不可能ではあるが、彼女の固有魔法“超加速”はそれを可能にし、ストライカーユニットの設計限界を超えた速度まで一気に加速してネウロイに追従していた。
『ああもう―――こちらドルフィン1、現在ドルフィン4が迎撃に向かっている。注意されたし!』
『全艦迎撃中止! ウィッチに当たる!』
(ごめんなさい、隊長。でも―――)
艦隊に通信を入れる直人に対して、申し訳ないという気持ちが湧いてくる智代。しかし艦隊にはイージス艦等、対空戦闘能力が高い艦が含まれているものの、あのネウロイを―――それも二機を撃墜するのは、非常に至難であることを彼女は知っていた。
(私が、なんとかしないと!)
射程圏内に入り、智代はネウロイの一気に狙いを定める。
「このっ!!」
発砲。しかしネウロイは不規則に動くため、命中しない。海面に虚しく水柱が立つだけだ。
それでも、智代は諦めずに引き金を引き続ける。
「当たれ、当たれ! 当たれっ!」
ついに一発がネウロイに命中した。残念ながらコアに命中しなかったものの、大きく姿勢を崩して海面に激突する。超低空を飛んでいたことが仇となった形だ。
「よしっ! 次!」
一機を撃墜した智代は、残りの一機に照準を向ける。そして引き金を絞って―――弾が出ない。
「あ、あれっ?」
M82A1バレット対物狙撃銃の弾倉には十発しか入らず、戦闘が始まってから弾倉を交換していなかったため、弾切れになっていた。慌てて弾倉を交換しようとするが、水平線上に艦隊の姿が見えてくる。
(駄目・・・間に合わない!)
ネウロイの進路上にあるのは護衛艦「いずも」。彼女達の母艦に突入するまであと僅か。弾倉を交換して射撃、撃破するには時間が足りなかった。
「・・・こうなったら!」
智代の銃は特別な改造が施されており、銃身の先端部に長い銃剣を取り付けられるようになっている。あくまで自衛用であり、弾がなくなった場合のお守り程度と考えていたものだったが、それが今の彼女に残された、最後の武器だった。
なにかの警報が鳴っているのを無視しつつ、更に加速する智代。ネウロイは突入準備に入ったのか、回避行動を取らずに直進している。彼女はそれに向かってどんどん接近する。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
そして、智代は掛け声と共に、銃を槍のように突き出してネウロイに突き刺す。直後、ストライカーの噴射口を下に向けて、上に押し上げようとする。彼女は自身の推力を使い、ネウロイの進路を変更しようとしているのだ。
「あ、がれぇぇぇぇぇっ!!」
灰色の船体が目の前に迫る中、智代は最後の力を振り絞る。そして、ネウロイは「いずも」の艦橋を掠めるように上昇した。
急上昇に転じたのを確認した智代は素早く弾倉を交換し、薬室に初弾を装填する。そして銃剣が突き刺さったまま、狙いをつけずに引き金を引く。
次々と放たれる弾丸はネウロイを砕き、粉砕する。そして赤く輝くコアだけが宙を舞う。
「これで―――終わりっ!」
狙いを定めて放った弾丸はコアに命中し、四散させた。
「良かった、「いずも」も無事だ・・・」
真下を航行する「いずも」に損傷は見当たらず、見張りの人達がこちらに手を降っている。その中に見知った顔―――直人の友人である祐次の元気な姿を見つけ、智代はほっと息をつく。
―――その直後。
「あ、あれ?」
突然「蒼莱」のエンジンが停止する。そして今更ヘッドアップディスプレイに燃料不足の警告表示が出ていることに気付いた。
「ま、まず―――わぁぁぁぁっ!!」
推力を失った「蒼莱」と共に落下する智代。このまま海に真っ逆さま―――と思ったら、どこからともなくやってきた郁に抱きかかえられた。
「あ、有村さん!」
「智代、怪我はない?」
「あ、うん。私は大丈夫だよ」
「そう、良かった」
あまり表情が変わらない郁だが、智代には彼女の表情が僅かに和らいだことがわかった。
「さあ、降りようか」
「うん!」
智代は大きくうなずく。その表情はやり遂げたという、自身に満ち溢れた笑顔だった。
登場人物設定とか、要望があれば投稿します。