ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版)   作:軍曹

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第七話「勝利なき戦い」

「―――なるほど。有村さんも大変だったんだな」

 

「はい。本当に気が抜けませんでした・・・」

 

 「いずも」艦内にある食堂で、郁は非番だった佑次と向かい合わせに座っていた。

 

 昼食が終わり、この場所には非番の乗組員達が数人寛いでいる程度で、ウィッチ()がいるにもかかわらず閑散としている。彼女が九〇一空に配属された当初は、「いずも」に未成年の少女が乗り込むという珍しさから色々注目されていたが、それから三年が経過した現在は、それなりに当たり前の光景として受け入れられている。

 

 祐次とは以前の洋上訓練で知り合って以来、たまに会話する仲になっていた。いつもならアリスや智代も参加しているが、艦隊が外洋を航行していることによる即応警戒待機中のため、この場にいない。

 

 それぞれ濃紺と青色の作業服姿の二人は、つい昨日終了した多国間演習についての話をしている。ずっと「いずも」にいた佑次はともかく、郁達九〇一空は各国艦艇への発着艦訓練を行い、様々な国の軍人達と交流してきたため話題には事欠かないのだが、郁の感想としてはただただ疲れたとしか言えなかった。

 

「艦に降りるたびに、好奇な視線を向けてくるわ、色んな人から口説かれるわで。本当に軍艦に降りたのか思わず疑いましたよ」

 

「基本的に軍隊は男所帯だからなぁ」

 

 近年に入って、艦艇に女性が乗ることも珍しくなくなったが、いまだに乗組員の大半は男性であるのが現状である。そこへ未成年とはいえ女性―――それも容姿に優れたウィッチが乗り込んだとなれば、注目されないわけがない。おまけに今回参加した部隊の中には女好きとして知られるフランス人とイタリア人の艦もあったのだ。彼らの艦に降りた時は、それに輪をかけて凄まじかった。

 

「特にフランス人とイタリア人は凄いですね。初めての挨拶でいきなり口説いてきましたから」

 

「噂には聞いていたけど、初っ端から口説くという話は本当だったのか」

 

「はい。更に凄いのは、ちゃんと私達でもわかる日本語で言って来たことですね。少したどたどしかったですけど、十分勉強していることが伺えました。いきなり“月が綺麗ですね”って言われた時は意味が理解できませんでしたけど」

 

「その情熱を、もっと他の事に向けろよ・・・」

 

 二人は知らないことだが、今回の多国間演習に参加するフランス海軍とイタリア海軍艦艇の乗組員はほぼ全員が日本語の自主勉強を行い、最低限会話出来る程度の語学力を会得している。両国共、陸軍には陸戦ウィッチ隊、空軍には航空ウィッチ隊が設立されてそれなりに活躍しているが、人数不足により海軍には未だウィッチが存在しておらず、陸空軍と合同演習を行ってもウィッチの参加が見送られたり、例え参加していてもお手つき(・・・・)にならないよう接触が禁止されていたりと、交流する機会が殆どなかった。

 

 そんな最中に舞い込んできたのが、今回の演習である。噂のウィッチとお近づきになれるということで舞い上がった彼らは、猛勉強をして日本語を習得し、今回の演習に臨んでいたのだ。

 

 なお余談だが、日本語の習得の際に使用した教材の影響で、両国海軍の中で日本の様々な文化が流行することになったらしい―――

 

「しかし、有村さんもそうだけど、智代ちゃんやアリスも大変だったんじゃない?」

 

「ええ。だけど一番凄かったのは、やはり若葉さんですね」

 

「ああ、北条三佐か。まあそれは分かる」

 

 郁や智代、アリスと違って若葉は成人しており、おまけに魔法力が減衰しないウィッチである。手を出しても(郁達に比べれば)問題はないと判断されたのか、彼女の周りには常に男性の姿があった。 ―――最も、若葉は彼らからの誘いを華麗に躱していたが。曰く、“向こう側”でもよくある事なので、あしらい方が自然と身についたとのことらしい。

 

「しかしまあ、そうなると直人も大変だったろうな。他国との交流に加え、近寄って来る男共を迎撃(インターセプト)しなきゃいけなかっただろうし」

 

「いえ、隊長の場合は・・・その」

 

「? なんかあったの?」

 

 突然言葉を詰まらせた郁に、佑次は首を傾げる。

 

「・・・えっと、隊長もモテモテでした。―――男の人に」

 

「・・・ああ、そういうこと」

 

 正確に言えば直人の場合、数少ない女性軍人からも言い寄られてはいたが、それ以上にどこか彼に好色な視線を向ける男性達の姿が、とても印象に残っていただけである。確かに容姿はそこそこ整っているし、鍛えているため身体つきも中々である。ただ魔法力の影響からかどこか少年っぽさが残っており、それが琴線に振れたのだろうか。妖しい男性陣からの妙な眼光に怯えている姿を、郁は何度も目にしていた。

 

「―――帰ったら一杯奢ってやろう。あいつも疲れているだろうし」

 

「是非お願いします」

 

「おいおい、そんな頭を下げなくてもあいつは親友だから―――」

 

 深々と頭を下げる郁の姿を見て佑次が苦笑を浮かべた瞬間、突然艦内に警報が鳴り響いた。

 

「なっ―――!?」

 

「敵襲!?」

 

 二人は驚愕するも、それは一瞬の事。別れの挨拶もそこそこに、すぐさま自分の持ち場へと走り出す。

 

 艦内の通路は既に乗組員達が慌てて―――しかし秩序だって自分達の持ち場へ駆けている。郁の向かう先は格納庫。既に整備を終えたストライカーユニットがある場所だ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・!」

 

 数機の哨戒ヘリが並ぶ格納庫に到着するが、ユニットが置かれているのは後部の方。せわしなく乗組員達が動き回る中を走っていると、天井から轟音が聞こえて来た。恐らく即応待機中だったアリスと智代が発艦したのだろう。

 

「有村!」

 

 ユニットの懸架装置が並ぶ区画に到着すると、既に直人と若葉の姿があった。いつもと異なり、海パンまたはボディースーツの上に濃紺の作業服を着ている二人は、既にユニットを履いている。

 

「遅くなりました! 状況は!?」

 

「昨日別れたばかりのアメリカ海軍機動部隊から救援要請が入った。現在ネウロイの襲撃を受けて苦戦中とのことだ」

 

「そんな―――」

 

「とにかくすぐに出撃します。急いでください!」

 

「りょ、了解!」

 

 若葉に急かされて我に返る郁。今も攻撃を受けているとなれば、一分一秒でも早く援軍に向かわなければならない。先日「エイブラハム・リンカーン」で会ったアメリカ軍人達の姿が脳裏に浮かぶ中、郁はユニットを履くべく濃紺のズボンを脱ごうとして―――

 

「―――あ」

 

 自分の着ているインナーが、普通のパンツだったことに気付いた。

 

 

 

 

 

『ハンター5ロスト! 友軍機残り三機です!』

 

「くそっ! なんてこった!!」

 

 ビル・ベイカー中佐は「エイブラハム・リンカーン」の艦橋で顔を歪めていた。

 

 艦隊司令と艦長はCICに詰めており、彼は二人に何かあった場合に備えてこの場所にいる。当然艦橋からは外の様子が確認出来るため、否が応でも外の光景が目に入ってくる。

 

 離れた場所で悠々と空に佇む超大型ネウロイから吐き出された、無数の小型ネウロイがアメリカ艦隊を襲っている。本艦を始め、周囲の友軍艦艇や上空に上がっていた戦闘機隊は果敢に迎撃しているものの、アニメに出てくる近未来の潜水艦みたいな外見の超大型ネウロイから次々と小型ネウロイが吐き出されているため、一向に数が減る気配がない。戦闘機隊は反撃を受けて数を減らし、残っている機体もミサイルを撃ち尽くし、機関砲の残弾も残り僅かとなっていた。

 

「中佐! また味方が・・・!」

 

 部下の報告を受けて顔を上げると、小型ネウロイのビームによって主翼を吹き飛ばされ、錐揉みしながら落ちていくF-18の姿があった。これで上空にいるのは後二機だけ。さらに悪いことに、残弾が無くなって攻撃手段を失ったとの報告が入る。

 

「援軍はどうなっている!?」

 

「現在各国のイギリス、フランス、インド海軍の艦載機部隊がこちらに向かってきています!」

 

「日本は、海上自衛隊は!?」

 

 各国の援軍はありがたかったが、ビルはそれ以上に海上自衛隊―――正確に言えばウィッチの援軍を待っていた。

 

 ネウロイは通常の戦闘機でも一対一ならば十分対抗可能ではあるが、ここまで敵の数が多いと処理しきれずに数の暴力で押し切られてしまう。しかしウィッチならばどんな攻撃も防ぐシールドや驚異的な機動力で対処することが出来る。つい数ヶ月前までウィッチ隊を指揮下に置いていた彼らだからこそ、この場において最も重要な援軍を切望していたのだ。

 

「既に二名が現場に急行中、残り三名も発艦してこちらに向かっているとのこと!」

 

「全力出撃か―――ありがたい!」

 

 ビルが不敵な笑みを浮かべた瞬間、爆発音と共に艦が揺れる。

 

「うぉっ!?」

 

「後部エレベータ付近に被弾! 艦載機炎上中!!」

 

「消火活動急げ!」

 

 小型ネウロイからのビームを受け、左舷後部にあったエレベータが吹き飛ばされる。付近にあった艦載機も破壊され、炎と黒煙が吹き上がった。

 

「心配するな! 本艦はそうやすやすと沈みやしない!」

 

 浮足立つ部下達に、ビルは叱咤する。実際彼の言葉は間違ってはいない。ネウロイの主要な攻撃手段であるビームは熱量ではなく粒子による打撃攻撃であるため、厚さにもよるが装甲で十分防ぐことが出来るのだ。ニミッツ級は比較的重装甲な艦であり、小型ネウロイのビームなら数発程度受けたところで、沈むことはまずない。

 

「いいか! 既にウィッチ達がこちらに向かってきている! 我々はそれまで持ちこたえて―――」

 

「副長! 味方艦が・・・!!」

 

 なおも言葉を続けようとしたが、それは部下の悲鳴と、遅れて聞こえてきた爆発音によって遮られた。

 

 「エイブラハム・リンカーン」の右舷数キロ先を航行していた護衛の駆逐艦が、ミサイルが詰まっていたVLSに攻撃を受けたのか、大爆発を起こした。幸い沈む様子はないが、松明のように燃え盛っている。

 

「糞ったれ!!」

 

 ビルは目の前のコンソールに拳を叩きつける。もし海軍ウィッチ隊が解隊されなかったら、少なくともここまで大きな被害を受けなかっただろうと、彼は唇を噛み締める。

 

(本土の防衛が最重要課題であることは分かる! 分かるが・・・だからと言って、我々軍人が悪戯に被害を受けては、元も子もないではないか!)

 

 彼らはアメリカ合衆国を守るために志願した(つわもの)で国家を、国民を守るためならばどんな戦場だろうと戦う覚悟は出来ている。だが戦った先にあるのが犬死では、その覚悟が揺らいでしまう。そうならないために、可能な限り戦力を整えることが必要なのだ。

 

(せめて半個飛行隊―――いや、一人でもいい。この場にウィッチがいれば・・・)

 

 脳裏に浮かぶのは愛娘の姿。彼女は今こちらに向かってきているが、それまで自分も無事でいられるか―――

 

「た、退避―――っ!!」

 

 艦橋にいた誰かの叫びによって思考から覚め、顔を上げたビル。彼の視線の先には小型ネウロイがこちらに向けて今まさにビームを放とうとしている姿があった。

 

(―――駄目だ。逃げ切れない)

 

 せめて最後まで意地を張るべく、窓越しに見えるその光景を凝視し続ける。

 

―――突然、小さなミサイルが小型ネウロイに向かって伸び、爆発した。

 

「なっ・・・!」

 

 驚きの声を上げたと同時に、艦内スピーカーから無線が聞こえてくる。それはビルがよく知る、愛する娘の声だった。

 

『こちら日本国海上自衛隊第九○一飛行隊! 只今到着しました!』

 

 

 

 

 

「こちらドルフィン5、ドルフィン4と共に戦闘空域に到着しました!」

 

『了解した。こちらも現在全速力でそちらに向かっている。無理せず防衛に徹するように』

 

「了解。―――ドルフィン4、聞こえてた?」

 

「うん。艦に近づくネウロイを倒していけばいいんだね!」

 

「あの大型ネウロイは置いておいて、これ以上被害が出ないように艦を守ろう!」

 

 アリスは直人との通信を終え、僚機の智代と共に武器を構える。

 

 彼女達は智代の固有魔法である“超加速”を使用し、マッハ四以上という速度で駆けつけたおかげで、あっという間に戦場に到着することが出来たのだった。

 

 ネウロイ達はアリス達の存在に気付き、艦艇から二人へと攻撃の矛先を変える。ウィッチのほうが脅威と判断されたらしい。

 

「行くよ! ドルフィン5、FOX1!」

 

「ドルフィン4、FOX1!」

 

 アリスと智代は、ユニットに搭載されていた六発のAIM-54「フェニックス」長距離空対空誘導弾を発射する。大きさが二リットルペットボトル程度のそれは、ホバリング状態で発射することも考慮し、一旦圧縮空気で勢いよく射出されたのち空中でロケットモーターに点火、レーダーで追尾している二十四目標のうち、脅威度の高い六目標に向かって飛翔していく。

 

 狙われていたネウロイは回避機動を取るが、長年の改良により機動力が改善された計十二発のAIM-54から逃れることは出来ず、近くにいたネウロイを巻き込んで全機が撃破された。

 

「ドルフィン5! 私達を狙っているみたいだし、艦隊から引き離せるんじゃ―――」

 

「いえ、それは駄目です!」

 

 なおも接近してくる無数の小型ネウロイを見て智代が提案するが、それを却下するアリス。確かに彼女の言う通り、ネウロイは完全にウィッチに狙いを定めているが、だからといって守るべき対象であるアメリカ海軍艦艇を再び狙わないという保証はないからだ。

 

「私達の最重要防衛目標は「エイブラハム・リンカーン」です。いつ攻撃を受けても守れるように、上空で待機しましょう! 他の艦艇への攻撃を行う兆候があった場合は、ドルフィン4の狙撃で対処してください!」

 

「了解!」

 

 二人は「エイブラハム・リンカーン」の上空に留まり、接近する小型ネウロイを迎撃しつつ、放ってくるビームをシールドで受け止める。アリスの使用するM134ミニガンは携行武器としては非常に重いが、その分連射能力は凄まじいため、このような拠点防衛で威力を発揮する。時折他の艦艇に攻撃しようとする個体も現れるが、それは智代の狙撃で片付けていた。

 

 彼女達はしばらくの間、アメリカ海軍と共同で小型ネウロイの攻撃を凌ぐ状況が続いていたが、無線から聞こえてきた声と共に、形成は一気に逆転する。

 

『ドルフィン1、只今戦闘空域に到着。これより超大型ネウロイへの攻撃を開始する!』

 

 それは、残りの九〇一空のメンバーが戦闘空域に到着したことを告げるものだった。

 

 

 

 

 

「酷い・・・」

 

 郁は眼下の光景を見て、悔しそうに顔を歪める。戦闘機が墜落したのか、群青色の海の真ん中からいくつもの黒煙がたなびき、火災が発生して傾いている艦の姿がそこにあった。

 

 幸い、最重要防衛目標たる「エイブラハム・リンカーン」は薄い煙が上がっているものの、大きな損傷を負っている形跡はなく今も最大速力で動き回っており、その上空にはアリスと智代の姿もある。彼女達は郁達が到着するまでの間、無事に空母を守りきっていたようだ。

 

「空母は何とか無事だが、他への被害が大きいな・・・ ドルフィン2はドルフィン5達と合流して艦隊の護衛に。俺とドルフィン3は大元のあいつをやるぞ」

 

 目標は戦闘空域から少し離れた場所にいる超大型ネウロイ。艦隊への攻撃は小型に任せ、自身は高みの見物をしているのか、優雅に飛行している。

 

「二人だけで大丈夫ですか? 全員で攻撃した方が・・・」

 

「それが理想だけど、その間は艦隊が小型ネウロイの群れに襲われるからね。ドルフィン5達の弾薬も心許ないだろうし、継続火力の高いドルフィン2を防衛にまわした方がいいと思う」

 

「・・・分かりました。お気をつけて」

 

 直人の説得に一抹の不安を抱えながらも納得した若葉は敬礼すると、アリス達と合流すべく高度を下げて行った。

 

「ドルフィン3。準備はいいか?」

 

「大丈夫です」

 

 直人の呼びかけに、郁は銃をしっかりと抱えて頷く。緊急出撃の際、インナーがボディースーツではなく文字通りの“パンツ”であることに気付いたものの、着替える時間などあるわけがなく、若葉が「空では誰も見ていない」と言ったこともあり、凄まじい羞恥心を感じながらそのまま出撃していた。

 

 幸い直人と若葉は先行しているため、上空で彼女に視線を向ける人はいなかったものの、普段とは違う感覚と下半身を露出しているという状況に、慣れずにいたのだ。

 

 ―――しかし戦場にいる今、そんな感情は何処にもない。今の彼女にあるのは、ネウロイを倒すという意思だけである。

 

「基本的にこの前とやることは変わらないから、気負わずに行こう。冷静さは失わないように」

 

「了解」

 

 静かながらも力強い郁の返答に、直人は満足そうに頷く。そして真剣な表情で超大型ネウロイに視線を向け、一気に加速した。

 

「ドルフィン1、FOX1!」

 

「ドルフィン3、FOX1!」

 

 超大型ネウロイに接近しようとする郁達の前に、無数の小型ネウロイが立ちふさがる。二人はユニットに搭載された長距離空対空誘導弾を放ち、道をこじ開けていくが、それでも進路上に何機か残っていたため、赤外線画像誘導式の短距離空対空誘導弾や89式小銃のバースト射撃で撃破していった。

 

「よし、抜けたぞ!」

 

 小型ネウロイの群れを突破した二人。超大型ネウロイとの間に遮るものはない。このまま攻撃を開始しようとした瞬間、ネウロイの上部から何かが垂直に射出された。

 

 それは他のネウロイと同じく、六角形の赤い斑点模様のついた黒い細長い物体。小さな羽が生えているそれは、加速しながら二人に向かって来ている。

 

「っ! ミサイル!」

 

「心配ない、あれくらい躱せる!」

 

 上空から襲いかかるように高速で接近するミサイル型ネウロイは、しかし機動力はそれほど高くない。直人に狙いを定めていたらしいが、あっさりと躱された。

 

「よし、このまま取り付いて―――っ!? シールド!!」

 

「っ!!」

 

 驚くよりも先に、郁はシールドを展開する。

 

―――刹那、躱されたものの直人のすぐそばにいたミサイル型ネウロイが、突如爆発した。

 

 無数の破片が周囲に撒き散らされ、郁のシールドにも何個か破片が直撃する。もしシールドを展開していなかったら負傷していただろう。

 

「至近距離で自爆することで、周囲に被害を与えるんだ・・・ということはっ!」

 

 郁は慌てて、先程まで直人がいた方向に目を向ける。そこには姿勢を崩し、頭から血を流している彼の姿があった。

 

「隊長!?」

 

「心配ない。少し掠っただけだ」

 

 二十歳を当に過ぎている直人はシールドを張ることが出来ず、ネウロイの自爆攻撃を至近距離で受けてしまった。幸い“未来予知”のおかげでダメージを最小限に抑えることが出来たが、それでも負傷していることに変わりない。

 

「一旦距離を取りましょう! 若葉さんの治癒魔法で回復してから―――」

 

「いや、このまま行く」

 

 郁の提案を、しかし直人は却下する。

 

「向こうは小型ネウロイを無尽蔵に作り出せる。時間を掛ければ掛けるほど不利になる。ここで倒すべきだ」

 

「しかし!」

 

「心配するな。初めてだったから不覚を取ったが、次からは距離を取って迎撃すればいいし、あいつに接近すればミサイル攻撃も出来なくなる」

 

「それは、そうですけど・・・」

 

 確かに、至近距離で自爆されると全ての破片を回避するのは難しいが、遠くならば余裕をもって回避することが出来る。おまけにあの攻撃は味方どころか自身まで巻き込む危険があるため、接近すればあの攻撃をしてこなくなると思われる。周囲に小型ネウロイの姿はなく、今ならばあの超大型ネウロイだけに注視すれば良かった。

 

「俺はあいつに接近するから、有村はミサイルの迎撃を頼む。出来るな」

 

「―――出来ます」

 

 痛みを堪えながらも、笑みを見せる直人の覚悟を感じた郁は、ゆっくりと頷く。

 

「よし、じゃあ頼んだ!」

 

「お気をつけて!」

 

 超大型ネウロイに向っていった彼の姿を見送ると、彼女は大きく息を吸い込んで気合を入れ直し、銃を構えた。

 

「―――来た」

 

 超大型ネウロイの上部にあるハッチが開き、次々とミサイルが発射される。それらは全て直人を狙っているようだ。

 

 “空間把握”で位置を確認し、静かに闘志を燃やしながら照準を合わせて引き金を引く。三点バーストで放たれた弾丸は、狙い通りミサイルの中心に命中し、四散させる。

 

 撃つ、撃つ、ただひたすらに撃つ。

 

 直人の周囲に舞う白い破片。崩壊直後ならともかく、既に粒子状になったそれに触れても問題はなく、彼はその中をひたすら突き進んでいく。

 

 超大型ネウロイはミサイル攻撃をやめ、直人に向ってビームを放つ。しかし“未来予知”を持つ彼に当たることはなく、凄まじい弾幕の中でも華麗に回避し続けた。

 

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 

 掛け声とともに、直人は日本刀を引き抜いて構える。そして高速で接近したまま、勢いよく振り下ろした。

 

 無尽蔵に小型ネウロイを生み出し、自爆するミサイル型ネウロイすら発射してきた超大型ネウロイだが、コアの位置は他のネウロイとそう変わらず、中心線上に真っ二つにされて撃破された。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 艦隊の周囲を跳び回っていた小型ネウロイの姿は既になく、白い破片が周囲に漂うばかり。直人は荒く呼吸をし、痛みから顔をしかめながら周囲を見渡している。

 

「負け戦―――か」

 

 波間に浮かぶ戦闘機の残骸。未だ炎や黒煙を上げて傾いている艦。ネウロイこそ撃破したものの、多数の死傷者を出している現状勝利したとは言い難かった。

 

「直人さん!」

 

 空母の防衛にまわっていた若葉が近づいてくる。

 

「飛行中はコールサインで呼ぶ規定でしょ。まあ俺もさっき有村のこと、思わず名前を呼んじゃったけど」

 

「そんなことより怪我は大丈夫ですか!? 今治癒を―――」

 

「いや、若葉―――じゃない、ドルフィン2は重傷者を優先して治癒を。一人でも多く助けないと」

 

 若葉の治癒魔法なら多くの怪我人を治すことが出来るが、魔法力の関係上、一度に治癒出来る人数は限られる。どれだけ重傷者が出ているかわからない以上、軽傷者は後回しにすべきだと直人は判断する。しかし―――

 

「駄目です。指揮官が血を流していては、士気に関わります!」

 

「いや、そんなことは・・・止血なら包帯でも巻いておけば―――」

 

「直人さん!!」

 

「・・・わかった。お願いします」

 

 うっすら涙を浮かべる若葉の熱意に押し切られた直人は、おとなしく治癒を受けることにした。

 

 若葉の手が青白く輝き、直人の頭部に出来た傷がゆっくりと塞がっていく。流れ出た血は服を汚していたが、着ているのがいつもの真っ白な第三種夏服ではなく、濃紺の作業服だったため、それほど目立っていない。

 

「―――アリス達は?」

 

「既に救助活動を行っています。ベイカー中佐は無事で、アリスさんは安心していました」

 

「そっか」

 

 眼下に目を向けると、救助活動を行っているアリスと智代の姿が見える。初めて見る惨劇にも関わらず、二人は精力的に動いていた。

 

「あれ? そういえば有村さんは―――」

 

 ふと、若葉は郁の姿がないことに気付き。周囲を見渡す。彼女の姿はすぐに見つかり、少し離れた場所で眼下に見下ろしていた。

 

「ドルフィン3、直ちに救助活動に入ってください。―――ドルフィン3?」

 

 無線で呼びかけるが、応答はない。

 

「あいつ、まさか―――」

 

 様子がおかしいことに気付いた直人はふと思い出した。彼女が石川県小松市出身だということに。

 

 ―――十年前、“向こう側”との交流が始まった直後に起きた惨劇、“小松事件”。

 

郁は、その事件を生き残った少女だった―――

 




今回ようやくミサイル描写を書くことが出来ました。
恐らくウィッチにとってミサイルより携行武器のほうが主要兵装扱いなんだろうなぁと思い、今回の描写となっています。
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