ストライクウィッチーズ2022 変わりゆく世界(改訂版)   作:軍曹

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第八話「空を飛ぶ理由」

 街が、燃えていた―――

 

 よく知る町並みは炎と黒煙に包まれ、至る所から断末魔や泣き叫ぶ声が聞こえてくる。

 

 およそ地獄と呼ぶに相応しい風景の中、郁が呆然と佇んでいると、不意にどこか機械が奏でたような、不気味な音が聞こえてきた。

 

 目を向けると、黒煙が立ち昇る空を優雅に飛ぶ巨大な飛行物体。全身が黒い六角形状の模様で覆われ、所々赤い六角形の斑点模様のあるネウロイは、この惨劇を生み出した張本人である。

 

 ネウロイは赤い斑点模様から無数の赤い光線を放つ。ネウロイを撃墜せんと果敢に攻撃を仕掛けていた戦闘機に命中して翼を吹き飛ばした。

 

 幾多の部品を撒き散らしながら、しかしその戦闘機はせめて一矢報いんと機首をネウロイに向ける。その戦闘機に乗る操縦士は、郁の記憶にある人物だった。

 

「おとう・・・さん・・・?」

 

 殆ど記憶がなく、写真でしか知らない彼女の父親―――有村誠。

 

 一瞬だけ見えた彼の真剣な表情は、しかし直ぐに見えなくなり、そのまま機体ごとネウロイと衝突した―――

 

 

 

 

 

「―――ん」

 

 郁が目を覚ますと、久しぶりに見る天井が見えた。

 

「・・・ああ、そっか」

 

 寝ぼけまなこでその光景を暫く眺め、ようやく自分の部屋で寝たことを思い出す。日本に帰ってきた九〇一空の面々には長期休暇が与えられ、郁は久しぶりに自宅へ帰ってきていたのだ。

 

「―――変な夢」

 

 郁は先程まで見ていた夢を思い出し、ぽつりと呟く。恐らくあの日の記憶(・・・・・・)が作り出したものだが、あの時の彼女はまだ五歳で、崩壊した街並みこそ辛うじて覚えているもののそれ以外は記憶に残っておらず、ましてや上空の戦闘機に乗る操縦士の顔など見えるはずがない。。

 

 ―――それでも、あの夢はどこか現実味があった。特に父親のあの真剣な表情は。

 

(お父さんがあんな表情を浮かべているの、初めて見た―――)

 

 夢の中とはいえ、写真や数少ない記憶の中にある笑顔とは異なる父親の表情に、郁は戸惑いを覚えていた。

 

 

 

 

 

「あら、おはよう。よく眠れた?」

 

「うん。おはよう」

 

 階段を下りてリビングに入ると、テレビを見ていた背の高い女性―――郁の母である有村香織が彼女に気付き、笑みを浮かべた。

 

「そう。あ、ちょっと待ってね。今朝ご飯用意するから」

 

「うん」

 

 椅子から立ち上がってキッチンに向かう香織。郁はそのまま先程まで彼女が座っていた椅子に腰を下ろし、テレビに目向ける。画面には損傷した駆逐艦が、今まさに港に接岸する映像が映っていた。

 

「―――無事に、帰れたんだ」

 

 それは、先日アラビア海で発生したネウロイの襲撃で損傷したアメリカ海軍駆逐艦の一隻である。マストは折れ曲がり、艦橋の左側が大きく崩れて黒く焦げているが、幸い機関等は無事だったため、自力で航行可能だった艦だ。

 

 テレビ画面越しとはいえ、無事に起動した姿を見た郁は、安堵の息をつく。

 

「―――あの船、郁達が守ったの?」

 

 キッチンから戻ってきた香織が、郁の前に朝食の乗った皿を置きながら尋ねる。

 

「うん、まあそうなるのかな?」

 

「そう。良かったわね」

 

(良かった、か・・・)

 

 確かに無事に帰還出来たことは喜ばしい事だが、そもそもネウロイの襲撃がなければ被害を受けず、乗組員が全員当たり前のように祖国へ帰っていたのだ。

 

 ―――あの戦いで、アメリカ海軍は大きな損害を被った。

 

 空母こそ小破で済んだものの戦闘機が十機以上撃破、撃墜され、護衛の巡洋艦や駆逐艦は一隻が曳航は不可能と判断されて自沈、三隻が大小損害を負い、百名単位の戦死者とその数倍の負傷者が出ている。これでも迅速な救助活動と、若葉の治癒魔法によって一命を取りとめた人も多く、“向こう側”の各国からは途中までウィッチがいなかったにもかかわらず、損害が軽く収まったと練度を称賛されたほどである。

 

「―――あ、ごめんなさい。いっぱい人が亡くなっているのに・・・」

 

「ううん。あの艦は被害が大きくて、一度放棄も検討されていたみたいだから。無事に帰れて良かった」

 

 郁は母親を安心させるように笑みを浮かべる。しかし元々表情が乏しい事もあって、少々歪になってしまった。

 

「―――郁は・・・いえ、何でもないわ」

 

「? どうしたの?」

 

 彼女の表情から何か感じ取ったのだろう、香織はなにか言おうとして、口を閉ざす。

 

「ううん、今日のお昼は何にしようか聞こうと思ったんだけど、よく考えたら昨日の残りがあったから」

 

「流石にあの量は食べきれなかったからね。これも昨日の残り物だし」

 

 厚木基地から帰ってきた昨夜、香織は腕によりをかけてご馳走を用意してくれていた。

 

 普段なら高く、なかなか手の出せない良質な食材をふんだんに使った料理。久しぶりに食べた母親の味も相まって、実家に帰ってきたことを強烈に印象付けた食卓だったが、如何せん張り切りすぎたことで作る量が多くなってしまい、いくら育ち盛りで健啖家の郁でも全て食べきることは出来なかったのだ。

 

「ごめんなさい。久しぶりだから張り切っちゃって」

 

「大丈夫。あの量なら朝とお昼で食べきれるから」

 

「ふふ、じゃあ今日の夕食も頑張って作らなきゃね」

 

 冗談めいた郁の表情に、香織は笑みを浮かべる。そしていただきますと、勢いよく食べ始めた娘の姿を、嬉しそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「気を付けてね」

 

 暫く家でのんびりした後、昼食を食べ終えた郁は少し身体を動かそうと出かけることにした。普段から暇さえあれば身体を動かしているため、休暇でもその習慣が身についているのだ。

 

「よし、行こう」

 

 帽子を目深に被り、家の前で軽くストレッチをした後、早歩きより少し早いぐらいのペースで走り始める。

 

「はっ、はっ、はっ・・・」

 

 日差しが照り付ける中、リズムよく呼吸しながら真新しさの残る住宅街を抜け、街の中心部へと向かう。

 

 工事が続く小松駅に近づいていくにつれて、世間は夏休み真っ只中だからか、出歩く人も交通量も多くなってくる。喜怒哀楽それぞれの表情を浮かべながら、人々は思い思いの目的地に向けて移動していた。

 

「ふぅ―――・・・ あ、ここに喫茶店が出来たんだ」

 

 信号が赤になり、郁は一旦立ち止まって周囲を見渡す。以前来た時は空き地だった場所に新しいお店が立っており、このあたりの雰囲気が大きく変わっている。

 

 ―――最も、十年前に比べれば些細な変化である。ここ一帯の建物は総じて建てられてからまだ十年未満と真新しいからだ。

 

(・・・だいぶ復興したんだ)

 

 故郷の変わりように一抹の寂しさを感じつつも安堵する郁。すると、突然横から懐かしい呼び名で声を掛けられた。

 

「―――もしかして、いっちゃん?」

 

「えっ?」

 

「ほら、覚えてる? 小学校で一緒だった」

 

「・・・よっちゃん?」

 

 声を掛けてきたのは郁と同世代くらいの、高校の制服を着た少女。姿を見た途端、彼女のニックネームを思い出した。

 

「久しぶり! 元気だった? 小学校の卒業式以来だね!」

 

「えっと、うん。そうだね」

 

 小学校六年間一緒のクラスで何度か一緒に遊んだこともある少女は、最後に会った時よりも大きく成長しており、当時は同じくらいだった身長は伸び、体つきも女性らしくなっている。

 

「よっしー、知り合い?」

 

「うん、同じ小学校だった友達」

 

「へー、どこの高校通ってるの?」

 

 彼女一緒にいた少女達が話しかけてくる。恐らく同じ高校に通っているのだろう。クラスメイトか、部活仲間か。少なくとも郁の目には、学校帰りに仲の良い友達と街で遊んでいるように見える。

 

「えーと、私は高校には行ってなくて・・・」

 

「えっ、不登校?」

 

「違う違う。いっちゃんは海上自衛隊のウィッチなんだよ」

 

「ウィッチ!?」

 

「えっ、凄い!」

 

 郁がウィッチであることがわかるや否や、少女達はおろか、周囲の人々までもがざわめきだす。

 

「ウィッチだって?」

 

「海上自衛隊・・・ってことは、もしかして有村二尉か!?」

 

「小松が誇る、あのエースウィッチか! この前アラビア海でも活躍したっていう・・・!」

 

(ま、まずい・・・!?)

 

 注目の的になると危惧した郁は、撤退を選択した。このままここにいれば、せっかくの休みが潰れてしまうからだ。

 

「ご、ごめん、用事があるからまた今度ね!」

 

「えっ? あ、うん・・・」

 

 丁度信号が青に変わったこともあり、郁は挨拶もそこそこにその場から駆け出したのだった―――

 

 

 

 

 

「はぁ―――・・・」

 

 日本海を望む海岸までやってきた郁は浜辺に座り込み、海と空の景色を眺めながらため息をついた。

 

(高校・・・か)

 

 久しぶりに小学校時代の知り合いと再会し、いつの間か彼女が高校生になっていたことを改めて実感する。郁は小学校を卒業と同時に航空自衛隊の機械化航空歩兵教育課程に進み、一年間の促成訓練を得て今の部隊に配属されたため中学校に通っておらず、高校にも進学していない。“上がり”を迎える二十歳までに高校卒業程度の学力を得られるよう、勉強することが義務付けられているが、同世代の子と何かしらの行事に参加するといった経験はしたことがなく、これからもすることもあり得なかった。

 

(―――なんで、私なんだろう?)

 

 ―――十年前、相模湾沖に“ゲート”が出現し、異世界との交流に世間が熱狂していた頃、この街をネウロイが襲った。

 

 当時はまだネウロイとは知らず、未確認飛行物体として対応されていたそれは、スクランブルで発進した戦闘機を撃墜しつつ悠々と小松市上空に侵入し、地上へ手当たり次第に攻撃を始めたのだ。

 

 まず初めに海岸に近い小松基地が壊滅し、そのまま市の中心部へと進みながら赤いビームをばらまくネウロイ。これ以上被害を与えさせまいと果敢に攻撃を仕掛ける戦闘機を撃ち落とし、立ち並ぶ建物を次々と破壊していく。街の人々は逃げ惑うも、火災や崩壊した建物の下敷きになり、多くの命が奪われていく。最終的に、ネウロイは被弾した戦闘機の体当たりによって撃墜されたものの、それまでに受けた被害は甚大だった。

 

 小松市街地は壊滅し、多くの市民が死傷。自衛隊も小松基地も大きな被害を受け、一個飛行隊が全滅状態。司令官を含めた多くの自衛官が戦死(・・)し、その中には体当たりによってネウロイを撃破した郁の父も含まれていた。

 

 ―――郁にとって、ネウロイは父親の仇である。しかし、憎いかといわれると返答に詰まってしまう。

 

 確かに父親の命を奪ったネウロイは憎いが、その張本人は父親と刺し違える形で十年前に消滅しており、仇討ちすべき相手はすでにいない。他のネウロイは新たに出現した個体であるため、攻撃してくるから反撃するものの、彼女にとってみれば仇ではなくただの敵に過ぎなかった。

 

(私は、ただ空を飛びたかったから―――でも)

 

 先ほど再会した友達との記憶が蘇る。それは小学校の卒業式が終わり、別れの際に交わした約束―――

 

(お母さんの仇を取ってね・・・か)

 

 

 彼女もまた、“小松事件”で肉親を失っている。本当は自分がウィッチになってネウロイを倒したかったらしいが、その願いが叶わなかったため郁に託したのだ。

 

(今も・・・変わらないのかな)

 

 彼女だけではない。当時小松市に住んでいた人達の殆どは、あの事件で肉親や知り合い等、何かしら失った者達である。その中で現在ウィッチなのは郁ただ一人。彼らは必然的に期待しているのだ。ネウロイへの仇討ちを。

 

 地元に帰れば盛大に歓迎され、“小松の誇り”とまで呼ばれる彼女は、しかしそんなことのために(・・・・・・・・・)ウィッチになったわけではない。空が好きだから、空を飛びたいからという単純な理由で選んだ道なのだ。

 

(ただ、空を飛びたいだけだったのに・・・復讐のために飛ばない私がおかしいのかな。私もウィッチじゃなかったら、仇討ちを考えていたのかな)

 

 ネウロイとの戦いで多くの人が亡くなったことは悲しく、ネウロイへの怒りもある。だがウィッチとして飛ぶ理由に変わりはない。しかしそれは実はおかしいことではないだろうかと、郁は思い始めていた。

 

―――不意に、遠くからエンジン音が聞こえてくる。

 

 膝に顔を埋めていた郁は、その音がストライカーユニットのものであることに気付いた。

 

「この音って―――「旋風?」」

 

 郁の使用する「蒼莱」とは異なるエンジン音が徐々に大きくなっていく。風圧すら感じるようになり、慌てて顔を上げると彼女の目の前にユニットを履いたウィッチが降り立つ。

 

「あ、やっぱり郁ちゃんじゃない。久しぶり!」

 

「よ、洋子さん・・・?」

 

 そこにいたのは航空自衛隊所属のウィッチ。数か月前、訓練で会った洋子だった。

 

「どうしたのよ? こんなところに一人で」

 

「洋子さんこそ、どうして―――あっ」

 

 質問しようとして、はたと気づく。彼女は第三五一飛行隊の隊長であり、その部隊の配置は小松基地―――つまりこの街であることに。

 

「確か九〇一空は休暇中って―――ああ、そういえばあなた、この街出身だったわね」

 

 忘れてたわ、と呟きながら後ろ頭を掻いて笑う洋子は、不意に声色を変え、優しく尋ねる。

 

「―――それで、なにかあったの?」

 

「あ―――」

 

 洋子の何気ない一言が、郁の心に響く。

 

「・・・ウィッチって」

 

「?」

 

「ウィッチって、空を飛びたいという理由だけじゃ、いけないんでしょうか?」

 

「・・・相当な重症のようね。これは」

 

 直人と若葉は何やっているのよ、とこの場にいない親友に悪態をつくも、おそらく帰省してからだろうなとあたりをつけた洋子。この街にいなければ、彼女の悩みが理解出来なかっただろう。この街で暮らして既に五年以上。住民達のウィッチへの期待を感じているからこそ、洋子は気付いたのだ。

 

 何と答えるべきか悩む洋子だったが、何か思いついたといわんばかりに笑みを浮かべ、郁に提案した。

 

「―――よしっ! じゃあ一緒に飛びましょう!」

 

「・・・はい?」

 

 

 

 

 

「これが、小松の空・・・」

 

 郁は空を飛んでいた。

 

 生まれた時から見上げていたものの、飛んだことがなかったこの空域を、彼女は洋子に抱えられながら飛んでいる。

 

「今日は天気もいいし、絶好の飛行日和ねっ!」

 

 彼女の言う通り、空には少し雲があるものの、太陽が照り付ける綺麗な青空が広がっていた。

 

(お父さんも、こんな空を飛んでいたのかな―――)

 

 眼下に見える小松市の街並みや日本海を眺めながらそう考えていると、装着していた予備のインカムから声が聞こえてきた。

 

『ソーサリー1、どこに行っていたんだ―――って! お前何やってんの!?』

 

『おや、彼女は―――』

 

「ちょっと遊覧飛行をね。大丈夫よ。ちゃんとハーネスはつけているから」

 

 見上げると二機のF-15戦闘機が編隊を組んで飛んでいる。洋子はその二機と訓練を行っていたようで、合流して二機の横に並んだ。

 

『そういう問題じゃないだろ! お前はなに勝手に・・・!』

 

『―――後で始末書を提出。それでいいかな? 上坂三佐』

 

「了解です。坂田三佐」

 

『た、隊長?』

 

『今その子に必要なのは、空を飛ぶことだよ。―――久しぶりだね、有村郁さん。といっても覚えてはいないだろうけど』

 

「えっ、私の名前・・・?」

 

名前を呼ばれた郁は、並走する戦闘機に目を向ける。ヘルメットをしたパイロットはこちらを向いているようだ。

 

『なにせ十年前だからね。あの頃はまだ小学生にもなっていなかったかな?』

 

 コックピットにいたパイロットはバイザーを上げる。その顔に郁は見覚えがあった。

 

「たしか昔、基地の合同追悼式で・・・」

 

『覚えてくれていたのか。それは良かった』

 

 嬉しそうに笑う彼は、“小松事件”で唯一生き残ったパイロットで、以前会ったとき、父親の僚機を務めていたと聞いた覚えがある。あの後色々あったため再会する機会はなかったが、今もこうして小松の空を飛んでいるようだ。

 

『そうそう、後ろについてきているのは、僚機の鷹見秀明二尉だ』

 

『初めまして、有村二尉。先日の戦闘お疲れさまでした』

 

「あ、どうも」

 

「ちなみに私の彼氏よ」

 

「彼氏っ!?」

 

 郁は思わず素っ頓狂な声を出す。その声に驚いたのか、洋子は少しバランスを崩す。

 

「ちょっと、いきなり声が大きい」

 

「す、すみません。でも彼氏って・・・」

 

「別におかしくないじゃない。私だって二十七になるのよ」

 

「―――そういえば、洋子さんって若葉さんと同じ魔法力が衰えないんでしたね」

 

 ウィッチは二十歳を過ぎるか純潔を失うと魔法力を失うため、基本的にウィッチの異性不純交遊は禁止されている。しかし洋子は若葉と同じく魔法力が衰えない家系の生まれであるため、問題ないのだ。

 

『それにしても坂田三佐。なぜ空を飛ぶことが有村二尉にとって必要なんですか?』

 

『ん? まあそれは上坂三佐の行動と、彼女のおかれた状況を鑑みて、かな』

 

『状況?』

 

 無線越しに聞こえてくる会話が、郁の耳に入ってくる。

 

『―――小松市の住民達、特に“小松事件”を経験した人達は自衛隊―――特にウィッチに対して非常に期待している(・・・・・・)のはわかるだろう?』

 

『それは、まあ・・・』

 

 ネウロイという人類の敵と戦う自衛隊は否が応にも実戦に出ることとなり、少なくない犠牲を出しながらも“小松事件”以後は民間人への被害をゼロに抑えてきた。

 

 一昔前ならば憲法違反だなんだと非難の嵐だっただろうが、現在ではそんな意見を言う輩はほとんど(・・・・)おらず、自衛隊―――特にウィッチへ賞賛のほうがはるかに大きい。

 

 ―――だが、その動きはウィッチ隊を抱える自衛隊や政府上層部にとって、あまり歓迎出来る事態ではない。魔法力は使用する者の精神に大きく左右されるため、過度な期待はむしろ彼女達への大きなプレッシャーになるからだ。

 

 特に郁は現在のところ小松市で唯一のウィッチであり、“小松事件”で戦闘機パイロットだった父を亡くした少女である。話題性としては十分すぎるネタであり、あの事件を経験した人々にとってみれば、彼女は自分達の代わりにネウロイと戦っていると思い込んでいる(・・・・・・・)

 

『かくいう私も同じでね。かつてこの地で死んでいった仲間達のために空を飛んでいる、なんて思われているんだよ』

 

『―――違うんですか?』

 

『無論、あの時亡くなった仲間達の分まで頑張ろうという気持ちはある。だけど、今も飛んでいるのはただ“空が好き”だからさ』

 

「あ―――」

 

 それは単純かつ明確で、郁と同じ気持ちだった。

 

『鷹見二尉も、空が好きだろう?』

 

『もちろん。でなければパイロットは務まりません』

 

「私も空が大好きよ。大空を自由に飛び回るなんて最高じゃない!」

 

 秀明と洋子も空を飛ぶ理由は同じ。ウィッチだろうと、戦闘機パイロットだろうと、空が好きだからこそ、皆が憧れるのだ。

 

『俺達は翼が生えていないにもかかわらず、空を飛ぼうとする酔狂な集まりだ。一瞬でも気を抜けば死が待っている世界。だけど、そんな世界に魅入られている』

 

「・・・お父さんも、そうだったんですか?」

 

『ああ、あの人も空が大好きで、それと同じくらい家族のことも大好きな人だった。話をすればいつも娘さん―――つまり君のことばかりだったよ』

 

「お父さん―――」

 

 思わず言葉が漏れる。彼女の脳裏で、今では写真でしか見ることの出来ない父親の顔が笑う。

 

「郁ちゃん。私達は空が大好きだから飛ぶ。それでいいのよ。他人の意見なんてどうだっていい。自分の意志で飛ばなきゃね」

 

「―――はい」

 

 郁は静かに、力強く頷く。

 

 ―――迷いが完全になくなったわけではない。だが空が好きだから飛ぶ。色々な空を見てみたいという気持ちは、彼女の中でさらに固まった。

 

 




心理描写って書くの難しいなやっぱり。
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