上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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序章

「焼肉定食焼肉抜きで」

 

いつもこの一言から俺の学食は始まる。

何故こんなにメニューを頼むのか。それは1番安く得ができるからだ。

この学食の最安値はライス(200円)だと思われがちだが実は違う。

 

焼肉定食から焼肉(200円)を抜くことで、普通のライスと同じ値段でお新香と味噌汁が付くのだ。

 

「何だアイツ」

 

ふっ、お前達には分からないだろうな。このメニューの素晴らしさが。

のうのうと何百円もの大金を一食に使うお前達には!!

 

おっと、取り乱してしまった。

俺の名は上杉風太郎。毎日焼肉定食焼肉抜きのために学校に来ていると言っても過言では無いだろう。

 

友達?いるに決まってるだろ!馬鹿にしてるのか!

 

1人だけな!!

 

そいつは結構多彩でな。ダンスが上手くて、菓子作りも上手い、運動神経も良く喧嘩も強い、あと顔が良い。

こんな感じで完璧のように思えるが、実はそうじゃない。

 

そいつは友達を選ぶのには必須条件があるんだ。

 

”自分の強さを持っているかどうか”

 

この1点だけは絶対譲らない。

 

そいつにとっての強さは───

 

「ん?」

 

何やら女子が俺の事を睨んでいる......ん?同じ机にお盆が2つ......なるほど。ここは自分の席だと言いたいのか。

 

「ちょっとあなた!何座ろうとしてるんですか!ここは私の席ですよ!」

 

「ここは俺が毎日座ってるんだよ」

 

「関係ありません!早い者勝ちです!」

 

「はい俺が先に座った!俺の席!」

 

「ちょっと!」

 

「俺が先に座ったんだから俺の席だろ」

 

「午前中にこの学校を見回っていてヘトヘトなんです!譲ってください!」

 

見回り?......そういえば、ここの制服じゃないな。

 

「嫌だ。あんたが別の席に行けばいいだろ」

 

「何をしているんだお前達は」

 

「......ん?」

 

隣の席で苛立った声が聞こえる。目を向けると、俺の親友が座っていた。

 

「......戒斗」

 

こいつは駆紋戒斗。俺の親友。以上。

 

「さっきから話を聞いていれば、食事をする席程度でゴチャゴチャと......上杉、お前が俺の前に座れば良い話だろう」

 

「でもここは俺が毎日───」

 

「そこの女」

 

俺の親友、戒斗は俺の言葉をガン無視して隣の女子に話しかける。

っていうか女って呼び方やめろよ。

 

「はい......って女!?」

 

「貴様は座るならどうしてもそこが良いのか?」

 

「......別にそういう訳では......」

 

「なら俺が上杉と相席になる。貴様はここに座れ。そいつは多分譲らないからな」

 

「は、はい。ありがとうございます......」

 

「悪いな、戒斗」

 

「こんな小さいことで争う貴様らも貴様らだ」

 

そんな感じで平和な時間が戻った。

戒斗の方を見ると、いつも通り飯がない。

前に聞いた時、「いらん」と一蹴された。

 

まあたまに食ってるんだろ。

 

「そういえば......俺の隣の奴、絶対金持ちだぞ」

 

メニューを見ると、明らかに合計千円以上だった。

昼食で千円以上とかセレブ以外の何でもないぞ。

 

「そうだな」

 

「ちょっとあなた」

 

「ん?」

 

「行儀が悪いですよ」

 

テストの答案を見て勉強していたが、女子に邪魔された。

何だよ。

 

「ながら見してた二宮金次郎は持ち上げられて、俺は怒られるのか?」

 

「状況が違います!」

 

「テストの復習してるんだ。ほっといてくれ」

 

「食事中に復習とは、余程追い込まれてるんですね。何点だったんですか?」

 

この野郎、勝手に取りやがって!

 

「えーと、上杉風太郎くん。得点は......」

 

女子が俺の点数を見る前に、戒斗が取り上げた。

女子は少し怒って戒斗の方を見る。

 

「何するんですか!」

 

「貴様は、他人の物を許可なく取っていいような教育をされたのか?」

 

ぐうの音も出ないほどの正論に女子はたじろぐ。

自分の非に気づいたんだろう。

 

「そ、それは......」

 

「いいぞ戒斗、もっと言ってやれ」

 

「......ふん」

 

「......すみませんでした。勝手なことをして」

 

「いや、いいよ」

 

戒斗のおかげでスカッとしたしな。

 

「そうだ、戒斗の答案見せてやれよ」

 

「おい、何を───」

 

「これですか?」

 

「おい!」

 

「えー、駆紋戒斗さん。得点は......あれ?」

 

女子は点数を見て固まった。

そんなに高かったんだろうか?

俺は今まで戒斗の点数は見たことないから気になるな。

まあ戒斗のことだし、90以上はあるだろうな。

 

「......32点」

 

え?

 

「ちょ、ちょっと見せてみろ」

 

女子から取り上げて見ると、本当に32点だった。

そういえば、学年の順位にも名前がなかったな......そういうことだったのか。

戒斗は何食わぬ顔で俺から答案を奪い、素早くポケットにしまった。

 

「あなた、勉強苦手なんですね。32点......」

 

「お、おい!もっと言い方ってものが......!」

 

「これに関しては、俺は何も言えん」

 

この点数で尚、腕を組んで堂々としている。流石だ。

 

「奇遇ですね、私も勉強苦手なんですよ」

 

「......そうか。上杉、お前は?」

 

「えー......この後に言うのは何か嫌だな......」

 

「あなたも勉強苦手なんですか?」

 

「いやー、なんて言うか......」

 

女子が答案を見て、戒斗と一緒に得点を確認する。

 

「......100点」

 

「あーめっちゃ恥ずかしー!」

 

この言葉に女子は頬を膨らませてムゥ、などと言っている。

いやー、恥ずかしーなー。

 

「わざと見せましたね!」

 

「なんのことだか」

 

「......悔しいですが、羨ましいです。先程言いましたが、私も駆紋さんも勉強は苦手なので」

 

「おい、同列に扱うな」

 

そんなやり取りをしていると、女子はふと思いついたように提案した。

 

「そうだ、ここで出会ったのも何かの縁ですし、勉強教えてくださいよ」

 

「ごちそうさまでした」

 

「えっ......食べるの早......っていうか、お昼ご飯それっぽっちでいいんですか!?私の少し───」

 

「満腹だね。むしろあんたは頼みすぎ、そんなに食ってると太るぞ」

 

「ふ、ふとっ......」

 

女子は怒ったようにまた頬を膨らませて、椅子に勢いよく座った。

 

「もういいです!あなたみたいな無神経な人には何もあげません!」

 

「はっ、元から欲しがってないっての」

 

関わりすぎたかな。ま、いいか。どうせ話すこともないだろうしな。

先程来た妹からのメールを見ると、TELくださいと送られていた。

 

電話してみると、不意打ちの大声が聞こえた。

 

《お兄ちゃん!お父さんから聞いた!?新しいバイト先見つかったって!》

 

「うわっ!......ど、どうしたらいは。落ち着いて話してくれ。耳が......」

 

《あ、ごめんね。あのねお兄ちゃん。うちの借金、なくなるかもしれないよ》

 

「......は?」

 

確かまだまだ額はあったはず......ウチにはそんな大金無いはずだ。

 

《最近引っ越してきたお金持ちの家のバイトをお父さんが見つけたんだ。アットホームで楽しい職場!相場の5倍のお給料が貰えるって!》

 

「いや裏の仕事の臭いしかしないんだけど」

 

《......人の腎臓って片方なくなっても大丈夫らしいよ》

 

「俺にやれと!?」

 

《うそうそ。成績悪くて困ってるって言ってたよ。でもお兄ちゃんならできるって信じてるから》

 

「ちょっと待て!やるなんて一言───」

 

《お兄ちゃん、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで、お腹いっぱい食べられるようになるね!》

 

妹のこんな嬉しそうな声聞いたら、兄としてはしっかりやらなくちゃな。

 

「......その娘ってどんな奴なんだ?」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

風太郎が去った後、学食で女子と戒斗は2人話していた。

 

「まったく......あんなこと言うなんて......酷いと思いませんか!?」

 

「......何故俺に振る」

 

「だって聞いていたでしょう?女の子にふ、太るなんて......!」

 

「何だ、気にしてるのか?」

 

「や、やめてください!」

 

「まあ、上杉の言っていることは間違ってはいないな」

 

「え?」

 

心の中でどう思っていたかは別として、などと考えつつ、女子の昼食に目を向ける。

 

「うどんはまあ分かる。あとはプリンもまあ普通だ。が......海老天、いか天、かしわ天、さつまいも天、トッピングだけでこれは貴様どうかしているぞ。明らかに普通の量じゃない」

 

「うっ......」

 

女子は指摘される度にダメージを受けたような素振りを見せ、耳を塞いで首を横に振った。

 

「食欲旺盛なのは結構だが、その量まで来るとな」

 

「だってだって、食べたくなるんですもん!」

 

「そもそも、そこまで油の多いものばかり頼んでいたら、”太る”という思考になるのは当然だろう」

 

「......少しどうぞ」

 

さすがに多過ぎると思ったのか、徐に海老天を1本、戒斗に向けた。

 

「いや、今更変わらないだろう」

 

「だとしてもです!どうぞ!」

 

学食の中が少しだけざわつき始める。

それもそのはず。今2人は意に介していないが、女子が戒斗に海老天を向けるこの光景、どうみても「あーん」状態になっている。

 

そして名残惜しいのかぷるぷると震えている女子の手を掴み、海老天を口に放り込んだ。

 

「むぐ!?」

 

女子の口に。

 

「もぐもぐ......いらないんですか?」

 

「貴様が頼んだんだろう。貴様が食え」

 

「......ありがとうございます」

 

「自分で頼んだんだから当然だろう」

 

「......今度からは少し減らします」

 

「そうか」

 

こんなやり取りがあったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後、風太郎のクラスでは転入生が来た。

 

「......さて、今日来る奴が俺の教えるになるわけか......確か中野......だったか」

 

昨日らいはから聞いた娘の情報は、高校生で、午後から自分の学校に転校してくるというものだった。

そして偶然風太郎のクラスに転入生が来ると担任から報告を受けた。

 

「......さて、どんな奴だ?」

 

教室の扉が開き、担任の教師と共に入ってくる1人の女子。

その姿は、見覚えのありすぎるものだった。

 

礼儀正しく背筋を伸ばし、丁寧な口調で自己紹介を始めた。

 

「中野五月です。どうぞよろしくお願いします」

 

「......!!」

 

風太郎が筆舌に尽くし難い程驚愕し、開いた口が塞がらなくなっている中、教室はざわめいている。

 

「女子だ」

 

「普通に可愛い......」

 

「あの制服って黒薔薇女子じゃない?」

 

「マジかよ、超金持ちじゃん」

 

「一体何者だよ」

 

クラスメイト達が謎の美少女転校生に驚いている最中、風太郎の心中は、

 

(この人知ってるーーー!!転入生でお金持ち......ってことは俺はこいつの家庭教師をするのか!?)

 

今にもパンクしそうな程ギリギリの状態だった。

転入生の女子、五月が担任に席を指定されて移動する。その時、風太郎の机の横を通ったり

 

「ど、どうも......」

 

風太郎が頑張って笑顔で挨拶するが、昨日のことを根に持っているのか、プン、と無視をされた。

今の五月の態度を見て、風太郎は頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「転入生を紹介するわね」

 

「中野一花でーす!よろしくお願いします!」

 

「......は?」

 

戒斗のクラスにも転入生が来た。

それも五月にそっくりな顔の。

 

 

 

 

 

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