『戒斗くん、君もスマホを持った方が良いのではないかな?』
「どういう経緯でその結論になった」
『いやね、最近の若者は皆持っているらしくてね。私としても君に若さを楽しんで欲しいんだ』
「金の無駄だ」
『心配いらない。既に買ってあるよ。とりあえずは持っておきたまえ』
気づいた時には鞄の中にスマホが入っており、戒斗は慣れぬ操作に手間取った。そして何とか写真の撮り方と電話のやり方は習得した。
「こんな面倒な物はいらんな」
別にトランシーバーで連絡すれば問題ないのではないかとも考えたが、鞄のどこにも見当たらなかった。その事実は、戒斗にスマホとトランシーバーが入れ替わったと思わせるには充分だった。
「......チッ。手の早い奴め」
めんどくさがっていると、唐突に着信音が鳴った。
画面には《P》と書かれており、戒斗は拒否のマークを押して着信を切った。
『君の押すボタンは逆だよ。赤い方ではない。緑を押すんだ』
「知らん。というか、何故出られる」
『君が着信を拒否した時のために残しておいた奥の手だったんだが、こんなに早く使用することになるとは......一度きりだから温存───』
強制的に通話を終えてスマホを雑にしまい、気を取り直して学校へと向かった。
○○○○○
「しかし、トランシーバーと異なるところなど、大きさ以外にないと思うがな......」
「戒斗くん、おっはー!一緒に学校行こ?」
機嫌の良い声で駆け寄ってきたのは一花だった。
花火大会の件もあり、戒斗に懐いているようだ。
「......ああ」
「あれ?冬服へのコメント無し?」
くるりと一回転して見せる一花だが、戒斗は携帯の操作に忙しく、それどころではなかった。
「冬服?」
「そだよ。どう?似合ってる?」
「良いんじゃないか」
「ん!ありがと!」
適当に返しているだけだが、一花にとっては満足な答えらしく、嬉しそうに笑っていた。
「ところで、一ついいか?」
「珍しいね、どうしたの?」
「これの使い方を教えて欲しいんだが」
戒斗の携帯を見て、一花は衝撃を受けた。
「メアド交換しよ!」
「おい、メアドとは何だ」
「何って連絡先だよ!」
「分かった」
「やったー!」
一花は戒斗から携帯を受け取り、手際よくメアド交換を終えた。
あまりの速さに尊敬の念すら抱きかけた戒斗だった。
「って、戒斗くん友達私しかいないじゃん」
画面を覗き込んでみると、友達リストに《P》の文字は無かった。
「......考えても無駄か」
「てことは、私が戒斗くんの友達第一号だね!」
「そうらしいな」
「えへへっ、嬉しいなぁ♪」
それから学校に着くまで、終始一花は上機嫌だった。
時折携帯の画面を眺めてはニヤニヤしていた。
放課後、五つ子と風太郎に勉強会に連れて行かれた戒斗は、風太郎ともメアド交換をした。
「おお!これで戒斗と本当の親友に......!いつでも連絡してきていいからな!相談とかいくらでも乗るぞ!」
「フータロー君、言っとくけど私が第一号だからね!」
「はっ!お前はただの友達、俺と戒斗は親友だ!格が違うんだよ!」
「むむむ......!」
戒斗の連絡先を手に入れたのか、テンションが爆上がりしている風太郎を見て、一花は対抗心を燃やしていた。
ふと携帯に目を向けると、四葉と三玖もメアド交換していた。
「すまないな。まだ操作に慣れないから助かる」
「気にしないでください!」
「これくらい任せて」
二人とも戒斗が見逃すほど素早くこなすものなので、ある意味別の意味で恐ろしいと思った。
「あとは二乃と五月ちゃんだね」
「その二人なら学食ですよ!」
「上杉、お前も家庭教師としてあいつらの連絡先は持っておけ」
戒斗は手こずりながらも一花、三玖、四葉の三人の連絡先を風太郎に登録させ、二乃と五月を探しに行った。
「お断りよ。お、こ、と、わ、り!」
「私は構いませんよ」
「五月!?」
五月ともメアド交換し、残るは二乃だけとなった。
「私は嫌よ!」
「そうか。分かった」
「えっ、ちょ......もうちょっと駆け引きしなさいよ!」
「駆け引きも何も、嫌なんだろう?まあ、勉強の件はお前抜きでも話せるからな。後から伝えてもらえば問題ないだろう」
「......分かったわよ!書くものをよこしなさい!」
涙目で震える二乃に、戒斗は生徒手帳を渡した。
「......仕方なくよ、仕方なく......」
”お前抜き”という単語に反応し、自分以外の姉妹と内緒の話をされるのが嫌だったらしく、渋々了承してくれた。何だかんだ連絡先を交換してくれる二乃に、戒斗は不器用だなと思った。
二乃が戒斗の生徒手帳に連絡先を書いていると、突然勢いのある着信音が鳴った。
《ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイト!》
ツッコミどころしかない着信音だが、戒斗はその音で誰からの着信かを悟った。
「少し借りるぞ。どうした」
『実は困ったことになってね。どうやら、君の学校の屋上にクラックが出現したみたいだ。至急閉鎖に向かってくれ』
「......分かった。すぐに行く」
屋上に向かって走り出した戒斗だったが、生徒手帳を忘れていることには気づかなかった。
廊下を走りながら、戒斗はPにクラックの詳細を聞く。
《大きさは縦1m、横70cmのもので、上級インベスは出ない。初級インベスがチラホラ出る程度、飛行体はいない。
だがいつ上級が出るか分からない。早急に頼むよ。あと、屋上のドアノブにロックシードがあるから、それを使いたまえ》
「ああ」
通話を切って屋上まで一気に駆け上がって扉を開けると、初級インベスが数十体いた。
「......バナナでは手に余るな」
戒斗はドアノブにあるロックシードを取って開錠した。
「初級程度ならすぐに粉砕できるか。変身!」
《マンゴー!》
クラックが開き、大きなマンゴーが降ってくる。
戦極ドライバーにセットしてカッティングブレードを倒し、すぐに変身する。
《カモンッ!マンゴーアームズ!》
落ちたマンゴーが開くと、背面にはマンゴー色のマントが靡き、方や胸、下方に捻れた角など、至る所に四角く切れ込みの入ったマンゴーの果肉を思わせる意匠がある。
《ファイト・オブ・ハンマー!》
手にはマンゴーの形をしたハンマー「マンゴパニッシャー」が握られており、地面に引き摺っているところを見ると、その重量が伺える。
初級インベス達は考え無しに突っ込んでくる。
「フッ!」
マンゴパニッシャーを一振すれば、インベスは周りを巻き込んで爆散する。
「ハアッ!」
向かってくるインベス達はマンゴパニッシャーの一振でどんどん数が減っていく。
「セアッ!!」
そして、半分以上を倒して残り全てのインベスが一斉に向かってきた。
時間をかけていられないと、戒斗はカッティングブレードを一気に三回倒した。
「ハアアアアア......!」
マンゴパニッシャーを勢いよく振り回し、前方に思い切り突き出した。
《マンゴー・スパーキング!!》
「ハアアアアアアッ!!!」
一直線上に出されたエネルギーは、残り全てのインベスを巻き込んで、上空へ飛んでいき、大爆発を起こした。
インベス達は、断末魔を上げることなく消えていった。
「......やはり、マンゴーは使えるな」
戒斗は変身を解除して学食へ戻った。
「......帰ったか」
だが既にもぬけの殻状態で、戒斗はそのまま学校を後にした。
○○○○○
上杉とはメアド交換して、あいつのは手帳に書いただけ。
勝手にどっか行って帰ってこなかったからそのまま持って帰っちゃったけど、大丈夫でしょ。
と思ったら、次の日起きた時に目の前にあいつの顔があった。
「おい、手帳を返せ」
「きゃあああああああっ!!!!!!」
私はつい思いっきりビンタしちゃった。一瞬懐かしい気分になっちゃったけど、踏み込んじゃダメな気がしたから考えないようにした。
「二乃ー、思いきり叩きすぎだよー?大丈夫?痛くない?」
「だって、朝起きたらこいつの顔が目の前にあるのよ!?本当にビックリしたんだから!」
一花はそれを聞いてブツブツ言ってるけど、よく聞こえなかったわ。
頬に氷を当ててあげながら一応謝ったけど、元はと言えばこいつが悪いわよ!
「そもそも、こんな朝から乙女の部屋に無断で入らないでよ!」
「私が許可しちゃった」
「警戒心緩すぎるわよ長女!」
一花は花火大会の日からこいつにやたらと懐いてるけど、何かあったのかしら。正直気に食わないけど、助けられたのも確かだから強く言えないのよね。
「一刻も早く生徒手帳を返して欲しかったんだが......驚かせてしまったか」
「当たり前よ!」
こっちは一瞬泣きそうになったんだからね!言わないけど!
「......っていうか、生徒手帳ってあんたが置きっぱなしにしてたのよ?私は拾っておいてあげたんだから、もっと態度ってものがあるでしょ?」
「そうか......なら、一つ言うことを聞こう」
「戒斗くん!?」
「いいわよ。それじゃ、家庭教師を───」
「に、二乃!昨日言ってたやつ置いとくね!」
昨日のやつ......あ、忘れてたわ......どうしようかしら。
今なら家庭教師を辞めさせられる......でも......!
「......はぁ、返して欲しかったらついて来なさい」
私は部屋にあいつを入れた。本当は死ぬほど嫌だけど、背に腹は変えられないわ。
「さっきいった命令の権利を使うわ。ピアス、開けてくれる?」
「構わないが......良いのか?」
「何がよ」
「体に穴を開ける訳だが」
何でこういう所で気を遣うのよこいつは!変に優しいと決断できないでしょ!
「早くやりなさいよ!」
「......ああ」
ところで耳に穴開けるのって痛いのかしら?よく聞く話では痛くないっていうけど......そこのところどうなんだろ......まあ、何かあったら責任はこいつに押し付けよ。
「3秒前」
「......えっ」
「2」
「ちょっと待っ───」
「1」
「待ちなさいって!」
あ、やば。ついビンタしちゃった。
「ご、ごめん。ってかカウントダウンされたら怖くなるでしょ!」
「どうせ開けるなら同じだろう」
「焦らされるとダメなの!」
あいつは頬をさすってるけど怒ってるようには見えない。
ちょっと安心。
「自分でやればいいだろう」
「嫌よ。怖いわ」
「ところで、何で開けたいんだ?」
「特に理由なんてないわよ。皆してるからしたいだけ」
「......そうか。勿体ないな」
「......は?」
今こいつなんて言ったの?勿体ない?何が?何で?
よく分からないんだけど。どういうこと?
「変なことを言うが、綺麗な耳をしているからな。穴を開けるのが勿体ないと思っただけだ」
「......キモっ。何、耳フェチ?変なことどころの話じゃないわよ」
「だろうな。俺も自分でそう思った」
あれ?何でだろ......何かこいつの顔見れない。
褒められたからかしら......綺麗な耳なんて初めて言われたわ。
「......まあ、生徒手帳は返してあげるわ。命令権もまたの機会に取っておこうかしら」
「助かる」
「はい......あ」
生徒手帳を渡そうとしたら、中から何枚か写真が落ちた。
1枚は錠前みたいなのが写ってて、バナナだったり、オレンジがデザインされてた。
こいつ、バナナって案外センスあるのね。
もう1枚は紫の皮のフルーツ?みたいなのと空間に浮かぶジッパーが写ってる。
「何これ?CG?」
「......気にするな」
「ま、興味無いからいいわ。それにしてもあんた、バナナって分かってるじゃない!」
「バナナが好きなのか?」
「バナナが好きっていうか、バナナの騎士様が好きなの」
「バナナの騎士様?」
仕方なくこいつに騎士様の写真を見せた。
少し前に一度会っただけだけど、ビビッときたわ。
「......こいつがバナナの騎士......か」
「ええ。この人は私の命の恩人でね。名前はバロン様。前に怪物から助けてくれたの」
「......そうか」
「颯爽と現れてくれて一瞬で怪物たちを倒してくれたの。その後にはお姫様抱っこされたんだから!」
「......よかったな」
「私はね、その時思ったの。結婚するならこの人だって!一目惚れって本当にあるのね」
「そ、そうなのか」
思い出しただけでも惚れ惚れするわ。ああ、もう一度会えないかしら......一度でいいから、その仮面の下の素顔を見たいわ。
「そういえば、バロン様もこのバナナの錠前をつけてたような......あんた、何か知ってるの?友達?親戚か何か?」
気の所為かもしれないけど、そんな気がする。写真を持ってるし、繋がりがないとは思えないわ。
「......まあそんなところだ」
「ホント!?」
「あ、ああ」
さっきピアスの件をやめて良かったわ!
「命令権を使うわ!今度バロン様に会わせなさい!」
「......最大限努力しよう」
何だかすごい自信なさげね。でも、これでバロン様にまた会える確率が出来たってことよね!嬉しいわ!
「って、あんた汗すごいわよ!?」
「......大丈夫だ。とりあえず、部屋を出てもいいか?」
「ああ、もういいわよ」
あいつは汗をダラダラかきながら部屋を出ていった。
何かすごく焦ってるように見えたけど、何だったのかしら?