翌日、俺は中野家にてボードゲームをしながら昨日のことを後悔していた。
なんで俺はあんなこと言っちゃったんだー!
クビがかかってるんだ。仲違いしてる場合じゃないだろ!
次会ったら正直に話そう......戒斗には念のため言っておいたけど、変に心配かけないか不安だ。
「上杉さんっ、私結婚しました!ご祝儀ください!」
「えっ」
「おめでとー」
「じゃ、次私の番......スカウトされて女優になる、だって」
「もー!それ私が狙ってたのにー!」
あ、ボードゲームの話か。
ゲームでも貧乏って......ははは。
「はは......ってエンジョイしてる場合か!自分の人生どうにかしろ!」
「でも、今日は沢山勉強したし、休憩しようよ」
「もう頭がパンクしそうです......」
「そうだが......」
とはいえ、少し根を詰めすぎたか......だが、今やこの仕事は俺のためだけではなくなっている。
らいは......そして五人の人生を背負ってると言っても過言じゃない。
俺達は合格に......ゴールに辿り着けるのか?
そんな時、インターホンが鳴った。
「私行くよ」
「すまん」
一花に出てもらい、俺は今後について考える。
とりあえず五月に謝らなくちゃな。過程はどうあれ、俺は家庭教師としてあるまじきことを言ってしまった。
「フータロー、なんかいつもより焦ってる。私たちそんなに危ない?」
「......いや───」
「上杉」
「おわっ、戒斗!?」
いきなり声かけるなよ!ビックリするな......ん?ここにいるってことは、インターホンを鳴らしたのは戒斗だったのか。
「昨日の件で話がある」
「ちょうど俺も話したかったところだ」
戒斗と俺は、一旦家を出て屋上に行った。
「それで、赤点を回避できなければクビ......というのは本当か?」
「ああ。本当だ」
「あいつらには言うのか?」
「......いや、言わない。変なプレッシャーになるかもしれないだろ。とはいえ、五月には言わなきゃならないだろうな。頼んでもいいか?」
戒斗は少し考えて了承してくれた。
「......そうだな。あと、あの女には絶対知られないようにするぞ。知られたらどんな行動に出るかは火を見るより明らかだ」
あの女って......まあ二乃だろうけど。
そこそこ付き合いあるのに、その呼び方はどうなんだ?
「あと、お前はしっかりあいつに謝れ」
「......五月のことか」
「ああ。いつまでも衝突したままじゃいられないからな」
「......分かってる」
あいつとはどうも馬が合わないんだよな。
すぐ喧嘩しちまうし。
「......俺もある程度は予習してきたが、あいつらに教えるとなると骨が折れそうだ。気合い入れろよ」
「おう!......ちなみに、予習ってどのくらいだ?」
「赤点は回避できる程度だ」
「......及第点だな。あいつらと一緒に教えるから、復習怠るなよ。今頼りになるのはお前だけだ。出来るだけ早く覚えて、あいつらに教えられるくらいにはなって欲しい」
「善処する」
○○○○○
「あ、おかえりー。戒斗くんもボードゲームやる?」
「遠慮しておく。今は勉強しなければならないんでな」
一花達に教えるために勉強している戒斗だが、一花はふと違和感を感じた。
「......ね、私から提案があるんだけど───」
「あ、なんだ。勉強サボって遊んでるじゃない」
一花が何かを言いかけたが、二乃が来たせいでその言葉は遮られた。
「私もやる。あんた代わりなさいよ」
「良いけど......貧乏だぞ」
「貧乏って言ってもそんなに......お金少なっ!」
「だから言ったろ」
「そうだ。あんたも交ざる?」
二乃の視線は風太郎の後ろの人物に向けられている。
風太郎が振り向くと、そこには五月がいた。
「五月......少しいいか?」
「......私はこれから自習があるので失礼します」
2人の言葉にほぼ反応せず、五月は早足で階段を上って部屋に籠ってしまった。
「お、おい!」
「......ほら、あんたらも今日のカテキョーは終わったんでしょ。帰った帰った!」
風太郎が止めようとするも、二乃に背中を押される。このままでは何も解決出来ないまま終わってしまうと焦燥感に駆られたが、思わぬ助け舟が入った。
「何言ってんのフータロー君。戒斗くんも、今日は泊まり込みで勉強教えてくれるって話でしょ?」
「え?」
「え?」
「......何?」
一花に助けられた戒斗は、風呂に入っていた。
強制的に風太郎を先に入らせ、一刻も早く勉強を教えられる状況を作った。
そして後の戒斗は今入浴中だった。
最上階の窓から空を見て、久しく見ていない星を懐かしく感じた。
「......あいつの作ったロックシードがどれだけあるのかは知らないが、少なくともAクラスが五つはあるだろう......となると上級インベスが最低でも五体......ゲネシスドライバーと同時に使われれば少しキツくなるか......」
戒斗はロックシードの奪還方法を考えながら、ゲネシスドライバーを盗んだ犯人の特徴を絞っていく。
「......あいつのセキリュティを欺き、厳重保管しているゲネシスドライバーを奪うとなると、そう簡単なことではないな......とはいえ、方法を知らなければ、の話だが......」
「駆紋さん、五月です。少しいいですか?」
「何だ?」
「あなたから私に話したいことがあると一花に言われたのですが、何か御用でしょうか」
「お前に、お前たちに頼みたいことがある」
そんなことを言った記憶はないが、戒斗はこれをチャンスだと考えた。
クビのことを言うなら今のうちだと。今近くに五月以外の姉妹はいないだろうと思い、顔の見えない五月に頭を下げた。
「......なんでしょう?」
「......今回の中間試験で、お前たちの誰かが赤点を取ったら、家庭教師を辞めさせられる。上杉の家の事情は知ってるんだろう?そうでなくてもお前には───」
「なるほど、そういう事でしたか」
五月はドアを開けて中に入ってきた。
「何故ドアを開ける」
「前に私の裸を見たんだからこれでおあいこでしょ」
「っ!その声は......!」
風呂の際は声が反響していまいち聞き取れなかったが、今ならばはっきり分かる。この声は五月ではない。
戒斗は視線を上にを向けて声の主の顔を見た。
「あんたらと五月の様子が変だったから来てみれば......」
「貴様───」
「赤点を取ればクビ、ね。いいこと聞いちゃった」
”二乃”はそう言って悪戯な笑みを浮かべた。
戒斗は不測の事態に冷や汗が止まらず、歯噛みすることしかできなかった。
○○○○○
「戒斗の奴、風呂長いな」
「きっと美少女たちの残り湯を堪能してるんだよ」
「おいやめろ。それだったら俺の残り湯も堪能されてることになるぞ」
「まあ比率で言ったら5:1だし」
「考えさせるな」
先に風呂に入らせてもらって一足早く勉強を教えている訳だが、丁度いいタイミングで戒斗が上がってきた。
その顔は柄にもなく焦っているように見えた。
俺を見つけた後、手招きされたので行ってみると、驚くべき事実を告げられた。
「......クビの件があいつにバレてしまった......すまない」
「あいつ?......ま、まさか二乃か......!?」
「......ああ」
な、なななななんてこった。よりによって一番バレたくない奴に......戒斗にその時の状況を詳しく説明してもらった。要するに、入浴中に話しかけてきたのが五月だと思ったら二乃だったらしい。
クビの件は戒斗に任せたから俺も悪いが......二乃め、恐ろしい奴だ。
くそ、とんでもない悪女だぜ!
「と、とりあえずは今やってる試験対策をやってくれ」
「分かった。本当にすまない」
「......大丈夫だ」
とは言ったものの、赤点で解雇だなんて二乃にとっては好都合......絶対勉強に勤しまない......勤しまないことに勤しむに決まってる!
「戒斗、とりあえず俺達が有用であることを二乃に見せつけるぞ」
「了解だ」
そこからテンションを上げながら勉強を教えて言った。なんかこっちの方が頭が回るな。
「お前ら!分からないところがあればなんでも聞けよ!」
「上杉さん!国語の選択問題の当たりやすい答え方を教えてください!」
「いい質問ですねぇ!基本的には四番の確率が高いぞ!」
「分かりました!」
「はーい!戒斗先生、「討論」って英語でなんて言うんですかー?」
「debateだ。これは確実に今回の試験に出るからな。「でばて」と覚えれば良いぞ」
「おお、先生っぽい!」
戒斗もしっかり予習してきてくれてるし、助かるな。
一人と二人じゃこうも違うのか。
どうだ二乃!俺たちは有用だぞ!
「フータロー、質問いい?」
「何だ三玖?どんな質問でもどんと来い!」
「好きな女子のタイプは?」
「「「えっ」」」
「アミール、社会主義経済......ケインズ、資本論にペレストロイカ、経済循環......なるほど。他にもあるが、社会は一先ずこんなものか」
戒斗を除いた全員が一瞬固まった。教えて欲しいことって勉強での意味だったんだがな......いや、待てよ。これはいい使い方ができる!
「よし!それじゃノートを1ページ埋める事に、俺と戒斗の好きなタイプBest3をどちらか一つずつ答えよう!」
「俺もか」
戒斗には悪いが巻き込ませてもらおう。
「っ!やるよ皆!」
「おー!」
「どうしたの一花。そんな急にやる気出して......まあ私もやるけど」
そこからの三人のノートを書くスピードはとんでもなかった。
普段の三倍近く速いんじゃないかって思ったな。特に三玖と一花のやる気が凄まじい。
「何故俺まで......」
「二乃にバラしちまったんだから、これくらいはしてくれ」
「構わないが......答えに困るな」
「はい!終わったよ!」
マジで早いな!
「戒斗くんのタイプ第3位は!?」
「正直というか、”真っ直ぐな奴”だな」
「おおー!よし、再開するよっ!」
本当にやる気が凄いな。メラメラ燃えてる感じがする。熱血勉強少年って感じだ。この場合は少女か?
「終わった。フータローのタイプ第3位は?」
「”いつも元気”だ!」
「いつも元気......」
「はい!終わりました!」
間髪入れずだと!?なんてこった、速すぎるぞこいつら!
「2ページやったので上杉さんと駆紋さんの第2位を教えてください!」
「えっ、二個指名とかありなの!?」
「うーん......1ページ埋める事に一つだからな。仕方ない、認めよう!ちなみに俺は”料理上手”だ!」
「ふむふむ!駆紋さんの第2位は何ですか!?」
「”強い奴”だ」
「か、変わってますねぇ。それじゃ、再開します!」
ほとんど時間をかけず質問しまくるこいつらだが、着々と勉強が進んでいるのも確かだ。
この方法、思いの外効果があるんだな。
「「終わった!」」
おおっ!三玖と一花が同時に終わらせた!
凄いぞ!これで一人2ページずつやり終えたわけだ!これはしっかり答えないとな!
「よーし、解答枠も残り二つ、終わったページも2ページ、これで最後だな!ちなみに、俺の1位は......”お兄ちゃん想い”だ!」
「それあんたの妹ちゃん!」
「えっ」
急に二乃がツッコミを入れてきたからビックリしたぜ。
「なんだよ二乃、盗み聞きして......どうせならお前も勉強するか?」
「聞きたくなくても耳に入るの!」
「らいはちゃんだったなんて、頑張ったのにずるいです!」
そう言われてもな。
俺のスタンスは前にも言ったと思うんだが。
「俺は恋愛なんて───」
「わ、凄い。三玖ってばもう課題終わらせてるよ」
マジか、早いな。勉強に積極的なのはいい事だ。
ありがたや三玖。
「フータロー君、頑張った人は褒めてあげないと。ね、三玖?」
「え、うん」
「?」
「ほーら」
一花は俺の腕を持ち上げて三玖の頭に手のひらを乗せた。
なるほどな。撫でろってことか。
「はい頑張りました。よしよし。たまには先生ぽいことしなくちゃね?」
「......!」
撫でると三玖は俯いて動かなくなった。
「なんだこれ?」
「どう?ドキドキした?」
「別に」
ドキドキしねぇだろ普通。
「四葉、チェック」
「ラジャー!」
「なんだ!やめろ!」
「まあまあ逃げないでください!」
「来るな!近づくな!」
「いいじゃないですか!」
こ、こいつ、化け物か......どんだけ走るんだよ......やばい、死ぬ......しかも何故か俺の胸に耳当ててきたし。心音の確認か?
「上杉さんドキドキしてます!」
「あれだけ走ればな!」
当たり前だろうが!誰でもお前みたいに体力オバケじゃねーんだぞ!
「......騒がしいですよ」
喧しくしていると、部屋のドアが開いて五月が下りてきた。
「勉強会とはもう少し静かなものだと思ってましたが」
「ごめんねー」
『えっと......昨日はごめんな!よければお前も一緒に勉強しないか?』
......なんて言えたらいいんだがな......直接顔を合わせると言いづらいな。
戒斗も声をかけられず───あれ?あいつどこいった?
「三玖、ヘッドホンを貸してもらっていいですか?」
「いいけどなんで?」
「一人で集中したいので」
こいつ......意地でも教わらないつもりか。
「......お前のこと、信頼していいんだな?」
「......足手纏いにはなりたくありません」
「五月!待てよ!じゃあなんで......」
「フータロー君、戒斗くんは?」
「さっきから見当たらないな」
......ん?なんかキッチンからいい匂いが......まさか!
「......なんだ」
キッチンから出てきたのは戒斗だった。
持っている皿の上には、小さなケーキが乗っていた。
パティシエもびっくりな腕前で作ったスイーツは、タダで食うには申し訳ないほどの極上の甘味なのだ。
「わ、すごーい!」
「これをあいつに届けてくる」
「......五月に?」
「ああ」
「......戒斗くん、フータロー君、星が綺麗だよ。ちょっと休憩しよ?」
一花......また突飛なことを......まあいい。
「三玖、四葉、お前らも休んで───」
「家綱 綱吉 家宣」
「なるほど、家綱、綱吉、家綱」
「違う。二人いる」
「家綱吉 家宣」
「合体してる」
......まあ、少しくらいならいいか。