中間試験を前日に控え、風太郎と戒斗はまた泊まり込みで勉強をした。
風太郎だけでなく戒斗もいたので、効率は上がっていた。
試験対策を終えて、そろそろ寝ようかという時には全員が机に突っ伏して寝るものだから戒斗は五つ子を各部屋に運び、風太郎もソファに寝かした。
全員を部屋に叩き込み、ノートも整理して直していた。
まるで家政婦や世話係のようになっているが、風太郎達は五月のように放置すれば間違いなく体に負担をかけるので、こうでもしなければ床で寝たりするかもしれない。
「寝る時は自分の部屋───くっ!」
「ん、戒斗くん......」
それを危惧して部屋に運んでいたのだが、最後に一花を部屋に入れた時、首をホールドされた。
戒斗でなければ骨折必至の力で掴んでいる。
「こいつ、強いな......」
「んふふ......」
寝ぼけているのか、戒斗を抱き枕のように扱う一花。思いのほか力が強く抜け出せずにいた。
「くそ、離れろ......!」
「離れないで......」
寝言と見事に会話が噛み合う。
本当は起きているのではないかと思ったが、唐突に服を抜き出したので寝ているのだと確認できた。
「とはいえ、寝てる時に服を脱ぐなど正気の沙汰じゃないぞ」
「う......ん」
服を脱ぐ際、戒斗から手が離れた。
その隙を狙って一花から離れ、無理矢理服を脱ぐのを止めた。
だが止めたそばから脱いでいくので、戒斗は手遅れだと悟った。
「どんな寝相だまったく......」
「私が......守るからね......」
夢の世界に入って魘される一花が、何らかのトラウマらしきものを抱えたように見えた。
一瞬心配した戒斗だったが、服を脱ぎながら言っているのを見て馬鹿らしくなった。
「......布団くらいはかけておくか」
半分投げつけるように布団を被せ、部屋を出る。
リビングのソファで寝ている風太郎は、金がどうだと言いながら気持ちよさそうに夢を見ていた。
「......試験は明日、か」
「......戒斗ぉ、お前にも世話かけたなぁ......」
少し経つと、夢の中ですすり泣きを初めた。戒斗は情緒不安定かと思い、自分の名前が出るのが少し気味悪くなったので風太郎の額を指で弾いた。
「あがっ!」
額から煙を出して風太郎は目を回した。
それからは情緒不安定な寝言は聞こえなくなった。
「さて、無事に終わるといいが......」
○○○○○
翌日、風太郎達は8時半登校でありながら8時15分に起きた。
戒斗は起きており、準備も済ませていた。だが、凌馬からクラックの出現報告を聞き、結果として道中のコンビニで風太郎達と鉢合わせることとなった。
あまりのタイミングの悪さに携帯を叩き割ろうとしていたりする。
「どれも美味しそうです......」
そのコンビニで五月はどのおにぎりを買うか悩みに悩んでいた。
「悩んでる余裕なんてないからな!」
遅刻ギリギリの時間だというのに何故悩めるのかと五月を急かす。
「あなたは何にしますか?」
「いや、俺はほら......」
「これくらい奢りますよ。何がとは言いませんが......ご迷惑おかけしましたので」
「どれにしようか......」
凄まじい手の平返しで風太郎もおにぎりを選び始める。
二乃は思わずツッコんでしまった。
「あんた達急いでるんじゃなかったの!?」
そのツッコミに反応することなく五月は戒斗に話しかける。
「戒斗さんは?」
「俺はいらん」
「まあ戒斗くんってばいつも食欲無いもんね。ところで五月ちゃん、いつの間にそんなに戒斗くんと仲良くなったの?」
呼び方が苗字から名前へと変わっていることに気づいて一花が問えば、五月はそれに気づいたようで顔を赤くした。
「こっ、これはその......お友達として......です」
「へぇー......何か進展あったんだね、戒斗くん?」
「も、もしかして嫌だったりしますか......?」
一花はその何かを見透かしたような目で戒斗達に目を向ける。
そして五月の心許なげな瞳が向けられる。戒斗は別段気にする様子もなかった。
「好きに呼べばいい」
「でも私たちのこと滅多に名前で呼ばないよね?」
「たしかにそうですね」
一花も五月も、呼ばれたことはあるので深くは言わなかったが、不意に名前を呼ばれると少し嬉しくなったりする。
なので普段から呼ぶように頼んでいるのだが、戒斗は一向にそうしてくれない。
「(ま、そう何回も呼ばれるとこっちの心臓がもたないからこれくらいが丁度いいんだけどね)」
「(もっとお友達として親交を深めるべきでしょうか......)」
「ったく、遅刻寸前なのに......何そのガキンチョ」
二乃が目を向けた先には、迷子と思しき少年が泣いていた。
「ママと逸れちゃったのかな〜?」
「急いでるんだ。他の人に任せて行くぞ」
この発言に一花と三玖はありえないものを見るかのように風太郎を見た。
「自分だっておにぎり買ってるじゃん!」
「フータロー、この子道に迷ってる。かわいそう......」
「鬼!」
風太郎に対して非難が止まらない。
まずは話を聞くことにし、一花が優しく問いかける。
「ボクー、お姉さんたちに話聞かせて?」
「......I wanna meet my mommy......」
涙ぐんで言う少年だが、言葉がまずかった。まさか英語だとは思っておらず、一花と三玖は固まった。
「ハ、ハロー」
「自分が路頭に迷うかって時に何やってんだ......」
「あんたもね。急いでるみたいだけど間に合ったとして赤点回避なんてできると思ってるの?
言っとくけど、私はパパに真実をそのまま伝えるから」
二乃の目は嘘をついているようには見えなかった。
「あの子たちも頑張ってるみたいだけど、果たしてどれだけできるやら」
「短い期間だったが、俺たちにできることは全部やったつもりだ。お前も......頼んだぞ」
風太郎は自分の方が圧倒的に英語が出来るので通訳をして案内しようかと考えた。
少年と一花たちはどこかへ歩いていく。
「おい、その子は俺が......」
「......Where is the hospital ?」
「!」
三玖が少年の英語に反応する。
「今、ホスピタルって言わなかった......?」
「え?」
「いやっ、気のせいかも......」
「むー......ゴホンゴホン」
聞き間違いではないと踏んだ一花が英語を使って話しかける。
「Did you go to the hospital with your mother ?」
しっかりとした英語で話す一花に周りが驚く中、それを聞いて少年ほコクリと頷いた。
「よし、通じたっ!」
「一花すごい。勉強の成果出てる」
「...........」
二乃は最近まで単語すら怪しかった一花が英語を話していることに大きく驚いた。戒斗はこれが努力の結果だと告げた。
そして少年を母親の元へ送り届け、一件落着かと思われたが、風太郎が見せた時計の時間は8時33分だった。
「タイムオーバーだ。試験もじき始まる」
「ど、どうしましょう......」
「でも学校はすぐそこだよ」
「そういえば、最近学校の入り口に生徒指導の先生立ってなかったっけ?怖そうな先生だし、遅刻したらテストどころじゃないかも」
悩んでいるところに、風太郎は四葉に電話をかけ、学校にいることを確認する。
「さて、お前らは四葉と同じ顔だからドッペルゲンガー作戦でいけるとして、俺たちはどうする?」
「フータロー君達はこれでいこ!」
一花の出した案は、奇策も奇策だった。
「......正気か?」
校門前にて、生徒指導の教師が立っている。その前に1人の生徒が。
「おはようございまーす!」
一番手は三玖。四葉のようにリボンをつけ、元気に挨拶をする。
「お前!遅刻だぞ!」
「おーっと、このリボンに見覚えはありませんか?」
「その顔、そのリボン……確かに数分前に見たような......」
見分けがつかず、記憶が曖昧な教師に三玖は追い打ちをかける。
「先生の手伝いでまた外に出たんです」
「そうか。始業のチャイムはもう鳴ってる。試験までに着席するんだぞ!」
同じ顔の三玖と四葉。そして特徴のリボンを見れば別人だと思うはずもなく、生徒指導の教師は見事に騙された。
「ふぅ......”知りがたきこと陰の如く”」
「いやー、上手くいったね」
「せ、先生を騙すなんて私はなんて無礼を......」
「あんた真面目すぎ」
それから一花、二乃、五月も校内に入ることが出来た。
教師にはあの生徒は何周も何をしてるんだと変な印象を持たれた。
そして四葉も入れたかの確認のため合流し、あとは風太郎と戒斗だけとなった。
「ねぇ、上杉さんと駆紋さんは?」
「あ、四葉は知らないんだったね」
「来たわよ」
問題は風太郎と戒斗だった。
四人は四葉と同じ顔だから騙すことが出来たが、当然風太郎と戒斗では顔が違う。五つ子達に似ている訳でもない。
「おはようございまーす」
「...........」
にも関わらず、二人はリボンをつけて平然と教師の前を通った。
それが許されるはずもなく、物凄い剣幕で睨まれる。
「遅刻した上にふざけてんのか?」
「ですよね」
「俺もどうかしてると思う」
「生徒指導室に来い!」
そのまま二人一緒に引きずられて行った。
「フータロー、戒斗!」
二乃を除いた四人は二人を不安げに見る。
二人は安心させるように激励した。
「俺がいなくても大丈夫だ!努力した自分を信じろ!」
「ただし見直しは怠るな!」
「2人で何言ってんだ!」
引きずられて行く二人の言葉を聞き、五人は輪になって印を結ぶ。
「努力した自分を......うん!」
「いい点とって二人を驚かせちゃお」
「ほら二乃も」
「な、なんで私まで......」
「死力を尽くしましょう」
そして赤点回避のため、気合を入れて声を出した。
「頑張るぞ!」
「「「「「おーーーーっ!!!!」」」」」
そんな中風太郎と戒斗はというと、指導室にて絞られていたが、説教はすぐ終わり、試験途中に教室に帰らされた。
「......ん?」
問題の答えは、戒斗が勉強したところと見事に被っており、殆どの答えがすぐに書けた。
戒斗は社会のような名前のややこしい科目を除き、残りはそれなりに勉強をしたのでこれならば問題ないなと安堵した。
風太郎も止まることなく解答欄を埋めていく。
そして、五つ子達は───
社会・三玖
「(難しい問題ばっか......でも、歴史ならわかる)」
『努力した自分を信じろ!』
「(フータローよりいい点とったらどんな顔するかな......)」
国語・四葉
「うーん......五択問題......わからない」
『いい質問ですねぇ!』
「......あ」
『基本的には四番の確率が高いぞ!』
「(五択問題は四番の確率が高いっと)」
英語・二乃
「(討論、討論。わかんないや。次)」
『「でばて」と覚えれば良いぞ』
「(......勝手に教えてくるんじゃないわよ)」
数学・一花
「(よーし、終わった。うん、こんなもんかな。おやすみー)」
『ただし見直しは怠るな!』
「(......式の見直しくらい、してもいいかな?)」
理科・五月
「(あなた達をやめさせはしません。らいはちゃんのためにも!)」
『俺達がついている。上杉も、お前を応援しているぞ』
「(......絶対に!)」
そして五科目全てのテストが終わり、返却日がやってきた。
戒斗は勉強の結果赤点の回避に成功した。
放課後、風太郎から図書室に来るよう連絡されて来てみれば、全員揃っていた。
「よお、戒斗」
「ああ」
「皆、集まってもらって悪いな」
急に改まる風太郎に、一花、四葉は急に改まってどうしたのだと、水臭いと言った。
「中間試験の報告。間違えたとこ、また教えてね」
「......ああ。ともかくまずは......答案用紙を見せてくれ」
「はーい、私は───」
「見せたくありません」
だが、五月はそれを拒んだ。
「テストの点数なんて他人に教えるものではありません。個人情報です。断固拒否します」
「五月ちゃん?」
「ありがとな。だが大丈夫だ。教えてくれ」
「嫌です!」
頑なに答案を見せようとしない五月に周りが違和感を抱く。
戒斗は椅子に座っている五月と目線を合わせるために屈んだ。
「頼む」
「戒斗さん......」
「ああ。覚悟はできてる」
「......分かりました」
五人の結果はこのようになった。
四葉
「他の四科目はダメでしたが、国語は山勘が当たって30点を超えてました!こんな点数初めてです!」
三玖
「社会は68点。その他はギリギリ赤点。悔しい」
一花
「私は数学だけ。今の私はこんなもんかな」
二乃
「国数理社が赤点よ。言っとくけど手は抜いてないから」
五月
「合格ラインを超えたのは一科目......理科のみでした」
「......なるほど」
赤点を一科目回避したことに少し喜びつつ、根本的な問題に頭を抱えた。
「ってか短期間とはいえあれだけ勉強したのに30点も取ってくれないとは......改めてお前らの頭の悪さ実感して落ち込むぞ......」
「うるさいわね」
ガックリと肩を落とす風太郎を二乃は睨む。
「まあ、合格した教科が全員違うなんて私たちらしいけどね」
「ああ。最初の五人で100点に比べれば、確実に成長している」
そして、一人一人に改善するべきところを伝え、助言していく。
「三玖、今回の難易度で68点は大したもんだ。偏りはあるがな」
「うん」
「今後は、姉妹に教えられる箇所は自信を持って教えてやってくれ」
「......え?」
三玖が何か引っかかったような反応をするが、構わず他の姉妹にも同じように話していく。
「四葉、イージーミスが目立つぞ、もったいない。焦らず慎重にな」
「了解です!」
元気な返事を聞き、一花の方を向く。
「一花、お前は1つの問題に拘らなさすぎだ。最後まで諦めんなよ」
「はーい。戒斗くんからはアドバイスとかないの?」
「俺より上杉の方が学力は上だ」
バツが悪そうに頬をかく一花。
そして次は二乃の方を向いた。
「きっと俺は他のバイトで今まで来られなくなる。俺がいなくても油断すんなよ」
「......ふん」
「フータロー?他のバイトってどういうこと?
風太郎の言葉に何か事情を感じた三玖は問いかける。
「来られないって......なんでそんな事言うの......?私......」
「三玖」
「五月......」
「今は、聞きましょう」
五月の言葉を聞き、三玖は黙った。
風太郎は最後に五月に対してバカ不器用だ、最後の一問まで解けてないじゃないか、それは悪癖だと伝えた。
「......反省点ではあります」
「自分で理解してるならいい。次からは気をつけろよ」
「でも、あなた達は......」
何科を危惧する五月の携帯が鳴り、ポケットから取り出す。それが誰からの着信かは、薄々勘づいていた。
「父です」
「......上杉です」
『ああ、五月と一緒にいたのか。個々に聞いていこうと思ったが、君の口から結果を聞こうか。嘘はわかるからね』
釘を刺す中野父に、言われずとも風太郎は正直な結果を伝えようとする。
「つきませんよ。ただ......次からこいつらには、もっと良い家庭教師をつけてやってください」
『......ということは?』
「今回の試験で五人は......」
風太郎が結果を言おうとした時、二乃が携帯を奪い取った。
「パパ、二乃だけど。一つ聞いていい?何でこんな条件出したの?」
『僕にも娘を預ける親としての責任がある。高校生の上杉くんがそれに見合うか計らせてもらっただけだよ』
「私たちのためってことね。ありがとうパパ。でも相応しいかなんて、数字だけじゃ分からないわ」
中野父は二乃の言い分を聞き、反応するでもなく淡々と言葉を返した。
『それが一番の判断基準だ』
二乃は譲らぬ父の言葉にため息を吐いた。
「あっそ、じゃあ教えてあげる」
そして、結果を口にした。
「私たち五人で五科目全ての赤点を回避したわ」
『......本当かい?』
「嘘じゃないわ」
二乃の言葉を聞いて疑う様子もなく、それを信じた。
『二乃が言うのなら間違いはないんだろうね。これからも上杉くんと励むといい。ところで、近くに駆紋戒斗君はいるかい?』
「いるけど」
『替わってくれるかい』
戒斗の方に近づくと、怪訝そうに見られる。
「......替わってって」
「......何だ」
『見事に赤点を回避してくれたね。それに伴って君のことを正式に家庭教師として受け入れよう。そして、君の知りたいことを聞きたまえ』
戒斗は確信を持って質問する。
「戦極凌馬の所からロックシードを盗んだのはお前か」
『そうだ、と言ったら?』
「......それを使って誰かを虐げるような真似をすれば、真っ先に叩き潰す」
『そうか。まあ僕じゃないとだけ言っておこうか』
それを聞いて通話を切った。そして五月に携帯を返し、すぐに学校を出た。六人の静止も聞かず、戒斗はただ目的の場所へ向かった。
「(あの話し方、あの声、間違いなく奴だ......!白々しい嘘を......)」
「(駆紋戒斗、まさか君がバロンとはね。君が変身することよりも......君があのベルトやロックシードの話する際、そこまで怒りを向ける理由は一体何だ?)」
「(だが、今は見逃してやる。これといった被害は無いからな。だが......)」
「(まぁ、娘達や上杉君には黙っておこうか。だが、君がもし......)」
「(奴があの五人や上杉、無関係の人間に手を出そうとすれば、迷いなく......)」
「(彼が娘達に牙を向けるのなら、その時は......)」