上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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林間学校 前日

休日、戒斗は戦極凌馬の研究所にいた。そして中野父が犯人であることを伝えた。

 

「ふむ......まさか彼がね」

 

「確か前に、中野という男には見つからないようにしろと言っていたな」

 

戒斗がマンションの屋上でのインベスの出現報告の際凌馬はそう釘を刺した。

 

「彼とは馴染みだからね。顔を合わせたくなかったんだが......ドライバーを盗ったとなるとやはり......」

 

何かを察した様子の凌馬だが、戒斗は馴染みという言葉に眉をひそめた。

 

「馴染みだと?」

 

「ああ。君には言っていなかったが、彼らは君がこの世界に来る前にインベスと戦っていたんだよ」

 

インベスと戦っていた、これが何を意味するかと言えば、その脅威は何年も前からあったことに他ならなかった。

 

「どういうことだ?」

 

戒斗はその事実を聞いて驚愕した。そして詳しい説明を求めた。

凌馬はこれは何年も前、私が学生の頃の話だと断り、話を始めた。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

私はね、君に致命傷を与えられて転落死したと思ったら、新たな命として生を受けた。何故かは分からないが、両親は既に死に、兄弟もいない。あったのはただ莫大な財産と今までの記憶だけだった。

どうやら使用人もいないらしい。

 

早々にこの世界にヘルヘイムに関する情報があるか確認するために検索するが、ろくにヒットしなかった。

 

とはいえ科学者としての好奇心は、私を更なる高みへ導こうとしたんだろうね。

気づいた時にはベルトを作っていたよ。ゲネシスドライバーをね。

幸い記憶も金もあったから私一人で作ることが出来た。

戦極ドライバーはすぐに作れたけどゲネシスの方が良いかと特に触れなかったんだ。

 

だが、肝心のロックシードが無かった。

そのまま私はゲネシスドライバーを放置して普通の生活を送っていた。

 

そして学生時、私がいつものように退屈な毎日を過ごしていると、学校にインベスが侵入した。

 

生徒達はイベントか何かと勘違いしていたみたいだが、一人の生徒が殴られたことで目の前の化け物に恐怖したんだろう。咄嗟に逃げていったよ。

そして教室には私を含めた五人が残っていた。

 

一人は君の言う中野。

 

もう一人は上杉というバリバリの不良。

 

そして私と、あと二人。

 

その二人の内一人は、既に死んでいるよ。

 

そしてもう一人は......これはまたいつか話そうか。

 

私はインベスの侵入経路を探り、クラックを見つけた。

そして当然果実も大量に実っていた。

その中でも一際大きく輝く果実があったからね。迷わずそれに触れたんだ。

すると、その果実はレモンロックシードに変化した。

 

適当に作った戦極ドライバーを持っていた私はすぐさま変身した。

レイピアで急所を穿ったことでインベスはすぐに爆発した。他の四人はひどく驚いていたね。

その日を境に、インベスは出てくるようになった。ま、その度に私が倒していたんだけどね。

 

それから普通のロックシードを手にしたことでエナジーロックシードも手に入れることができた。

 

ある日私は中野と上杉に呼び出されたよ。

何の用だと問えば、ベルトを譲って欲しいと言われた。無理だと一蹴してやったが、二人はそれからもしつこく頼んできてね。

 

仕方がないから上杉には戦極ドライバーを、中野にはゲネシスドライバーを渡したんだ。

本当はゲネシスドライバーを二つ作るつもりだったんだが、時間が足りなくてね。エナジーロックシードも殆ど無いし。

 

ロックシードはその時メロンしか無かったからそのまま渡したんだけど、上杉は貴虎が見れば舌を巻くほど身体能力が高くてね。それこそ葛葉紘汰のように。

凄まじい適応力で無双セイバーもメロンディフェンダーもすぐ使いこなしたよ。

 

幸運にもエナジーロックシードはメロンがあったから中野にはゲネシスドライバーを使わせた。近距離よりも中距離、長距離での精密な射撃が得意でね、ソニックアローとの相性は抜群だった。

 

二人は戦う時の相性は良いらしくてね。上杉が護り、中野が撃つ。まあ一人でも容易く倒せるんだが。二人の手によってインベスはどんどん殲滅されていったよ。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「そんな時だ。駆紋戒斗、君が現れたのは。それから先は君も知っているだろう?なんたって君は、この件に誰よりも関わっているんだから」

 

凌馬の過去は、戒斗にとってそれ程驚く内容でもなかった。だが、当時のことを思い出せば、無表情ではいられない。

凌馬はそんな戒斗の肩に手を置く。

 

「君が悔やむことは無い。あれは全員の責任だ。君一人が背負う問題ではない」

 

凌馬も悔しそうに歯を食いしばった。その場にやるせない空気が流れる。そしてすぐにいつもの陽気な科学者に戻り、椅子に座ってクルクルと回った。

 

「今日は帰りたまえ。嫌なことを思い出しただろう」

 

そう言われて研究所を出ていく足取りは決して軽くなく、凌馬は哀れむように戒斗を見た。

 

「やはり、君は罪を背負い過ぎている。いつかそれが身を滅ぼすことにはならないように、願っているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りがあった後、戒斗は風太郎からの着信に応答した。

 

『戒斗か?今すぐマンションに来てくれ』

 

「何故だ」

 

『三玖の料理食いすぎて動けん。助けてくれ』

 

「......世話が焼ける奴だ」

 

すぐにマンションに向かうと、四葉と風太郎が何やら話していた。

 

「やーい、引っかかりましたね!私だってやればできるんです!」

 

「もう誰も信用しない......ん?」

 

「どうしたんですか上杉さ......」

 

二人の視線の先には、三玖が作ったおはぎに手を伸ばす戒斗の姿が。

 

「どうした?」

 

 

「「どええええええええ!?!?!?」」

 

 

戒斗が視線を感じて二人を見ると、二人は気づかなかったらしく、姿を見た途端大声で驚かれた。それと同時に食べようとしているおはぎをすぐ没収された。

 

「駆紋さん!それ三玖のコロッケです!危ないですよ!」

 

驚くことに、戒斗が食べているのはおはぎではなくコロッケだったらしい。確かにやたらと硬かったが、見た目は完全におはぎだった。

コロッケの形をしたものを黒くすればもうおはぎそのものになるらしい。

 

「戒斗、俺はそれを腹いっぱい食って今死にかけてる。手出すなよ......」

 

そう言って死んだように目を閉じる風太郎。それを見た四葉が最愛の人と死に別れたような茶番を繰り広げ、戒斗は馬鹿馬鹿しいと鼻を鳴らした。

 

「ただいま、薬買って来たよ。......あ、戒斗」

 

「上杉に救助要請されてな。上がらせてもらった」

 

「なるほど。はい、フータロー」

 

「お、おお......」

 

風太郎は薬を飲むのに苦労していた。それを見て戒斗は自分は来なくても良かったのではと思い、すぐに帰ろうとした。

だが、靴を履いていると玄関扉が開いた。

 

「げ、あんたもいたの」

 

「戒斗さん、こんにちは」

 

「......ああ」

 

昼食を食べてきたであろう五月と、しっしっと手で追い払おうとする二乃がいた。

五月は口周りにソースが付いており、気づいていなかった。

 

「......お前といい、こいつといい、口周りに飯をつける呪いでもあるのかまったく......」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ソースを二乃の時と同じようにして指で掬う。そしてペロリと舐めとるがやはり味はしない。それを見て二乃は戒斗の脛に蹴りを入れた。

 

「あ、あんたね!私に飽き足らず五月まで!なんでそういうことするの!」

 

「二乃、やめてください!戒斗さんと私はお友達なのです!これくらいは構いません!」

 

「止めないで!こいつほんとに乙女の純情を......!」

 

五月が止めようとするも、二乃はそれを聞かず久しぶりのビンタをお見舞いした。

 

「帰りなさい女たらし!」

 

「貴様、加減を覚えろ!」

 

その怒号を最後に追い出された戒斗は、頬に手形を残しながら去っていった。

 

「に、二乃。何もあそこまですることは......お友達ですし......」

 

「あのね五月。あんなやり取りするのは家族か恋人くらいなものよ!」

 

「ええっ!?で、では今のは......」

 

二乃の言葉を聞き、先程の行動を思い出して顔を赤くする五月。

そして、それを許した羞恥心からか、急いで部屋に駆け込んでいった。

 

「まったく、五月は初心なのに......あれじゃ絶対勘違いするわよ......」

 

二乃が考えた通り、部屋に戻ったあとベッドに飛び込んで五月枕に顔を埋め、ベッドでジタバタしていた。

 

「か、家族や恋人だなんて......私と戒斗さんはそんな......そんな......」

 

五月の脳裏に浮かぶのは、自分の口元に指で触れる戒斗の姿。

 

「〜~~っ!!!」」

 

思い出したことでより一層恥ずかしくなり、何とか誤魔化そうと頭を振る。

 

「うぅ......二乃があんなこと言うから......」

 

恋人。その言葉を、真面目な五月は良しとしなかった。

学生の本分は勉強だと考えていた。ましてや戒斗とは教師と生徒。一線を引いてしかるべきだと、ある意味風太郎と似た思考をしていた。

 

「な、何故恋人にするようなことを私に......ハッ!」

 

ここから五月は、盛大な勘違いをすることとなる。

 

「わ、私に好意があるのでは......!?」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

林間学校をあと数日に控え、各クラスでは係の配置を行っていた。

風太郎はほとんど自習をしていたので勝手に肝試しの実行委員に決められたが、戒斗となるもそうもいかない。

 

「ということでこれから林間学校の係決めをしたいと思います!各自希望の係はありますかー?」

 

 

「「「「はいっ!!!!!」」」」

 

 

その言葉を皮切りに、クラスの男子が一斉に手を挙げた。

 

「中野さんと食材切りたい!」

 

「中野さんと大きくて太い丸太運びたい!」

 

「中野さんと肝試しやりたい!」

 

「中野さんとキャンプファイヤーで踊りたい!」

 

「一部私情を混ぜるの禁止!下ネタもOUT!」

 

ギャーギャーと騒ぐ男達は何としても一花と共に係をやりたいらしく、担任が何を言っても聞こうとしなかった。

 

「戒斗くん、どうする?」

 

「そもそも行けるかどうかわからん」

 

「どういうこと?」

 

戒斗の考えでは、林間学校の三日という期間の中で、クラックの出現数は増えるか減るかも分からない。途中で抜け出すわけにもいかない。

ならば行かない方が得策かもしれないと考えていた。

 

「予定があるかもしれん」

 

「えー、思い出作ろうよ。私戒斗くんと林間学校行きたいんだけど」

 

「どうしたものか......」

 

話が逸れてざわつき始める教室を手を叩いて視線を向けさせて何とか静める。

そして担任は係決めを再開した。

 

「えーと、駆紋と中野は係ペアでもいい?」

 

「OKでーす!」

 

クラス中の男子達は戒斗を嫉妬の目線で睨みつける。だが、戒斗ならば大丈夫かと全員が思い、すぐに平静に戻った。情緒不安定なクラスだが、担任はもう慣れたようにことを運んで行く。

 

「駆紋も異論ないな。よし、それじゃ再開するぞ!」

 

戒斗のクラスは基本的に担任を含め全員の仲が良く、誰とでもペアになれる。担任も若いので気安く話すことが出来る。

故に係決めはすぐに終わり、余った授業時間で生徒達は自由に過ごしていた。

 

「戒斗くん、結局どうするの?」

 

「分からん」

 

「どしたー?」

 

「あ、先生。戒斗くんがもしかしたら林間学校いけないかもって」

 

担任はそれを聞いてOKサインで答えた。そしてどちらにせよ上手く回すと言って教卓へ戻っていった。

 

「先生ってすごく仕事できるから、他の先生も頭上がらないらしいよ」

 

「......そうか」

 

このクラスで良かったと心から思う戒斗だった。

ふと一花に肩を叩かれたので目を向けると、何故か上目遣いで見られた。

 

「戒斗くん、私とキャンプファイヤー、一緒に踊ろ?」

 

「......時間があればな」

 

「やった!戒斗くん大好き!」

 

大好きという言葉に耳聡く反応して何かを思いつき、黒板に文字を書き始める担任。黒板全体にデカデカと「キャンプファイヤーで異性と踊る者は署名すべし」と書かれていた。隅に小さく「捏造OK」の文字を添えて。

 

「えー、ここに書かれてることは決定事項としますので、捏造でも何でも書かれたらその人と踊ることになります!」

 

担任の言葉に教室中が湧いた。男女ともに大きな歓声を上げ、全員が黒板に突撃していく。

 

「戒斗くん、書こっか」

 

「勝手にやってろ」

 

「うん、了解......ってあれ?」

 

全員が一瞬動きを止める。その理由は、既に書かれた文字にあった。

「1組目 中野一花&駆紋戒斗」と大きく書かれていた。

それを見て男子は一斉に崩れ落ちた。ムンクの”叫び”に声を当てれば合うレベルの悲鳴をあげながら。

 

「ふっふっふ、先生は耳がいいんだよ。こういうイベントは見逃せないよねー♪」

 

二カッと笑う担任の顔を見て、崩れ落ちた男子達は屍生人のように立ち上がり、黒板に自分の名前と担任の名前を書き出した。

 

「ありゃ、中野じゃないの?」

 

「もう先生がいいです」

 

「踊りましょう」

 

「いや、付き合いましょう」

 

「いや、結婚を」

 

「いや、同じ墓に」

 

馬鹿なやり取りを繰り広げる男子達を女子達は笑って見ていた。

そして黒板に書かれた担任の名前を消し、自分の名前を書き始める。

男子達があまりの事態に停止している中、女子達はこう言った。

 

「こういうのも良いでしょ?」

 

「女子と踊れるんだ。感謝しなよ」

 

「ま、このクラス好きだから皆で踊ればいいような気もするけど」

 

「どう?先生」

 

この提案に、担任はその相手以外とも踊れる者に絞り、承諾した。そしてこう付け加える。

 

「ま、ビビっときたらその子とだけ踊るもよし、楽しく踊るもよし、キャンプファイヤー楽しむぞー!!」

 

 

「「「よっしゃあああああっ!!!!!」」」」

 

 

今日もクラスは平和だなと思う担任なのだった。

 

 

 

 

 

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