夕食を終え、風太郎と戒斗を除いた五人は部屋の中で落ち着かない様子を見せていた。その理由は、食事中に五月の発した言葉にあった。
混浴。
このワードが出た時、五人の中でも特に二乃が反発した。風呂を共にするなど死んでも嫌だと。そう言った時にはすでに風太郎と戒斗は風呂に向かっていた。
「いやー、温泉って気分上がるな!」
「そうか」
興奮した様子を見せて夜空の下の湯舟で温まる風太郎。その様子を見て戒斗は少しばかり微笑を浮かべた。そして数分浸かっていると風太郎は突然立ち上がった。
「戒斗!温まったことだしトランプやろうぜ!」
「別にいいが......もう風呂は良いのか?」
「ああ、もう十分だ!あとは遊びながら寝るだけだ!連敗記録止めるぞ!」
威勢よく立ち向かったは良いが、やはり負けた。そして十数連敗した頃、はしゃいで疲れたのかその場に倒れ込むようにして眠った風太郎を隅の布団に寝かせた。
「......やはり四人部屋に七人はまずかったか」
用意されていた布団を敷いてみれば、ギリギリ六枚敷けた。だが部屋には七人いる。どうしたものかと策を練っていゆと、後ろから声が聞こえた。
「あ、フータロー君寝ちゃった?」
戒斗が振り向くと、そこには同じ髪型の五人がいた。一瞬誰が誰か分からなかったが、目付きや雰囲気で何とか判別していく。
「ふーん、布団敷いてくれたんだ。ありがと」
「ああ。だが......」
「あ、六枚しか敷けないんだ」
部屋の状況を見てどこでどう寝るかの相談をし始めた。
六人でいたなら布団は一人一枚使うことができた。だが、七人ともなるとそうもいかない。
四人部屋で七人寝るには、一つの布団で二人寝なければならなかった。
「フータロー君と戒斗くん、一枚の布団で寝られるかな?」
「馬鹿を言え。そんなことをすればあいつが寝苦しくなるだろ」
「うーん......でも私達が一緒に寝る訳にはいかないし......」
万策尽きたと思われた時、誰かがアホ毛をぴこぴこと揺らしながら手を挙げた。
「私が戒斗さんと一緒に寝ます」
「あ、あんた正気!?」
「五月、ほんとにいいの?」
「お気遣いなく。どちらにせよこのままでは戒斗さんがしっかり寝られなくなります。睡眠不足というのは危険だと聞きました」
姉妹達が動揺を隠せずにいる中、五月は早々に布団に潜り込み、戒斗に来いとでも言うように布団を叩いた。
「それに、戒斗さんならば心配はありません」
「......なら、そうさせてもらう。枕はお前が使え」
「ありがとうございます」
そして戒斗が布団に入れば、他の姉妹達もそれぞれの布団に入る。そして横になり、電気を消した。
「......戒斗さん」
そして全員が寝静まったと思った頃、五月は戒斗に話しかけた。
「どうした」
そして心の準備を整えるように深呼吸して話を始める。
「これは友達の話なのですが......ある男の人に好意を持たれているそうです」
「......そうか」
「そして......その人とは毎日のように顔を合わせるので、普段から気が気じゃなくて......」
相談事のような話し方をされ、経験のない戒斗は返答に困った。その時、前の世界でフランス軍人パティシエドリアンに聞いた言葉を思い出す。
『女ってのはね、相談する時、答えを求めてないの。誰かに話を聞いて欲しくてたまらないから、相談するのよ。だから一々答えてはダメよ。本当に大事な時に答えを言うの』
『何故その話を俺にする』
『あなたもいつかそういう事があるかも知れないでしょ。だからそういう時はしっかり聞いてあげなさい、ムッシュ・バナ、バナ、バナァ〜ヌ♡』
『その呼び方をやめろ!』
変なエコーが頭の中でかかるのに苛立ちながらその言葉通り、五月の相談に答えることなく耳を傾けた。
「.....それで、その人と話していると脈が早くなり、肩が触れるだけでも体が熱くなるそうです」
少し動いた戒斗の肩が触れ、五月の顔は瞬く間に朱に染まる。
「目が合ったり、顔が近くにあったら......どうにかなってしまいそうで......」
そう言いながら五月は身をすり寄せるようにして距離を詰め、その拍子に腕を絡ませ離れられないようにする。息はどんどんと荒くなり、二人の距離は狭まっていく。
「分からないんです......ある日突然......胸がこう、ものすごく締めつけられるような気持ちになって......すごく、ドキドキするんです」
「(まさかとは思うが、こいつの話......なのか?)」
「あなたといると......」
「(......だから俺に話したわけか......ん?ということは、こいつの中では俺がこいつに好意を持っているということに......)」
部屋に敷き詰めるように布団を敷いているので迂闊に動けないのに加え、腕を抱き締められているので離れようとすれば五月に引き寄せられ、より強く抱き締められる。
「......離れないでください」
「(誤解されたままではまずいな)」
戒斗の腕を体全体を使って絡め、絶対に離さぬようにホールドする。
「私の目......見てください」
されるがままになり、五月の顔は鼻先が触れるほど近くに迫っていた。近くで見る五月の目は潤んでおり、何か”答え”を求めているようだった。
「......おい、その話はお前の───」
「戒斗さん───
キス、させてください......」
「......は?」
誤解を解こうとしたが、突然の頼みに戒斗は思わず素っ頓狂な声を出した。それもそのはず。五月の言葉を聞いて無反応でいられるかと言えば、答えは否だった。
五月は聞いておきながら返答を待たず、戒斗の浴衣を少しずらした。
「何だ急に......」
「......ごめんなさい」
五月は唇ではなく、鎖骨にキスをした。想定外の行動に戒斗が驚く中、構わず何度もキスを繰り返す。愛おしそうに、貪るように。
「......ん......ちゅっ......」
普段の真面目な様子から一転し、今は己の欲望に従っているようで、鎖骨だけでなく胸にもキスをした。
「おい」
「......何も、言わないでください」
そう言って戒斗を抱き締め、離す。
五月の抱き締める力は強く、戒斗を絶対に離さんとしていた。
「......はぁ......はぁ......」
その流れの中で五月はさらに呼吸が荒くなり、心臓が早鐘を打つ。そして汗ばんで興奮した様子を見せている。
「おい、大丈夫か」
「......戒斗さん、止まりそうにありません......」
五月は戒斗をのしかかるようにして押し倒し、止まることなく独占欲を動力源としたキスをしていく。初めは少し触れる程度だったが、体温の上昇と共に激しさと回数を増していく。
「(これだけじゃ......全然足りない......!)」
そして戒斗の手に指を絡ませ、何度も握る。戒斗がどうしたのかと思い握り返してみれば、五月は嬉しそうに顔を綻ばせた。
何度も、何度も、印をつけるように、独り占めするように、熱情のこもったキスをした。
ダメなことだとわかっていても、戒斗の顔を見れば理性の箍がどんどん外れてしまう。今の五月は、飢えた猛獣のように理性を失いつつあった。
「はぁ......はぁ......っ」
「......とりあえず落ち着け」
一線だけは越えないようギリギリで耐えている中、戒斗が静めるために頭を撫でた。だがそれは逆効果で、その行動によって興奮がピークに達した。
「戒斗さん......戒斗さん......私にも......!」
そしてとてつもない高揚感から拍車がかかり、戒斗の鎖骨や胸にキスマークを作り始めた。そして自分からだけでなく、戒斗からのキスを求めた。
「私にも......してください......!」
だが求める割に五月が止まる様子はない。むしろ勢いを増している。
戒斗は断っても譲らなさそうな様子を見て、髪にそっと口付けをした。
「......これでいいか?」
キスをした後、戒斗は少し笑った。普段見せることのないその笑顔に、五月は完全にやられてしまった。
「......おい?」
「(ダメ......止まらない......!)」
プツン、と五月の中で何かが切れた。
五月は戒斗の浴衣に手をかけ、脱衣させようとする。
「もう、ダメです......我慢できません......!」
「こいつ......!」
「一緒に......ね?」
五月は戒斗と体を密着させ、中に溜まったもの発散させようとする。
その目は普段の落ち着いた様子は微塵もなくハートが浮かんでおり、発情したように戒斗を求めていた。
「(好き......好き......大好き......!)」
結論から言うと、一線は戒斗の手によって守られた。
そして五月は満たしきれなかった欲望を吐き出すように、止めることなくキスをし続けた。だが体力の限界が来たらしく、戒斗の隣に倒れ込んだ。
「......ようやく終わったか」
「......はい......すみませんでした......」
五月は頭が冷えたようで、申し訳なさそうに目を伏せた。
「ともかく、今は寝ておけ」
「......はい。おやすみなさい」
「ああ」
鎖骨と胸にできたキスマークを気にすることなく、五月の頭を撫でる。すると五月は安心したように目を閉じた。だが戒斗の腕から離れず、腕枕の状態で眠っていた。
「(あと数時間、このままか......)」
「......戒斗......さん......」
「(こいつ、暴走すると危ない奴だな......かれこれ十数分は続けていたぞ......)」
何事も無かったように眠る五月を見て、朝起きれば忘れているだろうと戒斗もそのまま眠りについた。
だが二人は気づいていなかった。姉妹の中で一人、その一部始終を見ていた者がいたということを。
「(......へぇ、五月ちゃんもそういうことするんだ。なら、私も黙ってられないよ?)」
その人物は、五月に対抗心を燃やした。絶対に戒斗は渡さないと。
「(ま、キャンプファイヤーもあるし、これからゆっくり落としていこうかな)」
その人物こと一花は、特に焦る様子もなく意識を手放した。
朝、一花が目を覚ますと、目の前に戒斗の顔があった。離れた場所で寝ていたはずだが、どうやら寝相の悪さが原因らしい。
「やっぱり、近くで見るとドキドキするなぁ......」
そっと頬に触れ、戒斗を感じる。その肌は人のものとは思えないほど、体温が低い。だが、それとは逆に一花の体温は夜の五月のように上がっていた。
「五月ちゃんが先にやったんだから......良いよね」
一花は、戒斗の首筋と喉にキスをした。
「......ふぅ。こんなもんかな?」
そして五月と同じくキスマークを作る。服で隠せない場所にすることで、戒斗は自分のものだと示した。
そして夜のことを思い出す。
「五月ちゃんは、唇にはしてなかった......なら......」
一歩先に行くため、戒斗の唇に一花の唇が触れようかという時、部屋のドアが開いた。
「もう朝ですよ。朝食は食堂で───」
「......っ」
部屋の中を見て五月はすぐドアを閉じた。
暗がりでわかりづらかったが、確実に、姉妹の誰かが戒斗にキスをしようとしていた。
そしてもう一度ドアを開けると、全員眠っていた。
「(あっぶな......)」
「......誰かは分かりませんが、戒斗さんは......」
「中野!」
五月が姉妹の誰かと火花を散らしていると、誰かに呼ばれた。
「ここで何やってるんだ!」
振り向くと、学校の教員達がいた。
「......先生......」
偶然にも戒斗達は生徒達と同じ旅館に泊まっていたらしく、途中からという形で合流した。
「ていうか私達バスの席隣だったんだね」
「そうだな」
『はいはい皆、バスの中でおやつは食うなよー!』
二人が合流したことでクラスメイト達はよりテンションが高くなり、バスの中ではお祭り騒ぎだった。バスガイドも運転手も、戒斗達のクラスを見てガイドは不要かと思い、楽しそうに話していた。
「そうだ、戒斗くん。その首の痕どうしたの?」
「首......何だこれは」
「見た感じキスマークっぽいよねー」
あえてそれを指摘することで、意識させようとする。だが特に反応せず、戒斗は虫刺されかと思いかゆみ止めを塗った。
「(......そこまで痒くないが......)」
「(うーん、これでもダメかー......)」
何とか自分を意識させようとするも、戒斗には全て見当違いな反応をされてしまう。
「......ね、戒斗くん、お姉さんと遊ばない?」
「何をする気だ?」
「そうだなぁ......”愛してるゲーム”ってわかる?」
「知らん」
愛してるゲームとは、互いに向き合って「愛してる」と言い合うゲームで、動揺したり、笑うなどした方が負け、最後まで無表情で入れた方が勝ちというゲームである。
「ま、今回のは愛してるゲームじゃなくて、相手を照れさせた方が勝ちだよ!そうだなー......体に触れるのもありにしよっか」
「......理解した」
「それじゃやろっか。戒斗くん、先攻か後攻どっちがいい?」
戒斗はまずは様子を見るため後攻を選んだ。
「じゃあいくよ。戒斗くん大好き!」
「愛してるじゃないのか?」
「照れさせた方が勝ちだからね。言い換えもありだよ」
ちなみに、受け側は攻め側に聞き返すことで照れさせたりすれば勝ちとなるルールもある。今回のゲームは根本的なルールは同じだが、所々やりやすいように改変している。
「なるほどな」
「はい、次は戒斗くんだよ」
「......愛してる」
「......つ、次私ね!」
早々に危なくなる一花だが、何とか堪える。
「えーっと、誰よりも愛してる!」
腕に抱きつきながらそう言うが、戒斗は眉一つ動かさない。
「......言い換えか」
「(あ、あれ?これでも反応なし?)」
あまりの無反応に一花が少ししょげるが、戒斗は構わず手段を考える。
ある日クラスの女子達や担任に言われたことを思い出す。
『壁ドンして耳元で囁けば一花ならいけるって!』
戒斗は一花の後ろの窓に手を付き、顔を耳元まで寄せた。
「(囁く......囁く......)」
『俺のものになれ!みたいな感じだ。中野は案外チョロいから大丈夫だ!』
「か、戒斗くん?」
「......俺のものになれ」
それを聞いて一花は理解に時間がかかった。
「?...........っ!?ちょ......」
そして少し時間を使って言葉の意味を理解し、全身がとてつもなく熱くなった。そして顔がほんのり赤くなり、精神的にほとんど負けかけていた。
「ふぅ......ふぅ......よし、耐えたよ!」
「怪しかったが?」
「ちょっとくらい見逃してよ!はい次いくよ!愛してるっ!」
半ばやけくそな一花の様子を見て、戒斗は今畳かければ間違いなく勝てると考え、確実にとどめを刺すための言葉を考える。
「(次あんな感じで言われたら間違いなく負けちゃうよ......俺のものになれ、か......キュンときちゃったな......)」
早くなる鼓動を何とか静め、次の言葉を待つ。そして今度は何と言ってくるのか予測を立てる。どの言葉が来ても動揺しないように心を落ち着かせる。戒斗はそんな一花の頬に触れ、真剣な表情で告げた。
「お前が欲しい」
「......私の負けっ!」
あっさりと負けを認めた一花。勝負が終わり、戒斗は手を離す。一花が名残惜しそうな目を向けたが、ゲームはゲームだと割り切った。
そして戒斗に顔を見られないように窓の外を眺める。
「......あれは反則だよ......!」
柄にもなく乙女のように照れる一花だった。