林間学校二日目が始まり、飯盒炊爨にてカレーを作っていた。
一花は食器や器具を片付け気遣いもできて完璧超人などと言われていた。
二乃は家事で培った技術を遺憾なく発揮する。
三玖は隠し味に味噌を入れようとして全力で止められる。
四葉は元気過ぎるあまり、薪を割りすぎてしまう。
五月は1秒の狂いもなく煮込もうとするので時計と睨めっこをしていた。
そして戒斗は───
「うおお!駆紋の包丁捌きがエグい!」
「早すぎて残像が見えるぞ!」
「てか俺らルー作ってねぇ!」
「やべぇ煮込むぞ!」
「分量はフィーリングだ!心してかかれ!」
などとふざけながらも、戒斗の班の男子達は寸分の狂いもなくルーを作りあげていく。余った鍋を使ってカレーを他の班の数倍は作っていた。それだけの量を作れた理由は、カレールーを持参している者が何人もいたからだった。
「ふはははは......カレーは甘口が一番だ」
「いやここは中辛だろ」
「いや辛口だろ」
「でもぶっちゃけどれも美味い」
「それな」
「美味ければ良いんだ」
「全部作っちまうか」
それからカレーを多く作った上に、辛さも分けてあるので他の班からカレールーを奪われる事件が多発した。
戒斗達のクラスはカレーバイキングのような光景になっていた。
「カレー美味っ!野菜の大きさも丁度いいぞ!」
「駆紋に感謝しろよ!美味っ!」
「辛さ分けてるからすげぇ楽しめる!美味っ!」
「俺このクラスで良かった!美味っ!」
クラスメイト達が美味しそうにカレーを食べている中、戒斗は静かに姿を消した。自分が食べても意味が無いから。食べたところで無駄に消費するだけだから。
「さて、問題はここからだが......」
「あー!やっぱりこの辺にいると思った!」
離れた場所にいたが、一花に見つかってしまった。片手に持っているスプーンを見て、何をしに来たのか察してしまう。
「また食べないなんて言ってたの?」
「......お前は食ったのか?」
「まだだよ。食べようと思ったら皆戒斗くんを探してたから」
戒斗は自分が思っている以上にクラスから慕われていた。それを分かっているからこそ、一花は連れ戻しにきたのだ。
「ほら、行くよ!」
そして戒斗の手を引き、元いた場所へ連れていこうとする。だが戒斗は渋っていた。
「俺は───」
「皆で食べた方が、絶っっ対美味しいの!」
楽しそうな一花を見て、今くらいは言うことを聞こうと戒斗は思った。道中、戒斗を探しているであろう二乃に出会った。片手にカレーの皿を乗せて。
「あ、戒斗!と一花?」
「聞いてよ二乃!戒斗くんってばカレー食べないつもりだったんだよ!」
「......やっぱりね。一花、スプーン貸して」
それを聞き、二乃はカレーを一掬いして戒斗の口に突っ込んだ。
食感だけは伝わるカレーを、少しの間味わう。
「どう?美味しい?」
「......ああ」
そして二乃も一口食べた。
「......うん、美味しいじゃない!食べないなんてもったいないわよ?」
「......そうだな。美味い、からな」
一つ、嘘をついた。
「皆で一緒にカレー食べる?」
「......そうする」
「うん、偉い」
二乃は戒斗の頭を撫でる。一花は自分より姉っぽい二乃を見て焦っていた。口に米粒をつけて。
「あんたいつの間に食べたの」
「に、二乃!言っとくけどお姉さんは私だよ!」
「はぁ?分かってるわよそんなこと。てかついてるわよ」
そしてクラスメイト達の元へ戻り、戒斗の皿にカレーが盛られた。
スプーンで一掬いし、口に入れる。味はしないが、食感の他にも伝わるものがあった。
「戒斗くん、皆すっごく頑張ってたんだよ?最高に美味しいカレー作って、クラスの人達を喜ばせるために」
「そう、だったのか......」
「お互いがお互いのために頑張ってて、ほんと仲良かったわよ。良いクラスだなーって思った。ちょっと妬けちゃうくらいにね」
それは、クラスの面々の熱意。飯盒炊爨とはいえ、調理は自分でする。そして作る際に大事なのは「誰かを思う気持ち」である。誰かを想って作ることで、より美味しくしようとやる気が湧く。
「一花、二乃」
「ん?」
「何?」
「......美味いな、これは」
その言葉で二人は笑顔になった。
「......ふふっ、でしょ?私も一緒に作ったんだよ?戒斗くんのことを想ってね。二乃も一緒にね」
「ふん。私のクラスは早く終わったから、そのついでよ」
「えー?ほんとかなー?すごく張り切ってるように見えたけど?」
「き、気のせいよ!」
食べ歩きにした時には感じなかった感覚。普段から近くにいる存在、楽しく話すことが出来る存在。
そして、自分を受け入れてくれる存在。そういった者達が思いを込めて作ったカレーは、戒斗の心を少なからず温めた。
戒斗は、思わず笑みを零した。それは純粋な嬉しさから来たもので、普段の硬い表情からは想像もつかないほど温和なものだった。
「......ありがとう」
「どういたしまして!」
「ん、どういたしまして」
二乃と同じように、戒斗の頭を撫でた一花。周りを見れば、クラスメイト達が涙目で喜んでおり、担任もハンカチで涙を拭いていた。
「それじゃ、私は戻るわ。一花、あとはお願いね」
「うん、ありがとね」
それから戒斗はカレーを完食し、片付けを素早く済ませた。
「さーてと、あとは肝試しかなー?」
「肝試し?」
「あれ?聞いてなかったの?」
「まさか、あの森でやるとはな......」
一花は三玖と周る事にしたようで、戒斗は一人になった。
だがそれは戒斗にとって好都合だった。林間学校一日目、上杉家に行く直前に凌馬に言われたことを思い出す。
『あと一つ、今言うのは本当に申し訳ないんだが......ある場所の森にインベスがいる。地図は送るよ』
戒斗は森の中に入り、地図を見る。奥へ入っていくと、それは姿を現した。
「......初級で助かった、といったところか。変身!」
《ナイト・オブ・スピアー!!》
急いでバロンに変身し、インベスを次々と撃破していく。
「こいつら......!」
初級なのでバナナアームズでも容易く倒せるが、いかんせん数が多かった。倒しても倒しても湧いて出てくる。
「クラックがあるとしか考えられんな。仕方ない」
ここら一帯のインベスを一気に仕留めるためマンゴーロックシードを取り出そうとする。だが、どこを探しても見つからなかった。
「......くそっ!まずったか!」
《カモンッ!バナナ・スカッシュ!!》
「ハアアアア......セイイーーーッ!!」
バナスピアーを回転しながら回し、何とかインベスを全て倒した───かと思われた。
「ギッ、ギャギャッ!!」
「っ!逃がしたか!」
三体も逃がしてしまい、マンゴーだったならば、と考えてしまう。だがすぐにその考えを排除し、逃げたインベスを追いかける。
「くそ、面倒だな......!」
インベスはそれぞれ別の方向に分かれてしまった。他の人間への被害を阻止するため、素早く標的を絞って追いかける。
「二乃ぉ......どこですかぁ......怖いですよぉ......」
五月は二乃と逸れ、森の中を泣きながらさ迷っていた。
元々幽霊の類が嫌いな彼女は、肝試し自体も賛成的ではなかった。二乃がどうしてもと言うものだからついていったが、一人になると途端に心細くなっていた。
「オバケなんて嫌ですよぉ......」
「......ギ......」
言ったそばから、オバケよりも恐ろしいインベスと出会ってしまった。
そして、頭部が変形し、隠れていた巨大な口と無数の鋭い牙が露出して凶暴態となってしまう。
「きゃあああああっ!!」
誰かが仮装しているようにも見えない、明らかな怪物を見て、五月は地面にへたり込んだ。逃げようにも体が動かず、為す術なく殺される未来が見えた。
「だ、誰か......!」
体を動かそうにも腰が抜けてしまい、立てなかった。全身が死の恐怖に震える。かつてないほどの恐怖を感じた五月は、精神を保つだけで精一杯になっていた。
そんな時。
「............!」
ゴソ、とポケットの中から何かが出てきた。
それは、椅子に置きっぱなしにされていたマンゴーの錠前だった。
「......えいっ!」
五月はそれをインベスに投げつけた。運良く顔にヒットし、仰け反るインベス。その時衝撃で錠前が開錠されてしまった。
その時、空間にクラックが現れ、インベスが飛び出してきた。
それも2mはあろうかというインベスが。
「ギャアッ!」
「グルアッ!!」
初級インベスが敵と察知して立ち向かっていったが、腕の一振りで爆散した。五月はインベスが倒されたことに安心したが、召喚されたインベスは五月の方を向き、近づいてきた。
「ひっ......」
せっかく倒せたと思ったら、更に強力な怪物が迫ってくる。異様なまでに膨れ上がった腕は、人の体程度容易く潰せるだろう。
五月は自分の死を悟り、目を瞑った。
「(誰か、誰か助けて......!)」
だが、いつまで経っても攻撃が来ない。
「......?」
妙だと思い、恐る恐る目を開けると、目の前にギリギリ駆けつけたバロンが立っていた。
その槍は、怪物の体を貫いていた。そしてすぐに槍を引き抜き、目にも止まらぬ早さで何度も突き刺した。
「グ、グッ、ググアッ!!」
すると怪物は動きを止め、苦しみに悶える。バロンはその隙を見逃さず、とどめの一撃を放った。
派手に爆発する怪物とバロンの後ろ姿を見て、五月は目を輝かせた。
「す、すごい......」
一瞬にして怪物を仕留めた動きに見惚れている五月に、バロンは安否確認をする。
「怪我はないか」
「はっ、はい......」
助かったことに心底ホッとした様子を見せたが、事が終わって先程の恐怖を思い出したのか、五月はバロンにしがみついて泣き出した。
「怖かったですぅぅ!わぁぁぁ!!」
今も全身の震えが止まらない五月の頭を、バロンはポンポンと叩いた。
「少し待っていろ。すぐ戻る」
「えっ、ええっ!また一人ですか!?」
そして五月を離れさせ、反応する間もなく森の奥へと消えていった。
「まさかもう一度会えるなんて......はっ!マンゴーの錠前を......あ、あれ?無い!も、もしかしてあの人が......でもあれは戒斗さんの......うーん......」
五月がそんなことを考えている中、バロンは残りのインベスの始末を急いでいた。
「まさかあいつがマンゴーのロックシードを持っていたとは......だがこの森では使えんな」
見つかったことに安心するが、インベスへの不安は消えていない。
一刻も早く見つけねばと森を駆け回ってインベスを探す。
するとすぐに見つかった。だが、今まさに誰かが襲われていた。
《カモンッ!バナナ・オーレ!!》
「ハアアッ!!」
「ギャアアアアッ!!!」
すぐにインベスを倒したはいいものの、襲われていた誰かは崖から転落するところだった。この高さから落ちれば間違いなく即死する。そして手を伸ばして助けを求められる。
「た、助け───」
「チッ!掴まれ!」
バロンも咄嗟に手を伸ばしたが、届かなかった。
落ちていく誰かは、その事実に深く絶望した。
「くそっ!だが───」
「(嘘......私、死ぬの......!?嫌......そんなの嫌.....!!)」
だが、バロンは諦めてはいなかった。
大きく手を振り、ヘルヘイムの植物を誰かの体に巻き付ける。そして勢いよく引っ張り上げ、落ちてくるところを横抱きで受け止めた。
「大丈夫......か......」
バロンは受け止めた誰かの顔を見て驚愕した。その正体は、何と二乃だった。
「バロン......様......?バロン様っ!」
二乃はバロンの姿を見た途端すぐに抱きついた。
「会いたかった......!」
「(......怪我はなさそうだ。だが服が破れているな......まあ、これくらいなら問題はないだろう)」
「私のこと、覚えてますか?五年以上前、貴方にあの怪物から助けてもらったんです!」
五年以上前のことを思い返してみても、二乃と出会った記憶はない。
覚えていないと言うと、涙目になった。
「......でも良いです、忘れられてても。またあなたに会えたから」
「......すまないな」
「いえ、気にしないでください」
バロンは二乃の普段の強気な様子とは似ても似つかぬしおらしさに、変なギャップを感じた。
「私の名前は中野二乃。あなたは?」
「俺はバロンだ」
「違います。本当の名前を教えてください」
「......そういえば、向こうにお前と同じ顔の奴がいたぞ」
誤魔化し方が見つからず、無理矢理話を逸らす。すると二乃は食い付いた。家族の話なので当然だが、誤魔化せるとは思っていなかった。
「それ妹です!どこですか!?」
「奥の辺りだ。一人で待っているはずだ。行くぞ」
二乃を下ろそうとするが、首に手をかけたまま離れようとしない。
「......このまま連れて行ってください」
「......仕方ない。しっかり掴まっていろ」
「はい......!」
バロンは二乃を抱えながら素早く森の中を疾走する。あっという間に五月の元へ辿り着き、二乃を降ろした。この事は他言しないように聞かせ、二人をスタート地点へ帰らせた。
「さて、次で最後だ......」
一気に駆け抜け、最後のインベスを見つけた。そのインベスは、上級インベスに進化していた上に、誰かと対峙していた。対峙している相手を見て、バロンは驚きに目を見開いた。
「何故ここに......!」
それは、鎧武者のような姿をしながらも、所々にオレンジの特徴が見られる、「アーマードライダー・鎧武」そのものだった。見間違えようがなく、腰には戦極ドライバーとオレンジロックシードが嵌っていた。
気づいた時にはインベスは倒されており、バロンの出る幕はなかった。それよりも優先すべきことがあると、バロンは鎧武に近づいた。
「な、なんだあんた!まさか、俺と同じ......!」
「貴様は誰だ!」
オレンジロックシードを閉じて外し、鎧武の変身を強制解除させる。
《ロック・オフ》
「き、急に何だよ」
鎧武の正体は、風太郎だった。バロンはその事実を信じられなかった。
無関係だと思っていた風太郎が戦極ドライバーを使ってインベスと戦い、あまつさえ勝利してしまったことを。
「このベルトを誰に貰った!!」
「も、森に落ちてたんだよ。急にあの化け物に襲われたから、四葉と逃げてたんだが......」
「落ちていた......だと......!?くそっ!」
誰が落としたかなど見当がつくはずもなく、木に当たってしまう。
「何故インベスが進化していた?もともとは小さかったはずだ!」
「インベスって、あの化け物のことか?変な果物を食ったらああなったんだよ」
「果実を......っ!......食ったのはインベスだけか?」
「ああ。一個しかなかったしな」
それを聞いて安堵しつつも、バロンは戦極ドライバーの使用を止められなかったことを後悔して歯噛みした。だが知ってしまったなら全てを教えなくてはならないと、語ろうとしたその時───
「グルアアアアアアアッ!!!!」
「貴様は黙っていろッ!!」
『カモンッ!バナナ・スカッシュ!!』
凶暴態となったインベスが二人に襲いかかるが、バロンは怒りを込めた槍を放ち一撃で沈めた。
「すっ、すげぇ......」
「......今回のことは、誰にも言うな。貴様の親兄弟にもだ。絶対にだ」
「......あんたが何考えてんのかは分かんねぇけど、あいつらが危ないってことはわかる。家族や友達を巻き込みたくないしな。誰にも言わねぇよ」
それだけ聞いてバロンは風太郎の元を離れた。この時バロンという存在は、「名も知らない強い騎士」として風太郎の頭の中に強く残った。
「......この力、下手すれば兵器にも勝るんじゃ......パンチ一発で地割れ起きたし......武器も出てくるし......」
風太郎は変身する力に少しの恐怖を感じながらも、戦極ドライバーとロックシードをしまって肝試しのスタート地点へ戻って行った。