「もしかして心当たりって......ここから捜すこと......?」
二人はチェアリフトに乗った。一花は戸惑うが、リフトは進んでいく。
戒斗はリフトがある程度進んだ時、口を開いた。
「それで、なんでこんなことをした?」
核心をついた質問だが、一花はシラを切った。
「こんなことって?」
「バレてないとでも思ってたのか」
恍ける一花のフードをめくると、五月の長い髪が風に吹かれる。
気づかれていたとは思ってなかったらしく、
「......気づいていたんですか」
「最初に見た時、違和感を感じてもしやと思ってな......あと呼び方だ」
本来、一花の場合は戒斗”くん”と呼ぶ。だが五月が成り代わっていた一花は戒斗”さん”と呼んだ。
「そんなことで......」
戒斗にとって敬称というのはあってもなくても構わないものだった。だが、一花達のようにある程度親密になっていると、呼び方が変わった際には違和感がある。
「あいつが俺のことを”さん”付けで呼ぶというのは、かなり不自然に感じてな」
「すごいですね、戒斗さんは......」
「そうでもない。すごいならここまで大事にした上で、あの場でお前が偽物だと言う。俺はこうしなければ言えないからな」
「すみません......私、確かめたかったんです......」
何を、とは聞かなかった。五月は姉妹達を心配させ、巻き込んだことに罪悪感を感じているように見えた。戒斗はこれ以上追求して傷をえぐるのを良しとしなかった。
「言っておくが、上杉も気づいていたぞ。あいつは一花のように体調を崩していた。だから俺にこの件を任せた」
「そうだったんですか......」
「大事にならなかったとはいえ、後で謝っておけよ」
「はい......」
それから、五月は二乃に叱られた。その時四葉の庇護や戒斗と一花の擁護もあり、比較的穏便に済ませられた。その問題が解決した時には、風太郎はコテージに運ばれていた。
「よく連れてきてくれたな。上杉は一旦この部屋で安静にさせ、様子を見る。これ以上悪化するようなら私が病院に送ろう。こいつの荷物を持ってきてくれ」
「(まさか、らいはのところから貰ってきたのか......?)」
戦極ドライバーの負担に加え、端かららいはの熱を貰っているならば、今の風太郎の疲弊も納得できる。戒斗は薬を買っておけばよかったと今更ながら後悔した。
「お前たち着替えて広場に集合だ。じき、キャンプファイヤーが始まる」
「わ、私も残ります。フータローを放ってはおけません」
「......ゴホッ......お前たちがいても仕方ないだろ。一人にしてくれ」
二乃がムッとした表情になる。
「ちょっと冷たいんじゃない?三玖はあんたを心配して......」
「ということだ。早く行きなさい」
「でも......」
譲らぬ五人を見て、教師はこの部屋を立ち入り禁止とし、見つけたら罰則を与えると言って部屋に入った。
「フータロー、せっかく林間学校に前向きになってくれたのに......」
「一人で......こんな寂しい終わり方でいいのかな......」
四葉や三玖は目に見えてへこんでおり、キャンプファイヤーに乗り気ではなかった。
「自分に従え」
「......え?」
「いいのかどうか迷うのではなく、自分で結果を作れ。そのために行動が必要ならば、迷わずそうしろ」
戒斗の言葉を聞いて、三玖は何かを決断した。その様子を見た戒斗は、あとは自分次第だと告げて一花の元へと向かった。
一花は、キャンプファイヤーの中央から少し離れた階段に座っていた。
「......戒斗くん」
「 キャンプファイヤー、どうするんだ?」
「あー......やめとく。ごめんね、せっかくOKしてくれたのに。今度埋め合わせするよ」
「気にするな。あんな上杉を見れば、気が滅入るというものだ」
戒斗は、風太郎が捨てようとしていたしおりには、付箋がびっしりと貼られていたのを知っている。スケジュールもみっちりと管理していたし、暗記するくらい楽しみにしていたことを知っている。
「戒斗くんもごめんね、私倉庫にいる時......」
「あれは事故だ。お前は悪くない。だから気負うな」
それから、二人は無言でキャンプファイヤーを見ていた。
誰もが胸を躍らせ、楽しみにしていたイベントを見ても、二人の気分は全く上がらなかった。
「あ、一花」
「三玖、どうしたの」
「少し話したくて」
「なら俺は席を外そう」
「ごめんね」
戒斗は一花と三玖の話を邪魔しないよう、どうでもよさそうにキャンプファイヤーを見る二乃にの方に向かった。
「くだらないわ。で、何の用?」
「いや、顔から生気が失われてるように見えてな」
「ふん。あながち間違いじゃないわ。皆色気づいちゃって」
誰が言ってるんだという言葉は胸にしまい、二乃の愚痴を聞く。
「まったく、踊る相手もいないのに何が悲しくてこんなのを......」
「なら、俺と踊るか?」
二乃に手を差し伸べると、可哀想なものを見るような視線を向けられた。
「あんた、一花にフラれたからって......」
「やめろ。変な勘違いをするな。あいつの方からキャンセルしたんだ」
「いやフラれてるじゃん」
「......それで、どうする?」
はぁとため息を零し、戒斗の手を取った。仕方ないから踊ってあげると言いつつも、満更ではなさそうだった。
「てかあんた、伝説知ってる?」
「伝説?」
「フィナーレの瞬間に踊ってたペアは生涯結ばれるってさ」
クラスの連中がやたらと燃えていた理由はそれかと合点がいく。
それならばあの屍生人のような執念深さも理解できた。
「なるほどな」
「知らなかったの?」
「興味がなかったからな。相手はいないのか?」
「見たらわかるでしょ。まったく......バロン様に会えたと思ったら、すぐどこかに行っちゃうし......あ、そういえばあんた!」
バロンという名を聞いてこれ以上はまずいと離れようとしたが、それを知ってか知らずか二乃は距離を詰めて前の話を掘り返した。
「いつバロン様に会わせてくれるのよ!」
「......時間が出来れば伝えよう」
完全に忘れきっていた話題を出され、それらしいことを言って誤魔化した。
「......約束よ。破ったらビンタね」
二乃と指切りをし、踊りを再開しようとする。ここで戒斗は先程聞いた伝説を思い出した。
「上杉の所に行くか」
「なんでよ」
「フィナーレの瞬間に踊っていた二人は生涯結ばれる......だったな。踊る訳では無いが、これからの家庭教師の験担ぎをな」
それは、生涯までとはいかないが、せめて五つ子が赤点を回避できるようになるまでは共にいようという意思の表れだった。
「......いいわよ。ここで踊ってるカップルを見るよりはまだマシよ」
二乃の承諾も得たことで、風太郎の眠っている部屋へと向かう二人。
「窓開いてるじゃない。入るわよ」
「中に教師がいるぞ」
「えっ......」
窓から入った時、教師がすぐ近くで 付き添っているが、寝ていたので見つからずに済んだ。二乃が焦ったことて戒斗は引きずり込まれる形で中に入った。
「ちょ、離れちゃダメ!見つかるでしょ!」
「ぐ......!」
二乃は戒斗を見つからせるまいと胸に引き寄せて隅に隠れていた。
加減せず掴まえていたので、戒斗は喋れずにいた。
そして何とか喋れるくらいには抜け出せた。
「おい......離せ......!」
「だから見つかる......っ!あんたどこ触って───」
「どこも触れてないし貴様がやったんだろうが......!」
「変、態......!」
あくまでも戒斗を性犯罪者に仕立てあげたいらしい二乃に、どんどんと締め上げられる。下手に抵抗して教師が目を覚ますの避けたかったが、二乃は本当に加減を知らなかった。
「......少し我慢しろ」
そう言って戒斗は、二乃の拘束をすり抜け、互いの場所を反転させた。つまり、今戒斗は二乃の体を支えている。
「え、いつの間に......んむっ!?」
驚く二乃を強引に静め、様子を伺う。ふと居眠りから覚めた教師は暗くなっているのを見て電気をつけようとしたが、別の教師からのキャンプファイヤーの手伝いを頼まれ、部屋を出ていった。
「......もう大丈夫だろう」
「......ぷはっ!あ、あんたねぇ、加減ってもんを知りなさいよ!」
「お前が言うか」
「......とりあえず、電気つけてくるわ」
暗闇の中手探りと勘でスイッチを探す二乃。
そして電気がついた時、スイッチの傍では手が五つあり、部屋には風太郎を含め七人いた。
「「「「「あっ」」」」」
なんと、五つ子達は全員風太郎の安全を確認しに来ており、さすがに戒斗も驚ろきを隠せなかった。
「みんな来てたの!?」
「し、静かに......っ」
大声で驚く四葉を焦りながら落ち着かせる五月。
「なんであんたたちがいるのよ」
「私たちもフータロー君が心配で来たんだよね、三玖」
「うん......」
二乃の問掛にそう答える一花と三玖。考えることは同じらしい。
「......えへへ、なんか嬉しいなー。みんなで同じこと考えてたんだね!」
「私は違うわよ!暇つぶしよ暇つぶし!」
二乃が素直になりきれない中、五月は風太郎の傍に近づき、手を握った。
「上杉君。みんな、あなたに元気になってほしいと思っています。上杉君がどんな人なのか、私にはよくわかりませんが......目が覚めたら、よければ教えてください。あなたのことを」
五月の言葉を聞き、成長を感じる一花。五月の方から歩み寄ろうとしているのを見て、一花も戒斗も風太郎と五人の進歩を見て口角が上がった。
五人は風太郎の指を一本ずつ握り、安心させるように寄り添う。
「ほら、戒斗くんも一緒に」
「あんた、こいつの親友なんでしょ?」
「私のところの小指が空いてますのでそこを」
逃がさぬように三人に腕を掴まれる戒斗。やればいいんだろうと言いながらも友を思う気持ちはあるようで、五月の手の上から風太郎の指を握る。
「男が男の手を握るのって、絵面としては気持ち悪いわね」
「仕方ないよ。それしかやり方ないし」
「......よく考えれば、俺は反対方向に座っておけばいいな」
「あっ、そ、そうですね......」
五月から手を離すと、しゅんと肩を落とされる。それを見て一花はくすくすと笑った。
「(ありゃ、五月ちゃんってば目に見えて落ち込んじゃって......そうだ)戒斗くん、手出して」
「......?」
一花は、戒斗の手に触れた。それを見た五月も同じように戒斗の手を握った。二人は片方ずつの手を握っているので、戒斗は体勢がかなり辛かった。
「(伝説もあるしね。あやかっとかないと)」
「(い、一花には負けませんよ!)」
「ちょ、一花、あんたそんなに寄らないでよ」
二乃は一花が寄ってきたことで肩が重くなった。
「だって戒斗くんの手遠いし」
一花を元の場所に戻すため、二乃は戒斗の腕を掴んで一花の方に寄せた。それをされると五月が四葉の方に傾く。五月も負けじと引く。綱引きのような状況になり、四葉は焦って、三玖はやめさせようとした。
「く、駆紋さん辛そうだよ!」
「戒斗、あとで抹茶ソーダあげるから耐えて」
「いらん」
そんなやり取りの後、六人で目を覚ますように祈っていると、風太郎はムクリと体を起こした。
「あ、起きた!」
「フータロー、大丈夫?」
風太郎の顔は不機嫌極まりないものだった。
「......るせぇ......」
「え?」
「うるせぇ!ちっとも寝らんねぇだろうが!!」
怒鳴られて五人は笑いながら部屋を出ていった。
風太郎は何か言いたげだったが、照れた様子で言葉は発さなかった。
「戒斗もなにやってんだ」
「ここから出ようとしたら無理やり止められた」
「なるほど、大変だな......」
二人の間になんともいえない空気が流れる。
それからタイミング悪く騒ぎ声を聞いた教師がやってきて、戒斗のみ罰則を食らってしまった。その時風太郎は窓の外の五つ子を殺さんばかりの目で睨みつけていた。
「で、なんで私はあんたといるわけ?」
「こちらのセリフだ」
修学旅行が終わり、しばしの休日を過ごしていると、二乃と戒斗は仲良く買い物をしていた。
理由として、二乃はタルトを作るために材料を買いに。戒斗は五月に食事に誘われたので待ち合わせ場所にいた。偶然同じ場所に用事があったのだ。
「ちょうどいいわ。荷物持ちなさい」
「待ち合わせをしてるんだが」
「知らないわよ。さっさとして」
という流れのもと高飛車な振る舞いをする二乃の荷物を持つ戒斗。不本意ながらついて行き、歩く際は車道側に移動したり、歩調を合わせる姿は、さしずめ姫と騎士だった。
「(こいつ、案外しっかりしてるのね)......きゃっ───!」
途中、足を滑らせて溝に嵌りそうになったが、戒斗が肩を引いたことで二乃は汚れずに済んだ。
「車がよく通る上に溝か、面倒な道だ。大丈夫か?」
「う、うん......(今ほんとに焦ったわ。よく反応できたわね......)」
二乃は戒斗の紳士的行動に驚嘆したが、戒斗の頭の中は待ち合わせの時間が迫っていることによる焦りでいっぱいだった。待ち合わせ中に荷物を持つ自分も大概だが、二乃の行動に正気を疑った。
「そろそろ着くな」
時計を見ると時間を三十分オーバーしていた。
五月に会ったら謝った上で飯は奢ろうと心の中で申し訳なさを感じた。
「ご苦労さま。もう戻っていいわよ」
戒斗はどこの女王様だと言いたくなったが、それどころではなくなったのですぐに待ち合わせ場所に戻ろうとした。
「(三十分オーバーなど遅刻の範疇を超えているぞ......これは肉の1kgや2kgでは済まないかもな......)......ん?」
二乃が中に入り、入れ違いでアホ毛の誰かが出てきた。
「あれ?戒斗さん?」
偶然にも五月と鉢合わせた。戒斗はすぐに謝ろうとしたが、冷静になって考える。
「待ち合わせ時間は三十分前......お前、今準備を終えたのか?」
「いえ、準備はすぐに済ませたのですが......ご飯を食べていたら遅くなってしまいました。すみません......」
戒斗は五月の言葉に耳を疑った。女は準備に手間取ると凌馬から聞いていたので遅刻は仕方ないとは思っていた。だが、五月はご飯を食べていたら遅くなった、と言った。
「あ、大丈夫ですよ!少し運動してお腹も空きましたので!」
「(リビングから玄関までを運動とは......)」
それだけ食べておいてまた食事に行くのかと、もう胃袋ブラックホールなどというレベルではないと、彼女の食欲に戦慄を覚えた。
「偶然会えたことだ、行くぞ」
「あ、はいっ」
五月は戒斗と手を繋いだ。嫌でもなかったのでそのまま流し、店まで向かった。
向かった店は、なんと焼肉屋だった。
「さあ、食べますよー!今日こそ記録更新を目指して!」
テーブルの上に大量に置かれた肉を、戒斗は無心で焼いていく。その手際の良さはプロのようで、この際肉焼きにプロがいるかどうかは考えないようにした五月だった。
「ありがとうございます。戒斗さんもどうぞ」
五月から差し出された肉を口に入れると、柔らかさのあまり噛むまでもなく喉の奥までするっと入った。
「やはり肉となると、他の飯とは違うな」
「美味しいですか?」
「ああ、美味い。だからお前ももっと食え」
戒斗は、自分が食べるよりも五月が食べるべきだと考えた。自分と違い、五月はどんな食べ物だろうと本当に美味しそうに食べる。それを見れば食材冥利に尽きるというものだ、と思った。
「戒斗さんってあまりご飯食べませんけど、お腹空いてないんですか?」
「俺は味音痴なだけだ。気にするな」
「そうはいきません。目の前に相手がいるのに、一人で食べるのは......」
寂しそうに一人でパクパクと肉と米を食べていく五月。アホ毛も垂れていた。戒斗はせっかく来たのだから少しくらいはいいかと肉を口に入れた。
「......!」
「少しだけ......付き合ってやる」
「はいっ!」
そこから五月は、肉の消費量店内一位を記録した。
「さあ、まだまだ行きますよー!」
「(......こいつ、化け物か)」