上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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あの日の出会い

それからというもの、五月の食欲は留まることを知らず、夕方までずっと食べ続けていた。夕食は入るのかと聞くと、運動するので大丈夫ですと返された。

 

「ここから家まで歩けば十分です!」

 

「都合のいい体だな」

 

「へ、変な言い方しないでください!」

 

帰り際、五月は戒斗にまた行きましょうねと言われた。

戒斗は肉を焼いたりする分にはいいが、食すとなると賛成の意はあまり湧かなかった。

 

「来てくださいね?」

 

「善処する」

 

「来なかったら泣きます」

 

本当に泣きそうだったので渋々了承し、五月を家に帰した。

 

「じゃあ、また」

 

「ああ」

 

ドアを閉めた時に聞こえた腹の音は五月のものではないと思い込み、戒斗は研究所へ戻った。

 

「戒斗くん、君、家は持っているかい?」

 

「前に連れて行っただろ」

 

「あれは家じゃないだろう」

 

「家だろ」

 

「うーむ......友達を連れて行ってみたまえ。驚かれるよ」

 

そんな話があり、誰を誘おうか考えた時、風太郎達が浮かんだので上杉家に向かったが、らいはに風太郎は病院にいると言われた。

 

「ここか。というか、風邪で入院するのか」

 

そして戒斗は今、風太郎の病室にいた。テレビを憎たらしそうに睨む風太郎に声をかける。

 

「おお戒斗。見舞いに来てくれたのか?」

 

「見舞いの品は無いが、そんなところだ。あとは───」

 

「あ、そうだ。今日占いで最下位だったんだよ。友達と合えば運気アップだって」

 

戒斗に会って運気が上がった、とでも言いたげな風太郎を見て、戒斗は馬鹿なやつだと笑い飛ばした。

 

「そういえば、まだ退院しないのか?」

 

「もうすっかり治ってるんだけどな、こんな豪華な病室で入院するなんて中々ないからのんびりしていけだとさ」

 

「面倒だな。あと、ついでにこれを届けに来た」

 

風太郎に生徒手帳を投げ渡す。林間学校の時、驚かすために動いたからか肝試しの森に落ちており、戒斗はそれを偶然拾っていた。

 

「おお!無くしたと思ってたんだが、助かる!写真は......あった!」

 

風太郎は生徒手帳の写真を見てほっとした気持ちになり、ふと過去のことを口にした。

 

「なあ戒斗、覚えてるか?」

 

「何がだ」

 

「小六の頃の、修学旅行。あの子と初めて会った時のこと」

 

「ああ、あの巫山戯た格好の女が鬱陶しく絡んできた時のことか」

 

思い出したくないものを思い出してしまい、戒斗は不快感を隠すことなくさらけ出した。風太郎もその時にはいい思い出は無かったので苦笑いしかできなかった。

 

「何故急にこんな話を?」

 

「さっき寝てる時、夢に見てな。あの子もでてきた」

 

「生徒手帳に挟んでる奴か」

 

「言い方」

 

あの子、というのは風太郎にとって忘れられない出会い方をした存在であり、戒斗の記憶にも未だに残っている。

先程風太郎が確認した写真にはあの子と戒斗と自分の三人が写っていた。

 

「京都で五年前か」

 

「ああ。俺はお前程よく覚えていないが」

 

風太郎はその子の話をする時、嬉しそうに喋る。また会いたいと頻繁に言うし、あの子がいなければというもう一つの未来を何度も予想したりする。

 

「そういう相手は案外近くにいたりするものだと聞くな」

 

「はは、まさかまさか。俺の予想ではあの子はもう知的な美女になっているはずだ。周りにそんな奴はいない」

 

戒斗の言葉を鼻で笑った時、病室の扉が開いた。

 

「はぁ、はぁ......」

 

そこには息を切らした二乃がおり、誰もいないのを確認して入ってきた。

 

「な、なんだよ。俺の部屋だぞ」

 

「いいでしょ。誰がお金払ってると思ってるのよ」

 

「だからってこれは大げさだろ......看護師の間では院長の隠し子じゃないかって話題で持ち切りだ」

 

「仕方ないでしょ。あの子達、あんたが死ぬんじゃないかってくらい心配してたし」

 

風太郎は無愛想にケッ、と忌々しそうに呟いた。

 

「入院費を払ってくれたのもどうせお前たちの親父だろ」

 

「そうよ!つまり私たちが払ったも同然よ!」

 

「戒斗、こいつ追い出していいか?」

 

二乃の暴論を聞き、震える拳を抑押さえながら今にもベッドから飛び出しそうなる。

 

「好きにしろ」

 

「いや止めなさいよ!てかあんたら、私のことは黙ってなさいよ!」

 

二乃は急いでカーテンの中へ隠れる。それとほぼ同じタイミングで一花、三玖、四葉が来た。

 

「上杉さん!ここに二乃が......駆紋さんもいたんですね!」

 

「やっほー、林間学校ぶりだね」

 

「体調はどう?」

 

「よかった!生きてて一安心です!」

 

「お前ら......ったく、誰が来いって言ったよ......」

 

そういう風太郎の顔は喜んでいるように見える。そして戒斗は五月だけがいないのを見て、おぞましい想像をしてしまう。

 

「(まさか、食いすぎで動けないんじゃないか......?)」

 

「ん?やはり二乃の匂いがします」

 

四葉がリボンをアンテナのように立て、くんくんと匂いを辿って犬のように二乃を探す。

 

「あいつ、そんなに体臭がきついのか......かわいそうに......」

 

「たしかに、やけに変な匂いがしたな」

 

「ああ、なんか......うってなる匂いだよな。この場合は臭いか?」

 

「たまに外で会った時もそんな匂いがするぞ」

 

「言われてみれば匂うよな。香水使えばいいと思うんだけどな」

 

ヒソヒソと大きな声で話すという矛盾した行動をとり始める二人に、二乃は殺意を向けた。

 

「(使ってるわよ!あんたたちが言ってるの香水の匂いよ!)」

 

「フータロー君さ、一時はどうなるかと思ったよ。すっごい体温高かったんだから」

 

「回復してよかった。さみしくなったら呼んで。いつでも看病しにくるから」

 

「サンキュー。でも一人の方が楽だから」

 

頭をチョップする一花。唐突な暴力に戸惑って頭を押さえる風太郎。

 

「お、俺は病人なんだが......」

 

「今のはフータロー君が悪いぞ。あとこれ休んでる間のプリント。預かっちゃったけど、渡せてよかったよ」

 

「ああ、ありがとな」

 

ふと、食事の乗せられたお盆が三玖の目に入った。

 

「......フータロー。ご飯、嫌いなものあった?」

 

「いや、食欲が湧かなくてな......」

 

「食べさせてあげる。あーん」

 

「いやだから食欲がだな」

 

強引にパンをねじ込んだ。口いっぱいに入れられて喋れない風太郎を見て、三玖と一花は笑っていた。

 

「言ってくれたら私がごはん作るよ?」

 

「む、むごご......」

 

「よかった......じゃあ退院祝いに作るね」

 

「むぐぐぐーーっ!!」

 

風太郎の地獄行きが決定し、心の中で一花と戒斗は手を合わせた。

 

「やっぱり二乃いたー!」

 

「あんた犬か!」

 

「(野生児の四葉には分からないはずがない)」

 

「(当然だな)」

 

あれほど匂いがきつければ見つかるだろうという二人の思考を察したのか、風太郎にはデコピンを、戒斗にはビンタをお見舞いした二乃。

風太郎は額をさすり、戒斗は頬を押さえる。

 

「それで〜、か、い、と〜♪」

 

猫撫で声に気味悪さを感じる戒斗と肩を組み、グリグリと胸に拳を押し付ける。

 

「だぁれぇがぁ、変な匂いってだって〜?」

 

「ちょ、二乃。戒斗くんと距離近くない?」

 

一花の意見に構わず戒斗を威圧感のある笑顔で戒斗に詰め寄る。

 

「誰がも何も、この距離だと匂いが───」

 

尚も言い続ける戒斗の肩を掴み、ぐわんぐわんと揺らす。

 

「まだ言うかあんたは!匂ってみなさいよ!」

 

二乃の腕を掴んで香水の匂いを嗅ぐも、顔を顰めるだけ。そそくさと距離を取る戒斗を見て、無性に腹を立てた。

 

「やはり合わんな」

 

「そこはいい匂いって言うとこでしょうが!」

 

「まあまあ落ち着いて。戒斗くんも、女の子に変な匂いとか言っちゃダメだぞ?ほら皆も、そろそろ時間だよ」

 

手をパンパンと叩き、姉妹達を先導する一花。二乃は四葉に引きずられる形で連れていかれた。

 

「んじゃ戒斗、俺も診察してくる」

 

「ああ」

 

風太郎が診察室へと向かったことで、病室は戒斗一人になる。

 

「......帰るか」

 

生徒手帳を届けたことで、戒斗のやるべきことはなくなった。

インベスの撃破とクラックの閉鎖はある程度終わらせているので、やることが無く、暇になっていた。

 

「ん?」

 

病院から出ると、今まさに向かおうとしていたであろう五月に出会った。

 

「おはようございます、戒斗さん。お見舞いですか?」

 

「ああ、今から帰るところだ」

 

「......そうですか」

 

アホ毛と感情は直結しているのか、垂れていた。

 

「落ち込まれても、やることが無いからいても意味が無いぞ。お前は見舞いか?」

 

「いえ、私は私のやるべきことを......!」

 

凛とした顔つきでそう言うが、やるべきことと言いながら五月に連れられ、今二人がいるのは戒斗が今しがた後にした病室だった。ベッドですやすやと眠る風太郎とは反対に、五月は頭を抱えていた。

 

「見舞いじゃないか」

 

「それとは別に......い、いえ!そう!お見舞いに来ました!」

 

五月が誤魔化し笑いをしていると、風太郎が突然目を覚まして起き上がった。

 

「......なんだ五月か」

 

「なんだとはなんですか!」

 

「四葉たちが捜してたぞ」

 

「はは、なんのことだか......それより、今日はお尋ねするために来ました。教えてください」

 

風太郎に尋ねるのに自分はいるのかという疑問は、次の発言で消えた。

 

「あなたが勉強するその理由を」

 

「面倒なんだが」

 

「なら教えるまでこうして睨み続けます」

 

風太郎が、五月が諦めるまで睨みつけてガンのつけ合いをしていると、看護師に「熱いね」や「かわいい」とからかわれ、二人は咄嗟に顔を逸らした。

 

「......ちっ、仕方ない。教えてやる」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「よっしゃー勝ちィ!」

 

俺は、小六の修学旅行でテンションが爆上がりしていた。

新幹線の中でトランプゲームをしたり、親父の仕事道具からパクったカメラで写真を撮ったり、色々していた。

その時の俺は、ガリ勉に対していい印象がなかった。修学旅行で勉強道具を持ってくるなんて頭がおかしいんじゃないかと思ってた。

 

「不要な物は捨てていけ」

 

これが俺のよく口にする言葉だった。

そして、電車の中でそのガリ勉とクラスの女子が幼馴染みだのお似合いだの言われて、その時にも色々あって俺は、自分が一番不要だと気づいた。道中急に腹が痛くなったと言って誤魔化して、適当なところの階段で座っていた。

 

「......なんでお前まで」

 

偶然にもそこには戒斗もいてな、今と性格は全く変わってなかった。ほんとに小学生かって思ったぜ。

 

「こんな所で何をしている。班の奴らはどうした」

 

「別に、ただ休んでるだけだ」

 

「ほう、その割には未練がましさと辛さが見えるが」

 

見透かしたようにそんなことを言うから、当時の俺は不快感を抱いた。

 

「......っ、うっせぇ!気持ち悪いんだよお前!どっか行けよ!」

 

それでも突き放すような言葉に動じることなく、戒斗はずっと隣にいた。

やることがなくなってふと景色を撮ってると、変な格好のババアに絡まれた。

 

「ちょっと!今私のこと撮ったでしょ!」

 

「は?なんだおばさん」

 

「盗撮よ!盗撮されました!」

 

その声を聞いて偶然近くにいた警察も来てな。面倒事になりそうだから逃げようとしたんだが、戒斗に止められた。

 

「カメラを貸せ」

 

「はぁ?なんで───おい!」

 

カメラを取り上げたと思ったら、写真のフォルダを見て特定の写真を消していった。

 

「お前、同じ女ばかり撮っているが......その未練の正体はこいつか」

 

「......うるせぇよ。竹林はそんなんじゃねぇ」

 

「そして隣にいる眼鏡の奴は、こいつと距離が近い。大方馴染みか」

 

ズバズバと言い当てる戒斗の推理力に、俺は開いた口が塞がらなかった。少しだけすげぇとも思った。

 

「君、カメラを見せてもらっていいかな?」

 

ここで警察が俺たちに話しかけてきた。後ろではババアが俺を睨みつけていた。

 

「構わないが、そこの女の勘違いだった場合は相応の覚悟をしてもらおう」

 

そう言って戒斗がカメラを渡そうとした時、俺は運命の出会いをした。

 

「その二人は無罪だよ。私見てたもん」

 

そんな時、緊急ニュースが入って、俺の修学旅行は終わった。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「というわけだ」

 

「なんですかそれ!?雑な上に端折りましたね!」

 

一番聞きたい部分が聞けず不服そうな五月を無視して、風太郎は背を向けて横になった。

 

「......いまいち伝わりませんでしたが、その子との出会いがあなたを変えたのはわかりました」

 

そしてあの日、その子とお守りを買ったことを思い出す。

 

『わーっ、お守りだって、買っていこうよ!』

 

『なんでついてくるんだ!どっかいけ!』

 

『人捜ししてるんでしょ?私もなんだ。お互い一人で寂しい者同士仲良くしようよ』

 

『一人じゃねーよ!戒斗も───あ、あれ?どこいった!?』

 

『ほらお互い一人じゃん。私一人ぼっちはやだもん。だから一緒にいようよ。私には君が───』

 

「私も変われるでしょうか......もし、できるなら......変われる手助けをしてほしい。あなたは、あなた達は───」

 

五月の言葉があの少女と重なる。

戒斗の脳内にノイズが走る。

 

「私たちに必要です」

 

『君が必要だもん』

 

思わず五月の方を振り向くが、先程の発言が恥ずかしかったのか手で顔を隠していた。

 

「......俺に教わってどうにかなるのか?平均29.6点」

 

「どうにかします!やれることはなんでもします。見てください!昔持ってたお守りを引っ張り出してきました!」

 

「神頼みかよ」

 

ハハと笑う風太郎だが、あの子も似たようなお守りを買っていたことを思い出す。一人で五つも買っており、当時は馬鹿かと思っていた。

 

五つも買うのかと。

 

「......おい、それどこで買った?」

 

「これですか?買ったのか貰ったのかよく覚えてませんが確か......京都で五年前」

 

不思議なくらいに辻褄が合ってしまう。五年前、京都で同じお守りを五つ買った少女。そのお守りを同じ時期に五月も買ったか貰っていた。

そして中野家は五つ子。

 

「......偶然、だよな」

 

風太郎がブツブツと何かを言いながら考え込む。戒斗と五月は、その話に入る余地はないと踏み、別の話を始めた。

 

「やることがあるんじゃないのか?」

 

「怖いのでついてきてください」

 

「......構わないが、病院に怖いものなどあるか」

 

それを聞いてアホ毛がぶんぶんと振り回されるも、すぐに止まった。

 

「......予防接種です」

 

受けたことはなかったが、戒斗は知っていた。予防接種とは、腕に針を刺すと。だが毒を注入されるわけでもあるまいに、何故ここまで怖がるのかは理解できなかった。

 

「毎年この時期は受けてるんですが、どうも苦手で......」

 

「(二乃が来て早々に隠れたのはそういうことか)そんなに怖いものか?」

 

「だって腕に針を刺すんですよ!?怖いに決まってます!」

 

戒斗は毎年受けてるなら行けよと言いたくなったが、震える五月を見て言う気が失せてしまった。病院でするなら安全ではないのかという当たり前な質問は、五月の子供のような理由で跳ね返された。

 

「血が出るんですもん......」

 

「お前......それを毎年言ってるのか?」

 

「え?当たり前じゃないですか」

 

この日初めて、戒斗は五つ子に対して苦労を感じた。一人で行けと言ってもそ聞き入れられることなく、戒斗は腕を掴まれて付き添いに連れて行かれそうになった。

 

「......やっぱり怖いです」

 

「どっちなんだ」

 

「だってだって......!」

 

「ここで言い訳を聞いても仕方ない。ひとまずは行くしかないな。刺されると言っても、抗体を投与するためだろ?」

 

当然のことを言う戒斗だが、五月は何としてでも行くのを阻止したいらしく、譲らない。

 

「だから怖いんです!あんな大きいモノが中に入れられるんですよ!?」

 

「大丈夫だ。そこまで大きいわけじゃない。一番奥まで入れるわけでもないだろう?先だけ入れて出して終わりじゃないのか」

 

「痛いんです!いつもズブズブ入れられて適当なタイミングで出されて!抜いた後垂れてくるんですよ!?」

 

「拭けば大丈夫だろ。というか、さっきから怖がってるが、お前は行きたいのか?行きたくないのか?」

 

「行かなきゃダメなんですよ!一人で行くのは嫌です!一緒に行きましょう!」

 

「それなら早く言え」

 

二人が予防接種に向かおうとした時、ドアの後ろから騒ぎ声が聞こえる。誰かは分かりきっていたので、あえてスルーした。

 

「か、戒斗くん!五月ちゃんとそういうことするのはダメだと思うな!」

 

「あ、あんたは獣よ!女子高生に飢えた猛獣だわ!」

 

「戒斗、五月、ここ病院だから。するなら家で」

 

「はわわ、末っ子の五月が一番早かったなんて......!」

 

慌てる四人にどんな勘違いをされているかは理解できなかったので、とりあえず予防接種に行かせた。

 

「......どうにも、思い出せんな」

 

「か、戒斗さん!手握っててくださいよ!」

 

「わかったから動くな」

 

「べ、別にあんたの手なんて必要ないわよ!」

 

戒斗は五月と二乃の手を握る。二人は手と言いながら指を握っている上、全力で握るものだから戒斗は指が抜けそうになっていた。

 

「せめて手首にしろ。折れる」

 

その言葉は耳に入らず、二人は針を刺す時間が近づくと共に掴む力を強めており、一度力のあまり戒斗は指を引っこ抜いた。

 

「ちょ、ダメですっ!」

 

「か、戒斗!」

 

解放されたと思いきや、二人はとてつもない早さで腕を掴んだ。それこそ抜け出せなくなるほど強く。

 

「おい......少し力を......!」

 

そして針が刺された時、二人のパワーは限界を超え、戒斗の腕はかなり本気で折れそうになった。

 

「はーい、終わりましたよー」

 

「......大したことありませんでしたね!」

 

「ふ、ふん!余裕よ!」

 

口では余裕感を出していたが、二人は未だに戒斗の腕を掴んで震えていた。もはや掴むというより抱き締めていた。

 

「なら手を離せ。これ以上は腕がもげる」

 

「嫌です!まだ痛いんですもん!」

 

離せと言ったにも関わらず二人は力を強めた。

 

「俺の腕を掴んでいるからといって痛みは引かんぞ」

 

「少し安心感あるから......ダメ?」

 

弱ってしまった二乃を見て、断るに断れなくなってしまった。

 

「(なんだかんだ優しいんだよねー。昔から)」

 

戒斗の甘い部分を見て、一花はつい笑顔になった。

 

 

 

 

 

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