「さて戒斗、お前に同じ髪型をしたこいつらが見分けられるか!?ちなみに俺はもう分かるぞ!教えて貰ったがな!」
「教えられたならお前が見分けられたことにはならないんじゃないのか?」
時は少し戻り、戒斗は急に呼び出されたので中野家に向かってリビングに入ってみると、「髪を括った五人の前で唸る風太郎」という謎に謎を重ねた状況を見て思考が停止した。
「......用件はそれか?」
すぐに頭を働かせたが理解出来ず風太郎に説明を求める。
「いや、勉強だ。実はかくかくしかじかでな」
聞くところによると、家に入った時バスタオルを巻いた誰かに会い、その誰かは0点の答案を持っていたらしい。それも全教科。ご丁寧に名前を破って。
「あとは変態と罵ってくれって言ったら二乃に精神を抉られたな」
「その経緯は聞かないでおく」
風太郎の新しい目覚めを祝福すると同時に、応援すべきでは無いのではと思い始めた。深く考えないようにし、話題を戻した。
「四葉曰く、愛さえあれば自然とわかるんだと」
「あいつは野生の勘というやつじゃないのか」
「そうだと思いたい。まあ、これは母親が言ってたらしいけどな」
中野母の理論を聞いて二人は呆れた。
「ところで、解答を書いた上で0点とはどうすれば取れるんだ」
「まったく、戒斗を見習ってほしいぜ......まあお前に関しては自主勉だが」
「とりあえず、犯人を捜すぞ」
そして犯人を突き止めようと特徴を聞いたが、タオルを頭に巻いていては顔が同じなのでわからず、戒斗に頼むこととなったらしい。余談ではあるが風太郎は見事に全員間違えた。
「同じ顔に見えるな」
「だろ!?」
「......が、一応は全員見つけた」
「何!?」
風太郎は一気に二人や三人どころではない五人抜きをした戒斗の目に恐ろしさ感じた。だが、戒斗はその場限りの手段を使って見つけただけに過ぎなかった。
「買っていて幸運だったな」
「何だそれ?」
戒斗が今手に持っている袋の中には、食べ物が入っている。
「この袋にさっきから視線を向けている奴がいる。つまり、お前が五月だ」
適当な理由に聞こえるが、五月の食に対する執念を知っている身だからこそ確信が持てていた。
「悔しいですが、正解です......」
「なるほど、食欲に負けるのは五月......と」
何故か悔しがる五月。戒斗は袋から肉まんを出して一つ渡した。すると玩具を与えられた子供のようにはしゃぎ、肉まんを美味しそうに食べ始めた。風太郎は自分も見分けられるようになる為、熱心にメモをとる。
「そして短髪の二人に絞ったとして、そっちの”428”という数字。これは四葉と読める。そうなれば残ったお前が一花というわけだ」
「おおー、正解だよ」
「駆紋さんすごいです!やっぱ愛があるんですね!」
「あとはあそこの二人だが......」
「無視ですか!?」
風太郎はメモ帳に「一花と四葉は短髪」「428は四葉」と既に手遅れなメモをしていた。戒斗は二乃と三玖の二人の顔をよく観察する。
「お前が二乃か」
「そうよ!普通わかるでしょ!」
「お前は顔が特徴的だからな」
戒斗の発言にぴしりと固まる二乃。特徴的というのは、戒斗は見分けやすいという意味を込めて言ったつもりだが、二乃は不細工と言われたと取ってしまった。
「そう何度も食らうわけないだろう」
「二乃はうるさい顔だからしかたない」
「あんたは黙ってなさい薄い顔!」
二乃の発言に三玖はムッとした様子を見せた。
「薄いって何」
「うるさいこそ何よ!」
「おい、落ち着け」
喧嘩を始める二人を止め、飛んでくる二乃の張り手を受け止める。もう片方の手で拳を繰り出されるが、的確な距離を保ち当たらないようにした。
「何か気を損ねる発言をしたか?」
「あんたさっきの特徴的ってやつ、不細工って意味込めたでしょ!」
「込めてないが」
空気が変わる。
「えっ......」
戸惑いながら発言を理解し、自分の被害妄想だったと悟った二乃は恥ずかしさで戒斗から離れた。
「すまない、言葉足らずだったな」
「......ごめん」
急に大人しくなってしまった二乃を見て、戒斗も調子が狂ってしまい、対応に困った。
「なあ四葉。二乃の奴、急に静かになったな」
「フータロー、私三玖だよ」
「えっ」
「さっきメモしたじゃん。髪の毛短くないでしょ」
残った一人を当てるという正解率100%の選択を外し、風太郎は露骨に話を変えて「三玖は寝ぼけてる」とメモをとった。
「い、いやー、その髪型似合ってるな!」
「......今回は許すけど、次は切腹だよ」
「すみませんでした......ハッ!忘れてた!0点の犯人は誰だ!」
三玖はさりげなく離れ、五人共視線を逸らして疑われないようにした。このままでは絶対に吐かないと思った風太郎は強引に小テストという手段をとった。
「私は分からない自信があります!」
「これできるの一番遅かった奴が犯人認定するからなー」
そう言い終わった時には、五つ子達は小テストに取り組んでいた。
「(追い詰められたね、フータロー君。あの短時間で髪を乾かせるのは私だけ。ちょっと考えればわかるはずだよ。戒斗くんも気づかないなんて、ダメダメだなー)」
着々と時間が進んでいく内に、一花は小テストの理由に気づいた。これは採点の時に筆跡で犯人を突き止めようとしているということに。
「(危ない危ない。しっかり変えとかないとねー)」
ペンを置く音が聞こえた。
「一番乗りー。はい戒斗くん」
「いや丸つけは俺が───」
「いーからいーから」
一花は風太郎の思惑に気づき、筆跡は変えたが念押しで筆跡を覚えていなさそうな戒斗に採点してもらうことで、この場を乗り切ろうとしていた。
「(ふっふっふ。君らの敗因は、女の子をちゃんと見ないとこだよ)」
内心ほくそ笑む一花。その顔は勝利を確信していた。
そして戒斗が答案に目を通していくと、一つの特徴に気づく。
「筆記体......か」
「そっちの方がかっこよくない?」
それを聞いて風太郎は一花が犯人であると断定した。
何故なら、犯人の解答欄にもアルファベットが筆記体で書かれていたから。
「さすがの俺もお前たちの字くらいはわかる」
「う、嘘ぉ......」
顔では判別できないが、文字は嫌という程見ている風太郎からすれば、見分けるのは容易かった。一花も戒斗の何気ない一言が風太郎の推理を加速させるとは思っておらず、崩れ落ちた。
「やられた〜っ!」
「ふははは!造作もないわ!」
風太郎は魔王のような笑い声を出しながらしてやったり顔をした。犯人を見つけてスッキリした頃、他の四人も答案を見せに来た。
「あのー、私達も一応終わりましたが」
「ああ、ひとまず採点を......ん?」
「どうした」
「まさかな......」
四人の答案をチラと見た時、風太郎はとんでもない事に気づいてしまった。
二乃の「門構え」
三玖の「4」
四葉の送り仮名。
そして五月の「そ」
全てそれぞれの教科の答案用紙にある特徴だった。
「......いや、お前ら全員犯人じゃねーか!!」
「バレた」
なんと、各教科一人ずつ0点を取っていた。一人ではなく五人全員という衝撃の事実に、風太郎は思わず引いてしまった。
「何してんのよ一花。こいつが来る前に隠す約束でしょ」
「あはは、ごめんね」
「俺が入院した途端これか......」
そして平然と隠蔽しようとしていることを目の前で話されてショックを受け、涙を流した。ここで五月がこそりと話しかける。
「上杉君。今日あなたが私達を顔で判別しようとしたのは、昨日話してくれた女の子が私たちの誰かだと思ったからなんですね」
「......ああ。だが、これ以上考えるのも面倒だ。手早く済ませよう」
徐に咳払いをして視線を集める。
「この中で昔俺と戒斗に会ったことあるって人ー?」
「なになに?」
「急にどうしたの?」
「意味わかんないんだけど」
誰も心当たりがある様子はなく、風太郎の質問の意味を理解できていなかった。
風太郎自身も五人の中の誰かがあの少女だとは思っていなかった。
「......だよな。お前らの誰かがあの子のはずないよな。俺の予想では、今あの子は知的な美女になっているはずだ。お前らみたいに馬鹿なはずがねぇ」
「ば、馬鹿とはなんですか!」
「間違ってねーだろ五月。よくも0点のテストを隠してたな。今日はみっちり復習だ」
慌てて反論する五月の肩を掴む。
「......もしかしてわざと間違えてる?」
だが、掴んだ肩は五月ではなく三玖のもので、二度も間違えられた三玖は機嫌を悪くしてそっぽを向いた。
「フータローなんてもう知らない」
「す、すまん!」
「あはは、まずは上杉さんが勉強しないといけませんね」
風太郎は、とりあえず今は五つ子を見分けるのは諦めようと思った。
それからひたすら三玖に謝罪を続けていた。
11月23日、一花は戒斗にメールを送っていた。
「今日は休日だし......付き合ってくれるかな?」
『明日休日だけど一緒に出かけない?』
『用事があるから断る』
緊張しながらもメールを送ったが、数秒後の返信で断られた一花は布団の中で撃沈し、大きくため息を吐いた。
そして五月も休日を共に過ごそうと誘ったが、『断る』とだけ送られ、一花と同じように撃沈していた。
戒斗の休日の過ごし方は、インベスの捜索、クラックの発見だが、この日だけは別の用事があった。
「コーヒー、いるかい?」
「いるわけないだろう」
「ふ、それもそうか」
戒斗は凌馬の研究所で、何故か検査を受けていた。
「......ふむ、特に目立った外傷はないし、異常はないね」
「何故急にこんなことを......」
「君は戦闘ばかりしているだろう?体に負担をかけ過ぎていては、万が一ということもある」
戒斗はどれだけ傷を負おうが、構わず戦闘を続行しようとする。それは彼自身の信念故の行動だが、凌馬としてはその姿勢はあまり頂けなかった。
「君の体だ。どうしようと勝手だが......見過ごせない程君は連続で戦っている」
「目的のためにすべきことはする......それが俺のやり方だ」
「それを聞くと、今からする報告をしたくなくなるんだがね」
凌馬は束になった紙を一目見て、誤魔化すようにコーヒーのカップに口をつけた。戒斗はそれを見て、朗報ではないことを察する。市民で侵食被害者が出たのかと想像してしまい、背中を冷たい汗が伝う。
「その報告とはなんだ」
「......これを伝えるにあたって、一つだけ言わせてくれ。危険を感じれば、すぐに退くんだ」
普段は飄々とした様子からは想像もつかないほど真剣な凌馬を見て、戒斗は仕方ないと了承した。
そして、その報告は度肝を抜く程度では済まなかった。
「ヘルヘイムの森で、新たな発見があったんだ。これは探索による成果だが───
───知性を備えたインベスがいる」
知性を備えたインベス、それは他の初級や中級インベスとは比にならない戦闘力を誇り、自らの武器を持ち、知能、言語力共に優れた「オーバーロードインベス」に他ならなかった。
「姿は分からないが、確実にいるよ」
「......そうか」
既視感を感じながらも、その心に不思議と動揺はなかった。
「おや、驚かないんだね」
「反応を示したところで奴らが消える訳では無い」
「確かにそうだね......それで、どうする?」
その質問に、戒斗は当然だと迷いなく答えた。
「奴らはこのまま泳がせておく。但し、地球や人間に被害を与えるようならば、その時は......」
「......仕方ない。私もあまり時間は作れないが、いざという時はやらせてもらうよ」
人知れず二人の男は、迫り来る脅威との戦いに向けて準備を進めていた。
戒斗が帰った後も、凌馬はカタカタとパソコンを打ち続けていた。
「......彼一人では全てを自分で背負うだろう......奴らにも言っておかなくては」
場所は変わりヘルヘイムの森のある所にある、堅い木と丈夫な植物を活かして作られた家では、家主の戒斗が横になっていた。
その頭の中は、オーバーロードの件で一杯だった。
来るのならば前の世界でいたものだろうと考え、攻略法を練っていく。
倒すだけなら可能かもしれないが、被害を及ぼさずにとなると難しくなる。
「泳がせるとは言ったが......被害が出てからでは遅い......どうしたものか......」
考える程路に迷っていく。何もしていない相手を倒すのは戒斗のやり方に反しており、一方的に攻撃を仕掛けることは蹂躙と大差ない、虐げているのと同じだと考えていた。
「......何はともあれ、今はクラックの閉鎖に務めるしかないな」
戒斗はそう結論づけ、無理やり意識をブラックアウトさせた。