上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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共食い

飛び出してきたのは三体で、ともにコウモリインベスの変種体。

右腕の先から伸びた翼状の刃を主な武器とし、飛行しながら相手を斬りつける戦法を取るインベスで、通常のコウモリインベスよりも戦闘能力は高く、アーマードライダーといえど油断はできない相手である。

 

「(妙だな......動きを見せない......)」

 

その内のリーダーのようにも見える一体は、バロンの姿を見て何かを感じ、手を横に広げて威嚇する。

 

「キ────────────ッ!!」

 

「な、何?この音......うるさっ......」

 

「なるほど、怪音波か。だが、俺には効かん」

 

突然の怪音波攻撃に、二乃はつい耳を塞いだ。

だがバロンに異常はなく、その隙を狙ってバナスピアーを投擲して一体を撃破しようとする。

 

「ッ!」

 

だが、バロンはバナスピアーを投げなかった。

否、目の前の光景を見て、投げることができなかった。

その光景は、どのインベスにも見られなかった異常なものだった。

 

「何だ、こいつは......」

 

グジュ、ジュルッ、ガブッ、グチュ、ブチ、と肉を貪る音だけがその場で響き渡っている。夜の闇に紛れながらも、インベスが何をしているかは容易に想像がついた。

 

「ひっ、な、仲間を......食べて......」

 

コウモリインベスは、怪音波攻撃が効かないバロンを見て自らを強化すべくもう一体のコウモリインベスを食してその力を糧として取り込んでいた。

 

「(たしかに、インベスはヘルヘイムの果実によって変異した存在......辻褄が合わなくもないが......まずいな。二乃を守りながら戦えるか......)」

 

捕食、それも怪物同士の共食いというおぞましいものを見て、涙を浮かべながらバロンの後ろで震える二乃。

バロンがそんな彼女をどう庇いながら戦おうかと考えていると、強化されたコウモリインベスは手を横に広げた。

 

「二乃!」

 

「え......きゃあっ!」

 

それを見たバロンは咄嗟に二乃を抱き締め、耳を塞ぐ。そして怪音波の衝撃が飛ばぬようコウモリインベスに背を向ける形で二乃を守った。二乃も絶対に離れんとバロンの体を掴んでいた。

 

「キィ───────────────ッ!!!」

 

そして、コウモリインベスは先程よりも更に長く、高く、不快な怪音波攻撃を繰り出した。常人の聴力では耳が持たない域に達しているであろうその音は、木々を揺らし、公園の遊具にヒビを入れた。

 

「ぐ......先程とは比にならん......!」

 

空を飛んでいた鳥や虫も、その音を聴いて地面に落ちていく。

二乃に聴かせれば間違いなく鼓膜が破れるため、バロンはあとどれだけ続くのかと少し焦っていた。

 

「......止んだか」

 

攻撃が止むと、虫や鳥はフラフラと飛び立っていった。

恐らく、先程の攻撃は脳にダメージを与えるものだろうとバロンは予想した。

 

「......となれば二乃は......よし、生きているな」

 

そして攻撃が止んだ後、バロンはまだ痺れている体を無理やり動かし、二乃の安否を確認する。

胸に手を当てると心臓はしっかり動いており、しばらくすると目を覚ました。そしてバロンの手の位置を見て青筋を浮かべる。

 

「......あんた、どこ触ってんの」

 

「心音を確認していただけだ。これくらいは目を瞑れ」

 

「......他の男なら殺してたわ」

 

先程まで震えていた女はどこに行ったのだとバロンは心の中で愚痴をこぼした。

 

「歩けるか?」

 

「......ごめん、結構クラクラしてる」

 

「ともかく、奴の射程圏外へ行かなければ......」

 

幸運にも、コウモリインベスは怪音波攻撃で少し疲労を感じていたので、二乃を避難させるだけの時間はあった。

二乃を横抱きして安全な場所を探しながら、バロンは先程の攻撃に脅威を感じた。

 

「まさか音だけではなく、弛緩させるとはな......」

 

先程の共食いによって種類は同じでも異なる個体の遺伝子が混ざったか、未だ類を見ないケースでの突然変異か、目の前のコウモリインベスは姿形を変えることなく新能力を会得していた。

 

「......二乃、体に異常はあるか」

 

「大丈夫、問題ないわ......」

 

頭痛に苦しみながらも、二乃は何とか平静を保っていた。

 

「......避難はさせるが、これ以上は命の保証は出来ん。お前は体が回復したらすぐに離れろ」

 

「嫌」

 

「おい」

 

「だって、あんたの傍が一番安全でしょ?バロン様なら、私のことを守ってくれるはずよ」

 

バロンなら大丈夫だと、二乃は微塵も不安を感じる様子がない。逆に言えば信頼されている。バロンは謎の信頼を疑問に思いながらも、二乃を階段にもたれかけさせた。

 

「間違っても近づくなよ」

 

「大丈夫よ。自分から死ににいくような真似はしないわ......あと、一つ言わせて」

 

「何だ」

 

「負けないでね」

 

「当たり前だ」

 

そう言い残してバロンはコウモリインベスの元へ向かった。

向かってくる相手の動きを冷静に観察し、飛行するタイミングを見極める。インベスも様子を見ているのかジリジリと足を進め、一歩、また一歩と確実に距離を詰めてくる。

バロンはすかさずバナスピアーを構え、迎え撃つ準備をする。

 

「(強化されたからといって調子に乗って突っ込むことはしない......なるほど、ある程度戦いについて理解しているらしいな)」

 

互いに攻めるタイミングを計っていた。

どちらかが迫れば、どちらかは退く。

どちらかが得物を動かせば、どちらかはその隙を狙って攻撃に踏み込もうとする。

先にダメージを受けない為にも、攻撃が届かないギリギリの間合いを保つ二人。

緊迫した空気がその場を支配していた。

 

「さて、どう来る......?」

 

「───ギャッ!」

 

そしてしばらくの間不動でいると、インベスの翼が僅かに動いた。

それを見たバロンは攻撃の道を予測し、避けた上でバナスピアーで攻撃しようと考えた時には、その刃が眼前に迫っていた。

 

「ぐ......っ!」

 

幸いインベスの攻撃路は予測と一致しており、辛うじて受け止めることができた。刃と槍が激しくぶつかり、火花が散る。その後遅れてが鋭い衝撃音が聞こえたことで、いかに目の前のインベスの飛行速度が凄まじかったかを悟る。

 

「この速度......今までのインベスとはそもそもの膂力が.....!チッ!」

 

一度攻撃を弾いてインベスから離れ、バナスピアーを構え直す。

 

「身体能力もここまで強化されるのか......厄介だな」

 

すぐ攻撃に移れるよう姿勢を低くし、先程よりも更に集中してインベスの動きを見る。

コウモリインベスも警戒しているのか、バロンの動きをじっと見つめている。

 

「このままではジリ貧だな......」

 

バロンは無駄に集中力を使うだけだと思い、防御を捨てて攻撃に移ろうと足に力を込める。

インベスを見れば、同じようにバロンに向けた次の攻撃に移ろうとしていた。双方ともに、互いに次の一撃で勝敗が決まると理解するのにそう時間はかからなかった。

 

「......これしかないな」

 

バロンはバナスピアーをコウモリインベスの顔目掛けて。

コウモリインベスは鋭い刃をバロンの首目掛けて。

互いに互いを狩るため、最後の一撃に全てを賭ける。

 

 

 

 

 

───空気が、揺れた。

 

 

 

 

 

「ハアアアアアッ!!!!!」

 

「ギャアアアアッ!!!!!」

 

《カモンッ!バナナ・スカッシュ!!》

 

バロンは相手に向けて充分な勢いをつけ、倒れ込むようにスピアビクトリーを放った。

だが、コウモリインベスの速度、斬撃の威力は凄まじく、スピアビクトリーで生み出されたバナナを一刀両断した。

 

「ギャギャギャッ!!」

 

コウモリインベスは目の前の騎士が万事休すであると確信し、最後の一撃で確実に倒すため、怪音波攻撃でバロンを弛緩させて動きを止めた上で刃を突き刺そうとする。

 

「予想通りだ」

 

その時、バロンの姿が消えた。

 

「まんまと騙されたな......ハアッ!!」

 

「ギ......ッ!?」

 

コウモリインベスが声のした方に目を向けた時には、バナスピアーが心臓部を穿っていた。

 

「貴様の能力......強力ではあるが、利用できるものだ」

 

バロンは、目の前のインベスの調子に乗らない性格から、とどめを刺す際には動きを止めてくるだろうと確信していた。

弛緩させるということは、食らえば緩んだ体が動きを止め、何も出来ず落ちるようになること。

 

「その勢いは、お前に姿を消したと思わせるには充分だった」

 

バロンが勢いをつけながら倒れ込むようにしてスピアビクトリーを放ったのは、弛緩からの落下速度を速めるためのもの。

 

「最後の一撃に全てを賭けると思ったか?」

 

あのスピアビクトリーはブラフで、最後の一撃(偽)として使った。

あの一撃が顔を目掛けて放たれたからこそ、食らうのではなく捌くために一刀両断する一瞬の隙を作れたからこそ、消えたと錯覚させる”時間”を作ることができた。

 

「もし貴様があれを食らって耐えていたなら、俺はやられていただろうな」

 

そして本命は、バナスピアーでの心臓部への一撃。

倒れる際に体の向きを変え、バナスピアーをより心臓に近づけ、思い切り突き刺した。

 

「......賭けではあった。が、貴様の性格ならそうするだろうと、少なからず確信があった」

 

心臓部に大きな穴を開けられながらも、未だ戦意は衰えることなく、崩壊しつつある体でバロンに立ち向かっていく。

バロンは、カッティングブレードを二回倒した。

 

《カモンッ!バナナ・オーレ!!》

 

「ハアアアアアアッ!!!!!!」

 

穂先から形成されたバナナのエネルギーは、コウモリインベスの体を飲み込み、中で爆発させた。

そしてそのエネルギーとともに、コウモリインベスは消えていった。

 

「......見事だったぞ、インベス」

 

戦いに静かな決着が着き、バロンは変身を解除した。

 

「さて、二乃は......」

 

避難させた場所に目を向けると、そこに二乃の姿はなかった。

それを理解すると同時に、後ろに気配を感じた。

ゆっくりと体を動かして目を向ければ、コウモリインベスが二乃を人質にとっていた。

 

「まさか、一体逃げていたとは......つまり、奴が食ったのは二体ではなく一体だけ......なるほど。貴様は残り物か」

 

「か、戒斗......」

 

死と隣り合わせになり、二乃は助けを求めた。戒斗は、二乃を安心させるように優しい表情で告げた。

 

「安心しろ。お前は目を瞑っていれば助かる」

 

「う、うん......」

 

再び変身しようとロックシードを持てば、コウモリインベスは二乃に刃を向けた。

それは変身すれば殺すという、無言の警告だった。

 

「なら俺からも警告してやる。次に二乃に傷をつけた時が、貴様の死に目だ、とな」

 

変身を解除したからといって、戒斗は臆することなくコウモリインベスに近づいていく。

 

「ギャッ!」

 

「痛っ......」

 

コウモリインベスは、二乃の首を締めながら戒斗に近づくなと威嚇する。威嚇とともに首を絞める力を強めたせいで二乃は苦しげな声を出した。その瞬間戒斗は、コウモリインベスの視界を反転させた。

 

「言っただろう、傷つけた時が死に目だと」

 

千切られたインベスの頭だけが宙を舞い、ドサリと地面に落ちて転がった。

そして、頭が飛んだことで腕の力が緩み、二乃が解放された。

戒斗は二乃を受け止め、胸に抱き寄せる。

 

「まだ、目を閉じていろ」

 

「......うん」

 

二乃にその景色を見せないようにして、倒れてくるコウモリインベスの心臓を貫手で貫いた。

腕を引き抜き、そのまま拳による一撃で体を爆散させた。

 

「もう大丈夫だ」

 

「......まだ、このままでいさせて」

 

返事を聞かず、二乃は恐怖から解放されたことに安堵して泣いた。

 

「怖かった......」

 

「安心しろ、奴らはもういない」

 

「痛かった......っ!」

 

「......ああ」

 

二乃の首からは血が出ていた。締める力が強すぎたために、指が少し刺さったのだ。

戒斗はしぶとく生きようとするコウモリインベスの頭を容赦なく踏み潰し、二乃に謝罪した。

 

「すまない、傷を負わせた」

 

「っ、苦しかった......!」

 

戒斗のコートを強く握り締め、二乃は嗚咽をもらしながら泣き続けた。

そんな二乃の頭を、戒斗は優しく撫で続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣き止んだ二乃は、戒斗からバロンのことを根掘り葉掘り聞いた。

何故何年も前に会ったのに姿が変わっていないのか、あの化け物はなんなのか。

 

「姿が変わっていないことに関しては、今は言えない。だが、あの化け物のことは話そう。あれはインベス。理由なき悪意......地球外生命体だ」

 

「いきなりぶっ飛んだわね」

 

「奴らはヘルヘイムの植物に侵食されてしまった世界の生命体が変異した姿だ。分からないなら深く考えなくていい」

 

「要するに危険ってことよね」

 

「ああ。だから無闇に戦おうとするな。見た目が弱そうだからといって、勝てる相手ではない」

 

色々な情報が頭の中でこんがらがり、二乃はあまり理解していなかった。だが、感じた殺気は間違いなく本物のそれであるということは、体が感じた。

 

「もう二度と会いたくないわね......首も痛いし。絆創膏貼って隠せるかしら」

 

二乃の首の傷はとても痛々しい。肉が抉れたりしているわけではないものの、針で刺されたようにも見えれば、内出血のようにも見える。

 

「痛みは自然的な治癒に任せるしかないとは思うが、傷を消すくらいのことはできるかもしれん」

 

「ほんと!?って、何を......」

 

「目を閉じろ」

 

「へ、あ、うん」

 

目を閉じた二乃の首に手を当て、戒斗は力を流す。すると傷口が黄色や緑色に光り、やがて二乃の首は元通りになった。

 

「終わったぞ」

 

「ん、ありがと。でもやっぱ痛いわね」

 

「あくまで外見を変えただけだ」

 

「それだけでも儲けものよね。さ、帰るわよ」

 

「ああ、送ろう」

 

二乃はすっかりいつもの調子を取り戻し、女王のように戒斗を侍らせていた。

 

 

 

 

 

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