上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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クルミ

早朝、戦極凌馬は戒斗から報告を聞いて狼狽えた。ヘルヘイムの果実だけでなく、インベスは共食いによって成長するのかと。自分が今まで知らなかった実例を聞き、科学者として目を光らせながら、同時に人類を守る者として危機であるとも認識していたから。

 

「恐らく、共食いによる強化はヘルヘイムの数倍ではきかないぞ」

 

「それにクラックの出現が活発になりつつあるとは......またここも沢芽市のようになってしまうのだろうか......」

 

「あの時貴様は逃げただろうが」

 

「だからこそ、今回は尽力するつもりさ。そうでなければ私は君にやられているしね」

 

凌馬が椅子に座って回りながら、重く息を吐いた。

そんな時、ふと時計が目に入る。

 

「君、学校は?」

 

「......まずいな」

 

インベスの件を最優先にしていたので、戒斗は完全に忘れきっていた。

脳内にカラスのアホー、アホー、という鳴き声が流れ、どっと冷や汗が流れる。

 

「とりあえず行きたまえ」

 

「そうさせてもらう」

 

研究所から飛び出し、用意も含めて全速力で学校へ駆け出した。

 

「......数倍ではきかない、か」

 

凌馬は、内心妙な不安を抱きつつも、何にも屈しない戒斗を見れば安心せずにはいられなかった。

 

そして件の戒斗はというと、学校にはギリギリ間に合った。

だが入り方に問題があり、指導室にて数分の説教をくらった。

 

「以後気をつけろよ」

 

「善処する」

 

「はぁ、まったく......」

 

職員は説教しつつも、それほど怒っているようには見えなかった。

戒斗が指導室を出た後も、腕を組んで仁王立ちしていたが、戒斗の入り方を思い出して少し笑った。

 

「まさか、あんな越え方をするとは」

 

戒斗が到着した時には、校門が閉まる直前だった。

そのまま走ったところで閉まって遅刻になるのを目に見えていたので、門をくぐらず隣の塀に足をかけ、そのまま飛んで敷地内に入った。

 

「駆紋戒斗......奴も含め、今年の二年は中々に面白い」

 

明らかにアウトな入り方をしたが、何故か教師の中で株が上がった戒斗だった。

そして教室では、退屈そうにしている一花がいた。

戒斗が隣に座れば、しっぽを振った犬のように寄ってきた。

 

「戒斗くん、おはよっ!」

 

「ああ」

 

「ふふっ、戒斗くんに会えて嬉しいなー♪」

 

そう言葉を交わしただけで、一花の機嫌は良くなり、教室の空気も更に明るくなった。一花のテンションが少しおかしくなった頃、ベストなタイミングで担任が入り、朝の自由時間が始まった。

 

「......ん?」

 

戒斗は視線を感じたので隣の一花の方を見ると、先程までの犬のような様子はどこへやら、戒斗の方に体を向けてじっと見つめていた。

 

「戒斗くんさ、二乃のこと......ありがとね」

 

「奴から聞いたのか」

 

「ううん、フータロー君から。請け負ってくれたって」

 

「なるほど」

 

「だから長女として言わせて。ありがとうって」

 

柄にもなく真面目な態度で礼を言われ、戒斗は変に違和感を抱いた。

今回の件はいつもの軽い様子で言えるようなことはなかったので、不安が続いていたが、風太郎から解決に近づいていると聞き、一花は功労者の二人に心から感謝していた。

 

「......そこまで言うなら、その礼は受け取ろう。だが、変に心配するな」

 

「でも家族だし......するよ」

 

「奴の件は俺に任せろ。五月にも上杉がついている。四葉の件もな。お前は安心して、次の試験に挑めばいい」

 

「......うん。でも、私もやれることはやるから」

 

一花に長女としての貫禄を感じて、戒斗は感心した。

いつの間にか朝の時間は終わり、いつも通りに授業が始まった。

放課後になり、二乃の様子を見に行こうと教室へ向かうも、二乃の友人から今日は休むらしいと知らされた。

 

「一体どこに......まぁいいだろう」

 

幸い明日は土日なのでその時に捜せばいいかと後回しにし、先程入った風太郎からのメールを見て陸上部の集合場所へ向かった。

到着すると、汗だくの風太郎が五月に押さえられているという意味不明な光景が、そこにはあった。

 

「かっ、戒斗さん!」

 

「お、おお、戒......斗!待って......た、ぜ!」

 

やたらといい声で話してはいるが、声も体もがガクガクと震えていた。何故かと思って辺りを見ると、陸上部の面々が走っていた。

 

「何故お前も走ってるんだ」

 

「お、俺の......覚悟の......強さを......見せようと、して......」

 

息も絶え絶えになりながらも、諦めず四葉を追いかけようとする風太郎を五月に預け、戒斗は陸上部を追おうとする。

 

「おい、もういないぞ」

 

「なんだと!?」

 

陸上部と四葉がどこにもいないのをその目で確認し、風太郎は地面に手をついて項垂れた。そしてすぐに立ち上がり、学校中探してでも見つけてやると意気込んで走り出そうとした。そしてピタリと止まり、深呼吸する。

 

「俺がすべきことは、自分のした行いや選択した結果に対し......家庭教師として、最後まで責任を果たすことだ......」

 

立ち上がった時、徐に右腕を目の前に持っていきながら命を懸けたような表情になる。

 

「上杉君......やるんですね!?今......!ここで!」

 

このままではまずいと思った戒斗は、変なノリを発揮する風太郎と五月を落ち着かせるため腕を掴む。

 

「離せ戒斗!勝負は今!ここで決める!」

 

血眼で進もうとする風太郎の手を離し、傾いた時にデコピンを食らわせた。額を押さえて蹲る風太郎だが、先程のノリは消えていた。

 

「離してください戒斗さん!そんなに強く握られると恥ずかしいです!」

 

無言で五月の手を離して風太郎に 大丈夫かと聞けば、よろめきながらも立ち上がり、大丈夫だと返された。

 

「とりあえず、今日は帰るか......」

 

「俺はこの休日の間に二乃を捜す。四葉の件は任せた」

 

「えっ、あいつホテル変えたのか?」

 

何も知らない風太郎は想定外の言葉に目を見開き、錆びたロボットのようにゆっくりと首を動かした。

 

「ああ。この間行ったらチェックアウトしたと言われた」

 

「くっ......それは戒斗に任せるしかないな......よし五月!俺たちは四葉の件に全力を注ぐぞ!」

 

「はい!!」

 

戒斗は本当に大丈夫だろうかと心に不安を残すが、二人は意気込んでいたのである程度安心はできた。

そして解散するかと思いきや、そのまま上杉家に連れていかれてもてなされた。

 

「少し前に来たが、またか」

 

「まぁまぁ戒斗さん!ご飯は皆で食べた方が良いでしょ?」

 

「らいはがいなければ、俺は間違いなく帰っていた」

 

「戒斗ってやっぱ、らいはに甘いよな」

 

「あれ?五月さんどうしたの?」

 

夕食を口に運びながら、五月は不機嫌そうにそっぽを向いていた。

 

「いえ、らいはちゃんに言われれば来るのに、私に言われても来ないのがおかしいだなんて思ってませんが!」

 

「思ってるんだね......」

 

「めんどくさい奴だな。戒斗、スルーしていいぞ」

 

「フン!」

 

それから五月は数分の間不機嫌だったが、戒斗が帰ろうとした時には名残惜しそうにしょぼくれていた。

 

「学校で会えるだろうが」

 

「むむむ......」

 

むくれる五月だが、戒斗が飯を奢るといえば喜んで見送った。

所詮は食欲の化物かと風太郎が鼻で笑い、五月とガンのつけ合いを始めたので戒斗は無視をし、上杉家を出た瞬間から二乃の捜索を開始した。

 

「......都合よく夜だ。これなら問題ない」

 

ダンデライナーを使い、二乃が使いそうなホテルを片っ端から探し出すことにした。夜の道を歩く人々からは、何かが浮いている程度にしか見えておらず、誰かが乗っている乗り物であるとは認識できなかった。

 

「ホテル......恐らくやたらと高いところだろうな」

 

上空まで上がり、高いホテルを優先的に探し、何とか二乃を見つけ出そうと試みる。

戒斗の試練は、まだ始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり中野家にて、四葉は歯を磨きながら風太郎に謝罪のメールを送ろうとしていた。文字は打ったが、送信に踏み込めず、そのままメールアプリを閉じた。

 

「送らないの?」

 

「うわぁっ!びっくりしたぁ......一花〜、心臓に悪いよ〜!」

 

「私も歯磨き〜」

 

「じ、じゃあうがいしよーっと」

 

「待って」

 

一花は見抜いていた。四葉がこの場から逃げようとしていることを。

 

「もう!まだ歯ブラシ咥えてただけで全然磨けてないじゃん。ほら貸して、やってあげる」

 

「うっ......」

 

「前はよくしてあげたじゃん。はいあーん」

 

「で、でも......もう子供じゃもごご......うえっ!に、苦〜......」

 

「私の歯磨き粉。これが大人の味なのだ。四葉にはまだ早かったかな?」

 

「よ、余裕のよっちゃんだよ!」

 

などと言いつつも、歯ブラシを口に入れられれば、渋い顔をしていた。

 

「ふふ。体だけ大きくなっても変わらないんだから。ほら、無理してるから口内炎できてるよ」

 

「わ、私無理なんて......」

 

「こーら、喋らない。どれだけ大きくなっても、四葉は妹なんだから......お姉ちゃんを頼ってくれないかな?」

 

一花は家族だからこそ、四葉が人のために無理をする性格であることを知っていた。皆の前で言えないことも、一対一で話せば正直に気持ちを吐き出してくれるだろうと思っていた。

 

「......私......部活、辞めちゃダメかな......」

 

「......辞めてもいいんだよ」

 

「や、やっぱだめだよ!みんなに迷惑かけちゃう!勉強とも両立できてるし、一花がお姉さんぶるから変なこと言っちゃった。同い年なのに」

 

「こんなパンツ穿いてるうちはまだまだお子様だよ」

 

洗濯機からお子様パンツを取り出せば、四葉は必死に隠そうとする。

 

「しまっといて!上杉さんが来た時は見せないでね!」

 

「はーい。......ちゃんと聞こえてた?」

 

携帯を取り出し、誰かと通話する一花。画面には「フータロー君」と名前があった。

 

『お子様パンツ』

 

「よかった。......明日、陸上部のとこに行こうと思う。君はどうする?」

 

『ハッ。分かってんだろ。行くに決まってる。四葉を解放してやるぞ』

 

「それが聞けてよかったよ」

 

通話を切り、一花は自分のできることをするべく、二乃の件を三玖に託した。

 

「戒斗くんって今どこにいるんだろ......電話出ないし......」

 

翌日、どこかのホテルにて。一人の女とホテルの事務員の男が話していた。

 

「わーすごーい!お兄さんありがと!」

 

「は、はいっ!もう鍵を忘れないように気をつけてくださいね」

 

「はーい」

 

女が扉を開くと、ソファで顔に美顔ローラーを当てる二乃の姿が。

 

「お邪魔します」

 

入ってきたのは、二乃の格好をした三玖だった。

 

「......私にプライバシーは無いのかしら」

 

「やっぱり戒斗はいないんだ」

 

「いるわけないでしょ」

 

そんな話をされている戒斗は、訳の分からない場所にいた。

 

「どこだここは......」

 

「......戒斗?お前、戒斗じゃねぇか!」

 

振り向くと、大量の荷物を抱えたジャックの姿が。

どうやら、チームのガレージに運ぶ物が色々あるらしい。

 

「それにしても久しぶりだなあ!こんなとこで何してんだ?」

 

「人捜しだ」

 

「まさかあの彼女さんか?」

 

その発言にあからさまに顔を引きつらせる戒斗。

ジャックはそんな様子を見て疑問を抱く。

 

「まだ言っているのかお前は......だが、探しているのはそいつだ」

 

「なるほどな。俺も一緒に捜そうか?」

 

「いや、大丈夫だ。そこまでさせるわけにもいかん。それに、そんな荷物を抱えていれば動き辛いだろう」

 

「まぁ、皆の分も色々買ってるからな」

 

「とりあえず貸せ」

 

ジャックは目を丸くしながらも、ハハッと笑みをこぼし、戒斗に荷物の半分を渡した。

 

「お前、やっぱ良い奴だな」

 

「ただの気紛れだ」

 

「そうか。そういえば、お前のおかげで俺達のダンスを見てくれる人が増えてな。皆楽しくやってるよ」

 

「それは何よりだ」

 

ジャック曰く、戒斗が踊っていた時の動画がSNSに上げられていたらしく、ジャック達のチームに対しての注目度が上がっていったとのこと。

 

「お前がいなかったら俺達は踊ることすらできなかったからな。本当に感謝してるよ、救世主様様だぜ。何か礼を───」

 

「......気持ちは受け取ろう。だが、俺は見返りを求めた訳では無い。そもそも、俺はチームに乱入した身だ。救世主でもなんでもない」

 

戒斗の言葉を聞いたジャックは、それ以上何も言わなかった。言ったところで戒斗は何も求めないと薄々察しがついていたから。

 

「それで、ガレージはどこだ?」

 

「こっからあんまり遠くねーんだけど、結構賑やかなんだよ。戒斗が来るなら、チームの奴らも大歓迎ってもんだぜ!」

 

「ハッ、遠慮する。お前のような熱血漢に絡まれてはたまらんからな」

 

「まあそういうなよ。でも、いつでも待ってるぜ」

 

勧誘を鼻であしらわれるも、ジャックは嫌な表情はせず、戒斗らしいなと返した。

 

「......なんか、アンタとは遠い昔から縁がある気がするんだよ」

 

ジャックとしては、何となく言ったつもりだったが、偶然にもその考えは戒斗と同じだった。

 

「馬鹿なことを......と言いたいが、俺もそんな気はしていた」

 

「ハハッ、だろ?......お、着いたぜ」

 

目の前に建っているのは、レンガで出来た倉庫のような建物。

入口付近に二階へ上がる赤い階段が設置されており、ジャックは階段を上って二階から中へ入った。

 

「随分と、懐かしい気分だ......」

 

戒斗がそう思った理由は、その建物の外見にあった。

その見た目は、チーム鎧武のガレージと瓜二つで、戒斗は一瞬、前の世界に帰ってきたと錯覚してしまうほどだった。

 

「ともかく、荷物を運ばなくてはな」

 

気を取り直して二階からガレージへ入って荷物を届けた。すると、ジャックを始めとするチームの面々は、戒斗の姿を見て楽しそうに笑った。

それぞれが戒斗に話しかけようとすると、ジャックは手を叩いて視線を集めた。

 

「皆、再会を喜びたいところだろうが、戒斗は今、人捜しをしてるから長くはいられないんだ。だからここでお別れだ。快く見送ろうぜ!」

 

「なんてこったい!」

 

「嘘だろオイ!」

 

荷物を届けに来ただけのはずが、体育会系のような空気になり、戒斗は戸惑った。そして去り際、戒斗はジャックからあるものを投げられた。

 

「なんだこれは ......クルミ?」

 

「それ食ってみな!超美味いから!生でもいけるし、殻も食えるんだぜ!」

 

「ああ、ありがたく貰うぞ。じゃあな」

 

「またいつか会おうぜーー!!」

 

ジャックは、チーム全員と共に戒斗との別れを惜しみ、今生の別れかのように盛大に送り出した。

そしてそれは戒斗が階段を下りた後も、

 

「まったく、大袈裟な奴らだ......」

 

振り返らずに手を振りながら、戒斗は貰ったクルミを口に放り込んだ。

カリッと小気味いい音が聞こえ、戒斗は心做しか笑っていた。

 

 

 

 

 

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