上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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本音

「で、あんた何しにきたの?何言われようと帰らないから!」

 

「お茶淹れるけど飲む?」

 

「私の部屋なんだけど!」

 

何だか二乃がカリカリしてる。お茶淹れてあげようと思ったんだけど、自分でやりたかったのかな?

 

「一昨日は戒斗。今日は三玖。少しは一人にさせなさいよ」

 

「戒斗来てたんだ。二人で何してたの?」

 

「えー何ー?気になっちゃう?どうしよっかなー、教えよっかなー」

 

「そう。話したくないならいいけど」

 

私はフータロー一筋だから。来てたのがフータローなら聞いてたかも。

 

「つまんないわね。大した話してないわ」

 

「ふーん」

 

......あれ?お湯が出ない。どうやるんだろ?

 

「えっと......こうかな?あ、熱っ」

 

「あーもう、鬱陶しい。私がやるわ。紅茶でいいわね」

 

「緑茶がいい」

 

「図々しい!」

 

用意してもらったけど、二乃は砂糖をいっぱい入れてる。

 

「そんなに入れると病気になる」

 

「私の勝手でしょ。その日の気分によってカスタマイズできるのが紅茶の強みよ」

 

「よくわかんない。甘そうだし」

 

絶対緑茶の方がいいよ。とは言えず、私は自分の緑茶を啜った。

ん、美味しい。

 

「そんなおばあちゃんみたいなお茶飲んでるあんたにはわからないわよ」

 

「この渋みがわからないなんてお子様」

 

「誰がお子様よ。......って馬鹿らし。こんな時にあんたとまで喧嘩してらんないわ」

 

二乃にしては珍しい大人の対応......ちょっと負けた気がする。

 

「これ飲んだら帰ってよね。そもそもなんで新しいホテルがバレたのかしら......」

 

「前のホテルに一度行ったんだ。でも、そこでホテルから飛び出す二乃を見た」

 

「尾けてきたのね......ガチのストーカーじゃない......」

 

「そう。だからもう一度聞きたいんだけど」

 

あの時の二乃の顔は、よく分からなかった。喜んでるのか、怒ってるのか、それとも悲しんでるのか。

 

「戒斗と何してたの?」

 

私がフータロー一筋だったとしても、これは聞かなきゃダメ。そんな気がした。

 

「......一昨日を一言で表すのなら、最悪。あいつ、絶対に許さないわ......」

 

「ど、どんな酷いことを......」

 

二乃にここまで言わせるなんて......戒斗って以外と悪い人なのかな。

最悪って、私じゃ想像もつかないな。

 

「聞いて驚きなさい!あいつ、私の運命の相手だったのよ!」

 

「そう......」

 

ん???

 

「えっ」

 

「変装して騙してたの!」

 

「あ、そう」

 

何だ、聞き間違いか。

 

「薄ーっ!!酷いんだから!もっと反応しなさいよ!」

 

「私たちがいつもしてることだし」

 

それくらいなら別にいいと思う。

 

「そう......だけど......あの時も......あの時も......全部、全部あいつだったなんて......許さない......許さないわ......」

 

変装して騙してたのがそんなに嫌だったのかな?二乃がおかしいだけだと思うけど、フータローや戒斗はそんなことじゃ怒らないような気がする。

 

「他に何もなかったの?」

 

「それだけよ!......それだけだわ」

 

「ほんとに?」

 

「......あと、五人でいて欲しいって言われたわ。それは戒斗と上杉の意思だって」

 

「戒斗がそんなことを......」

 

やっぱりフータローも、戒斗も、私たちのことを考えてくれてる。

 

「私の都合を聞いた上で。自分勝手よ」

 

「二乃はうちに戻りたくないの?」

 

「なんで戻んなきゃいけないの?いるだけでストレスが溜まるわ。昔と違って好き嫌いも変わっていって、すれ違いも増えた......バラバラの私たちがそこまでして一緒にいなきゃいけない?一緒にいる意味って何よ」

 

言いたいことを全部吐き出したように見えるけど、簡単な答えだと思う。

 

「家族だから、だけじゃ変?」

 

「......っ」

 

「二乃は私たちが変わったと思ってるんだろうけど、私から見たら二乃も十分変わってる」

 

「変わったって......何がよ」

 

「昔は紅茶飲まなかった」

 

いつの間に飲めるように......緑茶も美味しいのに。

 

「......いや、それだけ?」

 

「私たちは、一人20点の五分の一人前だから」

 

私は隅に置かれてる紙袋を指さした。

中には問題集が入ってる。

 

「問三が違う。正解は長篠の戦い」

 

「何?自分は勉強しましたって言いたいの?」

 

「元々好きだから。戦国武将」

 

「戦国武将って......あのおじさんが?」

 

「うん。これが私の20点。そして......」

 

私は紅茶を一気に飲み干した。

 

「やっぱ甘すぎる......」

 

「何やってんのよ」

 

頭痛くなってきた。

 

「でもこの味、二乃がいなければ知らなかった」

 

「!」

 

「確かに、昔は五人そっくりで諍いもなく平穏だった。でも、それじゃあ20点のままだよ。笑ったり、怒ったり、悲しんだり。一人一人違う経験をして、足りないところを補い合い、私達は一人前になろう」

 

まあ、こんな感じで言ったはいいものの、正直うちには二乃がいないと困る。

 

「因みに二乃がいないからうちの食事はめちゃくちゃ。栄養バランスボロボロ」

 

「そこは自分たちでなんとかしなさいよ!」

 

二乃に料理は全部振ってたのがここで祟った。

 

「......ふん。そのお茶よこしなさい」

 

二乃も緑茶の良さに気づくかな?

 

「苦っ。こんなの飲もうとは思わなかったわ。でも、これでハッキリしたわ。やっぱり紅茶の方が勝ってるって」

 

「紅茶だって元は苦い」

 

今二乃は全国の緑茶好きを敵に回した。

 

「こっちは気品ある苦味なのよ!きっと高級な葉から抽出されてるに違いないわ!」

 

「緑茶は深みのある苦味。こっちの方が良い葉を使ってる」

 

「じゃあ調べるわ!そこら辺の雑草を使ってても泣くんじゃないわよ」

 

「二乃こそ」

 

紅茶 緑茶 葉っぱで検索。

 

「紅茶も緑茶も同じ葉」

 

「発酵度合いの違い......」

 

私と二乃は顔を見合わせ、吹き出した。

なんだ、結局起源は同じだったんだ。

 

「ふふっ」

 

「ハハハハ!何それ!面白いわ!今度みんなに教えてあげ......」

 

二乃はふと、何かを決断した顔になった。

 

「過去を忘れて今を受け入れるべき......いい加減覚悟を決めるべきなのかもね」

 

二乃の手には、ハサミがあった。大きくて尖って、切れ味も凄そうなハサミが。

 

「三玖」

 

思わず体が跳ねる。ハサミ持ってこっち来るんだもん。

フータロー、骨は拾ってね。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「え?どうしたの三玖」

 

場所は変わり学校。風太郎と五月、一花が四葉と陸上部の合宿を止めるべく上から様子を見ていたところ、一花が自分の携帯に三玖からの着信が入ったので通話ボタンを押、開口一番に予想外なことを言われたので詳しい説明を求めた。

 

「助けてほしい?」

 

「何やってんだ......陸上部の奴らがもう合宿に出発しちまう......ったく、試験前だってのにとことん勉強を疎かにしやがって......」

 

「あなたのことなのでまた突撃するのかと......どうしましょう。直接お願いしにいきますか?」

 

風太郎は考える。どうにか四葉を連れ戻す策はないかと。

 

「......ごめん三玖。こっちも手が離せなくて」

 

そして頭の中の豆電球が光った。

 

「待て一花。丁度いい。そのまま三玖を連れてきてくれ」

 

「でも......」

 

「これは四葉のためでもある。急いでくれ」

 

「......わかった!待ってて!」

 

風太郎の自信に満ちた目を見て、一花は三玖の元へと急いだ。

五月は何が何だか理解しておらず、風太郎と一花を交互に見ていた。

 

「四葉が断れないならお前たちがやればいい......入れ替わり。得意技だろ」

 

「わ、私は少し苦手です......前に一花の真似をした時も、心臓バクバクで......」

 

その時のことを思い出し、若干死んだ目になる五月。迷惑をかけたことの罪悪感は未だに消えないらしい。

 

「だから三玖を呼んだんだ。到着したらお前の着てるジャージを着てもらおう。となると俺が本物の四葉を連れ出して......ってヤバい!あいつら出発しやがった!」

 

二人は走り、陸上部を追いかける。

 

「駅に着く前にどうにかしなければ......やりたくもない部活で貴重な土日を潰されてたまるかっ!」

 

「しかし、どうするんですか?」

 

風太郎は五月を見る。

その顔は任せろとでもいいたげで、五月は何故か嫌な予感がしてならなかった。

 

「......あはは......」

 

そした気づかれない程度の距離まで近づき、尾行する風太郎。隣には四葉と同じリボンをつけ、不安しかない様子の五月がいた。

それを見て、風太郎の中でも不安が大きくなっていった。

 

「(なんか、不安しかねぇ......こんな時、戒斗がいりゃあ気持ちも楽なんだが......)」

 

自分で提案したにも関わらず、風太郎はとぼとぼと尾行を続けていた。

そんな中一花は、三玖が電話で助けを求めてきた理由を考えていた。

 

「なんで急にあんなことを......」

 

 

『一花、大変。二乃が......早くホテルに来て。もうだめかも......助けて......』

 

 

「何があったの......?三玖、二乃、無事でいて......」

 

少しの不安を募らせつつも、ホテルへ急いで走る。

角に曲がると、誰かにぶつかった。

 

「あ、すみません......って君......!」

 

そして風太郎と五月は、練習をしていた。

何の練習といえば、四葉のモノマネだった。

 

「一身上の都合により、退部を希望します」

 

「違う。もっとアホっぽく」

 

「ぶ、部活をっ、辞めさせていただきたく......」

 

「もっとアホっぽく」

 

アホアホと連呼する風太郎だが、近くに四葉がいれば間違いなくショックを受け、その場で馬鹿なやり取りが行われるだろう。

だが風太郎としても今この時は妥協を許せなかった。

 

「うぅ......無理です!こんな役目もう辞めたいです!」

 

「それだそれだ!その感じだ!五月、今のお前は四葉だ!少なくとも見た目は完璧だ!」

 

「うまくいくでしょうか......」

 

「作戦はこうだ。ひとまず俺が四葉を陸上部から引き剥がす。その後何食わぬ顔でお前が集団に戻り、退部しろ」

 

簡単に言うが、どのように引き剥がすのかと詳細を聞くと、風太郎は痴漢が出たと叫び始めた。そしてどこかへ走り去っていく。

痴漢というワードを聞き、四葉は犯人を追いかけようと陸上部から離れた。

 

「なんという捨て身な......!」

 

これにより、五月は作戦の全てを理解した。

風太郎は、自分を犠牲にしてでも四葉を連れ戻すつもりだと。

 

「今のお前は四葉だ......か。信じますよ、上杉君」

 

五月は深呼吸しながら自分は四葉だと暗示をかけ、陸上部の元へ走っていった。

 

「はぁ、はぁ......あはは、逃げられちゃいました......」

 

「もー、いきなり走り出したからびっくりしたよ。早くしないと予定の電車行っちゃうよ」

 

「すみません......私、合宿には行けません」

 

「え?急にどうしたの?」

 

「......あなた、何やってるの?」

 

部長が五月扮する四葉に話しかける。

彼女は四葉を本気で陸上部に誘おうとしているため、目がかなり危ない。

 

「わ、私、部活を辞めたいです......」

 

「違う違う。私が言いたいのは、なんで別人が中野さんのフリしてるの?」

 

「あれっ......」

 

何と、バレていた。

それと同時に、風太郎も捕まった。

 

「捕まえましたー!!」

 

「ぐえーッ」

 

二人は地面に倒れ込んだ。

四葉が上にのしかかったせいで、風太郎は若干腰を痛めた。

 

「ん?この匂い......」

 

「(さて、どうやって誤魔化すか......)四葉、重い......」

 

「う、上杉さん......どうして......どうして痴漢なんて......」

 

「なーんて嘘!お前をおびき寄せるための嘘でした〜!」

 

四葉は目を丸くして風太郎を見た。何故そんなことをしているのかが分からないから。

 

「え?私を?なんのためですか?」

 

「はぁ......五月が、お前の代わりに退部を申し込んでる」

 

それを聞いた四葉はぱっと離れ、急いで戻ろうとする。風太郎はなんとか説得を続け、五月の時間を稼ごうとする。

 

「おい!今戻ったらだめだ!」

 

「私はへっちゃらですから!」

 

「お人好しもいい加減にしろ!どっちも大事なのはわかるが優先順位があるだろ!お前が一番大切にしたいものはなんだ!」

 

「っ、でも......」

 

「......!隠れろ!」

 

四葉が何かを言いかけた時、風太郎は陸上部の方を見て四葉の口を塞いで陰に隠れた。

風太郎が気をとられている隙に振りほどこうとするも、抜け出せなかった。

 

「様子がおかしい......」

 

陸上部の部長が不穏な空気を出し、対する五月は慌てながら自分は四葉だと主張する。

 

「うん、似てるけど違うよ」

 

「(どうしてバレたのでしょう......)」

 

「(完璧なはずだ......!)」

 

「だって髪の長さが違うもん」

 

風太郎と五月は思わぬ盲点を突かれて確かに、と思いながら部長の鋭い観察眼に戦慄した。

 

「あの女、相当優れた観察眼を持ってるな......探偵の方が向いてるんじゃないか?」

 

「上杉さん、前もこんなことありましたって。もっと他人に興味を持ってください!」

 

追い詰められ、五月は何も言えずにいた。どうにか誤魔化すための言い訳を考えていると、部長はペラペラと自分の意見を述べていく。

 

「中野さんがそんなこと言うはずないもん。中野さんは五つ子って聞いたよ。多分あなたは姉妹の誰かだよね。なんでこんなことするの?」

 

「上杉さん、私のためにありがとうございます!でもすみません、行きます!」

 

「ねぇ、あなたは誰?なんで邪魔するの?中野さんはあんなにもやる気に満ち溢れていたのに」

 

それを見ていた四葉は、我慢できずに飛び出そうと風太郎から離れた。

だが四葉より早く、二人の元に辿り着いた者がいた。

 

「本当にそうか?」

 

「あなた......!」

 

その人物は五月についているリボンを取り、アホ毛を飛び出させ、部長の前に立ちはだかる。

 

「あ、あれ?なんでここにいるんですか!?」

 

「マジか、ナイスタイミングだぜ!」

 

風太郎は一筋の希望を持ち、その人物に託すことにした。

 

「君は?」

 

「駆紋戒斗。こいつらの家庭教師だ」

 

 

 

 

 

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