上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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お礼

それから数秒後、頭に大きなタンコブを乗せた風太郎と戒斗、拳から煙を出す二乃の姿があった。

 

「ねぇ、四葉」

 

「なに?」

 

「私は言われた通りやったけど、これでいいの?こんな手段取らなくても本音で話し合えば、彼女たちもわかってくれるわ」

 

「......二乃」

 

「あんたも変わりなさい。辛いけど、いいこともきっとあるわ」

 

二乃の顔は、スッキリしていた。戒斗は先程、目は味噌汁などと言ったが、四葉からすれば、二乃の目は宝石よりもさらに綺麗なものに見えた。

 

「......うん、行ってくる」

 

「付いてこうか?」

 

「ありがとう一花。......でも、一人で大丈夫だよ」

 

「......そっか」

 

その言葉には、安心感があった。一花は今の四葉なら問題ないと思い、心置きなく見送った。

そして二乃と五月である。

 

「あの......」

 

「おい二乃!こいつはな───」

 

「フータロー、期末試験の対策練ろ」

 

「戒斗くんも、こっちこっち」

 

風太郎は三玖と一花の考えを察し、戒斗と共に速やかに退散する。

 

「だが試験の心配ならしなくていい。俺にとっておきの秘策がある」

 

「結局やるのか、あれは」

 

「そりゃあな」

 

四人が退散した後、五月と二乃は向かい合ったまま互いに黙っていた。だが、その沈黙を破るのに時間はほとんどいらなかった。

 

「二乃、先日は......」

 

「待って、謝らないで。あんたは間違ってない。悪いのは私。ごめん」

 

「そんな、私も───」

 

「あんたが間違ってるとすれば、力加減だけだわ。凄く痛かった」

 

二乃の素直な謝罪を聞き、五月の目に涙が浮かぶ。

 

「二乃ぉ......そ、そうです。お詫びを兼ねてこれを渡そうと思ってたんです。この前、二乃が見たがってた映画の前売り券です」

 

タイトルは、「恋のサマーバケーション」

それを見た二乃は驚き、そして笑った。

 

「全く......何なのよ。思い通りにいかないんだから」

 

二乃が隠している手に握られているのは、「生命の起源〜知られざる神秘〜」の前売り券。

なんだかんだと、互いを思う姉妹愛が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中野家にて、土下座する四葉の姿が。

 

「この度はご迷惑をおかけしまして......」

 

「朝から大変だったねー」

 

「早朝だったのでご飯を食べ損ねてしまいました......」

 

風太郎が五月を睨みつける。食費の件が頭をよぎったらしく、戒斗に落ち着かせられていた。

 

「全ては私の不徳の致すところでして」

 

「帰りに買ってくればよかったかなー」

 

「でも今日はシェフがいる」

 

「誰がシェフよ」

 

四葉スルーは続いていた。

 

「大変申し訳なく......」

 

「その前に、おかえり」

 

一花が目を向けた先には、二乃と五月があと一歩で玄関に入るギリギリのラインにいた。

 

「早く入りなさい」

 

「お先にどうぞ」

 

「じゃあ同時ね。せーの」

 

双方動かず。

 

「なんで動かないのよ!」

 

「二乃こそ!」

 

「さっさと入れ」

 

 

「「わあっ!」」

 

 

遅れてきた戒斗に押され、中に入る二人。

 

「玄関先を塞ぐな」

 

「あんたの家じゃないでしょ!ってか、それに関しては五月が十割よ!」

 

「な、なんですって!?」

 

再び争いを始めそうな二人を見て、三玖と一花は久々の賑やかな光景を嬉しく思った。

 

「よーし、じゃあこのまま......」

 

「試験勉強だな」

 

三玖と一花の後ろには、他の選択肢を出す気など微塵もない風太郎が、凄まじい圧をかけていた。

 

「忘れてないだろうな。明後日から期末試験だ。文句ある奴いるか?」

 

「も、もちろんそう言おうとしてたよねぇ」

 

「もーみんな、ちゃんと聞いて......」

 

「あ?いつまでそんなこと気にしてんだ。早く入れ」

 

風太郎はどうにか謝罪しようとする四葉を強制的に家に入れ、さっさと上がらせる。

 

「じゃあ四葉が朝食当番」

 

「さっ、行こ!」

 

「......うんっ!」

 

全員気にしている様子もなく、四葉は拍子抜けしつつも、受け入れてくれる家族の温かさを感じ、目を潤ませた。

リビングでは、七人全員で大量のおにぎりを作り、朝食としていた。

食卓には五つ子が。ソファには風太郎が。

そしてキッチンには、六人分のデザートを作る戒斗がいた。

 

「それで四葉、陸上部とはどうなったの?」

 

「うん。あの後ちゃんとお話して、大会だけ協力してお別れすることになりました」

 

「大会も断っちまえばよかったのに」

 

ケッ、と風太郎は嫌悪感をあらわにして呟いた。

 

「一度お受けした以上、それはできません」

 

「あの部長、諦め悪そうですし」

 

「そういえばさ、さっきから聞こえるこの音何?」

 

奥からは、ドドドドドドドという音が途切れることなく聞こえていた。

 

「戒斗がフルーツとか切ってるんでしょ」

 

「スピード速すぎない?」

 

「まあ六人分だし」

 

「私は何人分でもいけます!」

 

キッチンから貴様は黙っていろと大声で怒鳴られ、五月は沈んだ。

 

「ていうか、戒斗くんが遅れてきたのって買い物してたからなんだね」

 

「......あと、陸上部の部長にすごい絡まれてた」

 

「え?」

 

「は?」

 

「もぐ?」

 

四葉の爆弾発言に、一花、二乃、五月の目が光る。

 

「四葉、その時のこと教えて?」

 

「い、一花、目が怖い......」

 

一花は普段ならば絶対にしないような暗い目で四葉に迫り、詳しい話を求める。

 

「あの女、まだ何かしてくるの?」

 

「いや、単純にスカウト」

 

四葉曰く、戒斗が四葉(偽)から逃げた際の速さがあれば、短距離でぶっちぎりの優勝が狙えるという話が出たらしく、部長は四葉に話を断られた後、戒斗に陸上部に来いとスカウトしていたという。

 

「出来たぞ」

 

そんなことを話していると、中野家のパティシエがフルーツを使った小さいながら色々な種類のタルトを持ってきた。

 

「わぁ美味しそう!」

 

「あんたやるわね......」

 

「むむ......悔しい」

 

「おぉ!美味しそうです!」

 

「一人何十個ですか?」

 

無言で五月の分の皿を取り上げ、風太郎に渡そうとする。

 

「わあああ!すみませんすみません!」

 

「それで戒斗、あんたあの陸上部の女に何されたの?」

 

「さっきこいつが言っていたことと同じだ。やたらと絡まれた」

 

そう言う戒斗の顔は、正に死んでいた。

 

「......ま、あんたは大丈夫そうね。四葉、また何か言われたら教えなさい。今度こそ教育してやるわ」

 

「ありがと二乃!でも今度は一人でやってみる!」

 

二乃が四葉の成長を感じている時、戒斗に悲報が訪れる。

 

「駆紋さん、その、言いにくいんですけど......」

 

「なんだ?」

 

「......部長があまりにも駆紋さんのことを言ってくるので、連絡先渡しちゃいました」

 

「何だと」

 

戒斗が急いで携帯の画面を見ると、二桁では済まない数の着信が来ていた。

 

「......これはあの女か......?」

 

「どれどれ......うっわ、メンヘラじゃん」

 

二乃はうげーと言いながら携帯を操作し、着信ボタンを押した。

 

「あははっ、頑張りなさい」

 

「貴様正気か?」

 

『もしもし?ようやく出てくれたんだね。しかもそっちから電話してくれるなんて』

 

「貴様も出るのが早いな」

 

押したのとほぼ同時に部長の声が聞こえ、戒斗も呆れた。

そして切ろうとすれば夜もかけると脅され、渋々通話をする。

 

『どう?君も陸上部に入らない?』

 

「生憎、暇じゃないんでな」

 

『でも、君の力があれば、大会で優勝するのなんて余裕だよ?下手したら全国優勝だっていけちゃうし』

 

「知らん。切るぞ」

 

『......ちぇ、まぁいいや。連絡先はあるし。また気が向いたら電話してね』

 

返答はせず通話終了ボタンを押し、連絡先を削除したところでまた四葉から貰うのは目に見えていたので、戒斗は携帯をゴミ箱に投げ込もうとしたが、風太郎に全力で止められた。

 

「待て待て待て!さすがに落ち着け!」

 

何とか冷静さを取り戻したが、携帯の持ち方は完全に汚物のそれだった。指二本の先で摘むように持つあれである。

 

「......これからどうすべきか」

 

完全な被害者を目の当たりにして、風太郎は心の中で手を合わせた。

強く生きてくれ、と。

 

「......さて、本題に移ろう」

 

食器を片付け、上に大量の紙の束を乗せた。

五人分の問題集である。

 

「とりあえず問題集は全員終わらせてるみたいだけど」

 

「私たちちゃんとレベルアップしてるのかな?」

 

「まぁ、元が村人レベルだからな。ようやくザコを倒せるようになったくらいか」

 

「それで期末試験を倒せるのでしょうか......?」

 

自信なさげな五月だが、風太郎とてそれは同じだった。

 

「この土日にレベル上げをするしかない。それに......」

 

「秘策があるって言ってたよね」

 

「よく覚えてたな。さすがだ三玖。とりあえずは、戒斗が戻ってくるまでは休憩だ」

 

「私手伝ってくるわ」

 

キッチンにて大量の食器を洗い続ける戒斗は、もはや執事と遜色なかった。

 

「......少しくらいやるわよ」

 

「助かる」

 

そこからしばらく二人は無言だった。二乃としては話しかけるつもりで手伝いに来たが、思いの外戒斗が黙々と作業をするものだったので話しかける隙を見失っていた。

 

「(何やってんの私!言うんでしょ!ありがとうって!しっかりしなさい中野二乃!)」

 

何とか自分を奮い立たせ、口を開く。

 

「......ねへっ」

 

「......どうした」

 

そして言葉を発しようとした時、緊張がぶり返してしまい、二乃はおかしな声を出してしまった。

 

「......今のは忘れて」

 

そして羞恥心からか、顔を押さえて震えていた。

 

「あと、一ついい?」

 

「......ああ」

 

「今回の件、姉妹達と仲直りができたのも、バロン様に出会えたのも、あんたのおかげ。ありがと」

 

「フッ、お望みの騎士はそこにはいなかったがな」

 

戒斗が隣を見ればその時のことを思い出しているのか、二乃は残念そうに気落ちしていた。

 

「......そうね。まぁでも......」

 

「?」

 

「悪くないわ」

 

自分が何年も想っていた相手がまさか同い年で、それも家庭教師だとは微塵も思わず、今こうして肩を並べて食器を洗っていることも、二乃には信じられなかった。

 

「あんたがバロン様っていうのは紛れもない事実。私にそれを変える力はないし、変えようとも思わない」

 

食器洗いを終え、タオルで手を拭きながら淡々と述べていく。

 

「あんたがバロン様じゃなくても、あんたに助けられたことはいっぱいあるわ。感謝してる。だから......」

 

戒斗との距離を詰めていく。

充分に接近したと思えば、戒斗の顔に手を添えた。

 

「これはお礼」

 

そしてつま先立ちになり───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戒斗の頬に、唇を当てた。

 

「......はい、終わり」

 

「試験勉強を再開するぞ」

 

「ええ。上等よ」

 

二人が特に緊張することもなくリビングへ戻ると、風太郎と四人が遊んでいた。中でも風太郎は、テンションが爆上がりしていた。

二人を見つけた途端、手を合わせて向かってくる。

 

「戒斗これやろーぜこれ!なぁなんて言うんだこれ!」

 

風太郎が言っているのは、親指を二本使うもので、「いっせせーの」の次に一人が任意の数字を言い、言った数字と上がっている指の本数が同じであれば勝ちという運試しのゲーム。

 

「構わんが、勉強は良いのか?」

 

「......ハッ!こんなことやってる場合じゃねぇ!おいお前ら!勉強するぞ!」

 

「あなた一番ノリノリだったじゃないですか」

 

「そりゃあ連勝すればテンション上がるだろ!......ああまた話が逸れた。ゴホン、さっき言った秘策だが......これは村人のお前らでもボスを倒すことのできるチートアイテム......」

 

風太郎が出したのは、答えが書かれた紙。

 

「カンニングペーパーだ!!」

 

「あ、あなたはそんなことしないと思ってたのに......」

 

「上杉さん......そんなことをして点数を取っても意味ないですよぉ......」

 

「じゃあもっと勉強するんだな!こんなもの使わなくてもいいように、最後の二日間でみっちり叩き込む!覚悟しろ!」

 

そして二乃の様子を窺う。

 

「......というように進めさせていただきますが......いかがでしょう?」

 

「何それ。今まで散々好き勝手やってたくせに」

 

「(さて、どうなる......?)」

 

「......やるわよ。よろしく」

 

この時、風太郎の心の中はガッツポーズで満たされた。

 

「始めるわよ。机片づけて」

 

風太郎と戒斗は、勉強を始める五つ子を見て以前のことを思い出した。

 

 

『全部間違えてました』

 

『頭いいって言ってたけどこんなもんなんだ』

 

『なんてお節介焼いてくれるの?』

 

『あなたからは絶対に教わりません』

 

『あんたなんて、この世から消えればいいのよ』

 

 

出会った当初、つい先日まで関係は険悪だった。

だが今はどうか。家庭教師の日でなくとも自主的に勉強へと取り組み、ついにはあの分厚い問題集まで終わらせて見せた。

 

「勉強してる時も、問題が解けると楽しそうな顔するようになったからな......」

 

五人が楽しそうに話しながら勉強する光景を見て感極まりそうな風太郎に、戒斗は無言でハンカチを渡した。

それを受け取り、目から出る雫を拭っていく。

 

「よかったね、フータロー、戒斗」

 

それを見た三玖は、嬉しそうに微笑んだ。

 

「......そうだな」

 

「まだ......ここからだ」

 

 

 

 

 

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