上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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もしも

男二人は家庭教師を退任した後、テスト終わりに上杉家で話をしていた。風太郎は大切なことを教えてやると戒斗に言われたが、その内容は創作の話としか思えなかった。

 

「だが、現物がある以上は信じるしかないよな......戒斗、屋上で言ってたことを詳しく聞かせてくれ。これについて教えてくれるんだろ?」

 

机には、黒い物体が置かれていた。隣にはオレンジの錠前。

戦極ドライバーとオレンジロックシードである。

 

「......このベルトと錠前は、自分自身を守るために開発されたものだ。そしてこのベルト、戦極ドライバーを装着せずにこのロックシードを解錠した場合、インベスが出てくる」

 

「インベス......ってあの時の怪物か。出てくるって危ないんじゃないか?」

 

「ああ。だが、使用方法を間違えない限り危険はない」

 

戒斗がオレンジロックシードを解錠すると、空間にクラックが出現し、中から上級インベスが飛び出してきた。

 

「なっ、戒斗!」

 

「落ち着け」

 

ベルトを構える風太郎がインベスを憎々しげに見る中、インベスは戒斗を見て襲いかかろうとする。

 

「危ねぇ!」

 

「こいつらは、ロックシードを持っている限りは危害を加えることはできない。が、一度手放せばこの制限から解放され、自由に暴れ回る」

 

そして施錠すれば、インベスはクラックと共に消えていった。

 

「そしてロックシードにはA~Dのランクが存在する。このオレンジロックシードはAだ。ランクによって種類やサイズは異なるが、共通してホログラム状のインベスが召喚される」

 

ランクAならばそのままのサイズで上級インベスが。

ランクBならば同じく初級インベスが。

ランクC以下ならば小さな姿で初級インベスがで召喚される。

 

「インベスにも上級とかあるんだな......初級は小さいヤツ......と。なるほど、そのロックシードのランクが上がれば、出てくるインベスも強くなるのか」

 

「そういうことだ。まぁ実体化したインベスを使役する方法もあるが、お前なら遠慮するだろう?」

 

「あぁ、そりゃあな......ん?となると、俺が前に倒した奴は上級だったのか」

 

「(......クラスAとはいえ、緒戦で上級を難なく倒したこいつの力には目を見張るものがあるな)」

 

とりあえず「リミッターカット」の説明もした上で、オレンジロックシードを風太郎に返した。

一先ずインベスが消えたことで風太郎はホッと息を吐き、戒斗以外の誰にも見せられないなと改めて、そのアイテムの危険性を脳に焼き付けた。

 

「(四葉も他言しないでいてくれるみたいだし......いざって時は俺も戦わなきゃな。それにしても......)戒斗。なんでお前、こんなに詳しいんだ?」

 

「......そのアイテムの開発者が、俺の顔見知りだからだ」

 

「っ、マジか!?」

 

このアイテムを作った人間がいて、親友の顔見知りだという思わぬ情報に、風太郎は大きく口を開けて驚愕した。

そして戒斗は立て続けに説明していく。

 

「そいつに近づくと碌な目に遭わんがな。それに、頭のおかしい科学者だから気に留めるなよ。脳の容量の無駄だ」

 

その開発者、戦極凌馬の話をしている時の戒斗の顔は、いつにも増して険しい。思い出しただけでも眉間に皺を寄せ、だんだんと怒りが溜まっていた。

 

「あ、あぁ......(すっげぇ言い様だな......会っても近づかないようにしよう......)」

 

凌馬は戒斗の事を気遣ったりしているが、前の世界での行動があまりにも酷すぎたので、戒斗の中での印象はそれほど変わっていなかった。

 

「ともかく、今からこのベルトとロックシードの成り立ちについて教える」

 

「あ、おう!」

 

風太郎はメモ帳を用意して真剣に話を聞く。

戒斗は大前提として、ヘルヘイムというものが存在し、それはいずれ世界を蝕んであらゆる生命を絶望の中に引き入れるものだということを教えた。

 

「ヘルヘイムに侵食された場所は、全体に特有の植物が生い茂っていることから”ヘルヘイムの森”と呼ばれる」

 

「ヘルヘイムの森......」

 

そして森で生まれるものとして植物の他に果実があり、それだけは絶対に口にしてはいけないこと、その果実は、人に食いたいという衝動を与えるということ。

 

「その果実を見た途端、体がどれだけ止めようとも本能が訴えかけてくるという。その実を食いたい、とな」

 

そして万が一食せば、たちまちインベスになって理性を失うこと。ヘルヘイムの恐ろしさ話していると、風太郎はその万が一を想像したのか少し青ざめていた。

 

「......それだけは絶対に嫌だな。あんな化け物になんかなりたくねぇよ」

 

「なら食わないことだ」

 

「そういえば、前に倒した怪物も実を食ってすげぇ強くなったけど、もしかして......」

 

「正解だ。インベスは実を食って自らを強化することも出来る。初級が食えば上級に進化する」

 

更に上級が実を食った場合、幅は様々だがその風貌は変わり、戦闘力も上昇する。

 

それを聞いた風太郎は、敵のあまりの強大さに考えるのをやめた。これ以上考えたところで「ヤバい」という言葉しか出ないような気がしたから。

 

「それとヘルヘイムが由来しているからか、インベスはロックシードを摂取して成長することもできる。幅はロックシードのランクに左右されるがな」

 

「でも、それとこのベルトとなんの関係が......分かった!これはそいつらを倒すためのアイテムか!」

 

「惜しいが外れだ。次はそれについて話そう」

 

ロックシードは元々ヘルヘイムの果実から出来た物であり、戦極ドライバーは本来ヘルヘイムの侵食から人類を守るための生命維持装置だということを伝えると、頭をぐわんぐわんと揺らしながら混乱しているようだった。

 

「戦極ドライバーを装着して果実をもぎ取れば、ロックシードに変化した上で、人体に害を及ぼすことなく栄養だけが抽出される」

 

そして戦極ドライバーの本来の用途を伝えれば、風太郎はじゃあ何故武器が出るのかという疑問を心の中に仕舞い、納得しつつも不満げな顔になった。

 

「......まぁ、正直どうでもいい話だ」

 

「やっぱ飯は美味くてこそ飯だもんな!」

 

それからメモ帳に情報をしっかり書き留め、話が終わってからおさらいをした。

 

「大事なところは、果実を食わないってとこだな。......まぁ、あれも元が人間だってことを考えれば可哀想になるな」

 

「奴らは哀れな生き物だ。生きる目的を失い、ただの死体に成り果てる......俺達が殺すことで解放するという手段もあるが、奴らにも痛みはあるからな」

 

二人は少しその辺りのことを考え、気分が沈む。

 

「(奴らはヘルヘイムという理由の無い悪意に全てを奪われた、言わば弱者だ......ヘルヘイムの方が強かったのだろうが、そんな強さは認めない......!)」

 

戒斗がヘルヘイムに対して怒りを感じていると、風太郎はポツリと心中を口にした。

 

「これ以上被害を出さないよう、対抗手段であるベルトを持ってる俺達は、戦わなくちゃならないんだよな」

 

その目は、覚悟を決めていた。ヘルヘイムと、インベスと戦う覚悟を。

 

「苦しみと向き合わない限り、その苦しみからは逃れられないよな」

 

戒斗は、今の風太郎と、ある男を重ねた。

お人好しで馬鹿みたいに心優しい、本当の強者を。

 

「何はともあれ、俺達はできることをするしかねぇよな」

 

「そうだな」

 

話が一段落ついたと思えば、風太郎は大事なことを思い出した。

 

「戒斗、そういえば新しいバイト先ってどこだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

期末試験が終わってからも、五つ子達は風太郎と戒斗と関わることはなかった。

と言うよりは、五人が話しかけに行ったところで二人は家庭教師と生徒では無いただの友人なので、深く話すこともなくなった。

 

そして時は流れ12月24日、クリスマスイブ。

 

「なんか、最近退屈なんだよねー......」

 

そんなことを言いながらここ数日を振り返り、喫茶店でコーヒーを飲む一花。

 

「そうよね。メールも返信ないし、楽しいクリスマスが台無しよ」

 

パンケーキを食べながら携帯を見てため息を吐く二乃。

 

「......話すことが無くなったから、毎日消化不良だよ......」

 

風太郎と関わることがなくなったので、好きな武将のことも話せず満たされない三玖。

 

「上杉さんも、あんまり楽しそうじゃないし......」

 

風太郎や戒斗に壁を作られたように感じ、重苦しい空気を出し始める四葉。

 

「......あの二人、次の働き口はどこなのでしょう......戒斗さんは分かりませんが、上杉さんは......」

 

寂しく思いながらも、食欲が止まらない五月。

五人は、家庭教師の二人が自分達の輪から消えたことで、心に穴が空いたような気分になっていた。

 

そんな五人に耳寄りどころではない情報が。

 

「ねぇ知ってる?あそこのケーキ屋さん、最近新しい人が入ったらしいんだけど、すっごく美味しいらしいよ」

 

「あー知ってる!宣伝の人もすごい頑張ってるんでしょ?なんか応援したくなるよねー」

 

「なんかさ、店長直々の推薦らしいよ」

 

「えっ凄くない?」

 

五人はそれを聞き、同じことを考えた。

 

「じゃあ、ケーキ屋さん行こっか」

 

勘定を済ませ、ある種の確信を持ちながらケーキ屋へと急いだ。

そしてそのケーキ屋には、サンタの格好をした風太郎が気合を入れて宣伝をしていた。

 

「メリークリスマス!皆さんケーキはいかがですかー!うちのケーキを食べれば、忘れられないクリスマスイブになりますよー!」

 

「本当に美味しいんですか?」

 

「そう言うなら店に来てください!間違いなく常連になりますよ!本っ当に美味しいので!」

 

本気でそう思っているのだろうと思わされるようなキラキラした目を見て、女性は思わず笑顔になった。

 

「あらそう?なら行こうかしら」

 

「この人混みですので案内させていただきます」

 

「ありがとう」

 

そして女性を店まで案内し、風太郎はすぐに戻って声かけを続ける。

 

「一番美味しいケーキはいかがですかー!家族と食べれば心が温まりますよー!この寒いクリスマスイブにはピッタリです!さぁいつ売り切れるか分かりません!お早めにご購入ください!!」

 

喋っていくにつれ、風太郎はだんだんとテンションが上がっているようで人々に某通販番組のような凄まじい売り込みをしていた。

 

「値段もさることながら!彩り!味!満足感!全てにおいてここに勝つケーキ屋がいるのでしょうか!?いや、いない!!なんと、当店には店長直々の推薦で入ったパティシエがいます!彼の作るケーキは、どんな人だろうと食べれば笑顔になること間違いなし!さらにさらに!当店はお持ち帰りの場合試食もやっておりますので、お好みのケーキを実際に食べた上で選ぶことができます!さぁ皆さん!ケーキを食べて、最高の今年のクリスマスイブを過ごしましょう!!」

 

「すみません」

 

「はい!」

 

「一ホールください」

 

とてもいい笑顔で振り返ったテンション爆上がり中の風太郎の目の前には、食欲の権化が。後ろには他四人も揃っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ケーキご注文のお客様」

 

店内にて、五人は目が死んでいる風太郎の格好を見て笑っていた。

 

「わー、本当に働いてる!クリスマスイブだってのに偉いねー」

 

「というか寂しい」

 

「ケーキも遅いわ。ちょっとパティシエ呼びなさいよ」

 

「あのな、あいつは今忙いんだよ。それに今日はいつもより繁盛してるんだから仕方ないだろ」

 

だがタイミング悪く、戒斗は風太郎を呼びに来てしまった。

そして中野家の五人を見て目を見開いた。

 

「おい、サボってないで宣伝......を......」

 

「戒斗くんこんばんは。学校でもあんまり話してくれないから来ちゃった」

 

「上杉、とりあえずケーキを渡せ。さっさと仕事に取りかかるぞ」

 

目に見えてゲッソリしながらも、あくまでスルーして風太郎は箱に入れたケーキを机に置き、戒斗と仕事に戻ろうとする。

 

「ちょっと、私たちお客、あんたら店員。態度ってもんがあるんじゃない?」

 

「戒斗、こいつぶん殴っていいか?」

 

「やめておけ。......さっさと持ってお帰りくださいませ」

 

「あーらできるじゃない」

 

二乃と戒斗が火花を散らしていると、五月はやはり家に届けて欲しいのでケーキの配達をして欲しいと言い出した。

 

「配達などやっていないが」

 

「えー」

 

「落としちゃうかも」

 

「いいでしょ?」

 

「すぐそこなので」

 

「上杉さん、駆紋さん、お願いします!」

 

「か弱い乙女に持たせるつもり?」

 

「店長ー!やばい客がいまーす!!」

 

何がなんでも配達させたいのか、風太郎と戒斗が言葉を発する前に畳み掛けていく。風太郎が訴えかけるも、店長は特に気にする様子もなく承諾した。

 

「そろそろ店も閉める。こっちはもういいから最後に行ってあげなよ」

 

「店長!そんなこと......!」

 

「上杉君、駆紋君」

 

風太郎は親指を立て、ニヤリと笑ってウインクする目の前の男をここ最近の中で一番恨んだ。

 

「(メリークリスマス☆)」

 

「(このバイト辞めよっかな)」

 

店長の無言のフォロー(?)により、戒斗と風太郎はケーキを配達することとなった。

 

「何故二人も......上杉だけでいいだろう」

 

「いやいやそれはさすがに......って、お前らの家はこの道じゃないだろ」

 

「違うよー」

 

「こっちこっち」

 

風太郎は普段通る道とは明らかに違う場所を選んでいることから、わざと遠回りをしているのだと考えた。

 

「あのさ、黙って辞めたのは悪かった。だがもう俺は家庭教師には戻れねぇ」

 

五人からの返答はない。

五月は、畳んでいた紙を広げて二人に見せた。

 

「この人が新しい家庭教師です。お二人にも見せておきたくて」

 

「そ、そうか。意外と早く決まったな」

 

名前は阿多辺丸男。

65歳、色黒ロン毛メガネの男。

東京の大学出身で元教師。

 

「ほう、優秀そうだな。良かったじゃないか。こいつなら赤点回避まで導けるだろうな」

 

「はは、そうだそうだ。良かったな......」

 

その男が五人と赤点回避して笑顔に満ちている場面を想像すると、風太郎の中で言いようの無い感情が湧き出てくる。

 

「いいの?このまま次の人に任せて私たちを見捨てんの?」

 

「俺たちは二度のチャンスで結果を残せなかった!次だって上手くいくとは限らない!だったらプロに任せるのが最善だ!」

 

そう言う風太郎の顔は、自分の本音を隠そうとしているようにも見えた。戒斗は何も言わず話を聞く。

 

「これ以上、俺たちの身勝手にお前らを巻き込めない!それに......」

 

「そうね。あんたらはずっと身勝手だったわ。そのせいでしたくもない勉強させられて、暗記して公式覚えさせられて、問題解けたら嬉しくなっちゃって」

 

「......!」

 

「ここまでこれたのは全部あんたらのせい!最後まで身勝手でいなさいよ!謙虚なあんたらなんて気持ち悪いわ!」

 

苦情にも聞こえるが、風太郎はその言葉の意味を理解していた。それを聞けて内心喜びながらも、もう戻れないと言った。家に入ることさえ禁止されているからもう無理なのだと。

 

「それが理由?」

 

「ああ。早く行こうぜ」

 

「もういいよ。ケーキ配達ご苦労様」

 

一花はケーキの入った箱を受け取る。

 

「いやまだ......」

 

「ううん、ここだよ」

 

横を見れば、マンションとは程遠いアパートが目に入った。

 

「ここが、私たちの新しい家」

 

「ど、どういう意味だ......?」

 

「借りたの。私だってそれなりに稼いでるんだから。といっても未成年だし、契約は別の人。事後報告だけどお父さんにも言ったから。......今日から私たちは、ここで暮らす。これで障害はなくなったね」

 

それはつまり、あの高級マンションから出てきたということ。風太郎はしょうきとは思えないこの行動を、何とか辞めさせようと説得する。

 

「馬鹿か!今すぐ前の家に戻れ!あの家で新しい人を雇えば......!」

 

「上杉さん。前に言いましたよね。大切なのはどこにいるかではなく......」

 

四葉は全員分のマンションのカードキーを、空高く放り投げた。

 

「五人でいることなんです」

 

「っ、マジかよ......カードキーを......!」

 

風太郎が五人の覚悟を感じ、それに比べて自分はどうだと思いながらカードキーを目で追っていると、雪に足を滑らせてしまう。下には大きな川が。

 

「あ」

 

かなりの高所から落ちながら、風太郎は走馬灯を見た。

 

 

『必要とされる人になれてるよ』

 

『久しぶり』

 

だが、走馬灯にしては直近すぎた。

そして、ある日の発言を思い出す。

 

『どうしたらあいつらがまとまってくれるんだ。ここで俺が溺れたら───』

 

 

だが、その先を考える必要はなかった。

何故なら風太郎が落ちた直後、五人も一緒に飛び込んでいたから。

そして勢いよく水飛沫が上がる。

 

「......ぷはっ!はぁ、はぁ......」

 

「フータロー大丈夫!?」

 

「ぜ、全員で飛び込んでどうするんですか!?」

 

「って寒ーーッ!!」

 

比較的浅かったものの、夜の真冬、水となれば凍えるのは当然だった。

 

「お前ら......」

 

「フータロー、たった二回で諦めないで欲しい」

 

「......!」

 

「今度こそ私たちはできる。フータローと、戒斗となら、できるよ。失敗は成功の先にある、でしょ?」

 

「(自分を認められるようになったら開けて......か)」

 

そんなことを考えていると、あのお守りが水に流されていく。

 

「くそっ!」

 

「二乃!?」

 

「!」

 

二乃は、あまりの冷たさに体が動かず溺れていた。

バシャバシャと慌てる中、風太郎はお守りと二乃どちらを優先するかを考え、お守りを選んだ。

 

「お前に任せりゃ安心だ」

 

「やれやれ。やはり一人はそうなると思ったぞ」

 

溺れている二乃を引き上げたのは、戒斗だった。

 

「ありがと......けどその持ち方どうなのよ!片腕だけ引っ張るって雑じゃない!?」

 

「他にあるか?」

 

「か弱い乙女なのよ?例えばお姫様......や、やっぱいいわ」

 

二乃が助かったのを確認し、風太郎も目的のブツを回収しようとする。

 

「今のうちにお守りを......ってあれー!?」

 

だが、気づいた時にはお守りはすでに消えていた。

 

「まぁいいか......さよならだ、零奈」

 

風太郎は少しへこんだ後、心の中にいた零奈を消し去り、五人と、戒斗と歩むことにした。

 

「二乃、体が動かないなら掴まっていろ」

 

「ば、バカにしないでよ!上がれっ......!」

 

「強気な発言は手を動かしてからするんだな。落ちるなよ」

 

「......うん」

 

そして風太郎も川から上がり、ひらひらと落ちてきた新しい家庭教師の男の履歴書を受け止め、一気に破いた。

 

「まったく......後先考えて行動しろよ......馬鹿は困るな、まったく」

 

その顔は、笑っていた。

 

「ま、俺らも好きにやらせてもらうぜ。最後まで付き合えよ、俺の身勝手に」

 

その場にハッピーエンドの空気が流れる中、二乃は異常な胸の高鳴りが止められずにいた。

 

「(違う......これは違うわ。バロン様が忘れられないだけ......そう、だって何年も想っていたんだもの......うん、そうよ)」

 

そう無理やり結論づけ、戒斗から離れた。

 

「とりあえず中入ろ!風邪ひいちゃう」

 

「あ、ケーキは無事ですか!?」

 

「大丈夫。......フータロー、戒斗、早く早く」

 

「......あぁ。でもいいのか?俺たちが入れば七等分だぞ?」

 

その疑問に、五つ子たちは笑いながら答える。

 

「七人で食べるために買ったんだもん。大丈夫だよ」

 

「そうか!なら遠慮しないぜ!つーか、新しい家庭教師の人に謝んねぇとな」

 

「ええっと、それはお気になさらずに......」

 

場面はどこかの道路にて走る、一台の高級車内に変わる。

中には、一人の運転手と、一人の男。

江端と中野父である。

 

「江端、今日は遅かったね」

 

「申し訳ございません」

 

「いいさ。......しかし、その格好は......」

 

運転手こと江端の姿は、阿多辺丸男と同じものだった。

 

「まぁいい。......上杉君、駆紋君、やってくれたね。だが......君たちのような男に、娘はやれないよ」

 

ルームミラー越しに見える中野父の目は、思わず江端も寒気を感じるほど冷ややかなものだった。

 

「(特に駆紋戒斗君、君だけには......絶対ね)」

 

そして間もなく、風太郎と戒斗と五つ子の、新しい年が始まる。

 

 

 

 

 

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