上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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正月

駆紋戒斗は、くたびれていた。上杉家の人間でもないのに、挨拶に行かされていたから。上杉父、勇也に理由を聞けば、凌馬が是非連れて行ってくれと言ったらしく、それを聞いて戒斗は研究所を壊しに行こうとしたが、らいはのお願いにより渋々、本当に渋々頷いた。

 

『私、あなたが好きなの』

 

「わ!ついに言ったよ!わー!ちゅーしたー!」

 

そして風太郎の祖父母が来るまでの間、テレビを見ていたところ、ラブシーンが流れ、らいはははしゃいでいた。

勇也は寝転がり、風太郎と戒斗はなんの感情も込めずテレビを見ていた。

 

「二人ともー、顔怖いよ!」

 

「俺に関しては言えるかもしれないけどな、戒斗なんて強制的に来させられたんだぞ。そりゃそうなるだろ」

 

「さっき言ったろ。戦極の野郎が戒斗も是非って言ってきたんだよ」

 

「本当に俺は何故こんなことを......」

 

戒斗が頭を抱えていると、祖父母が入ってきた。

 

「風太郎!らいはちゃん!戒斗くんも、あけましておめでとう!はいお年玉!」

 

「おじいちゃんありがとー!」

 

「くっ、去年までは貰えたのに......」

 

らいはは喜ぶが、風太郎は貰えず手を震わせていた。

勇也は寝正月は許さんと祖父に蹴られ、戒斗は依然として死んだ顔のままだった。

 

「親父、正月の挨拶も終えたなら帰ろうぜ。早く新年初勉強したい」

 

「俺も同意見だ。正月だからといって気は抜けん。もちろん勉強もな」

 

「もー、まだ終わってないよ。もう一か所ご挨拶に行かなきゃいけないとこあるでしょ?」

 

戒斗と風太郎はそれがどこかを察した。そして心底嫌そうな表情を見せるも、結局連れていかれた。

 

「やっぱ神様には挨拶しておかないとね」

 

「なんだ、あいつらの家じゃなかったか。良かった」

 

「ああ。それにしても、こんな時にまであいつらのことを考えるとは......呪われているな」

 

そこは二人の考えていた場所ではなく、神社。やはり神頼みは大事ということらしいので、上杉家+戒斗はおみくじを引いていた。

 

「チッ、末吉かよー」

 

「大吉だ!やった!お兄ちゃんと戒斗さんは?」

 

「俺と戒斗は大凶だ。まぁ、あいつらに会ってからずっとそうだけどな」

 

二人はため息を吐き、風太郎は大凶のくじを境内に結びつけた。

戒斗は手でくしゃりと潰し、勇也に渡した。渡された勇也はくじを広げ、とりあえず縁起が悪いので風太郎と同じように結んだ。

 

「俺はそもそもこのみくじは気に食わん。なぜ自分のことを神に頼まねばならないんだ。自分で掴み取ってこそだろう」

 

そもそも戒斗からすれば、神と命懸けで戦った身なのでそこまで頼ったり祈ったりという気分にはなっていなかった。

 

「うーし、挨拶も終わった事だし、帰るか」

 

「はーい!」

 

「うーい」

 

「ようやくか」

 

そんな時、四人の横を誰かが通った。

人数は五人。そして見事に全員同じ顔で、風太郎と戒斗は幻かと思い目を擦った。

 

「いやいや、なんで鉢合わせるんだよ。さすがに幻だろ」

 

だがそこにいるのは幻でもない、中野姉妹五人だった。

綺麗な振袖を着た五人を見て、らいはと勇也は褒めているが、家庭教師二人は新年早々とてつもなく重い息を吐いた。

 

「親父、らいは、あとは任せた」

 

「俺たちは帰るとする。ゆっくりするといい」

 

「あっ、待ちなさいよ!」

 

二乃を無視して風太郎と戒斗は階段を一気に飛び降り、全速力で走って逃げた。

二人がどんどん加速する中、らいはは叫ぶ。

 

「お兄ちゃーん!逃げるんだったら嫌いになるよー!」

 

「戒斗、戻ろうか」

 

「うぐっ!」

 

風太郎は戒斗の首を掴んですぐさまらいはたちの元へ戻り、土下座して懇願した。

 

「嫌いになるのだけはどうか!」

 

「嘘嘘。お兄ちゃんなら戻ってくるって信じてたよ」

 

「らいは......!」

 

涙を浮かべる風太郎の隣で首を押さえている戒斗は、一花と五月に絡まれていた。

 

「戒斗くん、あけましておめでとう。どう?似合ってる?」

 

「戒斗さん、あけましておめでとうございます。......ど、どうでしょうか?」

 

「いいんじゃないか。まったく上杉め......加減を知らんのか......」

 

風太郎に掴まれた場所に思っていた以上にダメージが入ってしまい、戒斗は適当に返事をした。

すると一花と五月は頬を膨らませ、二乃を召喚した。

 

「戒斗、どうかしら?似合ってる?」

 

「いいんじゃないか」

 

「戒斗、どうかしら?似合ってる?」

 

首をさすりながら適当な返しをする戒斗に冷えた笑顔を向けながら圧力をかけ、まともな感想を言うよう促す二乃。さすがにその気配に気づいたらしく、戒斗は意識を首から三人に向けた。

 

「やっとこっち向いた。じゃあ一花の感想から。次は五月。で、最後は私ね。もし適当なこと言ったらわかるわよね?」

 

あのおみくじは間違っていなかったと、戒斗は神社に対しての認識を改めるのだった。風太郎の方を見ると、三玖と四葉に同じようなことをされており、感想を何とか絞り出したからか目に見えてくたびれていた。

 

戒斗も覚悟を決め、最大限気の利いた言葉を何とか絞り出して伝える。

 

「......一花は頭についている花が印象的だな。振袖自体も似合っているが、色と合わさっていつもより綺麗に見えるな。良いと思うぞ」

 

「だってさ一花。......一花?」

 

二乃が声をかけても、一花はうずくまって唸っているだけ。

耳まで真っ赤にして、戒斗の顔を見れずにいた。

 

「ご、ごめんね、今ちょっとダメかも......」

 

「つ、次は私ですね。戒斗さん、どうでしょうか......?」

 

少し不安げに五月に見上げられ、戒斗は下手に傷つけて泣かせてはまずいと五月の格好をじっと見つめ、一花の時とは違った感想を脳をフル回転させて考える。

 

「あ、あの......そんなに見つめられると......」

 

「そうだな......普段とは違う髪型というのは印象が変わる。ただ伸ばすだけじゃなく、結ぶことで振袖の柄も相まって上品に見えるな。似合っているぞ。頭の花もな」

 

それを聞き、五月は一花と同じ状態になった。

 

「あんたもかい!......それで、私は?」

 

戒斗は本能的に察知した。ここから先は言葉選ばねばならない、下手をすれば死ぬと。

 

「ふむ......」

 

「(......なんで感想待つだけでこんなにドキドキしてんのよ!)」

 

「(まずいな。感想が出てこない......)」

 

「(な、なんで黙ってんのよこいつ。も、もしかして似合ってない......?)」

 

二乃がマイナス方面のことを考えている中、戒斗は何とか記憶を遡らせて風太郎達の方から聞こえた言葉を思い出す。

 

 

『ほらお兄ちゃん、可愛いって言ってあげて!』

 

『はぁ......三玖、四葉。可愛いぞ』

 

『っ!そっか......ふふっ、ありがと、フータロー』

 

『さっすがらいはちゃんです!上杉さんも、ようやく私たちのこの可愛さに気づきましたね!にしし!』

 

『言ってろ。あーめんどくせ』

 

 

そしてそこから繋げる言葉を考え、何とか文を完成させようとする。

だがすでに時間がなかったので、思いついた言葉を片っ端から言っていく。

 

「可愛いぞ」

 

「へ?」

 

「......それでいて綺麗だ。とても眩く、美しく見える」

 

「ちょ、ちょ!」

 

これ以上は本気で何も浮かばなかったので、変化を出そうと二乃の手にある花の頭飾りをつけてみる。すると、普段のように様子はなく、年相応の少女のように見えた。

 

「こうすればもっと美人になると思うが......あとは、そうだな......」

 

「まっ、待って!それ以上言わないで!」

 

「?......まぁ、そう言うなら」

 

戒斗はこの程度で大丈夫なのだろうかと内心焦っていたが、二乃にとって戒斗の放った言葉は一番効果が大きかった。

 

「(可愛いはズルいわよ!不意打ちすぎるって!)」

 

二乃自身、一花と五月の様子を見て何をしているんだと思っていた。褒められた程度でそれほど赤くなるかと。だが、戒斗の言葉は想像の斜め上をいっており、シンプルかつ大胆故に直撃した。

 

「(あーもう!顔見れないって!絶対一花と五月みたいになってるって!)」

 

「おい、大丈夫か」

 

「大丈夫よ!」

 

「何故怒り気味に......?」

 

それが自分のせいだとは知る由もなかった。

それから四葉が中野家に来ないかと提案し、風太郎と戒斗が鼻であしらったかと思えば、らいはが賛同したことで二人は連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして何が酷いかといえば、五つ子達が録画していたドラマを見るためテレビを点けたところ、そのドラマが上杉祖父母の家で見ていたものと全く同じだったことだろう。

 

「キスしました......」

 

「ロマンチックだわ」

 

「録画してよかったね。上杉さんと駆紋さ......どひゃああ!」

 

五月は口に手を当てて照れ、二乃はドラマのシーンのような状況に憧れていた。そして四葉が風太郎と戒斗の方を見ると、あまりの生気の無さに驚き奇声を上げた。

 

「......ったく、何のために呼んだんだ。らいは、帰るぞ」

 

「時間の無駄だったな」

 

「まぁまぁ、お正月くらいゆっくり過ごそうよ」

 

「フータロー、戒斗、おせち作ったけど食べる?」

 

風太郎の腹がぐるぐると鳴る。その隣で、らいはは家の中をキョロキョロと見ていた。

 

「あれ、どうしたの?らいはちゃん」

 

「えっと......私勘違いしてたみたい。中野さんのお宅はお金持ちって聞いてたから」

 

「あはは......いろいろありまして......」

 

「何もない部屋でごめんねー。振袖も大家さん家に返しに行かなくっちゃ」

 

ひとまず今は必要な物から揃えている段階らしく、風太郎がテレビは後回しでいいだろうと言えば、とりあえず自分の家だと思ってくつろげと強引に誤魔化された。

 

「......こいつら、本当に大丈夫か?」

 

「ちょっと、なんで地べたに座ろうとしてるのよ。寒いでしょ。炬燵入んなさいよ」

 

「とりあえずらいはが入れ。その次は上杉だ」

 

「ほーら、遠慮しないの」

 

無理やり炬燵に入れられ、少し不機嫌になる戒斗。

その心情は、寒くもないのに暑い炬燵に入れられたと考えれば分かりやすい。

 

「そうだ。戒斗くんお疲れでしょ?マッサージしてあげるよ」

 

「必要ない。上杉にやれ」

 

一花からの厚意を切り捨て、炬燵から抜ける戒斗。

そして骨を鳴らして体を解す。

 

「俺よりもそいつの方が常日頃頭や体を使ってる。そのことに感謝して、しっかり癒してやれ」

 

「でも戒斗くんは?」

 

「必要ないと言っただろう」

 

「むぅ......冷たいですね」

 

一先ず五人は風太郎のマッサージを始める。

両手両足そして肩を揉んでいく。五人の少女に奉仕される一人の男。

それを見て、らいはは風太郎に春が来たと、母親の形見の写真に報告した。

 

「でもさ、戒斗さんも疲れてない?いつもお兄ちゃんが迷惑かけてるし......」

 

「俺はそういったことはされるタイプじゃないからな。それに、こう言ってはなんだがあれは気色悪い」

 

「わ、中野さんたち美少女なのにそんな風に言う人いるんだ」

 

とはいえ戒斗は風太郎のことも含めかなり疲れているのだろうと思ったらいはは、少し考た後腕をマッサージしだした。

 

「?おい───」

 

「いつもお兄ちゃんがお世話になってるし、これくらいさせて?」

 

「......好きにしろ」

 

断っても無駄だと気づいたので、らいはに腕を任せる。

 

「......で、どういうつもりだ?」

 

「な、なんでもないですよ」

 

「日頃の感謝だけだよ」

 

「嘘つけ!」

 

二乃は笑顔で労い、五月は自分の分の食べ物をよければどうぞと渡してくる。風太郎は思った。これを怪しいと言わずなんというのか。

 

「あと福笑いは難しすぎるぞ」

 

ただでさえ同じ顔の福笑いなど、風太郎からすれば地獄に等しかった。

 

「えっと、フータローと戒斗に渡したいものが......」

 

「それはまだ早いよ!」

 

「みんな隣の部屋いこっか」

 

急に怪しい行動をし始めたかと思えば、次は慌てて隣の部屋に移動する。風太郎は五人が何がしたいのか理解できず、ただただ不信感を抱くだけだった。

 

「何を企んでやがる......」

 

「らいは、もう大丈夫だ。ありがとう」

 

「うん!」

 

らいはの次に発した言葉は、二人を地獄へ落とすこととなる。

 

「じゃ、福笑いやろ!」

 

「マジか」

 

隣の部屋では五人が悩んでいた。

 

「どうする?あいつら気にしてなさそうだったけど」

 

「でも、仕事でもないのに家庭教師を続けてもらうんだよ?このままじゃ悪いよ」

 

父親には頼らないことで、なにかしてあげたいと考えるが、頭に浮かぶのはドラマのラブシーン。四葉だけは一等賞のメダルを浮かべていた。

 

「不純です!」

 

「あんたも同じこと考えてたでしょ!」

 

ドアの奥から聞こえる喧騒に風太郎と戒斗はこれから何をされるのか考えて冷や汗を垂らした。

 

「まぁ、それで二人が喜ぶとは思えないけど。皆知ってる?フータロー君もそうだけど、戒斗くんは特にそういうことは全く興味ないの」

 

「分からないわよ。あいつらも男だし......一花も、女優ならほっぺにくらいできるんじゃない?」

 

「女優をなんだと思ってるの......(まぁ花火の時したけど......)」

 

ほっぺにキス、これを想像した三玖は、風太郎に迫られる場面を妄想してしまい、一人で自分の世界に行ってしまった。

 

「お菓子とかどうでしょ?二乃も料理は得意ですし」

 

「正直、そういうので戒斗を美味しいって言わせる自信が無いわ」

 

「あー、戒斗くんあんまり食べ物食べないもんねー」

 

結局、当初の予定通りのものをあげるという結論に至り、一花が二人を呼ぼうとしたところ、ドアの前に戒斗がおり、一花の顔を見ていた。

 

「あーっと、か、戒斗くん、お姉さんの顔になにかついてるかな?」

 

「いや、唇を見ている」

 

「え?......えぇっ!?」

 

「動くな」

 

息がかかる距離で一花の唇をじっと見つめる戒斗。一花は先程想像したようにもしかするとこのままキスをされるのではないかと思い、ぎゅっと目を瞑った。

 

「......ふむ。やはり唇はこっちだ」

 

「えー!こっちだと思うけどなー」

 

「いやでもこっちも捨て難いぞ?」

 

戒斗は一花の唇をしばらく見た後炬燵に戻り、らいはと風太郎と意見を交えながら福笑いを完成させていた。

 

「わー、遊んでくれてるんですね!」

 

その行動が福笑いのためだと知り、一花は体の力が一気に抜け、後ろに倒れ込んだ。

三玖と五月に支えられ、その呼吸は少し荒くなっていた。

 

「これで完成だな」

 

「見てくれ四葉!これはどうだ!」

 

「えーどれどれ......あ、上杉さん」

 

近寄った際、四葉は風太郎の頬にクリームが付いているのを発見した。

 

「クリーム付いてますよ」

 

そしてそれを、唇で掬いとった。

 

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 

当然周りは驚き、四葉も無意識の行動だったようで、少し経って頬を染めた。風太郎も頬を押さえて今の流れを振り返り、困惑していた。

 

「あ。......今のほっぺにチューが家庭教師のお礼ということで......」

 

「(まさかの四葉......気を抜いてた......)」

 

「ハッ、殺気!」

 

「そのお礼という件ですが、今の私たちでは十分な報酬を差し上げられない状況でして......せめてもと......」

 

戒斗は、次に風太郎が言う言葉を察した。

 

「なんだよ。そういうことは早く言え。ずっとそんなこと気にしてたのか。俺がやりたくてやってるんだ。給料のことなら気にすんな」

 

「上杉君......」

 

「おい、それ以上は───」

 

五人の風太郎に対する評価が上がったかと思えば、次に放ったで一気に評価を元に戻すこととなる。

 

「出世払いで結構だ」

 

「やはりな......」

 

そんなことを煌びやかな顔で言う風太郎の後ろで、戒斗は頭を抱えた。

 

「その代わりちゃんと書いとけよ!一人一日五千円!一円たりともまけねぇからな!」

 

「こういう奴だったわね......」

 

「あ、そういや俺と戒斗に渡すものって......」

 

「えっと......今日渡さなくていっか......出世したらってことで......」

 

こうして、二人に渡されるはずだったお年玉は渡されることなく封印されたのだった。

 

 

 

 

 

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