上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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五つ子

ツインテールの奴から逃げた後、俺はどうにか五月と同じエレベーターに乗ろうと手を伸ばした。だが、ギリギリ間に合わず、階段を上る羽目になった。

30階まで。

 

「うおおおおおっ!!!!!」

 

ここで謝れなかったら家庭教師の話はなくなっちまう!借金問題は解決しなくなる!らいはが悲しむ!

そんなのは嫌だ!!

 

「ああああああああ!!!!!」

 

ちくしょう!全部あいつのせいだ!

 

赤の他人の顔色を伺う居心地の悪さも!

 

学校帰りに汗だくになってこんなに走ってるのも!

 

全部見透かしたようなあいつに絡まれたのも!

 

しつこい単純バカのあいつに付き纏われたのも!

 

何考えてるか分からないあいつに警戒されたのも!

 

正義ヅラしたあいつに因縁つけられたのも!

 

全部!

 

「くそっ!」

 

全部こいつのせいだ!!

 

「あなた......」

 

「っはあ、はあ、はあ......っ」

 

な、何とか最上階まで来たぜ。五月は丁度家に入ろうとする直前だった。良かった......何とか間に合った。

 

「はあっ、はあっ......」

 

慣れない運動はするもんじゃないな、疲れてしょうがない。

五月は俺の事を鋭い目つきで睨んでる。そりゃそうだ。嫌いな奴が家の前にいるんだから。

 

「なんですか?私に何かご用ですか?」

 

さあここだ!ここで謝るんだ俺!

 

「き、昨日は......」

 

あああ!疲れ過ぎて声が全く出ねぇ!

 

「え?なんて?というか、何故あなたがここに?」

 

「き、昨日は、わ、悪───」

 

「用がないのなら私はこれで」

 

「ちょ、待て待て!」

 

「何がしたいのですかあなたは!今から家庭教師の先生が来てくださるので急いでください!」

 

「それ俺!」

 

「は?」

 

「家庭教師、俺」

 

それを聞いた五月はギャグ漫画みたいな顔でガーンってなってる。

 

「だ、断固拒否します!」

 

「俺だって嫌だよ!だが、諦める訳にはいかない。昨日のことは俺が悪かった。謝る!ふぅ......今日から俺がお前のパートナーだ!!」

 

「そんな......無理......」

 

余程嫌なのか、ガクッとへたり込む五月。

すげぇ絶望した顔してる。傷つくな。

 

「こんな人が......私たちの家庭教師だなんて......」

 

「!?」

 

は?今こいつなんて言った?私”たち”?

 

ポーン

 

と、エレベーターが到着する音が鳴った。

エレベーターの中から出てきたのは4人の女。

どいつもこいつも見覚えのある奴らだった。

 

「あれ?優等生くん!五月ちゃんと2人で何してるの?」

 

交渉だよ!

 

「いたー!!こいつがストーカーよ!あと1人はどこ!?」

 

置いて行っちまったな。

 

「ええっ!上杉さんストーカーだったんですか!?」

 

違ぇよ!!

 

「二乃、はやとちりし過ぎ」

 

ナイスアシスト!

 

ていうか、

 

「な、何でこいつらが......!?」

 

「住んでるからに決まってるでしょう」

 

「住んでる?」

 

表札には中野とローマ字で書かれている。

まさか......ははは、そんなわけないよな?

 

「ど、同級生の友達5人でシェアハウスか......仲が良いんだな」

 

「何言ってるんですか。違いますよ」

 

違う?となるとどういう事だ?

 

「私たち───」

 

待て待て。脳が追いつかない。嘘だろ?なあ、嘘って言ってくれよ。

待て待て待て待て!!

 

「五つ子の姉妹です」

 

うわあああああああ!!!!

嘘だああああああああぁぁぁ!!!!!!

悪夢だあああああぁぁぁ!!!!!

 

俺が地獄を味わっていると、屋上への扉が開いた。

そこから出てきたのは我が親友、駆紋戒斗だった。

 

「え」

 

「は?」

 

「あ」

 

「あれ?駆紋さん?」

 

「なっ......」

 

「か、戒斗!?」

 

何でここに......いや、今はそれが救いだ。

何とか心を落ち着かせられる。

ふぅ。

 

「こいつよ!もう1人のストーカー!」

 

「誰がストーカーだ!」

 

「次来たら通報するって言ったでしょ!」

 

「偶然だ!」

 

「三玖!110番!」

 

「了解」

 

「おいやめろ!」

 

何だ、戒斗が来た瞬間一気に騒がしくなったな。

 

「かーいとくん♪」

 

「......何故貴様がここにいる」

 

「なんでって、ここ私達の家だよ?」

 

「何?......中野......なるほど。つくづく不運だな、俺は」

 

「どういうことかなー?」

 

戒斗、あいつと仲良いのか。

 

「駆紋さん駆紋さん!」

 

「何だ」

 

「今日は学食で海老天を1本減らしました!」

 

「......そうか」

 

お、珍しいな。戒斗が反応に困るなんて。まあ海老天1本の差なんてたかが知れてるからな。

 

「もしかして家庭教師って優等生くんと戒斗くんのことだったの?」

 

ハッ!忘れてた!そうだそうだ、俺は家庭教師だ。どうにかしてこいつらを勉強させなければ......いや、待てよ?

こいつら、割と戒斗に懐いてるみたいだし、よし!

 

「いや、違───」

 

「そうなんだよ!俺ら2人で家庭教師だ!」

 

かなり無理やりだけど通じるか......?

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

結論から言うと、通じた。どうやら0点の四葉はマジで単純らしく、ホイホイ上げてくれた。ツインテールの奴はやたらと戒斗と俺を睨んでたけど、ここは気にしないでおこう。

 

「さて、上杉」

 

「ん?」

 

「何故俺を巻き込んだ?」

 

「お前がいた方が五月とかがやりやすいだろうなって思ってな」

 

「俺にメリットは?」

 

「......女子の家に入れる?」

 

「貴様、いつからそんな寝言をほざけるようになった?」

 

戒斗は骨を鳴らしながら俺に近づいてくる。

 

「......まあ、お前がいた方が単純に事が上手く運ぶ気がするんだよ」

 

「......まあいいだろう。俺も今日はやることが無い。らいはにいつものも届けた」

 

「ありがとな。早速だけど頼みがある」

 

「どうした?」

 

「俺がここの奴らの親父に電話するから、お前は5人を集めておいてくれ」

 

「......分かった」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

そんな訳で、私こと四葉と駆紋さんは一花、二乃、三玖、五月を勉強させるべく任務を開始しました!

 

「手前から五月、私、三玖、二乃、一花です」

 

「1番奥は封印しておこう」

 

駆紋さんは当然と言わんばかりに一花の部屋のドアの前に物を置き始めた。

って、えええええ!?!?

 

「なにやってるんですか!」

 

「こいつは封印する」

 

「ダメですダメです!」

 

「......チッ。まあ家主の言うことは聞かなければならないな」

 

そう言うと物をしっかり元あった場所に戻しました。真面目ですね。

 

「さて、おい、海老天女」

 

「誰が海老天女ですか!私には五月という名前があります!」

 

「五月、勉強するぞ」

 

そういえば、2人で家庭教師って言ってましたけど───

 

「「駆紋さんも勉強苦手ですよね?」」

 

「......次はヘッドホンの奴か」

 

「無視しないで下さいよ!」

 

「ていうかなんですか今の露骨な間の開け方!」

 

「おい、五月」

 

「なんです───わわっ!」

 

駆紋さんは五月を引き寄せたかと思ったら、ゴニョゴニョと何かを交渉していました。

そして話が終わったあと、渋々ながらついてきてくれました!

 

「......しょうがないですね。その代わり、駆紋さん」

 

「ああ、約束だ」

 

「では次は三玖ですね!」

 

駆紋さんがドアを開けて、私達も一緒に入ろうとしたら止められました。三玖はドアを一瞬だけ開けてすぐ閉めました。

 

「嫌」

 

この一言を添えて。

 

「あいつは後回しだ。まずは全員に声をかけて来る奴だけ来させるぞ」

 

「は、はい!」

 

「お腹空きましたね」

 

「五月!?」

 

次は二乃の部屋に向かった訳ですが......部屋にすらいませんでした。

そして問題はここからです。

 

「最後は一花です!」

 

「あいつは話すと面倒だから嫌なんだがな......」

 

「まーまーそんなこと言わずに!」

 

一花の部屋のドアを開けると、やはり汚かったです。

 

「おい、あいつは正気か?足の踏み場すらないぞ。いや、まずここに人間が住めるのか?」

 

「人の部屋を未開の地扱いして欲しくないな〜」

 

「あはは......これが一花なので......」

 

「まあいい。おい、行くぞ」

 

駆紋さんが一花の手を引こうとすれば、一花はあーダメダメと言いながら手を引きました。

 

「服着てないから照れる」

 

「知らん」

 

「へっ?」

 

駆紋さんは布団に包まる一花を軽々と抱き上げました。ほえー、力持ちですねぇ。

 

「ちょ、戒斗くん!?」

 

「四葉」

 

「はっはい?」

 

「適当に服を取ってくれ。こいつは動かなそうだからな。このまま行く」

 

そう言って駆紋さんはリビングへと降りていきました。

 

「わ、分かりました!」

 

服を探している時に大人の下着を見つけたのですが......これはまだ内緒にしておきましょう。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「こいつも来させたことだ。あとはヘッドホンの三玖だけだな」

 

戒斗は三玖の部屋に行き、ドアを開ける前に向こうが開けた。

おお!ついにやる気が出たのか!?

 

「私の体操服が無くなってるんだけど......赤いジャージ」

 

「それがどうした」

 

「さっきまではあったの。フータローと戒斗が来るまでは」

 

「......まさか、俺が盗ったと言うんじゃないだろうな?」

 

こくりと頷いた三玖。戒斗は呆れ果ててため息を吐いた。

そして探してやるから心当たりのある場所を教えろと言うと、

 

「それっぽい所は一通り探した。あとは......」

 

三玖は一花の部屋を見ている。さっき見たけどかなり汚かったぞ。

 

「あのゴミ捨て場にあるとは言わせないぞ」

 

「でも残りはあそこしか───」

 

「日が暮れるぞ。ただでさえゴミ捨て場のような惨状なのに、探し物などしていたら余計散らかる」

 

「あらら、ひどい言い様だね」

 

面目なさそうに頭を搔く一花。たははと声を零しながら笑っている。絶対反省してねーだろ。まあ実際ゴミ捨て場みたいだったな。カラスに食い漁られた後の。

 

「おーい、そこでなにしてんのー?」

 

さっきまでキッチンにいた二乃が戻ってきた。

大量のクッキーを持って。

 

「クッキー作りすぎちゃった。食べる?」

 

二乃が来ている服は赤いジャージ。

中野三と名前がプリントされていた。

 

「あそこにあるぞ」

 

「良かった」

 

「ああ、あそこじゃなくて少なからず安心している俺がいる。......おい」

 

戒斗は一花の部屋に入り、四葉を引きずり出した。

 

「いつまで服を探しているんだ」

 

「く、駆紋さん!こ、これはですね!」

 

「とりあえず下に行くぞ」

 

「あっ、はい!」

 

四葉と三玖が降りてきたことで、5人全員揃った。ナイスだ戒斗!

お前に頼んで本当に良かった!

 

「まずは実力を測るためにも小テストをしよう!」

 

 

「「いただきまーす!!」」

 

 

「...........」

 

そんな感じで意気込んだは良いものの、五月と戒斗以外の4人はクッキー食べていた。

 

「おいし〜、これ何味?」

 

「二乃、なんで私のジャージ着てたの」

 

「えー、だって料理で汚れたら嫌じゃん」

 

「今すぐ脱いで」

 

「ちょ!やめて!」

 

そういえば、戒斗と五月は何してるんだ?

あ、戻ってきた。キッチンに用があったのか?

 

「駆紋さん、ありがとうございました」

 

「対価だから気にするな」

 

「またお願いしてもいいですか?」

 

「勉強するならな」

 

「なら一緒にしましょうよ!」

 

「バカが集まっても意味が無いぞ」

 

「うぐっ......それを言われると弱いです」

 

「戒斗、お前にもテスト作ったぞ」

 

「......仕方ない」

 

戒斗と五月はテストに取り組む。

この2人は真面目だけど成績が振るわない、そんな感じか?

 

「はあ〜あ、食べたら眠くなってきたなあ」

 

「貴様はそのまま寝てろ」

 

「戒斗くんはブレないね〜。それじゃ肩......背中借りるよ〜」

 

テスト中の戒斗の背中にもたれかかってそのまま寝た一花。

戒斗がキレかけているが、何とか抑えてもらう。

 

五月と戒斗のテストが終わり、俺が採点していると二乃が話しかけてきた。

 

「ね、クッキー嫌い?」

 

「え?別にそういうわけじゃ......気分がちょっとな」

 

「警戒しなくてもクッキーに薬なんて盛ってないから。食べてくれたら勉強しても良いよ」

 

こいつ......さっきとは打って変わって何を企んでやがる。

仕方ない。ここは俺の誠意を見せるか。きっと分かってくれるはず。

 

「うわっ、モリモリ減ってる!そんなに美味しい?」

 

「ああ、うまいな......」

 

「嬉しいな〜。あ、そだ。パパとどんな約束したの?」

 

「約束?」

 

「......特に何も......」

 

「うっそー。君ってこんなことするキャラじゃないっしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶっちゃけ家庭教師っていらないんだよねー」

 

心做しか空気がピリつく。俺もあまり動けなかった。

 

「なーんてね、はい、お水。駆紋さんもどうぞ」

 

「俺は......」

 

「ほらほら、遠慮せずに!」

 

くそ......こいつらからすれば当然の反応だが......五月も部屋から出てこないし、どうすれば良い?

どうにせよ......5人を卒業させるしか俺には道はない!

 

「ばいばーい」

 

「あ?」

 

何だ?急に眠......く......

 

そこで俺の意識は途絶えた。

目を覚ました時には、タクシーが家の前に止まっていた。

タクシーの助手席には五月がいた。

 

「今回は一泡吹かされましたね。これに懲りたら諦めることです」

 

「それはできない」

 

「どうしてそこまで......」

 

「あ、やっぱお兄ちゃんだ」

 

「どわっ!?らいは!?」

 

らいはが迎えに来てくれたことに嬉しく思ったが、らいはが五月を晩飯に誘ったことでうちの貧乏事情が知られてしまった。

五月は、家の事情を察してくれて、らいは達には散々だったことを言わず、俺の手を借りずとも卒業までやり遂げてみせると意気込んでいた。

 

その言葉を聞いた時、俺は大事なことを忘れていた。

わざわざ5人同時に相手する必要なんかないんだ!

赤点候補になる奴だけ相手にすればいい!

 

となれば戒斗にも連絡しねーと。

 

「......あ」

 

そういえば戒斗───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらの家に置いて行っちまった......」

 

 

 

 

 

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