上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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過去と未来

「ちょいと待ちな。母親に憧れるのは結構。憧れの人のようになろうとするのも決して悪いことじゃない。私だってそうだしな。だが嬢ちゃんはお母ちゃんになりたいだけなんじゃないか?」

 

「!」

 

図星をつかれたようで五月は固まった。

 

「お母ちゃんと同じ人生を歩みたいのか?あの人みたいな教師になりたいのか?」

 

「......私は、お母さんのようになりたい。できることなら、あの人が体験したことを私も体験したい。辛い経験も、楽しい体験も。それが私の全てです」

 

五月の気持ちを知り、下田は黙った。だが戒斗は、それを快く思わなかった。

 

「貴様が言っていることは、母親の代わりになりたいと言っているのと同じだ。あの女と同じ人生を歩みたいと言ったな」

 

「はい......それがどうかしましたか?」

 

戒斗の声はいつもより低く、少しの恐ろしささえあった。

下田は何も言わず戒斗の話を聞く。

 

「自分自身の意思は無いのか。いなくなった母親に縋り付き、他人の皮を被ることでしか自らを保てないのか」

 

「っ、何を───」

 

「貴様が言っているのは弱者の理論だ。母親という存在に依存し、全てをそこに委ねている。本物の中野五月という像を見失い、あの女そのものに成り代わろうとしている」

 

戒斗の口から出るのは度重なる雑言で、五月の考えを真っ向から否定するものだった。そして自分の全てを否定され、五月の方も我慢の限界が来た。

 

「あなたは知らないんですよ......!私たちのお母さんがどんな人だったか!あの人を失ったという事実が、私たちにとってどれだけ大きいか!私の気持ちなんて、何も分からないでしょう!」

 

「知らん。だがな、他人に全てを任せている貴様のような人間のことなど、分かりたいとも思わん」

 

「他人に全てを......ですって?」

 

五月は普段滅多に見せない怒り、それも最上級のものを戒斗に向ける。

戒斗の中では五月が怒っていることは、それほど問題ではなかった。

 

「そうだ。今の貴様を作り上げているのは、あの女になりたいという下らない考えだ。そしてあの女になった、もしくはなれなかった時、貴様の中には何が残る?残るのはただただ大きい喪失感と後悔だけだ。ああ、本当の自分はどこに行ったのだ、こんな夢なら抱かなければ、とな」

 

「私は......っ、自分の意思くらい持っています!現にこうして教師になりたいと思っているでしょう!」

 

戒斗の中で、中野母と五月の姿が重なる。そして昔のことを思い出し、途切れ途切れの映像が頭の中に流れる。

 

「その教師になりたいという理由は、どこにある?」

 

「......え?」

 

五月はまだ答えに気づいていないようで、戒斗は残酷に告げる。

 

「誰かに教えた時の達成感か?教師という職に対する憧れか?違うな。貴様の夢の理由は、あの母親だ」

 

「っ!」

 

その言葉が五月が大きく動揺を見せた。

 

「母親になろうと自分を壊していくあまり、お前は母親の代わりをすることでしか自分を保てなくなっている」

 

「......なんですか、それ」

 

「最後に頼れるのは自身の強さだ。それは自分を持たない奴には決して得られないものだ。特に今の貴様のような弱者には、絶対にな」

 

「......そうですか。あなたが言いたいのは、私は私の夢を叶えることはできないと、そういうことですね?」

 

返事は返ってこない。それを肯定と捉えた五月は、戒斗の頬を思い切り叩いた。店内が少しざわつき始め、怒り心頭の五月は拳を握りしめて歯を食いしばった。

 

「......あなたは、そんなことをしないと思っていました。人の夢を否定するなど。その行動は、私の心を深く傷つけました」

 

「知ったことか。俺は事実を告げた。それだけだ」

 

「......あなたの顔はもう見たくありません」

 

戒斗はさっさと厨房の奥へ消えていった。喧嘩が収束したことで店内は落ち着きを取り戻した。下田は気を取り直して話を続ける。

 

「まぁ、なりたいだけなら他にも手はあるさ。とはいえ人の夢に口出す権利は誰にもねぇ。生徒に勉強を教えるのもやりがいがあっていい仕事だよ。目指すといいさ」

 

「先生」になりたい理由があるのなら。

最後に告げたその言葉は、五月の心に僅かな迷いを生じさせた。

 

「私は......」

 

「おっと。こんな時まで説教なんて、先生の悪いとこが出ちまった」

 

下田は連絡先を交換しようと携帯を取り出す。そして領収書を見て五月の食欲に嫌な汗が出るのを感じた。

 

「お、お母ちゃんのことが聞きたくなったらまた会おうな。あと、戒斗と仲直りしろよ」

 

「......悪いのはあちらです。訳の分からない理由で怒られて......」

 

「戒斗は自分を持たないお嬢ちゃんに怒ったんだ。......昔っからそういう奴なんだよ、あいつは。とりあえず手を出したことは謝ろうな。嬢ちゃんだってこのまま喧嘩別れすんのは嫌だろ?」

 

五月は何も言わず、お辞儀をしてから店を出た。

下田はそれを見て一言。

 

「若いねぇ。まだまだ」

 

そして日が経ち、風太郎が提案した。

 

「今日から全員が家庭教師だ」

 

「え!?」

 

「どういうこと?」

 

「自分が得意な科目を他の姉妹にも教えるんだ!俺のいない時も互いに高め合ってくれ!そうして全員の学力を一科目ずつ引き上げるぞ!」

 

そんな案で勉強会をしており、五月は教えることに対してやりがいを感じた。

そして2月14日。

つまり五月と戒斗が喧嘩別れをしてから一か月が経った日、五月は先月と同じく墓前にいた。

 

「本当に毎月いるんだな。墓なんて全部同じで見つからないと思ったが、良い目印があったな」

 

「なぜ......」

 

風太郎は線香を立て、手を合わせた。五月は改めて墓を見る。

線香が二本。金の花は見当たらない。

 

「(下田さんと、あの花を置いてくれた人は来ないのでしょうか......)」

 

そんなことを考えながら、風太郎に話しかけた。

 

「全員家庭教師案ですが、いい傾向にあります。教わること以上に教えることで咀嚼できることもあると実感しました。もっと早くすべきでしたね」

 

「......って、俺なんて必要ないと言いたいのか?」

 

「ふふ、あなたに教わったことを噛んでいるのですよ。感謝してます。教えた相手にお礼を言われるのはどんな気持ちですか?」

 

「なんだよ、恩着せがましいな」

 

五月は、全員家庭教師の案が出てから風太郎がいない時、五人で家で勉強をしている時のことを思い出した。四葉に理科を教えた時のことを。

 

 

『わっ、凄いわかりやすいよ!五月、ありがとっ!』

 

 

誰かに教え、誰かを成長させることにやりがいを感じ、礼を言われた時、どうしようもなく嬉しくなった。

 

「私は......あの時の気持ちを大切にしたい。だから私......」

 

そして手を合わせて目を閉じる。

次に目を開いた時、そこに迷いはなかった。母親への強い執着より、自分が描いた夢に進もうという意思が込められていた。

 

「先生を目指します」

 

「そうか」

 

「......さぁ、戻りましょうか」

 

国語52点

数学40点

理科82点

社会38点

英語46点

 

合計258点

 

中野五月/合格

たいへんよくできました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月14日、ケーキ屋にて。

下田は先月と同じものを食べていた。

時間が時間なので客は少なく、戒斗もいなかった。なので店長を話し相手にしていた。

 

「全く、ウチの店で騒がないでくれよ」

 

「仕方ねぇだろ。あれはあの二人の問題だ。私が立ち入っていいもんじゃねぇよ」

 

「それにしても、あの時の駆紋君は怖かったよ」

 

「まぁ、本気で止めようとしてたからな。あのお嬢ちゃんが、先生と同じ道を歩むのをな」

 

店長は深く事情を知らないが、下田の表情を見て思っていることは薄々勘づいた。

 

「その先生は、もう亡くなってるんだろ?」

 

「五年前にな」

 

「彼は多分、あの子にその先生みたいに早く死んで欲しくないんだろうね。その人の人生を体験することで、彼女が壊れて欲しくないんだろう」

 

「......お前、本当にケーキ屋か?」

 

さぁねと茶化すように言葉を濁す店長。

特に気にすることなく下田はケーキを口に入れた。

 

「それと、ウチにピーチソーダを頼むのなんて君くらいなものだよ。そのストラップといい、本当に桃が好きだね。あ、ピーチだったかな?」

 

「そうだぜ。間違えんなよ。あとこれはストラップじゃねぇよ」

 

「にしても、随分と手の込んだ作りだね」

 

突然だがロックシードの中には、他のそれとはすでに性能の領域が違うエナジーロックシードというものが存在する。シャックルやボディ、開錠スイッチなど通常のロックシードでは黒い部分が、エナジーロックシードでは青い透明色となっている。

 

「まぁな」

 

「青い透明というのもいいね」

 

「お、分かってんな!」

 

エナジーロックシードは基本四種存在し、マルオの持つメロンエナジーロックシードや、戦極凌馬が持つレモンエナジーロックシード。下田が持つピーチエナジーロックシードもその一つである。

 

「ま、これは私のお守りみたいなもんさ」

 

「ふーん......」

 

「ふぅ、ごちそうさん。はい、会計」

 

「はい。君の性格は好かないけど、いい客だからね。また来てくれよ」

 

鼻で笑い、店を出る下田。店長は残りの時間を技術向上に費やした。

 

「よーし、糞パン屋には負けないぞー!!」

 

そして場所は変わり中野家之墓前。

風太郎と五月が来た後にやってきたシダレヤナギの花束を持つ一人の男、駆紋戒斗。

 

墓石をじっと見つめ、彼女が生きていた頃を思い出す。

だが、それは不可能に終わる。

 

「......やはりな」

 

それでも浮かび上がる映像もある。それは人の死の光景。

月に一度、この墓に来る時、戒斗は毎回それを見ている。それでも、その記憶以外引き出すことができない。

 

「中野のことを思い出したのは、何かきっかけがあったのだろう......」

 

そんな戒斗の様子を物陰から見る一人の少女、中野五月。

 

「......戒斗さんに謝る瞬間はいつがいいのでしょう......」

 

「そりゃ今日だろ」

 

「わあっ!下田さん!?」

 

そしてその後ろにいつの間にか忍び寄っていた下田。

五月が大きく驚くが、戒斗には聞こえていない。

 

「やっぱ仲直りしたかったんだな」

 

「......はい。やはり戒斗さんとは良い関係を築きたいので」

 

「ま、今は辞めときな。せめて墓参りが終わってからだ」

 

下田の助言を聞き、戒斗の様子を見る。

そして彼はというと、記憶を戻すきっかけを考えていた。

 

「......やはり無駄か」

 

考えても結論が出ないことはわかっていた。だから自分らしくない、過去に縋るのは己の弱さだと頭から切り離す。意味の無い思考を辞め、戒斗は手を合わせることなく踵を返した。

 

「......俺は力を手に入れる。俺自身のために......」

 

そして去り際、花束を空に放り投げた。五月が驚くが、花束は宙を舞い、綺麗に墓石へと供えられた。その花の中から一本だけ、金に輝くものがあった。

 

「あの花は......」

 

「あれはあいつのもんだよ。よく持ってきてんだ」

 

「......そうだったのですね」

 

「なんだかんだ毎月来て、あいつなりに供養してるんだ。ま、花言葉は基本皮肉なやつだけどな」

 

二人は墓前を去る戒斗の背中を見つめる。普段通りに見えるが、二人にとってはとても悲しげで、寂しげに見えた。歩く速度もゆったりとしており、墓から離れるのを惜しんでるようだった。

 

「......不器用な人ですね」

 

そして戒斗の背中が一瞬異形のものへと変貌した。

見てわかるほどに頑強な外骨格が体を覆っているのに加え、禍々しさと圧倒的な強者の風格を感じさせる、さながら魔王のような姿に。

 

「戒斗、さん......?」

 

五月が突然の変異に驚いて目を凝らすと、元の戒斗の姿に戻っていた。

 

「......今のは」

 

それが幻だったと知って五月はホッと息を吐き、下田は今の幻覚について何も言わなかった。それからしばらくして二人は別れた。

五月は先程見た幻の姿に、直感的にバロンの面影を感じた。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

───最後の試験が一花の場合───

 

 

 

 

 

「それでは試験を開始します」

 

余計なことは考えちゃダメ。今は赤点を回避することにだけ集中しよう。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「わっ!鼻血ですか!」

 

「エッチな本でも見たんじゃない?」

 

そんなくだらないやり取りをしていると、話題はバレンタインへと移った。一花は戒斗にチョコをあげようとしたが、断られてしょげていた。そしてそれは風太郎たちが帰ってからも尾を引いていた。

 

「はぁ......」

 

「何よ、まだ引き摺ってんの?バレンタインだけが勝負ってわけじゃないでしょ」

 

「うー、そうだけどさぁ」

 

ここだけの話、一花と二乃は他の三人には言えないような相談をしていたりする。歳が近い、姉妹の中でも上にいるので悩むことや互いに思うことは似通っている。

 

「二乃だって戒斗くんと一緒にいたら好きになるよー」

 

「はぁ?そんなわけないでしょ......そんなわけないでしょ!」

 

「う、うん......ごめん」

 

半ばキレ気味に否定し、一花は二回言ったことに少し戸惑った。

二乃はそれかはも自分に言い聞かせるように違うと言い続けていた。

 

「でもなぁ......」

 

「何よ」

 

「ううん、なんでもない」

 

心の声を出すことなく、一花は誤魔化した。だが二乃を見ているとそう思わずにはいられなかった。

 

「私かあいつを好きなわけないでしょ......そんなわけない......うん、違う、違う......」

 

二乃の中で自覚がない以上は、言ったところで意味がないと一花は考える。

そして同時に、胸の内に小さい独占欲が湧き出した。

 

「(その気持ちに気づく前に、私が......)」

 

彼女の中で渦巻く気持ちは確実に黒いものだが、それには一花自身も気づいていなかった。

そして再度ため息を吐き、かれこれ数十分、二乃に空気が暗くなると怒鳴られるまで落ち込み続けていた。

 

「(好き......か)」

 

「......そんなわけないんだから」

 

そして翌日、三玖にとっては約束の日。一花は二乃と三玖がチョコ作りをしているのを窓の隙間から眺めていた。

 

「(三玖ファイト!二乃に手伝ってもらえたらいけるんだろうな。鈍チンのフータローくんでもわかるよね)」

 

だが戒斗は。

それを考えて一花は項垂れた。

 

「なんで好きになっちゃったんだろ」

 

本人には絶対聞かれたくないと思うも、後ろには戒斗の姿が。

 

「何をしている」

 

戒斗が声をかけると一花は体を跳ねさせて大きく驚いた。

 

「っ、か、戒斗くん!なんで───!」

 

振り向いてのけ反ったせいで、一花は手の甲を窓の格子にぶつけた。

ぶつけた時の音と同じように痛みも大きく、反射的に手を押さえた。

 

「あ、ヤバ......」

 

そして手をぶつけた音で二乃と三玖に覗き見しているのがバレるかもしれないと危惧する。

 

「見せろ」

 

「つっ......!」

 

戒斗が一花に駆け寄って手を取って怪我の具合を見ると、少し腫れていた。それを見て中野家に入って氷を持ってこようとしたが一花に服を引っ張られる。

 

「ちょちょ!待って待って!お願い!入るのはダメだから!」

 

「怪我をしているだろう。ともかく冷やすぞ」

 

戒斗はその制止を聞かずドアノブに手をかけた。一花は慌てて何とか中に入られないための方法を考える。なぜ家に来たのか聞くと、四葉が参考書を家に忘れたので代わりに取りに来ようとした風太郎の代わりに来たという。

それをきっかけに一花は新たな嘘を思いついた。

 

「そ、それこの前捨てちゃったかも......」

 

「正気か」

 

適当な誤魔化しが通じ、一花はこの機を逃すことなく畳み掛けるように何とか家から離すため、参考書を買いに行こうと無理やり誘った。

 

「ほ、ほら!無いと勉強できないし、どんなやつかわかる戒斗くんがいれば買い物しやすいし!ね?」

 

必死の説得によって戒斗は仕方なく頷き、二人は本屋に向かった。

その時、見覚えのある男が一人、本棚に手を伸ばしていた。

 

「あれ?フータロー君?」

 

「おお、お前ら。ん?戒斗、参考書はどうした?」

 

「こいつが捨てたらしい」

 

「......マジか」

 

本屋に行くと丁度本を買おうとしていた風太郎と出会った。その本のタイトルは「良い教師になるためのいろは」で、一花はクスリと笑った。

 

「へー、いい先生になりたいんだ」

 

「ま、まだ買うって決めたわけじゃねぇよ......」

 

風太郎は照れながら髪を弄った。決めたわけではないと言いつつも、その本を離す素振りは一切見えておらず、迷いなく買おうとしているように見えた。

 

「買ってあげようか?」

 

「いや、それは悪い」

 

「遠慮しないで。もしかしたら今度こそ落第になっちゃうかもしれないからね」

 

「ん?今度こそ?」

 

風太郎は聞きなれぬ言葉に違和感を持った。まるで一度そうなりかけたような言い方に。

 

「あれ?言ってなかったっけ?私たち前の学校で───」

 

前の学校で落第寸前だったことを伝えると、風太郎は修羅のような顔になり、一花に説教を始めた。数秒の口撃でボロボロにされ、一花はヨロヨロと不安定な歩き方で近くの本棚にいた戒斗の後ろに隠れた。

 

「お前は器用で飲み込みが早くて両立もできてるから見直してたのに、今ので一気に落ちたぞ」

 

「褒められてるのか怒られてるのか......」

 

「......でもまぁ、戒斗もいる。今度こそ、合格するぞ」

 

「......うん。やるだけやってみるよ」

 

それとは別に説教の続きだと風太郎の顔は先程の強面に戻って一花の方へ近づき、一花は風太郎が進む度戒斗を盾に風太郎を敬遠した。そんな不毛な鍔迫り合いが続き、戒斗は一言。

 

「上杉、とりあえずその本を貸せ。会計を済ませる」

 

「か、戒斗......」

 

戒斗の手には四葉のものと同じ参考書が。

すぐ近くの本棚にあったらしく、見つけるのに時間はかからなかった。だが値段は結構する。ちなみにいろはも中々の値段。

 

「参考書のついでだ」

 

「いや、これくらいは自分で買うから大丈夫だ。今は余裕あるしな」

 

「そうか」

 

手早く済ませるため、話少なく戒斗と風太郎はすぐにレジに向かった。

一花は待ちながら少し考える。本来参考書は自分が買うつもりだった。

自分で捨てたと言った手前、それが筋というものだと。

 

「戒斗くんって多分、お金使い荒いよね......」

 

だが戒斗はそこそこの値段の参考書を迷いなく自分で買おうとした。そしてついでと言いながら風太郎の本までも。

 

「(戒斗くんと付き合ったら、何でも奢られちゃうのかな......)」

 

仮に自分が付き合ったとしてその先を予想する。

戒斗に色々買い与え続けられ、それに甘えて自分はダメな人間になるのではないか、そんな未来が容易に想像できた。

 

「(そうならないためにも、戒斗くんのことは諦めよう。うん、それがいい)」

 

だから一花は、そう無理やり自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

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