上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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気持ち

「お、中野じゃん!」

 

「水澤君に谷田部君」

 

「名前覚えてたか」

 

「そりゃあ同じクラスだし」

 

ワイワイと話すのは一花と戒斗のクラスメイト。林間学校の時担任を口説こうとした二人である。

 

「そういや駆紋は?いないな......別れた?」

 

「もー、そういうのじゃないよ」

 

「ま、俺らのクラスでもはや公式カップルみたいなもんだしな。噂もあるし」

 

一花は嬉しくなるも、戒斗は不本意だろうと考えれば胸に痛みを感じた。目の前の二人は自分が悩んでいることなど知るわけもない。戒斗は自分のことをどう思っているのだろうかという悩みは、一花の中で長く続いていた。

 

「中野って誘っても断るから俺らのこと興味無いんだと思ってたぜ」

 

「あーごめんね。勉強してるから」

 

「なるほどな。そりゃ大事だわな」

 

二人は特に気にする様子もなく話していた。クラスメイトの前というのは案外気の抜けるもので、一花は心が安らぐのを感じた。そんな時、ズキンと手に痛みが走った。

 

「しまった。さっきぶつけた時の......」

 

一花が手を見ると腫れており、水澤と谷田部がそれを見てこの世の終わりのような顔をした。そして少しして指を鳴らし始めた。

 

「中野、駆紋はどこだ」

 

「え?急にどうしたの?」

 

「あの野郎、ぶっ潰してやる!」

 

「え、えーっと......」

 

二人は困惑する一花に構わず戒斗を探そうとする。その時の顔は憤怒にわなないているようだった。二人は血の気の多い様子を見せ、何故か戒斗に殺意を向けていた。

 

「一花、急に動くな。捜したぞ」

 

そしてまたもやタイミング悪く戒斗が一花を見つけた。

 

「駆紋コラァッ!」

 

「てめえよくも中野を!」

 

二人は突然戒斗に殴りかかった。戒斗が避けてもお構い無しに胸倉を掴んで揺らした。

 

「まさかお前がそんなDV男だとは思わなかったぞ!」

 

「こんなに腫れさせやがって!」

 

「......は?」

 

一花はここで二人の血気盛んな様子に合点がいった。恐らく二人はこの手の腫れが戒斗の暴力によるものだと勘違いをしているのではないかと。

 

「ちょっと待って!多分それ勘違いだよ!」

 

「止めてくれるな中野!勘違いなんざ......え?」

 

「そうかそうか勘違いか!......え?」

 

水澤と谷田部の動きが止まる。一花は事情を説明し、何とか誤解を解いた。突然殴りかかられた理由を聞いて、戒斗はそういうことだったのかと呆れていた。

 

「いやー、すまんすまん」

 

「焦ったよー。急にあんな風になるから」

 

「理解できない身にもなってみろ」

 

戒斗は水澤と谷田部を見る。二人は誤魔化すように頭をかいて笑っていた。

 

「ま、まいったなー」

 

「はぁ......一花、まだ痛むのなら冷やすべきだと思うが」

 

「あ、そうだね。ってもう買ってたんだ」

 

戒斗は一花に保冷剤と布を渡す。それを受け取って患部に巻き付けるようにして布を結ぶ。保冷剤も比較的小さめのものだったので巻き付けやすく、自然な仕上がりになった。

 

「とりあえず処置はしたが、痛むようなら言え」

 

「うん。ありがと」

 

「もうお前一人の体じゃない。周りのためにも、自分の体に気を遣え」

 

「......!」

 

一花は体温が上昇していくのを感じる。今の言葉は「女優が手を怪我してはいけない、見せる仕事である以上社長に心配をかける上、仕事に関わるので放置せず処置をしろ」という意味で戒斗は言った。

 

「(ヤバいヤバい......あっついよ......)」

 

一花もそれを理解していたが、好きな相手から言われる言葉というのは自分にとって都合のいいように変換されるようで、今の言葉が妻の体を心配する夫の心遣いように聞こえてしまった。

 

「か、戒斗くんっ!帰ろっか!そ、そういえばフータロー君は?」

 

「上杉はすぐに帰っていった。勉強のため、ここで時間を割いている場合ではないらしい」

 

「そ、そっか。じゃあ私たちも勉強会行こっか」

 

水澤と谷田部に別れを告げ、二人は風太郎たちの元へ向かった。その際あまり会話がなかった、と言うより一花の脳内は戒斗のことで一杯だったのでできなかった。

 

「(やっぱ無理だ......諦めらんないよ)」

 

戒斗が他の誰かと恋仲になり、添い遂げる未来を想像する。すると一花の中でそれだけは絶対に嫌だという明確な拒否反応が出た。

 

「(やっぱ私、戒斗くんのこと好きだなぁ......)」

 

改めて自分の気持ちに気づいた一花は、戒斗にあるお願いを申し出た。

 

「戒斗くん、私と勝負しない?」

 

「勝負?」

 

「うん。次の試験の合計点数、私が五人の中で一番高かったらデートして」

 

「ああ、構わんが......」

 

一花は心の中でガッツポーズをした。そして今まで以上に勉強を頑張ろうと意気込んだところで、戒斗から一つ忠告された。

 

「お前が結果を出したとして、無理をしているようならこの話は無しだ」

 

「......心配してる?」

 

「自分の力を過信して、哀れな末路を迎えた奴を俺は知っている。お前が仕事の合間に勉強することを咎めはせん。だがそれで体調を崩したりするのはやめろ。いいな?」

 

戒斗は一花にそうならないよう真面目に目を見て忠告した。それを聞いて一花は明るい笑顔を見せた。

 

「ん、おっけー!安心して見ててよ!びっくりさせちゃうから!」

 

一花の元気な様子を見て、戒斗は心做しか安心した。

そして風太郎たちがいる場所へ到着し、勉強会を始めた。その間一花は、戒斗と距離が近かった。

 

「うーさむさむ」

 

時は流れ帰宅した時、階段の一番上に三玖が待ち構えていた。

そして心を読んだように確信めいた発言をされた。

 

「戒斗のこと好きなんでしょ?」

 

一花は何も答えない。

 

「一花が違うって言っても、チョコあげようとしてた」

 

それから三玖と話していくと、改めて自分が戒斗のことが好きであると実感した。そして三玖が五人で一番の成績で赤点を回避し、風太郎に告白すると言い出した時、一花は置いていかれたような気になった。

 

「でも、風太郎は今別のことに夢中っぽいから、またの機会にしようかな。あ、でも合計点数は一番取るよ」

 

「......私も、三玖には負けないよ。自分のためにも」

 

「じゃあ、勝負だね」

 

三玖の中でどんどんと変化していく気持ちと、自分は一向に進めずにいるという差を感じながらも、一花は負けないように戒斗からの忠告を破り、もう少しだけと言いながら少し無理をした。

 

「中野さん、スタンバイお願いします」

 

「はい!」

 

撮影の合間も少しの時間があれば迷わずノートを開き、勉強していた。

 

「一花ちゃん、少し休みなよ」

 

「あはは、学生ですから」

 

その心配はもっともで、社長にはここ最近の一花の勉強に対する執念のようなものは、彼女にとって明らかな負荷になっているように見えた。

 

「(まぁ、十中八九彼が関わっているんだろうね。一花ちゃんが倒れたりしなければいいが......)」

 

夜中になっても、姉妹全員が寝ていたとしても一花は一人勉強をしていた。

 

「(もうだめ......今日は寝て明日......)」

 

今にも寝落ちしそうになった時、一花はふと思った。

 

「(今がいつまでも続くとは限らないよね......いつ戒斗くんが他の子に取られるか分からないし......)」

 

頬を叩いて気合いを入れ直し、もう少しだけと勉強を再開した。

そして期末試験が始まり、結果返却の日、集合場所のケーキ屋にて。

 

「四葉!やりましたね!一番危なかったのに!」

 

「おめでとう」

 

「えへへ」

 

まさかの結果に五月と三玖が四葉を抱きしめる。風太郎もうんうんと頷き、大満足していた。

 

「私史上一番の得点です!合計223点なんて初めて取りました!」

 

「私は計258点。比較的高得点ではありましたが、怠けずもっと伸ばすのが今後の課題です。三玖はどうでしたか?」

 

「私は276点」

 

あまりの高さに四葉と五月は目を見開いて驚愕した。

 

「えー凄い!」

 

「さすが三玖ですね」

 

そんなやり取りをしていると、遅れて一花も入店した。

 

「あ、一花も来た。二乃はまだかな?」

 

「試験結果が返ってきたらここに集まると伝えてあるはずですが......もしかして......」

 

「三玖。見違えたな。やはりお前が一番の成長株だ」

 

風太郎から一番だと褒められ、三玖は顔を綻ばせた。

そんな時、後ろで一花の点数の話が始まった。

 

「よかったー。一花も赤点なかったんだ。合計何点だったの?」

 

「えーっとね───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

280点」

 

ゾクリ、と三玖は寒気を感じた。

後ろを向くと一花はいつもと変わらぬ顔で笑っていた。

 

「ってことは......」

 

「一花が一番じゃないですか!」

 

「あ、そうなんだ」

 

だが一瞬チラリと三玖の方を見た時、その目は普段の一花とはまるで別人のように黒く染まっていた。それを見たのは三玖だけで、それが何をするのかは分からなかった。

 

国語49点

数学81点

理科50点

社会48点

英語52点

 

合計280点

 

中野一花/合格

たいへんよくできました。

 

「やった」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

───最後の試験が二乃の場合───

 

 

 

 

 

「これで試験は全て終了です」

 

ありえない、ありえないわ。私があいつのことを好きだなんて、絶対に認めない。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

1月。

風太郎が鼻血を出した時、どうしたと言いながらも二乃の意識は戒斗に向いていた。

 

「(こいつのことなんてなんとも思ってない......)」

 

2月。

遊園地に行った際、二乃は戒斗がいないと知って少なからずガッカリした。お化け屋敷には戒斗と入りたかったなどと少し思ったりもしていた。そして中は暗いので、林間学校の森を思い出させられた。

 

「(思い出しちゃだめ......)」

 

そして三玖とチョコを作った日。

 

「一人でできた!」

 

「いよいよ明日ね」

 

二人でキッチンに立っている時、戒斗の頬にキスをしたことを思い出した。

 

「に、二乃。大丈夫?」

 

「気にしないで。ちょっと黒歴史がね......」

 

礼とは言ったものの、相当恥ずかしいことをしたのには変わりなく、二乃はどうにか互いに記憶を消し去れないかと頭を抱えた。

 

そして3月。

試験結果が返却された。

 

「番号順に取りに来なさい」

 

「(あいつは私のことなんてなんとも思ってない......だから、あいつも、上杉にも、もう会わない)」

 

場所は変わりケーキ屋。二乃以外の四人と風太郎は赤点回避を喜んでいた。

 

「今のところ一花が一番だね」

 

「いやー、頑張りました」

 

「本当に......お仕事もあるのにすごいです。今回もてっきり三玖が一番かと」

 

三玖は困ったように笑い、一花を見た。

 

「私もまだまだだね」

 

「ごめんね、三玖。負けるわけにはいかなかったの」

 

「多分、戒斗のためだよね。一花は間違ってないよ」

 

ここで五月が風太郎の結果を見ようとする。そしてまた100点の罠に引っかかるところだったと寸前で引き下がった。

 

「チッ、無駄に賢くなりやがって......」

 

「気に入ってたんですね」

 

店長が試験突破の祝いということで風太郎の給料から引くので好きなだけ食べろと言うと、風太郎は笑いながら店長の脇腹を肘で突こうとしていた。

 

「ありがとうございます」

 

「でも、まだ一人来てないんです」

 

「あ、二つ結びの子なら君たちより先にここに来てこれを置いてったけど」

 

店長が手に持っているのは、試験結果の紙。

それを姉妹たちに渡し、戒斗がいないので風太郎に二乃からの伝言を伝えた。

 

 

『おめでとう。あんたらは用済みよ』

 

 

国語40点

数学39点

理科43点

社会52点

英語78点

 

合計252点

 

中野二乃/合格

たいへんよくできました。

 

「や......やったーーっ!!」

 

「見事全員赤点回避を成し遂げましたね!」

 

「お前ら、よくやった。特に三玖。お前はいち早く安全圏に入り、教える側に立ってくれた。助かったぜ」

 

「......うん」

 

三玖の表情は変化は薄いものの、喜んでいることはよく分かった。

風太郎は携帯を取り出して誰かに電話をかける。

 

「どうしたんですか?」

 

「祝賀会は強制参加だ。二乃を連れ戻す」

 

「電話出ますかね?」

 

「電話してるのは二乃じゃない。この場にいないのは二乃と誰だ?」

 

四人は察した。そして二乃が戻ってくることを確信し、祝賀会の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中野家のマンション前。

高級車から降りるマルオの前にいるのは二乃。

 

「帰ってきたか、二乃君」

 

「パパ。その君付けムズムズするからやめてって言ってるでしょ」

 

「悪かったね、二乃。先程、全員赤点回避の連絡を貰ったよ。君たちは見事やり遂げたわけだ。おめでとう」

 

「あ、ありがとう」

 

父親からの褒め言葉に不信感を二乃は抱いた。

 

「どうやら、認めざるを得ないようだ。だから明日からはこの家で......」

 

「あいつらとは会わない。それと......もう少し新しい家にいることにしたわ」

 

「なんだって......?」

 

「試験前に5人で決めたの。当然一花だけに負担はかけない。私も働くわ」

 

マルオは何も答えず二乃の言い分を聞いていく。

 

「自立なんて立派なことしたつもりはない。正しくないのも十分承知の上。でも、あの生活が私たちを変えてくれそうな気がする......少しだけ前に進めた気がするから。......今日はそれだけ伝えに来たの」

 

「......理解できないね」

 

マルオは、感情を出さずに二乃の言葉を一蹴した。

 

「前に進むなんて抽象的な言葉になんの説得力も無い。君たちの新しい家とやらも見せてもらった。僕にはむしろ逆戻りに見えるね。五年前までを忘れたわけではあるまい。もうあんな暮らしは嫌だろう?いい加減わがままはよしなさい」

 

五月の時と同じように、娘を叱る親ではなく、ただロボットのように言葉を繋いでいくだけ。そんなマルオの様子は、今に始まったことではなかった。

 

「それにあの男は......」

 

「あの男......ってもしかして戒斗のこと?」

 

「ああ、君は知らないだろうが彼は───」

 

マルオが何かを言いかけた時、誰かが二乃を抱き寄せて耳を塞いだ。

二乃が戸惑う中、その行動をとった人物はマルオを鋭い目で睨んだ。そして口を開き、ドスの効いた声で告げた。

 

「こいつらを巻き込むな」

 

「いつまでも続くと思っているのかい?君の日常はいずれ終わりが来る。......彼女のようにね。駆紋戒斗、僕は君を許さない」

 

「勝手にしろ。だがな、こいつらの日常を壊すな。こいつらは何も知らないままでいい」

 

戒斗の目は、今にも攻撃を仕掛けようとしているかのように意志を固めているようだった。

 

「......ぷはっ!戒斗!あんたほんっとに、加減知らないわね!強いっての!」

 

「二乃、戻るぞ。あいつらが待ってる」

 

「無視!?」

 

会わないと言いながらも、戒斗が来て安心している自分に気づかず、二乃はいつものように言葉を交わす。

 

「二乃。君が進もうとしているのは茨の道だ。うまくいくはずがない。後悔する日が必ず訪れるだろう。こちらに来なさい」

 

マルオの言葉も、二乃の意見も聞くことなく、戒斗は近くに停めてあったローズアタッカーに二乃を乗せた。

 

そしてアクセルを捻り、マルオに一言。

 

「こいつは貰っていくぞ」

 

「......パパ、私たちを見てて」

 

そう言い残してローズアタッカーは凄まじい速度でケーキ屋に戻っていった。その場に取り残されたのはマルオと江端の二人。

 

「江端。めでたいことに娘たちが全員試験を突破したらしい。僕は笑えているだろうか」

 

「もちろんでございます」

 

「そうか。......父親だからね。当然さ」

 

その顔は、笑顔とは程遠いものだった。

 

そして戒斗はというと、いつものごとく二乃にヘルメットを被せ、明らかに違反しているスピードで道路を滑走していた。

 

「あんたらは用済みって伝えたはずだけど」

 

「上杉から伝言だ。「面倒な人間関係というのは、片側の意見じゃ進まない」だと」

 

「はぁ?何それ?てかまた違反してるわね」

 

答えることなく無言でスピードを上げた。人通りが少ないのが唯一の救いだと二乃は思った。そうでなければ間違いなく死人が出るスピードだから。

 

「ちょ!速い!速いって!」

 

二乃に背中を殴られたので少しスピードを緩める。すると戒斗は怒鳴りつけられた。

 

「馬鹿じゃないの!私じゃなかったら落ちてるわよ!?」

 

「お前だからああしたんだ。あと話は変わるが、四人も試験は合格した。これでめでたく全員突破だ。それと、上杉は満点ではなかった」

 

「あいつが?」

 

「色々あってな(奴も重圧がのしかかっていたんだろう。他ならぬこいつらのための)」

 

ざまあみろと後ろで笑う二乃を見て戒斗はやはり悪女は悪女なのだと頷いた。

そして二人は考える。長かった家庭教師生活もこれで一区切り。卒業までの不安はあるが、五人は一つ壁を乗り越えた。きっとそれは進級してからも糧となる。

 

「お前の言う通り、俺と上杉は用済みというわけだ」

 

「やっといなくなってくれるのね」

 

胸の痛みに気づくことなく、二乃は嘘を並べていった。

 

「ついに邪魔者が消えて、私たちの日常が帰ってくるのね」

 

「そうだな。お前たちは晴れて生徒ではなくなるわけだ。あとは頑張れよ」

 

「っ、誰に言ってんのよ。あんたらがいなくなってよりやる気が出るってもんだわ」

 

「......お前とこう話すのも、最後になるな」

 

家庭教師と生徒としてではなく、これからはただの友人として話すようになる。その何気ない事実を、二乃は戒斗と距離が離れたように感じた。

 

「ふん、ようやくよ」

 

そう言う二乃の声は暗かった。清々しているような態度だが、戒斗の体を掴む力が強くなっている。離したくないとでも言うように。

 

「(最後......か)」

 

二乃はこれまでの日々を振り返った。駆紋戒斗ではなく、バロンに初めて会った子供の頃。

戒斗をストーカーと罵った時、襲おうとしたと勘違いした時。ダンスを見た時や食べ歩きをした時。

 

「(結構、楽しかったな......)」

 

バロンの正体が戒斗であると気づいた時、それと同時に林間学校で命を助けてくれたのが彼であると気づいた時。

言い合いをすることはあったが、二乃にとって楽しい日常だった。

 

「ねぇ、戒斗」

 

その日々が無くなるのかと思うと、もういつものようなやり取りができなくなるのかと思うと、二乃は物寂しさを感じ、自然と戒斗を手離したくなくなった。

 

「なんだ」

 

だから、もう離れないようより力を込めて戒斗を抱き締めながら、二乃は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好き」

 

 

 

 

 

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