上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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虎岩温泉

「あ、駆紋さーん!」

 

「席こっちだよー」

 

二人に言われて戒斗は二乃を席に座らせ、風太郎の手伝いをしにキッチンへ向かった。席に座ってからも二乃は先程のことを思い出し、後悔していた。

 

「(言っちゃった!言っちゃった!あいつが好きだなんてどうしちゃったの私!初めての告白なのに......なんで突然言っちゃったんだろ......あーどうしよう!)」

 

「二乃ってばどうしたのかな?」

 

一人で表情をコロコロ変える二乃に四人は首を傾げる。

そして二乃は、戒斗からの反応がないことに腹を立てていた。

 

「......まぁいいわ。後でにしてあげる」

 

「なにはともあれ、期末試験突破、お疲れさま!かんぱーい!」

 

そしてそれぞれが別のケーキを頼み、乾杯して祝賀会が始まった。

三玖は本当に赤点回避をできるとは思っていなかったと驚き、四葉は答案を額縁に入れて飾ろうとしていた。

 

「それはもうちょっといい点を取ってからにしよっか」

 

「お祝いだからってこれだけ贅沢しても大丈夫かしら......」

 

「店長さんがご祝儀としてご馳走してくださるみたいですよ」

 

さりげなく店長はレビューで☆5つけてくれよ。などと言ってきたが、戒斗から引きずられてキッチンに連れていかれた。

 

「それにしても、私たちの注文する商品はやはりバラバラですね」

 

「まぁこれは平常運転だね」

 

三玖は自分のケーキを少し切り、四葉に向けた。

 

「えっ、何これ?」

 

「現文の問題、四葉の予想がドンピシャ」

 

「そうでしたね」

 

「あれは助かったわ」

 

四人がケーキを差し出し、それを四葉が美味しそうに食べる。

そして全員で助け合ったので、ケーキをシェアしようと五月は提案した。

 

「私たちも、このように分け合ってこの試験を突破できたのですから」

 

そして目を光らせ、それぞれのケーキを見る。

 

「しかも色んな味が楽しめてお得です!」

 

「本当はそれが目当てじゃ......」

 

五月の食欲に一抹の不安を抱えている一花に、誰かがケーキを食べさせようとフォークを向けた。

 

「はい、一花」

 

その誰かこと三玖は、次は負けないと無言で伝え、一花の口にケーキを入れた。

 

「......はい、三玖」

 

そして一花は次も自分が勝つと伝え返し、三玖にケーキを上げた。

 

「わっ!五月のケーキ凄い美味しい!」

 

「ええ。私のおすすめです。もう一度食べてみたかったんですよ」

 

「もう一度って、いつの間に一人で来てたのよ」

 

下田と初めて出会った時だが、五月はあまりそのことを思い出したくなかった。その日は、戒斗と喧嘩別れをした日だから。

思いの外機会が無く、まだ謝れずにいたから。

 

「えっと......その時もご馳走になりまして......あと、皆に話しておきたいことがあるのですが......」

 

恥ずかしげに改まり、五月は自らの夢を姉妹に伝えた。

 

「私、学校の先生になりたいんです」

 

もちろん過ぎた夢ではあると言う五月を四人、特に四葉が全面的に肯定した。

 

「五月の授業わかりやすかったもん!ぴったりだよ!」

 

「当然、私たちも応援するよ」

 

「じゃあ、五月は大学受けるんだ」

 

「はぁ〜、いよいよ三年生になるって感じね......」

 

二乃は怠げに呟く。彼女は進路といった自分の将来を設計するというのは案外面倒だと思っていた。

 

「(でも、あいつとお店やるのも悪くないわね......って!何考えてんの私は!)」

 

「進級といえば、お父さんに連絡しないと」

 

「それなら私がしといたけど、返事はまだ......」

 

「あー、大丈夫よ。さっき私が直接話してきたから」

 

五月が父からの反応を問えば、二乃はあまりいい顔をせずそのまま答えた。それを聞いて四人も苦い顔をする。

 

「今はまだ甘えさせてもらってるけど、いつかけじめをつけないといけない日が来るはずだわ」

 

「でも、マンションに行ったにしては帰ってくるの早かった」

 

「あいつがバイクで来たのよ」

 

なるほどと四人は納得し、戒斗の父親に対する態度に驚いていた。

あの父親にそんなに噛み付くのかと。五月は少し前に戒斗が父と電話していた時のことを考える。

 

「(......見ているこちらが一番焦りましたよ......)」

 

「それにしても戒斗くんブレないね」

 

「ほんとよ。私もなんであんなこと言ったのかわかってないわ......あ”」

 

口を滑らせてしまい、二乃は堪らず口を押さえた。

姉妹たちの詮索を何とか避け、皿の片付けをすると言って強引にその場を離れた。

 

「ついでに店長さんにお礼行ってこないと」

 

「私もお手洗いのついでに手伝うよ」

 

そしてキッチンでは、ケーキ屋陣の三人が休憩していた。

 

「じゃあ二人とも。僕は少し休憩入れるから、後はよろしくね」

 

「はい。あ、店長。プリンを一つ取り置きしてもいいですか?」

 

「いいけど好きだったっけ?」

 

「いえ、バレンタインのお返しに」

 

店長は今まで見たことの無い嫉妬と驚きの混ざった顔になり、裏切り者と言い残して奥への扉に手をかけた。

 

「妹のですけど」

 

「!な、なんだそういうことか。てっきりあの五人のお友達の誰かからかと思ってたよ」

 

「有り得ないですよ」

 

ふと、三玖からはバレンタインのためかどうかはわからないが、一月から貰っていたことを思い出した。

 

「って、そんなわけないか」

 

「返すくらいはしておけよ」

 

「あ、確かに......って二乃、なんか用か?」

 

「あ、うん。戒斗に用があるの」

 

風太郎は戒斗の居場所を指さし、プリンを取りに行った。

 

「何の用だ」

 

「お、お手伝いしようかなって」

 

「そうか。助かる」

 

二乃はしばらく戒斗を見つめ、話を始めた。

 

「バイクで言ったこと、覚えてる?」

 

「俺のことが好きというやつか?」

 

二乃は頷く。

 

「それ、忘れて」

 

戒斗は了解した、と一言だけ返し、店の準備に取り掛かった。

二乃は自分にとって一世一代の告白にもう少し反応してくれてもいいだろうとむくれた。

 

「やっぱ忘れないで」

 

「どっちなんだ」

 

「そんな反応されたらムッとくるわ。せっかく勇気出したのに......」

 

忘れてくれと言ったり忘れないでと言ったり、かと思えば悔しいのか悲しいのか分からない顔をする。

戒斗は一人で表情を何度も変える二乃に、少し困惑していた。

 

「私は、あんたが好き。バロン様じゃない、あんたのことが」

 

「何だ急に」

 

「好き、大好き」

 

好きと連呼するだけで二乃が何を言いたいのか全く分からず、身の危険を感じてバナナロックシードを取り出す戒斗。

 

「対象外だっていうんなら、無理にでも意識させてやるわ」

 

「意識?」

 

「前にあんたみたいな男でも、好きになる女子が地球上に一人くらいいるって言ったわよね」

 

戒斗は記憶を辿ってその言葉を思い出す。池から落ちてシャワーを浴びた時にそんなことを言われた気がした。

 

「それが私......って言いたいけど、そうもいかないのよね」

 

「どういうことだ」

 

「名前は言わないけど、あんたを好きな子って他にもいるの」

 

顔には出さず、戒斗はその相手が二乃のような性格ではないことを柄にもなく祈った。

 

「その子よりも私のことが好きになって、私のことしか見れなくなって、私と付き合いたいって言うまであんたにアタックするわ」

 

言葉の意味はわからなかったが、とんでもなく嫌な予感がしたのでとりあえず戒斗は何とか話を終えるため、さっさと頷いた。だが二乃は構わず畳み掛けるように耳元で囁いた。

 

「誰にも渡さないから」

 

返す言葉が見つからず、そのまま戒斗の気は滅入るばかりだった。

そしてキッチンの入口に隠れて、二人の話を聞いている者がいた。

 

「(まさか二乃も......)」

 

「(いやそんな話キッチンですんなよ......)」

 

思わぬライバルに焦る一花と、憎まれ口を叩く風太郎。

一花は慌てて気づかれないよう席へ戻り、風太郎はキッチンに入って二乃を退散させた。

 

「ドンマイ、戒斗。強く生きてくれ」

 

「あぁ......」

 

その日戒斗は、珍しく上杉家に泊まらせてもらった。

終始二乃のことが頭から離れず悩んでおり、風太郎とらいはが何とか元気づけようとしたが、失敗に終わった。

 

試験も終わったので特に中野家に用事はなく、二人は休みが明けるまで勉強会をオフということにして、 風太郎はずっと勉強をしていた。

 

「ところで二人とも、もうすぐ春休みだからどこか行きたいなってお父さんと話してたんだけど、どうする?」

 

「俺は───」

 

「だーめ!行かないなんて言っちゃだめだよ!」

 

らいはに押されて先を任せた戒斗だったが、予定が入っていたので上杉家と旅行に行けなかった。

 

「......とりあえず、お兄ちゃん買い物行ってきて」

 

「なんでだよ。せっかくあいつらと会わなくて済むんだ。今日は一日勉強......」

 

「働かざる者食うべからず、だよ」

 

らいはが恐ろしい笑顔を向けたことで風太郎は嫌々ながら買い物へ行った。

横断歩道で信号待ちをしている時、後ろでカップルがイチャついたことで戒斗と二乃の話を思い出し、風太郎は苛立った。

 

「ケッ、くだらねぇ」

 

「......フ、フータロー?」

 

一言言おうとしたところ、三玖と偶然出会った。

 

「元気そうだね。試験終わってからずっとうちに来てくれないから心配した。戒斗は元気?」

 

「行く用事があるわけでもないしな。戒斗はまぁ、元気だ」

 

暗に行く気が無いと言われた三玖はへこみ、風太郎はいたたまれなくなった。

 

「え、えーっと、お前も買い物?......ん?でもここよりも近くに店があるのになぜ......」

 

「べ、別にフータローに会えるかもしれないから前に迎えに来た記憶を頼りに少し遠回りしてこのお店まで来たわけじゃなくてたまたま歩いてたら自然とこのお店に来ちゃったわけで」

 

「三玖史上一番の長文」

 

「こ、これが目当てで来たの!」

 

三玖の言う目当てのものとは、3000円以上お買い上げのレシートで豪華景品を当てるというものだった。

その中でも一番の目玉はA賞の温泉ペアチケット。

 

「あ、ここの行き先、おじいちゃんの家と近い。懐かしいしこれにしようかな」

 

「は?温泉なんて金にならん。狙うならもちろんE賞の商品券だ!待てよ......このB賞のペアリング、売ったらいくらだ?」

 

「フータロー、そういうとこだよ」

 

風太郎はどの賞が一番金になるかと査定するという夢もクソもない行動を始めた。

それから三玖と好きな人がいるかなどと話をしたり、互いの買い物に付き合いながらなんでもないことを喋っていた。風太郎は家に引こもるよりずっと有意義な休日を過ごし、楽しさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ヤッホーーーーー!!!!」」

 

 

「まさか本当に当たるとは......」

 

「一人分自腹で来たかいがあるってもんだ」

 

「これもお兄ちゃんのおかげだね。ありがとっ!」

 

上杉家は温泉旅行に来ていた。

ペアチケットなので勇也は自腹である。

 

「ん?なんだろこれ。お兄ちゃん、写真撮ってー!」

 

らいはが駆け寄ったのは大きなベル。

写真を撮ろうとしたところ、携帯の充電が切れていたのでできなかった。

 

「しゃーねー。次行こうぜ」

 

「お兄ちゃんもついてきてよー」

 

「......まぁ、いいか。どうせ誰からも連絡来ないんだ」

 

風太郎はこの旅行をとことん楽しみ、一旦中野家を忘れることにした。そして先程の勇也とらいはのように絶景を前に叫んだ。

 

 

「「ヤッホーーーーー!!!」」

 

 

「!?」

 

「何!?」

 

らいはでも勇也でもない誰かと声が重なり、思わず隣を見る。そこにいたのは五月。

二人して驚く中、さらに何人かが頂上まで登ってきた。

 

「あれぇ!?上杉さんじゃないですか!」

 

「はぁ......はぁ......フータローも、当たった、んだ......」

 

「フータローくん、おはよー」

 

「なんだ。戒斗はいないのね」

 

風太郎はここまでの偶然があるのかと運命を恨んだ。

 

「お前らも家族旅行かよ......ありえねぇ......!」

 

「まさに家族旅行だ。だが、気をつけなければいけないよ」

 

「っ!」

 

四人以外の男の声を聞き、風太郎は寒気を感じた。人数を確認すると、登ってきたのは五人。

一花、二乃、三玖、四葉、そして───

 

「旅にトラブルは付き物だからね」

 

「(中野、マルオ......!)」

 

戒斗から名前を聞いただけの、中野父。喫茶店で見た時は意識が戒斗に向けられていたから分からなかったが、なんの感情も宿していない氷のように冷たい目をしていた。

 

「この島唯一の観光スポット、「誓いの鐘」です。この鐘を二人で鳴らすとその男女は、永遠に結ばれるという伝説が残されているのです」

 

「は、ははは。そういう伝説どこにでもあるよな!コンビニか!」

 

引き攣ったというレベルでないほど固まった笑顔で中野家にとりあえず話しかけるが、誰にも反応されなかった。

 

「さて、ここで昼食にしよう。全員準備を始めてくれ。それと、滑りやすいから気をつけるんだよ」

 

個人に絞って離そうとするも全員余所余所しい態度をとり、風太郎は突然の変化に混乱するしかなかった。

そして明るさの化身の四葉までもが緊張しているだのと言いながら風太郎から離れていった。

 

「さぁ準備を始めよう。久々に全員が揃ったからね。家族水入らずの時間だ」

 

そんな態度の理由を考えることなく、風太郎は勇也とらいはの後を追うことにした。

 

「おせーぞ風太郎。心配だから戻ってきちまった」

 

「あれー?なんでみんないるのー?」

 

「......待て、らいは」

 

五つ子たちに近づこうとするらいはを、勇也が止めた。

 

「誰かと思ったら、ありゃあ......」

 

勇也が見ているのは、マルオ。

 

「おや、雨が降ってきたね。山の天気は変わりやすいね。下山して山に向かおう。江端、片付けを頼んだよ」

 

昼食にしようと言ったかと思えば、すぐに下山する。五人も戸惑いながらついていき、旅館へ戻って行った。

 

「上杉君、戒斗さんは来られないのですか?」

 

「あいつは予定があるんだと」

 

「......ならあなただけで。後でお話があります」

 

それだけ伝えて五月も下山した。

風太郎は面倒な父親に付き合わされて可哀想だなと、五つ子を哀れんだ。

 

「雨なんて降ってないけど」

 

「ともかく温泉行くか。風太郎、どんなとこだ?」

 

「たしか......虎岩温泉ってとこだ」

 

 

 

 

 

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