上杉家と中野家が旅行に行っている時、戒斗はヘルヘイムの森にいた。
戦極凌馬お手製の圏外でも通話可能な携帯を持ち、あるインベスを探していたのだ。
『どうだい、進展はあったかな?』
「まだ何も言えん。正直なところ、前にいた世界と同じ場所に奴らがいると思えない。それに、奴らも死んでこの世界に来たとしたら、警戒くらいするだろう」
戒斗は、向こうから手を出さない限りこちらも手を出すことはしないと言ったが、もし森の中でクラックを開き、人間界に侵入してきたなら、もしくはそれをしようとするインベスがいたなら。
それを考え、まずは森を探索することでオーバーロードを見つける。
向こうから手を出してくるなら、こちらも迎え撃つという手筈になっていた。
「あと、さっきまでいた範囲には多分いない。奴らがいるのなら、あそこまで果実は実らん。いるとすれば、ここからかなり遠くだろうな」
『たしかにね......とりあえず、そこの範囲にしかいないと思うから虱潰しに探してくれ。私も手がかりが掴め次第、すぐに伝えるよ』
凌馬が絞った範囲での探索は、すでに半分ほど終了していた。
残り半分と言っても大規模な遊園地くらいの面積はあるが、最初に比べれば大きく進んでいた。
「さて......奴にはこれくらいでいいだろう」
凌馬への嘘の報告を終え、戒斗は戦極ドライバーを腰に巻いて背後の植物に隠れた相手に話しかけた。
「姿を現せ、オーバーロード」
「やはり気付かれるか......」
瞬時に戒斗の眼前へ迫ってくる敵の名はデュデュオンシュ。
孔雀のような容貌をした中華風のオーバーロードインベスが一体である。
「駆紋戒斗、貴様は覚えているぞ。以前の世界では戦うことは無かったが、同族の仇だ。惨たらしく殺す」
「やはりな。俺はオーバーロードを殺していない。だが、貴様は俺にだけほかのものとは異質な怒りを感じている......その理由は大体察しがつくがな」
その理由について深くは言わずにコートを翻し、バナナロックシードを取り出す。
「ムン!」
デュデュオンシュは戒斗に変身の隙を与えまいと容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
「フッ!」
「ガ......グウッ!」
戒斗はその攻撃をしゃがんで避け、同時に蹴りを与えて距離を確保した。
「変身」
《ナイト・オブ・スピアー!!》
「死ねッ!」
間髪入れず向かってくるデュデュオンシュの攻撃を観察し、反撃の隙を見つける。
「(......ここだ!)」
「ハアアアッ!」
「甘い!」
バナスピアーを強く握り、すぐ仕留めるために強く一撃を放つ。
「貴様もなァ!! 」
「なっ......!?」
バナスピアーをデュデュオンシュの顔に向けて突き刺そうとするも、彼の持つ特殊な剣によって攻撃は跳ね返された。
バロンは吹き飛ばされて森の中で転がる。デュデュオンシュの方を見れば、体を叩きながらどうだと言いたげに戒斗を挑発した。
「効かん。ここに来てどれだけ果実を食ったと思っている。貴様ごときに俺は負けん」
「......なるほど。俺の知っているオーバーロードよりも強いのはそういう理由か」
狙いを剣のみに絞り、向こうからの攻撃を待つ。
狙うはカウンター。バロンは焦ることなくじっと待った。
「分かっているぞ。貴様はこの剣を狙っている。こちらが攻撃したと同時にその槍で突き刺すつもりだろう?」
だが高い知能を持つオーバーロードからすれば、戦闘における最善の手など知り尽くされている。故にバロンの考えは筒抜けで、向こうから攻撃を仕掛けようとする姿勢は無かった。
「残念だな、駆紋戒斗。その槍でこの剣を破壊することなどできない!!」
デュデュオンシュは万策尽きたバロンに向けて、トドメを刺すべく剣を振りかぶった。普段ならそんな油断したような真似は絶対にしない。
「(これで仇が打てる!)」
だが、デュデュオンシュの仲間意識の強さ故に今は感情が高ぶっていた。目の前の騎士はすでに自分に抵抗する術を持ち合わせていない。そう思っていたからこそ、彼は。
「たしかにそうかもしれん、”槍”ではな」
「......何?......貴様!!」
《カモンッ!マンゴー・オーレ!!》
今のバロンの姿と、手に握られた超重量のハンマーを見逃していた。
バロンは容赦なくパニッシュマッシュを食らわせる。
「フンッ!」
エネルギーを纏ったマンゴパニッシャーは、デュデュオンシュの体を容易く吹き飛ばした。
「ガフッ!き、貴様ぁあああッ!!」
勢いに負け、宙を舞うデュデュオンシュ。
戦闘力が大幅に下がったにも関わらず、未だ戦意は衰えを見せない。
むしろ戒斗への殺意とともに増すばかりだった。
「駆紋戒斗ッ!許さん、許さんぞ!貴様のような存在は、決して許さん!殺してやる!殺してやるぞ!!」
「これで終わりだと思うな!」
バロンは空高く飛び上がり、デュデュオンシュの真上に移動する。
そして地に落ちるデュデュオンシュを見下ろしてカッティングブレードを二回倒した。
「来い!こんな体でも貴様を倒すのは訳無いぞ!」
「貴様はここで、確実に仕留める!」
《カモンッ!マンゴー・オーレ!!》
「トドメだ!!」
下半身が無くなり身動きが取れず宙を舞うデュデュオンシュの体に、バロンは落下してくる勢いとマンゴーアームズの膂力を合わせたパワーで、マンゴパニッシャーを思い切り投げつけた。
「グ、ウググ......こ、んなもの......グウ......ッ!!」
「ハァアアアアアッ!!!」
残りの力で跳ね返そうとするも、最大の力で放たれた必殺技を殆ど無くなった体力だけで持ち堪えられるはずもなく、デュデュオンシュはマンゴパニッシャー粉砕された。
「グアアアアアアッ!!!!!」
地に落ちた衝撃で辺りの木々も薙ぎ倒されたのに加え、爆散した音を聞いて森に棲むインベスがやってきた。
「ギャッ!」
バロンはバナナアームズに戻り、対初級、上級インベス用に動きやすさ重視で戦闘態勢を整える。
「奴に比べれば、貴様らなどどうということ───ッ!」
バロンは今この時、身軽になって正解だと思った。マンゴーアームズの敏捷性では、今の攻撃はほぼ間違いなく避けられなかったから。
今、バロンは本能的に危機を察知して首を傾けた。仮にもし、それをしなかったら一体どうなっていたか。
バロンの目の前で爆発したインベスがその結果を物語っていた。
「一度に”二体”とは......運が良いな、俺は」
デュデュオンシュとは比にならない重圧。変身当初のアーマードライダーであれば、相対しただけで自らの死を悟れるほどに、バロンの後ろにいる敵は圧倒的な戦闘力とプレッシャーを放っていた。
「久しぶりだな。葛葉に殺されて以来か」
「......貴様は、俺に勝てなかった猿......ではないな」
名をデェムシュ。
強さだけを求め、勝者の権利として弱者を潰すことを好む、好戦的な性格と残忍性、他を寄せつけぬ強さを持つ、オーバーロードが一体である。
戒斗は以前の世界でデェムシュに勝つことはなかった。初めて遭遇した際は徹底的に打ちのめされ、次に会った時も勝負はつかず、最後は戒斗ではなく、葛葉紘汰の手によって撃破された。
「デュデュオンシュをああも容易く倒すとは、勘は鈍っていないようだ」
「当たり前だ。今から貴様も倒す。あの時の俺の同じと思うな」
「ほざけ。お前は死ぬ。今ここでだ」
「それを決めるのは貴様ではない!」
《カモンッ!バナナ・スカッシュ!!》
バロンはあの時通じなかった技をぶつけた。
最初は通じるどころかダメージすら受けていなかった技。成長したバロンの技は、デェムシュの片腕を動かすことに成功した。
「奴よりも格上か......」
デェムシュは何度か手を開いて閉じる。
そしてバロンの技にガッカリしたように剣を向けた。
「消えろ。成長したようだが、貴様はまだまだ弱い。果実を摂取した俺には到底敵わない」
「なるほど、貴様も果実を......だが!」
先に攻撃を放ったのはどちらか、先に攻撃を食らったのはどちらか。
それはどちらにもわからなかった。デェムシュの言葉を無視したバロンの胸にはデェムシュの剣が、デェムシュの首にはバナスピアーが深々と刺さっていた。
「オーバーロードともあろうものが、エネルギーが不十分なことに気づかなかったか?」
先程のスピアビクトリーで放出したエネルギーは四割程度。溜め込んでいた残りの六割による首への一撃は、デェムシュに十分なダメージを与えていた。
「グ、貴様......あの時と同じではないようだな......」
「当然だ......俺は貴様を倒す」
そう言うバロンの体にも剣が刺さっており、深刻なダメージを負っている。互いに相手の体を貫通している自らの武器を抜き、体力の回復のために一度離れた。
「(まさか一撃でここまで......)」
「今日は見逃してやる。見たところ、あの時の物は持っていない。となれば貴様に用はない。次に備えておけ」
デェムシュは体を霧のようにして森の奥へと消えていった。
バロンは追おうとしたがベルトが火花を散らして腰から離れたことで変身を強制解除され、膝から倒れ込んだ。
「ぐっ............ここまでとは、な......」
元より強かったオーバーロードインベス。
デュデュオンシュはデェムシュより格下だったので戦極ドライバーでも倒すことはできた。
「奴が相手となれば......俺も、地力を上げなければ......」
デェムシュクラスが果実摂取による強化をしたとなれば、デュデュオンシュとは比べ物にならないほど戦闘能力も高くなる。
次に遭遇すれば、戦いは熾烈を極めることになる。
「フッ。帰ろうにも、このザマではな......」
戒斗は自身が思うよりダメージが大きいことも考え、ヘルヘイムの森で暫し休憩した。
数分後、危機を察知した凌馬からの着信が凄まじかったが、戒斗は見て返さなくても問題はないだろうと思ったのでそのまま帰った。
研究所に帰った時、激闘から服がボロボロの戒斗を見た凌馬は、まず一番に労った。否、本当は成果を聞くつもりでいた。だが、目の前の戒斗の姿はどうか。
「(恐らく出会ったのだろう......オーバーロードに)」
それを察したから、凌馬は深く聞くことはしなかった。
「やれやれ、止めなければこれだ。君は本当に身を案じないね」
「だが奴にも相応のダメージは与えた。かなり弱体化しているはずだ」
「了解だ。とりあえず、今日は帰りたまえ」
戒斗は肩を押さえながら歩いた。凌馬はその様子を見て決して軽くはないダメージだということを悟った。
オーバーロードに出会ったということも含めて、これからの行動を決めていく。
「(......にしても流石と言うべきか、よく戦極ドライバーでオーバーロードと渡り合うとは)」
それから凌馬は対オーバーロードの為、物資の生産に時間を使った。
ロックシードは極力生産せず、戦極ドライバーとゲネシスドライバーも自らの物の改造以外は手を出さなかった。
「ともかく、まずは整理だな。
ロックシードは戒斗くんの物を除いて0、残っているエナジーロックシードは私のレモンエナジーのみ、ゲネシスドライバーは一つ。戦極ドライバーも一つ。そして中野と上杉、下田......メロンにピーチ......」
今の状況を考えれば、凌馬たちの方にある戦力はあまりにも少なすぎた。デュークになる分には問題ないが、バロンに関しては話が別となる。
「バナナとマンゴーだけでは心許ないだろうに......よし」
戒斗自身の戦闘力も含めて戦極ドライバーでも十分に戦えるが、安全に越したことはない。凌馬は戒斗の分のゲネシスドライバーとレモンエナジーロックシードを作ることに決めた。
「だが彼のことだ。いらないと突き返されるかもしれないね」
一先ず前向きに検討するという方向で戒斗の戦力アップを頭に入れた上で、クラックの発生する周期、規則を計算する。
「出るとなれば明日......彼には言わないでおこう」
戒斗は止めなければどこまでも戦う。自分が死にかけようが彼は何にも屈しないため、何度も挑み続ける。体力のことなどお構い無し、体への負担など全く考えず変身する。
「さて......場所はどこだ?......ふむ......結構遠いな。まぁ問題無いか」
クラックをすぐに閉鎖するには戒斗の力が必要ではあるが、凌馬はその頭脳から少し時間はかかるもクラックを閉じることができる方法を開発した。
「待てよ。この景色......っ!まさか───」
普段使わないであろう携帯電話を取りだし、何百件もの通知が来ていることを気にも留めずある男のチャットを開いた。
『息子と娘と家族旅行で温泉だぜ。写真送るわ』
そしてまた別の男のチャットを開く。
『家族で旅行さ。写真を送るよ』
「旅行さ、じゃないだろう。こいつら......同じところに行ってるじゃないか」
その男たちは同じところへ旅行に行っていた。
そして凌馬が察した通り、二人とも見事に旅館までもが同じだった。
「まぁ、近場の旅館はそこしか無いんだろうな。......温泉か」
気持ちよさそうな温泉に凌馬が目を光らせるが、そんなことよりもやるべきことがあると頭を振ってその考えを霧散させた。
「やれやれ、不運だな」
クラックが発生する場所に旅行に行くということは、必ず身が危なくなるということ。
「私も、早急に取り掛からなくてはね」
今すぐ向かおうとした時、凌馬は椅子の背もたれに不自然な突起を見つけた。抉り出してみると、何かが付着していた。
「ほう、また侵入者とは......やってくれるな」
剥がしてみるとそれは小型の盗聴器だった。
仕掛けたのは間違いなく敵であると考え、犯人の的を絞る。自分たちの会話を盗み聞きするような輩は誰か、万が一を考えて嫌な汗が流れた。
「───ッ!」
そして盗聴器を握り潰し、改造済みのダンデライナーに飛び乗り、一気にスピードを全開にして目的の場所へ向かった。
そして盗聴器を仕掛けた本人は、潰されたことに気づき、凌馬の発言を振り返る。
「フム......場所は温泉か。猿共の風呂になど行きたくはないが、見せしめのためだ。一先ず向かうとしよう」
重厚な甲羅を乗せた亀のような姿をしながらも、それとは程遠い異形の姿。その容貌からは想像もつかない知的な話し方。
彼はオーバーロードの一人、シンムグルン。
「......見つけたぞ。名前は......」
温泉という言葉だけを手がかりに慣れた手つきでパソコンを動かし、十数秒で凌馬が向かった旅館の場所を特定した。
画面にはデカデカとその名前が映し出される。
「虎岩温泉か」