上杉風太郎は悩んでいた。
目の前の誰が五月であるかを。普段ならば何とか見分けがつくようになっていた。だが今の五人は、顔だけでなく髪型まで五月だっだ。
「(だが四葉が偽五月である線は薄いな。こいつの悩み変装のクオリティ。となると......)」
全員が同じ姿をしているのを見つけたのは五人の部屋の中。
風太郎はマルオに良い印象を持たれておらず、更には五月に手を出そうとしたと勘違いされ、中野祖父に殺されかけている。
「(今バレたら絶対詰むな......)」
「おじいちゃん、安心して。いまでもそっくり仲良しだから」
「朝ご飯教えに来てくれたんだ。大広間だよね」
「(父親かと思ったが、バレてないなら結果オーライだ)」
狭い炬燵の中で風太郎が動けば、手を誰かの足にかけてしまう。
「痛っ。ちょ、上杉さん、踏んでますっ」
「すまん......」
中野祖父が首を傾げ、誤魔化す五月。そんな流れの中、風太郎は昨夜のことを思い出す。あの時告げられた言葉に驚きすぎて、五月の肩を掴んで段差に足をぶつけさせてしまった。
「(ということは、あの五月の足にも怪我の痕が......)」
「......!?」
「ちょっ......!」
風太郎は一人一人の浴衣を捲っていく。
「だめ......!」
「な、何してんのよ!?」
そして怪我の痕がある五月を見つけた直後に捕まえようとしたが、中野祖父に続いて大広間に行った。
「そうだ一花、後で朝風呂に行かない?」
「いいけど、二乃が誘うなんて珍しいね」
全員が出ていき、十分離れるまで炬燵の中で耐える風太郎。
「......一応成果はあったな。再確認できた......しかし、期末試験も無事合格して順調だったのに......一体なぜ......」
そして負荷のかかっていた体を鳴らし、部屋を出た時、扉のすぐ近くに五月がいた。
「ちょっといいですか?」
「誰だお前?四葉?」
「ブー。ヒントです」
両手で髪を持ち上げて何かの形を作る。
「二乃!」
「ヒント②です」
「あー、一花だ!」
五月からすればかなり分かりやすいヒントを出しているのだが、風太郎の鈍さを侮っていた。
「...........」
「そうか!まさかの五月本人!」
「わざとでしょ」
膨れっ面で風太郎の胸を叩く五月。
「突然お父さんがいて驚いたでしょ。前の懸賞に間違えて前の住所書いちゃった」
「懸賞ってことは三玖か......」
風太郎は前を歩く三玖をよく見る。
早朝に五月と温泉で話した時は愛があれば見分けられるというトンデモ理論を再び出されたが、もちろん理解はできなかった。
「......降参だ。意地悪せず悩みを教えてくれ」
「それはルール違反。もう少し頑張ってよ。私も当てて欲しい。フータローに」
「じゃあせめて足を見せてくれ」
「え!なんで!?......あ、おじいちゃん」
相も変わらず小さな声で何か言いながら風太郎に近づく中野祖父。耳を傾ければ、また孫に手を出そうとしたなと殺気を込めながら言っているのが聞こえた。
「何もしてませんよ」
「三玖よ、何もされとらんか?」
「う、うん」
「っ!」
それを聞いて戻っていく中野祖父を追いかける風太郎。今顔だけで三玖と判別したこの男になら、見分け方を教えてもらえると考えたから。
「爺さん!いや師匠!お願いがあります!」
大広間。
五月に変装した四葉は、皆を待っていた。
「遅いなー。みんなどこにいるんだろ......お腹すいた......うーん。お腹が空きました!ちょっと違うなぁ......」
少しアホっぽさを出して。
「お腹が空きましたぁ〜......うんうん、五月はこんな感じ!」
そして温泉。
二乃は一花の背中を流していた。
「痒いところはありませんか〜?」
「もー、ここまでしてくれなくてもいいのに。......それで、なんで今日は私なんだろう」
「まぁ......あれ?足大丈夫?」
「あ、うん。痛くはないかな」
一花が二乃に続きを聞けば、ああ、そうねと再び話し始めた。
「一花の話が聞きたくなったのよ。ほら、あんたたくさんされてるらしいじゃない。告白とか」
一花は何も答えない。
「!」
「こんなこと、他の子には言えないわ」
二乃は恥ずかしそうに、そして嬉しそうに言った。
「好きな人ができたの」
○○○○○
「恋愛相談なんだけど」
二乃にはその気持ちに気づいて欲しくなかったな......恋することは良い事だと思うし、私は家族として応援すべき。
「出会いは最悪だったわ。でも気づいちゃったのよ。あいつが好きだって」
お願い二乃。それ以上言わないで。
「ええっと......友達の話、だよね?」
「私の話よ」
あぁ、やっぱり。変えようのない事実に、私は夢であってくれと願った。
「相手は......だめ!こればっかりは言えないわ!秘密!」
知ってるけど......なんなら告白してるとこ聞いたんだけど。
「つい先日、そいつに告白しちゃったけど、それが正解だったのかわからないの。そこで聞きたいの」
「......何を?」
「告白されたら、多少は意識したりするのかしら?」
戒斗くんのことだから、あまり気に留めなかったりして。
でも、私が男の子なら間違いなく意識しちゃうなぁ。
「私の経験では......だけど、そういうことはなかったかな」
「......そう」
今自分の考えを正直に言ったら、きっと二乃は喜んでアピールしちゃう。それだけは阻止したい。だからまだ曖昧なままでいさせて。
「告白じゃ足りない......と」
「え!いや、そうじゃなくて......」
まずい、このままじゃ......何とか誤魔化さなきゃ......!
「出会いは最悪だったんだよね。その人のこと、本当に好きなのかな?」
「えっと......元々、私はあいつだって気づかず別の人を好きになってた。
そしてあいつは、突然私の大切なものを壊す存在として現れたわ。最初は大嫌いだった。でも理解したの。嫌いなのは彼自身じゃなくて彼の役割だって」
別の人ってバロン様だよね......でも今二乃が好きなのは戒斗くんで......ってことはバロン様の正体が戒斗くんになるわけで......でも出会ったのは小さい頃で、その時のバロン様は背が高くて......えぇ......?
「そしてある日、彼と離れるかもしれないって考えたの。その時、離れて欲しくない、ずっといて欲しいって思ったわ。そう考えてからは歯止めが利かなくなっちゃって」
「そんなの......都合が良すぎない?」
「そうね。自分でも引いてるわ。でもこれは私の恋。私が幸せにならなくちゃ意味無いもの」
う、確かに。
「じ、じゃあもし!もし、同じ人を好きな人がいたら?その子の方が自分よりずっと彼のことを思ってるとしたら?」
「そうね......悪いけど、蹴落としてでも叶えたい。そう思っちゃうわ」
け、蹴落として......止まらない!二乃が止まらない!愛の暴走機関車だ!!話も聞いてくれない!相談って言ったのに!
「あんたと話せてよかったわ。やっぱ告白だけじゃ足りないのね」
「な、何するつもり......?」
「手を......ううん、抱き締めて......それでもわからないなら、キスするわ」
キ、キス!?でもほっぺ......ってわけじゃないよね。多分唇だよこれ!
「そ、それはまずいよ!いきなりキスって......」
私だってまだ唇にはしてないのに!
「そ、そうよね。冷静に考えて、下手くそだったら嫌われちゃうわ」
ん?
「あんた、キスシーンとかもうしたのかしら?」
んん!?
「ちょちょちょ!何するつもり!?」
「良いじゃない姉妹なんだから!」
「姉妹だからだめなの!」
戒斗くん助けて〜〜〜〜っ!!!
○○○○○
「......気のせいか?」
戒斗はどこか遠くで助けを求められたように感じた。
すでにデェムシュとの戦闘の傷もほとんど癒えているので、またヘルヘイムの森の中に入っていた。
「さて......」
《ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイト!!》
「喧しい着信音だな。なんだ」
『戒斗くんかい?申し訳ないんだが、虎岩温泉という場所に来てくれるかい?』
凌馬に詳細の説明を求め、理由を聞くと戒斗は目の色を変えて虎岩温泉に急いで向かった。
そして戒斗に伝えるべきことを伝えた凌馬は、シンムグルンを探していた。
「どこだ......場所は間違えていない......無闇矢鱈と破壊する訳でもなく......やつはここに来ているはずだ......ここに来ている人間が目的?......ここに来ている人間はあの二人とその家族......まさか!」
状況を把握し、オーバーロードが取りそうな行動を考えれば、旧友たちの家族の惨殺というおぞましい結論に至った。
それから旅館ではなく、凌馬はその旧友を探していた。だが旅館内のどこを探してもおらず、受付もいない。
「もう外にいるとしか考えられないな......ん?」
「ム?」
旅館を飛び出して辺りを捜索しようとした時、緑の怪物と目が合った。
亀のような風貌の人間とは明らかに異なる雰囲気。そして隠すことなく撒き散らす殺気。
「変身!」
《レモンエナジー......!》
「悪いが、君に時間を与える訳にはいかないんだ」
《ロック・オン!》
凌馬はレモンエナジーロックシードをゲネシスドライバーの「ゲネシスコア」にセットした。
戦極ドライバーと同じく無の空間からクラックが出現し、大きなレモンが凌馬の頭上にゆっくりと下降していく。そして右側のグリップ、「シーボルコンプレッサー」を押し込む。
《ソーダ!》
するとゲネシスコアの少し下の部分にあるコップのような形をしたところに絞られた果汁が炭酸混じりにシュワシュワと気持ちの良い音を立ててコップに溜まった。
頭上のレモンは一気に凌馬の頭へと落ちた。
《レモンエナジーアームズ!》
そして開き、果汁が飛ぶ。
《ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイト!!》
「やはり、我ながらいいセンスだ」
今ここに「アーマードライダー・デューク」が姿を見せた。
手には戦極ドライバー特有のアームズウェポンではなく、エナジーアームズだけの武器、「創世弓ソニックアロー」が握られている。
「ハッ!」
素早く弦を引き、物質ではなくエネルギーが矢として敵を討つため放たれた。複数本まとめて放たれたそのエネルギーを、シンムグルンは甲羅を使ってガードした。
「!」
「この程度か?とんだ期待外れだ───」
「そんなこと計算通りさ」
防御を終えたシンムグルンが攻勢に出ようと振り向いた時、すでにデュークは懐に迫っており、ソニックアローの両端に取りつけられている「アークリム」でシンムグルンを切り裂いた。
「グ!」
まともに一撃を食らうも、堪える様子はない。
それを見たデュークは甲羅だけでなく体全体の防御力が上がっていることを想察した。
「ふむ......以前よりもかなり強くなっているようだ。恐らく果実を摂取したのだろうね」
押されているにも関わらずデュークもそれほど焦ってはいない。むしろ安堵していた。戒斗にあそこまで手傷を負わせるほどのインベスとなれば、ゲネシスドライバーの性能を持ってしてもかなり不利になると思っていた。
「となれば......」
ソニックアローのスロット部にレモンエナジーロックシードをセットする。
《ロック・オン!》
「そして......」
シンムグルンを狙って弓を引けば、矢の先に黄色く光るエネルギーがどんどん大きくなり、やがて直径8m程のものになった。
「これなら君の甲羅も貫ける。私の勝ちだ」
「......言ってくれるなよ、人間が!」
猿と見下している人間に挑発され、シンムグルンは頭に血が上ってデュークへと駆け出した。
「ガアッ!!」
甲羅と一体化した蛇がデュークの首に強く巻きついた。その時の衝撃でソニックアローが手から離れて投げ飛ばされてしまった。
「......やはりね」
「どうした?命乞いか?だがもう遅───」
「いや、君はやはり馬鹿だ」
「......なんだと?」
武器がなくなり打つ手が無くなったと思ったシンムグルン。だがそれは勘違いである。
「このスーツは武器などなくともそこらの兵器にも勝るのさ。ここで問題だ。君の一番脆い蛇の部分に何tもの力があるパンチを当てればどうなると思う?」
「......まさか!」
おぞましい未来に気づき、急いで蛇がデュークから離れようとする。だがデュークは蛇を何度も殴り、力が緩もうとお構い無しに殴り続けた。
「ほらほら、まだ耐えられるだろう?ハァッ!」
「ウッ、グ、ガハッ!」
「さて、トドメだ!」
デュークが腕を下げれば、シンムグルンの体を無数の矢が貫いた。
「グウッ......!!」
膝から崩れるシンムグルン。体を貫いたその矢はデュークがソニックアローを手放した後も自動で照準を定め、放たれ続けていた。そしてずっと上空で矢は止まっており、デュークは任意のタイミングでそれを敵へと向かわせることが出来た。
「放っておいても死ぬ。最後に一言とかあるかい?」
「フ、フェムシンムがこの程度で......!」
「じゃあ私から。君は上杉と中野に手を出そうとしたみたいだが、相手が私で幸運だったね。彼らの子に危害を加えていたらと思うと、味方ながらに身震いするよ」
シンムグルンと目線を合わせ、ラッキーだったなと肩に手を乗せた。
「本当によかったね。戦う相手が私で」
「ど、どういうことだ......グフッ!」
矢によるダメージを食らいながらも、シンムグルン持ち前のタフさで立ち上がり、デュークに飛びかかった。
「それはね───」
───パチン。
デュークが指を鳴らせば、貫通している矢はレモンの切り身のような形に変形し、凄まじい回転力でシンムグルンの体を切り裂いた。
「あの子たちには、魔王がついているからさ」
「ウガアアアアアッ!!!!!」
さすがの耐久力もついに限界を迎え、体から火花を散らしながらよろめき、爆発した。
燃え盛る炎に焦がされながらも、シンムグルンはデュークに殺意を向けていた。
「貴様は、殺......」
最後まで言い切る前に、その体は塵になって消えていった。
デュークは変身を解除し、爆発跡を見つめていた。
「......その執念にだけは、敬意を表そう」
少し吹く風と共に吐き出したその言葉は誰に聞かれるでもなく、彼の心の中だけに留まっていた。
《ナイト・オブ・スピアー!!》
聞き覚えしかない着信音が聞こえたので、凌馬は携帯を耳に当てる。
「もしもし?」
『虎岩温泉というところに着いたぞ。それで、奴らはどこだ』
「あぁ、それならもう終わったよ」
『......は?』