上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

5 / 63
第一歩

やーやー皆。一花お姉さんだよ。

私達は二乃がフータロー君を眠らせて五月に送ってもらってる時、戒斗くんに怒られちゃった。

 

とは言っても、全員が正座して戒斗くんが仁王立ち、なんてことはありません。単純に言葉を投げられて怒られました。

 

いやー、最初フータロー君が死んだみたいに眠っちゃうから焦ったよ。

その時の戒斗くん、ちょっとビックリしてたしね。

 

「中野姉」

 

「姉って......たしかにお姉さんだけど」

 

「あいつは、いつもあんなことをしているのか?」

 

「あいつって......二乃のこと?ううん、いつもはあんな子じゃないよ」

 

「そうか......」

 

戒斗くんは何か考えてるようだけど、私には見当がつかないなー。

考えてる横顔がかっこいいなんて思ったりしてね。

 

「そういえば、戒斗くんは帰らないの?」

 

「直に帰る」

 

「そっか」

 

そっから会話が無くなっちゃった。四葉はアワアワしてるし、三玖は無言でスマホ弄ってる。二乃はさっさと帰りなさいよとか邪魔だとかきついことばっか言ってる。

 

「中野姉」

 

「一花って呼んでくれないかなー?」

 

「......睡眠薬というのは、あまり他人に飲ませるものではない。不用意に飲ませると副作用に対応できなくなる」

 

「副作用なんてあるの?」

 

「記憶障害、食欲不振、肝機能障害。まだまだあるが、ひとまずはこんなものだ」

 

怖っ。睡眠薬ってただ寝るだけじゃなかったんだ。まあ薬だし副作用はあるよね。

 

「戒斗くん物知りなんだね」

 

「......知りたくはなかったがな」

 

「え?なんて?」

 

「何でもない。姉のお前が注意しておけと言っただけだ」

 

なーるほど!

 

「お姉さんに任せて!」

 

「......ああ」

 

そう言って戒斗くんは帰っていった。少し元気がなかったように見えたけど、気のせいだよね。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「さて、昨日の悪行は心優しい俺が許すとして、今日はよく集まってくれた!」

 

やる気のないこいつらにキレそうだが何とか心を落ち着かせよう。

 

「まあ私たちの家ですし」

 

「上杉さん、駆紋さんはどうしたんですか?」

 

「戒斗はなんかやることがあるって言ってた」

 

「それって家庭教師より大事なの?」

 

まあ戒斗はこれくらいの時期にどっか行くしな。

しょうがないか。

あと絶対同じ日にどっか行ったりする。

 

「さあ?俺は知らん。それよりも、今日は昨日できなかったからテストを持ってきた!合格ラインを超えた奴には金輪際近づかないと約束する!」

 

五月はメガネをかけてやる気満々でテストを受け取った。

 

「これであなたの顔を見ずにすむならやりましょう」

 

「そういうことならやりますか!」

 

「皆!頑張ろ!」

 

「合格ラインは?」

 

「そうだな......60......いや、50あればいい!」

 

「別に受ける義理はないけど、あまり私たちを侮らないでよね」

 

テストを開始すると、5人は手応えありそうな表情で取り組んでいる。

よしよし、恐らく2人くらいは減るだろう。

5人に比べれば3人なんて───

 

そう、思っている時期が俺にもありました。

 

「お、お前らすげぇぞ!100点だ!」

 

マジかよこいつら......想像以上だ!

 

「全員合わせてな!」

 

想像以上にバカだった!!

 

一花12点

二乃20点

三玖32点

四葉8点

五月28点

 

合計100点。なんてこった。

 

「お、お前ら......まさか......」

 

「逃げろ!!」

 

あっ、待て!!

まさかこいつら......!!

 

「あはは、何か前の学校思い出すね」

 

「厳しいとこだったからねー」

 

「思い出したくもない」

 

「おかしい......勉強したはずなのに......」

 

「あいつ知ってんのかな?私達が落第しかけて転校してきたの」

 

揃いも揃って五人赤点候補かよ!?

 

「勘弁してくれよ......」

 

結局やることは変わらず俺は泣きかけた。

 

「こういう時戒斗がいれば......」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「よお戒斗!久しぶりだな!」

 

「2日くらいで大袈裟だ」

 

戒斗がいない家庭教師の日はどれだけ大変だったか!

 

「そういえば、お前一昨日何してたんだ?」

 

「......贖罪だ」

 

贖罪?なんか急に重いワードが出てきたな。

......深く考えるのはよそう。俺が関わるとマズい気がする。

 

「そういえば、起こしてくれてありがとな!」

 

「貴様、家庭教師と自分の勉強の両立はきついだとか言っていたな」

 

「それがどうかしたか?」

 

ゆくゆくは戒斗にも手伝ってもらうつもりだけどな。嘘とはいえ、2人で家庭教師って言った訳だし。

 

「間違っても俺に手伝わせようと考えるなよ」

 

......あれ?口に出てたか?

 

「俺とて家庭教師をやりたくてやっている訳じゃない。貴様に巻き込まれただけだということを忘れるな」

 

まあ戒斗には勉強じゃなくて他の部分ですげぇ助けられてるからな。そういう意味でも必要不可欠な存在だ。

 

「ああ、自分の予定は優先してくれて構わない」

 

そんな時、近くに高級車が止まった。すげーな。どうせとんでもない金持ちが乗ってんだろ。

 

「100万円はするんだろーな(適当)」

 

「車よりはバイクの方が速いぞ」

 

「論点ずれてるぞ」

 

車を眺めながら話しているとドアが開き、中野家が出てきた。

 

「あ」

 

「フータロー!」

 

「おはようございます!」

 

「なんですかジロジロと。不躾な」

 

「一昨日はよくも逃げやがったな!」

 

「ああっ!また!」

 

俺は死ぬほど全力であいつらを追いかけていった。

マジでふざけんなよあいつら!

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「行っちゃったね」

 

「ああ」

 

「戒斗くん、昨日ぶり」

 

「おはよ、戒斗」

 

「......ああ」

 

戒斗は、何故か後ろにいた一花と二乃と教室へ向かった。

一花はともかく、何故二乃がいるかというと、それは昨日の出来事が理由である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に一日の予定もなく、上杉家への用事を済ませた戒斗は、自主的なクラックの捜索をしていた。

戒斗が導き出した規則性として、クラックは人通りや密集地帯に出る傾向が強い。それを手がかりに探していた。

 

「......ん?」

 

ふと音楽が聞こえたので目をやると、元いた世界の時のようなステージでダンスチームが踊っていた。

観客もちらほらと集まり、少しずつ増えていく。

戒斗は、チームで踊る光景に思いを馳せた。

 

そんな時、焦りを含んだ声が聞こえた。

 

「おいどうするんだよ!これじゃ踊れねぇぞ!」

 

「......ん?」

 

「どうにかして手を打たないと......」

 

「だが、今更9人にすることはできないぞ」

 

「くそ......誰か手伝ってくれる奴は......!」

 

「無理だ!今から振り付けを覚えるのは不可能だ!」

 

赤と黒を基調にしたコート、チームバロンのような衣装を纏ったチームが困っているのを見て、戒斗は自然と声をかけた。

 

「おい」

 

「ん?」

 

「誰だアンタ?」

 

「何をそんなに困っている?」

 

「......他のチームは9人で踊ってるだろ?でも俺達は8人だ。センターがいないんだよ」

 

「いないと何かあるのか?」

 

「ああ。ルールがあってな───」

 

戒斗は話を聞いて大体は理解した。

どうやら、ダンス対決のチームはジャンルはバラバラでも人数を同じにしなければならないらしく、自分達は8人制のダンスしか踊ったことがないらしい。

 

「だが、このルールは納得しかねるな」

 

そしてそれはこの舞台で踊るのであれば当然の認識になっていて、知らない者、人数が違うチームは去れというルールがあると。

更に不運なことにいつもは8人制だが、今日は年に一度の記念日らしく、一風違った方法で対決する運びとなったらしい。

 

「そんなルールはぶち壊せば良いだろう」

 

戒斗の意見は間違ってはいない。ここはストリートダンサーの舞台だ。ルールに縛られていては踊れるもの踊れない。

男は悔しそうに歯を食いしばる。

 

「実は......この舞台で踊るのは、ストリートダンサーにとっては夢なんだ」

 

「......夢か」

 

「ストリートとはいえ、この舞台は長く続いてる場所でな。ルールを破ってまで踊るなんて、俺にはできねぇよ。こんな楽しい場所を作ってくれた人に顔向けできねぇ」

 

あまりにも純粋な、自分達とは違ったダンスへの思いを受け、戒斗はほう、と感心し、持っている荷物を地面に下ろした。

 

「......この対決のルールは?」

 

「え?客を楽しませたもん勝ちだけど......」

 

「なるほど。衣装はもう1着あるか?」

 

「あ、ああ......」

 

沢芽市とは違った、領地を取り合うのではなく、より楽しめたチームの勝ちというルールを聞いて、戒斗は衣装を受け取る。

 

「何を......」

 

「センターがいないんだろう?俺が踊ってやる」

 

「ほ、ほんとか!?助かるよ!ありがとな!」

 

「だが、客を楽しませるのではない。お前達の強さを見せろ!ダンスへの思いの強さを!」

 

「っ、ああ!」

 

ジャックの目には闘志が燃え盛っている。それは他のチームメイトも同じらしく、やる気は十分に感じられた。

 

「そういえば......まだ名前を言ってなかったな。俺はジャック!あんたは?」

 

「駆紋戒斗」

 

「そうか!よろしくな、戒斗!」

 

戒斗の手を掴んで握手し、ありがとうと述べる。戒斗は、その男の姿をザックと重ねた。純粋な気持ちをこうも真っ直ぐ告げることの出来る者はあまりいない。戒斗自身、礼を言われて悪い気はしていなかった。

 

全員との自己紹介を終え、戒斗はジャックに振り付けの詳細を聞いた。

 

「フォーメーションは?」

 

「ああ、まず最初は───」

 

一通り振り付けを聞いた後、戒斗は自分が昂っているのを実感する。何故か。

このチームの振り付けが、チームバロンのダンスとほとんど同じだったのだ。

曲こそ違えど、振り付けのリズムは同じだった。

もし違うとしてもアレンジでどうとでもなる。

 

「そろそろ俺達の番だ。戒斗はできる限り振り付けを覚えてくれ」

 

「覚えた」

 

「......マジで?早過ぎないか?」

 

「この振り付けは、俺の馴染み深いダンスの振り付けに似ていたからな」

 

「そか。任せたぜ、センター!」

 

「ああ。ところで、チーム名はあるのか?」

 

「......あ」

 

「おい」

 

ジャックはわりーわりーと笑いながら謝る。踊りたい者が集まったチームにまだ名前はない。戒斗はどうしたものかと頭を働かせる。

 

「......えーと、戒斗に決めてもらおうか」

 

「はぁ......文句は言うなよ」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「ねぇ一花」

 

「どしたの?」

 

私、中野二乃は一花と出かけていた。ショッピングしたり、ご飯食べたり、楽しいこと尽くしだった。

そしてクレープの食べ歩きをしている時、ダンスチームの舞台が物凄く盛り上がっていて、興味半分で見に行った。

 

《ありがとうございました!そして次で最後のチームになります!チーム名は......バロン!チームバロンです!》

 

チームバロンという名前のダンスチーム。9人のダンサーが立ち位置につく。その真ん中にいるのは、私たちの家庭教師の1人だった。

 

「二乃、あれって戒斗くんじゃない?」

 

「......そっくりさん、ってわけじゃなそうね」

 

「へぇ、戒斗くんってダンスも出来るんだね。あ、始まるよ」

 

私と一花はステージの段に腰掛け、チームバロンの踊りを見る。

 

流れてきた音楽は、私たちの知らない曲だった。多分オリジナルだと思う。最初は重い音が流れて、少しの間の前奏の後、歌い出しが始まった。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

《Got it, Move......Wow!!》

 

そこから俺達、チームバロンは踊り始めた。最初は軽く動いてるように見せながら、手足の動きをほぼ完璧にシンクロさせる。

 

《Don't Say No! JUST LIVE MORE!!》

 

このチームの戒斗以外の皆は、自分で言うのも何だが一人一人の技術が高い。

戒斗のダンススキルは想像以上で、全員が本気で真剣に踊らないと埋もれてしまいそうなほど、今の戒斗は輝いていた。

 

《Don't Say No! JUST LIVE MORE!!》

 

ストリートで始めた程度の俺だが、こいつは凄いと感じるのにそう時間はかからなかった。

気づいた時には、戒斗の動きから目が離せなかった。

一つ一つの動作がとても滑らかで、キレがだった。

 

「ボサっとするな、ジャック。まだまだここからだ」

 

「おう!お前らも盛り上がっていけよ!」

 

この一言で、チームの皆の士気はどんどん高まり、全員が笑って本当に楽しんで踊っていた。

俺達は開始数秒の時点で、全力を引き出すことに成功した。

普段よりもずっと上手く踊れている。

 

事実、全員の動きが今はシンクロし、ズレは全くなかった。

 

「あの真ん中の奴すげぇぞ!」

 

「さっきから微塵もズレてねぇ!」

 

「あいつだけじゃないぞ!周りの奴らもとんでもなく上手い!」

 

観客からもそんな声が聞こえる。

前から見ても、横で踊ってもわかる。

こいつは化け物だ。

 

しかもワンマンプレーじゃない。仲間を最大限活かしている。

本当に底知れねぇ技術だぜ。

 

「ジャック、フォーメーションを変えるぞ」

 

「分かった!リョウ!」

 

「ああ!」

 

そして戒斗はメインで踊るだけじゃなくて、他のメンバーのアシストをしたりしていた。

 

「戒斗!」

 

「任せろ」

 

アシストをする際、リョウをさりげなく真ん中に誘導することでポジションを変えたり、後ろに下がって踊ったりと、戒斗の動きのバリエーションはとても豊富だった。

 

全く知らない俺たちでも自然と合わせられた。

 

《どこにある?どう使う?禁断の───》

 

そして客からも歓声が聞こえ、サビに入る時、俺は聞き慣れた曲なのに全身の毛が逆立ったような、そんな気分になった。

横を見ると、戒斗は僅かに笑った。

 

《果実!!》

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

そこからのチームバロンのダンスは、瞬きする時間すら惜しくなるほど、ずっと見ていたくなるものだった。それは二乃も同じみたいで、始まってから一言も話していない。

 

《「今」という 風は 何を伝えるため》

 

それほどに夢中になった。でも、私はフォーメーションをどれだけ変えても、1人しか目に入らなかった。

 

《[お前のもとに吹く?強く強くBrowin' up!!]》

 

「戒斗くん......」

 

《明日が 夢が まだ見えなくても》

 

それは二乃も同じだろうし、戒斗くんをジッと見つめてると思う。

正直私は、今は戒斗くんしか目に入らない。

戒斗くんは真ん中に戻って横の2人と同じように踊る。

 

《[そこ限界?精一杯 生きていると言えるなら!!]》

 

その時、私と二乃の声が重なった。

 

 

「「かっこいい......!!」」

 

 

声が重なっても気にならないほど、私と二乃はチームバロンのダンスに没頭していた。

 

《「今」という 空は 何を見せるために》

 

ここからチームバロンは荒々しいダンスになった。さっきは上手で綺麗、それでいて盛り上がるダンスって感じだったけど、今は踊りたいように踊ってるように見える。

でも、それぞれのやりたいようにやっているのが、私にはかっこよく見えた。

 

《[真っ赤に燃えている?熱く熱くBurnin' sun!!]》

 

赤いコートが揺れているのが、炎のように見えて、私は自然と体が熱くなった。

チームバロンのダンスを見て、興奮してるんだと思う。

 

《強さで 何を 証明するのか》

 

ここでチームバロンは戒斗くんメインで踊り出した。さっきみたいな荒々しさは残したまま、戒斗くんを真ん中に移動させて、横の人達は同じ振り付けを、戒斗くんは別の振り付けで踊ってる。

 

《[お前だけに 聞いてるんだ 壊すのか守るのか!!]》

 

横の人達のダンスは戒斗くんをより引き立たせようとしてるように私には見えた。実際、今ダンスを見てる人は皆の戒斗くんを見てると思う。

 

《うつむくなよ(顔を上げろ)どこまででも(曲げることなく)》

 

終盤になった瞬間、戒斗くんが皆に指揮するような動きになった。それに合わせてまたダンスのスタイルを変えてきた。さっきとは打って変わって、静かに踊っている感じがする。

終わって欲しくないな、ずっと見てたいなと思った。

 

《信じた道を行け! JUST LIVE MORE!!》

 

全員が最大限に距離を取って一人一人のパフォーマンスを見せるようになった。静かに激しく踊ってる。

 

《Don't Say No! JUST LIVE MORE!!》

 

そしてすぐに真ん中に集まって、最初のフォーメーションに戻って踊った。そして最後の時間を最大限に活かすように、全員の動きが0.1秒の、1mmのズレもなく。

 

そして最後にターンを一回して───

 

 

 

 

 

《Don't Say No! JUST LIVE MORE!!》

 

ポーズを決めた。そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ウオォォォオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

その日1番の歓声が、チームバロンに向けられた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。