色々ありながら新学期初日。
クラス確認のため学校へダッシュしていった風太郎に置いていかれたので、一人で登校する戒斗とばったり会う一花。
「というわけで、どうやら新しいバイトとして二乃が来たそうだ」
「あはは......困らせちゃうこと言っちゃったかな?」
「まあ、五人全員で働けば自由度も上がる。初めは慣れんだろうが、間違ってはいないだろうな」
それを聞き、一花は安心したように息を吐いた。
どうやら姉妹たちに変に負担を掛けていたのではないかと思っていたらしい。
「なら何故言ったんだ」
「い、いやー。まぁその辺は......ね?」
強引に話を逸らされるが、出された別の話題は戒斗にとって興味のある話だった。
「今までは家賃のために確実なお仕事しかやってこなかったけど、これからはやりたいことに挑戦してみよっかなって。応援してくれる?」
「ああ。余程黒い仕事でない限りはな」
そんな仕事が来たらまず社長と持ちかけてきた相手を叩き潰すと言う戒斗を、一花は背中を叩くことで宥める。
「もー、大丈夫だよ。......やっぱり戒斗くんに言われるとやる気出るなー。ファン一号だからかな?」
「さぁな。あと挑戦はいいが、成績を下げないようにしろよ。上杉に何を言われるかわからないからな」
「うん、わかってるよ」
それから暫くの沈黙後、一花は何かを思い出した。
「......あ、そうだ。この間のデートの話なんだけどさ、どうする?」
「どうする、とはどういうことだ?」
「ああいう感じで条件出して、一応一番の成績だったじゃん?だから......って思ったけど、嫌なら言ってね」
その条件を飲んだのは自分なので気にしなくてもいい、戒斗はそう言おうとしたが、その前にまず質問した。
「お前は嫌か?」
「えっ?い、嫌じゃないよ?」
戒斗は、一花が直接嫌と言うのは忍びないので間接的に伝えようとしたのかと考えた。だが今の一花が嘘をついているようにも見えなかったので、先程言おうとした言葉をそのまま伝えた。
「嫌なら言うも何も、その条件を飲んだのは俺だ。だから気にするな。 別に出かけるだけでなく要望があれば応えるが」
「あ。そういうのもありなの?願いを叶える的なやつ?となれば結構幅は広いね......まだ考えとくよ」
「そうか」
「うん。貴重な一回だもん。大事にしないとね」
それからは他愛もない話をしていた。
四葉が掃除のバイトに受かったことや、五月はまだ踏み出せずにいるがきっと大丈夫だろうということなど。
「まぁ、バイトも並行するのは難しいかもしれんが、上杉もいるからな、問題ない」
「うん。頼りにしてるよ?せーんせっ♪」
「ああ、任せろ」
「......あ、でもさ」
ふと、一花は問うた。
「私が言い出したことだけど、これでいいのかなって思っちゃうんだ」
「何がだ?」
「皆、それぞれ忙しくなる。だから全員揃う時間も少なくなるよね 。私たち、このまま大人になっていって、バラバラになっていくのかな」
春風が吹き、五枚の桜の花弁が互いに支えるように宙に舞う。
そして一花と戒斗の頭上よりも高く上がり、一枚、また一枚と離れ、別の場所へ吹かれて言った。
「クラスだってさ、学年が上がるでしょ?だからどうなのかな......って」
「さぁな。だが、お前たちの繋がり......絆というやつか?は消えないだろう。それがある限り、バラバラなんてことにはそうそうならん」
「あー、たしかに」
戒斗からの意見を聞いた一花の顔はどこか晴れやかだった。
そして学校内に入り、掲示板に貼られているクラス表を見て戒斗は現実を疑い、一花は大いに喜んだ。
どういうことかというと、一花の不安は杞憂に終わった。
どうやら五人の結束力は相当に強いものだったらしい。
「じゃあ私行くね。戒斗くんも、早く行かなきゃ遅刻するよ?......って固まっちゃってるし」
戒斗の頬を二回ほど叩き、一花は教室へ駆けていった。
そして始業のチャイム一分前まで戒斗は固まっており、目が覚めてから急いで教室に向かい、思い切りドアを開いた。
「よし、何とか間に合ったか......」
クラスメイトからの夥しい数の視線を受けるが、そんなことよりも戒斗はクラスの面子が異常であることに再度驚いた。
やはり現実だったのかと。
「戒斗!お前ギリギリだったぞ!」
上杉風太郎。
「戒斗くん、結構長く固まってたんだ。手引いてくればよかったかな?」
「あまりにも異常だったからな」
「まったく......しっかりしなさいよね。もう三年生よ?」
中野一花、中野二乃。
「戒斗、遅かったね。固まってたってどういうこと?」
「このクラス名簿がな......」
「駆紋さん!次からは二十分前行動ですよ!」
「それは早すぎるような気がするが」
中野三玖、中野四葉。そして───
「戒斗さん、なんだかお久しぶりですね。これから一年間、よろしくお願いします」
「......ああ」
中野五月。
何と風太郎に加え、中野家五姉妹が全員揃っていたのだ。
これには戒斗だけでなく、風太郎も頭を抱えていた。
「はーい席つけ〜。オリエンテーション始めるぞ〜」
間延びした声の眼鏡をかけた男性が担任の教師で、これから三年生としての自覚云々の話を始めたかと思えば、四葉が挙手したことで止まった。
「このクラスの学級長に立候補します!」
「まだ誰も聞いてないけど......」
「そこをなんとか!」
「反対もしてないけど......まぁいいよ。他にやりたいやつがいなければ」
黒板の前に立ち、クラスメイト達に学級長として頼ってくれと元気に言い張る四葉を見て、一花は手で顔を扇いでいた。
「(もー、四葉ったら恥ずかしい......)」
「じゃあついでに男子の方も決めとくか......立候補もよし、推薦もよしだ」
お前がやれだの、もっと相応しいやつがいるだのとクラスがざわめき始める。
「戒斗くん行ったら?」
「俺が行かずとも、相応しいやつが一人いる」
「?」
「まぁ見ていろ」
その中でも多く話題に出されるのは、武田という男子生徒だった。
「学級長なんて武田しかいねーよな。絶対そのうち誰か推薦するぞ」
「やっぱそうだよな」
戒斗が武田を見ると、雰囲気が輝かしすぎるのか、最早周りの空気が光っていた。
「私、学級長にピッタリな人を知っています!」
「ほらな」
「全く......仕方ないな」
武田は推薦されると確信してか、満更でもない顔をしながら席を立つ準備をする。戒斗はその時の武田の様子を見て間抜けだと思った。同時にクラス全体の面々に無知は怖いなと思ったりもした。
それは何故か。
「上杉風太郎さんです!」
本当に推薦されるべき人間が誰かを知っていたから。
そして四葉が風太郎を推薦することは予想がついていたから。
席から立ちかけた状態で固まる武田と、武田を差し置いて推薦される風太郎に動揺するクラス。
「え、上杉君で大丈夫......?」
「武田君を差し置いてだなんて......」
半強制的な推薦により学級長男子は風太郎に決ったのだが、次の係を決めている途中も風太郎はずっと学級長を辞退しようとしていた。
「絶対俺より戒斗の方が......!」
「はーいはい、上杉さんはもう決まったのでしーですよ!しー!」
「四葉......お前なんてことを......」
そしてオリエンテーションが終わり休み時間。
風太郎はトイレで武田に絡まれていた。
「上杉君。君は随分彼女たちに信頼されているみたいだね」
「だからなんだよ。学級長なんて勉強の足枷でしかねぇ。あーあ、戒斗に押し付けられねぇかな」
「戒斗?」
聞き慣れない名前に首を傾げる武田。
風太郎が戒斗のことを説明すると、武田はへぇ、と興味深げに笑いながらトイレを去った。
「昔から変わらないね君も。さすがは僕のライバルだ」
そう言い残して。
風太郎は若干苛立ちながらトイレを出ると、三玖に話しかけられた。
「ちょっといい?聞きたいことがある」
「なんだ?」
三玖は両方の掌を上に向け、掌の上にランプがあると言い出した。
「で、五つ願いが叶うならどうする?」
風太郎の願いはまず金。
そして体力の向上。
日々の疲労回復。
寝つきを良くする。
ついでに運気も上げてもらうなど、ドライに現実的な願いを選択していた。
「......わかった。」
「で、なんだこれ。心理テストか?」
「...........」
「えっ、答えろよ怖い」
ここで女子生徒二人が三玖の方へ駆け寄ってきた。
「さっき先生が呼んでたよ、四葉ちゃん!」
「え、あの......」
「ほらほら」
「こっちだよ」
勘違いしたまま三玖を連れていこうとする女子生徒たちを風太郎は止めた。
「そいつは三女の三玖だ。四葉じゃない」
女子生徒は驚き、三玖に真偽を確認する。
「そ、そうなの?」
そして三玖が頷き、女子生徒たちは謝罪した。
「ごめんね。まだ覚えきれてなくて」
「問題ない。慣れてる」
そして四葉を探しに行ったところ、すぐに見つかった。
「いたいた。四葉ちゃーん」
次は四葉ではなく、戒斗と話している五月に声をかけていた。
「嘘だろ!」
「おい、こいつは五月だ」
「ええっ!?次は五月ちゃんなの!?」
戒斗は五月の頭から伸びるアホ毛を指差す。
「覚えるだけならそう難しくはない。こいつでいうなら、この頭の毛だ。四葉で言えば......頭の布だ」
「リボンですね」
「......をつけていると覚えればいい。無理ならまず髪の長さで見分けた方が簡単だ」
風太郎も頷き、三玖も感心していた。
あまり興味を持っていなさそうな戒斗がしっかり見分けられていたことに。
「すごいね!えっと......駆紋君だよね?五人のこともっと教えて!」
「何?それなら上杉......」
「頑張れよ戒斗ー!!」
風太郎は戒斗の意見を大声でかき消し、いい笑顔を向けて手を振っていた。
「貴様......!」
そして戒斗の返答を待たず、女子生徒は戒斗を別の姉妹の元へ連れていった。
彼からすれば引きずり回されたに等しい。
「おーい四葉ちゃん!」
「そいつは二乃だ」
しっかり中野家を見分けられている戒斗に味を占める女子生徒たち。
結局戒斗は五月の元へ戻されることなく連れ回されていた。
「あの人たちは......まだ私が話していたというのに!」
「仕方ないよ......ね、フータロー......あれ?」
三玖が横を見た時、風太郎はいなくなっていた。
無言で消えたことに期限を悪くし、三玖はむくれた。
「ああ、上杉君なら別の方に連れていかれましたよ?戒斗さんのように」
「......五月、その女どこ?」
「み、三玖?」
三玖は黒いオーラを出しながら風太郎を攫った(?)生徒の特徴を五月から聞き出そうとするが、五月が震えていたので質問の答えは得られなかった。
そしてその日の夜、中野家では風太郎の誕生日に渡すプレゼントのアイデアに行き詰まっていた。
「お金が欲しい。体力の向上。寝付きを良くして疲労回復、運気アップとかだったよ」
「全然的を射ないわね......運気アップとかどうしろっていうのよ......」
「いずれにしろ急いだ方がいいよね。誕生日もうすぐだし」
五人はそれからというもの風太郎にプレゼントの件を探ろうとしていたが、生徒たちが中野姉妹に頼み事をするためのパイプとして使われていたので時間は確保できなかった。
「上杉学級長、三玖ちゃんに話があるんだけど」
「ここにいるんだが!?」
「駆紋君、一花ちゃんにこれ渡しといて」
ある時には風太郎の隣に三玖がいるのに。またある時には戒斗の隣に一花がいるのにも関わらず、経由して頼み事をしていた。
「二乃ちゃんに」
「五月ちゃんに」
「あー!!もう面倒くせーー!!!」
今更ながらに五人全員と同じクラスになった運命を呪った。
「あ、戒斗。少し時間いい?」
「なんだ?」
「ここじゃなんだから、ちょっと外に来て」
階段の方へ移動すると、二乃は突然戒斗に泣き付いた。
戒斗は泣かせる心当たりがなかったが誰かに見られると不味いので、とりあえず二乃を引き剥がした。
「なぜ急にあんなことを?」
「......あんたが、バイト辞めたって聞いたから」
「それがどうした」
「私ね、あんたが働いてたあの店でバイトすることになったの」
戒斗は二乃の考えていることが全く分からず腕を組んで考え込んでいた。
二乃が泣きついた理由は、戒斗と合える時間を増やすため同じバイト先に応募したが、いなかったからだった。
「お前、とてつもなくくだらないぞ」
理由を聞いた戒斗は、それで泣くのかと驚いた。
会えないわけでもないのに泣くほどのことなのかと。
「うるさいわよ......いないって知ってたら変えてたかもしんないのに」
それから二乃は膝を抱えながら何度もため息を吐いていた。
「というか、バイト先でもお前と会うのは俺の身が持たん。勘弁しろ」
「なによ!こーんなに可憐な乙女にそんなこと言っちゃうわけ!?」
切り替え凄まじく、一瞬にして戒斗に噛み付く姿勢を見せた。
「......でもまぁ、今こうして話せてるものね。時間はいっぱい確保できるわ。とりあえず戒斗、あんた今日店に来なさい」
「は?」
「拒否権はないからね。断ったらあることないこと言いふらすわよ」
先程までの沈んだ様子は何処へやら、戒斗には今の二乃が心做しか昔のような負けん気の強い性格に戻りつつあるように見えた。
「言われなくても行ってやる。今日はやることがないからな。安心しろ」
「じゃあよろしくね。来なかったら......やっぱいいわ」
「お前は何か一つ俺に対してデメリットを提示しなければいけない病気か何かなのか」
話は解決したと思った矢先に脅しをかける二乃に戒斗は呆れた。
今の二乃は心の高ぶりを隠すためにいつにも増して強気な発言をしていた。
「(よーし!張り切るわよ!)」
「(何が悲しくてこいつに付き合うんだ?俺は......)」