上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

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結果と事実

夜。

風太郎は一人残り、図書館で自習をしていた。

今にも寝落ちしそうな風太郎の頭に触れる手。

 

「俺が言う権利はないが、疲れているなら無理をするな」

 

「そうですよ。かえって皆を不安にさせてしまいます」

 

「戒斗、五月......」

 

コト、と机に置かれるのは眠気打開のドリンク。

 

「ご苦労様です。差し入れです」

 

蓋を開け、口に流し込む風太郎。

 

「馬鹿言え。苦労なんてしてねぇよ。誰だと思ってんだ」

 

「......先日、塾講師の下田さんの元へ出向いてまいりました。バイト......と言えるのか分かりませんが、下田さんのお手伝いをしながら学力向上を目指します」

 

「俺じゃあ力不足かよ」

 

「そうではありません。模試の先、卒業の先の将来に向けて、教育の現場を見ておきたいのです」

 

そう言った後、机に何かが叩きつけられる音がした。

 

「!」

 

戒斗と五月が机を見ると、ドリンク1本程度では抑えきれない眠気に負けた風太郎が目を開けたまま寝ていた。

 

「......そういえば、戒斗さんは上杉君が起きるまで待つのですか?」

 

「時間によるな」

 

「なら、一つお願いがあるのですが───」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

携帯が振動していることに気づき、俺はいつの間にか寝て時間を無駄にしていたことを後悔した。

そんな気分で画面を見ると、らいはからの写真付きのメールが。

どうやら俺の誕生日会の準備をして待っているとのこと。

 

「そういや今日だったな......帰るか」

 

席を立つために顔を上げると、机の上に五つの折り鶴があった。

何の紙かと思って広げてみれば、正解の数が前よりも大幅に増えた小テストの答案だった。

 

あいつらの成長に、何故か口角が上がる。

 

「一人じゃない......か」

 

あいつらも頑張ってる。

俺も負けてられねぇな。

 

「......ん?」

 

折り鶴の他に、誰かからの贈り物かメッセージカードが置かれているのに気づいた。

送り主は......えーと、Mr.BANANA&M・A・Y......と。

封筒を開けて中身を見ると、シンプルに一文だけ綴られていた。

 

「HAPPY BIRTHDAY......」

 

気づいた時には、俺は誰もいない図書館で一人、大声を出して笑っていた。

理由は単純で、送り主の名前はアルファベットだったが、大体の察しはついていたからだ。

 

「くくっ......てかなんだよMr.BANANAって。 あー、いいもん見たな」

 

笑って意識も覚醒したので、さっさと家に帰った。

らいはと親父が座って待っており、ケーキが無かった。

その事に少しガッカリしたが、キッチンにいる俺の親友を見てその不安は吹き飛んだ。

 

「さぁ座れ。最高の誕生日にしてやる」

 

格好まで本格的になって、戒斗はササッとケーキを作り上げていく。

前にも言ったが、あいつのケーキはマジで美味い。

学生が作るレベルじゃないんだなこれが。

 

「風太郎、誕生日おめでとう。プレゼントは家族からの愛だぜ!」

 

「お兄ちゃん、おめでとう!プレゼントはこれ!お守りだよ!」

 

「ありがとうならいは。そこのオッサンはほっといてケーキ食べような」

 

然程時間はかからず、パティシエ戒斗はケーキを持ってきた。

家にそんな材料はなかったはずだが、多分買ってきてくれたんだろうな。

 

「つーか、風太郎が戒斗に誕生日祝ってもらうの初めてじゃねぇか?」

 

「何なら知らなかったろ?」

 

「まぁな」

 

ま、いつも助けて貰ってるから誕生日は別に祝われようが祝われまいがどっちでもいい。

ぶっちゃけ誕生日なんてあんまり気にしてないし。

けど、今年は別だな。

 

「ともかく、ご馳走とケーキも来たことだ。手を合わせな!」

 

俺たち四人は手を合わせる。

今日は戒斗も付き合ってくれるみたいだ。

 

「せーの......」

 

親父の合図に、全員が応える。

 

 

「「「いただきます!!」」」

 

 

柄にもなく、誕生日で良かったなと思ったりした。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

試験当日、風太郎と五つ子は通学路にて武田に絡まれていた。

 

「フン!後悔しないようにしたまえよ!それが君の弱さだ!」

 

自信満々に挑発する武田を無視して、六人は学校へと足を進めた。

その場に取り残された武田はポーズを決めたまま風に吹かれていた。

 

「貴様、こんなところで何をしている」

 

「これは、駆紋戒斗君じゃないか。彼らには置いていかれたのかい?」

 

タイミング悪く出会った戒斗に対して、武田は風太郎の時よりも少し低い声で喋っていた。

 

「それとも何だい?僕に会いに来たのかな?」

 

「そんなところだ。少し話をするためにな」

 

「それは丁度良かった。僕も君への伝言があるんだ」

 

誰からの伝言かは言わず、風太郎たちが去ったのを確認して言葉を伝えた。

 

「───だそうだよ」

 

「......ほう。あの男も面倒な性格をしているな」

 

「まぁ、君ならできると僕は思っているよ。なんだって上杉君の親友だからね」

 

その言葉を当然だと言わんばかりに鼻で笑い、武田の横を通り過ぎて通学路を歩いていると、何故か武田もついてきた。

 

「僕と上杉君は永遠のライバル。ならその親友である君と僕は、決して浅い関係ではないとは思わないかな?」

 

「浅い関係ではない......だと?一花から聞いたぞ。前年度は同じ教室にいたらしいが、俺には殆どその時の記憶が無い。これが答えだ」

 

「彼女たちが転校する前はそれなりに話していたんだけどね。まぁ仕方ない。今日の模試で思い知らせてあげるよ。力の差というものをね」

 

仲良くしたいのか挑発しているのか。

どちらとも言えるような発言をする武田について、戒斗は深く考えることをやめた。

 

「何はともあれこれからよろしく、駆紋戒斗君。早速だけど連絡先を交換してくれるかい?」

 

「ああ。あまりにも急だが問題は無い」

 

武田に携帯を渡し、連絡先の交換を済ませる。

それから学校に行くまで二人は色々な話をしていた。

クラスの印象や、家庭教師の状況について詳しく等。

 

「家庭教師に関しては、俺は名ばかりだ。上杉に聞け」

 

「ん?でも中野さんのお父様からはしっかりと家庭教師だという風に聞いたけど」

 

「第一、俺がやったことといえばサポート程度のものだ。それを中野マルオめ、面倒なふうに仕向けるとは......」

 

マルオへの苛立ちを募らせる戒斗を武田が静める。

 

「雇い主なんだろう?なら、学年一位の僕に免じて今は落ち着いてくれないかな?」

 

「言っていることが滅茶苦茶なのに加えて、さりげなく上杉より上に立ったことを自慢するな」

 

「ははっ、気づいていたんだね」

 

「知りたくなかったがな」

 

この武田、以前のテストで不覚を取った風太郎の上をいき、学年一位の座を奪っている。

万年一位だった風太郎の順位が下がったことに同学年は驚き、同時に武田への評価が鰻登りだった。

 

「まぁやつより上に立ったということは、貴様の頭脳を認める他ない。そこで、一つ助言......ではないな。予言してやる」

 

「予言だって?結構面白いことを言うんだね。なんだか意外だ」

 

「お前は上杉に負ける」

 

武田の笑顔が固まる。

雰囲気が変わるという訳では無いが、目に見えて対抗心を燃やしていた。風太郎に対するライバル意識は戒斗の想像を遥かに超えていた。

 

「......ここで僕が反論したとて、意味は無い。結果が全てを左右する......全ては返却の日に」

 

「分かっているじゃないか。貴様のような奴は嫌いではない」

 

「ふっ。僕が嫌われるなんてことは有り得ないのさ!」

 

武田は今日一番の輝きを放ち、戒斗にウインクした。

 

「ってコラーー!!」

 

戒斗は返事をせずスタスタと早歩きで武田の側を去っていった。

それを武田が追いかけ、戒斗も走るという形で数十人の生徒をごぼう抜きし、何故か風太郎や五つ子よりも到着時間が早くなった。

 

「えっ!?戒斗くんもういたの!?」

 

「こいつのせいだ」

 

「えっ......あー、武田君じゃん」

 

一花は武田を見て冷や汗をかいた。

そして戒斗が言った一言にも納得がいき、それから詮索はしなかった。

 

「一花、一ついいか」

 

「どうしたの?」

 

戒斗は一花に小声で何かを伝える。

一花はそれを聞いて一瞬驚愕した後、戒斗ならば大丈夫だとエールを送った。

 

「大丈夫だって。名前だけ変わっても中身は同じ。いつも通りでしょ?」

 

「あぁ、そうだな。自意識過剰ながらもう少し動揺すると思っていたが、流石は長女......と言ったところか?」

 

「もーっ、褒めてもサインくらいしか出ないよー?」

 

一花はにやにやしながら戒斗の脇腹を肘でつつく。

そんな二人に視線を向ける誰か。

意図せずその会話を聞いてしまっていた者があと一人いたことに、二人は気づかない。

 

「ほら、もう始まるから座るわよ」

 

戒斗は突然鳴った携帯の画面を見る。

メールの文を見て、風太郎に視線を向けた。

 

「ああ。......上杉、テスト中に腹を下すようなら迷いなく便所へ駆け込め。良いな」

 

「んなことあるわけねぇだろ?今は体調バッチリだぜ!」

 

そしてクラスメイトたちが席に座った。

教室全体が静まり返り、監督の教師の声と秒針の進む音だけが聞こえる。

 

「机の中は空にして着席してください。問題用紙は合図があるまで裏のままにしておいてください」

 

生徒たちはそれぞれ紙を回し、開始時間になるまで何もせずに待つ。

そして長針が10を指した時、模試は始まった。

 

「それでは、開始してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!やっとお昼だー!」

 

「あと二科目。頑張ろ」

 

「消費したエネルギーはしっかり補充しましょう!」

 

机の上にある昼食の量が一番多いのは間違いなく五月である。

下手をすれば他の四人の総量に届きそうだった。

 

「そういえばさ、フータロー顔色悪かったよね。頭垂れてたし」

 

「それは信じる他ないわよ。あいつには勝ってもらわなきゃ、気持ちよくプレゼントを渡せないわ」

 

「でもトイレに行ったっきり戻ってこないんだよね」

 

一方その頃トイレでは、戒斗、風太郎、武田が話をしていた。

武田が手に持っているのは、父である理事長から渡された模試の答え。

 

「めちゃくちゃ不正じゃねぇか!」

 

「上杉、理事長室はどこだ?」

 

戒斗が不正を働かせようとする理事長をとっちめようとしていると、武田は手に持っている答えを気持ちのいいくらい一気に破り、便器に流した。

 

「二人とも、僕は宇宙飛行士になりたいんだ」

 

「いや急にどうした?」

 

「まぁ聞いてくれ。あの空間には地面も空も、空気さえもない。全てがない。だからこそ全てがある。

縛られていた僕の人生で唯一見つけた道だ。当然険しい。宇宙に行けるのは国ではなく地球上で一握りの選ばれた者のみ。世界中の人間がライバルさ」

 

模試から宇宙という話がズレるという次元ではなくなったかと思えば、武田は話を戻した。

 

「だからこそ、こんな小さな国の小さな学校で負けるわけにはいかない」

 

その理由は、一言で言えばこうだった。

 

「夢があるから」

 

風太郎は、ただ輝いているだけではない、夢に向かって本気で走る武田を見て目を覚ました。

 

「不正で得た結果なんてなんの意味も持たないのさ。僕は正々堂々模試に挑み、実力で君達二人に勝つ!特に上杉君、君にだけはね!」

 

この男は、自分より明確な未来を見据えているのかと。

だからこそ、この挑戦とも言える言葉に反応せずにはいられなかった。

 

「お前───」

 

 

ぐるるるるる、ごるるるるるるる!!

 

 

その時、風太郎の腹が野獣の咆哮と聞き間違えるような音を出した。

 

「うぐああっ!おおおお......」

 

すぐさまトイレに駆け込み、呻き声を出していた。

 

「......これはお大事にと言えばいいのかな?」

 

「......武田」

 

風太郎の声は明らかに衰弱していた。

武田は風太郎の腹痛がどれほどのものか想像し、顔を引きつらせた。

そしてトイレから出ようとした時、風太郎は言った。

 

「受けて立ってやるよ」

 

戒斗は見た。それを聞いた武田の顔が喜びに満ち、好戦的な笑みを浮かべていたのを。

 

「ふははは!何を今更!僕達は永遠のライバルなのさ!」

 

両者ともトップクラスの頭脳を持ち、全国模試の上位を競うというこの大勝負。

武田はモチベーションの上昇を感じ、風太郎は対抗しながらも腹の痛みが治まっていなかった。

 

そして数日、数週間経った頃───

 

「旦那様、先月行われた模試の結果が届きました」

 

江端に言われ、タブレットを操作して娘の結果を見るマルオ。

差はあれど、一人一人確実に、大幅に成績が伸びていた。

 

「家庭教師、というのは大成功でしょう。もちろん、お嬢様方の努力あってこそですが」

 

そして、三人の男の順位を確認する。

まずは武田のものを。

 

「武田様は、全国八位の快挙でございます」

 

そして、娘の家庭教師の一人。

 

「上杉様は惜しいことに三位でございます」

 

マルオは奇妙な事実に気づく。

 

「おかしな答案だね。前四科目はノーミス満点。最後の科目のラスト数問は白紙とは」

 

「報告によれば突然気を失うように寝てしまったと。恐らく勉強に根を詰めすぎたのかもしれません。しかし、全問解いていたら......」

 

マルオは、武田を新しい家庭教師として紹介した時、風太郎に言われた言葉を思い出す。

 

 

『全国模試一位に!』

 

 

「さてね。そんなこと、考えても仕方ないよ」

 

その時学校では武田が清々しい表情で空を見上げていた。

 

「上杉風太郎......彼には悉く邪魔をされてばかりだ。彼と関わる度に僕の予定は狂わされる。全く、困ったものだよ」

 

その目に負の感情はなく、目はいつにも増して輝いていた。

 

「だが、その覚悟......見事だ。そして駆紋戒斗......君は......どうするんだい?」

 

戒斗がいるわけでもないが、武田は一人でそう問いを投げかけた。

もちろん答えが帰ってくるはずもなく、何気なく呟いたその言葉は、時間と共に消えていった。

 

「それで、駆紋戒斗の順位は......」

 

「駆紋様。彼は本当に惜しかった」

 

江端の口にした戒斗の順位は、マルオの想定を超えていた。

 

「十一位でございます。これはつまり......」

 

「ああ。全国模試十位という条件を満たしていない。彼はクビだ」

 

「ですが、おかしな答案です。十位との差はわずか一問。四教科は満点なのにも関わらず、最後の科目は半分も解答していない」

 

江端は遠回しに見逃してやれと言っているようにマルオは感じた。

風太郎と同じく、全問解いていたならあるいは......と。

 

「それに、彼がここまで答えを解ききれなかった理由をご存知ですか?」

 

「......さてね。それこそそんなこと、考えても仕方がない」

 

この時、駆紋戒斗は家庭教師を辞めさせられることとなった。

五つ子も、風太郎も、その事実を知る者は、この二人と戒斗本人をおいて他にいなかった。

 

戒斗がいないことを惜しみつつも、風太郎にプレゼントを渡し、家庭教師が続行できることに全員が喜んでいた。

その時そこには、たしかに幸せな時間が流れていた。

 

 

 

 

 

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