「で、話とはなんだ?」
「いや、ちょっと聞きてぇことがあってな」
ジャックが取り出したのは一枚の写真。
戒斗はその写真を見て驚愕するも、すぐにいつもの表情に戻った。
「こいつを知らねぇか?何でもいい。どこかで見たとか」
戒斗が思わず動揺した理由は、その写真にヘルヘイムの果実が写っていたからだった。
「......何故それを?」
「少し探しててな。知らねぇならいいんだ」
戒斗はジャックがヘルヘイムの果実を探す理由を考える。
彼がそれに関することを知っているのにも驚いたが、探してどうするのかと。
「いや、知っている」
「......本当か?」
「ああ。少し場所を変えるぞ」
戒斗はジャックの顔を見て彼が果実を真剣に探していること、そして悪用しようとする意思は感じられなかったので、話すことにした。
「なんだここ!?」
「戒斗くん、彼は誰かな?」
やって来たのは凌馬の研究所。
凌馬は戒斗が誰かを連れてくるのは珍しいということで驚いていた。
「......にしても、クルミの子にそっくりだね」
「誰がクルミだ。ザックと呼べ。あいつは低ランクのロックシードで最後まで戦い抜いた強い男だぞ」
「はいはい。君のチーム愛には尊敬するよまったく」
「......ん?クルミって......」
”クルミ”という単語を聞いてジャックはポケットをまさぐり、一つの錠前を出した。
「お前ら、この錠前を知ってんのか?」
それは見間違えようもないクルミロックシードだった。
戒斗は目を見開き、凌馬はあまりの驚きに冷や汗を垂らしていた。
もっとも、凌馬に関しては驚きだけではなく何かを考えた末のその結果である。
「(彼がロックシードを持っているということは理由は三つ。誰かから貰ったか、戦極ドライバーを手にしたか、ここから盗んだか......)」
研究所から盗んだという選択肢はまず除外した。
理由は単純で、ジャックがそんなことをするようなな人間には見えないからである。
戒斗もジャックが戦いへと足を踏み入れかけている理由を考える。
「(戦極ドライバーを手にしたという点も気になるが、問題は誰かから渡されたという場合だ......どちらにせよ、ヘルヘイムと関わらなければ無理だろうが......)」
戦極ドライバーを渡した者がいるのならば、それは間違いなく敵であり、生産したロックシードやエナジーロックシードも持っているはず。
そういった点も踏まえ、いずれにせよ警戒が必要だと結論を出した。
「(一先ずは、彼に色々聞かなければね)ジャックくん、だったかな?」
「ん?」
「その錠前......ロックシードというんだけど、誰から貰った?」
「誰からも貰ってねぇよ。森に落ちてたから拾っただけだ。このベルトと一緒にな」
ジャックがロックシードと共に見せたのは戦極ドライバー。
初期型ではなく量産型であり、マルオが量産していたものの一つであることは察せた。
「つまりだ戒斗くん。中野の工場から奪った者が戦極ドライバーを落としたか、意図的に彼に与えたか......私はこの二択だと思うよ」
「貴様と意見が合うのは気に食わんが、俺も同じだ。まぁ正直、今は情報が少なすぎる。が、それよりもまず問題なのは......ジャック」
「なんだ?」
「お前、そのベルトを使ったか?」
ジャックは頷いた。
凌馬と戒斗は彼が戦いの中に身を投じたこと、それに気づけなかった自らを恥じた。
「後悔はないのか?」
「......俺のチームメイトは、あの怪物にやられてよ。今も入院してる」
衝撃の事実に二人は口を噤んだ。
入院しているということは軽傷か重傷か、そんなことはわかりきっている。
「それであいつらの正体を突き止めるためには、この実がヒントになることを知った」
迂闊に発言しても無神経なだけなので何も言えなかった。だがジャックの顔に憎悪や後悔はなく、喜んでいるようだった。
「あの時俺たちを襲って、あいつらに重傷を負わせた怪物のことを......俺は忘れねぇ。でも、このベルトのおかげで救われた命が確かにあるんだ」
だから戦う。
ジャックの真っ直ぐな目を見て、戒斗と凌馬はヘルヘイムについての話を始めた。
「(彼のような正義漢はいつか身を滅ぼすか、あるいは......なんてね)」
まずは果実について。
そして成り立ちとインベス、戦極ドライバーの用途やロックシードの生産方法。
「......とまぁ、こんな感じさ。君が倒した怪物だって、ヘルヘイムにしてみれば雑兵に過ぎない」
「でも、相手が強くても逃げる理由にはなんねぇだろ」
「......いいね。そんな君にはアドバイスを」
「?」
凌馬の目は冷めているわけでもなく、熱くなっているわけでもなかった。
言うなれば、興味。
目の前の男がどのような道を辿るのか、それに興味が湧いているようだった。
「困った時は、迷いなく戒斗くんを頼りなさい。彼は確実に相手を倒してくれるはずさ。そしてこれは私の連絡先。何か気になることがあればしっかり聞いてくれたまえ」
「ありがとな、戦極凌馬さん」
「フルネームじゃなく、呼びやすい方で呼びたまえ」
「おう!」
「(久しぶりに......面白い子に出会ったな)」
凌馬がそんなことを考えていると、不意にアラームの音が流れた。ジャックはその音を聞いて外せない用事を思い出したらしく、全速力で帰って行った。
研究所に残された二人は、ジャックについて話していた。
「彼、まさかクルミとはね。本当にあの青年の生まれ変わりだったりしないかい?」
「そんなわけあるか。御伽噺でもあるまいに」
「私たちがそれを言うかな?」
「...........」
何も言わず、戒斗も無言で研究所を去った。
廊下を歩きながらも、先程の会話を思い出す。
「(また一人と巻き込まれていくのは、やはり避けられないか......)」
とはいえ、ジャックという強い心を持った者が戦力として加担してくれるのはありがたいので、凌馬はサポートをすべく新しいロックシードを作ろうとしていた。
それからというもの、戒斗は学校に行かず研究所に入り浸っていた。
「学校には通った方がいいと思うんだがね」
「貴様は行ってないだろうが」
「私には完璧な頭脳があるからね。それに、前の人生の記憶もあるのに学校に行けなどというのは拷問のようなものさ」
自分のことを棚に上げる目の前の科学者に戒斗がイラッとした時、凌馬はふと戒斗の鞄を指差した。
「そういえば、先程からキミの携帯が震えているけど」
「何?......上杉からだ」
通話ボタンを押し、画面を耳に当てる。
「どうした。ああ......公園......面倒だな......ほう、奴が......なら行こう。待っていろ」
通話を切った後、戒斗は話を切り出した。
ジャックの話していた内容について。
「前に言おうと思っていたが、ジャックはベルトとロックシードを森で拾った......と言っていたな。それはつまり......」
「だろうね。ということは、彼が倒したインベスがチームメイトという可能性も無きにしも非ずだ。そんなことがあれば彼の方から言ってくると思うが......一応は考えておこう」
戒斗は嫌な想像通りにならないことを願いながら、研究所を出た。
そして風太郎に言われた通り公園に向かうと、二つあるベンチの内一つ武田と風太郎が、もう一つにはマルオが座っていた。
「何の用だ」
「戒斗!この人から改めて家庭教師になってほしいってよ!」
「待ちたまえ上杉君。それはあくまで全国十位以内に入った君だから頼んだんだ」
「え?でも戒斗だって......」
マルオが何を言いたいのか、戒斗は理解した。
つまり自分はクビで、風太郎にだけ家庭教師を頼みたいということ。
「(意地でも俺をあいつらから遠ざけたいらしいが......こうなれば好都合だ)俺は十一位だ。故に条件を満たしていないので家庭教師になる資格はない。そうだろう?」
「よくわかっているようだね。これからは上杉君だけで家庭教師をさせる」
風太郎の方を見ると、酷く驚いているようだった。
「ああ。俺としてもこちらの方が都合がいい。ありがたく辞めさせてもらう。上杉、あとはお前に任せる」
「......ほう」
「戒斗、お前......」
風太郎自身、辞めないでくれなどと言うつもりはない。
戒斗がいなくなる。ただ何となくそんな気はしていた。
マルオと戒斗の仲は目に見えて悪く、毎度険悪な空気を出す。
「俺はやるべきことがあるからな。おい、貴様の娘たちはよく成長している。これから親として接していけよ」
だからこそ、戒斗の言い分にも納得がいってしまった。
止めるべきなのに、止めるという選択肢か浮かばなかった。
「ちょっと待ってくれたまえ!」
そして話が終わりかけた時、武田が口を挟んだ。
三人が視線を向けると、武田は戒斗を睨みつけた。
「僕が言うことではないと思うが、中野さん......特に一花さんには君が必要だと僕は思うんだ」
「別に俺でなくとも奴を支える人間はいる。そうこだわる事もないだろう」
「彼女達の中には、上杉君だけじゃない。少なからず君もいるはずだ。戯言と受け取ってもらっても構わないけど、一人でも欠けちゃいけないと僕は考えているよ」
それでも、戒斗の意思は揺らぐことなく、武田の言葉を聞くだけ聞いた後、背を向けてどこかへ行ってしまった。
「上杉君、今度君と話がしたい。いいかな?」
「......ああ」
力ない返事をしながら、風太郎はベンチから立ち上がった。
そして中野家の方向へ足を進める。
「歩きだと遠い。送ろう」
「いやいいっす。今は歩きたい気分なんで」
「そうか」
公園から段々と見えなくなり、直に角を曲がって消えた。
武田とマルオだけがベンチに座り、互いに無言が続く。
「(この人は父さんが頭を下げるほどの人らしいけど、どうも僕にはそう見えない)」
「......僕の顔に何かついているかな?」
「あ、いえ。少し言いたいことがありまして、タイミングを伺っていました」
「なるほど。遠慮せず言ってみてはどうだい?」
武田は頷き、自身の思うことを全て口にした。
「僕は、駆紋戒斗君がクビというのはあなたにとってデメリットのある判断だと思います。まず先程も言いましたが、娘さんたちは彼を慕っています。もちろん上杉君も。そんな彼が何も言わずいなくなったとなれば、彼女たちはショックを受けるはずです」
「......ほう」
「そして彼はここ数日学校にも来ていません。もしこれから来ないとなれば、彼女たちとの関わりは完全に絶たれます。別れの挨拶も無しに、というのは些か酷では?」
「......つまり彼をクビにするな、ということかな?」
その言葉に武田は首を横に振って否定した。
「いえ、あなたの判断が間違っているというつもりはありません。ただ、嫌な予感がしてならないので少し......と思いまして」
マルオは顎に手を当てて考える。
戒斗のことが嫌いでも、娘たちが懐いているのは事実。
クビという処遇は向こうも望んでいた。ただ武田の言葉も一理ある。
だが、今気掛かりなのは戒斗の素振り。
「(彼はまるで、離れることを望んでいるように感じた......何故だ?駆紋戒斗、君に限って......)」
「......?」
「(離れなければならない理由でもあるのか?もしそうならばまず間違いなく絡むのは......)」
「どうかしましたか?」
険しい顔で考え込むマルオを見て、武田が少し不安に駆られる。
マルオはその不安を消すようにいつもの無表情に戻った。
「......いや、何でもないよ」
もしかしたら、などということは考えず、マルオは立ち上がる。
ふと見上げた空は、青かった。
○○○○○
公園から中野家へ向かった風太郎は、五人に戒斗のことを話した。
五人はそれといった反応は示さなかった。
傍から見れば薄情と言われるくらいには。
「学校でも会えるじゃん。だから大丈夫だよ」
「そうよ。あいつが死にでもしない限り会えるんだから」
「風太郎もそう思ってるでしょ?」
そこそこ長い付き合いながら、なんとも思っていない様子。
「だから私たちは心配しません!」
「ええ。またいつもと変わらぬ日常を過ごしましょう」
だが、風太郎はその淡白な様子を何とも思わなかった。
自分も同じ気持ちだから。
戒斗がいなくなる気はしていなかったから。
「......そうだな」
そんなこんなで話は終わり、中野家の大掃除の邪魔をするわけにはいかないので外で少し五月と話してから風太郎はすぐに帰った。
道を歩いていても、人にぶつかりかけたりしていた。
「(公園での戒斗の目、普段と明らかに違う感じがした......なんか俺たちを見てなかったような、もっと別の......)」
頭に浮かぶのは模試の時のこと。
あの時感じた異常な気配は、人のそれではなかった。
経験が浅い風太郎といえど、それは本能的に気づいていた。
「(まさか戒斗、あいつらと戦うつもりか......?)」
人のそれではないという事実が何を意味するか。
その正体がインベスであるということ。
その強さが気配を感じただけで汗が噴き出すほど凄まじいものだということを。
「(なら俺も......!)」
風太郎は覚悟を決めていた。
戦う力を持つ人間は限られている。だから自分が自分の守るべき人を守る。
そう思いながらベルトを手にするも、風太郎は手を下ろした。
彼の中で、恐怖を抱く自分を否定できずにいたから。
「なぁ戒斗、なんでお前は戦えるんだ......?」