凌馬と出会ってから数年後、戒斗の身長はすぐに伸び、ドライバーの強制成長装置も体に馴染んできた。
「今は多分小学四年生~五年生程度かな?いずれにせよ、身長による違和感はなくなりつつあるね」
「ああ。大分慣れてきた。だが......オーバーロードは一向に姿を現さんな」
「つーかさ、もうこっちから乗り込んだらいいんじゃねーの?」
「......奴らの数と戦力は未知数だ。またロシュオの様な......」
凌馬と自分しかいないはずの研究所に響く女の声。
戒斗が声の主へ目を向けると、缶ビール片手にジャーキーを齧る下田の姿が。
「でもよ、お前強ぇし何とかなんだろ?」
「下田君。彼の強さは折り紙付きだが一人でとなると───うわっ!?」
凌馬が下田の問いに答えようとしたところ、二人の鼻先を戒斗の足が掠めた。
二人は完全なる勘で体を少し後ろに引いていた。
それが救いとなり、横にある壁のように砕けずに済んだ。
「貴様は何故いる!さっさと帰れ!」
怪獣同士が戦争でも起こしているのか、戒斗は素手で、下田は研究所の物を投げながら互いを迎撃しようとする。
戒斗は投擲物を避けながら、ついでに凌馬の頭を地にめり込ませた。
「お、おい。戦極?生きてるかー?ってのわあっ!?」
「さっさと帰れと言っている」
「何すんだよ!お前がバロンって言いふらすぞ!」
「貴様が言う前に埋めてしまえば問題ない」
「ちょ、戦極!こいつヤバいって!うわあああああっ!!!」
この下田がここにいる理由。
それはここ数年の間の出来事が原因だった。
○○○○○
その日は普段通りにインベスを殲滅していた。
「いやー、バロンが来てくれたおかげで効率が上がって助かるぜ」
「俺とて奴らに好き勝手されるのは気に入らん。win-winだ」
「ですが本当に助かっているんですよ?ありがとうございます」
「......ありがとう、とだけ言っておくよ」
マルオとの関係も、最初は尖っていたが今や言葉を交わせる程度まで進展していた。
「さーそろそろ解散しようか!今日はちょっとやることがあるからね!」
「おう」
「ではこれで」
そしていつものように全員が去ったのを確認して変身を解除する。
そして幸い近かった研究所に行こうと振り向いた時、目の前に戒斗の事をじっと見つめる下田の姿が。
「へぇ、あのバナナの奴ってお前みたいなガキだったんだな」
「......証拠は残さん。確実に消す」
「お、おい?なんか目が据わって───ギャーーーーッ!!!」
○○○○○
「はぁ......なぜ俺は油断したんだ......」
「まー仕方ねぇよ。ところでジャーキーいる?」
「......貰おう」
「ん」
下田からジャーキーを受け取り、口に放り込む。
「美味い。塩が効いているな。どこに売っていた?」
「それ自家製」
「食材に謝れ」
「お前マジそういうとこだぞ」
下田とそんなやり取りをしながら、戒斗は凌馬に詳しい話は後でと目で伝える。凌馬もその意図を読んだのか、頷いた後話題を変えて下田と飲み会を始めた。
「ところでさ、なんで戒斗は正体バラしたくねーんだ?」
「......奴らが俺を子供だと知ったら、戦うのを止めようとする......とそこの科学者が言った」
「なーるほどな。ま、先生は優しいからな。上杉も先生も、お前とタメくらいの子がいる訳だし」
「お、ということは同じ学校にいるかもよ?まぁ、君は行っていないから意味は無いと思うけど」
戒斗は、戦いに全てを費やしていた。
ただ前世の知識とは有難いもので、学校に行かずとも戒斗にはそれなりの知力があった。
「勉強が出来るかどうかは別だが、そこらのガキよりは頭がいいと自負している」
「ふーん......」
「まぁ結果としてお前が知り過ぎたのにも変わりはない。一応は俺たちの敵について教えておこう」
ヘルヘイムについて話終えた後、三人の間では無言が続いていた。
特に話すことが無くなったのに加え、下田は自分に戦う力がないことを理解していたので、これ以上自分が首を突っ込むのを良しとしなかった。
「あの化け物について、深く聞くのはやめとく。私が関わったところで何も出来ないからな」
「君自身のためにも、そうした方がいい」
「......じゃ、今日は帰るわ。気が向いたらまた来るかもな」
「二度と来るな」
ガハハハと女性らしからぬ笑い声を出しながら研究所を去る下田を、戒斗は疲れた様子で見送った。
「さて戦極凌馬、話の続きだが」
「戒斗くん、後ろ後ろ」
振り向くと、涙を大量に流して戒斗に縋り付く下田の姿が。
「どうやって帰るんだよぉおお!」
「普段は私が送っているけど、今日は無理なんだ。戒斗くん、頼まれてくれ」
「......はぁ、仕方ない。送ってやるからとりあえず、俺の服で涙を拭くのはやめろ」
「うぅ......」
酔っているのかいつにも増して絡むのが嫌になる下田を背負い、戒斗はわざわざバロンに変身して見覚えのおる場所まで運んだ。
「この辺でいいか?人目につくと不味いんでな」
「おう、サンキュ。まー、バロンのことは秘密にしとくよ」
「助かる」
そして研究所へ戻り、凌馬と今後の方針について話を始めた。
「さっきも言ったが、ロシュオのような相手がいるとなれば、俺じゃ太刀打ちできない。まず、やつと同じ土俵に立つには人間では無理だ」
「ということはあの時みたいに───」
「いや、あの事例は敵から受けた攻撃による侵食があったからこそだ。貴様も知っているだろう」
「......ということは、今の君には耐性はないということか」
「ああ。そもそも見た目が同じとはいえ、細胞の一つ一つまでが以前と同じとは思えん」
戒斗自身、何故か脳とマッチしない時がたまにあることを自覚していた。
マッチしないとは、思った通りに動けないということである。
子供の体であるというのも一つの要因かもしれないが、それを加味しても違和感は消えぬままだった。
「まぁあの程度の毒、今でも抑え込めるがな。ただ、無理だと言ったのは奴の強さに屈した者だけだ。俺は違う。オーバーロードを人類の力で屈服させれば話は早い。わざわざヘルヘイムに頼ることも無い」
「それもそうだね。......そんな君にヘルヘイムを知る者として、一つ教えるべきことがある」
「何だ」
「これは研究の成果なんだけど、一番大きくクラックが開く時期を特定できた。あ、ちなみにこれは録画した映像」
凌馬はモニターを見せる。
そこに移るのはヘルヘイムの森とそこにいる大量の初級インベス。
そして、緑色を基調とした体の明らかに異質な雰囲気を放つインベスがいた。
「こいつは......俺にあの症状を負わせた奴か......!」
「名をレデュエ。光実くんが暴走した時に拍車をかけていた犯人さ」
「お前も噛んでいただろうが」
「ハハッ、全部私のせいだ!......とはならないんだ」
モニターを見ていると、そのレデュエは何を血迷ったのかインベス同士で殺し合いをさせ始めた。
「どういうことだ......?」
「私も初見の時は思わず声を出したよ。ただ、これは実に合理的な作戦とも言える」
「......何?」
インベスの殺し合いの結末を見届けていると、爆発したはずの煙の中から新たなインベスが出現した。
しかも、そのインベスは上級へと進化していた。
「......なるほど。詳しい過程は分からんが、雑魚ばかりの多勢より少数精鋭にしようという腹か」
前の世界ではすぐに倒せた上級インベスだが、戒斗が精鋭と言うだけのことはあり、明らかな、それも爆発的な戦闘力の上昇が見えた。
「そう。阻止しようと思ったんだけど、そもそもこれは録画だからすでに終わっている。つまり、敵はオーバーロードだけでなく奴らに近い強さを持ったインベスでもあるのさ」
「今の内に、このことをあの三人にも伝えておけよ。死を覚悟できるのなら来い、と」
「意外だね。戦力は多い方が良いと言うものだとばかり」
「ふん。戦いに臆した腑抜けなどこっちから切り捨てる。邪魔なだけだ」
凌馬は脱力して椅子に座り、戒斗の言葉を肯定した。
そして今の戦力では戦うのは厳しいということを伝える。
「それで負けるのなら、俺たちはその程度の弱い存在だというだけだ」
「少数精鋭とはいえ、ウチの倍はいるからね......それに、上杉たちには家族がいる。簡単に死なせられないよ。オーバーロードがこのレデュエだけというのが救いだね」
「......ああ。最優先事項としてこのレデュエを必ず倒す。頭が死ねば知能の低いインベスは目的を見失う。本能に任せて襲ってくる奴らも、所詮は雑魚だ。だが......」
「もしクラックから現世に来た場合はどうするか?それに関しては問題ない。私達はロックビークルで行くからね」
「......よし。ならば俺は、このことを他の奴らにも伝えに行く。貴様はこの戦いの参謀だ。役に立てよ」
「ハッ、決まっていることをわざわざ確認しなくてもいいだろうに」
決戦の日は近い。
戒斗はまず中野零奈の方へ行き、参加への意思を聞くつもりでいた。
「む?」
急いで走っていると、道中蹲る一人の少女がいた。
戒斗は構わず素通りして行った。
「迷子くらい一人で切り抜けて見せろ」
そんな時すれ違った見るからに怪しい一人の男。
その目は先程の少女を捉えており、平日故か人通りが少ない。戒斗は事案の臭いを感じた。
「おい」
「......え?」
誘拐されるのを見逃すほど腐ってはいないので、通り過ぎた道を戻り、少女に話しかけた。
「貴様に言っている。迷子だろう?説明しろ」
「あ、えっと......」
いきなり威圧的な態度で接したのは不味かったのか、少女は少し脅えながら戒斗を見ている。
それを見た戒斗はしゃがんで目線を合わせる。
「で、何故こんな場所に一人でいる?」
「......ほんとは皆一緒に来てたんだけど、気づいたら一人になってて......」
要するに家族又は友人とはぐれた目の前の少女は、必死に泣くのを堪えているように見えた。
「仕方ない。まずは状況を説明しろ。」
「うん......あのね、今日は五人でお買い物に来てて......気づいたら皆いなくなってて......」
「端折り過ぎだ。詳しく教えろ」
「だ、だってわかんないんだもん......」
過程を思い切りすっ飛ばした少女の説明を聞き、戒斗は詳細を求める。
だが目の前の幼い少女にしてみれば不安しかないこの状況、パニックになってもおかしくはなかったが、まともに会話が出来るだけ儲けものかと流した。
「それでね、ずっと歩いてたらここに着いちゃって......」
「貴様は馬鹿か?そうなればより迷うと......いや、いい。とりあえず、動けるか?」
「......うん。あ、あのね、一つお願いがあるんだけど......」
「何だ?」
少女は手を差し伸べた。
戒斗が首を傾げると、少女は強引に戒斗の手を掴んだ。
「あのおじさんがこっち見てくるから怖くて......」
「......なるほどな」
繋いで尚、震える少女の手を戒斗は握った。
そうすることで少しは不安が和らいだのか、深呼吸をした後、少女は口を開いた。
「そういえば、お名前はなんていうの?」
「駆紋戒斗」
「駆紋......戒斗くん。私は中野一花。よろしくね」
「ああ。中野......中野?」
戒斗は思った。
この少女は今探している女と同じ名前ではないかと。
もしかしたら、と。
「お前、母親の名前はなんだ?」
「え?えっと......零奈だけど」
「......まさか当たるとはな」
「え?」
「安心しろ中野一花。俺が必ず貴様を母親の元へ送り届ける。」
「?う、うん。ありがと。あ、そうだ」
少女改め一花はポケットをまさぐり、棒付きの飴を取り出した。
「はい。私が一番好きな味。怖い時とか、よく舐めるんだ。安心するから。お友達の印にあげる」
「......ああ。有難く貰おう」
「はい」
そして戒斗が飴を受け取ったとき、事件は起きた。
「戒斗く......むぐっ!!」
戒斗が飴を掴み、一花が飴を手放した瞬間、先程の怪しい男が一花の体を抱え上げ、どこかへ走り去って行った。
「チッ!」
戒斗もすぐに追いかけるが、男は一花の小さな体を服の人混みの多い所へ上手く潜っていった。
「クソ......あの体格ならば子供一人隠す程度のこと訳はない......不味ったか!」
通信機器は持っていないので凌馬に手助けを求めることも出来ない。
警察に報告するという手段もあるが、あの男が何をするか分からない。
そして近くに警察署と思しき場所は見られない。
自分が署を探している間に時間は刻一刻と過ぎる。
つまり、戒斗一人で解決しなければならなくなってしまった。
「あの男......見た目の割に動けるな......」
そして男は人混みを離れて路地裏に入った。
自分の体格を理解しているのか、器用に障害物を躱し、明るみに出た。
その時戒斗が見たのは、先程とは比にならない大勢の人だった。
「逃げられたか......」