上杉とバナナと五つ子   作:フェンネル

58 / 63
次は

どこかの廃墟で、一花を攫った男は誰かに電話をしていた。

 

「捕まえたぞ。目標のガキ一人目。一人で迷子になってやがった。もう一人のガキに追いかけられたが、すぐ撒いてやった」

 

男が視線を向けた先には、口にガムテープを貼られ、手足を縛られた一花がジタバタと動いている袋があった。

 

「(なんでなんで......なんで私が......)」

 

どうにか逃げようとするも、男がそこらにある廃棄物を蹴り飛ばした音ですぐに萎縮してしまった。

 

「ああ。あと四人だ。ただ、お前の言ってたことは本当なのか?......そんなことが有り得るとは思えねぇ」

 

「(何の話だろ......?あと四人ってまさか......!)」

 

「そもそも人間は......」

 

「んんーーー!!んんんーーー!!!」

 

自分以外の姉妹が攫われることを悟った一花は、誰かに気づいて貰えるよう大声を出した。

 

「うるせぇぞガキが!あんま騒ぐと殺すぞ!」

 

「っ!!」

 

「......いや、ガキが騒いだだけだ。......お前も生け捕りの方が良いだろ」

 

男は怒鳴ったかと思えば、突然一花を持ち上げて廃墟を出た。

そしてどこか分からない場所を歩く。

草木を踏む音が聞こえることから、どこかの森であることを一花は理解した。

 

「(どこに向かってるんだろ......あれ?)」

 

袋に空いた小さな穴を見つけ、そこから景色を見る。

穴から見える風景は正に緑一色で、人が来るような場所ではなかった。

 

「(嘘......)」

 

ということはつまり、助けが来ないということ。

先程友達になったばかりの少年も、姿を現さない。

 

「(やだよ......死にたくないよ......)」

 

一花は、自分が後に殺されることを予感していた。

何故か。男が言った「殺すぞ」という言葉は、そこらの者が使う威圧のための言葉とは違う、本気の殺意を感じたから。

 

「はぁ......はぁ......」

 

今の一花は、思い出しただけで寒気がするような殺気を直接浴び、失いそうになった意識を何とか保っている状態だった。

かつてない人生の危機。それに直面した時、一花は妙な気分になっていた。

 

「(助けて、戒斗くん......)」

 

何故か思い浮かぶ戒斗の姿。

自分と同じくらいの年齢にも関わらずとても大人びた雰囲気を醸し出すあの少年は、自分を助けてくれるだろうという一抹の希望を一花に抱かせていた。

 

「(お願い......)」

 

そう願った時───

 

「誰だ!!」

 

ガサ、と誰かが近づく音を聞いた男は、威嚇するためその方を睨みつける。

 

「(まさか......!)」

 

一花はこの時、確信した。

彼が来てくれたのだと、危険を冒してまで自分を助けに来てくれたのだと。

そしてやってきた誰かは、一花の入っている袋に近寄って来た。

 

「(戒斗くん、戒斗くん!)」

 

その誰かは、一花を袋から開放した。

 

「よう」

 

その時一花が見たもの。それは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だったなぁ。お友達は来ねぇんだ」

 

明らかに人間ではない、おぞましい化け物の顔だった。

 

「あ......」

 

そこで一花は、希望が途絶えたことに激しく絶望し、気を失った。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「さて、このガキは......よし、間違いないな」

 

「どうする?五人まとめて持ってくか?」

 

「ああ。一人ずつは手間がかかる」

 

一花をもう一度袋に詰め、知的な様子で言語を話す怪物。

戒斗や凌馬が見れば間違いなくインベスと判断するであろうその容姿。

だが、それは一花を攫った男も同じようで、さらに醜悪な外見へと変貌した。

 

「そういや、お前の事を追いかけてきたガキだが」

 

「あぁ。今思えば変わったガキだったな。俺に撒かれた時も叫んだりしなかった」

 

「......ああ。銃器等の武器を持っていたならともかく、お前は素手だった。にも関わらず、他の人間にお前のことを教えることなく見失った......何を考えている......」

 

知的な方のインベスは、戒斗のことについて深く考える。

袋に入った少女と同程度の年齢ながら、誘拐犯を迷いなく追いかけただけでも妙だというのに、明らかに普通とは異なる行動を取る少年。

 

「......そいつの容姿は覚えているか?」

 

「......目つきの悪い奴だ。あと、なんか妙な錠前を持ってたな」

 

「......錠前だと?」

 

「ああ。人間がよく食うバナナ?ってやつがモチーフになってた」

 

「何!?」

 

それを聞き、知的なインベスは驚きのあまり大声を出した。

誘拐犯がどうしたのかと問えば、知的なインベスは説明を始めた。

 

「......レデュエ様から言われた、見た瞬間迷わず殺せと言われた奴らを覚えているか?」

 

「ああ、たしか葛葉紘汰と駆紋戒斗......だったか?あとは呉島光実......他にもいたな」

 

「その名は奴らが人間の姿でいる時の名前だ。ベルトを使って変身した時の奴らは「アーマードライダー」と呼ばれている。

ヘルヘイム由来の錠前を使って変身するらしい。その中でもバナナの錠前を使う奴は駆紋戒斗だ」

 

「なっ!てことは......」

 

誘拐犯は焦った。

自分のことを追いかけてきた少年は危険人物。

つまりインベスの存在を知り、ヘルヘイムの森を知っている。

 

「レデュエ様が奴らを最優先に殺せという理由は、曰く自分を殺せる存在だからだと言う。そんな奴が......もしお前のことをインベスであると察したなら、どうなると思う?」

 

「い、いや、それこそ有り得ねぇだろ」

 

「確かに、俺も少し警戒し過ぎかと思う。だが、奴らは危険だ。こちらの思わぬやり方で仕掛けてくるかもしれないぞ」

 

その時、近くにある木が何本もなぎ倒された。

 

「っ!!」

 

「今すぐここを離れるぞ!!」

 

そして二体が一花も連れて行くため袋に手を伸ばした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

 

 

「「!!!!」」

 

 

反射的に声のした方へ攻撃を仕掛ける誘拐犯。

確実に当てた感触はあったものの、目の前の騎士はダメージを負った様子はなかった。

 

「貴様ら、どうやらそこらのインベスよりは強いらしいな。さしずめインベス以上オーバーロード以下と言ったところか」

 

「舐めるなよっ!!」

 

知的なインベスはバロンに膝蹴りをお見舞する。

バナスピアーで防ぐことは出来たもののあまりの膂力に勢いよく吹っ飛ばされる。

 

「チッ......さすがに手強いな。フン!!」

 

そしてぶっ飛ばされならバナスピアーを他の木目掛けて投げた。

すると当然大樹は更に倒れ、一花とインベスたちの間に確実な壁ができた。

 

「ふぅ......これで貴様らは俺を倒さねば一花を攫えないわけだが......どうする?」

 

「しゃあっ!!」

 

バロンは誘拐犯の放つ右の拳を肘で迎え撃ち、体を捻って蹴りを与えた。

 

「うがあああああっ!!!」

 

「(こいつの方がパワーはともかく、戦闘力は低い。警戒すべきは......)」

 

「ハアッ!!」

 

「お前だ!」

 

知的な方のインベスは誘拐犯に比べて力こそ劣るものの、速度と技術が段違いに高く、拳がバナスピアーに衝突する直前に穂先を掴んで引き寄せ、バロンの顔に肘を食らわせた。

 

「ぐっ!!」

 

バロンは咄嗟に首を横にずらしたが、回避に精一杯でバナスピアーはそのまま取られてしまった。

 

「しくじったか......」

 

武器がなければスピアビクトリーが使えない。難易度が跳ね上がってしまう。

それを理解しているからこそ、次の攻撃に移る時間は数秒もなかった。

ライダーのスペックを最大限利用し、知的なインベスの方へ突っ込む。

 

「隙だらけだ。フンッッ!!!」

 

「うぐっ......!!」

 

鋭い膝蹴りが腹に直撃し、地面を抉りながら後退するバロン。

 

「貴様、ふざけているのか?」

 

「......さぁな......だが......目的は達成した......」

 

ふと違和感を感じた知的なインベスは、自らの片手を見る。

バロンはダメージを負いはしたものの、バナスピアーを取り返すことに成功していた。

 

「なるほど......甘かったのはこちららしいな」

 

「貴様はかなりの強さらしいが......そんなことは関係ない。今ここで......倒す」

 

「面白い......」

 

バロンは誘拐犯のことを一旦頭から離し、目の前の相手を倒すことに意識を集中させる。

互いに攻撃を繰り出すため踏み出し、バロンはバナスピアーを、インベスの方は肥大化させた腕と拳を一気に振り抜いた。

 

「ウオオオオオオッ!!!!」

 

そのパワーは誘拐犯を軽く凌駕しており、バナスピアーもろともバロンを地面へ叩きつけ、更にもう一本の腕も同じようにしてラッシュを繰り出した。

 

「ハアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

「ぐ......」

 

叩きつけられた後、体に食らう訳にはいかないと何とかバナスピアーを盾にする。

 

「俺のパワーの最大値はこの程度だと思ったか?」

 

その時、ミシッと何かが軋む音がした。

 

「なにっ、こいつは......!!」

 

バロンはいち早くバナスピアーが壊されかけていることに気づいた。

だが敵の攻撃が止む気配はなく、どんどんとパワーは上昇し、バナスピアーも原型が崩れていく。

 

「どうした!そんなものか!!」

 

攻撃面は駆紋戒斗という男の性格も相まって圧倒的な力を発揮するが、守勢に転ずると脆い。

加えてこのインベスは明らかな攻撃型。バロンとの相性は悪かった。

 

「(......やむを得ん。まずはこの攻撃から抜けなければ!)」

 

「どうやら貴様はそこまでの脅威ではなかったらしいな」

 

「く......」

 

何とか右手を動かし、カッティングブレードを二回倒した。

 

《カモンッ!バナナ・オーレ!!》

 

この時、今残っているエネルギー全てをバナスピアーに集中させ、相手を倒すためではなく、”持ち上げる”ためにスピアビクトリーを放った。

 

「甘い!」

 

すかさず防御するインベス。

 

「......っ、この密度は───!」

 

の体がどんどんと持ち上げられていく。

 

「うおおおあああああっ!!!!!!」

 

直接致命傷を与える要因にはならないものの、膂力を最大限に上げたインベスを持ち上げるほどのエネルギー。

だがそれも、いずれ限界が来る。

 

「こちらはこのエネルギーが切れるのを待てば、すぐお前を消せるらしいな......」

 

「......っ!」

 

万策尽きたかと思われたその時、限界を迎えたエネルギーは消えるのではなく、拡散した。

 

「なっ!?」

 

インベスは一瞬動揺し、ガードの力を抜いてしまった。

拡散したエネルギーは辺り一面に散らばり、周りの植物を爆発させていく。

 

「......!今だ!」

 

爆発した際の煙が煙幕になったのを見て、バロンは残り少ない体力で何とか体を動かし、一花の入った袋を持って森を逃げ去った。

 

「く......!」

 

煙幕が晴れた時、そこにバロンの姿はなく、逃げられたことは容易に見て取れた。

 

「......どうやら、逃げ足は速いらしい。しくじった」

 

「や、やべぇよ。これじゃ俺らが消されちまう!」

 

「大丈夫だ。言い分は考えてある。そもそもあの男を見つけたんだ。ガキを逃したところで釣りが来る」

 

焦る誘拐犯を、知的なインベスは冷静に静めた。

それとは別に、先程戦ったバロンの戦闘力について思うことがあった。

 

「(あの程度でレデュエ様に脅威として見られているのか......?いや、最優先で殺せというのは成長性を危険視しているのか......?)」

 

彼は、自らの強さにある程度の自信を持っている。

そんな彼ですら、レデュエとは大きな力の差がある。

そのレデュエが危険視するということは、こちらを脅かす”何か”があるはず。そう考えていた。

 

「(だが、今の戦い。終始こちらが押していた......一体どういうことだ?)」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

そんな中バロンは、何とかインベスたちの目を欺き、一花の拘束を解いて抱き抱えながら足を引き摺って歩いていた。

 

「(撤退しかなかった......まさかあそこまで......)」

 

一花を地面に落とさぬよう、体力の消費を最小限に抑えつつ、重い足を一歩ずつ、しっかりと動かしていく。

 

「(......俺には、強さが足りない......奴らにとって今の俺は、取るに足らない弱者だ......)」

 

息も絶え絶えになっていると、変身を保つ余力も切れてしまい、甲冑とスーツは粒子となって消えてしまった。

その時限界を超えたことで、ついに足を止めてしまう。

 

「くそ、動け......!!」

 

一刻も早く、少しでもインベスから距離を取らねばならないこの状況で、足が止まるというのは致命的である。

戒斗は何とか足を動かそうとするも、体に余程の負担がかかっていたのか一切動かなくなってしまった。

 

「(ふざけるな......こんな、ところで......俺には、まだ───)」

 

意志とは反対に体は本能的な休息を求め、彼の肉体は激しい眠気を与え、意識を強制的にシャットダウンした。

 

「......ん......」

 

それとほぼ同時に一花は目を覚ました。

 

「あれ、私......」

 

記憶を整理するより先に、自分の横で倒れる戒斗を見つけてしまった。

 

「か、戒斗くん!戒斗くん!」

 

体を揺さぶるも返事はない。服がところどころ裂けていたり、あちこちに傷がある。

ふと、一花は何か液体のようなものが付着する感触がしたので、掌を見る。

 

「嘘、これって......」

 

掌には、赤い液体───戒斗の血液と思しきものが、べっとりと付いていた。

 

「ひっ......」

 

一花はそれを見て恐怖を感じるも、彼が自分を助けるために戦っていたことを悟り、ぎゅっと抱きしめた。

 

「ごめんね、戒斗くん。私のために......ありがとう」

 

手や服に血がつくことを何の気にもせず、一花は戒斗を背負う形で持ち上げ、森を歩いた。

 

「(戒斗くんは、助けてくれた。まだ全然知らない私のことを。こんなになってまで......だから、次は私が......!)」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。