「───!」
数分後か、数時間後か。
短いのか、長いのか。時間の経過量が曖昧に感じる中、戒斗は目を覚ました。
「これは......」
勢いよく体を起こして自分が被っている布団を見る。
森の中から記憶が途切れていること、身体中に包帯が巻かれていることから、誰かが運んでくれたのだと悟る。
「ん?」
そのすぐ後、片手に謎の重みを感じたので視線を向けると、戒斗の手を握りながら眠っている一花の姿が。
彼女の服には血が付着しており、それが自分のものであると気づくのにそう時間はかからなかった。
「(こいつが俺をここまで運んだ......と考える他ないな)」
インベスが追ってこなかったことに安堵しつつ、一花に怪我がないことに胸を撫で下ろした。
「(さて、問題は誰が”俺たちをここまで運んだか”だ)」
そして今いる場所を見渡す。
明らかに一花のような少女が出入りするような場所ではなく、隠れ家のような場所だった。
「おや、意外と早かったね」
「......なるほど」
「どうだいこの隠れ家。良いだろう?」
謎の人物について考えいた時、タイミング良く現れたのは凌馬だった。
「なぜ貴様が?」
「その子が森で倒れているのを見つけたんだ。よく見たら驚いたよ。血塗れの君を背負っていたんだから」
「......礼を言う」
「おや珍しい。もっと言ってくれてもいいんだよ?」
「黙れ」
「ハッハッハ」
凌馬の態度は今に始まったことでは無いが、やはり苛立ちが募るので戒斗は額に手をやる。
凌馬はそんな様子を見て尚からかおうとしたが、ふと目線を一花に移し、本題を思い出した。
「で、誰にやられたのかな?」
近くの椅子に座り、戒斗から話を聞く凌馬。
目を見れば、答えをすでに知っているようだった。
「私が貴様が思っている通り、インベスだ。だが、戦闘力は上級インベス以上、下位のオーバーロード以下だ」
「オーバーロードより弱いなら安心とはならないよ。現に君が負けているんだから。あと、今弱いからって油断はダメだよ。もしかしたら以前のように戦闘力を上げてくるかもしれない」
凌馬の言うことは最もで、また殺し合いで戦闘力を上昇させられると手に負えなくなる可能性を秘めており、不味い状況だった。
「......それに、無関係のこいつも巻き込んでしまった......寝て起きて忘れる......ということは無いだろう」
「となると私たちに出来ることは───」
「こいつを守り抜く。奴らに危害は加えさせん」
「......それはそうなんだけど、何故その子が血塗れの君を背負っていたんだい?」
戒斗は、凌馬に全てを話した。
敵は何故か一花を狙っていたこと。
人間の姿に化けられること。
敵にやられた自分が意識を失っている最中に一花が目を覚まし、運んだ次第だと。
「それに、奴らにも会話できるだけの知能はあった」
「フム......いずれにせよ、その子の周りの人間も襲われる可能性がある。警戒しておくべきだがどうしたものか......」
「俺からこいつにある程度逸らして話す。そしてこいつらの母親......中野零奈にもこのことを伝える」
「!驚いた......まさか彼女の娘だとは」
凌馬はよく見れば似てるか?などと呟いていたが、戒斗の心中は穏やかではなかった。
「分からなかったのか」
「いや名前聞いてないし、流石の私もそこまで鋭い観察眼は無いよ」
凌馬は頑張って共通点を見つけながら、眠っている少女が彼の中野零奈の娘であることを再確認していた。
「......ただ、対峙した時、前の世界で戦ったオーバーロードと同じ雰囲気を感じた。奴らは戦闘能力云々ではない、俺たちが知らない場所に達しているのかもしれない」
戒斗の言う知らない場所。
それについては不確定な要素が多く、二人が知恵を絞るも答えは出ない。
「頭のレデュエを倒して解決......とはならなさそうだな」
「というか、前と同じと思うこと自体がダメなんじゃないかな?ここは世界も違うのだから、平行世界のようにちょっとした差異もあると考えられるだろ?」
「......なるほどな」
インベスやヘルヘイム関連は、どうも前の世界のものであると頭に染み付いているので、今回のようなイレギュラーというのに遭遇すると判断が遅れてしまう。
「そもそも、この世界すらも私たちが過ごした世界の未来。ただしヘルヘイムに侵されなかった場合の───というのも否定できない。もしも、ifなんてものはどこにでもあるからね」
凌馬のこのようなことを時たま考えており、結論が出ないと分かっていてもつい頭に浮かべてしまう。
想像が膨らむ故に謎も浮かぶ。
だから深く考えないようにと意識していた。
「......まぁ、何にしても以前より進化しているのは確かだろうね」
「あぁ」
「その辺やこれから始まる戦いについては、代わりに私が伝えておこう。君はゆっくり休むといい。今にも戦おうとしていることはわかっているし、体が動くからと言って無茶はいけないよ」
「チッ、気づいていたか」
「その闘争心は怪我が治ってから好きなだけ発揮しなさい」
今は凌馬の言うことを聞くしかないのは分かっていたので、戒斗はそれ以上何も言わなかった。
「俺が気になるのは何故奴らがこいつらを狙っていたかということだ」
「......そこについては私にも、何も分からない」
あの戦極凌馬が「何も」と言うのだから如何に敵が不審な行動を取っているかがわかる。
「ひとまず、君の怪我が治り次第、この子を中野の元へ送り届けよう」
「ああ」
○○○○○
戒斗は、ものの数時間で傷を完治させた。
明らかに人間のできることではないが、凌馬は生前の戒斗を見ているので特に気にしなかった。
「さて、ささっとこの娘を中野に届けて、私たちはこれからの作戦でも考えようじゃないか」
「ひとまず、あの女の元へ向かうぞ」
夜になったので誘拐犯に間違えられないよう気をつけながら、二人は文字通りささっと中野家へ向かった。
その道中戒斗と凌馬が目にしたのは、夜道を思い足取りであるく中野零奈その人だった。
「戒斗くんは......まぁ一緒に行こうか」
「戦った後でもないからな。こいつを届けて終いだ」
「この際だしもう言ってもいいかな」
「構わん」
どうやら今の今まで一花を捜していたらしく、顔には疲労が見える。
だが愛娘をその手に抱いたことで、彼女の疲れは全て吹っ飛んだらしい。
「ありがとうございます......!」
この時戒斗は、愛を見た気がした。
遠い過去で、自分も感じたそれを。
「ま、私達の用はこれだけだからね。そろそろ帰らせてもらうよ」
「待て。話すことがあるだろうが」
「感動の再会だよ?」
「知るか」
「はぁ......中野君、少しいいかい?手早く済む話だ。近くの喫茶店にでも入ろう」
零奈の返答を待たず、二人は喫茶店へ入った。
「さて、こうやって連れてきた理由だけど......単刀直入に言うよ」
「お願いします」
「君の娘がインベスに狙われている」
「!やはり......」
凌馬と戒斗は耳を疑った。
今零奈は「やはり」と言った。それがどういうことがというと、娘が狙われる可能性を知っていたということ。
「君がその可能性を知っていたことについては問わない。今回はインベス達との戦いに参加するかを聞きに来た。君の娘を届けるついでにね」
本当は戒斗が行く予定だったが、運悪く一花が攫われたため大きく遅れたとの旨を伝えると、零奈は戒斗に頭を下げた。
「ちなみに彼がバロンだよ」
「!そういうことでしたか......貴方がいなければ今頃娘は......本当にありがとうございます」
「礼はいらん。で、戦いに参加するのかしないのかどっちだ」
「勿論、娘たちのためにも戦います」
「よし、恐らくはあの二人......とくに阿多辺丸男に関しては間違いなくくる。この女がいるからな」
「そ、そうでしょうか......?」
少し照れた様子を見せる零奈。
凌馬が死んだ顔で拍手をしているが、戒斗にはその意味がわからなかった。
「残るは上杉という男だが......俺が思うに正義感の強い男だ。恐らく来る」
「まぁ私は詳しい日程も考えなければならないからね。三人は大人だ。戦いが終わった後も働く。都合というものがあるのだよ」
「そろそろ子供たちの修学旅行もあります。何事もなく終わらせたいのですが......」
「ということは君も六年生程度ということだね」
「どうでもいい」
凌馬は以前、戒斗にせっかくの小学生なので修学旅行参加の賛否問うたが、「ガキと一緒は面倒」という理由で拒否された。
「敵がこっちに襲撃してくる気配はない。インベスは別だけどね」
「つまり、貴様らの予定が合えばすぐに向かうということだ」
「......私は子供たちが修学旅行に行っている間が望ましいです」
「君の娘達に何かあったらどうするんだい?長く離れる訳だが......」
「彼に守ってもらいます」
凌馬は何かを察し、納得した顔を見せた。
「あいつは君が子供たちといる方を望むと思うけどね」
「その辺りは二人で話し合おうかと......」
またも頬を赤らめて髪を弄る零奈。
「これは......掘り下げたらだめなやつだね」
この話を進めていくと惚気が出る気がしたので、凌馬は話を無理矢理終えた。
「ひとまず、君は君でマルオと話をしておいてくれ。上杉には、これから私たちが話す」
「分かりました」
そうして二組が別れようとした時、タイミングが良いのか悪いのか、一花が目を覚ました。
「戒斗くん!!」
そして無事な戒斗を見て、泣きながら飛び付いた。
「......済まなかったな。助けられた」
「ううん、私こそ......ありがとう」
一花は眠る直前まで血塗れの戒斗を見ていた故か、触れて尚不安に駆られるらしく、彼の体温を感じ、生きていることに心から安堵した。
「一花。会ってすぐの男の子に軽々しくそういうことをしてはいけません」
「戒斗くんだからいいの!すぐとか関係ない!助けてくれたもん!」
一花があまりの嬉しさからより強い力で抱き締めた結果、戒斗は少々腹の傷が開いた。
「っ......」
「あっ、ご、ごめんね戒斗くん......嬉しくて......」
「気にするな。こんな傷を負った俺の責任だ」
そう言うと一花はホッとした様子を見せ、戒斗からゆっくり離れ、零奈の方へ戻った。
「またね、戒斗くん」
「......あぁ」
中野親子を見送った後、二人は上杉家に向かうことにした。
上杉家に向かう最中、二人はあることを考えていた。
「家族......ね」
「...........」
戦うことしか目的のない二人は、誰かに情を持つことは無い。
自分を愛してくれる人間になど出会うことも無い。
だからこそ遠慮なく、自らを気にすることなく敵を滅することができる。
「戒斗くん、ホームシックになったかな?」
「そんなものは捨てた。余計な話をするな」
「おー怖」