ダンス対決が終わり、各チームも解散している頃、戒斗はチームバロンと話していた。チームメイトにならないかなど、勧誘を受けたり、連絡先を交換したりと、戒斗にとってこのダンス対決は良き出会いとなった。
そんな時、
「戒斗くん!」
一花と二乃が戒斗を労いに行った。
「......なっ......」
戒斗は一花と二乃を見て目を見開いた。それと同時に面倒だとも思った。何故こういう場所で出くわすのかと。
「ふむふむ、ほほう......」
ジャックとチームバロンの面々は、雰囲気を察して速やかに戒斗から衣装を回収し、ニヤニヤしながら去っていった。
「戒斗、今日は本当にありがとな!また踊りたくなったら何時でも連絡くれ!ポケットにメアド入れたぞ!またな!彼女と仲良くな!」
「おいやめろ!誰が彼女だ!!」
「かっこよかったよ、戒斗くん。ね、二乃?」
「......少しだけね、お疲れ様、戒斗」
「......お前に労われると不信感しか感じないな」
「失礼ねあんた!」
せっかく褒めたのに素っ気ない態度の戒斗に噛みつく二乃。
一花は、相変わらず睨み合ってばかりではあるが、二乃も自分から戒斗に歩み寄ったことに姉として嬉しく思うのだった。
「俺は俺のやりたいことをやっただけだ。じゃあな」
「あれー?どこ行くのかなー?」
鞄を持ち、早々に帰ろうとする戒斗の腕を一花が掴んだ。
戒斗が煩わしそうに目を向けると、いい笑顔で自分と手を繋ぐ一花の姿が。
「せっかくだし、どっか行かない?」
「何故そうなる」
「だって偶然会ったし。戒斗くんももう予定ないでしょ?」
否定出来ないとこが辛い戒斗だった。その表情を見た一花は二乃の手を引き、食べ歩きを再開した。
「相変わらず食べないね、戒斗くん」
「ていうか、あんたってご飯食べてる?」
「まあ気にするな。食欲が無いだけだ」
(前もそう言ってたような......)
「ま、欲しくなったらあげないことも無いわよ?」
「誰が貴様から貰うか」
「何ですって!?」
「まあまあ」
○○○○○
「何だかんださ、二乃も戒斗くんに心開きかけてるよね」
「は?何言ってんの?」
感情の籠らぬ声で否定する二乃。その態度は意地っ張りでしかないのだが、二乃は気づいていない。一花はニヤニヤしながら二乃をからかっていた。
「ね、戒斗くんもそう思......あれ?」
気づいた時には、戒斗はいなくなっていた。自分達を置いて教室へ行ったのだろう。一花は頬を膨らませてむくれた。
「まったく!女の子を置いていくなんて......」
「ねぇ、一花」
「どしたの?」
「あいつがダンスしてる時、さ」
「分かるよ。かっこよかった」
「でね、最後くるって回った時、少しだけ笑ってたの」
一花自身、戒斗が笑ったときはギャップを感じた。何ならときめいた。そしてどうやら二乃も同じらしい。
「かっこよかったね」
「うん......あと汗が───むぐっ」
二乃の言わんとしていることが分かってしまった一花は二乃の口を塞いだ。
「二乃、それ以上はダメだよ。危ない人になっちゃう」
「......そうね」
今話したことはお互いの心の中にしまうと約束し、2人は別々の教室へ向かった。
その際遅刻ギリギリで担任に怒られたのは別の話。
「さて、上杉」
「どした?」
「何故俺はこんなに大量に歴史の教材を持っている?」
戒斗は唐突に風太郎に呼ばれたかと思えば、図書室に連れて行かれ、中の戦国関連の本を持たされていた。
「悪いな。三玖と対等に話すためだ」
「対等?」
「あいつ、どうやら歴女らしくてな。日本史を通じて分かり合えると思ったんだ」
「俺は手伝わんぞ」
「大丈夫だ。戒斗には一花と二乃を任せたい。特に二乃は俺の言うことなんて絶対聞かねぇからな」
「いや、そうじゃない」
「三玖は俺に任せてくれ!五月も絶対参加させる!頼んだそ戒斗!」
大量の本を持って帰っていく風太郎。その半分を戒斗が持っているので、結果的に風太郎の家まで運ぶことになった。
「上杉!」
「戒斗!悪かったな。こんなに持たせて」
「ちょっと待て」
「どうした?」
「お前、中野姉と睡眠薬女のことを任せると言ったな」
睡眠薬女というあだ名に驚きながらも二乃であると理解した。
「お、おう。あいつら......俺よりお前と話してる方が楽しそうにしてる。まあ二乃はよく分かんねぇけど。だから、何とかお前から勉強に参加するように伝えて欲しいんだ」
「何故俺が......いや、待てよ......」
「成功したらバイト代半分やるから!まだ貰ってないけど!」
「いらん」
「お前正気か!?」
普段の暮らしゆえに金への執念が凄まじい風太郎。
戒斗は今金はいらないと言った。
風太郎にとってそれは、人間が酸素を必要としないのと同じレベルでありえない事だった。
「だが、良いだろう。任されてやる」
「おお!」
「その代わり条件がある」
「何だ?」
「あいつらの父親に電話させろ」
○○○○○
風太郎が三玖の説得に成功し、風太郎の家庭教師生活は順調に進んでいた。
簡単な説明をすると、風太郎は図書室の戦国関連の本を全て読み、三玖と対等に話せるようになった。
そして三玖と話しているうちに自分に自信が持てないことに気づく。
自分程度に出来ることは他の4人にも出来る。三玖はそう言った。だがら風太郎は発想を逆転させ、4人に出来ることは三玖にもできると言い張った。
事実、小テストは正解している問題が1つも被っていなかった。つまり、全員が100点の潜在能力を秘めている。
その言葉を聞いた三玖は少しだけ自分に自信を持つことができるようになった。
そして場所は変わり五つ子のマンションにて、風太郎と戒斗はオートロックに手こずっていた。
「なあ、これどう開ける?」
「叩き壊すしか無いだろう」
「たまにお前の発想が怖くなる時があるよ」
拳を握りしめて自動ドアを殴る準備をする戒斗。風太郎は何とか羽交い締めで止めた。そんなやり取りをしていると、買い物帰りの三玖が何してるのと声をかけてきた。
「おお、三玖」
「今時オートロックも知らないんだ」
「おい上杉、オートロックとは何だ?」
「オートでロックするんだろ」
「なるほど」
30階までエレベーターで上り、中野家に入る。リビングでは二乃以外の全員が集まっていた。
「準備万端ですっ」
「まあ、私は見てよっかな?」
「......私はここで自習しているだけなので」
「約束通り、日本史教えてね」
風太郎が4人の従順さに嬉し泣きしそうになっていると、上から煽るような声が聞こえてきた。
「あれ?また懲りずに来たの?先週みたいに途中で寝ちゃわなきゃいいけど」
「相変わらずムカつく奴だな......戒斗、あいつは頼んだぞ」
「......ああ約束した手前、とことんやろう」
「よし、今日は4人でやるぞ!」
二乃のことはひとまず頭から離し、それ以外で始めようとする風太郎だが、それを見逃す二乃ではなかった。
「ねぇ四葉、バスケ部の知り合いが臨時メンバー探してるんだけど、あんた運動できるし今から行ってあげたら?」
「い、今から!?で、でも勉強が......」
「何でも5人しかいない部員の1人が骨折しちゃったみたいで、このままだと大会に出られないらしいのよ。頑張って練習してきただろうに、あーかわいそう」
心にもないことを猫なで声で言う二乃に、風太郎はやれやれと呆れた。
「そんなのやるわけないだろ」
「上杉さんすいません!困ってる人をほっといてはおけません!」
「えー!?」
「あの子、断れない性格なの」
「一花も2時からバイトじゃなかったっけ?」
「あー、忘れてたー」
「五月、こんなうるさい所よりも図書室の方が集中出来るんじゃない?」
「......それもそうですね」
あっという間に3人が消え、残るは三玖だけとなった。
「三玖、あんた間違えて飲んだ私のジュース買ってきなさいよ」
「もう買ってきた」
買い物袋をドサリと机に置き、中の缶を二乃に見せる。
抹茶ソーダと書かれていた。
「何よこれ!」
「仕方ない......三玖、切り替えていこう」
「うん」
怒る二乃を無視して2人は勉強を再開しようとする。
「え?え?何?あんたらいつの間にそんなに仲良くなったの?え?もしかして三玖、こういう冴えない顔が好みなの?」
「お前酷いこと言ってる自覚あるか?」
「二乃はメンクイだから」
「お前も地味に酷いな」
「イケメンに越したことないでしょ?戒斗を見なさいよ。そいつより何億倍も顔が良いわ!嫌いだけど」
「顔などいくらでも変えられるだろう」
「お前怖い。戒斗、お前怖い」
風太郎に限らず、二乃と三玖も若干怖がっていた。
「なーるほど。外見を気にしないからこんな服で外出歩けるんだ」
「この尖った爪がオシャレなの?」
「あんたにはわかんないかなー!」
「分かりたくもない」
「お前ら姉妹なんだから仲良くしろよ。外見とか中身とか、そんなの今はいいだろ」
二乃は徐にキッチンに目を向ける。
「キミ、お昼は食べてきた?」
「ん?そういえば......」
ぐうううううと風太郎の腹が鳴る。それを聞いて二乃はある提案を持ちかけた。
「じゃあ三玖の言う通り、中身で勝負しようじゃない。どちらがより家庭的か。アタシが勝ったら今日は弁当なし!」
「み、三玖......そんなのやらない......よな?」
「風太郎、すぐ終わらせるから座って待ってて」
「お前が座ってろ!!」
「戒斗、あんたも食べなさい」
「いや、食欲が───」
「あんた前も言ってなかった?いいから食べなさい!」
「......分かった」
二乃の剣幕に押され、戒斗は二乃と三玖の料理の審査をすることになった。
「じゃーん!旬の野菜と生ハムのダッチベイビー♪」
二乃の料理はいかにもキラキラした感じの料理だった。
それこそ店で出しても問題ない程に。
「それで、三玖の......は......」
三玖が用意したのは、焦げた何かにケチャップをかけたものだった。
「炭か?」
「おい戒斗!」
「オ、オムライス......」
「オムライス!?」
「所々原型はあるように見えるが......俺の知っているオムライスではないな」
「たしかに、見た目には歴然とした差があるが......」
2人はスプーンでそれぞれの料理を口に運んだ。そして咀嚼し飲み込む。最初に感想を述べたのは風太郎。
「どっちも普通に美味いな」
「はあ!?そんな訳ないでしょ!あんたはどうなのよ!」
「両方同じ味だ」
「バカーー!!」
左頬に大きな手形を作られた戒斗だった。
美味いと言われて嬉しそうな三玖だったが、風太郎は貧乏舌という覆しようのない理由があった。戒斗の味覚には理由があるのだが、それはまだ戒斗以外、誰も知らない。
「......もう遅くなっちまったな。今回は出直すとする。まんまと二乃の策に嵌っちまったわけだ」
「......ごめん」
「あいつと分かり合える日が来るとは思えん」
「そういえばお前ビンタされてたな」
未だに頬が痛むのか、戒斗は保冷剤を当てている。
「思い切りな」
「でも、ちゃんと誠実に向き合えばわかってくれるよ」
「誠実って......どういう風に?」
「私にはわかんない。それを考えるのが戒斗とフータローの仕事でしょ?」
「だってよ、戒斗」
「誠実に向き合う......」
食器を洗い終え、マンションから出て後は帰宅するだけとなった2人。戒斗は忘れ物に気づく。
「......上着を忘れた」
「マジか」
「取りに行く。先に帰っていろ」
「分かった」
マンションの中に入り、中野家の部屋番号を打ってオートロックを解除する。
三玖からはシャワーを浴びているから勝手に取っていいと許可を得て、エレベーターで上っていく。
そして中に入ると、ドライヤーをかけている三玖(?)の姿が。
「...........」
ふとドライヤー止めたかと思えば、戒斗をジーッと見つめている。
戒斗はさっさと忘れ物を取って帰ろうと上着を回収した。
「(......待てよ?)」
ここで戒斗はある疑問を抱く。
自分がここまで来るのに何分かかった?いくら何でも風呂から出るのは早すぎではないか?と。
「誰?三玖?」
「(まさか......!)」
その声は、あまり聞きたくない声だった。目の前の人物は、三玖ではなく、二乃だった。
「お風呂入るんじゃなかった?空いたけど」
この状況が二乃にバレてまたビンタされてはたまったものではないので、あくまでも無視をする。
「いつものとこにコンタクト入ってるから取ってくんない?」
おそらく、目が悪くて見えないから戒斗を三玖と勘違いしたのだろう。
もしコンタクトを取ったとして、こんな不誠実がバレてしまえば、家庭教師の仕事に影響しかねない。
中野家の父親と電話するという条件を自分から持ちかけた以上、自分からぶち壊しにするわけにもいかない。
とはいえ、ここで無視をして帰ったなら、いずれ勘違いは気づかれる。
戒斗はかなり頭を悩ませた。
「(......仕方ない)」
考えた結果、戒斗は静かにコンタクトを探し始めた。
だがいくら探しても見つからない。いつものとこと言われても五つ子では無いので分からない。
「(くそ......どの棚だ......?)」
「......お昼にいじわるしたこと根に持ってんの?」
痺れを切らした二乃は直接取りに行くことにした。
「あれは勢いで......悪いとは思ってるわよ」
「(どこだ......?どこにある......?)」
「何してんの?そこじゃないって」
コンタクトを探し続ける戒斗だが、一向に見つからない。
そして、二乃がすぐ後ろまで迫り、戒斗に半分のしかかる形で棚を探る。
「場所変えてないわよ」
思わず離れてしまった戒斗だが、それは二乃の勘違いを促進する他なかった。
「......やっぱり怒ってんじゃん」
二乃は憎そうに言葉を口にする。
「全部あいつらのせいだ」
「(......俺達の事か)」
「パパに命令されたからって好き勝手うちに入ってきて......私たち5人の家にあいつらの入る余地なんてないんだから」
戒斗にとって二乃の言葉は、ただ2人が嫌いなだけではないようにも聞こえた。
「そのうち絶対追い出してやる」
「(こいつは......)」
「決めた!あの2人はもう出入り禁止!!」
大声でそんなことを言い出した二乃。だが大きく動いたせいで勢い余って手が棚にぶつかってしまう。
「いたっ......」
そして、ぶつかった衝撃で棚の中の分厚い本が傾き、何冊も落ちてきた。
二乃の無防備な状態で頭からあの本に当たれば怪我をするのは見え見えだった。
「おい!」
「えっ?」
戒斗は咄嗟に飛び出し、二乃に覆い被さった。落ちてきた本は戒斗の背中や頭に当たったが、二乃に怪我はなかった。
「無事か?」
「えっ......」
二乃は突然過ぎる出来事に目を回して涙目になっていた。
「ふ、不法侵入ー!!」
「俺は取りに来ただけだ!」
「と、撮るって何をよ!?」
「わす───」
そして、シャッター音が聞こえた。
「......最低」
「駆紋さん、あなた......」
声のした方に振り返ってみると、心底幻滅した様子の五月と三玖がスマホを構えて戒斗を睨んでいた。