「......怪我は......ないな」
五月と三玖に睨まれているが、構わず二乃の前髪を上げて顔に傷が無いか安否確認をする戒斗。
二乃は顔を赤くして固まっている。
「この手は......冷やしておくか。保冷剤はあるか?」
「れ、冷蔵庫の、1番下......」
「分かった。待っていろ」
素早く冷蔵庫から保冷剤を取り出してタオルで包み、二乃の手に当てる。
「痛むか?」
「だ、大丈夫......」
「そうか。とりあえず服を着てこい」
「え?......っ!い、いやああああっ!!」
自分の格好に気づいて戒斗の顔を引っぱたいた二乃。戒斗は結局こうなるのかと1日に2度叩かれて赤くなった頬をさすっていた。
○○○○○
戒斗が遅いことに違和感を覚えて上がってきた俺は、目の前の裁判所のような雰囲気に戸惑っていた。
「帰れと言っただろう」
「ああ言われて帰れるか。それで、これはどういう状況だ?」
「裁判長」
五月が裁判長こと一花にスマホの画面を見せる。
そこには二乃を押し倒している戒斗の姿が。
「戒斗、お前......」
「黙れ」
遂にやりやがった......なんてな。どう見ても冤罪だろこれは。
そもそも周りに落ちてる本で大体分かるだろ。
「こいつら、このまま進める気か?」
「俺達が何を言ったところで解決はしない。まずはこの裁判が終わるまで待つぞ」
「だな」
五月は戒斗をジト目で見ながら裁判長に状況の説明をした。
「被告人は家庭教師という立場にありながら、ピチピチの女子高生に欲望を爆発させてしまった......この写真は駆紋被告で間違いありませんね」
「裁判長」
「はい、原告の二乃くん」
「この男は1度マンションから出たと見せかけて私のお風呂上がりを待っていました。悪質極まりない犯行にこいつの今後の出入り禁止を要求します」
な、何だと!?それは不味い!不味すぎるぞ!!戒斗がいなくなったら俺はどうすれば良いんだ!俺1人でこいつら5人の相手はマジで死ぬ!
「お、おい、それはいくらなんでも......」
「たいへんけしからんですなぁ」
「......貴様、ふざけてやっているだろう」
「さーね?けしからん戒斗くんには教えません!」
気のせいか不機嫌な一花。戒斗と目線は合わせず、ツーンとした態度を取っている。
「......あ、戒斗は無罪だと思う」
「三玖!?」
超意外な援軍だったが、三玖の言う事は筋が通っていた。どうやら三玖はインターホンで戒斗を通したそうだ。録音もあるらしい。これは不運な事故だと言い張った。本当に助かった!
「あんた......まさかそいつの味方でいる気......?」
三玖と二乃が火花を散らしている。裁判ぽいな。
頑張ってくれよ、三玖!
「こいつはハッキリ「撮りに来た」って言ったの!盗撮よ!」
「忘れ物を「取りに来た」でしょ」
「言っとくけどね、私は裸を見られたのよ!」
「見られて減るものでもない」
「はあ!?あんたはそうでも私は違うの!」
「同じような身体でしょ」
「しかも私の身体を触ってきたわ!」
「さっき見てたけど、戒斗は二乃の手当をしてた」
段々とヒートアップしていく2人を五月が何とか宥めようとするも、2人に睨まれて一花に泣きついていた。おいそれでいいのか。
「うーん、三玖の言う通りだとしてもこんな体勢になるかなー?」
「一花、やっぱあんたは話がわかるわ!こいつは突然私に覆いかぶさってきたのよ!」
「本当?戒斗くん」
「......ああ」
「むぅ......有罪」
「おい」
ちょっと一花さん!?手のひら返しが凄まじいな!
「......私は冤罪かと思います」
「......はあっ!?何言ってるの五月!?」
「写真を見てください。周りに本が散らかってるでしょう?この本は分厚いので当たれば危ないと思います。これは、駆紋さんが二乃を庇ったように見えませんか?」
またまた意外な援軍だが最高だぜ五月!言いたいことをそのまま言ってくれた!
「確かに、そう見えるかも」
「戒斗くんはそんなことするタイプじゃないもんねー」
「ちょ、ちょっと!何解決した感じ出してんの!?適当なこと言わないで!」
「二乃、しつこい」
「......っ!あんたねぇ......」
「まぁそうカッカしないで。私たち、昔は仲良し五姉妹だったじゃん」
「......っ、昔はって......私は......!」
二乃はそのまま出ていってしまった。勢いよくドアを閉めた音が聞こえたことを考えると、相当怒っていたと見えるな。
「三玖、おかげで戒斗は助かったが、あれでいいのか?」
「......ほっとけばいいよ」
「少し待っていろ」
「戒斗くん?」
「連れ戻してくる」
「......そっか」
戒斗も二乃を追うようにして出ていった。頼むぞ、戒斗。
○○○○○
エレベーターで下りてマンションを出ると、すぐ隣で二乃は座っていた。泣いた後なのか目が赤くなっている。
戒斗が出てきた瞬間、マンションのドアに走っていったが、寸前で閉まり、肩を落とした。
どうやら鍵も持たず出ていったらしく、中の3人に開けてもらうのもバツが悪いという状況らしい。
「使えないわね」
「......こんな所にいたのか」
「......何見てんのよ。あんたの顔なんてもう二度と見たくもないわ」
「......そうか」
それだけ言って戒斗は二乃の隣に座った。
「な、何してんのよ」
「夏とはいえ、夜だ。上着は着ておけ」
「......ふん」
戒斗から上着を受け取り、そのまま被せる二乃。
そしてすぐにため息を吐いた。
「......あんた、私に上着渡したらダメでしょ。バカじゃないの」
「俺の事などどうでもいい」
「......ほんと、皆バカよ。あんたらみたいな得体の知れない男を招き入れるなんてどうかしてるわ。私達の......」
「5人の家にあいつらの入る余地はない。だったか」
「っ!」
「......少し時間を貰うぞ」
戒斗はバラロックシードを取り出し、ローズアタッカーへと変形させる。二乃は物理法則を無視した現象に開いた口が塞がらず呆然としているが、構わず二乃の手を引き、後ろに乗せた。
「ちょ、ちょっと!」
「被っておけ」
「わぷっ!」
ヘルメットを被せ、一気に前進する。
すると、ローズアタッカーは200km/h以上のスピードで走り出した。
「きゃああああっ!」
「おい、そんなに締めるな」
二乃は反射的に戒斗に掴まっていた。後ろに載せるのであれば当然のことだが、二乃は急スピードに驚きすぎて力を本気で込めてしまった。
「無理に決まってるでしょ!」
「......まあいい。しっかり掴まってろ」
ローズアタッカーはさらにスピードを上げ、道路を滑走していった。
その間二乃はずっと戒斗の体を締め付けていた。
「着いたぞ」
二乃はヘルメットを取り、前髪を直す。
その後戒斗に向き合って怒鳴りつけた。
「あんたねぇ!スピード出しすぎでしょ!明らかに違反してたわ!」
「見ろ」
戒斗が指差した先に目をやると、金に輝く花が5つ咲いていた。
「ちょっとは話を聞きなさいよ!ってここどこよ!?」
「俺だけが知っている場所だ」
「なんでそんなとこに......ていうか、この花何?」
「初めて見る花だったのでな、俺は”知恵の花”と名付けた」
素早くスマホを出して写真を撮り、ネットで調べ出した。
戒斗は初めてこの花を見つけた時、あの2人と関係していると考えて詮索に詮索を重ねたが、これはこの世界の偶然の産物と分かった。
「調べても出てこないわよ」
「だろうな」
それから戒斗は、その花に水をやりに行っていた。
だが花は一定以上育たなくなった。偶然の産物とはいえ、特殊な花であることに変わりはない。それを見た戒斗は、この花を見守ろうと決めた。
そう決意した理由は戒斗自身もよく分かってはいなかったが、守らなければならない気がしたのでその判断に至ったのだ。
「......で、なんで私をここに連れてきたの?」
「綺麗なもの、美しいもの、尊いものを見ればある程度ストレスは無くなると思ってな。頭は冷えたか?」
「......そうね」
二乃は知恵の花を見てから、まともに話し合えるようになるほど冷静になっていた。だが、戒斗に対する敵意は収まっていない。この際それは流して質問する。
「さっきの話の続きだが、お前は俺と上杉は嫌いか?」
「嫌いよ」
即答だった。
「姉妹達のことはどうだ」
「嫌いなわけないでしょ」
「やはりな」
だが、それと同時に分かったこともある。
「お前はマンションで座っている時、家族もバカばかりだと言った。だが、俺と上杉に対する敵意、俺達の入る余地がないという言葉はそれだけでは説明がつかん」
「何が言いたいわけ?」
「お前は、あの4人のことがむしろ大好きなんじゃないのか」
「何よ......」
「だから異分子の俺と上杉が気に入らないというわけだ」
風呂上がりの二乃と出くわした時、二乃は5人でいることにこだわる節があると気づいた。それを含めて考えた結果、この結論に至った。
「見当違いも甚だしいわ。分かったようなこと言わないでよ。キモ」
口では悪態を吐くが、その表情は肯定の意を示すように赤くなっていた。戒斗は不器用ながらも姉妹を守ろうとする二乃の行動に少しの強さを感じた。
「何よ......悪い?」
「悪くないが」
「そうよね!私悪くないよね!」
「ああ」
「よく考えたらバカみたい!何で私がこんなに落ち込まなきゃいけないのよ!」
いきなりテンションを上げる二乃に戸惑いながらも肯定する戒斗。
「やっぱ決めた」
二乃は覚悟を決めた目で戒斗を見る。
「私はあんたも、あいつも認めない。たとえそれであの子たちに嫌われようともね」
「......そうか」
先程感じた小さな強さは、この一瞬で比べ物にならないほど大きくなった。二乃の芯の強さは、戒斗が感じ取るには十分のものだった。
戒斗は二乃の肩に手を置いて一言だけ告げた。
「いつだって最後に頼れるのは、お前自身の強さだ」
「当たり前よ!私があの子たちを守ってみせるわ!」
「......出来ると良いな、二乃」
「!名前───」
二乃が振り向いた時にはドルン、とアクセルをひねってエンジンを吹かす戒斗の姿が。
戒斗は何をしている、早く乗れと急かした。
「......まぁいいわ」
ヘルメットを被り、戒斗の腰に手を回す。
しっかり掴まったことも確認し、一気にスピードを出す。
二乃は先程と同じく強く抱きついてくるが、スピードには慣れているようだった。
「......ねぇ」
「何だ」
「......氷、ありがと」
「ああ」
「勘違いして......ごめん」
「......俺も注意不足だった。すまなかったな」
「......うん」
トップスピードで走るバイクに向かって吹く夜風は、2人にとって気持ちの良いものとなった。二乃は帰り道では程々の力で掴まっていた。
「着いたぞ。というか......」
「皆何してんの?」
マンションの前では、4人と風太郎が待ち続けていた。
ヘルメットを外した二乃を見た途端、四葉が飛びついてきた。
「二乃ーー!」
「ちょ、ちょっと四葉!」
ぐらりと傾く2人を支えた戒斗。二乃は戒斗に助けられたことに不服の様子だが、特に毒を吐くことも無かった。
「あ、戒斗くんもいたんだ」
「少しな」
「あらら、2人っきりでどこか行くなんて青春してるねー?」
「寝言は寝て言え」
「そうよ一花。こいつとデートなんて寒気がするわ」
「気が合うじゃないか。俺もだ」
睨み合う2人にあははと苦笑いする一花。
「あ、そうだ。少ししゃがみなさい」
「......何だ?」
ふと何かを思い出した二乃に目線を合わせるようにしゃがみこむ戒斗。
そして戒斗の頬に氷を当てた。
「ビンタしちゃったからね。まだ痛む?」
「いや、大丈夫だ」
「......そう」
戒斗の頬をさする二乃。戒斗は突然優しくする二乃を少し気味悪がったが、何も言わなかった。
「あれ?二乃と戒斗くん、随分仲良くなったんだね」
「互いに怪我をさせただけだ。仲が良いものか」
「そうよ」
「うーん......」
そうかな?という喉まで出かかった言葉を抑え、2人の様子だが、様子を見る。パッと見た感じでは仲良さげに見える。だが話している内容は互いの悪口だった。
(あらら......気のせいだったかな?)
ここで誰かの腹が鳴る。とはいえほぼ分かりきっていた。
「二乃、帰りましょう。お腹空きました」
「あんた凄いわね」
ブレない食欲の五月だった。
「......まぁ、今日のことは水に流して、家族水入らずで夜は楽しむわよ!」
「おー!良いね!」
「フータロー達も入れる?」
「そうしたいけど、家族だから上杉さんは無理じゃない?」
「......そうだね」
またねと挨拶し、ワイワイとマンションに帰っていく五つ子を見送った。二乃と戒斗はガンのつけ合いをしていたが、風太郎と三玖の手でそれは止められた。
そして戒斗は風太郎を後ろに乗せて家まで送った。
帰り道でバイクなんて持っていたのかと聞かれ、ノーコメントを貫いた戒斗だった。
○○○○○
翌日、クラックの出現の報告を受けて現場に向かった戒斗。
クラックを速攻で閉じ、連絡相手に報告して任務を終わらせた。
あまりの速さに向こうは引いていたが、気にせず休みを過ごした。
『そういえば、花火大会があるらしいから、行ってみてはどうだい?』
「花火大会?」
『人が沢山集まるからねぇ。もしかしたら、クラックが出るかもしれないよ?』
「......チッ。クラックの閉鎖がてら行くとする」
『うん。それがいいよ。あ、お土産はお構いなく』
「言われんでも買わん」