「では、最後の......中野一花さん」
「はい。よろしくお願いします」
「......卒業おめでとう」
「先生、今までありがとう」
私、上手く笑えてるかな。こういう時、皆はどうやって笑うんだろう。
四葉なら、三玖なら、五月なら、二乃なら、フータロー君なら。
「先生───」
『その作り笑いをやめろ』
『友のやりたいことを応援しないわけないだろう』
『頑張れ、一花』
ありがとう、戒斗くん。私ね───
「あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった......!」
○○○○○
「......終わったか」
「うん。まあ受かったかどうかは分からないけど」
「どうも何も、最高の演技だった。私は問題なく受かったと見ているね」
「そうか」
「一花ちゃんがあんな表情を出せるなんて思わなかったよ。それを引き出したのは恐らく君だ」
カメラマンの男は満足そうに頷いた。そして戒斗の方を見て熱い視線を向け、ウインクした。
「私も個人的に君に興味が湧いてきたよ」
戒斗は若干寒気を感じながらもカメラマンの男に言葉を返す。
「......そうか」
「あはは......」
「どうだい?一花ちゃんの次は───」
「遠慮する。とにかく、用件が終わったならこいつを貰うぞ」
「わっ、戒斗くん!?」
「あ!待ちたまえ!もっと話が───」
一花の手を引き、関わってはまずいと早々に社長の前から逃げ去った。
一花と戒斗は、住宅街の夜道を歩いていた。
一花は目的地がどこかは知らない。戒斗について行くのみ。
戒斗は電話の際二乃の近くに風太郎がいて助かったと感謝した。
「こっちだ。あいつらが待っている」
「待ってるって......まだみんな会場にいるの?」
「いや、近くの公園だ。俺達以外の全員も合流しているはずだ」
「......みんな怒ってるよね。花火を見られなかったこと、謝らなくちゃ」
申し訳なさそうに目を伏せる一花の頭に、戒斗は手を置いた。
「戒斗くん?」
「まあ、そうだろうな。だが、それは打ち上げ花火の話だ」
「......え?」
「花火を諦めるのはまだ早い。......着いたぞ」
近くの公園に到着して中に入ると、風太郎達は手持ち花火をしていた。
いち早く2人に気づいた四葉はおーいと手を振った。
「あ、一花に駆紋さん!」
「戒斗。電話した時に言うのを忘れてたが、四葉が事前に買っておいてくれたらしい」
風太郎と四葉の見せた手持ち花火を見て、少しだけ口角を上げた戒斗。
「こういう形もあるだろう?」
「......っ!」
してやったり顔をする戒斗に、一花は口を押さえた。
「駆紋さん、準備万端です!上杉さんがはしゃぐので先に始めてしまいました!」
「ああ。助かったぞ四葉、上杉」
「普段助けられてるからな。これくらい当然だ!あと四葉!俺ははしゃいでないぞ!」
「ええっ!?」
そんなやり取りをする2人を他所に、二乃は戒斗の方へ近づいて耳打ちした。
「......お、つ、か、れ」
「......ああ」
二乃と拳を合わせる戒斗。二乃は5人で集まれたことが余程嬉しいのか、頬が緩みきっていた。
「急に福笑いみたいな顔をするな」
「なんでそういうこと言うの!せっかく見直したのに台無しだわ!」
二乃は戒斗に火がついた状態の花火を向ける。
それを見かねた三玖が二乃の頭を叩き、事なきを得た。
「駆紋さん、花火どうぞ!」
「それじゃ、皆揃ったし本格的に初めよっか」
「わーい!」
「みんな!」
急に大声を出した一花の声に全員の視線が集まる。それを確認し、深く頭を下げた。
「ごめん。私の勝手でこんな事になっちゃって......本当にごめんね」
「全くよ。なんで連絡くれなかったの。今回の責任の一端はあんたにあるわ」
「うん......」
「......あと、目的地を伝え忘れた私も辛い」
「......!」
「私は自分の方向音痴に嫌気がさしました」
「私も、今回は失敗ばかり。風太郎にも迷惑をかけた」
「私も屋台ばかり見て花火を二の次にしている所がありました。すみません!」
二乃に続いて五月、三玖、四葉が誤った。
尚も申し訳なさそうな態度の一花に戒斗は四葉から受け取った花火を手渡した。
「何をしている?お前もやるんだぞ」
「うん......!」
花火を受け取り、4人の輪の中に入る一花。姉妹5人は、同じロウソクに5本花火を向けた。
「お母さんがよく言ってましたね。誰かの失敗は5人で乗り越えること。誰かの幸せは5人で分かち合うこと。
喜びも、悲しみも、怒りも、慈しみも。
全部、五等分ですから」
花火に火が付き、先から火花がパチパチと飛び散る。5つの火花が混ざって光る。
同時に、5人の笑顔も一層輝く。
そんな中、戒斗はベンチに座って風太郎と話をしていた。
「戒斗、今日は助かった。ありがとな。休みの日まで俺の嘘に付き合ってくれて」
「......言っただろう。任されたと。それに、目的もある」
「ああ、あいつらの親父に電話する......だったな。何で急にそんなことを?」
「......それは言えん」
「そうか、なら聞かない」
「そうしてくれると助かる」
5人が楽しむ様子を見る戒斗と風太郎。途中、風太郎が帰って自習しようと提案し、戒斗もそれに賛同して帰ろうとしたが、小さな打ち上げ花火を楽しむ5人を見て、もう少しだけ見ることにした。
「そろそろ無くなっちゃうね」
「残り5本」
「最後はこれでしょー」
「これが一番好き」
「私はこれが好き」
「これが一番楽しかったなー」
「「せーの!!」」
三玖、四葉、五月は別々の花火を。一花と二乃は同じ花火を取った。
「あは。珍しいね。二乃はそっちやっていいよ。私はこっちやるから」
「......ありがと。ねぇ一花」
「どしたの?」
「何か良いことでもあった?」
「......さーね?秘密♪」
「?」
二乃は訳が分からず首を傾げるしか無かった。
気を取り直して花火に火をつけ、5人はそれぞれの花火を楽しんだ。
余談だが、最後の花火を楽しむ一花の顔を見て、二乃は思わず見惚れたりしていた。
その頃ベンチでは、戒斗は風太郎から労いの言葉をかけ続けられていた。
風太郎自身、戒斗はよく無条件で自分を手伝ってくれたり助けたりしてくれるので、感謝という言葉以外見つからなかったのだ。
そして恩返しをしようにも機会にも経済的にも恵まれないせいで、日に日に戒斗への感謝は溜まっていくばかり。
「ほんとお前には感謝しかねぇよ。ありすぎて申し訳ないくらいだ」
「何度言うつもりだ。もう十数回は言っているぞ」
「何回言っても足りねぇ。もう土下座でも何でもするよ」
「やめろ鬱陶しい」
上杉家の普段の生活では寝ている時間なので風太郎は若干寝ぼけていた。
そのせいで行動に歯止めが効かなくなっていたりする。
戒斗は風太郎にデコピンをして目を覚まさせた。あまりの痛さに悶絶していたが、丁度いいだろうと鼻を鳴らした。
「いてて......あ、そうだ。1つ相談があるんだが、いいか?」
「ああ」
「もし希望を持つ奴と持たずに絶望してる奴がいて、戦ってるとしたら......どっちの味方をする?」
いきなり重苦しい話をしだした風太郎に、疑問符を浮かべる戒斗。
「......なんだその質問は」
「とりあえず答えてくれ」
自身の今までの経験も踏まえ、戒斗は答えを出した。
「......どちらの味方にもつかん」
少し驚きながら、風太郎は理由を問うた。
「希望を持つ奴が正義とは限らない。かと言って希望を持たずに絶望している奴が悪では無いとも言えない。互いに己の信じる正義を持って挑む。戦いとはそういうものだ。
その中に入ったとして、それは味方でも何でもない。ただの害だ」
「......なるほどな。お前に聞いて正解だったよ」
満足したのか、風太郎は質問の理由を説明した。それは単純なもので、自分の中で家庭教師を続けるか辞めるかの葛藤だったらしい。
「質問の仕方がおかしいぞ」
「ああいう感じの方が戒斗は答えると思ってな」
「......お前の中で俺はどういう人間なんだ」
とりあえず重苦しくした方が答えるだろうと遠回しに伝えられ、戒斗は今一度風太郎と話し合う必要があるなどと考えていた。
「......む?上杉?」
「すぴー......すぴー......」
「...........」
風太郎は目を開けて寝ていた。
心做しか疲れているようにも見えたので、疲労が溜まっていたのかと戒斗は思った。
眠っているらいはの隣に倒れないように肩を貸す。
「こんな状態であいつらの手助けをするとは......貴様も随分とお人好しだな」
そして打ち上げ花火が終わり、5人が最後の花火を楽しんでいると、一花が戒斗と風太郎の元へ歩いてきた。
「何だ?」
「フータロー君がすごい安心して寝てるなーって思ってね」
「こいつもこいつで苦労しているからな」
「......そっか」
一花は戒斗の隣に座り、改めて礼を言った。
「......戒斗くん。今日は本当にありがとう。お礼がしたいんだけど、何がいい?」
「上杉の勉強に付き合ってやれ。それだけだ」
意外な言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる一花。
「でも、それじゃ戒斗には......」
「知らん。何度も言わせるな。俺は自分に従っている。見返りなど求めていない。ましてや、友を助けるための見返りなど死んでも求めん」
「......そっか。分かったよ。なら、これは私からの”こうい”ってことで」
「おい、何を───」
一花は戒斗の頭を掴み、肩に乗せた。
「なんだこれは」
「フータロー君が寝てるから膝枕は無理だよね。だから肩枕だよ。嬉しい?」
「抜かせ」
不機嫌そうな戒斗の頬を悪戯っぽくつつく一花。
睨んでも笑顔を返してくるので、何をしても無駄かと思い、戒斗は意識を手放した。
「あらら、寝ちゃった」
○○○○○
私は、肩枕で寝てる戒斗くんを見ながら、今日を振り返る。
本当に色んなことがあった。
年に一度の花火大会があって、宿題を終わらせて。
急なお仕事が入って花火は見られなくなって。
戒斗くんにお仕事も、作り笑いもバレて、応援された。
オーディションが終わって皆に謝らなきゃって思ってたけど、フータロー君や皆は私の為に待っててくれて、一緒に花火をすることが出来た。
私は、君が家庭教師でよかったって心から思うよ。
「ほんと、あの時から変わらないんだから」
覚えてなくても、君はいつも私を助けてくれる。
何年経っても、そこは変わらない。
そして、私の想いも。
「ありがとう、戒斗くん」
そう言って私は彼の頬にキスをした。
そして寝顔の写真を撮って、写真のフォルダに大事に保管した。