偽ルフィが本当にモンキー・D・ルフィに似ていたら 作:身勝手の極意
マリンフォード頂上戦争編から、もうかれこれ10年以上経ってるのかァ~。
四皇の1人、"白ひげ"エドワード・ニューゲート率いる大艦隊と海軍、王下七武海による全面戦争。戦場は、"火拳"ポートガス・D・エースの公開処刑が執り行われる海軍本部マリンフォード。
世界各地より召集された海軍の精鋭達、総勢約10万人。その精鋭達がにじり寄る決戦の刻を待っている。海軍本部中将5人と軍艦10隻という国家戦争クラスの大戦力で無差別攻撃を行う"バスターコール"が生易しく感じてしまうほどの戦力がここに集結している。
海軍の精鋭達の他にも、"王下七武海"の曲者達5人が海軍側の戦力として待ち構えており、海軍本部マリンフォードはかつてない緊迫感に包まれ、これから巻き起こる世紀の大決戦が如何に大きなものなのかを既に物語っているようだ。
高く聳える処刑台には、事件の中心人物"火拳"が海楼石の錠に繋がれ、運命の刻を待つのみ。
まだ、マリンフォードに"白ひげ"は現れない。
「まさに嵐の前の静けさだな。恐ろしいほどに静かだ」
その光景を、マリンフォードの遥か上空から眺める者がいた。赤いシャツの上に黒いマントを羽織り、テンガロンハットを被った男───新進気鋭の孤高のルーキー海賊"赫猿"デマロ・ブラックだ。
こんな遥か上空に人が浮いているなどとは誰も思うまい。
サルサルの実 幻獣種 モデル"ハヌマーン"。悪魔の実の中でも稀少な
そして、ブラックが食べたこの悪魔の実は、数多く存在する悪魔の実の中でも間違いなく最高峰のものだ。
海軍と七武海の連合軍、白ひげ海賊大艦隊、それと火拳のエースも、雷を操る空飛ぶ赫猿がマリンフォードの遥か上空から舞い降りるとは想像もしていないだろう。
しかも、あのロジャー海賊団副船長"冥王"シルバーズ・レイリーから覇気の真髄を叩き込まれ、たった数日で冥王レイリーの期待通りに大きく成長したブラックだ。ちなみに、この数日で地獄を体験したブラックは、これから乗り込むマリンフォードと、レイリーの修業はどちらがより地獄に近いのだろうかなどと考えていたりする。
とにかく、冥王レイリーにそれだけみっちり鍛え上げられたブラックが白ひげ側の戦力に加わってしまうのは、海軍にとって想定外の事態のはずだ。
ただ、この戦争に参戦しても、ブラックに得なことなど何一つない。寧ろ悪名が更に増し、広がってしまうだけ。
「そういやァ、去年の今頃は何してたっけなァ…。
そうだ──キャベツ何とかって今の一世代前のルーキー海賊からお宝盗んだんだっけか?」
今、マリンフォードの広場では、火拳の素性が明かされ世界が衝撃を受けているところだが、火拳が海賊王ゴールド・ロジャーの息子だったなどブラックにとってはどうでもいいことのようで、彼はただ世紀の大決戦が始まるのを、物思いに耽りながら空に浮いて待っているのみ。
己の思うがままに行きたい場所に行き、色んな景色を眺めて、知らなかったことを新たに知り、歴史を知り、お宝探しを楽しむ。これまでのデマロ・ブラックの人生とは大きく違う人生が、彼が今浮いているこの遥か真下で待ち受けているのだから、過去を思い返したくもなるだろう。
懸賞金7億3600万ベリー。ブラックは世間にとって、冒険家兼トレジャーハンターではなく極悪人だ。
これまで、海賊相手に泥棒を働いたりもしていたが、これからはその仕返しを数多く受けることにもなるはずだ。
その点に関しては、これまでずっと海賊から仕返しされる覚悟をしていたらしいが…。
「白ひげ傘下の海賊には、お宝盗んだ海賊いねェよな?いたっけ?あーダメだ、思い出せねェ」
ブラックは麦わらのルフィを守る為に参戦するつもりで、一応は白ひげ側の戦力にカウントされることになるはずだが、果たして無事でいられるか…。少しだけ先行きに不安を覚えているようだ。
もっとも、白ひげ陣営はブラックの存在など二の次、三の次。最優先はエースの奪還なのだから、ブラックが味方に加わってくれるならと、彼からお宝を奪われていたとしても水に流すはず───これは楽観的な考えだろうか…。
「お、いよいよ始まるか」
とにかく、ブラックと白ひげ傘下の海賊団の間に因縁があるのかどうかは、会えばハッキリすることだ。
ブラックの視線の先には、総勢40隻以上の大艦隊が続々とマリンフォードに乗り込んできており、実に壮観な眺めである。しかも、そのほとんどが新世界で名の知られた海賊達で、実に豪華な顔触れだ。
「改めて思ったが、四皇ってのは本当にとんでもねェな。これだけの勢力が他にあと3つも存在するんだからな」
海軍がほぼ全戦力を注ぎ込んで迎え撃つ白ひげ大艦隊。その戦力の強大さを目にしたブラックは、開戦する直前にふとそんなことを考えている。
赤髪、ビッグ・マム、カイドウ。他の四皇達もそれぞれ白ひげと同等の勢力を有しているのだ。仮にもし、白ひげが他の四皇達の何れかと同盟を組んでいたら、恐らく海軍の敗北は決定的だったかもしれない。
それと、ブラックは知らないが、武闘派のカイドウがこの機に白ひげを討ち取ろうと動きを見せ、それを止めるべく同じく四皇の赤髪が動き、赤髪とカイドウの小競り合いが新世界で勃発したらしい。
四皇同士の激突など、もはや小競り合いという言葉では片付けられないものだが…。
「どんな結果になろうと、世界は大きく荒れちまうだろうなァ」
マリンフォードの湾内にようやく登場した白ひげを眺めながら、ブラックは世界の行方を憂う。
ただ、ブラックは気付いてはいない。彼もまた、少なからず世界に影響を与えられるだけの力をすでに有しているということを…。
冥王レイリーに言われた通り、彼はもう引き返せない。
「どのタイミングで参戦するか…。
麦わらのルフィはいつやって来る?」
ブラックが、世紀の大戦争に参戦する理由───火拳の弟、麦わらのルフィはまだ現れてはいない。
もっとも、この緊迫した状況のなかで、麦わらのルフィが更なる問題を起こしていたなど、ブラックも想定外だろう。
前代未聞。麦わらのルフィは大監獄"インペルダウン"に自ら侵入していたのだ。
その理由は至って単純。囚われた
つい1週間ほど前、シャボンディ諸島にて彼の天竜人を殴り飛ばすという所業を仕出かした超問題児ルーキー海賊"麦わらのルフィ"は本当の馬鹿だったということだ。
だが、たかだか3億ベリー程度のルーキー海賊が1人でインペルダウンに侵入したところで、囚われた火拳を救い出すなど不可能。
況してや、"覇気"すらもまともに使えぬ者が侵入するなど、無謀な行為でしかない。このような行動に出るのは、余程の馬鹿か、きっと拷問されるのが大好きなドMくらいである。
大監獄インペルダウンは、麦わらのルフィを遥かに上回る強者達が囚われている場所。捕まるのも時間の問題だ。
とはいえ、インペルダウンの看守達も決して油断してはならない。麦わらのルフィが及ぼす影響力は無限大で、何を仕出かすかわかったものではないのだ。だからこそ、麦わらのルフィはこれまで生き延びてこられたのである。
もっとも、案の定というべきか、麦わらのルフィは一度は捕らえられ、毒に侵され死を待つのみの瀕死の状態に追い込まれたらしい。ただ、何が起きたのか復活し、拘束から逃れ、インペルダウン最下層"レベル6"から、現七武海と旧七武海の2人の他、曲者達を引き連れ集団脱獄というあり得ない事態を引き起こしたようだ。
常に騒動の中心人物となり、その場にいる多くの者達を魅了し巻き込み、協力させる。これこそが、麦わらのルフィが持つ、もっとも脅威的な力であり才能だろう。
インペルダウンからの集団脱獄。この局面で立て続けにこれだけの騒動が起きてしまっては、笑えないどころか普通なら精神的に可笑しくなり笑ってしまうはずだ。白ひげが迫っているなか、海軍元帥センゴクは胃に致命的なダメージを受けてはいないだろうか…。
今、火拳ポートガス・D・エースの義弟である麦わらのルフィことモンキー・D・ルフィは、インペルダウンにて前代未聞の所業を仕出かし、引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、新たな戦力を得てマリンフォードへと火拳を助ける為に向かっている。
火拳を助けに来る為に、まさか大監獄に侵入していたとは…。
「早く来やがれ──麦わら」
それを知るはずもないブラックは、ただ
☆
海軍本部マリンフォードにてついに、白ひげ大艦隊 対 海軍本部と王下七武海───世紀の大戦争が始まってしまった。
その光景を、ブラックは"世界最強の海賊"白ひげが起こした大津波すらも届かない遥か上空から眺めている。
「ん?
大将・青雉に凍らされた津波に、軍艦が一隻引っ掛かってる?あれ?あそこにいんのはもしかして──麦わらか?
何やってんだアイツは」
麦わらのルフィがなかなか現れないことに疑問を抱いていたら、まさかそんな場所で立ち往生していようとは…。
ブラックは呆れ果ててため息を吐きながら、麦わらのルフィのもとへと向かう。
「何やってんだよ、アホ」
「あ、オレ!」
「ドッペルゲンガーじゃないつってんだろうが!!」
ブラックの登場に、麦わらのルフィは驚きながらも開口一番これである。ブラックを自分自身だと思っているような麦わらのルフィの物言いに怒り、脳天に拳骨を落とした。
「麦わらのルフィが……2人?」
その2人のやり取りを目にした他の御一行。なかなかに豪華な顔触れだが、2人があまりにもそっくりすぎて驚いている。
ルフィが2人。ルフィ1人だけでも大迷惑なのに、それがもう1人いるとは超大迷惑だと、そんなことを考えている者もいるようだが…。
そして、ブラックに対して忌々しいと言わんばかりの視線を向ける者がいた。その視線に気付いたブラックは、軍艦に乗っている者達を見回し、疑問を口にする。
「麦わら、これはどういう集まりだ?
元七武海のクロコダイルに、現七武海のジンベエ、革命軍のイワンコフに、ちらほらと手配書で見たことある面子が揃ってやがる。それに、クロコダイルは確か」
ただ、そこまで言いかけて、ブラックの優秀な頭脳が最悪のシナリオを思いついてしまう。シナリオといっても、すでに起きてしまったことなのだが…。
「む、麦わら…お前──今までどこにいた?」
「ん?インペルダウンってとこにいたぞ」
「やっぱりかァァァ!!」
ルフィについて、まだ詳しく知らないブラックではあるが、火拳のエースからの情報と、ルフィがこれまで起こした騒動からブラックはルフィが必ず火拳を奪還する為にマリンフォードに乗り込むだろうと予測していた。
だが、ルフィのことをまだ詳しく知らなかった故に、処刑場所のマリンフォードに移送される前に奪還しようと、大監獄インペルダウンに侵入するという考えまでには到らなかった。
普通、自ら大監獄に侵入する海賊が存在するなど思うまい。まさか、そんな常軌を逸した行動をする大バカ者が自分のそっくりさんだとは思うまい。
それと、ブラックにとって不運なのが、このままルフィと一緒に行動してしまったら、海軍と世界政府がブラックもインペルダウンに侵入していたと勘違いしてしまうということだ。ルフィの後ろにいる面子は、全員がインペルダウンからの脱獄囚。
脱獄を手引きした主犯はきっとルフィということになっているが、なるほど"赫猿"もいたから前代未聞の脱獄が成功したのかと、やってもいない罪状がまた増えてしまう。
「お前もうッ──ふっざけんなよォォォォォ!!」
海軍大将・黄猿を相手に為て遣ったりを成功させ逃げ延びるほどの危険人物なのだから、インペルダウンでも気付かれることなく行動できてしまうかもしれないと、ブラックへの認識がそう思い込ませてしまうかもしれない。
果たして、この世紀の大戦争を生き延びた先に、デマロ・ブラックを待ち受けている運命はどのようなものなのか…。懸賞金は、いったいどこまで上乗せされてしまうのか…。麦わらのルフィが騒ぎを起こせば、そこには必ず"赫猿"デマロ・ブラックがいる。
猿神ハヌマーンは空も飛べたらしいです。
デマロ・ブラックは数日間をレイリーと修業して地獄を味わった。けど海軍と世界政府は、ブラックが麦わらのルフィと現れたことで、ブラックもインペルダウンに侵入していたと勘違いする。主犯その三と思い込む。寧ろ、一番の主犯にされてしまうかもしれない。